ブカツは今 (2022年7月21日〜 京都新聞)

 昨年夏、東京五輪の競技がスタートしてから、21日でちょうど1年となりました。巨大なスポーツイベントが国を挙げて催された一方、足元を見れば、子どもたちのスポーツ環境を支えてきた学校の部活動が揺らいでいます。行き過ぎた勝利至上主義や、少子化による部員不足、教員の過重労働…。6月には公立中学の運動部活動地域移行を目指す提言がスポーツ庁に出され、国も改革に動き出しました。京滋の現場から課題を見つめ直します。

@勝利至上主義

A大会のあり方

Bコロナ禍

C少子化

Dコストと負担

E地域移行

中学部活の地域移行 来年度開始

【インタビュ―編】地域移行で多様性 期待

【インタビュ―編】スポーツの役割 日独で差

【教育】スポーツの楽しさ知る環境に

【インタビュ―編】指導者確保 大きな課題

部活スポーツ アプリで指導

【インタビュ―編】教育との分離に懸念

支援学校に運動部浸透

【インタビュ―編】「オフのスポーツ」充実を

部活地域移行で吹奏楽団

@勝利至上主義―威圧指導から転換 模索

 「高校に入ったらハンドボールを辞めようと思っていました」。今年3月に大谷高を卒業し、今は大学でハンドボール部に所属する女性(18)は、競技を嫌いになりかけた自身の経験を振り返る。

 小学生の頃、初めて「勝利至上主義」に触れた気がする。当時の指導者が厳しく、練習でミスをすると一方的に叱責された。ある夜、パスミスがきっかけで、真っ暗なグラウンドでキャッチキールを命じられた。当時は「先生に負けたくない」という意地だけで続けた。しばらくすると、チームメートは半数に減っていた。

 中学時代も部活動が楽しいと思えなかった。強豪で知られるチームで、うまい選手が優遇される「暗黙の序列」があると感じた。試合に出てもパスが回ってこない。「コートの中をただ走っているだけ」。高校でハンドボールを続けようと思えたのは、練習や試合を見学して先輩たちが楽しそうにプレーしていたからだ。「(指導者を)怖いと思ってやるより、自分が楽しいと思ってやった方が成長できる」と入学を決めた。

 行き過ぎた勝利至上主義が、選手の将来を奪うケースが後を絶たない。指導者の暴力だけでなく、無謀な練習や、周囲からの過度な重圧による心身の不調、やる気の喪失なども大きな課題として残る。

 本来、スポーツの楽しさを純粋に味わうべき小学生年代では、少しずつ改革の兆しが見られる。全日本柔道連盟は「小学生が勝利至上主義に陥るのは好ましくない」として全国小学生学年別大会の廃止を決めた。京都市教委も、市小学校「大文字駅伝」を休止する方針を出した。

 滋賀県では昨年、指導のあり方に一石を投じる小学生ラグビー大会が生まれた。京滋の4チームが参加した「サイレントリーグ オブラグビー」。子どもたちの主体的な判断を引き出す狙いで大人の声掛けをすべて禁止する。選手は自ら動き、時には意見をぶつけ合い、元気な声がが飛び交う場となった。実行委員長で石山高ラグビー部監督の上田恭平さん(50)は「選手の年代や考え方に応じて多様な目標があるべき。勝利や優勝が唯一の目標となると指導にも無理が生じる」と危機感を示す。

 一方で、依然として一部の学校では、生徒募集のためにスポーツによる知名度アップを狙う戦略が残る。大会成績などが入試の判定材料となることから、進学を目指す生徒や保護者側の過熱を招くとの指摘もある。少子化の中、生き残りを懸けて「目先の勝利」を求める声はある。京滋のある高校野球関係者は「重要な大会の1勝で入学志願者が変わる」と明かす。

 別の私立校の校長は「例えば新設校や男女共学になったばかりの学校が、名前を売り出すために部活動で勝利を求めることは想像できる」と話す。それでも「スポーツだけで校名を上ザるのは時代遅れ。勝つことだけを目的にすると、一人の監督に権力が集中したり、生徒が増えすぎて目が行き届かなくなるなど、組織はぐちやぐちやになる。地道に学校の良さを追求していくしかない」と自らを戒める。(後藤創平、小池直弘) ↑トップへ

A大会のあり方―公立中休日部活 民間運営に

 スポーツ庁の有識者会議は6月、公立中学で休日の運動部活動の指導を地域のスポーツクラブや民間事業者に委ねる「地域移行」を 2025年度末までに実現すべきだとする提言を提出した。まずは休日から着手し、問題点を検証した上で、平日での移行を視野に入れる。

 昨秋に発足した有識者会議では、少子化や教員の働き方改革を背景に部活動改革の方向性を幅広く議論した。今回の提言は公立中学が対象となったが、公立高校については義務教育外でスポーツを特色とする学校がある点など中学と状況が異なるとしつつ、「スポーツを通じた生徒の健全育成や教職員の働き方改革の観点は重要であり、実情に応じて運動部活動の改善に取り組むことを望む」と指摘。私学についても、実情に応じ「適切な指導体制の構築に取り組むことを望みたい」と、改革への期待をにじませた。

 地域移行を巡っては、昨年度から京滋を含む全国でモデル事業をスタートさせた。受け皿組織の整備や、従来より増加が見込まれる活動費への財政支援のあり方、教員が確実に休める体制の確保などの課題が指摘されている。(小西貴久)

 (提言や京滋の事例については後日詳報します)


重い教員負担 解消は遠のく

 国語科教員が毛筆で賞状を書き、ネクタイ姿の校長がハードルを並べていた。5月5日、たけびしスタジアム京都(京都市右京区)で行われた陸上の市中学春季総体。約100人の教員らが、大会の運営に奔走した。

 トランシーバーを片手に運営スタッフに指示を出しながら、顧問を務める市立中の陸上部員にアドバイスする30代男性教員がいた。

 4月、男性教員は多忙を極めていた。新年度が始まりクラスづくりや家庭訪問などの忙しさに加え、部活動指導と今大会の開催準備で、学校を出るのが午後11時を回ったことも少なくなかった。4月29日〜5月5日のゴールデンウイーク期間中も、午前8時から午後6時まで学校におり、唯一の休日だった4月30日は自宅で授業の準備をした。「休みたいが、担任を持っているから無理だろう。でもずっと忙しいから、休みがあっても自分がやりたいことさえ思い浮かばない」。男性教員は額に汗を浮かべ、苦笑いした。

 教員の負担軽減のため、府内の公立中学校や高校では2017年以降、教員に代わって学校外部の市民が大会引率などをできる「部活動指導員」の配置などが進められた。ただ、配置校数は昨年度で全体の5割半ば。責任感から以前と変わらず「出勤」する教員もおり、根本的な対策には至っていない。

 国レベルでも、生徒や教員の心身や経済的負担を減らすため、大会の精選を行うべきだとする議論が進み、19年には府教委が高体連や中体連などに「大会の開催の適正化」を求める通知を発出した。だが大会一つ一つには決して無視できない価値もある。

 5月下旬、新型コロナウイルス感染拡大の影響で2年連続で中止されていた京都府高校総体が3年ぶりに開催された。全国高校総体(インターハイ=IH)の予選ではなく全国大会につながらない大会で、多くの3年生が高校最後の試合を迎えた。

 「この大界があって良かった」。陸上の3年男子800メートルに出場した塔南高の栗山士玄さん(18)は、レースを走り終えてすがすがしい表情を浮かべた。

 小学校で陸上を始め、同高陸上部では約10人いる長距離部員をまとめた。コロナ禍で部活動が制限された時期も、仲間に電話してやる気を保つよう励ました。「うまくいかずに悩んだ時期もある。でも、苦しんだり喜んだりして、陸上は好き」

 3年間で目標としていたIH京都府予選の出場権は、京都市ブロック予選で敗退して逃し、「引退レース」として臨んだ府高校総体は予選落ちだった。それでもチームメートや顧問に見守られ、「最後は自分らしく走れた。これからはチームのサポートを頑張りたい」と前向きに語った。

 全国大会など輝かしい舞台でなくても、生徒たちは部活動を通じて努力することの大切さや人間関係を学び、表現する場を経て成長していく。「現在の大会の数は必要最小限だと理解している」と府総体を主催する府高体連の井上哲理事長は語る。

 教員の負担軽減と生徒のやりがいとをどう両立させるか―。その「適正」な答えは、まだ見つかっていない。(山田修裕)


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Bコロナ禍―練習制限も前向き 心成長

 乙訓高(長岡京市)の柔道場には、大きな文字が書かれた畳がある。「妥協するな!・令和2年度卒業生一同」。新型コロナウイルスの影響で全国高校総体(インターハイ=IH)中止に直面した学年が寄贈した。

 2年前、国内で始まった感染拡大は高校生の晴れ舞台を奪った。全国で一斉休校していた2020年4月26日、大会史上初のIH中止が決まった。休校が明けた同年6月の乙訓高。前年に初めて女子団体でIH出場を果たした柔道部にも、新入部員が集まった。その一人だった谷口華は、入部初日に3年生が涙を流す姿を目の当たりにした。「自分だったら、どんなに悔しいだろう」。胸が苦しかった。IH予選の代替大会なども行われず、3年生はそのまま引退、一緒に練習することはなかった。

 谷口らが入学した年から、部活動の風景は様変わりした。京都府教委の指針で、感染拡大時には練習が2時間以内とされ、校外での活動は禁止。特に屋内競技で接触を伴う柔道は「3密」が懸念された。全日本柔道連盟のガイドラインは当初、相手と組む練習を禁止するなど、練習方法を厳しく限定。筋力トレーニングに励むしかなかった。

 谷口は「最初は練習が軽くてラッキーという雰囲気があったかも」。ただ、私学に差をつけられるのではと不安だった。道場は毎回消毒し、手洗いなども徹底したが、部内で陽性や濃厚接触が判明し、活動を休止することもあった。谷口の父は医療機器の技師で、母は看護師。ともに医療従事者だけに、感染に注意するよう言われた。

 藤野貴之監督も悩んでいた。実戦的な技術練習に重点を置くなど工夫したが、時間が足りない。例年行う関東や九州への遠征はほとんどできなかった。「自分たちの力量が分からず、なかなか自信がつかない」と手探りが続いた。

 感染の波が起きるたびに、活動制限の厳格化と緩和が繰り返された。翻弄される日々を経て、谷口は最上級生となり、女子の主将に就任。チームをまとめる立場になった。

 卒業生で大阪産業大2年の井上舞が母校を訪れたのは、IH京都府予選を1ヵ月後に控えた今年4月。練習を見学し、主将として引っ張る谷口を励ました。井上たちはコロナ禍でIHが奪われた学年。「3年生がIHに挑む姿を、1年生に見せられなかった」という心残りもあった。メッセージ入りの畳に、後輩への思いを込めた。だが、自分たちがかわいそうと見られることは否定する。「柔道を続けて、人間として成長できたと思う。大会がなくなっても、そう考えることで少し楽になれた」

 5月29日に行われたIH府予選の個人戦。谷口は初優勝し、全国切符をつかんだ。入学以来、初めて保護者に観戦してもらった大会での栄冠。「絶対にやらなあかん、という使命感があった」。6月18日の団体戦では敗れたが、全員で力を出し切った。

 部活動以外にも、コロナ禍で学校行事は制限され、遊びに行くことも止められた。「思い描いた高校生活ではなかった。みんなストレスを感じる時もあったと思う。それでも、練習でいい雰囲気をつくろうと頑張ってきた。IHでは自分の全力を出して、勝ち上がりたい」

 卒業後は、母親と同じ看護師を目指すつもりだ。「コロナ禍で看護師が足りず、大変と聞いている。協力できたら」とはにかむ。(山下悟)


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C少子化―多様な受け皿 維持手探り

 試合終了のブザーが、須知高女子ホッケー部の夏への挑戦に終わりを告げた。6月に行われた全国高校総体(インターハイ=IH)京都府予選。リーグ最終戦で敗れて2年連続の本大会出場を逃し、部員7人と「助っ人」10人で臨んだチームは、悔しさをかみしめた。

 同部は1997年と2007年にIHを制した強豪。しかし、地元の京丹波町をはじめ地域の人口減少が続き、同高の全校生徒数はこの10年で半数になった。本年度の新入生は定員90人に対して37人。部員確保には毎年のように苦戦する。

 厳しい状況を鑑み、20年度から府立高では珍しい府外からの部員募集を始めた。現部員の過半数の4人が、隣接する兵庫県丹波篠山市から入学した。2年岡みおんさん(16)は「高校で続けるつもりはなかったけど、中学時代に体験に来て、ここでやりたいと思った。チームの雰囲気は全国一。楽しいけど、上を目指した練習もできる」とはにかむ。それでも、試合は11人で行われ交代要員も必要となる。他部などに「助っ人」を依頼することも多く、主将の3年田渕星奈さん(17)は「4人や助っ人が来てくれなかったら試合に挑めなかった」と感謝した。

 京丹波町では1988年の京都国体でホッケー競技会場になったのを機に地域ぐるみの普及や強化が進み、少年団などで競技経験がある生徒もいる。府予選で途中出場した美術部の1年野口柚月さん(16)は「小学生以来だったけど少しは体が動きを覚えていた」。昨年、地元の瑞穂中女子ホッケー部主将として全国大会に出た1年北村花穂さん(15)は先発フル出場。ただ「毎日部活をするのはもういいかな」と助っ人に徹するつもりという。

 昨夏のIHで得点も挙げた3年奥岸ちひろさん(18)は、バスケットボール部の所属。入学以来、同部の女子部員は2〜3人の状態が続き、公式戦には他校との合同チームで出場した経験しかない。「助っ大を頼んだこともあったけど、断られた」と苦笑い。野球部も今夏の全国高校野球選手権京都大会に合同チームで臨んだ。同高で部員不足はホッケー部にとどまらない。

 少子化が進み、過疎地域だけでなく都市部でも部活動の維持が難しくなる可能性はある。2018年度のスポーツ庁委託調査によると、中高の部活動人口は2009年度から48年度にかけて3割超減り、複数競技で1校当たりのチーム編成に必要な人数を下回ると推計された。小規模校で多様なスポーツの受け皿をどう確保するか。新たな動きも出始めている。

 「フリースポーツ部」を立ち上げたのが京丹波町の和知中だ。生徒同士で話し合い、本年度は部員7人が週5日の活動日のうち、バレーボールやバスケ、卓球、筋力トレーニングなど日替わりで多種目に取り組む。同中は10年前まで100人を超えていた全校生徒数が本年度は36人に。部活動は野球、バドミントンだけで文化部はない。選択肢が少なすぎるため、昨年度から発足させた。

 5月下旬の和知中。フリースポーツ部員が、ミニハードルを使ったトレーニングでバランス感覚を養っていた。もともとはバスケ好きという2年の舞谷彩花部長(14)は「バレーも面白かった。やりたいスポーツができてうれしい」と充実した表情だった。顧問の大瀧新教諭(33)は「いつか適正種目に出会えたとき、この練習が役に立つ」。未来を見据えた試みが続く。(逸見祐介)


↑トップへDコストと負担―欠かせぬ「お金」どう工面

 「部費で足りない分をまかなっている。本当にありかたい」。京都橘高サッカー部(京都市伏見区)の米沢一成監督(48)が実感を込めて話す。全国準優勝経験もある同高は2015年、日本サッカー協会主催の「プレミアリーグ」で、高体連チームとして全国で初めて スポンサーロゴを導入し、企業の支援を受けるようになった。現在は6社から、年間で計100万円分以上に相当するユニホームの提供などを受ける。

 高校年代最高峰のプレミアリーグは東西2地区制で、今年の西地区なら東は静岡、西は九州までを転戦するため、交通費や宿泊費が高額となる。京都橘高は現在、一つ下の「プリンスリーグ関西」所属だが、それでも近畿一円で試合が行われ負担は大きい。

 従来、高校の部活動でスポンサーの利用は禁じられていたが、移動距離が大きいプレミアリーグで、負担に配慮して全国高等学校体育連盟(全国高体連)が認めた経緯がある。ロゴ付きのユニホームは全国高校選手権やインターハイの予選など高体連主催大会では使用できないものの、サッカー協会主催の大会では着用可能だ。

 地域の企業から支援を受ける学校もある。伊吹高サッカー部(米原市)の練習着の胸にあるのは、地元リフォーム会社「桃栗柿屋」の大きなロゴ。7年前にスポンサーの活用を始め、現在では地元企業3社が背番号の印刷代を肩代わりしている。―社当たり年間十数万円分に相当するという。

 サッカーは用具が比較的少ない競技の一つとはいえ、同高では入部時にジャージーやバッグ代など初期費用が約4万円かかり、チーム運営費として部費を毎月2千〜2500円集めている。学校が湖北に位置するだけに、公式戦会場が集中する湖南地域へ移動する交通費もかさむ。監督の吉田裕教諭(34)は「ぎりぎりのところでやっている中、印刷代とはいえ本当に助かっている。地元の皆さんに応援されていることを選手たちに意識してほしい」と、波及効果にも期待する。

 中学・高校を問わず、部活動には用具代や選手登録料、大会参加費や遠征費などがかかる。家計に負担をかけ過ぎず、必要な「お金」をどう工面するか、どの学校も頭を悩ませてきた。

 部活動の地域移行を巡る議論でも。「お金」は論点の一つだった。スポーツ庁によると、中学で地域移行した場合、部員1人当たりの負担額が、従来の部活動よぴ年間で約1万7500円増えるとの試算がある。受け皿となる地域団体への会費や保険料に加え、これまで教員がわずかな手当で担ってきた指導への報酬も、新たに必要となるためだ。

 21年度にモデル事業として「地域運動部活動」に取り組んだ彦根市の稲枝中では、国の補助金を活用し、指導員に対し時給1600円程度を支給した。国の指標に見合う額を確保した形だが、補助を使わず月額千円程度の保護者負担のみで賄う本年度は、時給を1200円程度に下げざるを得なかった。一方で、月謝制に切り替えたことで、参加を見合わせた家庭もあったという。

 家計負担を軽減し、地域団体や指導者への適切な報酬を確保するには、国や地方自治体の支援が欠かせない。京都府内の公立中で教員を務め、東山局バスケットボール部監督や他県での外部指導員も経験した田中幸信さん(67)は「部活は指導者の熱意だけで支えられているボランティアのようなもの。しっかりした指導者に任せるには見合った報酬が必要なのは当然。学校の部活が抱えていた矛盾を地域に転嫁しないよう、しっかりした制度をつくらないと」と警鐘を鳴らす。(笠原良介、辻孝典、井上広俊)


↑トップへE地域移行―多難な「改革」住民らと挑む

 「もっと足で攻めて」。普段は塾に勤める有段者の男性の声が響く。剣道部員の中学生たちが対戦校の相手に竹刀を打ち込んだ。

 今月3日の日曜日。舞鶴市の舞鶴文化公園体育館で行われた「部活動地域移行」のモデル事業で、部の顧問に会社員や小学校教諭が指導者に加わり、市内外の中学校の剣道部員約30人が合同けいこや練習試合に汗を流した。青葉中剣道部長の3年坪倉順也さん(14)は「別の学校の選手と試合したり、いろんな先生から指導を受けたりでき成長できる」と満足げだった。

 国は公立中の運動部活動について、地域や民間の団体に委ねる地域移行の構想を掲げる。まず来年度から3年かけて段階的に休日の移行を進め、平日の移行も目指す。少子化や指導教員の過重労働で現状維持が難しくなりつつある部活を見直し、団体に任せることで子どもたちがスポーツに親しむ環境を存続させるという狙いがある。

 移行先の一つに期待されるのが、幅広い世代が多種目を楽しむ総合型地域スポーツクラブだ。京都府内で京丹波町とともにモデル事業の実施自治体となっている舞鶴市では、地元の同クラブ「舞鶴ちやったスポーツクラブ」を事務局とし、剣道、柔道、陸上、ソフトボールで休日部活動の地域移行を試行している。指導者はクラブの人材バンクに登録した競技経験者を派遣。顧問も民間の立場で兼業・兼職として登録可能だ。多様なニーズに応えるため「基礎部活」を加え、レクリエーションなども行う。

 剣道は市内4中学校の部員のうち希望者が月2回程度、同じ体育館に集まって練習している。他市の学校の部員や小学生も参加するなど定着してきたが、課題も浮き彫りになった。

 例えば経費。今月3日の練習では、指導者への謝金は1時間1600円とし、6人に3時間分で計2万8800円。体育館使用料や保険代もかかる。

 今は府の委託費で賄えているが、今後は自己負担になる恐れも。また地域移行の狙いの一つに教員の負担軽減があるが、顧問が休日の練習に意欲的に参加したり、「部員が心配」を理由に同行したりするケースもあった。

 滋賀県では、彦根市などで前年度からモデル事業が行われ、同市の稲枝中では七つの部で土日曜は元教員や卒業生などの競技経験者が教えている。バドミントン部は今の顧問が競技未経験者だが、土日曜は前に顧問を務めていた経験者の元教員が指導する。部長の3年岩崎海依さん(14)は「専門的な知識で教えてくれる人がいてやりがいがある」と話す。

 同中は10年前から地域にいる元教員を外部指導員に招いてきた実績がある。モデル校に選ばれてからは、学校内外の指導者を束ねる受け皿となる協議会を学校と住民とでつくった。いわば地域移行の「優良校」だが、同協議会事務局長の木村輝男さん(70)は「このやり方を他の地域でできるかは未知数」と見る。

 勝利至上主義の弊害、部員不足などほころびが見えつつある部活動。「改革」を旗印に地域移行に向けて動き始めたが、初年度を控えた今も、越えるべき壁はいくつも立ちはだかる。

 「大切にしなければならないのは子どもたちのメリット。指導方針や子どもの特性への配慮など、学校と地域で思いを共有することが大事になる」。北村功校長が前を見据えた。(三村智哉、井上広俊)


↑トップへ中学部活の地域移行 来年度開始

【受け皿側】指導者確保、費用…不透明要素に不安

 国が来年度から段階的に始める休日の中学校部活動の地域移行。しかし、各市町村の準備は遅れ気味で、移行先の候補とされる総合型地域スポーツクラブ(総合型クラブ)などのスポーツ団体や関係者の間では戸惑いや不々、期待が交錯している。

総合型クラブとは

 総合型クラブ「向日市ワイワイスボーツクラブ」の主催で、毎週水曜に行われるバドミントン活動。今月上旬の放課後、会場の向陽小体育館(向日市)を訪れると、小学生たちが大人に交じって和気あいあいとプレーを楽しんでいた。

 「きれいに打てたね」。シャトルを打ち返した児童に指導者が優しく声をかける。その奥で、大人の女性たちが笑顔を見せながら試合をしていた。

 総合型クラブは地域スポーツの担い手として国が各地で設置を進めた。「多世代」「多種目」、さまざまな目的やレベルに対応する「多志向」が特徴で、京都府は46、滋賀県は56団体(いずれも3月現在)があり、部活の地域移行では受け皿の一つとされる。

「競技主体ではない」

 向日市ワイワイスポーツクラブはバドミントンの他に、小学生のバスケットボール、中学生以上のダイエットボクシングなど14種目を行う。中井歌子会長(75)は移行先となる可能性があることについて、「私たは誰でもいろんなスポーツを楽しめることを目指していて、競技スポーツを主体としているのではない」とし、「教育の一環でもある部活とは合わないのでは」と戸惑いも見せる。他の総合型クラブの関係者からも「参加費は受益者負担が原則だが生徒から金を取るのか」「活場所や指導者がいない」「教員のら担軽減というが、どちらの負担がえる」と不安や疑問が挙がっている。

 ただ、地域移行を前向きに考える関係者も多い。総合型クラブ「I?Eゆうゆうスポーツクラブ」。(京府井手町)の西村好史クラブマネージャーは、部活の厳しさから大人になると続けない人が多いと指摘する。「スポーツは楽しいもの。移行を機に子どもたちに多様な種目の択肢を示し、生涯にわたって続けこれるようにしたい」と、スポーツへの考え方を変える好機と捉える。

京都市は企業委託

 受け皿になるスポーツ団体の状況は地域ごとに異なる。例えば京都市は元学区単位で体育振興会があり、総合型クラブが少ない。市教育委員会は、前年度からスポーツスクール運営会社「リーフラス」(東京)に委託して休日部活のモデル事業を進めるが「移行の仕方は何も決まっていない」という。

 府教委は地域移行に関する府内市町村向け説明会を8月に開く予定で、その後に各地で準備が進むとみられる。移行開始が数力月後に迫っているにもかかわらず、多くの団体は「まだ何も聞いていない」のが実情だ。「来年度は見切り発車になるだろう」「当面は教員が民間の所属となって学校で部活を指導し続け、実態は変わらないのでは」との見方さえ出ている。

 移行の準備が遅れがちなのとは対照的に、制度の変更は着々と進む。白本中学校体育連合は6月、来年度から全国中学校体育大会に民間団体の選手が出場できるよう参加条件の緩和を決めた。学校単位以外に、条件を満たした総合型クラブなども出場可能になる。

 保護者の受け止めもさまざまだ。宇治市の小中学生の40代母親は、中学校の部活に好きな種目がなく我慢して別の種目をする生徒もいるとし、「地域で好きな競技を適切な指導を受けてできれば、子どもと教員双方のためになる」と期待する。その一方で、学校で行う部活の継続を願う声も。別の同市の40代母親は「部活は競技を始めるきっかけになり仲間意識も生まれる。学校から無くなるのは寂しい」と声を落とした。(三村智哉、大西幹子)

【背景と学校側】少子化対策・教員負担減は急務 「教育手段、一つ失う」と懸念

 部活動を学校から地域へ移そうとする背景には、少子化や教員の負担増で部活の継続が困難になりつつあるという実情がある。「子どものスポーツ」を巡っては、勝利至上主義から脱却して、楽しむ活動に変えようとする動きがあり、地域移行はその潮流の一つともいえる。ただ長年、部活を教育の一環としてきた学校現場には戸惑いもある。

 「運動部活動は現状維持で精いっぱいの状況。今が抜本的な改革を進める最大、最後のチャンス」。スポーツ庁の有識者会議は、6月に発表した部活の地域移行に関する提言書で強い危機感をあらわにした。提言書は、中学生の数が減る一方で1校当たりの部活動数はほぼ変わっておらず、部活が教員の長時間勤務の要因になっているとし、「部活を学校単位から地域単位に変え、少子化の中でも子どもたちがスポーツに継続して親しめる機会を確保する」と狙いを示した。

高校入試見直しも

 方針によると、まず休日の部活動を2023年度から3年かけて地域に移し、その後は平日についても地域移行する。受け皿は総合型地域スポーツクラブやスポーツ少年団、民間スポーツクラブなどを挙げ、スケートボードやダンスなど学校でできなかった競技を入れることも期待する。

 さらに、部活動は教育課程外の活動で、生徒の自主的、自発的な参加で行われるものであり、強制的な加入は「不適当である」と明記。高校入試で有利にな為ため過熱化している面があるとし。部活を前提とする学習指導要領や、高校入試の見直しも求めた。

 部活動の見直しと歩調を合わせるように、「子どものスポーツ」に対する見方にも変化が起きている。

 日本スポーツ少年団は2月、「改革プラン2022」 をまとめた。プランでは「勝利至上主義の否定」や「スポーツの本質である自発的な運動(遊び)から得られる楽しさを享受できる機会の提供」を新たな目標に掲げた。今後は対象を現在の小学生中心から、3〜18歳の「ジュニアーユース世代」に広げることを目指すという。

 府内のあるスポーツ少年団長は「勝利を目指すことは悪いことではないが、いまだに『やり過ぎ』『親や指導者が満足するためでは』という指導や場面を見る」と明かす。部活の地域移行も見据え、「子どもの体や心を考えれば、今後は楽しむことが中心となるだろう」とし、保護者や指導者の意識改革を訴える。

生徒指導に活用

 部活動を学校から切り離し、子どもたちが地域でスポーツを楽しめるように―と、日本全体で進む方向転換。ただ中学校は部活の存在を大前提としてきた長い歴史があり、部活を通じて生徒と向き合ってきた教員は複雑な思いを抱く。

 「学校が荒れた時代には部活を通じて生徒指導をし、乗り越えてきた」。府内の中学校長は振り返る。校長はかつて、金髪の生徒に「走ることで存在感を示せば」と陸上部に誘った。すると生徒は熱心に練習し、大会で好成績を収めた。勉強が苦手な生徒でも部活で頑張りを認めることで自己肯定感につなげてきた。

 校長は部活動の教育的効果として、ルールの順守や、先輩・後輩の関係を通したコミュニケーション能力の育成、さらに「達成感」を挙げる。「学校では生徒をいろいろな角度から見ており、部活がなくなればその手段が一つ減る」

 元中学校教諭で、亀岡市の陸上競技振興に長年携わってきた同市の神先宏彰教育長は「中学校の部活の意義は、放課後に子どもの居場所をつくることにある」と見る。地域移行で教員の負担が軽減される面もあるが、「多感な時期の子どもを救う役割は教員が担うべきだ」と強調する。(三村智哉、井上広俊)


↑トップへ【インタビュ―編】地域移行で多様性 期待

子ども未来・スポーツ社会文化研究所代表理事杉本厚夫さん

 地域移行を目指す今回の提言によって、中学の運動部が抱える問題をみんなで共有でき、子どもにとってのスポーツが持つ意味を考える機会が与えられた。素晴らしい提言と評価している。

 今の中学の運動部は、個人として取り組める種目は一つで、目的も一つ。多くが(学校単位で出場する)中体連の大会で優勝することを目指して競技している。スポーツとの関わり方が限定的だった。中体連が取り組みを見直すこと、そして、地域移行によって多様性が生まれることを一番期待している。

 受け皿の一つとなる総合型地域スポーツクラブ。この「総合型」という考え方が大切だ。まず多種目を経験できること。二刀流がもてはやされているが、三刀流、四刀流があってもいい。それから、お年寄りや障害者ら多様な人が同じクラブに所属できる。間近で接して、自分の当 たり前が当たり前じゃないと気付くと、スポーツで一番大事なリスペクトが生まれる。

 そして、多目的。競技のためだけでなく、健康や友達作りのために楽しんでもいい。プレーに限らず、コーチや審判をやりたい子がいたっていい。多様な選択ができれば、子どもは自分なりの関わり方を見いだし、生涯にわたって楽しめるスポーツを見つけることができる。

 課題もある。地域で専門性と資格を持った指導者が指導に当たるとの考え方は良いが、中学生にふさわしい指導ができるかが一番大事。中学生期に何を育てたいのかを考え、各スポーツ団体がカリキュラムを用意すべきだ。中学生期では、うまくなることよりも、そのスポーツを好きになることが大切だと思う。

 大人の関わりも大事になる。勝利至上主義を形作ってきたのは保護者も含めた大人。子どもはプレーで楽しめるけど、大人は結果でしか楽しめない。だから子どもに勝つことを求めてきた。あくまで子どものためのスポーツであることを忘れないでほしい。

 会費などの自己負担も問題に挙がるが、基本的には受益者負担であるべきだ。スポーツ基本法によって運動を楽しむ権利が認められた社会では、権利に対する義務もある。これまでの日本のスポーツ実践では定着しなかった受益者負担という義務を、子どものころから学んでほしい。

 国が補助金を出すのは当たり前として、逆転の発想で、子どもたちが活動費を捻出すればいいのでは。もちろん個人負担という訳ではない。クラブとしてイベントを企画して参加料をもらったり、企業へ寄付を募ったり。子どもたちが地域活動をするのは教育としても意味があるのではないか。

 総合型地域スポーツクラブでも、ビジネスとして成り立つモデルを示す必要がある。会費に加え、寄付と両輪で経営することを提案したい。公益財団法人や認定NPO法人と同様に、中学生を受け入れるクラブに寄付すると減税を受けられる仕組みはどうか。近年は企業も地域貢献を考えているし、クラウドフアンディングも含め、地域づくりの一翼を担うという発想で寄付をしてほしい。

 もともとスポーツは遊び。それが勝つことだけを追い求めたため、柔軟性をなくし、自由やクリエイティビティーが失われた。そしてスポーツが面白くなくなり、辞める子どもが出てくる。今回の提言は、遊びとしてのスポーツという原点へ立ち返るチャンス。そこから出発しないと日本のスポーツ文化は豊かさを失っていく。(聞き手・逸見祐介)


↑トップへ【インタビュ―編】スポーツの役割 日独で差

ドイツ在住ジャーナリスト 高松平蔵さん

 ドイツと日本ではそもそも学校の事情が大きく異なる。部活動に当たるものはない。授業は中学や高校生だと長い日もあるが、基本的には午前中に終わる。

 そこで子どものスポーツ環境として重要なのが「フェライン」の存在だ。日本で言えばNPOに近いが、様相はだいぶ違う。スポーツ以外にも、アート、合唱団、消防団など多様な分野があり、百年以上の歴史を持つものもある。小さな町にもあり、社会的に重要な位置を占める。スポーツ関連だけでドイツ全土に約9万。(在住する)人口11万人のエアラングンで約100ある。

 サッカーなど単一競技のもあれば、球技、武道、ダンスなど複数競技を持つケースもある。子どもたちにはそれだけ多様な選択肢があるということ。日本の部活動が学校という閉じた空間で行われるのに対し、フェラインは開かれている。別の町から参加するのも自由。移民が多く国籍も多様なドイツであらゆる人を包み込むように受け入れる。

 このフェラインが日本における部活の役割を担っている。子どもの競技レベルや希望に応じたチームがあり、リーグも細かく分かれる。高いレベルを目指すならその環境があるクラブに入る。小さな団体でも自前のグラウンドやクラブハウスを持つことが少なくない。

 競技でいえばサッカーが多く、強豪ならトップチームが最高峰のプロリーグ「ブンデスリーガ」に所属するクラブもある。私が加入している複合型クラブの「柔道部」の場合、会員が400人と規模が大きい。世代も職業も多様なうえ、こどもも大人もトップレベルの選手から健康維持まで目的はさまざま。

 ドイツの市民は、フェラインという学校や職場以外の組織への関わり方が強い。これを可能にする社会の仕組みと不可分だ。大人の働き方も日本とは大きく違う。先進国の中でも労働時間が短く、長い労働運動を経てその権利を獲得してきた経緯がある。獲得した余暇の時間は決して余りではなく、労働と並んで重要な時間なのだ。その過ごし方としてスキポーツの役割が大きく、社会全体がフェラインやスポーツを必要としてきた。

 フェラインを通したスポーツ活動が「社会を作るエンジン」になっている、と捉えている。デモクラシー醸成の大切な装置になっていることも指摘したい。多様な世代が対等に付き合い、普段から多様な交流がある。これらの蓄積を通して民主主義が育まれる。選手と指導者の関係も同様。日本のような上下関係は生まれにくい。いわゆるしごき、体罰、スポーツばかも生まれない。

 日本での部活動の議論は、教員の副業禁止規定が課題となるなど発想が乏しいと感じる。ドイツなら先生も立場を変えて大いに携わる。それは社会が必要とする存在がフェラインだから。日本でもスポーツがなぜ社会に必要なのかをもっと発信すべき。一方、部活が果たしてきた役割はとても大きい。それを進化させる発想があってもいい。例えば、スポーツを通して社会参加への意見形成のための学びの場になるよう、座学の機会を組み込むような工夫があってもいい。

 ドイツでフェラインやスポーツが社会に必要とされているように、日本でもスポーツの役割を見つめ直すことから始めるべきでは。その根本的な問い掛けを抜きにして、部活の表面的な課題だけを議論している印象だ。  (聞き手・小池直弘)


↑トップへ【教育】スポーツの楽しさ知る環境に

 来年度から始まる中学校の運動部活動の地域移行について話し合うシンポジウム(京都府など主催)が今月上旬、京都市内で開かれた。ま ず休日から、いずれは平日まで運動部活は地域のスポーツ団体に担ってもらおうという大きな改革の達成に向けて、自治体やスポーツ団体などの関係者らが講演会やパネル討論を通じて課題や解決策を議論した。    (三村智哉)

中学部活 地域移行でシンポ

 スポーツ庁地域スポーツ課の小久保智史課長補佐がオンラインで講演した。小久保氏は現在の部活の課題として、少子化で維持できなくなりつつある▽勝利至上主義に陥りがちになっている▽時間外勤務の増加や経験がない種目の顧問就任など教員の負担になっている―の三つを指摘した。

 地域移行の意義について「20年、30年先も子どものスポーツ環境を確保するためだ。教員の働き方改革になれば、教育の質が向上し、子どもの成長につながる」と説明。「スポーツは楽しさや喜びを感じるためにある。やらされるものではない。地域移行を機にスポーツの本質を味わえるようにしたい」とし「(地域の団体などで)小さい頃にいろんなスポーツを経験すれば、生涯スポーツにつながる」と強調した。また制度や予算面での支援策も検討していると明かした。

 パネル討論は、自治体やスポーツ団体の関係者ら6人が登壇した。府教育委員会の柏木佳久保健体育課長は「中学校の部活の現場は今のままでは先行きが見えない」とし、地域移行を起爆剤に子どものスポーツ環境を充実させたい考えを示した。また移行後の地域団体が活動する場所としては学校の体育館の活用が重要になるとし、「鍵を開けるために教員が学校に来るのでは働き方改革に逆行する。地域の人が使いやすい学校施設の管理法を考えないといけない」と語った。

 府スポーツ協会の比護信子事務局次長は、幅広い世代が多種目を楽しむ活動を展開し、移行先の一つに挙げられる「総合型地域スポーツクラブ」について現状を説明した。その上で「指導者が高齢化し、後継者を育てなければならない課題もある」と指摘。活動場所の確保にも困っているとし、行政への支援を求めた。

 このほか「自宅の近くで、好きな種目ができるようになるべき」「将来は受益者負担が大原則になるため、困窮家庭への支援を考えないといけない」との意見も出た。

 司会を務めた立命館大スポーツ健康科学部の長積仁教授は「地域移行を機に、学校と地域、家庭でどう子どもたちの豊かなスポーツライフを創造するか、地域スポーツのイノベーション(革新)を図るかを考えてほしい」と訴えた。

 パネル討論の後には、文化部活動についても来年度から、まずは休日から地域の文化芸術団体などに移行させていく文化庁の方針も報告された。

競技の情報発信・地元人材発掘

 京都府からの委託を受けて昨年度から地域移行のモデル事業を実践している舞鶴市と京丹波町の報告もあった。

 舞鶴市教育委員会の衣川昌宏指導主事は、地元の総合型地域スポーツクラブ「舞鶴ちやったスポーツクラブ」に人材バンクを設置し、剣道や柔道、陸上、ソフトボールの4種目で地域移行を試行していると説明。レクリエーションやストレッチなど緩く体を動かせる「基礎部活」もこの機会に設けるとした。

 ただ市内7中学校では計66の部活に約1500人が所属しており、同クラブだけでは担いきれないため、今後はスポーツ少年団や府立高などとも連携していきたいとした。その上で「子どもや保護者にも不安があり、『この競技ではこんな受け皿がありますよ』と早く正確な情報を伝えたい」と語った。

 京丹波町教委の大秦学係長も、今後人材バンクを設置し、地域で指導してくれる住民らを発掘するとした。町内の3中学校は小規模のため、地域移行を機に合同部活動を推進し、地域で盛んなホッケーやカヌーの振興にも生かすと説明。「生徒の意向を大切にし今後の活動を考えたい」とした。


↑トップへ【インタビュ―編】指導者確保 大きな課題

日本中体連サッカー競技部前部長 福島隆志さん

 少子化もあり、教員が休みなく指導する部活動のあり方は見直すべき時期に来ている。60年以上の日本中学校体育連盟(中体連)の歴史で、地域移行は最大の改革になると考えている。

 中学サッカー部の男子部員は、2020年度は17万5338人だったが、21年度は15万8337人。1年間でこれだけ減った。部活動を続けられない学校も出てくるだろう。地域のクラブという形であれば、子どもたちの可能性が広がる。

 働き方改革が求められる中、教員だけで部活動を担うのは難しくなってきた。土日も休みなしという顧問の負担は大きく、過酷な職場のイメージになっている。特に、学校の事情によって得意でない競技を持つ場合はかなりのしんどさを感じている。若い教員の部活離れが起きてい る。

 スポーツ庁はうまく地域移行の枠組みを考えてくれたと思うが、中体連の中でもさまざまな受け止め方がある。年配の世代は長年、部活動で生徒指導をしてきた。休日も子どもたちと向き合ってきた自負がある。部活動で生徒がまっすぐ育ってきたのに、という思いを持つ教員もいる。

 今回の地域移行は、有資格者をしっかり配置し、適切で科学的な指導をしてもらうことが前提にある。しかし、大会の引率もできる非常勤公務員扱いの部活動指導員は、まだまだ少ない。中学のサッカーでは21年度に全国で539人。指導者が限られている中、今後も教員の力が必要になるだろう。サッカーを教えたくて先生になった人もいる。そうした人材を生かす枠組みをつくるべきだ。

 地域移行後に教員が指導するには、地域で活動するための「兼職・兼業」の許可が条件となる。(移行に向けた提言では円滑な許可を求めているが)そう簡単にいかないかもしれない。学校長や、市町村と都道府県の教育委員会にそれぞれ承認してもらうことが必要になる。授業や生 徒指導に専念してほしいという考えもあるだろう。

 解決するべき問題は山積みだ。中でも指導者の確保をどうするかを真剣に考えないといけない。外部指導員の報酬は少なすぎる。教員のボランティア頼みを解消する取り組みが、結局、外部のボランティアに変わるだけになってしまう。適切な報酬を賄う財源が必要になる。

 指導者の勉強も重要になる。日本サッカー協会コーチのライセンス制度を長年設けており、講習を通じて指導法を学ぶことができる。サッカーはこのような制度を強みに、改革のモデルケースとなることが期待されている。

 全国中学校体育大会(全中大会)は来年度から、学校単位だけでなく、地域クラブも出場できるようになる。サッカーは全中大会と、クラブチームが参加する日本クラブユース選手権があり、これまですみ分けができていた。街クラブの中には、両大会とも出場したいというチームもある。一方で中学からは、有名クラブとは実力差が大きいという声も出ている。出場をどの範囲まで認めるか、明確にしなければならない。

 都市部と地方でも、部活動現場の差は大きい。今回、文部科学省やスポーツ庁が教員の意見を聞く機会はあまりなかったと思う。特にこれからの学校をつくる若い世代の教員の声を取り入れながら、新たな道を探ってほしい。

 見失ってはいけないのは、子どもたちに損をさせないこと。このやり方のせいで活動できなくなるようなことは避けなければならない。競技人口を減らさないように、楽しいスポーツができる環境づくりが求められる。 (聞き手 山下悟)


↑トップへ部活スポーツ アプリで指導

 亀岡市の中学校で、部活動の練習や指導にアプリを活用する実証実験が行われている。自分の動作を撮影して正しいフォームの動画と同時に再生して見比べたり、骨格を点と線で表示したりする機能などが搭載されている。基礎技術を学んで向上に役立てることができ、開発者は「競技経験のない顧問の負担軽減にもつながる」としている。

 アプリはソフトバンク(東京)が3月に配信を開始した「AIスマートコーチ」。野球のバッティングやサッカーのドリブルなど、各種目の基礎技術の正しいフォームが「お手本動画」として収録されていて、自分の動作と比較して改善点を見つけることができる。動画は反転や重ね合わせることも可能だ。。

 骨格を点と線で表示して体の動きをより視覚的に確認できる機能や、手本と自分の動きがどれだけ一致しているかを点数で評価する機能もある。現在は野球、サッカー、バスケットボール、ダンスの4種目で、競技数は随時増やしていく。将来的には人工知能(AI)がアドバイスするシステムも搭載する予定という。

 同社は全国の学校で実証実験に取り組んでおり、教育事業連携に関する協定を結んでいる亀岡市教育委員会に協力を依頼。夏休み中の7月26日〜8月28日に市内3中学校の五つの運動部で、近畿では初めて実施している。

 大成中(同市大井町)サッカー部では、主に1年生の指導に活用している。8月初旬の練習では、ドリブルしながらのターンや飛んできたボールを止める動作を顧問がタブレット端末で撮影し、手本と見比べさせてアドバイスした。三上斗雅さん(12)は「自分では分からず意識できていなかったところも動画を見ると分かりやすい」と話した。

 顧問の松本貞治教諭(49)は「動画で手本と比較することで子どもたちの意識づけにつながる」と評価する一方、「サッカーは動き回るので、お手本動画と同じように撮影するのが難しい」と課題も口にした。

 日本スポーツ協会が昨年行った調査では、中学校の運動部の指導者の約3割は競技経験がないと回答した。同社の開発責任者の星川智哉さ んは「初歩的な技術指導ならアプリでも可能。競技を始めたばかりの生徒だけでなく、教員の助けにもなる」と期待する。しかし、より高度な技術や個性に合わせたアドバイスは人の目が必要で「完全に指導者をなくすことは不可能」とも語る。(南真臣)


↑トップへ【インタビュ―編】教育との分離に懸念

亀岡市教育長 神先宏彰さん

 亀岡市では、公立の全中学校で部活動に関わる教員へのアンケートを行った。負担がきついという声もあるし、学校がすべきという声もある。どちらかに偏り過ぎないよう、バランスを取った改革を考えなければいけない。

 教育者の立場として、部活動は幅広い人間関係を築いたり、考えて目標を解決する力を養ったりする、学びの機会を与えるものと考えてきた。私が陸上競技を教えるようになった40年前、亀岡市はバブル的に学校が増え、比例して生徒も荒れた時代だった。生徒を元気づけ、口丹波地域の競技レベルも何とかしたい。そんな思いで陸上に力を入れるようになっていった。

 部活動は、放課後に子どもらの時間をつくることができる場所だった。居場所となり、トラブルが起きても学校が責任を負うことができる。小学校の学童保育の延長と言ってもいい、生徒指導の要だった。教育と切り離すことが正しいのか疑問はある。国は将来的に、平日も地域移行の対象としている。学校と放課後の子どもが関係ないと言えるのか。責任を整理しないまま進めれば、荒れた時代に戻ってしまうのではないか。

 子どもの数は亀岡でも激減している(小中学生は2000年から20年間で3千人以上減)。運動部が一つだけという学校もある。地域でどう部活動を維持し、スポーツの機会を保障するか考えなければならない。

 亀岡では学校の垣根を越えて、土日の陸上教室を開いてきた。市陸上競技協会が主催し、各種目を専門とする指導者が集まる。小学生から高校生まで、学校に指導できる先生がいなくても陸上教室では学べる。ただこれは、市の広さや人口規模がちょうどいいからできること。府北部などの場合、人口減の中で教えられる人はいるのか。そもそも学校間の距離が遠いのに、どこに集まってやるのか。それぞれの地域でできることは違ってくる。

 土日の部活動を地域に移行するならば、地元の府立高校で一部を受け入れてもらうのも選択肢だと思う。スポーツを真剣に教えてほしい子どもたちと、進学先に選んでほしい府立高、両者にメリットがある。保護者にも、学校という安心感は残る。地域との連携は、そこまで踏み込んで考えた方がいい。

 亀岡では2018年から部活動の外部指導員を雇用している。現在は教員免許も持つ7人を採用。専門性のある指導ができるのはメリットだが、後ろに顧問や担任の先生が控えているからできること。多感な時期の子どもを任せるため、簡単には増やせない。そして7人では一つの中学校が抱える部活動もカバーしきれない。人口減が続く他市の話を聞くと、もっと状況は深刻。一律の施策で対応できるはずがない。国は「この地域ならいくつまで部活動を残せるか」と、足元を調査して対応するべきだ。

 本音を言えば、地域移行は難しいと思っている。働き方改革と言うが、現状では顧問も外部指導員として登録すれば参加できる。それで本当に効果があるのか。結局、子どものことが心配で休めず、今まで通りボランティアのままになりかねない。教職員は休日に一切参加してはいけないと規制するくらいでなければ、働き方改革にはならない。国が禁止だとはっきり言えば、われわれは粛々と従う。

 教員の働き方や部活動の改革は必要。だが学校の話である以上、子どもファーストで考えてほしい。今回の有識者会議には現場畑の声が少なく、部活動の本質を見ていないと感じる。子どもの安心、大切な時間を考えた改革をしてもらいたい。(聞き手・井上広俊)


↑トップへ支援学校に運動部浸透

 特別支援学校で運動部が浸透しつつある。全国特別支援学校長会(東京)の調査によると、東京パラリンピックで注目されたボッチヤやゴールボールなどが人気を集める。eスポーツなど重度障害の子が取り組みやすい種目も見られ、校長会の市川裕二会長は「本格的な競技からリビリまで、パラスポーツが持つ幅の広さが部活動にも表れている」と分析した。

 今年2〜5月、全国の特別支援学校約1100校に調査し、608校が答えた。小学部に運動部・スポーツをするクラブ活動があるのは48校。中学部には284校、高等部は574校にあった。

 種目別に見るとボッチヤが最も多い。フロアバレーボール、ゴールボールなどが続いた。前年に比べて運動部・スポーツのクラブ活動の数が増えたとの答えも目立った。増えた部活動にボッチャ、eスポーツ、バドミントンなどがあった。

 卒業後にもスポーツを継続できるようにすることが課題となっている。その対策としての取り組みに「運動部・クラブ活動に卒業生も参加できるようにしている」「地域スポーツクラブと連携を取っている」などが挙がった。競技団体やクラブチームを紹介したり、ランニングなど卒業後も手軽にできる種目を体育の授業で実施したりする工夫も見られた。


↑トップへ【インタビュ―編】「オフのスポーツ」充実を

追手門学院大教授 有山篤利さん

 国が進める議論は(教員の)働き方改革のための部活動改革になっている。仕事を押し付けられるだけなら地域にとっては迷惑な話だ。特に疑問を感じるのは議論の出発点として学校と地域とを分離していること。学校も地域の一員ではないのか、と問いたい。学校と地域が同じ夢を見られる「絵」を示すことが必要だ。

 部活は長年にわたり重要な役割を果たしてきたが、もう学校だけで背負える時代ではない。学校と地域、さらに競技団体とが協力して取り組むべき時だ。ポイントはその役割分担。そして、スポーツの概念を「オン」と「オフ」に明確に分けることが出発点になる。

 日本で、特に部活は教育の一環としてオンの時間だった。部活が休みだと生徒が喜ぶのは昔も今もよく聞く話。学校以外の道場での稽古やクラブでの習い事なども含む。競技スポーツとも言い換えられる。一方で、スポーツとは本来、それ自体が楽しみであり、人生を豊かにするも の。仕事や学校以外の余暇として行うのがオフのスポーツだ。

 日本の子どもは幼い頃からオンしか知らない。厳しく、きつい、鍛錬の時間。それが教育やしつけにつながると言われている。でも、オフの楽しいスポーツを経験しないままオンばかりでは息切れしてしまう。小学生柔道の全国大会が廃止となったが、全国大会が不要なのではなく、幼いうちから勝利を目指してオンばかりになる点がだめ。

 オンの部分は学校で担うことが困難になっている。教員だけを見ても、通常業務に加えて部活指導、引率、大会運営などで疲弊している。これら普及や強化は競技団体の仕事なのに、学校に押しつけてきた歴史がある。オンを担うべき競技団体は都道府県のような広域での取り組みが必要だろう。学校も一部の私学なら強化拠点になりうるが、公立中高ではもう無理だ。

 そこで学校や地域の役割となるのは、オフの部分だ。日本で根付かなかったスポーツの本質的な要素。オフのスポーツこそ人生を豊かにする。一言で言えば、真剣な遊び。例えば鬼ごっこの延長にスポーツがある。その際に学校の役割として重要なのが、オフスポーツを創造し、主体的に楽しめる人の育成となる。

 日本ではスポーツを通した人生の楽しみ方を学校で教わるような機会はほぼなかった。いざ時間ができても、余暇の過ごし方が分からない大人は多いはず。スポーツはプレーだけでなく、支える、見るなど関わり方は多様だ。オフが充実すれば、仕事や学校以外で主体的に使える「可処分時間」を増やそうとし、本当の働き方改革にもつながる。

 地域移行に伴い、部活が持つ教育効果や生徒指導の面で懸念の声がある。だが、オフスポーツに関わる学びこそアクティブラーニングの最たるものだ。スポーツは元来、ルール、運営、チーム作りなど学びの要素が多い。東京五輪のスケートボードでは、順位よりも目標とする技への挑戦を優先する場面があった。それを他の選手が称賛した。勝ち負けとは異なる価値を感じた。スポーツの多様な面を知ればさまざまな学びができる。

 地域が担うべきなのは、オフスポーツを実践する場としての役割。行政とともにイベントの企画や支える側になる。オンのスポーツを既存の総合型スポーツクラブで引き受けることは大変だが、これなら可能だ。将来は学校で育った人材が可処分時間の中で自発的に関わるだろう。

 日本の部活動にとっての大改革。今こそ始めないといけない。(聞き手・小池直弘)


↑トップへ部活地域移行で吹奏楽団

 公立中学校の部活動を地域団体や民間事業者に委ねる「地域移行」を見据え、守山市の中高生を対象にした吹奏楽団「ルシオールユースウインドオーケストラ(LYWO)」が、10月に設立される。教員の働き方改革で活動時間が制限された生徒たちの技術や能力の向上を図る。週1回の練習のほか、音楽大卒業生らによる指導、自主演奏会など幅広い活動を予定。全国でも先駆的な取り組みとして注目を集めそうだ。

教員負担減・生徒技術向上へ

 活動拠点となる守山市民ホールの指定管理者・市文化体育振興事業団が運営を担う。「学校の部活動では物足りない」「さらに技術を向上させたい」といった生徒側、部活動に携わる教員の負担を減らしたい学校側、双方のニーズに応えようと創設した。文化部活動の地域移行に向けた本年度の「文化庁地域文化倶楽部(仮称)創設支援事業」にも選ばれている。

 大津シンフォニックバンドの桂冠指揮者で中学校や社会人の吹奏楽団の指導が長い森島洋一さんをエグゼクティブアドバイザーに迎え、明富中吹奏楽部で今春まで顧問を務めた武藤千尋さんが事務局と兼ねて合奏指導と指揮を担当。フルー卜やファゴット、トランペットなど13人の講師がパート別に個別指導する。

 8月下旬から入団説明会が随時開催され、中高生や保護者らが担当者から趣旨や活動内容などを聞いた。守山南中吹奏楽部で副部長を務める3年山下千穂さん(14)は「曲数をこなし、専門の先生からも教わりたい。高校生もいるので学べることが多そう」と期待。パーカッション 担当の2年星川快鋳さん(13)も「学校では打楽器のことを習う機会は少ない。もっとぅまくなりたい」と目を輝かせる。

 定例練習は市民ホールのリハーサル室で、原則毎週土曜の午後2〜5時。これとは別に講師によるパートレッスンがある。現在、団員を募集しており、市内在住または在学の中高生で半年以上の楽器経験が条件。会費は月額5千円。説明会は12、16日の午後7時からも開かれる。市民ホール077(583)2532.(三鼓慎太郎)

人材・練習b所確保に課題

 「吹奏楽部など文化系部活動の指導を2025年度末までに休日は地域団体へ委ねるべきだ」。公立中の部活動の在り方を検討している文化庁の有識者会議はこうした提言を8月にまとめた。ルシオールユースウインドオーケストラ(LYWO)では指導者の確保や受け皿の整備はスムーズに進められた一方、安定的な活動を続けるためには課題も多い。

 部活動の地域移行を巡っては、外部指導者の力量や意思疎通が大きな課題として挙げられている。また、吹奏楽部特有の事情としてパートごとの指導者や数十人が演奏できる場所の確保などもあるため、全国的な動きは極めて鈍い。

 LYWOでは2019年に滋賀県代表として関西吹奏楽コンクールに出場するなど県内有数の強豪校・明富中(守山市)で今春まで顧問を務めた武藤さんが指導者に加え事務局として運営にも携わる。同じく吹奏楽部の活動が盛んな守山南中の辻本長一校長は「指導者としてよく知られており、中学校で教べんを取られて学校教育に理解のある方なので、信頼している」と期待を寄せる。運営母体が市民ホールの指定管理者という利点を生かし、講師となる音楽関係者らの手配や練習拠点の準備もできた。こうした点では好条件がそろっていると言える。

 ただ、継続性という観点では人材確保の問題は常に付きまとう。小森慎也副館長は「今回たまたまタイミング良く優秀な人材を確保するこ とができたが、次の世代の指導者を増やしたり新たに見つけたりできるかは分からない」。また他の事業や貸館業務がある中、練習場所の提供も含めたLYWOの活動とのすみ分けも今後考えなければならないという。楽器の運搬や保管も課題だ。

 月々必要となる活動費も問題となる。学校教育の延長上にある部活動とは性格が異なり、公益財団法人の事業として受益者負担が求められ る。辻本校長は「5千円の会費を出すのが難しい家庭もある。行きたい子どもは誰でも行けるよう配慮してもらいたい」と国などの予算措置を 望む。(三鼓慎太郎)

競争と距離、評価

「日本の学校吹奏楽を科学する!」著者で愛知教育大学の新山王政和教授の話

 コンクールを目標とした競争のための指導や活動から距離を置き、有意義な音楽経験を提供する場として設立されることを評価したい。将来的には文化庁の提言に沿って未経験者にも門戸を開き、「平日は学校で運動部、休日は吹奏楽」という多様な経験を望む生徒を受け入れていく工夫を求めたい。学校教育課や社会教育課とも連携し、教員に頼らない運営方法を模索して全国に向けて情報発信し卜てほしい。