h2110
 
  • 「親ガチヤ」に潜む現実.26
  • 格差拡大は自己責任か.29
  • 10月29日 【焦点/争点】 格差拡大は自己責任か

     与党は成長と分配の好循環による「新しい資本主義」を掲げ、野党の多くも格差是正の必要性を訴える―。新型コロナウイルス禍の衆院選でキーワードとなったのが「再分配」だ。

     経済・科学ジャーナリストの木代泰之は「新自由主義の申し子『非正規雇用』の功罪を改めて問う〜岸田首相に妥協しない決意はあるか」(「論座」10月12日)で、貧富の格差を拡大した新自由主義の特徴を最もよく表している政策が非正規雇用だと指摘する。

     1990年から2020年までの30年で、非正規の労働者は833万人から2100万人へ2・5倍に増えたとデータを示し、「非正規は格差を広げることを承知の上で、政府と経済界が共同で作った『収奪の仕組み』に他な らない。この政策は、一般国民が感じる以上に、格差拡大、慢性的な内需不足、少子化という重大な変化を社会にもたらした」と強調した。

     格差の弊害は次代を担う若年層にも及ぶ。早稲田大准教授の松岡亮二は「コロナ禍で浮かび上がる『教育格差』」(「Voice」11月号)で、教育格差を「子供本人には変更できない初期条件である『生まれ』によって教育の成果に差がある状態」と定義。保護者の最終学歴や職業、世帯所得などの「社会経済的地位」が、子どもの学歴を左右していると説く。

     こうした現象は新自由主義やコロナ禍の悪影響というよりも、この国の根深い旧弊とみるべきだと松岡。「日本は、いつの時代であっても『生まれ』によって人生の可能性が制限されてきた教育格差社会」であり、『教育格差という現実と向き合わず、いままでのようにすべての子供に対して『同じ扱い』をしても結果の格差は縮小しそうにない」と憂慮する。

     自己責任論が社会に内在化すれば、格差と差別を正当化す言説がはびこる。「世界」11月号は「政治的価値/目標としての平等をあらためて共有するため」として「反平等―新自由主義日本の病理」を特集した。

     「平等と公平はどぅ違うのか 新自由主義から福祉国家へ」で岡山大特命教授の新村聡は、コロナ禍の日本で「非正規雇用、ひとり親、零細自営業者など弱い立場の人々」のダメージが特に大きい背景を考察。「近年の新自由主義的政策のもとで拡大してきた経済格差がいっそう拡大している」との認識を示した。

     北欧などの福祉国家では、教育費や住居費、老後生活費などを公的に支援し、人々が生きるための「基本的必要」の充足を最優先しているが、新自由主義の下では全て自己責任が基本とされ、所得の分配も国の経済への貢献度に応じて行われると解説。結果として、生活に困窮した人が放置されがちだと懸念する。

     したがって問題の核心は格差の有無ではなく、自己責任と公的責任、自助と公助の優先順序にあると強調。憲法25条が規定しているように「健康で文化的な最低限度の生活」が実現できていれば、「所得の格差があっても批判する人はほとんどいないであろう」と結論付けた。

     日本人のライフスタイルは今後、ますます多様化していくだろう。ただし最も重要なことは、どのような雇用形態、世帯構成だろうと、誰ひとり生活に困ることのない社会を実現すること、と新村は言う。そのためには何が優先されるべきか。選挙を経た新しい政治を注視したい。


    31日は総選挙の投票日。「政権選択の選挙」と岸田首相は言う。しかし、どちらを選ぶかという意味にとってはいけない。10年続いてきた、そして今も変わらない「新自由主義」的社会での格差拡大政策を否定することからの再出発を目指す選挙でとしなければならない。格差拡大で最も被害を受けている人(若者・女性・障害者など)たちが「私の声を聞いてよ」と一票を投ずる選挙であってほしい。


    10月26日 【現論】 「親ガチヤ」に潜む現実

     「親ガチヤ」という言葉をご存じだろうか?若者たちがインターネット上のスラングとして使い始めた言葉だが、9月にテレビ番組で取り上げられ反響を呼んでいる。

     「ガチヤ」とは携帯ゲームの用語で、定額の課金によってアイテムなどを手に入れるシステムを指す。つまり、「どんな親を持つかで人生が決まってしまう」という意味で使用されている。

     自分の親を「ガチヤ」に例えるのは不謹慎だ。また、「自分の境遇を親のせいにするのはよくない」という批判もあるだろう。だが、若者たちがこの言葉を使ってしまうのには、背景がある。

     NPO法人「POSSE」にも、若い世代から「親に関係する相談」が頻繁に寄せられている。

     うつ病から困窮に

     例えば、首都圏で1人暮らしの20代男性は、うつ病の影響でアルバイトを長く続けることができず、困窮していた。うつ病の原因は、幼少の頃に親から身体的虐待を受けたことにある。小学生の頃にはすでにうつ病の診断が下されていたという。高校も、親が教育費を出さないため諦めた。

     また、20代の女性は、幼少期から父親が母親に暴力をふるう環境で育った。大学に進学できたが、その頃から父親は「おまえの生活費を出しているのは俺だ、おまえは俺のものだ」と言い放ち、虐待が自身にも及ぶようになった。彼女は学費のためにやむなく「夜の仕事」を選んだが、それが原因でうつ病と摂食障害に陥り、大学中退を余儀なくされた。

     2人の相談者はその後、生活保護を受けて回復に向かっている。

     このような家族による虐待の背景には、親世帯の所得の低下や労働環境の影響が考えられる。また、直接の暴力を伴わなくとも、両親の不和や乱暴な言動、ネグレクトなども子どもに深い傷を与え、これまで想像された以上に子どもの人生に関わることが分かってきている。そうしたケースは虐待とは区別され、マルトリートメント(不適切な養育)とも呼ばれる。

     日本の社会保障の不備も見挑せない。子育て費用は、幼稚園から大学まですべて公立に通わせた場合でも約1千万円、すべて私立の場合は約2千万円に上る。諸外国に比べても、日本は教育費の負担が非常に重い。家計負担の大きさが、親の所得によって子どもの将来を狭めてしまう現実を作り出しているのだ。

     重い教育費負担

     また、負担の重さから、中高生の子どもに「家計に貢献しないなら出ていけ」と「自立」を迫る事例も珍しくはない。とくに女性の場合はその結果「夜の仕事」を余儀なくされたり、犯罪に巻き込まれたりするケースも多い。ざらに、ある程度裕福な家庭では、高い教育費の負拍から、子どもに過剰な期待を寄せてしまう「教育虐待」も問題化している。「せっかく高いお金をかけているのだから、成果を出してほしい」と、成績の上がらない子どもの人格を否定にてしまうことは珍しくはない。「これだけあなたに投資してきたのだから、親の言うことを聞くのは当たり前」と支配的にふるまうことにもつながる。

     教育費負担の重さが、親から子への経済的な支配関係を強め、貧困家庭では自立圧力として、中流家庭や裕福な家庭では教育虐待やマルトリートメントとして現れてくるわけだ。

     住居政策の脆弱さも、親子の支配関係を強めている。日本では敷金・礼金に加え、家具や家電購入など、1人暮らしを始めるための初期費用の平均は50万円程度と言われている。賃貸契約を結ぶ際の連帯保証人の問題もある。虐待などで家族関係が悪化している場合には、親を連帯保証人として立てられないケースがほとんどだ。非正規雇用で働いていても、1人暮らしできないので虐待する親元から抜け出せない、という相談事例は非常に多い。

     岸田文雄首相は日本の資本主義を改革し、分配を強化するという。若年世代への給付金も検討されているが、それだけでは「親ガチヤ」に現実感を持ってしまう状況は変えられないだろう。教育や住居を選べるような、社会保障政策の充実を同時に図っていくことが必要である。

    (今野晴貴・NPO法人「POSSE」代表)


    今必要なことは単なる「バラマキ」ではなく、この10年あまりに積み重ねられてきた構造的な問題だろう。31日は、教育をはじめとする格差を是正しようとする方向にかじを切るかどうかが問われる日でもある。


    10月17日 厚労省 「GIGAスクール」本格化

     児童生徒が1人1台のコンピューター端末を使って学習する取り組み「GIGA(ギガ)スクール構想」が、京都市立小中学校で2学期から本格化している。デジタルドリルの活用のほか、自宅にいる子ども向けにオンラインによる授業の常時配信を始めた学校もあり、学びをサポー卜する「新時代の文房具として、端末がより児童生徒に身近になってきた。

     山科区の勧修中。10月、2年生の国語の授業で、生徒がデジタル版の学習ドリルに取り組んでいた。ある生徒は多義語の問題に挑戦。クイズ形式で出題され、連続で正解すると、ボーナスポイントがもらえる。生徒は分からないところを尋ね合いながら、それぞれのペースで進めていた。

     吉田里桜さん(14)は、「間違った問題は解き直して、その場ですぐに正解かどうか分かる。ボーナスポイントもあって、紙のドリルより楽しい」と話す。神農政晃教諭(34)も、「学習で端末を使うと、生徒の意見や苦手分野を教員も簡単に把握、評価することができ、指導の改善につなげられる」とメリットを説明する。

     端末は4月に全国の小中学校で全面的に導入された。当初は京都市でも、不慣れな児童生徒や教員がいて試行錯誤だったが、2学期から各学校が児童生徒の状況やカリキュラムに応じ た活用を本格化。新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言で、飛沫の飛散防止のため鍵盤ハーモニカが使えない中、端末画面 に表示させた鍵盤で弾く練習をするなど、コロナ禍での指導の工夫も進んだ。

     勧修中では、登校できない子向けに毎日、授業のライブ配信も常時行っている。生徒が自宅にいる理由は、新型コロナの濃厚接触者になった、不登校などさまざまだが、毎日誰かが視聴しているという。塩見晃之校長は「視聴状況を見ていると、コロナ関連の欠席以外でも授業配信のニーズはあると感じている。生徒が登校できるようになった後の学習のフォローもしやすい」と話す。

     ただ現在は一方的に配信しているため、自宅にいる生徒の質問に応じるなど双方向のやりとりができていない。また、特別教室やグラウンドでの授業も配信できない状態だという。塩見校長は「双方向となると、教員1人が教室と自宅、別々の場所にいる生徒とのやりとりを同時に行う難しさがある。課題と捉え、改善に向け対応を考えていきたい」と話す。


    欠席連絡も専用フォームで

      「朝、子どもの遅刻や欠席連絡をしたいが、学校に電話をかけたら話し中だった」「前日夜から欠席が決まっているのに当日朝でないと連絡できない」―。

     こんな経験のある保護者もいるだろう。今後、学校への簡単な連絡は、GIGAスクール構想が掲げる「教育のデジタル化」で手軽になりそうだ。

     山科区の勧修中では、遅刻、欠席とその理由を保護者が専用フォームに入力し送信できる連絡システムを導入。9月27日から本格運用を始めた。入力フォームは、保護者向けの文書に掲載されたQRコードを読み取ればいつでもアクセスでき、各家庭のタイミングで伝えることができる。同中では毎日10件程度、フォームを使った連絡があるという。

     朝の保護者からの連絡は、たいていどの学校でも教頭が早めに出勤し、次々とかかる電話に対応している。市教委によると各小中でこのシステムの導入を順次進めているが、現時点ではまだ少ない。保護者側の利用が進めば、長時間労働が問題になっている教員の働き方改革につながるだろう。


    一人一台の端末で教育が変わるとの触れ込みだったが、予想通り電子的なドリルを利用することが「現在では」主流とならざるを得ないのだろう。これまでの教育で重要な発達課題とされてきた「目と手の協応」などのベーシックな問題が軽視されることは避けなければならないだろう。また、「欠席連絡」などのツールとしての利用は教員個人のドレスやLINEの使用を回避するという点では評価できるが、担当者まで伝わる仕組みも検討が必要。


    10月15日 衆院解散 争点見極め、対話の機会に

     4年ぶりの衆院選が19日公示、31日投開票の日程で実施される。18歳の誕生日を迎え、選挙権を持つ高校3年生にとっては初めての国政選挙だ。政治への関心を高めようと模擬選挙などさまざまな試みが行われる中、生徒が自ら考えた質問を政治家に手紙やメールで送る、ユニークな取り組みを続ける学校がある。

     「いいかいみんな、同じことを別の候補者に聞くから違いが分かる。今日は全員で案を出し合って、政治家への共通質問を三つ決めよう」

     9月中旬、埼玉県飯能市にある自由の森学園中学校・高校。豊かな自然に囲まれた校舎の日の当たる教室で、高校の社会科を担当する菅間正道校長が生徒に呼び掛けた。

     この日の授業は、登校者とリモート出席者がいる八イブリッド型。質問案がパソコンの画面越しの生徒からも次々と投げ掛けられ、黒板に付箋で貼り付けられていく。

     「なぜ私たちが首相を選べない? アメリカみたいに直接選びたい」「インターネットでの悪質な暴言と、表現の自由とのバランスについて、どうお考えですか」。素朴な疑問から外交課題まで、約20の案が出された。

     その後、多数決で「今の国会議員の仕事に対して給料は見合っていると思うか」「若者の政治離れをどう考えるか」など四つの質問が選ばれた。生徒は自分の住む地域の各政党候補者に個別質問と合わせて送る。  菅間校長が「政治家への手紙」を始めたのは約10年前。これまでも世界史の授業でナチス・ドイツによるユダヤ人迫害を取り上げる 際、「もしあなたの友人がユダヤ人だったら交流を続けるか、それとも断つか」を考えてもらうなど、歴史上の出来事を身近に捉える 試みを行ってきた。  若者の政治参加を巡っては主権者教育が重要視されている。菅間校長は「自己や他者に対する基本的信頼を育むことが、主権者教育 には最も重要」と指摘。「人生の主人公である自分を大切にできて初めて、他者との間に立ち上がる世界をより良くしたいという願いが生まれる。若者の投票率の低さが批判されるが、自分の意見で世界が動くかもしれないという感覚を小さな頃から育む必要がある」と話す。  「政治家への手紙」の質問も、候補者の政策から決めるのではなく、「私はこれが聞きたい」と自ら争点を見極める点を重視。日本 ではまだ少ない政治家と若者との対話が生まれる機会になればと願う。3年生の田中涼介さん(18)は少しずつ政治への関心が湧いてきたといい、「高校生向けの演説や説明会があったら」と考えるようになった。衆院選を前に候補者に手紙を送り、投票にも行く予定だ。


    投票所へは子どもと一緒に

     社会課題を自らの問題として捉え判断する力を養う主権者教育。その重要性は18歳選挙権が導入された2016年から急速に高まり、なじみの薄い親世代も少なくない。家庭で肩肘張らずに政治や選挙を考えるにはどんな方法があるのか。模擬選挙推進ネットワーク代表の林大介浦和大准教授は「まずは子どもと一緒に投票所に行くことがとても大事」と語る。

     投票所には18歳未満のも入ることができ、幼児の頃から連れて行けば「なんで行くの?」「何を書いたの?」と自然と会話が生まれ、成長とともに各党の選挙公約を比較するなど話題を広げていくこともできる。

     実際、16年に総務省が18〜20歳を対象に行ったアンケートでは「子どもの頃に親が行く投票についていった」と答えた人の投票した割合は、そうでない人よりも20ポイント以上高い結果が出ている。

     政治は難しく捉えられがちだが「新型コロナウイルス対策や選択的夫婦別姓制度などテーマは身近にたくさんある。親も自身の主権者意識を培うトレーニングだと思って話してみてほしい」と林さん。自分で選んだ服を着させるなどささいなことで子どもの意思を尊重するのも主権者教育につながるといい、「意見を恐れずに口にし、安心して失敗できる環境が自ら考え判断する力を養っていく」と指摘している。


    こういった言葉があるのかどうかわからないが、「私高公低」が主権者教育の現状。学校が、教員が積極的に政治にかかわれる状況を作ることも大きな条件になる。再び「ボイステルバッハ・コンセンサス」を現場に導入することを考える必要があるのだろう。果たし、教職員の投票率は高いのだろうか?


    10月14日 文科省 コロナ下 京都不登校3810人

     新型コロナウイルス感染が拡大した2020年度、全国の国公私立の小中学校で30日以上欠席した不登校の児童生徒は19万6127人で、前年度より1万4855人増えて過去最多だったことが13日、文部科学省の問題行動・不登校調査で分かった。京都府内は3810人(前年度比410人増)、滋賀県内は2271人(同131人増)となり、いずれも最多を更新した。小中高校と特別支援学校が認知したいじめは9万5333件減の51万7163件で、13年度以来の減少となった。京都も1万8758件で減少。小中高校生の自殺は最多の415人だった。


    【不登校】京都は9年連続増加

     京都府内の国公私立の小中学校で2020年度の不登校の児童生徒数は、前毎度より410人(12・1%)増えて3810人と、9年連続で増加し、過去最多を更新したことが13日、文部科学省の問題行動・不登校調査で分かった。府教育委員会は「不登校が長期化する傾向も見られ、喫緊の課題だ」としている。

     小学校が1200人と前年度から230人(23・7%)増え、中学校は2610人と180人(7・4%)の増加。千人当たりの人数も、小学校は前年度の7・7人から9・6人に、中学校は36・3人から39・0人とそれぞれ増えた。

     京都市内分は小学校が前年度比166人(38・9%)増の593人、中学校が94人(8・5%)増の1204人と、ともに過去最多を更新した。

     府内の高校の不登校生徒数は714人で57人(7・4%)の減少だった。通信制高や新設された定時制高の人気の高まりなどが背景にあると見られる。

     府教委は「不登校の要因は親や友人との関係、無気力、学業不振、教師との関係など多様で複雑だ。『学校に行くことが全てではない』と保護者の意識が変化してきたこともある」と分析。新型コロナウイルスの影響については「感染拡大に伴う学校行事の制限や家庭の経済状況の悪化などで今後、さらに不登校が増える可能性も懸念している」とした。


    【表層深層】教員多忙でいじめ見逃しも

     文部科学省の2020年度問題行動・不登校調査で、新型コロナウイルス下の学校にさまざまな影響が出ていることが浮き彫りになった。制限続きの学校生活で、漠然とした理由の不登校が増加。子ども同士の接触減少で減ったとされるいじめは、感染対策に追われる教員の見逃しの可能性も指摘される。孤立感を深める子どもと、多忙化に拍車が掛かる教員。学校現場に新たな課題が重くのしかかる。

     「なんとなく不安」。昨年6月、東北地方の公立中で休校明けに不登校気味になった女子生徒に対応した30代の男性教諭は、その理由に驚いた。いじめなどのトラブルはなく、学業や友人関係に目立った問題もない。それでも教室に入れない日が続いた。

     こうしたケースは珍しくない。新潟県内の公立小の40代女性教諭は、具体的な理由がない不登校が増えたと感じる。「感染対策で多くの学校行事が中止になり、給食も黙って食べる。我慢だらけで、学校が楽しいと思えなくなっているのではないか」と指摘する。

     小中学生の不登校増加は8年連続だが、これまでは学校になじめない子がフリースクールなど学校外の学びを選択できるようになったという側面が大きかった。コロナが新たな形態を生んだ可能性がある。

     文科省はいじめの認知件数が急減したことを@一斉休校で授業日数が短縮され、児童生徒が対面でやりとりする機会が減ったA教員がコロナ関連のいじめを警戒して指導を徹底した―と分析、いじめ自体が減少した面があるどみている。愛知県の公立小の男性教諭は「いじめやトラブルは減った」と証言する。

     一方、都道府県別では認知件数が増えたところがあり、多くが見逃されているとの見方もある。「教員や親が忙しそうで悩みを打ち明けられなかったとの声が多く寄せられる」と話すのは、いじめ被害の相談に応じる高橋知典弁護士。「隠れた被害が進行している恐れがあり、危機感を持つべきだ」と警鐘を鳴らす。

     こうした中、コロナに絡むトラブルも表面化。欠席しただけで「感染したらしい」とうわさが立つ、マスクの着用が苦手なクラスメートを厳しく責める…。ある教員は「悪意はないが、大人の過剰な言動をまねているように見える」と嘆く。

     子どもの自殺も大幅に増えており、国や各地の教育委員会は相談体制の拡充に乗り出した。鹿児島県教委は今年4月からスクールカウンセラーを増員し、公立小中学校への派遣回数を大幅に増やした。担当者は「専門的な知識があり、子どもの本音を引き出せるはず」と期待を寄せる。

     ただ、コロナ以前の日常を回復する動きが本格化した21年度が危険と感じる教員は多い。学校行事が元通りになり、子どもの関係構築や教員による異変察知の機会が復活する。一方、20年度は中止されていた対面での教員研修や教委主催の会議も再開。負担が増し、かえって子どもと向き合う時間が削られかねない。

     兵庫県立大の竹内和雄准教授(生徒指導論)は、阪神大震災や東日本大震災では子どものストレスは2、3年後に噴出したとし「今後、不登校もいじめも増える可能性がある」と指摘。  「教員が連携し悩みを受け止める対応が求められ、時間も手間もかかる。指導と関係ない業務を削減するなど、教員の負担軽減を進めるべきだ」と訴えた。


    【新井肇・関西外国語大教授の話(生徒指導論)】息苦しさ一層深刻化

     不登校が年々増加しているのは、学習内容の増加で子どものゆとりが失われていることや、同調圧力の強い集団生活が負担となることが要因と考えられる。新型コロナウイルスでこうした状況が一層深刻化した。さまざまな活動が制限されたり、学習遅れを取り戻すために授業が詰め込まれたりしたことでストレスが高まり、学校生活に息苦しさを覚えた児童生徒が増えたのだろう。一方、いじめが減ったのは触れ合う機会の減少によるもので、孤立は深まっていると考えるべきだ。児童生徒が緩やかにつながりながら、共に学び、共に生活する喜びや面白さを実感できるような指導が求められる。


    府内いじめ16%減

     文部科学省が13日に公表した2020年度の問題行動・不登校調査結果で、京都府内のいじめ認知件数は国公私立の小中高校と特別 支援学校で前年度比3671件(16・4%)減の1万8758件だった。新型コロナウイルス感染拡大に伴う一斉休校が影響したとみられる。またコロナの感染回避のため30日以上の長期欠席をした小中学校の児童生徒数が初めて調査され、府内では230人いた。

     いじめ認知件数の内訳は小学校が2569件減の1万5786件、中学校が881件減の2441件、高校が162件減の369件、特別支援学校は59件減の162件。

     心身に大きな被害を受けたり、不登校になったりする「重大事態」は8件だった。

     コロナ感染回避のための長期欠席者の内訳は、小学校が172人、中学校が58人だった。このうち京都市内は小学校が122人、中学校は30人だった。

     暴力行為の発生件数は、小中高校の合計が前年度比442件(20・2%)減の1751件だった。内訳は小学校が176件減の869件、中学校が192件減の771件、高校は74件減の111件。一斉休校が影響したとみられ、生徒間暴力が最も多かった。

     高校の中途退学者数は595人と前年度から229人(27・8%)減った。


    不登校が増えていじめが減少。当然といえばそうなのだろうけれども「学校とは、教育とは」を考えさせられる数字ではないか。加えて、自殺者が増えてることも悲しい現実。総選挙後には「子ども庁」あるいは「子ども家庭省」が新設される見通しだが、どのような対策が打たれるのか見極めたい。単に給付を増やすだけではなく、「子どもが育つ」とはどういうことなのかを深く考えたものにしてほしい。


    10月7日 大津中2自殺10年

     大津市で2011年、中学2年の男子生徒=当時(13)=が同級生らによるいじめを苦に自殺した痛ましい事件から11日で10年がたつ。事件を機に「いじめ防止対策推進法」が施行されるなど対策が進められたが、いじめを受けた子どもが命を絶つ事態は後を絶たない。命日を前に父親(56)が取材に応じ、情報開示を拒む教職員の罰則規定などを盛り込む法改正や、いじめ撲滅に向けた家庭や学校の環境整備の必要性を訴えた。

     「息子が命をかけて作った法律。法律に生まれ変わり、今も生きていてくれているようだ」。父親は13年施行の同法への思いを語る。同法は、心身に重い被害を受けたり、長期欠席を余儀なくされたりしたケースを「重大事態」と規定。学校による報告に加え、教育委員会や学校の下に第三者調査委員会を設けて事実関係を調査し、結果などを被害者側に適切に情報提供するよう義務付けた。

     その重大事態は、文部科学省によると、19年度が723件で前年度比121件増で増加傾向という。父親は「法律で子どもを守り切れていない」と危ぶむ。同法が学校側のいじめに関する情報開示義務などを明記せず、違反した教職員への罰則規定などもないとして「実効性が不十分だ」と改正の必要性を訴える。

     実際、今年3月に北海道旭川市で中学2年の女子生徒=当時(14)=が死亡した事案では、背景にいじめの存在が疑われ、第三者委の調査が進むが、遺族は「進捗状況が共有されていない」と主張。父親は遺族に共感し、「学校側がいじめを頑として認めず、現行法ではその意識を変えることができていない」と強調する。

     いじめで自殺した子の遺族の支援にも携わる。愛知県の私立中で18年、いじめを受けた2年生=当時(14)=が自殺した事案では、学校側は当初、生徒の死を公表しなかった。県の調査委員会の再調査結果によると、生徒は自殺前月、いじめを学校側に訴えたが教職員が放置し学校が組織的な対応をせず、被害が深刻化したと認定。2年ほど前に遺族から相談を受けた父親は「いじめはなくならず、子どもの命が失われ続けている」と声を落とす。

     大津市のいじめ対策も後退したように映る。男子生徒の自殺を受け、越直美前市長は、子どもたちの新たな相談窓口で、各部習の情報を集約する「いじめ対策推進室」を市長部局に新設するなど、全国に先駆けて対策を講じた。

     ただ、回室が担っていたいじめ相談事業は昨年1月の佐藤健司市長就任後、教委に移管された。父親は昨年3月、市のいじめ対策の検証を求める意見書を市長宛てに出したが回答はないといい「方針を変えるにしても、積み重ねた対策の効果や今後の影響の検証を先にやるべきだった」と指摘。同室は「一部の業務の所管は教委に移ったが実施業務自体は変わっておらず、対策が後退したわけではない」とする。

     この間、司法判断では前進もあった。男子生徒の元同級生らに損害賠償を求めた訴訟では、今年1月、最高裁がいじめと自殺の因果関係などを認めた大阪高裁判決を維持し、確定させた。父親は「いじめが自殺につながる凶器となりうることを認めた」と一定評価。一方で、判決が損害賠償額の減額理由として「家庭環境の不備」を指摘した点に対し、「どういう家庭なら完璧な家庭といえるのか」と疑問も呈した。

     今後に向け、「『いじめは常に起きうる』という前提に立つなら、貧困や虐待などいじめの原因となり得る事情がある家庭を行政が早期に支援する仕組みのほか`他者への理解を深めるために心身の障害に悩む人たちの存在、性の多様性などを学校で学ぶことなどが求められる」と話す。教員らの業務の在ぴ方についても「忙しさの余り、子どもに寄り添う時間が確保できていない」と負担軽減を訴えた。


    父親の談として「情報開示を拒む教職員の罰則規定などを盛り込む法改正」を求めるとあるのだが、「教職員」とはだれを指すのだろうか。実際の学校においても権限があるように思える校長ですらほとんどこうした場合には裁量権はない。確かに、いじめの訴えに耳を貸さな教職員はいるだろうけれどもそのことは例外的であるように思える。いじめ→自殺というリニアな方向に子どもが進むのをどう防ぐかという論点の方が有意義なように思われるのだが…。


    10月5日 経産省 中・高のデジタル部活支援

     経済産業省が民間企業と組み。中学・高校のパソコン部などデジタル関連の部活への支援に乗り出す。デジタル社会を担う人材を育成する場として期待される一方、学校だけでは十分な指導が難しいケースがあるためだ。10月にグーグルなどIT企業の関係者らでつくる検討会を設け、来年3月をめどに官民連携による支援策を提言する。

     経産省の試算ではパソコン部がある中学・高校は全国で計3千校程度。プログラミング部やロボット部なども含めたデジタル関連部活の多くは、こうした分野を専門的に学んだり、指導したりした経験がない教師が顧問を務めているという。

     そのため支援策として、部活側から依頼を受けた企業の担当者らが対面やオンラインで指導、助言する仕組みなどを検討する。産業界と部活をマッチングする機能の整備も視野に入れる。

     検討会の委員には米グーグルの日本法人、日本マイクロソフトといった企業や教育分野の関係者が名を連ね、5日に初会合を開く。生徒が活動成果を発表する機会を設けることについても議論する見通しだ。

     経産省の担当者は「これから活躍が期待されるデジタル人材の候補を、若いうちから応援したい」と話している。デジタル庁や文部科学省などもオブザーバーとして参加する。


    菅・安倍政権で経産省の力が大きと言われてきたが、その流れは「成長なくして分配なし」をスローガンとする岸田政権になっても変わらないだろう。その担い手となると期待されているのがIT・AI。それにかかわる技術者や研究者を要請することは喫緊の課題となっている。「デジタル部」への支援もその一環といえるだろう。ただ、学校でのプログラミング教育の必修化などですそ野が広がるとしても、生産性を高めるために労働条件がないがしろにされる社会では心もとない。


    10月4日 教科書全国ネット21 従軍削除は「政府の不当介入」

     日本の中学校や高校の複数の教科書で旧日本軍の従軍慰安婦の表記から「従軍」が削除され、国内外で波紋を広げている。この表記は4月に閣議決定され、教科書会社が採り入れた。教育問題や歴史研究に携わる人々は「教育への政府の不当介入」「軍が関与した史実が正しく伝わらない」と批判している。

     「歴史研究や教育的配慮を抜きに、政府が用語まで問題にするのは学問研究や出版の自由を踏みにじる」。教科書問題に取り組む市民団体「子どもと教科書全国ネット21」は9月17日、東京で記者会見した。鈴木敏夫事務局長は「『従軍』がなければ軍の関与や強制性が分からない」と懸念する。

     閣議決定後の5月、加藤勝信官房長官は記者会見で「教科書検定規則に、文部科学相が訂正を勧告できる規定がある」と述べ、表記変更を迫った。各教科書会社が訂正を申請し、9月8日に文科省が承認した。会社関係者は「文科省と闘い、教科書が採択されなくなって経営が傾くのをみんな恐れている。訂正の勧告ちらつかせるのは脅しだ」と語る。韓国や中国は敏感に反応した。韓国外務省当局者は、「大変遺憾だ」と表明。日本政府に従来の歴史認識を覆さず、問題解決に向けて誠意を示すよう要求。中国外務省の副報道局長も、「史実を曖昧にしている」と主張し「侵略の歴史を誠実に正視し反省すべきだ」と述べた。

     閣議決定は、朝日新聞が慰安婦に関する故・吉田清治氏の証言記事を虚偽と認めて2014年に取り消したことを挙げ「従軍慰安婦という用語は誤解を招く」と明記。朝鮮半島から日本本土への労働者動員を「強制連行」とひとくくりにする表現も適切でないとした。

     「社会理論・動態研究所」の木下直子研究員(社会学)は、慰安婦問題の実証研究は吉田証言を採用せず、他の膨大な公文書や証言の収集、分析に依拠していると指摘した。


    いわゆる【吉田証言】を事実として受け止めていた経験は重い。しかし、吉田証言だけが強制連行などを示すものではいことは民間の調査でもわかっている。強制を戦時下での国策に一環として広くとらえることは歴史を見るうえで重要だと思える。


    10月1日 さいたま地裁 「もはや実情に適合しないのでは」

      教員の時間外労働に残業代が支払われないのは違法だとして、埼玉県の公立小学校教員の男性(62)が県に未払い賃金を求めた訴訟の判決で、さいたま地裁(石垣陽介裁判長)は1日、男性の請求を棄却した一方で、判決の「まとめ」で、残業代を支払わない代わりに月給4%分を一律で支給する教職員給与特措法(給特法)について、「もはや教育現場の実情に適合していないのではないか」と異例の指摘をした。教員の働き方改革や給与体系の見直しの必要性にも言及した。

     「まとめ」の全文は以下の通り。

     以上のとおり、原告には、労基法37条に基づく時間外労働の割増賃金請求権がなく、また、本件校長の職務命令に国賠法上の違法性が認められないから、その余の点を判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないといわなければならない。

     なお、本件事案の性質に鑑みて、付言するに、本件訴訟で顕(あらわ)れた原告の勤務実態のほか、証拠として提出された各種調査の結果や文献等を見ると、現在のわが国における教育現場の実情としては、多くの教育職員が、学校長の職務命令などから一定の時間外勤務に従事せざるを得ない状況にあり、給料月額4パーセントの割合による教職調整額の支給を定めた給特法は、もはや教育現場の実情に適合していないのではないかとの思いを抱かざるを得ず、原告が本件訴訟を通じて、この問題を社会に提議したことは意義があるものと考える。わが国の将来を担う児童生徒の教育を今一層充実したものとするためにも、現場の教育職員の意見に真摯(しんし)に耳を傾け、働き方改革による教育職員の業務の削減を行い、勤務実態に即した適正給与の支給のために、勤務時間の管理システムの整備や給特法を含めた給与体系の見直しなどを早急に進め、教育現場の勤務環境の改善が図られることを切に望むものである。(朝日新聞DIGITAL)


    【給特法】が現実のそぐわないとの感覚は多くの教員が感じていた。これまでも数えきれないほどの訴訟が提訴されてきたがいずれも「敗訴」となっている。2019年に給特法の改正がなされたが根本的な解決にはなっていない。また、2020年からは「変形労働時間制」の導入が自治体によって可能となり現在検討されている。超過勤務を年間で均して数字合わせをしようとすることでは「教員の働き方改革」は看板だけのものでしかない。