高校学習指導要領 改定案 (2018年2月15日 京都新聞)

 文部科学省が14日公表した高校の学習指導要領改定案では、主要教科の一部で科目を大幅に見直し、全教科を通じて主体的な学びを求めた。内容を紹介する。


竹島、尖閣「固有の領土」

 高校の学習指導要領改定案では「わが国の領土など国土に関する指導の充実」を重視し、韓国や中国との間で領有権を巡り意見の相違がある竹島(島根県)、尖閣議島(沖縄県)について、地理歴史で「固有の領土」と初めて明記し、公民でも扱った。現行指導要領では日韓関係などに配慮し「日本の領域を巡る問題に触れる」との記載にとどめ、これらの地域は示されていなかった。

 「竹島・尖閣」の明記は、昨年改定の小中学校に続くもので、文部科学省の担当者は、法的拘束力のある指導要領に書き込んだ狙いを「中学までの教育との連続性を意識した」と説明した。一方で、韓国や中国の立場については「他国の主張を生徒に理解させることはあり得るが、自国の立場を優先して指導することになる」とも述べた。

 改定案によると、「地理総合」で、竹島や尖閣諸島は固有の領土であると扱うと規定。「歴史総合」では、近現代史の中で「竹島、尖閣諸島の編入に触れる」と記した。公民に新設された「公共」では、日本が竹島の問題の平和的解決に向けて努力していることや、尖閣諸島には領有権の問題がないことを取り上げるとした。

 領主教育の重視は、安倍政権の意向が強く反映されている。2014年1月に下村博文文科相(当時)は教科書作成指針となる指導要領解説書の見直しに踏み切り、竹島・尖閣が指導要領全体の改定に先立つ形で盛り込まれた。このため、近年の地理歴史や公民の教科書で竹島・尖閣を取り上げる流れが既に定着している。


課題の解決「過程が大切」 選挙権年齢18歳引き下げ受け

 選挙権年齢が18歳以上に引き下げられて、初めての改定となる高校学習指導要領。改定案は政治や社会が一層身近になる中、「主体的・対話的で深い学び」により、社会で求められる力を育てることが重要だと強調した。昨年告示の小中学校の次期指導要領と同様、アクティブ・ラーニングの言葉は用いなかった。

 主体的な学びの実現には、知識を関連付けて理解したり、課題を見いだして解決策を考えたりするまでの過程を重視するといった授業が必要だと指摘。

 「社会に見られる課題の解決に向けて構想したりする力や、考察、構想したことを効果的に説明したり、それらを基に議論したりする力を養う」(地理歴史)、「数学を活用しようとする態度、問題解決の過程を振り返って考察を深めたり、評価・改善したりしようとする態度や創造性の基礎を養う」(数学)、「科学的に探究するために必要な観察、実験などに関する技能を身に付けるようにする」(理科)などと方向性を示した。


水泳飛び込み指導原則禁止

 学校の授業でプールに飛び込んだ子どもがけがをする事故が相次いだことを踏まえ、高校学習指導要領の改定案では、体育の水泳で「水中からのスタートおよびターンを取り上げる」と記述し、飛び込み指導を原則全面禁止とした。ただ、2年生以上については、安全確保の要件を満たしていれば「段階的な指導も行える」としている。

 一方、部活動では原則禁止とはしないが、スポーツ庁は教諭への研修などを通じて安全確保に努めるよう求める考えだ。

 文部科学省が教員向けに作成した現行の高校の学習指導要領解説書では「段階的に指導し、安全を十分に確保すること」と記述され、明確に体育の授業での飛び込み指導を禁止していない。スポーツ庁が2017年、全国の約千校を対象に行った調査では、水泳授業を実施している高校のうち、約1割が飛び込みを指導していた。 そうした中で16年7月、東京都立高

 での授業中に、教員の指示によりプールに飛び込んだ男子生徒が頭を底に打って大けがをするなど、重大事故が相次いだことから、文科省は今回の改定に伴い原則禁止の方針を明確にすることにした。

 スポーツ庁によると、授業では、水中からのスタートのみを指導する。


英語、大学入試に連動 「話す・書く」発信力向上目指す「話す・書く」発信力向上目指す

 高校の学習指導要領改定案で、英語は「読む・聞く・話す・書く」力、特に「話す・書く」という発信力を高めることを主眼に、科目を再編した。2020年度から大学入試センター試験に替わる大学入学共通テストでも、民間検定試験の活用などで、これらの力を測ろうとしており、歩調を合わせた形だ。

 現行の「コミュニケーション英語は「英語コミュニケーション」と名称を改め、「読む・聞く・話す・書く」力の総合的な育成を図る。

 高校で学ぶ単語数は現行の1800語程度から、1800〜2500諸程度とした。現行の指導要領と同じく、基本的に授業は英語で行うことを求めた。


 【前文】

 小中学校と同様に前文を新設。教育基本法が掲げる教育の目的や目標を記すとともに、各学校で、必要な学習内容をどう学び、どんな資質・能力を身に付けるかを明確にし、社会との連携により実現を図る「社会に開かれた教育課程」の考え方を示した。

 【総則】

 主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善を通し、生きる力を育むと強調。教育の内容を教科横断的な視点で組み立て改善を図っていくことで、教育活動の質向上を図るカリキュラム・マネジメントに努めることも求めた。

 中学までの学習成果や、卒業以降の教育や職業との円滑な接続が図られるよう工夫するとの文言を加えた。道徳教育は小中と同様に道徳教育推進教師を置き、全教員が協力して展開する。部活動は持続可能な運営体制整備を打ち出した。

 障害のある生徒については、家庭や地域のほか、医療、福祉などの関係機関と連携し、個別の教育支援計画の作成に努める。特に通級指導を受ける生徒には個別計画を作成する。

 卒業するまでに必要な単位数は現行通り74以上。全生徒に履修させる教科・科目は次の通り。

 (1)国語は「現代の国語」「言語文化」

 (2)地理歴史は「地理総合」「歴史総合」

 (3)公民は「公共」

 (4)数学は「数学T」

 (5)理科は「科学と人間生活」「物理基礎」「化学基礎」「生物基礎」「地学基礎」から2科目(うち1科目は「科学と人間生活」)。または「物 理基礎」「化学基礎」「生物基礎」「地学基礎」から3科目

 (6)保健体育は「体育」「保健」

 (7)芸術は「音楽T」「美術T」「工芸T」「書道T」のうち1科目

 (8)外国語は「英語コミュニケーションT」

 (9)家庭は「家庭基礎」「家庭総合」のうち1科目

 (10))情報は「情報T」

 「総合的な学習の時間」は「総合的な探究の時間」に改め、全ての生徒が履修する。「理数探究基礎」または「理数探究」を履修した場合、「総合的な探究の時間」に替えることができる。

 学校は特色ある課程編成のため学習指導要領が示す教科・科目以外を設けられる。

 教科・科目別要旨

【国語】 

 現行の「国語総合」に替えて、「現代の国語」「言語文化」を共通必修科目として新設した。全科目で語彙(ごい)の指導に注力する。

 〈現代の国語〉

 実社会に必要な国語の知識や技能を身に付け、論理的に考える力や伝え合う力を高める。

 「話す・聞く、書く、読む」のそれぞれについて、論理や文章の構成、表現の工夫、情報の整理などを学ぶ。スピーチや討論、報告書の作成なども指導する。

 〈言語文化〉

 日本の言語文化に対する理解を深める。古文や漢文を含む古典の世界に親しむために作品や文章の歴史的・文化的背景を学習する。

 古典を読むために必要な決まりや表現、時間の経過や地域の文化的特徴による文字の変化などについて理解する。

 〈論理国語〉

 論理的に書いたり、批判的に読んだりする力を伸ばす。

 〈文学国語〉

 深く共感したり豊かに想像したりする力を伸ばす。

 〈国語表現〉

 実社会における他者との多様な関わりの中で伝え合う力を高める。

 〈古典探究〉

 生涯にわたり古典に親しむ態度を養う。

【地理・歴史】 

 科目編成を大幅に変え、「地理総合」「歴史総合」を新設して必修に。選択科目は「地理探究」「日本史探究」「世界史探究」を新たに設けた。

 〈地理総合〉

 地理的な見方、考え方を働かせ、課題を追究したり、解決したりする活動を実施。世界各地の環境問題や人口問題などを理解し、課題解決に持続可能な社会の実現を目指した国際協力の必要性も学ぶ。国家間の結びつきも理解し、地理簿報システム(GIS)を扱う。

 自然災害への備えや対応の重要性を理解し、多面的に考察する。日本の領域を巡る問題に触れ、竹島や尖閥諸島が固有の領土であることも扱う。

 〈地理探究〉

 世界の諸事象を、地理的、地誌的に考察し、世界におけるこれからの日本の持続可能な国土像について探究する。

 〈歴史総合〉

 世界とその中の日本を広く捉え、近現代の歴史を理解する。産業革命、明治維新、第2次世界大戦や世界のグローバル化など18世紀以降の出来事を扱い、現代的な諸課題の形成に関わる歴史を考察する。個別の事象の理解にとどまらず、歴史の変化を理解する。

指導に当たっては、客観的かつ公正な資料に基づき、多面的に考察し公正に判断する能力を育成する。領土の画定を扱い、竹島、尖閣諸島の編入にも触れる。

 〈日本史探究〉

 日本の歴史展開について、世界の歴史にも着目して、総合的に広く深く探究する。

 〈世界史探究〉

 世界の歴史の大きな枠組みと展開について、地理的条件や日本の歴史と関連付けて広く深く探究する。

【公民】 

 新科目「公共」が必修になり、「倫理」「政治・経済」が選択科目となった。「現代社会」は廃止とした。

 〈公共〉

 平和で民主的な国家や社会の形成者に必要な資質・能力を育成する。さまざまな選択や判断をする手掛かりとなる概念、理論を理解し、諸資料から必要な情報を適切に調べる技能を身に付ける。法や規範の役割、政治参加と公正な世論の形成、日本の安全保障や国際社会における役割、少子高齢化社会、経済のグローバル化などについて指導する。領土も教え、竹島や尖閥諸島が固有の領土であることも扱う。

 〈倫理〉

 古今東西の幅広い知的蓄積を通して、現代の諸課題を捉える。他者と共により良く生きる自己を形成しようとする態度を養う。

 〈政治・経済〉

 社会の複雑な課題を把握し、主体的に解決しようとする態度を養う。

【数学】

 現行の「数学V」「数学B」「数学活用」の一部を移行して「数学C」を新設。「数学活用」は廃止する。統計的な内容を充実させ、コンピューターなど情報機器の活用も促進。

 〈数字T〉

 ,「数と式」「図形と計量」「2次関数」「データの分析」で構成する。データの分析には仮説検定の考え方を追加した。

 〈数学U〉

 「いろいろな式」「図形と方程式」「指数関数・対数関数」「三角関数」「微分・積分の考え」で構成する。生徒の主体的な学びを促す課題学習も新設した。

 〈数学V〉

 「極限」「微分法」「積分法」で構成。課題学習も新設した。

 〈数字A〉

 「図形の性質」「場合の数と確率」に加え、廃止した数学活用から「数学と人間の活動」を移行した。期待値も扱う。

 〈数学B〉

 「数列」「統計的な推論」に加え、廃止した数学活用の内容から「数学と社会生活」も盛り込んだ。区間推定や仮説検定の方法の理解も扱う。

 〈数学C〉

 「ベクトル」「平面上の曲線と複素数平面」に加え、廃止した数学活用から「数学的な表現の工夫」を移行した。

【理科】

 観察、実験を通して自然現象などについて科学的に探究する活動を充実させる。「理科課題研究」は廃止した。

 〈科学と人間生活〉

 自然や科学技術と人間生活の関わりについて理解を深める。「ヒトの生命現象」を新たに追加。

 〈物理基礎〉〉

 物体の運動とエネルギーを科学的に探究する資質・能力を育成する。

 〈物理〉〉

 物理的事象に主体的に関わり、科学的に探究しようとする態度を養う。

 〈化学基礎〉

 物質とその変化を科学的に探究する資質・能力を育成する。「化学が拓く世界」を追加した。

 〈化学〉

 化学的事象に主体的に関わり、探究しようとする態度を養う。

 〈生物基礎〉

 生物や生物現象を科学的に探究する資質・能力を育成。重要用語を200〜250程度とした。

 〈生物〉

 「生物の進化」を冒頭に設定し、全体の学習で進化の視点を重視した。重要用語を500〜600程度とした。

 〈地学基礎〉

 地球や地球を取り巻く環境を科学的に探究する資質・能力を育成する。

 〈地学〉

 地球を取り巻く環境に主体的に関わり、科学的に探究しようとする態度や、自然環境の保全に寄与する態度を養う。

【芸術】

 必修科目に変更はない。科目ごとに身に付けるべき資質・能力を「共通事項」として記載した。

 〈音楽T・U・V〉

 音楽を形作る要素を感じ取り、用語や記号を理解する。

 〈美術T・U・V〉

 対象を造形的な視点で捉えることについての理解を育成。

 〈工芸T・U・V〉

 造形的な特徴を基に、全体のイメージや作風、様式などで捉えられる力を育成。

 〈書道T・U・V〉

 筆の動かし方や強弱から生み出される表現の効果を理解する。

【外国語】

 科目を再編。「読む・聞く・話す・書く」をバランス良く扱う「英語コミュニケーションT・U・V」では、新たに取り扱う単語数を1800〜2500程度とした。中学校までと合わせると4千〜5千語に。「論理・表現T・U・V」では、交渉やスピーチ、プレゼンテーションやディベートなどの言語活動を通し、発信力の育成を強化する。授業は英語で行うことが基本。

 〈英語コミュニケーションT〉

 日常的な話題について、多くの支援を活用した上で、読み書きや聞き取り、伝達ができるようにする。

 〈英語コミュニケーションU〉

 日常的な話題について、一定の支援を活用すれば、多様な語句や文を使って話したり、書いたりできるようにする。

 〈英語コミュニケーションV〉

 社会的な話題について、支援をほとんど活用しなくても、必要な情報を把握し、考えや気持ちを論理的に詳しく伝えることができるようにする。

 〈論理・表現T〉

 基本的な語句や文を用い、論理構成を工夫して意見や主張を伝え合うことができるようにする。

 〈論理・表現U〉

 日常的な話題について、一定の支援を活用すれば、立場が異なる相手と交渉できるようにする。

 〈論理・表現V〉

 複数の資料を活用し、多様な語句を用いて、意見や課題の解決策を詳しく伝え合うことができるようにする。

【保健体育】

 五輪・パラリンピックに関する指導を通して、スポーツの意義や価値に触れることができるようにした。

 〈体育〉

 「体育理論」で五輪・パラリンピックを扱う。「武道」は学校や地域の実態に応じて種目を選択できるよう弾力化。「水泳」は安全への配慮 から原則「水中からのスタート」とし、2年からは安全を十分に確保した上で段階的な指導も可能。

 〈保健〉

 「現代社会と健康」で、がんを含む生活習慣病や、精神疾患の予防と回復に関する内容を明記。「安全な社会生活」の中で心肺蘇生法を技能として示した。

【家庭】

 「家庭基礎」と「家庭総合」に再編。少子高齢化を踏まえ、乳幼児や高齢者など地域の人々との関わりを重視した。和食や和服など、日本の伝統的な生活文化の継承に関する内容も記載した。  

【情報】

 「情報T」「情報U」で構成。情報Tを必修とし、全生徒がプログラミングやネットワーク、情報セキュリティーの基礎を学ぶ。クラウドサービスやビッグデータの活用も。SNSいじめ、ネット中毒といった情報モラルの分野も扱う。  

【理数】 

 理数系の創造性豊かな人材育成を目的に新設。「理数探究基礎」と「理数探究」の2科目で構成し、自然環境や科学技術などに関する探求を通して課題解決力を育む。

【総合探究】     

 「総合的な学習の時間」から名称を変更。自分の将来を見据えて課題を設定し、各教科で育成した資質・能力を用いて解決を目指す過程を重視する。 .