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  • 【論点】9月入学
  • 大学無償化中間層も.27
  • 9月入学 来年導入見送り.28
  • 「教育実習に影響」9割.29
  • 9月入学制の議論 拙速懸念.29
  • 学習遅れ解消 目的」どこへ.30
  • 5月30日 「9月入学」 学習遅れ解消 目的」どこへ

     新型コロナウイルス感染症拡大による休校を巡り、政府が可否を検討していた9月入学の早期導入が見送られる方向になった。この間、どのように移行すれば影響が少ないかといった点に注目が集まり、学習遅れの解消という当初の目的から離れていった。慎重な検討を求める各界からの意見を受け、機運は急速にしぼんだ。教育関係者は「この騒ぎは何だったのか」と、ため息をついた。

     「社会を大きく変えるきっかけになる」(4月28日、小池百合子東京都知事)。4月末、地方の首長が次々と導入歓迎の声を上げ、9月入学の議論が一気に活発化した。ただ課題も多いことが広まるにつれ、ムードが変わっていった。

     政府が来年9月実施の場合、保育園や幼稚園の年長組に加えて年中組の一部を新小1とする一斉実施案と、5年で移行する段階的実施案を検討していることが判明。メリットが乏しいのに大きなしわ寄せが及ぶ幼児教育関係者から、猛反発を招いた。

     全日本私立幼稚園連合会は自民党のワーキングチーム(WT)に宛て「全ての子どもに3歳から3年間以上の幼児教育を保障する」と強調し「現段階での拙速な移行に反対」と訴えた。

     導入のメリットとされる学生交流の推進という点にも疑問符が付いた。早稲田大の田中愛治総長は今月18日の自民党WT会合で、冬入学のオーストラリアやニュージランドは各国から多くの留学生を受け入れていると指摘。「日本への留学を増やすには、英語の授業を増やすなどの施策を採るべきだ」と語った。影響は学校にとどまらず、経済界や自治体のシステムなど多方面にわたることの周知も進んだ。留学の促進などの利点がある大学側も、慎重な姿勢を示した。地域の医療、福祉系学部を多く抱える公立大学協会は、学生の卒業が遅れ、地域の人材確保に甚大な影響があると強い懸念を表明。日本私立大学連盟は、学生や大学への支援などが必要で「非常時の名を借りた拙速な動きは、慎まなければならない」と断じた。

     約1ヵ月の“騒動”を経て、来年の導入は見送られそうな情勢だ。萩生田光一文部科学相は「多くの職員がこのことに没頭して他の作業が遅れたという批判は、全く当たらない」と言うが、文科省関係者から「学びの保障を掲げているのに、本末転倒だ」との嘆きも聞こえる。

     全国の学校が続々と再開し、どうしたら子どもの学びを取り戻せるか、試行錯誤が続く。地域によって休校期間が違うことを受け、大学入試日程全体の繰り下げや試験範囲縮小を実施するかどうか決まっておらず、文科省は発表時期を6月中としている。9月入学の早期導入に反対する日本大の末冨芳教授は「早く議論自体をやめてほしい。状況は深刻だ。今は政府を挙げて学びの保障に取り組むべき時だ」と強調した。



    5月29日 京都市長 9月入学制の議論 拙速懸念

     新型コロナウイルスの感染拡大による学校休校の長期化で導入の是非が議論されている「9月入学制」について、京都市の門川大作市長は28日、「この危機の時に、こういう議論がふわっと起こるということに、びっくりした」と述べ、拙速な議論に懸念を示した。

     関西広域連合がウェブ会議システムで行った会合後、出席のために訪れていた京都府庁で報道陣の取材に答えた。

     元市教委職員で、市教育長も務めた門川市長は「緊急事態の時に何をすべきか。まずは子どもの学力保障と心のケアに万全を期すべき」と強調。「いっぺん(入学時期を)ずらすと戻せない。現場の第一線にいる教育関係者の話を聞くべき」と主張した。

     一緒に取材を受けた西脇隆俊知事は「将来的にはぜひとも実現した方が良いと思う」と前向きな姿勢を示した。一方で「学校だけではなく、社会経済に非常に大きな影響を及ぼす」とも指摘し、継続した議論を求めた。


    日本教育学会会長 広田照幸 必要な教育の質向上を

     緊急事態宣言発令中に急浮上した「9月入学」論は、具体案が分かるにつれて慎重な意見が強まってトーンダウンし、来年の導入は見送られそうだ。もう混乱を広げるだけの不毛な議論はやめて、今、必要な教育の質の向上を急ぐべきだ。

     私が会長を務める日本教育学会は、来年9月に一斉実施した場合、国や家庭の負担額は6兆9千億円超に達すると試算している。そんな巨額予算を割くぐらいなら、先にやるべきことがある。

     学校再開後も学年や学級ごとの分散登校が続く。学校への支援が必要なのはこれからだ。少人数で学級を分ければ、人手がかかる。学会は教育予算を年1兆円積み増し、小中高校で教員10万人、学習指導員ら13万人を増員するよう提言している。詳細は学会のサイトに掲載した。文部科学省は小中学校の教員を3100人増員するというが、少なすぎる。思い切って増員してほしい。

     この問題は高校生らのウェブ上での署名活動で火が付き、東京や大阪などの知事の発言で拡大、安倍晋三首相が「前広に検討したい」と表明するに至った。高校生の不安はよく分かる。だが、休校中の学習の遅れによる格差は9月入学では埋まらない。卒業が遅れると困る人々も大勢いる。「早く卒業して家計を助けたい」という高校生の声はなかなか届かない。

     欧米で主流の9月にすれば海外留学が活発になり、国際化が進むという便乗論も疑問だ。留学生が少ないのは、言葉や文化の問題や、企業の雇用慣行など入学時期以外の要素が大きい。

     検討過程で浮かんだ課題を考えよう。文科省は@来年9月の一斉実施A5年かける段階実施―の2案を示した。共に待機児童が発生し、現行制度なら1学年下の子どもの一部が同学年になる。教員や教室の確保が必要で、受験や就職の競争も激しくなる。特に一斉実施案だと、来年は17ヵ月分の子どもが小学校に入学し、この学年の人数は通常の1・4倍となって負担が著しく大きい。

     現行と同じ形で4月に入学し、8月までを0年生とする案も出たが、教育内容は示されず、学童保育の受け皿も足りない。

     どの案も卒業を先延ばししたつけを未就学児に押し付けるだけだ。それより、学習の遅れを取り戻すために教職員を大幅に増やすべきだ。

     感染者が多い首都圏や関西圏に目が行きがちだが、地方も休校が長期化し、手当てが必要なのは同じ。一度勉強が遅れ、格差が広がると、家庭だけではなかなか埋められず、影響は長く続く。学校で個別指導する仕組みを作る必要がある。

     教員は第2波に備えつつ、対面とオンラインの授業を併用する難しい対応を迫られる。同時にカリキュラムも組み直さなければならない。一方、ストレスを抱えた子どもの心のケアも必要だ。。

     教員を支えるため、ボランティアも含めて大勢の大人が学校に入り、印刷や消毒などの雑務を補助しつつ、子どもを見守る態勢があるといい。

     受験生には特別の配慮が要る。入試時期を年度内で遅らせたり、試験範囲から未履修分野を除いたりする検討が必要だ。

     世間を混乱させる議論はやめ、学校を夢や希望をつくり出す場に転換できるよう萩生田光一文科相に求めたい。(談)


    首相の「一斉休校要請」の評価を覆い隠すような「9月入学」論は論外だが、議論の余地はないとは言えない。もちろんこの間の問題の唯一の解決策ではないことは確かだが、これまでの日本の弱点(時には利点とされてきたもの)が露呈していることは見ておく必要がある。例えば「日本型雇用慣行」がそれである。「9月入学」反対論はここのところを議論していないように見える。
    これまで、インバウンドによる都市づくりを目指してきたつけが予算不足となって学校にしわ寄せされている。その結果、再開にあたっての負担がすべて学校にかかっているようにみえる。それゆえに、「まずは子どもの学力保障と心のケア」だとする市長の発言はそのまま受け入れることはできない。


    5月29日 共同通信調査 「教育実習に影響」9割

     教員免許取得を卒業要件としている国立の教員養成系大学・学部44校のうち、新型コロナウイルス感染拡大によって、学生の教育実習が延期されるなどの影響を受けているとした大学は、全体の9割を占める40校に上ることが28日、共同通信の調べで分かった。同じく小中学校の免許取得に必要な介護等体験についても、9割近くが影響が出ていると回答。  「教員の卵」の育成に不安が広がっている実態が浮かんだ。  調査は5月12〜19日に実施し、41校が回答。このうち、教育実習については弘前大、岐阜大、京都教育大、琉球大など34校が「大きな影響が出ている」と回答し、6校が「やや影響が出ている」とした。「あまり影響は出ていない」 「その他」は1校ずつだった。  自由記述で影響の具体的な内容を尋ねた結果では、ほぼ全校が、実習の受け入れ先となる小中学校などの休校長期化によって、春に予定していた教育実習が9月以降に延期になったとした。  さらに「本年度の受け入れを取りやめる連絡も届いている」「受け入れ不可となった場合、別の受け入れ先の確保は困難」とした回答もあり、免許取得そのものが難しくなる可能性を示唆。秋以降に実習が集中することで日程調整が難しくなることや、自治体による採用試験の混乱を懸念する意見もあった。  社会福祉施設などで実施する介護等体験については、埼玉大、静岡大、兵庫教育大、熊本大など32校が「大きな影響が出ている」と回答。「やや影響が出ている」は7校、「あまり影響は出ていない」は2校で。「その他」が1校だった。  教育実習と同様、秋以降へ日程を変更したり、来年度以降に延期したりするなどの対応を進める大学が多い一方、「希望者全員が実施できないことが懸念される」という大学があった。重症化リスクが高い高齢者施設へ学生を派遣することについて「実施するかどうかの判断が難しい」と悩む声も上がった。  文部科学省は通知で、教育実習や介護等体験を必要に応じて秋以降とすることや、教育実習は一部を授業で代替することなどで期間を短縮できるとした。この対応には、9校が「十分である」とした一方で、19校が「十分ではない」と回答。特に介護等体験の実施が不透明だとし、一部免除や卒業後の体験でも可能とするといった弾力的な運用を求める声が目立った。



    5月28日 9月入学 来年導入見送り

     9月入学制の来年からの導入を巡り、自民、公明両党内で見送り論が大勢となった。安倍晋三首相が一部の知事の積極論に押される形で有力な選択肢と提起したが、学校現場を預かる地方自治体で反対意見が噴出。政権には議論を引っ張る船頭役が不在で、国民による後押しも乏しかった。世論の動向をにらみ、導入も一時視野に入れた政権の空騒ぎぷりだけが浮き彫りになった。

     「緊急事態宣言が全国で解除され、世論に微妙な変化が生じている」。9月入学制を検討する27日の自民党ワーキングチーム(WT)会合で、座長の柴山昌彦前文部科学相はこう強調した。出席議員からは、直近の導入を見送るべきだとする提言案に賛同する声が大半を占めた。

     首相が9月入学制に言及したのは4月末の国会審議。だが実現への八ードルが高いことは見越していた。「文科省や大学当局は反対で厳しい。世論を見極める」と周囲に語り、側近からも「時間がたてば、慎重意見が増える」との報告が上がっていた。

     政府関係者は、第1次政権で成し遂げた教育基本法の改正と異なり「首相の9月入学への熱意はあまり感じられなかった」と解説する。新型コロナウイルス対応を巡る政府の迷走ぷりへの批判が相次ぐ中で、目先を変えるために飛び付いたとの見 方もささやかれた。

     首相側近が予見した通り、慎重論は日を追うごとに拡大した。共同通信社が今月8〜10日に実施した世論調査では、9月入学制への賛成は33・3%止まり。「どちらとも言えない」が46・3%と最多で、国民の圧倒的支持は期待できない状況だった。

     自民WTも慎重論に傾く中、25日の会合に参加した全国市長会は、市区長の約8割が慎重か反対とする調査結果を報告した。緊急事態宣言解除で学校再開の動きが加速し、市長らの声が「決定打になった」(閣僚経験者)のは間違いない。

     側近らを通じて党内の反対論の盛り上がりを知った首相は、25日の会見で「拙速は避けなければならない」と軌道修正。首相に耳打ちしていた自民議員の一人は「官邸が前のめりにならないよう、ブレーキをかけている」と語った。早期撤退を訴えてきた自民幹部は「この騒ぎは何だったのか」と振り返った。


    自公が休校対策案 学年末1ヵ月延長

     自民、公明両党は27日新型コロナウイルス感染による休校長期化を受けた「学びの保障」対策として各学校の2020年度の学年末を2週間〜1力月程度延長する案をそれぞれまとめた。9月入学制に関する党提言の原案に盛り込んだ。入試の不安に対応するため、大学入学共通テストなどの実施時期も2週間〜1ヵ月程度遅らせるべきだとした。

     自民案は「学校設置者の判断で、本年度を一定期間延長する特例措置を検討」と要請。長期休暇や土曜の活用により、来年度は3月末で終えられると指摘した。


    「安部1強」政治が終わりつつあるとの印象をますます強くする。看板の架け替えで政権を維持してきた「神通力」がもはや通用しないということだろう。「学年末1ヵ月延長」論はそれなりの対策なのだろうが、直ちに首肯することもできない。実際高3の3学期は2月いっぱいで授業が終わるのが通常。ひと月卒業が遅れることになれば、高卒で就職を希望する生徒への対応が必要になる。


    5月27 政府 大学無償化中間層も

     少子化対策の指針となる、政府の「第4次少子化社会対策大綱」最終案で、現在は低所得世帯が対象となっている大学などの高等教育無償化制度を中間所得世帯の学生にも拡大するよう求めることが26日、分かった。29日にも閣議決定する。

     4月から始まった高等教育無償化制度について「着実に実施し、中間所得層のアクセスの機会均等について検討する」と明記した。さらに子どもが多い世帯に配慮する仕組みにすることも求めた。案ではこのほか、子育ての負担軽減の観点から、妊娠・出産時の経済的支援を提言した。


    コロナの時代とは無縁であった少子化対策だったが、今後は社会保障のあり方を根本的に考えなくてはならなくなる。高等教育の無償化も「所得による線引き」が有効なのかどうかも検討される必要がでてくるのではないか。


    5月26日 政府 小6、中3の授業支援に教員を加配へ

     新型コロナウイルスの影響による休校の長期化を受け、政府は、感染リスクの高い地域の小中学校を対象に3100人の教員を加配する方針を固めた。最終学年の小学6年と中学3年を優先的に登校させつつ感染リスクを回避するには少人数授業が必要になるため加配分を充てる。退職教員などの活用を想定している。27日に閣議決定される見通しの今年度の2次補正予算案に関連経費を計上する。

     文部科学省は22日に全国の教育委員会などに示したマニュアルで、感染リスクが高い地域の学校では、子ども同士の間隔をできれば2メートル確保するよう求めた。一方、今年度中に必要な学習内容を終えることが難しい場合、翌年度に繰り越すことも特例的に認めたが、卒業を控える小6と中3は難しい。今後再び感染リスクが高まった地域でも最終学年の子どもが継続的に登校して授業を受けられるようにするには学級を二つに分けるなどの少人数編成が必要になることから加配教員を配置する。

     さらに、休校の影響で学習内容の定着に課題を抱えている子どもを対象に補習などをするため全国の学校に6万1200人の学習指導員を追加で配置する。教材の印刷や保護者への連絡業務などを手伝う「スクール・サポート・スタッフ」も2万600人増やす。いずれも退職教員や学習塾講師、大学生などの起用を想定し、一連の人材配置に必要な費用として総額310億円を見込んでいる。

     このほか、各学校の実情に即した感染防止対策や子どもの学習保障の取り組みを進めてもらう経費として、すべての小中学校や高校、特別支援学校などに1校当たり100万〜300万円程度を上限に支給する。想定しているのは、消毒液や非接触型体温計などの保健衛生用品の購入▽集団での検温に必要なサーモグラフィーの購入▽家庭学習用教材の購入▽空き教室を使った授業実施に必要な備品の購入――など。校長の判断で柔軟に使い道を決められるような仕組みにするという。(毎日新聞)


    ようやく2次補正で具体的な学校対策の費用が計上されることになった。遅きに失した感はないでもないが、とりあえずは歓迎すべきものだろう。「3密」対策として教室以外のスペースを使わざるを得ない学校もある。そうしたところにも「加配」であるにせよ教員増は必要。


    5月26日 授業再開急ぎ足 児童負担懸念

    新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が25日に全面解除され、6月には学校再開の動きが全都道府県に広がる見通しになった。夏休みの短縮や土曜授業、行事の見直しー。休校の遅れを取り戻すため、学校現場は急ぎ足での授業展開を迫られるが、子どもの負担が増す懸念がある。グループ活動など対話的な学びは難しく、新たな指導の在り方への模索も求められる。

     「学校が始まると言っても、すぐ通常通りとはいかない。正直言って、授業時間の確保はもう難しい」。東京都内の公立小の男性校長はため息をつく。当面は、一つのクラスを2分割し、午前に通学する班と午後の班に分ける方針だ。

     文部科学省は解決策として、数年をかけ、学年をまたいで学習の遅れを解消しても良いとしている。最終学年は除くとしているが、校長は「6年生もカバーできない部分があれば、中学への引き継ぎも考えなければならない」と危機感をあらわにする。

     ただ、学習内容を次の学年に繰り越すことには問題もある。ある中堅教員は「学校によって進捗が異なれば、転校する家庭が困る。子どものことを考えるなら、学年内に終わらせるのが筋だ」とくぎを刺す。

     近畿地方の30代の男性教員が勤務する公立小では、夏休みを短縮し、週3回程度は7時間目も実施する予定だ。「植物の観察など季節が合わない学習や、宿泊行事は中止になりそうだ。そこまでやればぎりぎり間に合う」という。

     授業のスピードを速める場面も想定されるが、休校中の学びは家庭環境などに左右され、学力の差は広がっている。この教員は「授業について行けないケースもあるだろう。子どもに合わせて授業計画を変えていくほかなく、現時点で見通しはつかない」と語る。

     何よりネックなのは、夏休みや学校行事がなくなることで、子どものストレスが増すことだ。「しんどい学校生活になるのは間違いない。学習面だけでなく、精神面のケアも必要で、教える側も不安がある」

     再開後も密閉、密集、密接の「3密」を避けるための配慮が欠かせず、指導方法は限定される。例えば、複数人で取り組む実験や、つばが飛ぶ合唱などは避ける学校が多いとみられる。

     小学校では今春から、新学習指導要領が実施された。従来のように教員が黒板の前から一方的に教え込むのでなく、子ども同士が対話などを通じて主体的に学び合う授業を目指しているが、学校関係者からは「感染リスクがあり、実施は難しい」との声が強い。

     上智大の沢田稔教授。(教育学)は「対話的な学びで重要なのは他者の意見も踏まえて自分の主張をつくっていくことだ。近距離で話せなくとも、意見を書いたり、タブレットを利用したりして意見交換する方法はないか、知恵を絞るべきだ」と指摘する。

     授業時間の確保については「残る期間で教科書の全ベージを満遍なく終わらせようとするのは教員、子ども双方にとって負担だ。学習範囲を網羅するとしても、指導要領上必須の項目に重点化し、扱いに軽重をつけるべきだ」と強調した。


    もともと学習指導要領は大綱的基準だとされてきた。「9月入学」という大鉈を振るうような議論がある中で、「教科書を終えなければならない」との発想はどうしたものだろうか。いずれにして「第2波・第3波」を想定するなら、人材の確保が難しいことはよくわかるが教員増で対応せざるをえないだろう。


    5月26日 首相会見 9月入学「拙速避ける」

     安倍晋三首相は25日の記者会見で、新型コロナウイルスの感染拡大による学校休校の長期化を受けて、政府が導入可否を検 討している「9月入学制」について「私自身は有力な選択肢の一つと考えるが、慎重に検討していきたい。拙速は避けなけれ ばならない」と表明した。新型コロナへの政府対応に関しては「まだ検証の段階ではない」と言明。当面は事態収束に尽力し検証作業は後になるとの認識を示した。

     9月入学に絡み「自民党でいろんな議論、極めて慎重な議論もある。学校再開の状況など、社会全体の影響を見極める」と説明した。コロナ対応の検証時期については「おおむね収束となってきたがまだ油断もできないし、検証する段階ではない。事態が収束した段階だ」と述べた。検証の対象は、医療提供やPCR検査などの体制に加え「全体の政治判断も含む」と語った。

     国民に1人に10万円を配る「特別定額給付金」の支給が遅れていることについて、IT化が十分進んでいないことなどを挙げ「真剣に反省しなければならない」と語った。


    いつもながら首相の言葉に全くの信頼性がない。「9月入学」論も結局は政権アピールにほかならなかったのか。文科省内での作業にとられた時間はおそらく膨大なものだっただろうし、その分「一斉休校」の総括は置き去りなったと思える。このちぐはぐさはすでにレイムダック状態。緊急事態解除の後にも「アベノマスク」が届かないのは象徴的。


    5月25日 市教委 オンライン学習 公立で

     新型コロナウイルスの感染拡大を受け休校中の京都府内の公立校で、オンラインでの学習支援や指導が始まりつつある。私立と比べて遅れていたが、学校の再開後も分散登校や再休校となれば家庭学習の重要性は継続するため関心が高まっている。ただ導入状況の違いで教育を受ける機会に格差が生じることを懸念する識者もいる。

     「先生は大型連休中、苦手な料理に挑戦していましたよ」。8日、京都市左京区の岩倉北小で、テレビ会議アプリ「Zoom(ズーム)」を使った昼食会が行われた。児童45人が自宅から参加し、学校の教員らと画面を通して昼食を食べながら交流した。

     後日には高学年や低学年ごとの昼食会も催した。今後は学級活動などにまで広げたいといい、三浦清孝校長は「子どもたちが担任の先生と会えたのは大きかった。学びが子どもたちに届いていない今、通信環境が各家庭でそろっていないからやらないのでなく、まずやってみることが大事だと考えた」と話す。

     オンラインでの学習や指導は市教育委員会が推進している。以前は家庭によって通信環境に差があることから導入には慎重だったが、4月に入り休校が長引く見込みとなり、家庭での学習や生活を支援するため推進方針に転換。同月下旬には、教員個人によるズームのアカウント取得や動画投稿サイト「ユーチューブ」の活用を解禁した。

     現在では各小中学校がズームを 使った健康観察や学習相談、教員が登場する動画の配信などを行う。市教委は「前学年の復習であればプリントなどで対応できたが、新年度になり次の段階に移る必要があった。できることからしてほしいと考えた」(学校指導課)とする。

     ただ大半はズームなどを使った「オンライン授業」までは行っていない。一部の私立学校では導入されるものの「公立では児童全員が同じ環境で行うことが大事だが、現段階では難しい」(三浦校長)という。さらに、「どう評価につなげるかが課題として残る」(市教委)ため、現時点では双方向のやりとりは児童生徒の顔合わせ程度にとどめている学校が多い。

     とはいえ学校現場では感染拡大の第2波、第3波による再休校も見据えており、オンラインの授業も検討はしている。三浦校長も「次に休校となれば学びを遅らせるわけにはいかず、ハード面さえ整えば授業形式のオンライン学習も行っていきたい」と語る。

     国もこの機に情報通信技術(ICT)を活用した教育を普及させようと、GIGA(ギガ)スクール構想として1人1台のパソコン端末整備を目指す。京都市教委は5月議会に提案した2020年度一般会計補正予算案で3人に2台程度を配備する経費として26億円を組んだ。ただ全国で教育用や業務用で端末の需要は高まってお り、学校にいつ届くかは未定だ。

     同支社大の田中宏樹教授は(公共経済学)は「休校が長引いて家庭学習か中心になると塾や私学など有償教育を受けているかどうかで学習に差がつく状況になっている。特に低学年など本人の努力以外のところで差がつくことはよくない。スタートラインとしての教育を受ける機会は均等にすべきで、オンライン学習でもそれをどう担保するかが大事だ。税金や人材を活用したり、民間事業者に協力を求めたりして対応を考えるべきだ」と指摘する。


    Zoomなどの双方向のオンラインツールは確かに便利ではある。ただ真剣に参加しようとすると疲労感は相当なものがある。子どもがどれほど真剣に参加しているのかは、教室と同様に不確かではあるのだが。ハード面の条件が整ったとしてもそれだけで均等な教育機会を保障したことにはならないだろう。「オンライン授業」が可能な家庭とそうでない家庭とがあることを踏まえ分散登校などのオフラインとをどのように組み合わせるかという課題が生まれてる。


    5月24日 虐待見過ごし 懸念

     新型コロナウイルスの影響で子どもたちが家庭で過ごす時間が長くなり、児童虐待が見過ごされる危険性が高まっている。長引く休校や外出自粛で、学校や地域の目が届きにくくなっているためだ。相談件数が減っている自治体もあり、潜在化を懸念する声が上がる。

     「4月中旬以降、訪問先の子どもが急に『もう来んといて』と言うようになった。部屋の奥からは『誰や』という男性の声がした」。大阪市の子ども食堂「しま☆ルーム」の代表、福井潤一郎さん(64)は心配そうに話す。

     福井さんはコロナの感染防止のため食堂を休止する代わりに、2月末から見守りを兼ねて弁当の宅配や活動拠点での配布を続けている。食堂に通う子の約8割が外国にルーツを持ち、親のほとんどは繁華街の飲食店で働く。店の休業で経済的に厳しくなった状況の家庭が多い。

     訪問を断られた子どもに、外で見かけた際に声を掛けると、母親の交際相手が家にいるようになり「知らんやつを家に入れるな」と言われたという。福井さんは「収入がない状態で親も子もずっと家にいる状態が長期間になり、訪問する先々でいらいらしている様子が見えるようになってきた」と危機感を募らせる。

     厚生労働省のまとめでは、児童相談所の虐待対応件数は3月に全国平均で前年同月に比べ12%増えた。ただ都道府県ごとに見ると、21道県では減少していた。15%増の大阪府内でも、大阪市は24%減、堺市も16%減と市町村によって傾向か異なる。

     厚労省は「自治体によって集計方法に違いがあるため単純には比較できず、コロナとの因果関係は一概に判断できない」とするが、大阪市の担当者は「休校になり、学校からの相談が減ったことが要因になっている可能性がある」と推測する。

     多くの地域で緊急事態宣言解除された今後を警戒する声もある。岡山県の担当者は2018年7月の西日本豪雨を振り返り「被災直後より復興期の方が、たまったストレスを吐き出す形で虐待に向かうケースが見られた」と指摘。「今回は経済的な損害が生活面に表れるにつれ、虐待の可能性が高まる」と気を引き締める。

     各地で学校再開の動きが広がるが、元児童相談所長でNPO法人「児童虐待防止協会」の津崎哲郎理事長は「虐待した親は傷を見せないため子どもを登校させない傾向がある。そうした児童がいないか学校などで注意する必要がある」と、きめ細かい目配りを求めている。


    改めて学校が学力保障だけの場ではないことがわかる。かつての人権教育の実践が積み上げてきたものを見直してみることを始める必要があるような気がする。同和行政の終結と同時にほとんど総括もなく同和教育をやめてしまった自治体も多い。けれども蓄積された人権感覚も同時に放棄してしまったのではあまりにも寂しいとは言えないだろうか。


    5月23日 文科省 感染状況3区分で対策を

     新型コロナウイルス感染症による休校から再開する学校が相次いでいることを受け、文部科字省は22日、学校が取り組むべき衛生管理マニュアルを作り、全国の都道府県教育委員会などに送った。感染状況で3レベルに分け、学校ごとに対応を決めるよう要請。状況が落ち着いている地域でも、1メートルを目安に子ども同士の間隔を設けるよう求めた。

     政府の専門家会議は都道府県を「特定警戒」と「感染拡大注意」「感染観察」の三つに区分。文科省は特定警戒相当の地域をレベル3、感染拡大注意と感染観察でも経路不明の感染者がいる場合などをレベル2、それ以外をレベル1とした。

     これまで、おおむね都道府県ごとに休校の有無が判断されてきたが、文科省は教委に、自治体の保健担当部署などと連携し、通学や教職員の通勤範囲を考慮して、より小さな地域の状況を把握するよう要請。学校ごとの対応を促した。

     レベル3、2の場合、分散登校などを活用して登校する子どもを減らし、教室では可能な限り2メートル(最低1メートル)、子ども同士の距離を取るとした。レベル1は1メートルを目安に、換気などを組み合わせて「3密」を防ぐよう要請した。

     学校では常にマスク着用が望ましいとする一方、熱中症の恐れが大きい時や体育では不要とした。長時間、近距離のグループワークや室内の合唱などは特にリスクが高いとも指摘。レベル3では行わないこととした。

     部活動もレベル3では、個人や少人数で実施し、短時間に限定。給食などでの感染予防策もレベルに応じて提示した。

     萩生田光一文科相は22日の記者会見で 「学校設置者は一切気を緩めることなく、新しい生活様式を学校に導入し、リスクを低減する必要がある」と述べた。


    仮に30人学級程度の児童・生徒が在籍しているとして、1メートルの間隔をとって座席を配置することが可能なのだろうか?ちなみに教室は9メートル×10メートルの広さである。なにもない教室では1メートル間隔で72、2メートル間隔では20のポイントが取れるが、現実的ではないだろう。現場での工夫には限界がある。やはり文科省のマニュアル通りの運営をするには、9月新学期かどうか別にしても速やかな教員増が必要。

    5月23日 日本教育学会 試算「利点少ない」

     日本教育学会は22日、新型コロナウイルスの影響による休校の長期化を受けて政府が導入の可否を検討する9月入学制について、来年9月に通常の1・4倍の新小1が入学する形で実施した場合、国や家庭の負担総額が6兆9千億円超に達するとの試算を公表した。

     9月入学制の課題をまとめた提言の中で示した。提言は、制度の移行には巨額な財政支出などが必要で社会の混乱を招き、メリットとされる国際化の促進にも小さな効果しか望めないと指摘。教育予算を年1兆円分積み増して小中高の教員の10万人増などを実現し、教育の質の向上を図ることを優先すべきだとした。

     同学会の広田照幸会長は文部科学省で記者会見し「目の前の学校や子どもが大変な状況にあるのに、9月入学制を議論している場合ではない」と訴えた。

     試算の内訳では、来年9月に2014年4月2日〜15年9月1日生まれが一緒に小学校に入学する形を取った場合、この世代に対応した教員増が小中高で必要になることなどから、約1兆8160億円かかる。さらに施設の整備費は別に必要になるとした。

     私立学校は来年8月まで新入生が入らなくなるため学費の穴埋めが必要となり、総額は最大2兆5700億円に上る。


    教育予算の上積みによる教員増は必要だが、9月入学のデメリットを試算しただけでは教育学会としての意味はない。9月入学を求める子どもや親の不安を解消する手立てを示す必要がある。少なくともその不安の一つとなっている「学力」をどう考えるかが、入試の見直しを含めて、喫緊の課題ではないか。


    5月22日 留学生現金給付 成績上位限定は「差別」の声

      新型コロナウイルスの影響で困窮する学生らに対する最大20万円の現金給付を巡り、文部科学省が外国人留学生のみに「成績上位3割」などの厳格な要件を定めた問題で、学費減額などを求める学生団体メンバーからは21日、「完全な差別だ」との声が上がった。ツイッター上でも「文科省は外国人留学生全員に現金給付しろ」といったハッシユタグ(検索目印)を付けた投稿が相次いだ。  成績要件は、優秀な留学生を選抜する給付型奨学金の受給基準を流用したことも文科省への取材で判明。アルバイト収入の減少などで学業の継続が困難な学生を選ぶ基準として適当かどうかを問う声が強まりそうだ。  成績要件は、大学や日本語教育機関などに在籍する私費留学生を対象にした日本学生支援機構の給付型奨学金「留学生受入れ促進プログラム」などで設定されているもの。応募者には、大学などで単位ごとに付けられた「優・良・可・不可」などの成績をそれぞれ3〜Oポイントに換算し、前年度の平均値(成績評価係数)が2・30以上であることを求めている。文科省によると、各校の上位25〜30%程度に当たる。  文科省は日本人学生に対しても、既存の奨学金制度を利用していることや、今後利用を予定していることを求めている。例として成績上位者が対象の日本学生支援機構の第1種奨学金などを挙げるが、同時に各種の民間奨学金などでも認めると明記。留学生に課せられるような厳しい成績要件は事実上ない。  最終的な給付対象者は、留学生も日本人学生も所属する大学などが判断する。文科省が示した要件を完全には満たさなくてもよいとされるが、学生団体「高等教育無償化プロジェクトFREE」の事務局長で東洋大3年の斉藤皐稀さんは「留学生も同じように困窮している中、日本人にはない成績要件をつけた。政府は留学生を呼び込む政策をとってきたのに、都合が悪くなると切り捨てるのか。国際問題になりかねず、要件を撤廃してほしい」と批判している。


    「留学生30万人計画」をあげて大勢の留学生を呼び込んでおいて今度は切り捨て、と映るようなハードル設定は理解できない。この間の「給付」が常に線引きのもとで行われよとしているのは、この国の福祉の根本的な姿勢かもしれない。そして、それにかかる行政費用の多さが問題にならないのも不思議。


    5月22日 スポーツ庁 体育授業はマスク不要

     スポーツ庁は21日、学校の体育の授業で、新型コロナウィルス対策のためのマスク着用は不要との事務連絡を全国の教育委員会などに出した。子ども同士の間隔を十分確保するなどの感染防止策は必要とした。

     体育時のマスク着用を巡っては、大分県教委が着用を求める通知を出したが、中国でマスクを着けた中学生が突然死する事故が相次いだことを受けて撤回している。

     事務連絡では、運動時のマスク着用で十分な呼吸ができなくなったり、熱中症になったりするリスクが指摘されているとし、体育の授業での着用は必要ないと明記。同時に、感染を防ぐために可能な限り屋外で実施するほか、不必要な会話は避け、授業前後の手洗いも求めた。

     子ども同士が密集する運動や、近距離で組み合ったり接触したりする場面が多い運動は、地域の感染状況から安全な実施が困難だと判断すれば、当面行わないこととした。体育以外の学校教育活動では、特に近距離での会話や発声が必要な場面でマスクを着けるのが適切だとした。



    5月21日 政府試算 9月入学 経費5兆円

     新型コロナウイルスの影響による休校の長期化を受けて導入の可否を検討している9月入学制を巡り、政府が移行にかかる経費について、少なくとも5兆円規模になるとの試算をまとめていたことが20日、関係者への取材で分かった。文部科学省が他省庁への聞き取りを踏まえて算出した。大まかな費用であり、精査が必要としている。実際に導入すれば影響は社会全体に及び、経費がさらに膨らむ可能性がある。

     15日の衆院文科委員会で、文科省幹部は新学年の始まりを4月から9月へ延ばした場合、小学生から高校生までの子どもを持つ家庭の追加負担の総額が2兆5千億円に上ると答弁。大学など高等教育段階の負担は1兆4千億円増えると明らかにした。

     文科省はこの計3兆9千億円に加え、教職員の人件費や幼児教育費の増加を見込んでいる。具体的には、来年9月に新小学1年生として、従来なら再来年4月に入るはずだった子どもの一部を含め、前後の学年の1・4倍となる子どもを迎えた場合、教職員を増やす必要があり、1年間で1300億円かかるとした。

     公立小の教室などの整備費としては、500億〜2500億円を想定。この学年が中3になるまで計9年間、同程度の人件費がかかり、中学などでも設備投資が必要と見込んでいる。

     また、従来なら来年4月に新小―となるはずの子どもの通園が続く幼稚園では、人件費やスペースの確保などのため、1100億円かかると見通した。9月入学制が実現すれば、学校のスケジュールが4月始まりの会計年度とずれ。自治体は大規模なシステム改修が必須となる。改修は細部に及ぷとみられるが、現時点で費用の算定は難しいとし、試算に入れていない。


    教職員の人件費が膨らむとの試算でもある。しかし、この間定数改善の要求を退け、実質的には教職員の削減を行ってきた。仮に30人学級が実現されていたなら、いわゆる「3密」を避けられるような学級運営が可能だったかもしれない。また「一斉休校」という人身御供を出さなくてもよかったかもしれない。「9月新学期」論は生煮えであることは理解できるが、政策の失敗を糊塗する形での否定論はいただけない。


    5月19日 第三者委報告書 やまゆり園に「虐待疑い」

     神奈川県は18日、2016年7月に殺傷事件が起きた相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」の運営実態に関し、「一部の利用者に虐待の疑いが極めて強い行為が長期間行われていた」とする第三者委員会の報告書を公表した。

     ただ新型コロナウイルスの影響で、県が運営を委託する「社会福祉法人かながわ共同会」に聞き取りできず、報告書は資料や記録を基に取りまとめた。県は7月に検討部会を設け、やまゆり園を含む県立障害者施設に対する支援の在り方の改善に取り組む。

     障害者虐待防止法で正当な理由なしに身体拘束することを虐待としているが、報告書では、見守りが困難として身体拘束したケースを確認。また、身体拘束の際に「切迫性」「非代替性」「一時性」の全てを満たすことが条件にもかかわらず、運営法人が一つでも該当すればよいと認識していたとした。利用者の居室を24時間施錠していたことも明らかになった。

     県に対しても、運営法人へのモニタリングで「利用者の状況や支援の質を把握し、改善しようとする姿勢が乏しかった」と批判。地域住民など外部の意見を運営に生かすべきだと提案した。

     報告書公表を受け、かながわ共同会の草光純二理事長は「利用者や家族に信頼される支援を目指す」とのコメントを発表した。身体拘束の3要件を厳守しなかったことは認め「再発防止に取り組む」とする一方で、居室の24時間施錠については「食事、トイレ、入浴時には開錠しており、事実ではない」と反論した。


    植松死刑囚が起こした殺傷事件の裁判はすでに終結している数字が、事件の全容が明らかになったとはいえない。なぜ植松が「障害者は不幸を作り出すことしかできない」という考えを持つに至ったのかはわからないままだ。問題の解決を「個々の内なる優性思想の克服」だとする向きもあるが、違和感を覚える。障害者への処遇の現実というやまゆり園の環境が植松死刑囚に与えた影響が大きいのではないかと思える。報告書はその一端を伝えているのかもしれない。


    5月18日 文科省 9月入学小1人数1.4倍も

     新型コロナウイルスの感染拡大による休校長期化を踏まえ、導入是非が検討されている9月入学制について、文部科学省が主要な課 題をまとめたことが17日、関係者への取材で分かった。来秋から実施した場合新小学1年生は前後の学年に比べて1・4倍の140万人になると想定。将来的に入試や就職が「狭き門」となる。このほか、中高・大学など全学年の卒業が遅れ企業が人手不足に陥る恐れがあると指摘した。

     影響は社会全体に及び、学校教育法の他、子ども向けの支援を言む生活保護法など、改正が必要な法律は少なくとも33本に上ること も判明。社会全体の変革が求められ、大きな財政支出が伴うことが分かった。文科省が他省庁からも意見を募り、課題を洗い出した。

     導入初年度に9月入学へ全面移行した場合、新小1は来年4月に入るはずだった約100万人と、再来年4月に入学予定だった子どもの一部約40万人。新小1以外の小中高、大学などの在校生は現在の在籍学年が延びる。

     厚生労働省は来年4〜8月、小学校入学を待ち、保育園に在籍する子どもは約50万人に上ると試算。放課後児童クラブ(学童)で預かる子どもが約20万人増えるとした。

     文科省の資料は、学校などのスペースや教員、保育士が不足し、新たに入園予定の幼児が待機児童となる恐れがあると指摘。これらを避けるため、入園・卒園・入学の時期を1カ月ずつずらし、5年かけて9月入学への完全移行を目指す案なども示した。

     各学校の卒業時期が繰り下がることから、複数の省庁が、就職への影響を課題に挙げた。人事院や総務省は公務員の欠員を懸念し、厚労省は医療従事者の資格取得や臨床研修開始が遅れ、スタッフの欠員が生じる恐れがあるとした。

     移行によって、追加の教育費用がかかり、社会に出るのが遅れて生涯の収入が減る可能性もある。保護者らから国への補修を求める声が上がることも想定している。

     就学の有無で支給額が変わる児童手当など公的支援制度の改正も必須となり、各省庁は大規模なシステム改修を迫られる。着物やはかまによる卒業式・入学式といった文化が損なわれる可能性も指摘されている。


    「9月入学」についての検討資料は文科省には豊富にあるとのこと。それにしても議論が始まってからの文科省の対応がすばやい事に驚く。反面、この約3月に及ぶ休校の対策があまりにも遅い事にも驚かざるを得ない。この間の政治的な責任を「真摯に受け止め」的な上滑りの言葉ではなくどう総括するのかを文科省は、首相に進言すべきではないのか。少なくとも教員の定数改善を含めた教育環境を整えることが必要だろう。


    5月17日 「9月入学を」受験生切実

     「受験生です。9月入学を強く求めます」。京都新聞社の双方向型報道「読者に応える」のLINEに、高校3年の女子生徒(17)から痛切なメッセージが届いた。京都府内は新型コロナウイルスの感染拡大による休校が続き、学習に遅れが出ているが、他県で通学を再開したところもある。受験生の間で格差が開かないよう、9月入学で解消してほしいという。だが、9月入学は社会への影響が大きく、賛否両論ある。受験の不公平が生じさせないためにはどうすればいいか。

     女子生徒は宇治市在住で、公立高校で学んでいる。通学先は4月上旬に始業式を開いて以降今なお休校が続く。自宅での学習を支援するため、高校はプリントなどの課題を郵送で届けているほか、教員が授業の勤画を配信している。それでも、女子生徒は教室での授業に比べると学習の理解に差があることを実感し、「10月で3年の課程を終え、その後で受験勉強に専念するプランは難しくなった」と考えている。

     一方、一部の私立校でオンライン授業の導入が進み、感染者が少ない他県の高校は授業を再開した。進学校の中には2年の時点で3年のカリキュラムを先取りしているところもあり、多くの浪人生は受験勉強に集中できる。ただでさえ、本年度の受験は大学入試センター試験から大学入学共通テストへの切り替え時期になるだけに、「どんどん差が開いている」と焦りが募る。

     そんな状況で浮上したのが9月入学。一部の知事から、学習の遅れを取り戻せ、秋入学が主流の欧米への留学もしやすくなると導入論が沸き起こると、安倍晋三首相も「前広に検討する」と表明した。女子生徒も「9月入学になれば、休校で生じた2カ月の学習の遅れを取り戻せ、格差も解消できるのではないか」と期待する。

     だが、9月入学には慎重論や反対論も出ている。日本教育学会は11日、「拙速な決定を避け、慎重な社会的論議を求める」との声明を発表。学力格差の是正効巣に疑問があり、就学年齢も大幅に遅れ、空白期間となる4〜8月分の学費負担の問題もあると指摘した。

     「読者に応える」のLINEにも保護者から「学費を多く払うことはできない」という反対意見や、「感染の第2波の可能性があるのに9月に始められるのか」という疑問が届いた。

     では、受験生の懸念をどう払しよくすればいいのか。教育研究者からは「思い切って大学受験を改革すべき。細かい知識を問うよりも高校の成績や読み書きの能力を評価する形に変え、卒業要件の方を厳しくすべきだ」という意見や、「試験は高2までの学習内容から出題する方法がある」との提案が出ている。

     女子生徒は「もともと学校間格差があるのに、休校でさらに拡大されてしまう。9月入学が難しいのなら、せめて公的政策で何らかの対策をとってほしい」と強く訴える。


    日教組も含め教育関係者からは「9月入学」に反対する声が高い。確かに現行の制度を根本的に変えることによる問題点が多くあることは間違いがない。では「どうするか?」ということについては妙案はなさそうだ。別の角度から見ると、これまで追求されてきた「学力」とはなにかを考えて見ると、「格差」の中身が見えてこないだろうか。それを変革するために「9月入学」が是か非かを考えてみることもできる。


    5月16日 府・市教委 府立高25日一部再開

     京都府教育委員会は15日、新型コロナウイルスの影響で31日までの予定で休校している府立高、同付属中の再開について、府北部 の丹後、中丹の両通学圏の学校は前倒しして25日からにすると発表した。それ以外の地域と全ての特別支援学校は6月1日を想定する。京都市教委も市立学校・幼稚園は6月1日の再開を目指す。

     京都府は緊急事態宣言が解除されなかったため休校を継続するが、丹後(宮津市、京丹後市、伊根町、与謝野町)、中丹(福知山市、 舞鶴市、綾部市)の両通学圏は感染者が少ないため早期再開を決めた。

     再開前には登校日を設け、一部の教育活動を実施する。府北部の高校と付属中は18日から週3日以内、他地域は18日から週1日、25日から週3日以内で設定する。特別支援学校は25日から週3日以内で行う。部活動は再開の1週間後から条件付きで認める。

     京都市教委は、最終的には京都への緊急事態宣言の扱いが決まった後に判断する。6月に再開した場合は分散登校や午前中授業などを行った後、中旬に通常活動に戻すことを検討している。5月18日から始まる希望者のみの登校日は小学1、6年、中学3年を重点的に設定する。

     府内では伊根町が18日、綾部市、福知山市、舞鶴市が20日、宮津市、京丹後市、与謝野町が21日に小中学校の再開を予定。他は6月1日の再開としているが、再検討する自治体もある。


    ようやく学校再開が見えてきた。これまでの長い休校期間の学習をどう埋めるのかが問題となるが、夏休みを20日、冬休みを5日短縮する事で25日分を確保する方向らしい。それでもまだ(約43日の)半分程度が確保されたに過ぎない。残りの穴埋めは難しい。これを現場の教職員の負担でという安易な方法を取ることは避けて欲しい。おそらく、学習以前の生活指導の面での課題が噴出し、それへの対応に現場が追われるのではないかと危惧する。


    5月15日 休校中の市立高 ICTで家庭学習支援

     新型コロナウイルスの感染拡大防止で休校中の京都市立高校が、情報通信技術(ICT)を活用した家庭学習支援に取り組んでいる。家庭にいても時間割を組んで教員の動画を配信したり、ビデオ会議アプリ「Zoom(ズーム)」を使った指導をしたりして、4、5月の学習内容を少しでも定着させようとしている。

     西京高(中京区)は11日から「オンライン時間割」を始めた。毎日90分間の学習時間を4こま設定。時間は午前9時、同10時40分、午後1時、午後2時40分からで、4こまとも教員が登場する5分程度の動画を3本配信し、最後に小テストを実施するなどして4、5月の学習予定だった内容を自習させている。

     課題の配信や生徒との文字での会話などは学習管理システム「Moodle(ムードル)」を活用。質問もズームで受け付ける。同高は「時間割を組むことで『他の生徒も頑張っている』と学習に向かいやすくなる。計画的に学習できるようにしたい」とする。

     鋼駝美術工芸高(中京区)は11日から毎日午前10時、同11時、午後1時、同2時、同3時の計5回、それぞれズームを使った20分程度の 「オンライン授業」を行っている。正規の授業ではないが、各教科をライブで教え、その後自習させている。同高は「3年生は受験もあるので学習を先送りにはできない。少しでも4、5月に教える予定だった単元を進めたい」とする。

     両校とも通信環偕類ない家庭には通信機器を貸し出している。学校再開後はテストなどで4、5月の学習単元の定着状況が確認できれば、改めて対面で教えず授業を進めることも検討している。

     このほか塔南高(南区)も指導の動画を配信するほか、京都堀川音楽高(中京区)もズームを使った実技の個人レッスンを計画している。


    大学入試オンライン面接も

     新型コロナウイルス感染拡大による休校長期化を受け、文部科学省は14日、大学の総合型選抜(AO入試から改称)と学校推薦型選抜(推薦入試から改称)について、オンラインで面接するなど、実施方法を工夫するよう求める通知を、全国の大学や都道府県教育委員会などに出した。

     それぞれの出願は、総合型が9月以降、推薦型が11月以降に始まるが、政府は9月入学制導入の是非を検討している。出願時期のほか、調査書の記載方法などについては、この議論の推移も見ながら、改めて周知する。

     14日の通知では、評価の対象となる部活動の大会や資格検定試験の多くが中止や延期となっていることを巡り、推薦書や活動報告書にこれまでの努力のプロセスを記載させるなどして、.評価するよう要請。学力試験の教科や科目などを見直すことも可能と認めたが、その際は受験生への影鑿を十分考慮することを求めた。

     感染防止対策としては、オンラインによる面接やプレゼンブーシヨンのほか、大学の授業にオンライン参加した上でのりボート作成、実技動画提出といった例を挙げた。

     文科省は13日、高校入試についても、受験生への配慮を求める通知を教委などに出した。


    「Zoom(ズーム)」はコミュニケーションの在り方を変えるツールとしての利用が拡大している(コミュニケーション・ツール使用者の30%がZoom)。一方で、こうしたツールが必ず持ってしまうシステムの脆弱性が露見している。海外では使用を禁止するところも出ているという。いわれてみればICTの脆弱性は古くからの課題であり克服されてはまた発見されるということの繰り返しであった。
     一方でオンラインを使用した学習の必要性も否応なく高まってくるのだが、その一つとしてKBSと京都市教委のコラボで制作されている「がんばれ!京都の子どもたち」という番組がある。その中の「小学6年生社会(1)」で取り上げられている日本国憲法の3原則が説明されている。「平和主義」→「東日本大震災の被災地における自衛隊の活動」、「国民主権」→「保育園を訪問し、園児と交流される天皇・皇后両陛下」の写真、「基本的人権の尊重」→「まちにあるユニバーサルデザイン」という構成になっている。作成にかかわった人はおそらく学習指導要領をベースにしたのだから別段問題はないということなのだろう。しかし、こうした価値判断を求められる課題に対してオンラインは「一方的」に情報を流しこむ傾向が強いがゆえに、きわめてイデオロギー的な側面を強調してしまう。シティズンシップ教育が必要とされるなかで、オンラインの果たす役割の功罪を改めて考えさせられる。


    5月14日 厚労省 小3の26%が学童保育利用

     2010年生まれで昨年、小学3年になった子どもの26・3%が放課後を学童保育で過ごしており、01年生まれの子どもが小3だった時と比べて12・3ポイント増加したことが13日、厚生労働省の21世紀出生児縦断調査で分かった。一方、母親が仕事をする割合は75%で11・2ポイント増えていたという。

     厚労省は少子化対策に生かすため、10年5月生まれの子どもについて、保護者らに毎年アンケートを実施。今回は子ども約2万7400人分の調査票を配り、約2万4200人分の回答を得た。

     放課後に過ごす場所を複数回答で尋ねた結果、10年生まれの子どもは自宅77・2%(01年生まれは83・2%)が最多で、習い事やスポーツクラブ、学習塾など40・7%(同45・5%)、公園34・6% (同42・2%)、友達の家29・1% (同50・6%)、学童保育26・3%(同14%)と続いた。

     また、母親が仕事をしている割合は10年生まれが75%(同63・8%)だった。父母の喫煙率は10年生まれの父34%(同44・7%)、母7・2% (同14・4%)で、いずれも低下していた。



    5月14日 文部科学省 公立96%、月内に休校終了

     文部科学省は13日、新型コロナウイルス感染拡大の影響による全国の小中高校、特別支援学校などの休校状況をまとめ、11日時点 で休校している公立校のうち96%が6月1日までに学校活動を順次再開する見通しだと発表した。休校は長期化しており、学校関係者は子どもたちの学びの遅れ解消を急ぐ。一方、緊急事態宣言解除との兼ね合いがあり、地域によっては流動的な要素も残る。

     文科省は13日、再開時期が全国でばらつくことを踏まえ、高校入試では地域の事情に応じ、出題範囲などを配慮するよう求める通知 を都道府県教育委員会に出した。多くのスポーツ大会や文化団体の催し、資格検定試験が中止となり、これらの記録がないことで受験生が不利益を被らないような措置も必要だとした。

     5月末まで休校としていた愛知県は、県立高や特別支援学校の休校期間を短縮し、25日から授業を再開すると表明している。

     文科省によると、調査時に愛知県を含む29都道府県が5月いっぱい、9県が5月中下旬までの休校を予定。7県は学校を再開しており、2県は当面休校を延長するとした。

     都道府県と各市町村では対応が異なるケースがある。学校数で見ると、休校中の公立校のうち、16%が11〜24日、80%が25〜31日に休校を終える。3%は未定・検討中。重点的な対策が必要な「特定警戒都道府県」では99%が25〜31日、それ以外の県は37%が11〜24日、56%が25〜31日に休校終了を見込んでいる。


    一斉休校と外出自粛で親や子どもを含めた家庭のストレスはピークに達しているといっていいかもしれない。早期の再開が望まれているのだろう。しかし、「秋冬にかけてコロナの再来がある」ともいわれる。再び一斉休校の措置が取られるかもしれないが、どの基準でそうなるのかを明確にする必要がある。そのためにも3月の首相の唐突な一斉休校要請が有効だったのかどうかの検証がどうしても必要だろう。インフルエンザ的な対応は無理だとしても、学校単位や地域限定の措置が必要かもしれない。


    5月13日 文科省 学習送れ複数年で解消

     新型コロナウイルスの影響による休校の長期化で学習の遅れが深刻化していることを受け、文部科学省が学習内容を上級学年に繰り越し、複数年で遅れを解消することを認める方針を固めたことが13日、文科省関係者への取材で分かった。今週にも全国の都道府県教育委員会などへ通知する。

     卒業年次の小6と中3は繰り越しが困難なため、優先的に登校させるなどして本年度中に遅れを取り戻すよう求める。

     文科省はこれまで、休校で遅れた学習については、夏休みなどの長期休暇の縮小や土曜登校で補うほか、家庭学習によって十分に定着したと評価できれば、学校再開後に同じ内容の授業を繰り返す必要はないとする考え方を示してきた。

     ただ、休校が長引く中、再開後の学習が過度に増えれば、子どもや教員らへの負担が大きいと判断し、さらに柔軟な対応を認めることにした。

     通知では合わせて、学校での「3密」を防ぐ観点から、公民館や図書館といった校外の施設を教室代わりに使う案を示す。空き教室が限られる学校でも、座席の距離をおおむね1〜2メートルにするなどの感染防止策を取れるようにする。


    「学習の遅れ」の対策は必要かもしれないが、文科省も認めるように「小6と中3は繰り越しが困難」な学年の対策はどうするのかが問題になる。一つの解決策としては教員の増員によって1教室での「3密」を防ぎながら早期に授業を再開することではない。今後の状況変化を考えれば正規の教員の採用を増やすという事も必要だろう。


    5月13日 教育支援7割休止・縮小

     海外ルーツの子どもの教育支援活動に取り組む全国約100のNPOや個人などを対象にしたアンケートで、7割が新型コロナウイルスの影響で活動を休止、縮小していることが分かった。休校長期化で学習に支障が出ている上、日本語の話せない保護者へのサポートも必要だとして、支援団体は「社会全体で支えてほしい」と訴えている。

     アンケートは、東京都福生市で活動するNPO法人「青少年自立援助センター」が4月15〜21日、外国人労働者らの子どもへ日本語教育や学習支援を実施する団体や個人に、インターネットを通じて調査した。

     センターの田中宝紀さんによると、活動拠点の学校や公民館が使えないことが休止や縮小の主な理由。子どもの家庭にインターネット環境がない、支援者が高齢で知識がないなどの理由で、支援にネットを活用するケースも2割にとどまった。「生徒の日本語力ではオンラインで教えるのは難しい」との意見もあった。

     長引く休校は子どもの生活に影饗を及ぼしている。アンケートでは「日本語が分からない親のために二ュースを翻訳し自分の時間が持てない」「3月に帰る予定だった母国がロックダウンになり帰れなくなり、未就学状態になっている」といった回答があった。

     収入が激減したり、仕事を失ったりした保護者も目立つ。「借り上げ住宅から退去しなければならない家庭もある」と切実な声が相次いだ。

     地元の学校や教育委員会に実情を訴え連携を取ろうとしているケースもあるが、田中さんは「資金も不足し、緊急時に柔軟な対応力を持った団体は少ない。もっと社会全体の支援が必要だ」と強調した。


    首相の在宅動画が批判され、「コロナが直撃しているのは最も弱い人たちだ」との事実は広く知れわたってきた。コロナ以前の矛盾が表面化してきたのだろう。外国にルーツを持つ子ども達の教育の不十分さが問題にされていたが、十分な支援策が取られてこなかった。朝鮮学校などへの差別的な扱いも同じだろう。NPOによるアンケート結果は改めて認識させられる事実だ。


    5月11日 日本教育学会 9月入学制「慎重議論を」

     日本教育学会は11日、新型コロナウイルスの感染拡大による休校の長期化を受け、政府が導入の是非を検討している9月入学制につ いて「拙速な決定を避け、慎重な社会的論議を求める」とする声明を発表した。

     学会長の広田照幸日本大教授らが、文部科学省で記者会見した。小池百合子東京都知事ら多くの政治家が制度導入に前向きな考えを示していることについて、広田氏は「教育制度の実態をあまり知らない方が、メリットだけ注目して議論している。財政的にも制度的にも大きな問題を生む」と訴えた。

     声明は、勉強の遅れなどの問題に不安を抱く子どもや保護者らの声には真摯に耳を傾けるべきだとした上で「9月入学の導入は状況 をさらに混乱させ、悪化させかねない」と強調し、学力格差を是正する効果にも疑問があると主張している。

     仮に導入した場合、小学校では世界でも異例の7歳5カ月という高年齢で入学するケースが生じると指摘。大学についても、私大全体では4月から8月までの5カ月分の学費収入は1兆円近くに上り、それがなくなった場合、経営を維持するための費用を誰が負担するのかと問い掛けている。

     日本教育学会は9月入学を巡る問題について検討する特別委員会を立ち上げており、論点や間題点を整理した提言書を今月22日に 発表する方針としている。


    「メリットだけに注目」という指摘は傾聴に値するものだろう。しかし、学会がある種の利益団体であるとするなら「デメリットだけに注目」ということにならないだろうか。子どものこの3ヶ月の空白をどうするのかという問題で、メリット・デメリットを超えた「9月入学」を考える必要がある。特別委員会の議論を注目したい。


    5月11日 共同通信世論調査 9月入学制 賛成33%

     共同通信社の世論調査で、新型コロナウイルスの感染拡大による学校休校の長期化を踏まえた9月入学制の是非に関し「賛成」が33・3%と「反対」の19・5%を上回った。ただ「どちらとも言えない」が46・3%と最多だった。政府は6月上旬にも方向性をまとめる方針だが、具体的 な内容を示しておらず、多くの国民が賛否を決めかねている様子がうかがえた。

     政党別の賛否を見ると、自民党支持層は30・8%が賛成、22・5%が反対と回答。連立政権を組む公明党支持肩は賛成33・6%、反対33・3%だった。主な野党支持層で賛成したのは、立憲民主党40・3%、国民民主党27・5%、共産党41・8%、日本維新の会38・8%、れいわ新選組32・5%だった。「支持する政党はない」と答えた無党派層は賛成32・0%、反対15・6%。

     年代別での賛成は、若年層(30代以下)35・9%、中年層(40〜50代)34・4%、高年層(60代以上)30・5%で、いずれも反対を上回った。29歳以下に特化すれば、賛成は39・6%と全世代で最も多く、反対は13・6%にとどまった。

     職業別では学生の59・1%が賛成と答え、反対の2・5%を大きく引き離した。衆院比例代表のブロック別で見ると、東京が賛成41・1%で最多だった。


    傾向を分析するには賛否が拮抗状態ので難しい。が、特徴的なものも見える。かつての護憲派とよばれている政党支持層では40%を超える人が賛成している。また若年層、とりわけ学生は半数を超えて賛意を表している。戦後の教育制度をどう見るかという視点で考えると面白い結果だとも言える。


    5月9日 文科省 困窮学生に10万円

     新型コロナウイルス感染拡大の影響で困窮する学生を対象に現金を支給する方向で、文部科学省が具体的な準備に入ったことが8日、関係者への取材で分かった。住民税非課世帯のほか、学費などを稼ぐアルバイトが欠かせない中間所得世帯の学生ら計約50万人に1人10万円、総額500億円を支給する案が浮上。迅速な支給に向け、予備費活用も検討している。

     対象は大学生や大学院生に加え、短大生、高等専門学校生、専門学校生を想定。働く若者もいる中で学生だけを支援することに異論もあったが、経済的理由の退学を食い止めるため、重点的な対応が必要と判断した。

     感染拡大でアルバイト先が激減していることを踏まえ、住民税非課税世帯やそれに準じる世帯、バイト代を学費や生活費に充てている中間所得層の世帯の学生も対象とする方向。ただ実態の確認には膨大な事務作業が想定され、学生にできるだけ早く支給する観点から自己申告制にするなどの案も出ている。

     安倍晋三首相は6日のインターネット番組で、学生らへの支援について「今月中に対策を練っていきたい」と発言。公明党の斉藤鉄夫幹事長は8日、文科省で萩生田光一文科相と会談し、約50万人への10万円給付を要請し、萩生田氏は「思いは同じだ。早急に対応したい」と述べた。給付開始時期については斉藤氏が「急を要するので2、3日中、もしくは1週間の間にスタートすると思っている」と述べた。学生団体「高等教育無償化プロジェクトFREE」が発表した調査結果によると、親の収入などで退学を考えているとした学生は、回答者の5に1人に上る。


    学生団体調査 京都市に支援提言

     新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、京都府内の大学生らの約7割がアルバイト収入がなくなったり減ったりしているとの調査結果を、学生団体「高等教育無償化プロジェクトFREE京都」がまとめた。学生への経済的支援などを求める提言書と合わせて京都市に8日提出した。

     調査は4自21日〜5月2日にインターネット上で実施。府内の大学や短期大、専門学校に通学する学生から390件の回答を得た。

     バイト収入は「減った」が38・2%、「ゼロになった」が29・2%だった。バイトの有無については44・1%が「なくなった」または「やりたいが見つからない」と答えた。保護者の収入減もあって退学や休学を考えている学生は24・7%に上った。新たに各校で始まるオンライン授業については33・1%が「経済的負担が増える」と回答した。

     メンバーは中京区の市役所で担当職員と懇談。学生への一律給付金の支給や授業形態の変化に伴う諸問題への支援、学生専用の相談窓口の開設などを求めた。

     同団体事務局の立命館大4年小島あずみさん(22)は「調査を通じ学生の大変な実博が明確になった。市は国などにも働き掛け、学ぶ権和を守ってほしい。調査は今後も続ける」と話した。


    1世帯30万円から1個人に10万円への給付へ急旋回。「給付」についても政府の明確な指針が見えない。その原因はなんだろう?一つには給付対象の位置付けがあるように思える。それは企業と世帯という給付受ける側の設定ではないだろうか。これまでの「平時」においては日本の社会は一定この二つの窓口で社会が成り立っていたと考えられる(実際はそこからはみ出る人たちが大勢いるのだが)。しかし、コロナ感染の蔓延で「平時」の矛盾が吹き出てきたといえる。おそらく最も必要であったのは、個人を対象にした一律給付を3月段階で準備すべきではなかっただろうか。そして、4、5月と連続して10万円の給付を行う補正予算を組む必要があった。それを怠ったのは一人安倍首相の怠慢だけではなく、自民党の社会観がすでに時代にそぐわなくなってきている証左だといえる。


    5月5日 コロナ関連 家庭に委ねられた「学び」

     新型コロナウイルスの感染拡大防止を目的とした学校の一斉休校は、全国規模で始まってから約2カ月が過ぎた。多くの小中高校などは春休みを挟み、新年度に入っても継続。5月6日までとされていた緊急事態宣言が月末まで延長される中、本格的な授業の再開は見通せない。学校現場では学びの機会を守ろうと、オンライン学習など新たな教育を模索するが、実施できる自治体は少なく、格差が広がる懸念も増している。

     安倍晋三首相が、春休みまでの一斉休校を要請する考えを示したのは2月27日。感染が広がっていなかった自治体も多く、文部科学省の反対を押し切る政治判断だった。最終権限は各教育委員会などの設置者にあるが、小中高校などのほぼ全てが休校に踏み切った。

     各自治体は春休み明けの授業再開を前提に準備を進めていたが、都市部を中心に感染者が急増。4月7日に緊急事態宣言が発令されると、5月の大型連休まで休校とする自治体が相次ぎ、さらに5月末まで延長する動きが広がっている。

     学習指導要領に基づく年間の学習内容を消化しきれない事態が現実味を帯びつつある中、文科省は家庭学習でパソコンなどの積極的な活用を呼び掛ける。だが、端末の確保や通信環境の問題から、同時双方向型のオンライン学習を実施する教委は5%にとどまる。

     これまでは、学校が中心となって担ってきた毎日の教育。それが事実上、各家庭に委ねられる中、住んでいる地域や家計によっては、子ども一人一人の学びに格差が生じやすくなっている。感染拡大に歯止めがかからず、休校がさらに長期化すれば、問題は一層深刻化しそうだ。


    ICT駆使 画面で「登校」

     「みなさん。おはようございます」。4月中旬、上越教育大付属中(新潟県上越市)2年1組の教室で、担任の金子秀史教諭(36)がパソコンに向かって笑顔で呼び掛けた。テレビ会議アプリ「Zoom(ズーム)」の画面上に「登校」した生徒たちは、手を振ったり、おじぎをしたり。3月2日から休校が続く同校の1日は、オンラインで教員と生徒がつながる「朝学活」から始まった。

     同校は長年、コンピューターの活用を研究してきた。4年前からは生徒1人につき1台のiPad (アイパッド)を保護者に購入してもらい、情報通信技術(ICT)を活用した教育を進めてきた。この休校期間を「学びを止めるな!」を合言葉に、これまでの取り組みを生かしている。

     午前8時45分からの朝学活では、最初に1日の「時間割」と家庭での学習内容を伝える。その後、4人程度のグループに分けて雑談をする時間を設定。教員と生徒だけでなく、生徒同士も互いの顔を見ながらコミコニケーションを取れるよう意識している。昼に「学年集会」 を行い、交流を深めることもある。

     4月は、1教科50分の学習を1日5〜6教科実施。生徒はこの間、国語や数学、社会などの課題やドリルに取り組み、アイパツドに入れたアプリなどを通じて、結果を担任へ提出。体育は用意された勳画に合わせて運動し、家庭科ではマスク作りも。「歌詞を絵で表現する」といった探究学習にも挑戦した。

     「初めての取り組みが多い中で『続けられること』を第一にやっていこうと話し合ってきた」とICT担当の大崎貢教諭(38)は説明する。音楽で、ズームを使って合唱の練習をするなど、試行錯誤を繰り返した。

     同校は当初、4月中に授業を再開する予定だったが、緊急事態宣言の対象地域が全国に拡大されたのを受け、5月6日までの休校延長を決めた。オンラインを活用した学びを続けるが、休校期間の学習内容を踏まえた再開後の時間割を作るといった準備も並行して進める。

     大崎教諭は「再開しても、感染予防のためにこれまでと同じような授業が難しくなる面もあるが、今回の取り組みで得た蓄積も多い。どのような授業ができるのか、休校中の学びをヒントに話し合っていきたい」と前を向いた。


    夏休み短縮 土曜授業視野

     新型コロナ感染拡大で学校の休校が長へ期化した各地の教育委員会では、学校再開後に学習不足を補うカリキュラムの変更や授業時間の確保を目的とした夏休みの削減など、対策の検討を急いでいる。ただ、完全な終息が見通せない中、子どもたちの受け入れに向け て、マスクや消毒液が十分確保できないなど不安の種も尽きない。

     大阪府泉南市教委は4月10日、もともとは7月21日から8月24日の予定;だった夏休みを、お盆時期を挟んだ2週間程度まで大幅に短縮すると発表した。休校が続いたた2カ月分の学習を埋め合わせるのは容易でなく、担当者は「ぎりぎりまで短くした」と話す。

     再び感染が拡大し、休校の延長措置などが取られる可能性は否定できない。その場合は、夏休みの短縮だけでなく、平日の時間割を増やしたり、土曜授業をしたりすることも考える必要があるとしている。再開後の学校運営への不安もある。東京都内のある教委の担当者は「机と机の間隔を空けて授業をするしかないが、在籍する子どもの数が多く、空き教室がない学校も多い。できることには限界がある」と懸 念を語る。この地域では学校を再開したとしても、密集を防ぐために、学年ごとの分散登校を検討している。


    「選抜」延期も 戦略見直し必要

     長期休校は高校生の進学や就職にも影響を与えそうだ。地域によっては3月から休校が継続している高校があり、再開した学校と比べて授業の進度に遅れが生じている。

     一般入試では、通常通り授業ができる高校のほか、2年生までに学習範囲を終えた中高一貫校の生徒や、浪人生が有利との見方が出ている。

     また、それぞれAO入試と推薦入試から改称された総合型選抜と学校推薦型選抜では、合否判定で重視する出席日数や成績、部活動歴などを記した調査書に、3年時の活動がどう反映されるか不透明だ。

     総合型選抜で受験を目指す私立の通信制に通う女子生徒(17)は「募集要項にある英語の民間検定試験の中止が続き、挑戦できていない。出願までに必要なスコアを取れるか不安だ」と述べた。

     萩生田光一文部科学相は4月17日、秋以降の出願となる総合型選抜などの実施時期を先延ばしする必要性に言及。当初の計画がずれ込む受験生は戦略の見直しを迫られそうだ。

     全国高等学校長協会会長で、東京都立西高の萩原聡校長は「生徒一人一人の状況が異なり、どんな方法にしても有利、不利が出るだろう。一般入試、総合型選頭たかかわらず、最終的には合格を出す大学側がどう考えるかだ」と指摘した。休校の影饗は就職を目指す高校生にも及ぶ。例年は7月に高校に求人票が届くというが、緊急事態宣言による自粛の影響で、企業の業績悪が相次ぎ、募集自体が難しくなる可能性もある。


    千葉大・藤川大祐教授好きを突き詰めてみよう

     こうした長期休校は近代の学校制度が始まって以来、前例がなく今後の影響は見通せない。困難が続く中でも学校を中心に子どもの 学ぶ権利を保障していく必要がある。

     子どもにとって学業は生活の中心で、アイデンテイテイーとも言える。学び続けることは不安感が強い状況で、子どもを落ち着かせる要因にもなる。教員はできる限り遠隔指導などで日々、教える状態をつくっていくべきだ。動画による双方向型でなくても、文字中心の課題などを毎日届けるといったもので十分だろう。

     特に小中高校の発達段階では所属意識が心のケアにもつながる。感染防止で生活が家庭中心になっているが、自己確立の時期は家庭外の居場所が重要だ。物理的には家でも、精神的には違う場所を与えないといけない。

     子どもたちにはこの状況を、今だからこその学びを深める機会と捉えてほしい。学校がある時より時間に余裕もある。目標を決めマ二アックに好きなことを突き詰めてみてはどうか。好きなものを作ってみるのもいい。また、この状況は学校教育の在り方を変える千載一遇のチャンスとも言える。ICT(情報通信技術)を授業に一層活用することや、国際的に多い9月入学を検討するのも悪くない。


    5月4日緊急事態宣言の延長のために首相の記者会見があった。なにほども期待していなかったが、残念なことに全く予想は裏切られなかった。美辞麗句で飾られた内容だったが、この2か月間の総括が行われておらず、これからの1月の自粛を要請するばかりだった。私たちが知りたいのは「この2月間政府は何をしてきて、どのような成果があったのか」ということだろう。また「どうなれば出口に到達した」といえるのかということだ。これを学校にあてはめれば、いきなりの「一斉休校」に価値はあったのかということであり、これから先(冬期になれば再び感染爆発があるのではという予測もある)なにを根拠に「休校・開校」をおこなうのか、地域の特質をどう考慮するのかが明確な指標を伴って開示される事が必須の条件だろう。また、誤った行政的施策があればそれを率直に認める勇気が、地方教育行政を含めて必要だと痛感する。


    5月5日 総務省 子ども39年連続減少

     「こどもの日」を前に総務省が4日まとめた4月1日時点の人口推計によると、外国人を含む14歳以下の子どもの数は前年より20万人少ない1512万人で、39年連続で減少した。総人口に占める割合は12・0%で46年連続の低下。いずれも比較可能な1950年以降の過去最低を更新し、少子化こ歯止めがかかっていない。

     内訳は男子が774万人で、女子の738万人を上回った。3歳ごとの区分では年齢層が下がるほど減少しており、12〜14歳が321万人なのに対し、0〜2歳は275万人。少子化の加速を示している。

     国連人口統計年鑑によると、推計時点は異なるものの、人口4千万人以上の32カ国のうち、日本の子どもの割合12・0%は韓国の12・4%を下回り最低だった。日本は65歳以上が28・6%を占めている。

     都道府県別データは、2019年10月1日時点の人を千人単位で公表した。トップは東京の155万3千人、最少は鳥取の7万人で20倍以上の開きがある。前年より増えたのは東京だけで、残る46道府県は減少した。京都は29万9千人、滋賀は19万5千人だった。

     人口に占める子どもの割合は、沖縄の16・9%が最高だった。最も低いのは秋田の9・8%で、比較可能な1970年以降、全国で初めて10%を下回った。

     子どもの数は、54年の2989万人をピークに減少。第2次ベビーブーム(71〜74年)の前後は増えたが、82年から減り続けている。


    少子化傾向は恐らく歯止めはかからず2100年には5000万人前後になるとの推計がある。様々な要因があるのだろうが、「沖縄の16・9%」という数字に含意されているところは大きい。子どもの貧困率も高いのだがそれに対する取組も評価できる。ある意味子育てがしやすい県だといえるかもしれない。子育てのためのIターンやJターンにも注目すべき。


    5月4日 監視社会拡大に注意

     ―東京工業大学 中島岳志 教授―

     これまで立憲主義と民主主義の関係を考えてきた。両者は一体の存在と考えられがちだが、時に激しくぶつかることがある。民主主義は、現在の有権者の多数決によって物事が決まつていくシステムである。それに対して、立憲主義はいくら過半数の人間が賛成であっても、憲法で禁じられたことはやってはならないという原則である。両者は、原理的に矛盾する。

     何が違うのか。それは主語の違いである。民主主義の主語は、生者である。投票に行くことができるのは、当然、生きている人間である。

     それに対して、立憲主義の主語は、死者である。歴史の中で、さまざまな経験をしてきた死者たちが、その失敗の教訓として未来を拘束しているのが憲法である。「思想信条の自由を侵してはならない」「侵略戦争を行ってはならない」「三権分立は守らなければならない」…。すべて死者たちが受けた大きな痛手がもとになって、「権力がやってはならないこと」が確認されてきた。その集積が憲法なのだ。

     日本国憲法は、世界中の憲法と比較するとかなり短いことがわかる。いろいろなことが事細かには書き込まれていない。これは長い年月をかけて確立してきた解釈や慣習への信頼があり、不文律のものが憲法を支えていると考えてきたからである。憲法は条文だけではない。それを支える、文面化されていない暗黙知も憲法の一部である。

     これをいとも簡単に破ってきたのが安倍内閣の特徴だ。2015年には、野党が要求したにもかかわらず、臨時国会が開催されないという事態が起こった。憲法53条には「内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いずれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない」とある。

     しかし、召集要求条件を満たしても「いつまでに」といった召集時期は定められていない。これまでは慣習として、要求から約1カ月で開催という認識が共有されてきた。これを安倍内閣は足蹴にした。安倍晋三首相は保守を自称しながら、決まりや慣習を守らない。

     今後、注意深くなければならないのが「例外状態」を利用した監視社会の拡大だ。「3密」という言葉が流布し、人が集まること自体が問題視されている。自粛要請が出ると、東京・新宿歌舞伎町などの繁華街に警察官が動員され、無言で帰宅を促した。このようなあり方は憲法が定める「集会結社の自由」に抵触しかねない。緊急事態はいつまで続くかが不明瞭だ。もし宣言が解除されてもコロナ禍は当面続く。

     スマートフオンなどによる位置情報を利用すれば、人がどこに集まっているかを監視できる。各所の監視カメラを駆使すれば、「誰が集まっているか」も特定できるだろう。監視のアーキテクチャーは整っている。

     私たちは、コロナウイルスと一定期間、付き合っていかなければならない。終わりが見えない自粛が続く中、7月には重要な東京知事選挙もある。

     「例外状態」を敷衍化し憲法に抵触するような取り締まりが行われるような事態は注意深く避けなければならない。緊急事態を利用した立憲主義の破壊が過去の歴史では繰り返されてきた。こんな時こそ、死者たちの経験知に耳を傾けなければならない。憲法は、死者たちの叫び声である。


    「自粛警察」という言葉が出てきた。緊急事態宣言下で営業や外出に対して匿名で自粛を要請する行為を行うことのようである。本来自粛を要請する政府や自治体は、こういうことを実行するからみなさんも自粛という形での協力をお願いしたい、というべきである。しかし、国や都は極めて精神主義的な「自粛」呼びかけだけを行っているように見える。「自粛」の根拠を市民の側が検証するだけ情報が開示されていないのは大きな問題だろう。4日の共同通信の世論調査では、改憲か護憲かの意見は分かれているが安倍首相の下での改憲には反対が58%賛成が40%となっている。これまでの手法が決して肯定されていないのだろう。ちなみに中島教授は自らを保守主義者というが、安倍首相の言う保守とは明確に異なることは知っておくべきこと。


    5月1日 「新1年生、勉強の仕方分からない」 

     新型コロナウイルスの終息の兆しが見えないことを受け、京都府、滋賀県でも公立学校の休校を延長する動きが広がっている。保護者らは感染拡大防止のためには「仕方ない」と冷静に受け止めつつも、長引く休校措置に子どもたちの学習の遅れやストレスの蓄積を心配している。

     「勉強できないのはかわいそうだが、延長はうれしい」。小中学生4人の子どもがいる主婦(46)=京都市北区=は休校延長を評価した。子どもから感染が広がる恐れもあるとして「基礎疾患がある人らを守らなければならない。医療崩壊してからでは遅い」と話した。

     小学1年と6年の男児がいる大津市の会社員の女性(44)も「健康が大事なので休校はやむを得ない。ただ夫と2人で在宅と出勤を調整しながら面倒を見ているが、どうしても子どもだけの時間があり心配。早く友達と遊びたがっており、早い終息を祈るばかり」と話した。

     休校の延長は京都府、滋賀県、大津市で5月31日、京都市で同17日までなど多くの自治体で決定されている。背景には「感染拡大は予断を許さない状況」(西脇隆俊府知事)との認識があり、保護者や学校現場に早く周知するために大型連休前の判断が進んでいる。

     ただ延長すれば3月以来、2カ月以上、学校で落ち着いて授業を受けられない状態が続くことになる。保護者からは学習面の遅れを気にする声が上がり、小学3年の子どもがいる伏見区の会社員女性(36)は「自宅では学習がなかなかできない。ほかの子と差がつくのでは」と心配する。

     各教委は学校が再開した時を見据えて家庭学習の充実を図る。京都市教委は4、5月に学習予定の内容を宿題として提示する予定だ。しかし小学1年、4年を含む3人の子どもがいる中京区の女性(44)は「新1年生は先生から教えられた経験がないので、勉強の仕方も分からない」と自宅での学習の難しさを吐露する。

     また先の伏見区の女性は「子どもたちは学校に行かないことで人とつながりがなくなり、ストレスがたまっている」と精神面への影響を気に掛け、「校庭の開放など発散できる場所をつくってほしい」と訴える。

     今後、学習の遅れを取り戻すために各教委とも夏休みの短縮など授業時間の確保を検討する予定だが、府教委の橋本幸三教育長は「全て夏休みで帳尻を合わせて解決する考えはどうかと思う。生徒や教員に過度な負担をかけるのは避けるべきだ」と指摘。「まず家庭学習で課題を示して学校が再開した時の授業の負担を減らし、その上で夏休みを縮める対応などを考えるべきだ」との考えを示した。



    5月1日 文科省 小1・小6・中3先行再開案

     新型コロナウイルスの影響で長期化している休校の解除を巡り、文部科学省が、小1と小6、中3の3学年の登校を先行させる案を選択肢として示す方針を固めたことが30日、関係者への取材で分かった。入学直後だったり、卒業や入試を控えたりして、優先度が高いと判断。登校再開を段階的に行うことで、感染拡大の原因となる密閉、密集、密接の「3密」を避ける狙いがある。

     文科省は政府の専門家会議の見解を踏まえ、学校再開時の考え方を示した指針を5月1日に通知し、学校設置者である全国の教育委 員会などに参考にしてもらう方針。登校する学年を限定すれば教室に余裕ができ、一つのクラスを複数の教室に分け、密集を避けながら授業を行うことなどが可能になる。登校時間をずらすことなども選択肢として示す見通し。

     文科省はこれまで「多くの学校においては人の密度を下げることには限界があり、教育活動上、近距離での会話や発声等が必要な場 面も生じる」と認めた上で、学校を再開する場合は毎朝の検温、授業中の窓開け、マスクの着用などの対策を取ることを求めてきた。


    「後出しジャンケン」内閣というべきなのかもしれない。ほとんど全ての「対策?」が後手であることはもはや明らか。こうした文科省の「対策?」が可能ならどうしてこの2ヶ月の間に検討する課題として提出されなかったのかが疑問に思う。まさに保障を伴わない市民の自粛を求めるために突然の「全国一律の休校」を人身御供としたことが明白になっている。


    5月1日 府教委 子どもたちへ“挑戦状”

     京都府教育委員会は30日、休校中の小中学生が家庭学習で取り組める問題を掲載したホームページを作成して公開した。難易度別 に4段階設定し、最終的に思考力や判断力、表現力を問う内容になっている。府教委は「これからの時代に求められる力を休校中でも育成したい」としている。

     「京都府教育委員会からの挑戦状」と題して、各教科の単元ごとに課題を載せている。レベル1や2は教科書を参考にすれば分かるが、レベル4は「現代日本で海外からどのようなモノを取り入れれば社会は良くなるか」 (中学2年社会)などと自分で応用して考えなければ解けないようになっている。

     誰でも閲覧でき、4月に学習する予定だった内容から順次載せている。今後、府内の各市町教委に周知し、宿題づくりの参考にもしてもらう。

     府教委は「新学習指導要領で求められる学び続ける力などを休校中でも諦めずつけてもらいたい」としている。


    市教委も府教委も学習保障のひとつの対策としてメディアをつかった教材を提供しているのはそれなりの努力なのだろう。しかし、この間に進みつつある「格差」をどうするのかという問題意識を持つ必要はないのだろうか。政府の動向を睨みながらという姿勢では心許ない。