PTAのゆくえ

 3月上旬、京都市内のPTA関係者に衝撃が走った。市PTA連絡協議会の大森勢津会長が、日本PTA全国協議会(日P)からの退会を理事会に提案したことがホームページに掲載された。

 日Pは、これまで約800万人の保護者の「代表」として、PTA会員が交流する全国大会を開いたり、政府に意見表明をしたりしてきた。

 しかし、大森会長は「現場の声が反映されるよう働きかけてきたが、変化の期待を持てる状況にはない」と判断し、退会を提案したという。真意を尋ねると、PTAが抱える課題がいくつも浮かび上がった。

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 PTAが揺れている。共働きが増加し、従来の「半強制的」な入会や役員選定、活動への参加に疑問が高まっている。負担感の少ない組織へと変革する組織が増えているが、参加は任意だと周知されるに伴い未加入世帯も増えつつある。春の役員交代の時期を迎える中、時代に合ったPTAを模索する動きを追った。(三村智哉、大西幹子)

(上)「単Pの声 反映していない」(2022年4月3日 京都新聞)

(中)京で広がる改革(2022年4月10日 京都新聞)

(下)存在意義(2022年4月17日 京都新聞)

不満抱えつつ維持 浮かぶ(2022年5月1日 京都新聞)

活動見直し 賛同目立つ(2022年5月8日 京都新聞)

教員のPTA加入「当然」根強く(2022年5月23日 京都新聞)

PTA「女性枠」必要?(2022年5月24日 京都新聞)

PTAのゆくえ インタビュー編(2022年5月29日 京都新聞)

PTA上部組織 存在意義を議論(2022年12月15日 京都新聞)

プロに外注で親の負担減(2023年6月16日 京都新聞)

(上)「単Pの声 反映していない」(2022年4月3日 京都新聞)

 京都市PTA連絡協議会(市P連)の大森勢津会長が、日本PTA全国協議会(日P)からの退会を提案している。京都市P連は、保護者が強制や負担と感じない運営のあり方を目指して改革に取り組んできた。今、PTAに何が起きていて、全国組織のどこを課題と捉えているのか。京都市P連の大森会長に聞いた。(三村智哉)

 ―なぜ、退会を提案したのか。

 「昨年7月に京都市P連の会長になり、『京都市型PTA』として、コンプライアンス(法令順守)の徹底▽負担感の少ない体制▽強制でない、主体的な活動―などを目指してきた。学校単位のPTA(単P)は会員のなり手不足で先細りが心配されている。日Pは64の都道府県や政令指定都市単位のPTA協議会つくるが、単Pのために協議会がどうあるべきかを議論する場になっていないと感じた。また日Pの活動内容も見直すべきものが多いと思った」

 ―日Pの課題とは。

 「例えば、全国大会。毎年8千人規模で、各都市で持ち回り開催するが、開催都市のPTAは本番に向けて企画や多額の積み立てが必要で、当日の動員も要る。負担が重く、時代に合わなくなっている。また2020年5月に、日Pは『9月入学』について、『慎重に』との緊急要望書を出したが、市P連には事前に連絡もなかった。多様な意見があるのに、保護者の総意として出すことにも違和感を抱いたし、意思決定過程が不透明だと思った」

 「日Pはいじめ問題などさまざまな調査研究をしているが目的が不明確だし、内容は冊子を購入しないと見られない。単Pのためにはオンラインで公開すべきだ。会費の徴収も、単Pは家庭単位などさまざまなのに、日Pの分担金は児童生徒数に10円を掛けた金額であり、ずれも生じている」

 ―日Pとどういった話し合いをしてきたのか。

 「各PTA協議会が集まる会議は、文部科学省の職員による教育施策の説明や地方ブロックからの報告が多かった。最近は協議会を脱退する動きもあるのに、どうしていこうという議論はなかった。日Pの幹部とも話したが、全国大会はリアル開催にこだわるなど、新型コロナウイルス禍を経ても以前と同じ事業をしようと旧態依然としていた。私たちの役職は単年度なので、1年間議論したことが生かされない仕組みになっている」

 ―どんな日Pになるべきか。

 「PTAは単Pが一番大事。上部団体は、その活動が元気になるよう支える組織でなければならない。特に全国組織は、PTA会員の声を吸い上げて国に伝えたり、各協議会で課題を共有して切磋琢磨したりできる場になるべきだ」

 ―市P連も上部団体という点では同じだ。

 「単Pのために役に立つと思ってもらえないと市P連から抜けられる。日Pと市P連に求められることは同じだ。コロナ禍で生活がしんどい中、どっちを向いた活動をするかだ。子どものために会費が使われていると会員がメリットを感じれば退会はしないはず。単Pを応援する組織であり続けたい」

強制参加時代に合わず 全国で退会相次ぐ

 県単位のPTA(県P)など上部団体から脱退するPTA組織が全国的に増えている。背景には、運営の在り方が時代に合わなくなったと見て、新たな形を模索するPTAの動きが活発化したことがある。

 PTAは長年、入学時に自動的に入会させられる仕組みが続いてきた。しかし共働きの増加に伴い、活動への参加や役員・委員への就任を半強制的に求められる慣例への疑問が強まった。役員免除のために他の保護者の前で理由の説明を強いられる慣習は、「免除の儀式」とも呼ばれ、人権問題との批判が出ていた。

 転機の一つになったのは2017年。熊本市の保護者がPTAへの強制加入を争った訴訟で、「PTAは入退会自由な任意加入団体」と確認された。「強制ではない」との認識が広がり、京都市内を含む各地のPTAが入会届を保護者に出させるなどして意思確認を行うようになった。

 任意だと周知されれば、未加入者の増加が懸念される。実際に退会者が相次いだ学校もあった。そこで、一部のPTAでは「負担が少なく、入りたくなるPTA」を目指して事業をスリム化したり、役員・委員を縮小・削減したりする改革が進んだ。京都市ではコーラス活動などに保護者を強制的に参加させることはやめて、有志での活動に切り替える動きも現れた。

 ただ変革を進める上でネックになるのが、意識の温度差だ。地域によっては、半強制的な加人や役員選定をいまだに続ける学校もある。活動を見直そうとしてもOBや地域団体から反対された」。そう話すPTA役員は多い。今回、京都市で起きた全国組織からの退会の動きも、底流には、組織運営の考え方を巡る溝や摩擦があった。

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 「運営方針に違いがあった」

 2019年3月、奈良市PTA連合会は奈良県の県Pから退会した。分担金の算出方法が不明瞭で、60万円近く払つているにもかかわらず学校単位のPTA(単P)に有意義な活動が少ないと判断したからだ。

 奈良市P連は1970年代から学習会を続け、「できる人ができる時にできる事をする組織」を目指してきた。入会についても任意を徹底するため入会届を取るよう単Pに促していた。だが、県Pは「一致団結」を理由に全員入会にこだわったという。

 奈良市P連の岡田由美子事務局長は「県Pや日Pから研修大会への動員を求められたが、参加しても得られるものは少なかった」と振り返る。

 「PTAは形を変えないと生き残っていけない。子どものために先生と親が考え、話し、学び合う、本来の団体になるべきだ」と強調する。

 高知市小中学校PTA連合会も、今年3月末で高知県の県Pから脱退した。きっかけは、県Pへの分担金が1人当たり20円上がったことだった。だが、20円の値上げは「県Pって何をしているのか」という議論に発展した。

 県Pの主な事業は研修大会の開催や広報紙の発行だ。しかし、大会への参加は会員約2万人のほんの一部で、広報紙を知らない会員もいた。松本憲誠会長は「会員への利点があまりなかった」とし、「うちも抜けられないよう保護者のために活動したい」と話す。

 全国では市単位のPTAから抜ける単Pも出ている。相次ぐ脱退の動きは「組織は誰のために、何のためにあるのか」という問いを投げ掛けている。その問いに真剣に向き合わなければ、上部団体であっても単Pであっても会員離れに拍車が掛かるだろう。


(中)京で広がる改革(2022年4月10日 京都新聞)

 PTAの改革が広がり始めている。共通するキーワードは「強制のない自主的な活動」。行事への参加や役員選びなどに関する負担を軽減しようと、「ボランティア制」を導入したり、バレーボール大会を有志の運営に切り替えたりするなど、京都市内で現れ出した取り組みを追った。(三村智哉、大西幹子)

「強制なく自主的」に転換

 3月に左京区の岩倉北小の学校運営協議会とPTAが催した「里山ハイキング」。散策としし鍋を楽しむ恒例行事だ。PTAの募集に応じた保護者のボランティア10人が計画や運営を担った。2021年度の会長だった千本文さんは「みんな主体的に集まってくれた。役員は実施の決定とボランティア募集、予算執行を担当しただけ」と話す。

 同小PTAは20年度に、参加者を活動ごとに募る「ボランティア制」を導入した。やりたい人は誰でも参加できるよう未加入者にも声をかける。イモの栽培学習の手伝いや登校の見守りなど毎回、必要な人数は全て志願者で確保できた。

 導入の背景には、保護者の大きな負担感があった。学校の世帯数は約200なのに、以前は本部役員や各委員会の委員に約50人が就いていた。抽選で役員を決める時期は殺伐とした雰囲気になっていたという。

 「このままではPTAが崩壊する」。18年度から改革に乗り出した。保護者に意見を募るなど検討を進め、19年度には各委員会を統合して活動を縮小。20年度には委員会全てを休止した。代わりに、本部役員が決めた行事や活動に対し、そのつどボランティアを集める方式に移行した。

 PTA加入の意思確認も毎年度行い、強制は一切ないと繰り返し伝える。21年度の加入率は65%で市内平均の97%よりは低いが、役員たちは「家庭の事情も考え方もさまざまなので、加入率を上げることは目標ではない」と言い切る。

 変化が浸透し、7人程度の本部役員は、21、22年度のいずれも立候補で決まった。千本さんは「20年度の役員が生き生きと活動しており、これならやれそうだと思った。役員全員が働いていたのでオンラインで密に連絡を取り合った。楽しかった」と振り返った。

 他校のPTAから「人は集まるのか」とよく質問される。千本さんは「まずは活動を、やりたいと思えるものと本当に必要なものに絞るべき」と指摘し、その上で「それでも集まらなければ無理にやろうとはせず、内容や方法を考え直せばよいのでは」と語った。

バレーボール、コーラスも 有志に切り替え負担減

 PTAのバレーボールやコーラスの活動は、毎年大会に向けて参加を強制されるなど負担を感じる保護者が多かったため、見直す動きが出ている。

 宇治市のPTAなどでつくる市連合育友会は2021年度、バレーポールの大会は中止し、コーラスの大会も講演会に変更した。各校で参加者を集めなければならないなど負担がかかっていたため、本年度も別の体育や文化行事に変える予定という。

 京都市でも昨年3月に市小学校PTA連絡協議会が、各支部で開催するコーラスやバレーボールの大会(交歓会)について見直しを提案した。実施する場合は、有志での運営に切り替えるよう求め、実践する地域も現れている。

 左京区の12の市立小PTAでつくる同協議会左京南支部は昨秋、各校のサークルが出場するバレーボール大会を、初めて参加者主体で運営した。以前は当番校の体育館で土日曜日の2日間開いていたため、会場設営や駐輪・駐車の誘導などを担う当番校のPTA役員には重荷だった。昨秋は会場を島津アリーナ京都(北区)に変えたため1日に縮まり、会場設営も役員を動員せずに済んだという。

 きっかけは、大会経費への市の予算措置が財政難で削られたことだった。中止も議論したが、各校の保護者たちに「大会をしたいか」とアンケートすると「本気で試合をする機会は残してほしい」との声もあり、運営方法を変えて継続することになった。

 支部理事として見直しを進めた養正小PTAの上林護会長は「負担の重い活動はやめることもできるが、やりたいという声が出た時には方法を変えてできないか考えることも大切」と強調。コロナ禍で休止中のコーラスも同様の対応ができないか検討している。


(下)存在意義

 今のPTAは時代に合わないとみて、解散したり、運用を変えたりする動きが相次いでいる。新型コロナウイルス禍の活動自粛を契機に「PTA不要論」も出ている。新たな試みと時代の変化は、PTAの存在意義や、学校と保護者とのあるべき関係性といった根本的な問いを投げ掛けている。(三村智哉、大西幹子)

学校と保護者 どう関わる?

 大津市の志賀小のPTAは2020年2月、総会を開き、PTAの解散と保護者会「はなぞの会」の設立を可決した。

 きっかけは、地域住民や保護者が教育活動などに意見する「学校運営協議会」が18年度に設置されたことだった。19年12月、PTAが会員に配った「今後の運営のあり方について」という文書には、協議会の制度の趣旨を踏まえた上で、PTAの従来の組織運営は自主的な活動につながっておらず見直す必要があると書かれていた。

 PTAでは委員会活動の負担軽減といった改革は進めていたが、役員選びが難航するなど課題は残されていた。また役員たちは会則にある`「会員が等しく活動を負担し権利を得る」という理念が、任意団体であるPTAの自主性に矛盾していると感じていた。

 「会員が期待を持てる組織に変えよう」。導き出した結論は、別の団体へ生まれ変わることだった。新設のはなぞの会は、目的を「地域とともにある学校づくりの推進」に設定。保護者は自主的に参加し、教員とは以前と変わらず連携する。「運営委員」も志願制としたか、21年度は14人が関わってくれた。

 会長の木戸地泰孝さんは「同じ思いを持った地域の団体や事業所の力を借りる方法もある。試行錯誤だが、子どもたちや保護者のニーズに合った活動をしていきたい」と話す。

 解散は他県でも現れている。今年3月末、前橋市の明桜中PTAが解散した。役員選びが毎年難航していた状況に加え、コロナ禍で活動ができなくなっても学校運営上、問題が生じなかったことから踏み切った。

 4月以降は会費を集めて少人数で管理し、講演会などを企画したい人がいれば支援する。保護者会もつくらない。保護者から学校への意見は学校運営協議会に入る3人が担うという。川上辰幸校長は「保護者がやりたいことを楽しんでできるようにしたい」と話す。

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 学校と保護者の関係を問い直す動きも出ている。

 「PTAは学校のお手伝い組織ではない」。京都市左京区の岩倉北小の三浦清孝校長はそう言い切る。「強制から有志へ」の改革を進める同小PTAは学校と話し合い、PTAが担っていた学校行事の手伝いを見直した。以前は自転車教室の手伝いなどがPTA活動に位置づけられていたが、今は学校が主体となりボランティアを募集している。

 三浦校長は「保護者と学校は本来、対等な立場。PTAの仕事を学校が固定化してはいけない。人が集まらなければ、それでもいい」と強調する。

 解散という形をとらないまでも、組織の在ぴ方を変えることで新時代のPTAを模索する地域もある。

 「役員になるまでPTAのイメージは悪かった。興味がなくても参加しなくてはならない、とネガティブに考えていた」。上京区の西陣中央小PTAで21年度の会長を務めた渡辺亮さんは苦笑する。前年度に副会長になると疑問を感じる活動もある一方、「やって良かった」との声も聞いた。

 会長に就くと、前年度のアンケートで集めた意見を基に、クラス委員は廃止し、各行事は有志を募って運営することに。次第に否定的な意見は減っていった。「PTAは加入すれば多くの保護者と知り合える。ファンを増やしていきたい」。渡辺さんが将来を見据えた。

活動内容の見直し進む

 児童生徒向けのイベント開催や卒業式の記念品贈呈、学校行事の手伝い、備品の寄贈…。PTAの活動は長い歴史の中で肥大化してきた。しかし近年、「強制から有志へ」の改革が進む中、「ボランティア団体であるPTAがやるべきことなのか」と活動内容を精査する試みが進んでいる。

 PTAは、戦後、教育の民主化に向けて連合国軍総司令部(GHQ)が主導して広がった。国も、子どもの健やかな成長のために、保護者と教員が協力し、学び合う団体として設立を奨励した。しかし、学校の人手や予算不足が深刻になるにつれ、資金面や労働力で学校を支援するという「後援会的」な色合いが強まった。それと並行して、保護者に対する参加強制の圧力も強まっていった。

 ところがここ数年、裁判などを通して「PTAはボランティア団体である」と再確認され、学佼がPTAに依存したり、全員参加を保護者に求めたりするのは不適切だとの認識が広がった。京都市の小学校のPTA会長は「学校にコントロールされることなく、できる範囲でする組織になるべき」と指摘する。

 ただ学校側には、学校活動を維持する上で保護者の力が不可欠とみて、PTAには学校と保護者を結ぶ役割を期待する見方が根強い。京都府内の小学校校長は「行事や登下校の見守りで保護者との連携は学校にとって必要」と断言する。

 近年はPTAが入退会自由な任意団体と周知され、非加入者も増えている。これまでPTAは保護者団体として学校と意見交換したり要望活動をしたりする側面もあったが、「入退会自由」が広がれば、非加入者を含めた保護者と学校の関係をどう再構築するかという新たな課題が浮上する。

 PTA問題に詳しい文化学園大の加藤薫教授は、従来の学校とPTAの関係性について「保護者が学校をサポートしたいというのは自然な心情だが、そこに『人手や金が足りないから援助してほしい』という学校の思惑が入ってくると隠れた強制が発生する。つまり学校は、子どもを預ける立場の保護者の善意や忖度をあてにして学校運営を成立させている」と分析する。

 その上で「PTAに入らないと学校と関われなくなるのはおかしい。教員と希望する全ての保護者が膝を突き合わせて話し合う懇談会などを定期的に設ける方が、充実した意見交換や関係づくりの場になる」とみる。非加入の保護者の子どもを巡っては、登校班に入れない、見守り活動の対象から外すといった差別的行為がこれまで行われてきたと指摘し、「そういうことがあってはならない」とくぎを刺す。


不満抱えつつ維持 浮かぶ

 京都新聞社が行ったPTAに関するアンケートでは、多くの保護者が不満を募らせながらも、前年踏襲で活動を維持してきた実情が浮かび上がった。(大西幹子)

 アンケートは4月18〜21日に双方向型報道「読者に応える」のLINEに友達登録している人らに実施し、主に京都府や滋賀県の1454人が回答した。うち46・6%はPTAに現在加入している保護者、45%は過去に加入していた保護者だった。回答者の70・4%は女性、25・6%が男性だった。

 PTAへの加入経験がある人に「活動に強制的に(やりたくないのに)参加させられたことがあるか」と尋ねたところ、「ある」は57・4%、「ない」は25・8%、「どちらでもない」が16・8%だった。「ある」と答えた人のうち「(強制参加させられたのは)どのような活動だったか」(複数回答可)を聞くと、「役員・委員の選定、就任」が83%と突出して多く、「運動会など学校行事の手伝い」48・4%、「登下校の見守り活動」45・7%、「地域行事の手伝い」42・6%が続いた。

 「加入している(していた)理由は何か」(複数回答可)の質問は、「自動的に加入させられた」が58・6%で最多。次いで「みんな加入している」が30・2%に上り、主体的な入会ではない傾向がうかがえる。「PTAを通じて学校と関わりたい」27・6%、「活動が子どもたちに役立っていると感じる」26・6%とPTAの意義を挙げる回答も目立つ一方、「加入しないと子どもが不利益を被るかもしれない」という消極的理由も21・1%あった。

 一方、「PTAの意義」(複数回答可)を問うと、「教員と保護者の連携」が49・7%で最も多く、「学校のサポート(教育環境の改善)」42・2%、「保護者同士の交流」39・9%が続いた。「ない」と回答した人も22%いた。

 「PTAは必要だと思うか」の問いには、「はい」が36・9%、「いいえ」が29・2%、「どちらでもない」が33・9%と回答が割れる結果となった。「いいえ」の理由では、新型コロナウイルス禍で活動をしなくても支障がなかったことを挙げる回答が目立ち、この2年で保護者のPTAに対する見方が変わった可能性がある。

「主体的」から程遠い実情

 PTA問題に詳しい文化学園大(東京都)の加藤薫教授に、アンケート結果からPTAの現状や課題をひもといてもらった。

 −結果の感想は。

 「PTAが抱える強制の問題が浮き彫りになったと思う。『活動に強制的に(やりたくないのに)参加させられた』が6割近くなのは無視できない数字だ。加入の理由を見ても『自動的に加入させられた』が6割いて、主体的な参加からほど遠い状況といえる。またPTAを見直すべきかに対し『いいえ』が5%未満なのは注目すべき。非常に多くの関係者が問題を感じているということだ」

 −「強制的に参加させられた」活動の具体的な内容で、「学校行事の手伝い」を挙げる人が5割いた。

 「PTAでは、労力や金銭を提供して学校をサポートする活動がよく行われている。やりたい人ができる範囲でやる仕組みなら問題はないが、学校がPTAの助けを当てにしてしまうと、PTAに『やるべき仕事』が発生し、人手と会費の確保や仕事を取りまとめる役員の選出が必要になる。すると隠れた強制が生まれ、『強制的に参加させられた』となる。この問題を解決するには、PTAによる労力や金銭の提供を見直し、不必要なものはカットする▽必要な予算はきちんと公費で学校につける▽それでも解決しない部分は、学校が説明責任を果たした上で保護者に負担を求めるIことが必要だ」

  ―加入の理由では、消極的な回 答も目立った。

 「加入しないと子どもが不利益を被るかもしれない、という回答が2割もあったが、これはPTAが互助会的な組織になっていることの証左だと考える。PTAは本来、ボランティア団体であるはずだが、『あなたの子どもは役員や先生にお世話になっているのだから恩返しすべきだ』という助け合いが義務化している状況では、加入や活動参加への圧力が高まる。退会や非加入はそういった関係性から離れることを意味するが、すると『登校班に入らないで』などと非会員の子を活動の対象から排除するケースが出てくる。保護者が子の不利益を恐れる状況では、加入の意思確認をしても本当の意味での意思の自由はないだろう」

 −PTAは必要かを尋ねると、意見が割れた。

 「PTAがない学校も存在し、教員との意見、情報交換や学校へのサポートは、PTAがなくても成り立ちうるものだ。だが長年、それらの役割をPTAが担ってきたために、必要と回答する人が一定数いたのではないか」

 「私は、PTAはあってもなくてもかまわないという立場。ただ存在させる場合には留意すべきことがある。加入理由で3人に1人が『みんな加入している』を挙げたことからも伺えるように、日本の組織には同調圧力が生じやすい点だ。同調圧力がPTA問題を肥大化させてきたのは言うまでもない。保護者と教員が連携するのに何か特別な組織が必要なのか、立ち止まって考える時が来ているのではないか」


活動見直し 賛同目立つ

 京都新聞社が4月以降、PTAの課題や改革を特集したところ、双方向型報道「読者に応える」やLINEアンケートを通じて保護者らから多くの意見が寄せられた。PTA活動の見直しに賛同する声が目立つ一方、PTAの意義を再確認すべきとの主張も。保護者や教員らで対話を積み重ね、時代に合ったPTAを探り続ける必要がありそうだ。(三村智哉)

負担大き過ぎ もめる要因に

 見直しを求める切実な声は現役のPTA会員から多く上がった。

 「負担が大き過ぎ、大幅 な(活動の)縮小が必要。保護者同士でもめたり、精神的に参ったりする人がいた」。長岡京市の小中学生の40代母親は、PTA活動に積極的に参加した経験から強く改善を求めた。

 京都市伏見区の小学生2人の40代父親は、4月にPTAから配布された資料に「委員を引き受けられない理由を書いても採用しない」などと記されていた。市内では強制ではない活動を目指すPTAが増えているが、父親は「こんなことを職場でしたらハラスメント」と憤った。

 不信の声はOBからも上がった。西京区の50代母親は母子家庭で仕事をしていたのに、子どもが通っていた中学校はPTA役員の免除がなく「仕事と子どもとどっちか大事なんですか」と役員に言われた。「あの時は怒りと驚きに震えた。嫌な思い出しかない」

 中学と高校のPTA会長を務めた大津市の50代父親は「会費が使い勝手のいい学校の第2、第3の財布(予算)になっている。備品の購入や施設の補修など学校から当てにされていた」と指摘した。「PTAに先生も加入しているから学校のために使われる。学校に意見を言う保護者会のような会があれば、PTAは無くてもいいのでは」と語った。 「やって良かった」意義強調も

 PTAの意義を強調する意見も寄せられた。

 小中学校で会長を務めた京都市西京区の60代父親は「『しんどいから』『働いているから』と活動を拒否するのはもったいない」と 強調した。「やれば、やって良かったと思う人は多く、子どものためにもなる。できない時は人に頼るなど柔軟に考えればいい」

 小学校のPTA会長を務めた市内の40代母親は「学校にアイデアを提案しても断られるなどストレスを感じることもあった」としな がらも、「活動は子どものために役立っている。地域(学区)と一緒に自分たちの住む街について理解を深める良い機会となった」と 振り返った。

 「『アンチPTA』が増えているが、利己的な態度に見える」と批判したのは城陽市の40代母親。「PTAがなくなれば負担が減る 一方、子どもの学校生活に関心のない保護者が増えるのでは」と疑問を呈した。

任期1年、改革進まず

 活動を見直そうにも高い壁がある。

 小学校のPTA役員を本年度引き受けた京都市伏見区の30代母親は「任期は1年のみ。学校側も旧態依然としていて、改革が進まないまま終わる可能性もある」と不安を打ち明けた。乙訓地域の小学生2人の40代母親は「母親の多くが働く時代。前例踏襲でない活動が必要だが、抽選で選ばれた会長では率先して改革できない」と吐露した。

 学校側からの「押し戻し」も。府内の50代母親は幼稚園の保護者会長を務めた際、運動会などの記念品配りは好みが多様化する今の時代にそぐわないと副園長に進言したが、「例年通りしてほしいと言われた」という経験を明かした。

 上部団体との関係にも意見が寄せられた。高島市の40代母親は、私立幼稚園PTAの全国組織の会合に出席した経験を振り返り、「国会議員がそろってあいさつし、全国から東京に集まっているのに研究発表もそこそこで意見交換や交流もなく、何のための会合か分からなかった」と上部団体の在り方を疑問視した。

 小学校と高校のPTA会長を務めた甲賀市の60代男性は「PTAは本来なら単P(学校単位のPTA)が一番上であり、それを市、県、全国組織が下から支えるべきだ」と訴えた。


教員のPTA加入「当然」根強く

 滋賀県内の小学校に勤務する男性教員から、PTAの退会が認められないことを疑問視する意見が京都新聞社に寄せられた。

 この教員によると、昨年11月、勤務時間外にPTAの会合や活動への参加を強いられることに疑問を感じ、「退会するので手続きを進めてください」と校長に伝えた。しかし、校長は「先生の将来」や保護者からの反発、他の教員とのバランスを挙げるなどして応じなかった。教員は今年3月末に改めて退会の意思を示すPTA会長宛ての書面を提出したが、4月に入ると、教員はPTAの一つの委員会の担当を割り振られていた、という。

 校長に取材すると「他の先生は頑張ってPTAを手伝っており、均等に仕事をしてもらいたいと思った」と説明。他の教員との関係悪化や、退会者が続くことも懸念したと語った。

 ただ、この地域の教育委員会によると、校長はPTAにとっては顧問の立場で、退会承認に関する権限はなく、校長への再取材でこの点を指摘すると「教員に『助言』したつもりだった」と釈明した。

 教員の話では、最近になって校長から「もう会費は徴収しないようにする」と言われたという。一方で、この小学校のPTA規約にはそもそも退会方法を記した項目がないと説明する。教員は「学校現場は残業が多く、多様な意見が認められる働きやすい職場にしたいのに、管理職は意見を真剣に受け取ってくれず壁を感じた」と訴える。

 PTAを巡っては2014年に熊本市立小の保護者が強制加入させられたとして提訴し、入退会自由の任意団体であると確認された。以降、保護者には加入届で意思確認をするなど見直しの動きもあるが、教員に関しては遅れている。

 実際、入会は「教員には意思確認していない」(京都府内の小学校長)とほぼ自動的なのが実情で、退会も「実例を聞いたことがない」(滋賀県内の自治体の教育委員会)。そもそも学校では教員がPTAに加入するのは当然との見方が強い。京都市内の学校関係者は「教員は子どものために保護者と接することが業務だと考えているためPTA加入が慣例となっている」、同市内の小学校長も「教員の場合は退会しようとしても他の教員や保護者の理解が得にくい」と明かす。

 退会が認められないことについて、立命館大法学部の木村和成教授(民法)は「自由に退会できる権利を侵害し、民法の不法行為に当たる可能性がある」と指摘する。「そもそも入会、退会の規定が規約にないのは任意団体として不適切な状態。だから、やめたい時にどこに言えば分からない。特に教員は上下関係が厳しく退会意思を言い出しにくいが、入退会ルールがあれば守ってあげられる」とし、入退会規定がない場合は自分たちで作っていくことも大事だとした。(三村智哉)


教員のPTA加入「当然」根強く

 全国に68ある都道府県・政令指定都市単位のPTA組織を対象に、一部役員を女性に限定するなどの「性別規定」を会則で設けているかどうかを共同通信が調べたところ、3割超に当たる21組織が既に規定を撤廃していた一方で、21組織が現在も規定を維持していることが、分かうた。ジェンダー平等の観点から各地で見直しが進む一方、子育て家庭の代表として母親の意見を重視すべきだとの風潮が根強いことがうかがえた。

 地域単位のPTAでは、会長などの役員が男性で占められるケースがあり、性別規定はこうした事態を避けるために設けられている。女性副会長を1人以上置くと規定しているところが多い。

 共同通信は4月、都道府県と政令市のPTA連合会などにアンケートを実施し、57組織から回答を得た。11組織はホームページなどで公表されている会則を調べた。京都府、京都市、滋賀県は規定を設けていなかった。

 性別規定を撤廃したのは、北海道や宮城、石川、高知、熊本など15道府県と6政令市のPTA。北海道は「子育ては家庭全体で取り組むかのだから」、石川県は「家庭の在り方が多様化し、保護者の価値観も変化したため」と撤廃の理由をそれぞれ説明した。

 規定を残しているのは、19県と2政令市。副会長に男女両方を置くと規定しているところもある。群馬県は、女性のみで構成する「家庭教育委員会」の委員長が常任理事を兼ねるとしており、担当者は「規定がないと男性が多くなり、女性の意見の反映が難しくなる」と説明する。

 規定が残る21組織のうち6組織は「近く変更する」、別の6組織は「変更を検討中」「今後検討する」と回答した。全国組織の日本PTA全国協議会(東京)には、女性理事を1人入れるとの規定があったが、既に変更し、来年から適用する。

撤廃ぱ自然な流れ

 公立小でPTA会長を務めた経験を著書にした専修大の岡田憲治教授(政治学)の話

 一概にPTAといっても地域ごとに内情は違い、必要なルールも異なる。それでも、働き方や子育て環境の最近の変化を考えれば、性別規定が撤廃されるのは自然な流れで、今もそうした規定を設けている組織があることに驚いた。残念ながら望んでPTA役員になる人は少なく、都道府県や政令指定都市単位の組織となればなおさらだ。各役員が任期をやり過ごそうと考えるばかりに、組織改革が遅れてはいないか。性別規定以外にも、時代にそぐわないルールや習わしが残っている可能性はあり、積極的に改めていくべきだろう。

【インサイド】PTA「女性枠」必要?

 全国の都道府県などに設置されたPTAのうち21組織が、今も一部の役員を女性に限定する規定を維持していることが、共同通信の調査で分かった。「時代にそぐわない」と批判的な意見もあるが、関係者からは「男性偏重を防ぐため規定は必要だ」との声も上がる。

 「副会長には女性を1人以上置く」との規定を設けている広島県PTA。担当者は「役員への女性参画を促すため。それがないと男性ばかりになってしまう」と話す。

 香川県PTAの担当者も「以前は父親ばかりが役員を占めていたと聞いている」と性別規定の必要性を説明。一方で「共働きの世帯が多くなり、父母にとらわれるべきでないとの意見も出てきている」と明かす。

 「母親代表」を役員に入れる規定を2021年度撤廃した福島県PTA。事務局長は「母子家庭や父子家庭もあり、施設で育つ子もいる。『母親』『父親』といった表現自体が望ましくないと考えた」と理由を語る。

 ただ、学校単位のPTAでは女性の役員が増えているものの、地域単位では男性ばかりという状況に大きな変化はないという。「会則がなくても女性が参加してくれるのが望ましい形だ。そういうふうになるよう筋力していきたい」と述べた。


PTAのゆくえ インタビュー編

 PTAは近年、入会の強制性や負担の重きを指摘する声が強まり、時代に合った在り方が各地で模索されている。京都市では、市PTA連絡協議会全国組織からの脱退を検討する動きも起き、関係者に問題提起した。PTAの上部団体との関係などについて同志社大政策学部の太田肇教授(組織論)に、入退会について立命館大法学部の木村和成教授(民法)に聞いた。(三村智哉)

上部団体は制度疲労、見直しを

同志社大政策学部 太田肇教授(組織論)

―京都市PTA連絡協議会(市P連)が、日本PTA全国協議会(日P)からの退会を検討した。

 「(上から指示する)トップダウン型の体制が制度疲労している、ということだろう。本来、PTAは保護者が主権者で、意見を下から吸い上げて活動するボトムアップ型の組織。企業や役所はトップダウン型だが、同じようにPTAも上部団体が上意下達の仕組みで動かしている。戦後何もない時はそうせざるを得なかったかもしれないが、見直す機会がなくずるずるときていた。今回そこに一石を投じた意義は大きい」

―日Pは全国大会を各都市で持ち回り開催し、地元PTAの金銭や人員負担の重さが指摘されている。国への要望活動なども会員の承諾なしに行っていたともされる。

 「大規模な全国大会を毎年、各都市に引き受けさせていることに無理がある。学校単位のPTA(単P)の役員選任も同じだが、順番に割り当てることが平等とされるが、適切かは疑問だ。日Pの要望活動も、白紙委任は問題だ。手続きをはっきりと決めておく必要がある。旧態依然とした考え方は見直すべきだろう」

―日Pからの退会は市P連会長の提案だったが、理事40人による投票の結果、反対多数で否決された。

 「多くの役員は任期が1年間のため何事もなく、事を荒立てずやり過ごしがちだ。そのため上部団体との関係や運営の在り方がおかしいと思っても見直されず、課題が残されてきた。今回の件も、組織の中で意見を言っても抑えられるので、単Pや保護者の意見を聞くなどし、世論を味方につけて進めていれば、結果は変わったかもしれない。今回の問題提起をきっかけに草の根から盛り上げる有志が出たり、オピニオンリーダーが先導したり、地方議員が争点化したりしてもいいと思う」

―日Pは国への要望など一定の役割を果たしているとの評価もある。上部団体との関係はどうしたらいいか。

 「PTAは組織の維持や学校のサポートなど役務的な役割と、子どものために意見を出したり交流したりする役割という、性格の異なる役割を一緒に担っているのが問題。だから後者を希望する人も前者の役割に取り込まれる。日本の組織は、中から変えることは難しいので、日Pは国への要望などを行う機関として残しつつ切り離し、子どものために連携が必要なら別のボトムアップ型の上部団体を新設してもいいのでは」

―これからのPTA運営の在り方は。

 「日本の組織で、最も改革が遅れているのがPTAと町内会だ。今や共働きが普通なのに、専業主婦が前提の体制になっている。欧米など海外の保護者組織を調べたことがあるが、基本はボランティアで、日本のような役員就任の強制はなく、自発的に学校と子どもの関係を改善する組織だった。日本のPTAも、趣旨を明確にし、それに基づき活動を判断することが大事だ。その際は『自由参加』『強制は最小』『選択できること』がポイントだ」

―PTA問題の根本には何があるのか。

 「組織と個人の利害は対立するということを、前提にしていないから問題が起きる。日本は『全社一丸となって』などとよく言われるが、個人が自分の権利を主張しないのをいいことに組織が都合良く運営されてきた。物を言わない個人を前提にされるから、PTAや町内会が維持されてきた。個人の本音と懸け離れたところで組織が運営されてきたので、ひずみや不満が出ている。PTAも、仕事や介護など理由がないと役員などを免除されないのはおかしい。最終的には個人の自由だということをもっとみんなで共有する必要がある」

入退会規定 規約にあるべき

立命館大法学部 木村和成教授(民法)

―PTAの入退会のあるべき姿は。

 「団体への入会はまず本人の意思に基づくことが原則。本来、規約には入退会の規定があるべきだが、多くのPTAでは定めていない。そのため、保護者は本人の意思とは別に学校に入学すれば慣習として自動的に加入している。団体への入退会の自由は保障されるべきで、その手続きが規約に定められていないのは不適切だ」

―一部の保護者は鐙貝就任や活動への参加など負担の重さに悩んでいる。

 「入会後に業務の多さや役員への就任などで不満が出ないよう、きちんと説明した上で入会の手続きをすることが大切だ。保護者も業務内容などを理解してから入会すべきであり、その上で入会をすれば、仕事が回ってくるのはやむを得ない。嫌なら入会しなければいいし、退会すればいい。だからこそ、入退会の規定というのは大事になる。結果として退会者が増えれば、業務のスリム化など見直しが進むことにつながるかもしれない」

―退会したくても、できない人もいる。

 「実態として、保護者も教職員も、やめたい時に誰にどう言えばいいか分からないのは問題だ。退会が認められないとすれば、退会の意思決定を侵害するものとして、民法709条の不法行為(人格権侵害)に該当する可能性がある。その場合には慰謝料請求の対象となる。入会の強制も同様だ。基本的に入会・退会に理由は要らない。退会の規定があればそれに沿った手続きを行うだけでよい」

―毎年の役員選任では、できない人に理由を述べさせる「免除の儀式」も問題になっている。

 「プライバシーの公開を強要しているといえるのではないか。知り得た個人情報を誰も管理できない。役員をできないことと、個人情報を公開させることのバランスが取れていない。今まで当たり前と思われてきた慣習が法的に見て問題がないか、よく考えるべきだ」

―PTA非会員の子どもにはPTAの卒業記念品を渡さないなど、会員の子どもと対応に差が出ることも問題視されている。

 「法的には団体に属している人にのみ記念品を渡すなどの行為に問題はないが、学校は教育の場であることを考慮すると子どもたちにとって差別的にもみえる行為は適切ではないかもしれない。ただ非会員への村八分のような対応は、不法行為に当たる」

―これからのPTAの在り方は。

 「PTAに関する全ての問題の根本には入退会規定の不備があるのではないか。長年、退会者など想定されず規定が整備されてこなかったが、この不適切な状況は是正されるべきだ。規約は団体の憲法のようなものなので、構成員で作っていくしかない。自分たちで構成する団体なので、教育界など上から言われてやるのではなく、やめたい人らも含めてみんなで主体的に団体のルールを作っていくことが大事だ」

記者コラム 自分事として関りを

 「もうやりたくない」「なぜ無理やりさせられるのか」。そんな悲鳴や不満を、4月から特集したPTAを取材する中で、何度も聞いた。共働きの増加や少子化で、PTAは時代に合わなくなっている。というより元々あったが隠れていた不適切さが、今になって表に現れているのだろう。

 京都市PTA連絡協議会の会長が先日行った日本PTA全国協議会からの脱退提案は、投票で否決されたものの、昭和の時代から続く上部団体システムが実態に合わなくなっていることを全国に発信した。

 例えば各府県で持ち回り開催する全国大会。毎年8千人規模で、地元PTAは数千万円掛かる経費を数年前から積み立てて用意する。だが全国大会に出席した京都のPTA関係者は「学校単位のPTA(単P)のためになることはなかった」とはっきりと口にした。上部団体は何のためにあるのかという、PTAだけでなく多くの組織に共通する課題を提示した。

 単Pにしても、木村和成立命館大教授の「入退会の規定が規約にないのは不適切」という指摘は重い。入会や退会の規定が規約に定めてあれば、もっと納得した上で入会したり、嫌なら退会したりでき、PTA役員の強制や活動負担の重さに泣いた多くの保護者が救われたはずだ。しかし、全国のPTAで長年、不適切な状態が続き、それが放置されてきた。保護者がそんな問題に気付き、見直すにはハードルが高いだけに、社会教育団体に助言する立場の行政の不作為も問われるのではないか。

 先日、小学校教員がPTAの退会を申し出ても校長が他の教員とのバランスなどを理由に応じなかった事案を取材した際、地元の教育委員会の担当者は「校長として当然のことをした」と平然と語った。個人の自由な意志を尊重しない風土が、人権の尊さを教える教育委員会にも広がっている。PTA改革を進めるには、こうした風土の刷新も必要だろう。

 ある元小学校長はPTAの役割について「教員が保護者と接点を持ち、子どもたちの家庭状況を把握できる」と熱く語った。確かに保護者と学校をつなぐ効果は大きい。ただ子どものしんどさの陰には、親のしんどさがあることが多い。 PTAによって保護者がしんどくなれば本末転倒だ。

 取材を通じて、改革が進むには、PTA会長と学校長の両方のリーダーシップが必要で、その熱量に対する理解の広がりも欠かせないと感じた。未来の保護者たちが苦悩しないためにも、今の保護者たちが自分事として関わり、変えていく姿勢が求められる。


PTA上部組織 存在意義を議論

 国や都道府県、市町村単位などで設置されるPTAの「上部組織」の在り方について考える「京都PTAフォ上フム」(同実行委主催)が10日、京都市内で開かれ、オンライン配信された。全国の市単位のPTA協議会(連合会、市P)長らが改革事例を発表し、府県や全国単位の組織に入る利点が本当にあるのかどうかや、学校単位のPTA(単P)から求められる組織になるために必要なことを考えた。    (三村智哉)

 今年5月、京都市PTA連絡協議会の大森勢津前会長が日本PTA全国協議会(日P)からの退会を提案したが、理事投票で否決された。ただ、これを契機に上部組織について考える動きが全国の市P会長らに広がり、今回に至ったという。そのためフォーラムでは県や全国など、市より「上部」の組織の必要性を問う報告が目立った。

  松山や奈良の理由

 昨年度に愛媛県PTA連合会から退会した松山市小中学校PTA連合会の河崎元前会長は「県Pの資産は1億円以上あるはず。しかし、多くは子どもたちに還元されず、還元されても松山市は他市に比べて子ども1人当たりの金額が少なく、不平等だった」と理由を明かした。その上で上部組織の在り方について「気軽に相談ができ、必要とされる組織でなければならない」と強調した。

 2019年に奈良県PTA協議会から退会した奈良市PTA連合会の岡田由美子事務局長は、背景に分担金の算出方法の不明瞭さやPTA加入に対する姿勢の違いがあったと説明。市Pがすべきことは単Pの支援だとし、「PTAは強制のない組織にする必要がある。うちも研修会などへの動員はしない。やれる人がやれる時にできるPTAに変えていかなければならないと語った。

 堺市PTA協議会の吉原極会長も現在、大阪府PTA協議会や日Pからの退会を検討中で来年1月に判断ずる予定だとし、「京都市Pの動きで目が覚め、改めて上部組織のメリット、デメリットを考えようと思った」と述べた。「自分はPTAが楽しくても、裏では苦しんでいる人がいるかもしれない。もう動員はしない、させない。PTA活動に関するガイドライン作成などで市Pの存在意義を高める活勁を増やしたい」と力を込めた。

   求められる活動は

 上部組織という点では市Pも同じのため、いずれの協議会も時代に合った活動を模索していた。

 川崎市PTA連絡協議会の舘勇紀会長は、協議会の中で役員らの「やらされ感」や活動の形骸化などを課題として感じたため、改めて目的を話し合い、単P活動の適正化や活性化に向けたガイドラインの作成などに収り組んだとした。その上で「目的に立ち返ることが大事。課題は何か共有し、協議会のスケールメリットを生かして解決に進むことが大切だ」と語った。

 横須賀市PTA協議会の櫻井聡会長も、過去に一部の学校でPTA非加入者に対する不公平な扱いが問題になったことから、「PTAは加入が任意であり、有料会員サービスではない。加入・非加入にかかわらず全ての子どもは平等に扱うことを推し進めているとした。「旧来のPTA のスタイルでは疑問や負担を生む。市Pと単Pが連携し、子どものために活動したい」とし、「今必要なのは全国的なボリュームではない」と指 摘した。

 静岡県PTA連絡協議会に加盟する静岡市PTA連絡協議会の大石修会長も「われわれ自身が楽しく活動し、単Pのために何かできるか考えることが一番重要。県Pに所属することで、何をどう還元できるか考えていきたい」と語った。


プロに外注で親の負担減

 仕事や家庭の事情で多忙な保護者が増え、PTA活動は敬遠されがちだ。そんな中、業務の一部をプロに外注して負担を軽減しようという動きに注目が集まっている。

 千葉県流山市の市立小山小学校PTAは今年から、児童の登校を見守る旗当番のシフトを作成する「地区委員」をなくした。約1700人が通う同校では、これまで校区内約30力所の旗当番ポイントを地区委員が機械的に振り分けてきた。

 保護者の自主性を重視し「やらされ感」をなくそうと改革を進める小山小PTAだが「作業が煩雑になり過ぎるので、旗当番では各家庭の希望を考慮できずにいた」(峰松拓毅会長)という。

 そこで頼ったのが、PTAの役員経験者である増島佐和子さんが2020年に立ち上げたPTA専用支援サービス「PTA’S(ピータス)」だ。警備や印刷、IT導入支援など12業種延べ約60社とPTAをつなぐサイトで、すでに全国千以上の組織が登録する。

 小山小PTAはピータスを通じ、川崎市の会社にオリジナルの「旗当番シフト作成ツール」の制作を依頼した。免除や曜日の希望を各家庭から聞き取り、エクセルのスキルがあれば1人でシフトが作れるように。人が足りない日や場所も、他の保護者が手を挙げてくれ、不平等感への不満が出なくなったという。

 PTA業務について、増島さんは「保護者でなくてもいい『作業』と、保護者にしかできない『活動』に分けて考えるべきだ」と語る。例えば、学区内の「安全マップ」を作る場合、危険箇所や不審者情報を子どもから吸い上げ、地図に落とし込むのは地域をよく知る保護者。一方、それらを短時間で質 の高いデザインに仕上げるのはプロに任せるという考え方だ。

 「特別な知識やスキルがなくても、保護者が子どものために何かやってあげたいという気持ちだけで参加できるのが、本来のPTAです」

 業務の外注に抵抗感を抱く人は確かにいるが、それは冷凍食品や家事代行サービスに抱く感情と似ていると増島さん。「楽をすることは悪いことではないし、その先に子どもの学校生活の充実がある。PTAに割く時間をわが子との時間に充てるために使ってほしい」

 旅行大手の近畿日本ツーリストも昨年8月から外注サービスを開始。これまでに約120件の問い合わせがあるといい、担当者は「(現行の)サービス以外にもさまざまなニーズがあると感じている」と語る。

 もちろん外注化が全てを解決するわけではない。まずはPTA自身の変わろうという姿勢が大前提だ。「アウトソージンクは、少ないキーパーソンで組織を動かす仕組みを作るためのツールの一つです」(峰松会長)