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7月30日 全国学テ ICT活用 正答率高く

 文部科学省は29日、小学6年と中学3年の全員を対象に4月に実施した2024年度全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の結果を公表した。

 国語と算数・数学の各教科で、知識やデータを活用し自らの考えを表現する力に依然課題が見られた。アンケートでは、授業で考えをまとめ発表する際、積極的に情報通信技術(ICT)を利用している学校ほど、各教科の正答率が高い傾向となった。

 ただ記述式問題でも、過去に比べ無解答率が下がっているものもあり、文科省は「書くことへの苦手意識は薄れつつあり、表現力は途上だ」としている。

 全国平均正答率(国公私立)は、中3が国語58・4%、数学53・0%。小6は国語67・8%、算数63・6%だった。中学国語は前年度より11・7ポイント下がった。選択式、短答式、記述式の出題形式別で見ると、中3の国語と数学、小6算数で記述式の正答率が最も低かった。

 中3国語の記述式の出題では、インターネットで入手する情報に偏りが生じる「フイルターバブル現象」に関する話し合いの場面が取り上げられた。他者の発言を根拠に、ネット上で本を購入する際の自分の考えを書くことを求め、正答率は45・1%だった。

 一方で、1次関数の式やグラフを用いて解決方法を説明させる数学の問題では、無解答率が過去の同様の設問より16・5ポイント下がった。

 アンケート結果によると、各教科とも、課題解決に向け話し合う学習活動を「よく行った」と答え、考えをまとめる場面でのICT活用が「週3回以上」とした学校の児童生徒のの正答率が、最も高かった。

 都道府県別の平均正答率(公立)の上位は、小中ともに石川、福井、秋田などが占めた。


【インサイド】課題解決力向上は長期戦

 2024年度全国学力テストの結果からは、自らの考えをまとめ表現する力が依然十分ではないことが浮き彫りになった。学習指導要領が提唱する課題解決型能力の向上には不可欠とされ、学校は「探究型」学習の推進など、育成へ模索を続ける。だが特効薬はなく、教育現場からは、現状のテストの限界を指摘する声も上がる。

 学力テストは、学習指導要領が育成を目指す資質や能力を測る目的で行われる。現行の学習指導要領は、課題を自ら見つけ解決する能力の育成を掲げ、国語では自らの思いや考えを書き表す力、算数・数学では言葉や図表、式を使い思考の過程を表現する力の育成に重点を置いてきた。

 こうした力はテストのたびに伸び悩みが指摘されている。現在と同じ出題形式になった19年度以降の5回(20年度は新型コロナウイルス禍で中止)のうち、記述式の正答率が選択式や短答式に比べ最も低かったのは中3が国語3回、数学5回、小6が国語3回、算数4回。小6国語では選択式や短答式より30ポイント低い時もあった。

 課題解決に向けて自ら考え、言葉で表す力の向上へ、学校では子ども同士の議論や発表を重視する「アクティブラーニング」が定着しつつある。児童牛徒が主体的に活動する探究型学習の実践も広がり、東海地方の公立小校長は「詰め込み型ではなく、子どもの知りたい気持ちを大事にする形に変わってきている」と話す。

 ただ課題解決型の能力は、短期間では獲得できない。この校長は「じわじわと身に付く力で、発揮されるのは義務教育を離れた後かもしれない。学力テストの点数が悪くても、自分で課題を考えようとする子どもは増えている」と指摘する。

 さらに、成績を上げるため過去問をやらせる学校もある現状を念頭に「過去問をやれば解ける問題で、本当に課題解決型の能力が測れるのか」とし、学力テストの在り方に疑問を呈した。


【小学国語】物語想像、読み解く力あり 目的応じ考え書く力不足

 平均正答率は67・8%。物語の全体像や人物像を想像して読み解く力や複数の情報の関連性を捉える力は身に付いていた。一方、目的や意図に応じて自分の考えを書き表す力が不足している。

 小学1〜6年の児童が一緒に活動する「縦割り班」を題材に、メモに書いてある他の児童の発言を取り上げながら「縦割り遊びの良さ」について自分の考えを書く設問は正答率が56・7%と伸び悩んだ。事実と感想、意見を区別することが難しかったとみられ、事実を自分の考えのように書く答案が目についた。

 物語を読んで心に残った箇所とその理由を書く設問は、72・7%が正答。「私たちの学校の良さ」という言葉を中心に、「伝統」や「おいしい給食」など関連する言葉を線でつないだ児童のメモ書きについて、意図を正しく理解できたのは87・0%に上った。


【小学算数】見取り図、展開図OK 速さの理解が不十分

 平均正答率は63・6%。図形の基本的知識は身に付いているものの、速さなどの意味や表し方を理解し、場面や目的に応じて日常生活に生かす力に課題が浮かんだ。

 図形では、作成途中の直方体の見取り図について正しい辺を選択する設問の平均正答率は85・6%。円柱の展開図で、側面の長方形に関して横の長さを尋ねた問題も、正答率が71・4%と高かった。

 自転車で家から郵便ポストまでを分速200メートルで、郵便ポストから図書館までを分速200メートルで走った場合の、家から図書館までの分速を尋ね た問いでは、「分速400メートル」との誤答が24・3%に上り、速さの意味の理解が不十分だった。

 桜の開花時期を折れ線グラフで読み取り、3月と4月の回数の違いを説明する設問は正答率が44・2%にとどまり、分析力に課題が残った。


【中学国語】図表の意図、理解できず 情報盛り込む要約、苦手

 平均正答率は58・4%。文中で用いられた図表の意図を理解したり、表現の効果を踏まえて目的に応じた文章を書いたりすることができていなかった。

 植物を題材にした文章で、葉の形が異なる複数の植物を並べた図が文中でどのような役割を果たすかを選択肢から選ぶ設問は、正答率が36・7%にとどまつた。

 本文中から必要な情報を取り上げながら、生物学とその他の学問の違いなどについて要約する問いは、43・3%が正答した。本文の情報を正確に盛り込む力に課題が見られた。紙の辞書を登場人物に見立てた物語の創作を巡る出題で、辞書の心情が伝わるような結末を考え、その際に用いた表現の効果について説明する問題では、結末は書けても表現の効果を的確に記せていない解答が目立ち、正答率は49・8%となった。


【中学数学】一次関数の基本はOK 数学表現使う説明に難

 平均正答率は53・0%。データを読み取り、判断の根拠について数学的表現を用いて説明することに難が見られた。

 評価の観点別の正答率は、知識・技能を測る設問が63・5%だった一方で、思考・判断・表現を測る問題は30・0%と低かった。

 ストーブの使用時間と灯油の残量を表すグラフを読み取る選択式問題の平均正答率は83・7%と高く、1次関数の基本的な知識・技能は身に付いていた。ただ「強」と「弱」の場合の使用時間の違いを、式かグラフを基に説明できたのは10%に届かなかった。

 車型ロボットについて、速度が速くなるにつれて進んだ距離が長くなる傾向にある理由を、五つの「箱ひげ図」を比較して説明できたのは26・4%にとどまった。箱ひげ図の設問は前年度も正答率が33・9%と低く、課題が継続している。


【新聞】「ほぼ毎日」・「読まない」、10ポンと差

 児童生徒の新聞を読む頻度と、全国学力テストの各教科の平均正答率を文部科学省が分析したところ、中3の国語以外は「ほぼ毎日」が最も高く、頻度が下がるにつれて正答率も低くなる傾向があった。「ほとんど、または全く読まない」は小中の国語と算数・数学の両方で正答率が最低。小6では「ほぼ毎日」よりそれぞ れ10ポイント以上下回るなど差が顕著だった。

 児童生徒アンケー卜で「新聞を読んでいますか」と尋ね、「ほぼ毎日」「週に1〜3回」「月に1〜3回」「ほとんど、または全く読まない」の選択肢を用意し正答率との関係を調べた。例えば小6国語では、「ほぼ毎日」とした児童の正答率は76・7%、「週1〜3回」74・4%、「月1〜3回」70・O%、「ほとんど、または全く読まない」66・5%だった。

 一方で、新聞を読む習慣がある子どもは減少している。「ほぼ毎日」と答えたのは、10年前の2014年度調査では小6が10・1%、中3が8・2%だのに対し、今回は小6が3・8%`中3が2・1%となった。


【スマホ】長いほど正答率低下

 小6の2割以上、中3の3割以上が、スマートフォンでの動画視聴や交流サイト(SNS)の閲覧に1日3時間以上費やしていることが、全国学力テストの児 童生徒アンケートで分かった。前回2022年度調査より小中ともに割合が増加。利用時間が長いほど平均正答率は低かった。

 平日に1日当たりどれくらい携帯電話やスマホで動画やSNSを見るか(学習は除く)を質問。「4時間以上」と答えたのは小6で11・8%、中3で17・9%。「3時間以上、4時間より少ない」は小6が8・7%、中3が14・2%だった。3時間以上の割合は、同様の質問をした前回調査から小6で0・8ポイント、中3で2・9ポイント増えた。

 利用時間と各教科の平均正答率の関連を調べたところ、小中の国語、算数・数学いずれも、「30分より少ない」が最も高かった。利用時間が長くなるほど平均 正答率が低下する傾向がみられ、「4時間以上」がいずれも最低だった。

 「携帯電話やスマホを持っていない」と回答したのは小6が21・1%、中3が3・4%だった。 


2007年からほぼ毎年実施されてきた学力テストは今回で14年目となった。ほぼ毎回同じ調査結果と考察がされ、思考することに問題があるとの指摘がなされてきた。また、家庭の文化資本が学テの結果に影響を及ぼしているとの指摘も同じだ。2003年のPISAショック以来、いわゆるOECD型のコンピテンシーが将来つけるべき能力として重視されてきたが、果たしてこうした能力を求めることが教育なのだろうかとい疑問が呈されたことは教育行政内部からは聞こえてこない。学力テストは当然ながら個人の能力を測っているのだから「協働」する能力は求められれていない。


7月30日 府・市教委 全教科 平均上回る

 京都府と京都市の両教育委員会は29日、2024年度の全国学力テストについて、京都市を含めた府内の公立小中学校、特別支援学校の結果を公表した。小学校の国語、算数、中学校の国語、数学の全てで全国の平均正答率を上回った。実施した全教科が全国を上回ったのは、小学校は同テストが始まった07年度から16回連続、中学校は9回連続。

 2教科合計の全国順位は、小6が47都道府県中で5位(前年度5位)、中学は11位(8位)だった。教科別の平均正答率は小6の国語が70%(全国平均67・ 7%)で4位(4位)、算数は67%(63・4%)で2位(4位)。中3は国語が59%(58・1%)で7位(5位)、数学が53%(52・5%)で11位(8位)だった。

 京都市を除く府内市町村の正答率は、小6国語が68%、算数が65%、中3国語が58%、数学52%となったのに対し、京都市は、小6の国語72%、算数68%、中 3国語が60%、数学53%となり、いずれも府内市町村の正答率を上回った。

 京都市内小学校の2教科合計の成績は20政令指定都市の中で4年連続の首位となった。都道府県別で1位(本年度は石川県)の自治体に対しても初めて上回っ た。

 府内全体の正答率の分布状況をみると、最下位層の割合が小さくなっており、学力の底上げが進んでいるという。府教委は、基礎を定着させる補習授業の実施 などが成果を上げているとみている。

 京都市とそれ以外の府内の正答率に差が出たことについて、府教委学校教育課は「地域差があることは課題だ。これまでは最下位層を減らすことに力を入れてきたが、あらゆる層の学力『向上を目指したい』としている。

 学力テストは府内公立の小学校355校1万8033人、中学校170校1万6722人が4月18日に受けた。


主体性育む授業 研究必要に

 全国学力テストで実施されたアンケートでは、京都府内の児童生徒の「学習に対する受け身の姿勢」が課題として浮かび上がった。「自分で学ぶ内容を決め、計画を立てて学ぶ活動を行っている」と答えた児童生徒の割合は、小中とも全国集計を下回った。国語や算数・数学が好きと答えた子どもも少なく、府教委の担当者は「子どもが能動的に取り組む授業が少ない可能性がある」とみている。

 「自分で学ぶ内容を決める」かどうかを問う質問は、「主体的・対話的で深い学び」を重視する現学習指導要領を受け、今年初めて設けられた。「よく行った」「どちらかといえば、行った」と答えた京都府の子どもは小6で57・4(全国61・2)%、中3で43・5(55・3)%となり、いずれも全国を下回った。

 国語が好きですか、という問いに、「当てはまる」または「どちらかといえば、当てはまる」と答えた京都府の子どもは小6で58・6(62・0)%、中3で60・8(64・3)%で、いずれも全国を3ポイント以上下回った。算数・数学が好きな割合も全国以下だった。

 府教委学校教育課の中村義勝課長は「学力の底上げに注力して府全体の学力は向上したものの、下位層中心の授業を楽しくないと感じる子どももいるのかもしれない」と漏らす。パソコンやタブレットを使って個人のペースで学習できる環境づくりや、課題解決型の学びを通じ「子どもに主体性を持たせる授業を研究していく必要がある」と述べた。


全国学力テストが注目されるのは、結果的にはその順位のみではないか。


7月29日 被爆者団体 2世高齢 継続に悩み

 広島、長崎の被爆者らでつくる全国組織「日本原水爆被害者団体協議会(被団協)」に参加する36都道府県の団体に共同通信が実施したアンケートで、8割に当たる29団体が運営に被爆2世など被爆者以外の次世代が関わっていると答えたことが28日、分かった。ただ今後「10年以上活動できる」としたのは6団体のみ。当事者主体の運営に変化が見える一方、活動の継続に依然悩む実態が明らかになった。

 8月で広島、長崎への原爆投下から79年を迎え2世も高齢化が進む。ロシアによるウクライナ侵攻などで核兵器使用への懸念が高まる中、結成以来続ける核廃 絶の訴えからノーベル平和賞候補にもなってきた団体を維持する難しさが改めて浮き彫りになった。

 アンケートは被団協に参加していたものの解散、休止、脱退などした11県を除く36都道府県の役員らに5〜7月、対面や電話、書面で実施。全ての団体から回 答を得た。

 島根県の団体は会員の約4割に当たる59人が2世で、会長も2021年から2世が務める。宮城県も2世が副会長や事務局長に就いており、いずれも「10年以上活動できる」と回答した。「その他」の中にも「半永久的に残すべきだ。検討チームで議論している」(長崎)との声があった。

 一方で、16団体が今後の活動について「5年はできる」や「3年はできる」を選択。このうち13団体は運営に2世らが関わっているとするが、「2世の副会長 も76歳でいつまでできるか。他に引き受け手はいない」(長野)など、団体を引き継いだ2世自身の高齢化に加え会員数の伸び悩みなどにより活動の担い手が先細る恐れがあるとした。

 存続に必要なことは「2世や被爆者以外の参加」が19団体で最も多く、「国や自治体の財政支援」が10団体、「他団体との統合を含めた組織改編」が6団体で 続いた。会員数の減少に伴う収入減で、原爆展など被爆の実相を伝える活動が難しくなる可能性を指摘する団体もあった。

 これまでに解散を検討したことがあるとしたのは、福島や神奈川、鹿児島などで、来年3月末での解散を決めている北海道を含め7団体あった。被爆者の平均 年齢は今年3月末時点で85・58歳。かつて47都道府県全てに団体はあったが減少が続いている。


立命館大国際平和ミュージアムの安斎育郎名誉館長】市民運動の相互連携を

 原爆被災の跡を残す「物」資料と、証言などの「物語」を社会的にどう継承・保全していくかが問題だ。被爆者の生存中に「物」が散逸しないよう、都道府県ごとにきちんと収集・保管すべきだ。「物語」については、被爆者が味わった苦しみを社会に伝える゛伝承者゛を増やさなければならない。市民運動間の連携が十分にできていないことも、もったいない。戦争展や被爆写真展、空襲被害を語り継ぐ会などを共同開催したり、展示資料を相互に提供したりすることで資金面での負担を軽減し合い、活動を活性化することが期待される。


【被爆者】「廃絶に逆行」

 日米両政府が、米国が核を含む戦力で日本防衛に関与する「拡大抑止」を強化することに合意した28日、広島、長崎の被爆者からは「核兵器廃絶に逆行する動 きだ」「戦争に近づく」と批判の声が上がった。

 「核兵器をなくす動きを真っ向から無視している」。広島県原爆被害者団体協議会理事長の佐久間邦彦さん(79)は語気を強めた。

 昨年5月の先進7力国首脳会議(G7広島サミット)で発表された核軍縮文書「広島ビジョン」は核抑止論を肯定する内容だったことに触れ「核保有国は、核 で平和を保ちたい姿勢を鮮明にしている」と指摘。日本政府に「外交努力で平和を築き、核の傘に頼らない方向になってほしい」と求めた。

 長崎原爆被災者協議会(長崎被災協)会長の田中重光さん(83)は、日本政府の安全保障の姿勢に「米国の言う通りに軍備増強に傾いていないか。ここ数年、専守防衛がなし崩しになっている」と疑問視した。


「戦争を語り継ぐ」ことの難しさは、現状の運動がこうした高齢者に偏っていることからも明らか。具体的な「語り」の在り方を展望しなければならない時期に来ている。「非戦」を学校教育の中でどう生かしていくのかを創造しなくてはならないだろう。政府がそれを支援する方向を示さなくてはならないのだが、現実は真逆だ。防衛省は米国にパトリオット売却(約30億円)を決定、建前は単なる「輸出」だが結果的にはウクラナ、イスラエルへの武器許与になる。改めて、「戦争で儲かるのは誰だ!死ぬのは誰だ!」と問うべきだろう。


7月27日 原子力規制委員会 敦賀原発 新基準適合せず

 原子力規制委員会は26日、日本原子力発電が再稼働を目指す敦賀原発2号機(福井県)の審査会合を開き、原子炉直下に活断層が存在する可能性があるとして、原発の新規制基準に適合しないと結論付けた。不適合判断は規制委発足後初めて。今後の取り扱いは31日に委員全5人が出席する定例会合で検討するが再稼働は困 難で、審査不合格となる公算が大きい。(以下略)


【解説】最悪想定し厳格適用

 原子力規制委員会は、日本原子力発電敦賀原発2号機の原子炉直下に活断層が存在する可能性があるとして、新規制基準に適合しないと結論付けた。活断層を「13万〜12万年前の活動を否定できないもの」とする新基準を厳格適用した。原電が「100%シロ」と立証できない以上、生じうる最悪の事態まで想定し、より安全側に立った妥当な判断だ。

 原電は審査継続を望んでおり、原発推進派は「拙速な判断だ」と批判する。しかし合格した他の原発の審査では「時間をかけすぎだ」と主張してきたことを考えると、言いがかりに過ぎない。

 一方で、今回の結論まで10年以上かかったように、自然災害の想定が難しい原発の審査長期化は規制委の課題であるのは確かだ。今年1月の能登半島地震で被 災した北陸電力志賀原発や、南海トラフ巨大地震で20メートルを超す津波が襲来する恐れのある中部電力浜岡原発などの審査も結論が出る見通しは立つていない。

 いたずらな長期化は規制委と電力会社双方に負担をかける。規制委には人員の増強や審査の効率化などの工夫が求められる。規制委に独自の調査権限を与える のも一つの方策だろう。


2011年3月11日の東日本大震災で日本の原子力政策は大きく転換するはずだったが、脱炭素を名目としてそれはなっていない。規制委員会の結論は望ましいのだが、敷地内に新たな原発を建設するとの原電側の動きもあるようだ。また、建設費用の電力料金への上乗せも可能との考えもある。原発推進のために迂回的な増税(電力料金への上乗せ)だろう。政治が機能していない日本の在り方の象徴ではないか。


7月26日 相模原事件から8年 障害者生活 進まぬ地域移行

 相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者ら45人が殺傷された事件から26日で8年となった。事件を受けて神奈川県は「ともに生きる社会の実現」を掲げ、障害者が施設で生涯を過ごす福柾政策からの転換を重視し、生活の場の地域移行を推進する。しかし、実際にはグループホーム(GH)を開設しようとして住民の反対に遭い、断念せざるを得ないケースが目立つ。共生社会への道のりは遠い。

 「(町内会の)全員が賛成しない限り、やらせない」。2023年10月、横浜市金沢区に開設予定の障害者向けGHの説明会で、住民から反対発言が相次いだ。市によると、運営会社は市の補助が決まり、23年度中の開設を目指していたが「入居者を守りきれない」と判断。今も開設できていない。

 県が地域移行を推進する中、やまゆり園の入所者にはGHなどでの生活を選んだ人もおり、地域での生活の場確保は必須となっている。

 16年施行の障害者差別解消法には、偏見や差別意識によって障害者関連施設が造れない恐れがないよう国や自治体が施設を認可する際、「周辺住民の同意を求 めないことを徹底する」との国会の付帯決議がある。

 しかし、知的障害者の親らでつくる「全国手をつなぐ育成会連合会」(東京)が20年に実施した調査では、過去10年で会員が関わるGHなどの施設の建設・運営開始にあたり、住民の反対があったケースは全国で95件。うち約3分の1が開設できなかった。「事件や事故が起こるのでは」と漠然とした不安や偏見に基づいた理由が多かった。

 川崎市で精神障害者向けGHなどを運営する社会福祉法人の青野真美子理事長(65)も10年ほど前、「説明すればするほど反対が激しくなった」というGH移 転に伴う反対運動を振り返る。

 説明会を開き、弁護士を立てて交渉して開設にこぎ着けたが、ある住民の言葉が心に残った。「障害者を隔離する国の政策の中で、私たちは障害者を知らず生 きてきた。急に共生社会と言われ、家の隣にホームができるとなっても理解が追いつかない」

 開設後、講演会や障害者が登場する映画の鑑賞会を開くなど、より意識的に入居者の日常を知ってもらえるよう取り組んだ。最近は就労支援施設で働く障害者 と地元の小学生が交流し、一緒にハーブティーやクッキーを作って販売もしている。「小さいことかもしれないけれど、理解してもらえるよう一歩一歩進んでいくしかない」


事件発生当時は「内なる優性思想の克服」が大きなテーマとなっていたが、その後目立った進展はみられていない。「内なる優性思想」を問題にすることも必要だが本紙記事にある「理解が追いつかない」という住民の意識は、行政の不作為として非難されなければならない。同時に学校教育での分離教育を克服する方向必須だ。


7月26日 人事院 国家公務員 月給増額へ

 人事院が2024年度の国家公務員の給与改定で一般職の月給を3年連続で引き上げる方向で調整していることが25日、分かった。物価高に対応して賃上げが 続く民間給与との格差を埋める。ボーナスの水準は調整中だが、勤務成績が優秀な職員への配分を拡充する方針。8月にも国会と内閣に勧告する。

 23年度改定では、一般職のうち最も多い行政職で月給を平均0・96%引き上げるよう勧告したが、今回はそれを上回る引き上げ幅となる見通し。若手職員の上 積み額を手厚くするとみられ、具体的な金額を最終調整している。

 ボーナスについて、人事院は、民間では月給ほど伸びていないと分析しており、現状の月給4・50ヵ月分から小幅な引き上げを行うかどうか、慎重に検討している。

 公務員のボーナスは期末手当と勤勉手当で構成され、割合はおおむね半分ずつとなっている。勤勉手当は4区分の人事評価に応じて支給額が変わり、最上位の「特に優秀」は最大で平均的な額の約2倍。これを約3倍まで引き上げるよう勧告する。若手や中堅の意欲を引き出し、人材確保につなげる狙い。人事院は24年度の改定に向け、4〜6月に従業員50人以上の企業から抽出した約1万2千事業所を対象に、給与やボーナスの水準を調査した。


人事院勧告制度は、公務員の労働3権制約の代償機関とされるていることはすでに忘れられている。今回の「0・96%引き上げ」なら勧告を行う必要性がないのだが、それでも勧告を行う。とりわけ、勤勉手当の人事評価への反映を拡大することへの問題は大きい。教員の働き方改革の中で「チーム学校」での対応が求められる中、だれが「優秀」なのかを持ち込むことは改革への逆効果となる。金額だけでなく制度への言及にも注意が必要。


7月25日 市教委 いじめ 生徒と認識ズレ

 現在中学生の男子生徒(14)と女子生徒(14)が京都市立小でいじめを受けて長期欠席していたにもかかわらず、市教育委員会がいじめ防止対策推進法に基づく「重大事態」に認定していなかった問題は、市教委が謝罪し、3年前にさかのぼって重大事態と認定する異例の経過をたどった。両生徒へのいじめを把握しながら重大事態として対応しなかった背景には、いじめ行為を巡る生徒側との認識のズレがあった。市教委はいじめ調査のやり直しに着手したが、両者の溝が埋まるかどうかは見通せない。

 2021年3月、当時市立小5年だった女子生徒の母親(53)は「ケース会議」に呼ばれて学校に行った。女子生徒は、同級生から悪口を言われたなどとして前年12月から学校に行きづらくなっていたが、会議では対応についてほとんど触れられなかった。母親は「嫌な思いをしたのに、調査もしてもらえない」と不信感を募らせた。

 取材に対し、市教委は「(女子生徒の)欠席には別の要因もあると考えた」と説明する。悪口については母親から訴えがあった段階で学校が加害側の子どもに指導したこともあり、欠席の直接の原因とは考えなかったという。

 保護者が要請したいじめアンケートは21年10月に初めて行われ、女子生徒の名前に「菌」を付けて呼ぶなど「ばい菌」扱いし、触らないようにするいじめがあったことが明らかになった。6年生の1年はほとんど登校できず、卒業後は私立中に進学したものの、体力面や「教室に入るのが怖い」などの不安から退学に至った。母親は「(いじめの影響を)小学校で区切りにできず、いつまでたっても元気になれない」と声を落とす。

 同時期に同じ小学校に在籍し、持ち物を机から勝手に持ち出されて壊されたなどのいじめを受けた男子生徒の母親(45)も、学校の対応を疑問視する。「先生は『注意して見ておく』と言うばかりで、嫌がらせはなくならなかった。警察のような調査はできないと言われた」と振り返る。学校のいじめ調査が進まなかった際に市教委に手紙を書いたが返事はなかった。

 市教委は今回、女子生徒と男子生徒へのいじめを21年度に発生した重大事態と認定して市長に報告した。市立学校では、いじめ防止対策推進法施行から22年度までの9年間で27件の重大事態があったが、過去にさかのぼって認定するのは初めて。今後、いじめの事実確認を始め、当時の小学校や教育委員会の対応を振り返り、再発防止策を含めて調査報告書をまとめる方針だ。調査メンバーの一部に弁護士ら外部有識者を入れる検討はしているものの、市教委が常設する「市いじめ問題調査委員会」に諮問する予定はない。

 京都市の場合、「第三者調査は法律上の義務ではない。教委にはいじめ対応のノウハウがある」(市教委生徒指導課)として、これまでに認定した重大事態を調査委員会が調査した事例は1件もないが、同じ政令指定都市でも状況が異なる自治体がある。

 大阪市は第三者委員会を常設した21年度以降、すべての重大事態を委員で調査しており、学校から報告があるか、児童生徒または保護者から重大事態が発生したとの申し入れがあった場合、主に弁護士と心理士が数力月以内に初動調査し、結果を伝えているという。京都府教育委員会や滋賀県教育委員会も第三者調査の実績がある。

 元滋賀県いじめ再調査委員会委員長の春日井敏之立命館大名誉教授(臨床教育学)は「学校だけでなく教育委員会の指導・支援の不十分さが今回の事態を招いたのではないか。何が問題だったのかの検証は当然必要で、教育委員会は調査を受ける側でもある」と話す。「3年前のいじめ調査は双方の生徒にとって負担となる。常設のいじめ調査委員会があるのに諮問しないというのは、委員会を軽んじていると言わざるをえない」とも話し、第三者調査を実施すべき案件だと指摘した。


京都市教委の体質をよく表した事件だといえる。「教委にはいじめ対応のノウハウがある」とは何を意味しているのだろうか?まさか、現在の京都教育大学名誉教授・桶谷守氏がかつて市教委の生徒指導をけん引してきたことを表しているのではないだろうが。


7月25日 首相 特別支援校「加配を拡充」

 岸田文雄首相は24日、障害のある子どもへの支援体制強化に向け、特別支援学校に対し、教職員定数を政策的に配分する「加配」措置を拡充する方針を明らか にした。地域の支援拠点である児童発達支援センターの体制強化に取り組む考えも示した。視察先の北海道千歳市で記者団に語った。

 特別支援学校に関し「専門性を生かして地域のセンターとして機能強化を進めたい」と強調。児童発達支援センターによる関係機関との連携強化を全国に広げ、支援人材の育成も図ると説明した。

 首相は24日午前、札幌市東区の児童発達支援センター「むぎのこ」を視察。障害のある子どもや家族を支援する事業を巡り、利用者らと意見交換し「教育と福 祉が連携して障害のある子どもを支援する取り組みを後押しする。多様な支援二ーズに応え、誰一人取り残さない社会を実現する」と強調した。この支援センターを運営する社会福祉法人「麦の子会」は就学前の乳幼児から成人までを受け入れ、家族の支援にも力を入れている。

 首相は記者団に、相模原市の知的障害者施設で入所者19人が殺害された事件が26日で発生8年となる点に触れ「優生思想、障害者に対する偏見や差別の根絶に 向けて、これまでの取り組みを点検し、教育、啓発の取り組みを強化しなければならない」と言及。全閣僚が参加する対策推進本部を26日に立ち上げ、29日に初会合を開くとした。


この首相の発言の軽さは目に余るものがある。場当たり的な発言で実施されてきた政策をほとんどの国民は支持していたいのは最近の世論調査でも明らか。障害のある子どもの対策が特別支援学校への加配であるとする認識は、ほとんど障害のある子どもの福祉・教育への不見識をさらけ出しただけのもの。


7月24日 公立学校共済組合 高ストレス教員11%

 公立学校共済組合はこのほど、加入する小中高校教員らに2016年度から毎年実施している「ストレスチェック」の集計結果を初めて公表した。「高ストレス」と判定された人の割合は、新型コロナウイルス禍で臨時休校などがあった20年度を除き増加傾向で、23年度の速報値は11・7%となり過去最多だった。事務的業務の多さなどが要因とみられる。

 ストレスチェックは労働安全衛生法で事業者に実施が義務付けられており、共済組合は全国の教育委員会向けに調査票を提供している。

 16〜22年度に受けた延べ172万人分のデータを組合が分析したところ、高ストレス者の割合は、学校種別では中学と高校がほぼ10%以上と高く、最高は22年度の中学の13・2%。職種別では管理職を除く教員がいずれの年度も最多で、教頭は7年で3・2ポイント増と上昇幅が大きかった。年代別は30代と40代が高い水準で推移。特に30代は7年で4・2ポイント増と増加が目立った。

 受検者全体のストレス要因(1人2個まで選択可)では、7年連続で「事務的な業務量」が最も多く、「対処困難な児童生徒への対応」が続いた。学校運営に関する業務を担う「校務分掌」も上位だった。22年度は「保護者対応」が12・4%で4位となり、初めて上位5位に入った。

 1日の就労時間が12時間以上の人は、16年度の25・6%から22年度は17・5%と減少した。

 教員の診療に20年以上携わり、分析に協力した福岡聖恵病院の十川博副院長は「コロナ禍以降、人間関係が希薄になり悩みを一人で抱え込む若年層の教員が増 えた」と指摘。「特に理不尽な保護者への対応は難しく、フラッシュバックに苦しむ教員もいる。学校だけで対応するのは限界で、社会全体で問題を共有し議論していくべきだ」と話した。


【インサイド】保護者対応 広がる負担軽減

 教員のストレス要因の一つとされる保護者対応。理不尽な要求への対処で授業準備など本来業務に支障が生じる恐れもあり、学校任せにしない取り組みが各地で広がる。現場の負担軽減策として期待される一方で、専門家は外部に委ねるだけでは根本的な解決にならないと指摘する。

 文部科学省の2022年度の勤務実態調査では、保護者対応が負担だと回答した小中学校の教員は、成績処理や事務作業に次いで多かった。別の調査では、精神疾患を理由に休職した教員が過去最多に。文科省は保護者対応が一因と分析し、24年度予算に1億円を計上して各教委による教員の負担軽減の取り組みを後押ししている。

 奈良県天理市教委は今年4月、家庭からの相談に一元的に対応する「子育て応援・相談センター」を開設。元校長4人や臨床心理士らが常駐し、ケースによって相談機関や弁護士、学校につなぐ。山口忠幸教育次長は「教員には子どもに向き合う本来業務に集中してほしい」と語る。

 帝京大の佐藤晴雄教授(教育経営学)は「対応が長期化して教員が疲弊するケースは多く、第三者が介入する仕組みは負担軽減につながる」と評価。その上で「保護者対応を丸投げするような運用では問題はこじれる。学校が多様な専門家の知見をうまく活用できるような仕組みを構築していくべきだ」と指摘した。


共済の調査はほぼ予測がつく数字だった。しかし、現場ではそのストレスチェックすら「ストレスになる」として受診しない人がいることから考えれば、潜在的な「高ストレス」者はもっとおおいのだろう。保護者対応だけがストレッサーとなるわけではなく、教育委員会の対応や旧態然とした管理職もストレッサーであるという認識は必要。また、愚痴を吐き出す同僚関係が育たたない職場環境の改善も必要。


7月23日 NPO開発 学習端末 子のSOS察知

 子どもの自殺者数が高止まりする中、オンラインでの自殺予防に取り組むNPO法人「OVA(オーヴア)」は、学校で1人1台配備されている学習用デジタル端末経由で心身の異変を把握し、相談窓口などの情報を自動的に伝える機能を開発した。教育機関は無償でインストール可能。担当者は「悩みを抱える子どもを適切な支援につなげたい」として導入を呼びかけている。

 この機能は「SOSフィルター」。「自殺」「学校での人間関係」「性暴力」など6カテゴリーごとに計約4800個のキーワードが登録されている。例えば 子どもが学習用端末で「消えたい」といった言葉を検索すると、連動して相談窓口やセルフケアの方法が自動的に表示される。

 プライバシーに配慮し、検索した個人の情報は、OVAや学校、教音委員会には伝わらないようになっている。 OVA 警察庁の統計によると、2023年の小中高生の自殺者数は513人で、過去最多だった前年から1人減ったものの高い水準が続いている。

 OVAが昨年11月〜今年3月末、私立中高生約980人を対象に「SOSフィルター」を試験運用したところ、月平均で27回、学習用端末で自殺などに関連する言葉の検索が行われていた。

 OVAの伊藤次郎代表理事は「検索行動は子どもたちの『心の叫び』。問題行動として規制や監視をするのではなくSOSのサインととらえて、『生きる』を 支える仕組みの導入を全国の学校で進めてほしい」と話している。


一つの有効な方法かもしれない。自殺を願望する子どもの声をどう受け取めるのかが大切。ただ、こうしたソフトが必要な学校とはなんなのだろう。


7月21日 【教育】 小学校の放課後部活 転機

 京都市立小学校で原則全校で行われてきた放課後のクラブ活動が来年度、実施の判断を各校に委ねる「学校選択制」に変わる。小学校で放課後に実施する部活に取り組む事例は全国的に珍しい。スポーツ、文化芸術を通じた交流や健康増進に貢献してきた一方で、教員の働き方改革が進む中、指導する教員の負担が大きいとの指摘もあった。学校選択制により市が独自に育んできた部活が大きな転換点を迎えている。(生田和史)

 京都市立小の放課後部活は、1971年から国の留守家庭の対策事業として実施されてきたスポーツ教室を引き継ぐ形で2002年度にスタートした。

 市教委によると、各校によって違いがあるものの、4年生以上を対象に、サッカーやバスケットボールなどの運動系と、音楽や将棋などの文化系を合わせて4〜5クラブを用意する。任意参加で、活動費用は原則不要。週1、2回、各1時間程度行う。地域指導者がいるケースもあるが、多くは教員が指導する。

 6年生が都大路を走った「大文字駅伝」に向けて事前練習の過熱化につながった反省で活動日数を減らしたり、新型コロナウイルス禍で活動を制限した影響で、近年は縮小傾向をたどっていた。そもそも、小学校の放課後の部活は、学習指導要領に記載がなく、「不要論」も一定存在していたという。

 市教委が6月、市立小を対象にした意向調査では、本年度に放課後の部活を実施していると回答したのは、義務教育学校を含む全158校のうち141校。実施していないとしたのは、前年度から12校増の17校だった。実施していると回答した141校でも部活動が縮小している傾向がみられた。18年度から24年度の推移では、クラブが6種類以上あったのは24校から8校に減る一方で、1〜3種類は50校から83校に増えた。活動回数は週1回が92校から136校に、活動時間も1時間未満が12校から55校に増加した。

 学校選択制への変更を受け、市教委体育健康教育室は「各学校の地域性や実態に応じて取り組んでほしい」としている。

以下詳細は別記リンク


教員の働き方改革の一環での規模縮小だそうだが、本来教育委員会が主導すべき問題であるにもかかわらず「学校選択性」としていることには疑義がある。「各学校の地域性や実態」とはいうものの校長がどちらの側に立って判断することができるかは未知数。廃止によって地域から不満が出ればその手法への評価が次回「異動」へとつながる恐れを感じる人もいるだろう。結局、教員への負担におもねるしかなくなる。


7月21日 【インサイド】 国公立大 財政難

 京滋の国公立大に実施した京都新聞社のアンケートでは、授業料の値上げを現段階で検討している大学はなかったものの、財源確保に苦慮している現状が浮かび上がった。多くのノーベル賞受賞者を輩出した京都大に代表される日本の研究力に陰りが見える中、国公立大への財政支出を減らしてきた国の姿勢に危機感を訴える声も上がる。 (鈴木雅人、川辺晋矢)

 3月にあった中教審特別部会で、伊藤公平・慶応義塾長は国公立大の授業料などを「年150万円程度とし、受益者負担にすべき」と発言。文部科学省の授業 料「標準額」から3倍もの値上げを求めたことに波紋が広がった。

 これに対し、アンケートで多くの大学は「低所得層の受験生に(3倍の値上げ分を補う形で)手を差し伸べられる奨学金制度ができるのか、財源的にもシステ ム的にも疑問が残る」(京都教育大)などと学生側の負担の重さを憂慮。ただ、高等教育にかかるコストの大きさを問題提起した点に限れば多くの大学が発言を支持した。

 背景には2004年の国立大学法人化以降、運営費交付金をはじめとする国の財政支出の減少が続き、大学の研究や教育の現場を圧迫している現状がある。

 22年度当期分の京大への運営費交付金は566億円で法人化から1割減った。自然科学分野の京大教授は「教員人件費が含まれる運営費交付金の削減により、多くの部局で教員数は1割程度は減ったのではないか」とみる。教授と准教授、助教が一体で切り盛りする教育研究体制が維持できず、機能不全になっている研究室もあるようだ。、

 30代から40代前半の若手研究者へのしわ寄せも大きい。

 1人が受け持つ講義の数が増える一方で、実験担当の人手としても見込まれる立場でもあり、自らの発想に基づく研究に割く時間を奪われているという。この 教授は「京大は日本のブレーンセンター(知の拠点)であるべきだが、教員が増える見込みのない状況はかなり厳しい」と研究力低下を心配する。

 一方、文科省の競争的資金である科学研究費(科研費)は、運営費交付金とともに大学運営を支える「両輪」とされるが、こちらも10年間でほとんど増えず、年2300億円規模で推移。政府に増額を求め、京大の高橋良輔特定教授が代表を務める日本脳科学関連科学連合など12学会が呼びかけ、約210学会の賛同を経て今月から署名活動を行っている。

 科研費は基礎研究を支える資金として、IPS細胞(人工多能性幹細胞)を開発した山中伸弥京大教授をはじめとする日本人のノーベル賞受賞にも貢献してき た。しかし、署名の活動団体によると、運営費交付金で賄われていた施設維持費や電気代といった経費の不足を科研費で補おうと、公募申請数が激増して「狭き門」となった結果、不採択で資金確保できず、研究を途中で断念したケースも相次いでいるという。

 パーキンソン病などの研究で知られる高橋さんは、海外各国が積極的に研究費を拡大させてきたことを挙げ、「20年間でアジア諸国の台頭もあり、医学・生物 学の研究現場でも日本が世界のトップグループでなくなってきた実感がある。基礎科学を振興し、イノベーションを生み、日本を元気にしようとする署名活動をぜひ国民に応援してもらえたら」としている。


「海自 手当不正受給 総額約5300万円」ではほとんど焼け石に水だが、そうした議論が起こってくるような政権運営。これも安部政治10年の負の遺産。ここから脱却するしか解決の方法はない。


7月20日 中教審 大学縮小の指導を強化

 中教審の特別部会は19日、急速な少子化を踏まえた大学など高等教育機関の在り方に関する答申の中間まとめ案を大筋で了承した。規模縮小へ向け、再編・統合や撤退をさらに促すための支援策や、指導強化などが盛り込まれた。年度内の答申に向け、授業料を含めた教育費負担についても今後議論を深めるとした。

 文部科学省の推計によると、2023年に63万人いた大学入学者は40年には51万人程度に減少。大学は現在の定員の8割程度しか埋まらなくなる。

 中間まとめ案では、定員未充足や不採算の状態が続く大学に、縮小や撤退の指導を強化すると明記。財務状況が厳しい大学を統合した場合、受け入れ側の大学で一時的に定員割れなどが起きても、補助金減額などのペナルティーを緩和することや、学校法人が解散した際の学生保護の仕組みの構築などを検討する。

 地方の大学を中心に学生募集停止が相次いでいるとして、地域の実態を踏まえた連携・再編の計画策定を促し、実行を支援することも提言。大学が地域ごとに自治体や産業界と恒常的につながる「地域連携プラットフォーム」や、国公私立の垣根を越えた「大学等連携推進法人制度」のさらなる活用を求めた。

 留学生や社会人など、多様な学生の受け入れ拡大も必要だとした。

 私大の公立化を巡っては、安易な転換は避け、将来の運営見通しなどを慎重に検討するべきだと指摘した。

 財政状況が厳しい大学などが増える中、人件費や研究費を確保するため、教育費負担に関する検討の必要性にも言及。家計負担とのバランスを踏まえつつ、授業料と公費支援について議論すべきだとした。


大学の再編縮小はなんども議論になったが思わしい成果は上がっていない。授業料など世帯に大きな負担で支えられている日本の教育の在り方そのものが問われているのだが。一方で、働くひとがそのキャリアアップのために大学を利用するという制度はほとんど整備されていない。これも結局は自己負担・自己責任でということになっている。


7月20日 府教委・府 不祥事相次ぐ 10人懲戒処分

 京都府教職員の不祥事が多発している。昨年度は5年ぶりのニケタとなる10人が懲戒処分を受け、本年度もすでに3人が逮捕されて処分を受けた。うち性犯罪やセクハラなどのわいせつ関連が計10人と7割を占めた。府も府教委も綱紀粛正を徹底するというが、多くは「公務外」の不祥事で、「仕事ぷりで個人の資質を見抜くのは難しい」と嘆く声も出る。

 府教委では昨年度、6人が懲戒処分を受けた。このうち5人がわいせつ・セクハラ事案だった。本年度に入っても止まらず、出勤途中に女子高校生らのスカート内を盗撮したとして府迷惑行為防止条例違反の疑いで逮捕された府立高の男性教諭を免職処分とした。

 府では昨年度、4人を懲戒処分とした。うち2人がわいせつ関連。本年度もすでにわいせつ事案で2人が懲戒処分になった。

 23年度までの10年間で、府と府教委の懲戒処分が最も多かったのは17年度の計11人だったが、うちわいせつ事案は4人と半数に満たなかった。18年度の処分は 10人で、2年連続でニケタに上ったが、わいせ2事案は2人。昨年度と本年度はわいせつ事案の割合が突出している。

 再発防止策について、府教委は昨年4月から、過去にわいせつ行為で免職となって教員免許を失効した人の情報を記録した国のデータベースの活用を始め、該当者は採用しないことにした。教員向けの研修資料も「不祥事が起きるたびに直近の事案の特徴を記すなど新しくしている」という。

 わいせつ事案の急増について府教委教職員人事課は「教師が生徒とSNSで連絡を取り合うことを禁止しているが、守られていない」ことを一因に挙げる。ただ、不祥事は教諭と生徒聞のわいせつ事案だけではなく、担当者は「教職員の行動全てを把握することはできない。限界がある」と頭を抱える。「公務外のわいせつ事案は個人の資質の問題。普段の仕事ぷりで見抜くのは難しい」と漏らす府幹部もいる。

 西脇隆俊知事は19日の記者会見で「府民の信頼を損ねる事案が起こっていることは極めて遺憾で、おわび申し上げる」と述べ、法令順守に関する研修を全職員を対象に行う意向を示した。


「わいせつ関連」事案の増加傾向は何を意味しているのだろうか。2年間の傾向だけでは増加傾向とは断言できないだろうが、職務と私事との関係が曖昧になっている可能性はあるかもしれない。逆に言えばそのことで職を失うという危機感が薄れているのかもしれない。おそらく教員のなり手不足の傾向ともパラレルな関係にあるかもしれない。


7月17日 環境省 小中の学習端末「リサイクルを」

 政府の「GIGAスクール構想」で小中学校に1人1台配備された学習用タブレットやパソコンなどの端末が更新時期を迎えるのに備え、環境省は、使用済み端末の適切なリサイクルを全国の学校現場に呼びかけている。児童・生徒の個人情報が含まれており、漏えい防止のため、処理は小型家電リサイクル法に基づく認定事業者への委託を求める。

 文部科学省などによると、GIGAスタール構想に基づき小中学校に配備された端末は約900万台で多くは2020〜21年度に使用を開始。タブレット端末はバッテリーの劣化などにより5年程度で更新時期を迎え、25〜26年度が買い替えのピークとなる見込みだ。

 学校現場でのリサイクルを促すため、環境省はリーフレットを作成して校長会などで配布。使用済み端末からレアメタル(希少金属)や貴金属を取り出して有効活用できる上に、環境教育の一環で児童らがリサイクル制度を学ぶ機会にもなると強調した。

 処理を無許可の事業者に委託すれば、不法投棄や海外への不正な輸出につながる可能性があると指摘。データが適切に消去されず、児童らの個人情報が漏えいする恐れもあるとした。


「更新時期」という考え方が理解しにくい。確かにバッテーリーの劣化はありうることだし、ノートとしての役割は半減してしまう。しかし、バッテリー交換だけで済む可能性は高い。なぜ、端末全部を更新しなければならないのか疑問。


7月14日 文科省 学習端末利用で児童生徒の情報をアプリ業者が直接取得・管理

 小中学生に1人1台配備された学習用端末の利用を巡り、一部の自治体が、端末にアプリを提供するリクルート(東京)に子供の個人情報を直接取得・管理させていることがわかった。一部のデータは、保護者に十分な説明のないまま海外の事業者に委託されたり、一般向けに販売しているアプリの機能改善に使われたりしていることも判明。文部科学省は、自治体の情報管理が不適切だとみて、近く全国調査に乗り出す。

 政府のGIGAスクール構想の下、自治体は端末に民間事業者の学習用アプリを導入し、アプリを通じて氏名や学習履歴などの個人情報が収集されている。一人一人に合わせた学習が可能になる一方、義務教育の場で使われるため、子供や保護者が情報の提供を拒むことは難しい。

 文科省は、子供の個人情報は自治体が主体となって取得・管理するべきだとしている。教育データの利活用に関する留意事項で、自治体に対し、アプリの提供事業者を適切に監督し、海外での情報の保管は「日本の法令が適用されない場合がある」として慎重な対応を求めている。

 しかし、リクルートのアプリ「スタディサプリ」を利用する自治体の一部では、同社が、保護者側に自社のプライバシーポリシーへの同意を求めた上で、子供の氏名や生年月日、テスト正答率などの情報を直接取得して管理している。これを自治体に提供し、改めて自治体から情報の委託を受ける形をとっている。

 リクルートは、取得した子供の個人データの保管や処理などを、欧米やイスラエルなど計13か国・地域のいずれかの事業者などに委託している。具体的な内容は「開示しない」とするが、メールアドレスを委託することもあるという。

 個人情報保護法は、自治体が個人情報を取得する場合は業務に必要な場合に限り、利用目的を具体的に定めるよう義務づけている。文科省の留意事項は「教育データを事業者自身のために利用することは業務に必要とは言えない」としている。しかし、リクルートは取材に対し、一般向けに販売している同アプリの機能改善にデータを使用していることを認めた。

 読売新聞の取材では、今年度に少なくとも14自治体が同アプリを導入しており、利用する小中学生は約8万5000人に上る。14自治体の中には、データの海外委託やアプリの機能改善への利用を把握していないところもあり、保護者に十分な説明がなされていないケースもあった。

 リクルートは取材に、個人情報の直接取得や海外委託について「法令を順守している」として、問題はないとの見解を示した。「問題があるとの指摘があれば、関係省庁や自治体と話し合って対応したい」ともしている。

 一方、全国の小中学校約9500校の端末にアプリを提供するベネッセコーポレーション(岡山)は「子供の個人情報を直接取得することはなくデータも国内で保管している」とする。(読売新聞オンライン)

 個人情報の保護に詳しい森亮二弁護士の話 「子供の個人情報を事業者が直接取得して管理すれば、制約なく使えてしまう。一般向けアプリの機能改善に使うことは自治体業務の範囲を超えた『商業利用』で本来は許されない。保護者が知らないうちに海外に委託するのも不適切だ。自治体とリクルートの情報の取り扱いは個人情報保護法の規定に抵触する可能性があり国は是正させるべきだ」


デジタル世界の危険性を絵に描いたような事態。GIGAスクール構想を強引に推し進めた結果かもしれない。マイナカードへの不信感とともに、この国にデジタル情報を管理するだけの力とポリシーがあるのかと思う。学校側はただ茫然と見送るだけ。


7月12日 財務省 デジタル教科書のみ 3%

 財務省が全国の公立小中学校の教員を対象に実施した調査で、英語の授業でデジタル教科書のみを使っているとの回答が3%にとどまったことが11日、分かった。算数・数学は4%だった。政府は小中学生に1人1台のタブレット端末やパソコンを配備して教育のデジタル化を推進しているものの、多くの教員が使い慣れた紙の教科書の利用を志向している姿が浮き彫りとなった。

 デジタル教科書は、紙の教科書と同じ内容を端末で読めるようにしたもの。音声、動画の再生や立体的な図形の表示といった紙の教科書にはない機能もある。文部科学省は紙との併用を基本とし、デジタル教科書を4回に1回以上利用する割合を2028年度に100%に引き上げることを目指している。

 政府は21年度以降、デジタル教科書の購入費として計約106億円を予算計上した。英語は全ての公立小中学校、算数と数学は約半数の学校の小学5年から中学3年が対象だ。財務省は今春、デジタル教科書普及促進事業の予算執行調査で、全国の小中学校で英語、算数・数学を担当している教員計約千人を対象にアンケートを実施。デジタル教科書のみを使っていると回答した教員は、英語が3%、算数・数学が4%だった。

 「紙のみ」「デジタル・紙を併用しているが、紙が多い」との回答の合計は、英語が60%超、算数・数学が70%超に及んだ。デジタル教科書を毎回の授業で使わない理 由を複数回答で聞いたところ、半数以上の教員が「デジタル教科書の機能を使わない場合は、紙の方が使いやすいため」と答えた。

 財務省の担当者は、デジタル教科書の効果的な活用には「漫然と併用を続けるのではなく、紙とデジタルの明確な役割分担を検討する必要がある」と指摘。文科省の担当者は「作業に慣れない教員もいるため、今後の普及は工夫が必要だ」としている。


【インサイド】主体的学習 模索続く

 文部科学省は英語と数学・算数から、デジタル教科書の活用を進めている。音声や動画機能を使い学びの充実に役立てるほか、一斉型の授業から、子どもたちが主体的に学習する授業に転換することなどが狙いだ。学校現場での使用は広がるものの、紙の教科書との使い分けや効果的な活用方法の模索が続く。

 近年の教育政策は、児童生徒が主体的に活動する探究型の学習や個々の特性に応じた学びを提唱している。デジタル教科書では学習方法を選び自分のペースで勉強できるほか、録音機能などを使い学習内容を子ども同士で共有するのも容易だ。

 2023年度の文科省委託調査では、デジタル教科書の授業での使用頻度は4回に1回程度以上が51%だった。22年度より11ポイント上昇したが、文科省担当者は「利 用はまだ途上段階」と語る。一方で、調査に回答した教員の4割以上が「効果的な活用方法について情報が不足している」とした。

 文科省はデジタル教科書について、今後有識者会議を設置し、教科書の在り方に関する検討を進める。


「紙かデジタルか」論争よりも「財務省VS文科省」というように読める。いずれにしても趨勢はデジタルの方向に向くのだろうが、現場感覚ではどうなるのだろうか。新JIS規格では小学校用の天板が「650mm×450mm」の広さとなっている。ほとんどの学習がこの広さで行われているのだが、ここに端末と紙とノートと筆記用具を配置するには無理がないだろうか。「紙かデジタルか」論争以前に教室が「主体的に学習」に適してるかどうかの議論が必要ではないか。


7月10日 沖縄米兵性的暴行事件 「起訴から3か月」の意味

 沖縄県で米兵による性犯罪が相次いで発覚した。「またか」と憤りを感じるとともに、それだけでは済まない重大な問題が含まれることを指摘したい。私はかねて「迎合と忖度の日米安保」と呼んできたが、今回の日本政府の「忖度」は度を越しているからである。

 昨年12月に米空軍兵長が少女を誘拐しわいせつ行為をした事件が起きていた。今年3月27日に那覇地検が兵長を起訴したが、それが明らかになったのは6月25日だった。5月には米海兵隊員による不同意性交致傷事件も起きたが、これが報道によって発覚したのは6月28日だった。

 昨年12月の事件の発生から半年、兵長の起訴から3ヵ月。外務省はすべてを把握し、米側に抗議しながらも、県には伝えていなかった。

 その間に日米首脳会談(4月)、エマニュエル駐日大使の与那国島訪問(5月)が行われ、「日米同盟」の重要性が強調されている。6月には沖縄県議選があり、23日の「慰霊の日」には沖縄全戦没者追悼式が行われている。

 この「3ヵ月」は何だったのか。3月の段階で事件が判明していたら県民の激しい抗議行動が起こり、これらに少なくない影響を与えていたに違いない。岸田文雄首相はすべてを知っていて、「慰霊の日」あいさつで「基地負担の軽減」を語っていたのである。県民の生活と安全をないがしろにし、著しく誠実さを欠く姿勢だ。

 そもそも日米地位協定が、刑事裁判権を巡って日本側に著しく不利な立て付けになっていることが問題だ。公務中の米兵の犯罪について第一次裁判権が米側にあるのはもちろん、公務外(日本側に第一次裁判権)でも、身柄を米側が確保した場合、日本側が起訴するまで身柄は米側にある。

 日本では1960年の発効から60年以上、一度も改定されていない。

 私は22年前、在韓米陸軍基地キャンプ・ケーシーのある韓国北部の東豆川市を訪れ、米兵による女性殺害事件から10年の集会を取材した。その際、韓国の弁護士は、在韓米軍地位協定の改定を強く主張していた。特に裁判権の韓国側への移行、初動段階で韓国側の捜査権が行使できるようにすべきだと強調していた。

 他方、ドイツでは、90年代にNATO軍地位協定が改定され、容疑者段階で米軍人の身柄拘束が可能となっている。

 日本政府は不平等な協定の改定交渉をすることもなく、強制力のない「運用の改善」と、米側の「好意的配慮」に委ねている。「日米同盟」オンリーの思考の惰性から脱すべき時である。

 沖縄県は95年の少女暴行事件以降、「日米地位協定の見直しに関する要請」を続けている。自民党だけでなく、野党にも憲法改正に前のめりな姿勢が目立つが、こういう「憲法論戯」をする暇があったら、不平等極まる日米地位協定の改定に真剣に取り組むべきではないか。(水島朝穂・早稲田大名誉教授)



7月9日 文科省 学テ 全面オンライン化へ

 文部科学省は8日の有識者会議で、小学6年と中学3年の全員を対象とした「全国学力・学習状況調査」(全国学力テスト)について、2027年度から紙の問題冊子を廃止し、パソコン端末を活用してオンラインで出題・解答する新方式(CBT)に全面移行する方針案を示した。秋ごろに正式決定する。

 文科省は25年度に中学理科でCBTを先行実施することを既に決定。方針案では、26年度は中学英語でも導入し、27年度以降は全教科に広げる。CBTで実施する際は、全小中学生に配布されているパソコン端末を活用して行う。文科省は利点として@動画や音声を使った新たな出題形態が可能となるA児童生徒ごとに異なる問題セットを割り当てることで、データ収集の幅が広がるB問題冊子の印刷や配送の経費を削減できる―などを挙げる。


デジタル化することでその費用を削減することは可能だろう。が、必要費用の行き先が若干変更するのかもしれないがこれまでの学テで利益を得てきた企業では当然デジタルへの対応も済ませているはず。毎年およそ50億円と言われる費用をつぎ込んで実施する必要があるのかは根本的な問題。これをわすれた「有識者会議」の有識者とは?


7月7日 スクールミッション策定 役割・指針 記し特色化

 京都と滋賀の全公立高で、学校の存在意義や社会的役割を明記した「スクールーミッション」と各校の教育活動の指針「スクールーポリシー」がでそろった。策定は京都市立、滋賀県立が先行し、京都府立についても府教育委員会が5月に公表した。ミッションやポリシーは、特色化や魅力化にどう役立ち、学校運営にどう生かされているのか。京都市内の公立高を訪ねた。(生田和史)

 京都市立美術工芸高(下京区)で5月下旬にあった化学基礎の授業。1年生がタマネギの皮を使った草木染を体験していた。皮を入れた煮汁に布を浸し、アルミニウム、銅、鉄など媒染の種類によって、染まる色の違いを確認した。化学に芸術の要素を加えた授業を行った東一郎主幹教諭は「染めることを昔の人は経験的に分かっていたが、理論的に理解を深めることで、創作がより豊かになる」と話す。授業を受けた辻本楓さん(15)も「他の教科とつなげて勉強するのは楽しい。学ぶ意味が理解できる」と納得する。

 同高は、美術専門高校から進化を図り、教科横断的な学びを進める「BIKO steAm(ビコースチーム)」を教育の柱に据えている。一つの教科に別の教科の学びを取り入れることで理解の質を高めるのが狙いだ。

 2023年度に銅駝美術工芸高から校名を変更し、校舎も京都駅東側に移転。これを機会に銅駝時代末期に大きく変えた教育の中身も学校の特色をスクール・ミッションやスクール・ポリシーに盛り込んだ。

 「普通教科はいらない、美術だけを学びたい―。銅駝時代はそんな生徒も少なくなかったが、今は時代が変わった。基礎学力をしっかり身に付けてもらう教育ができないと、うちは持たない」と名和野新五校長は強調する。

 国内有数の美術専門高である同高では、美術系に進んでも就職口がないという誤解がつきまとっていた。18年度入試では定員割れ寸前まで落ち込んだ。そんな状況を受け、美術以外の学びも重視していくべきだと教職員の意識が変化した。新型コロナウイルス禍で先行きが見通せなくなる中、個人の能力や資質を伸ばす教育に加えて、みんなで学ぶ力を養う協働的な学びも取り入れた。こうした教育実践で志願者もV字回復した。

 同高のスクール・ポリシーには、求める生徒像として「自ら課題を見いだし、他者と協働しながら粘ぴ強く解決しようとする」との記述がある。これを基に24年度入試では方式を一部変更し、入試の面接の配点を倍増させた。名和野校長は「美術だけを学びたい人は別の学校に行けばいい。多くの教科を学び、人と関わり合う学びを通じて、一層とがった人材を育てたい」と意気込みを語る。

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 楽しい高校生活が送れる学校として受験生の人気が高い府立鴨沂高(上京区)。「ミニコンサードなど文化系部活動の発表の場も多く、生徒の楽しさにつながっている」と松井佳代美校長は胸を張る。

 そんな同高も冬の時代が長く続いた。1960年代半ばまで、京都大への合格者を多く輩出し「東の日比谷、西の鴨沂」とも呼ばれた。しかし、その後は進学実績が振るわず、定員割れが続いた。

 近年は学校改革を続けてきた。2018年には新校舎を整備し、学校設定教科「京都文化科」を設置した。志願者は回復したが、校則を厳しくした反動で、入学後の生徒の満足度は低くなった。前校長が校則を生徒主体に変え、コロナ禍にあっても、文化祭や体育祭、修学旅行などの各種行事を一切やめず、今の学校の雰囲気につなげた。

 学校改革で大事にしたのが、スクール・ポリシーづくりだった。13年度に着任した2代前の校長が当時は高校ではまだ一般的ではなかったが、大学での事例を参考に策 定。23年度にはスクール・ポリシーにのっとった学校運営を本格的に始めた。

 具体例の一つが、生徒が自らの力を客観的に判断するための評価ツールの導入だ。考える力やチャレンジする力、発信・表現力、文化・歴史に対する興味・関心といった七つの力を、各教科と学校行事に分けて生徒が自己評価する。1学期と2学期の年2回実施するので、力の伸び具合が確認できる。これらの力はポリシーに育みたい力として明記されている資質能力を表現しており、松井校長は「将来的に、大学入試の自己推薦型選抜の活用も模索している」と話す。


受験生が学校選ぶ材料に

 スクール・ミッションやスクール・ポリシーは、受験生や保護者に学校選択の材料を示す役割がある。従来の「学校教育目標」や「校是」では抽象的で分かりにくい面もあり、文部科学省はスクール・ミッションとしての再定義やスクール・ポリシーの策定を求めている。

 近年、高校進学率は100%に近い一方で、進学後の生徒の学習意欲低下が問題視されている。「行きたい高校に行く」といった主体的な学校選択ができていない事情もみられ、生徒の多様化に応じた学びが問われている。

 京都府立高のスクールミッションは設置者である府教委が各校と相談を重ねて策定した。各校の存在意義や社会的な役割、育成する資質や能力について80〜100字程度で表現。「進学校」や「中堅校」といった学校の序列化を招くような表現は避ける一方で、グローバル社会で活躍できるリーダー、地域創生に貢献できる人材、日本の林業を支える人材の育成などと具体的に役割などを記す。      `

 スクール・ミッションを基に、各校がスクール・ポリシーを策定。ポリシーでは、▽育てる力(グラデュエーション・ポリシー)▽教育活動(カリキュラム・ポリシー)▽望む生徒像(アドミッション・ポリシー)の三つを示す。

 カリキュラム・ポリシーについて、北稜高は「『生きた英語の習得』と「多彩な文化体験による国際教育」」、洛東高は「地元山科の地域資源を活用し…」、グラデュエーション・ポリシーでは、農芸高は「生命の尊厳を尊び、農業の発展及び環境保全に貢献する意識と実行力」、丹後緑風高久美浜学舎は「丹後を愛し、丹後地域の発展に貢献しようとする人」などと記す。スクール・ミッションの再定義、スクール・ポリシーの策定によって、府教委高校改革推進室は「中学生が学校選択をする上で役立つ。行きたい学校ではなく、行ける学校を選ぷ風潮もあるが。『こんな学びができる』というのがまずあるべき。その学校で働く教職員の共通理解も図ることができる」として いる。ミッションとポリシーは、府教委のホームページで確認できる


「ミッションとポリシー」は従来の特色ある学からの前進ではあるのだろう。しかし、いわゆる進学校と底辺校との違いも透けて見えてくる。子どもや親は「ミッションとポリシー」を参考にして学校を選択するのだろうか、やはり従来のように偏差値や大学進学率を指標とするのだろうか?


7月7日 沖縄辺野古 建設断念まで諦めない

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設に反対する市民らが、埋め立て工事現場に隣接する米軍キャンプ・シユワブのゲート前で座り込みを始めてから7日で10年となるのを前に、移設計画への反対を訴える集会が6日、ゲート前で開かれた。約1200人(主催者発表)が参加。玉城デニー知事はメッセージを寄せ、相次ぐ米兵による性的暴行事件について「まさにゆゆしき事態で、激しい怒りを覚える」と訴えた。

 玉城氏はメッセージで、米兵の性的暴行事件に関し、政府から県へ連絡がなかったことについて「再発防止や住民の安全確保の観点から大きな問題だ」と指摘。情報共有に向け、関係機関と連携を進めていくとした。

 雲一つなく晴れ渡り、太陽が厳しく照りつける中、午前10時40分ごろ、参加者らは「辺野古に基地はいらない」「人権じゅうりん、性暴力許さないぞ」とシュプレヒコール。「少女の尊厳を踏みにじるな」「米兵の事件を許さない」などのプラカードが掲げられた。

 今後埋め立てる大浦湾側には軟弱地盤が広がり、工事は難航が予想される。「建設を断念させるまで諦めないぞ」との声も上がった。

 集会主催した、移設に反対する「オール沖縄会議」の稲嶺進共同代表は「米軍機の事故や米兵の事件などひどい状況が続いている」と述べた。

 車いすの島袋文子さん(95)=名護市辺野古区=は「沖勝戦から生き延びた身として、軍隊や基地はもうこりごり」。座り込みの活動をまとめてきた山城博治さん(71)は「勝利するまで闘い抜こう」と呼びかけた。


日米両政府の普天間基地返還の合意があったのが1996年。およそ30年にもなるが何の進展もない。そして代替案として登場したのが辺野古基地建設。しかし今となっては米軍にその利用価値はないとされている。防衛について地方自治体の権限はないのだが、民意を捻じ曲げての強硬は許されない。県議会選挙を政権側に有利に進めるために防衛省は情報を県側に提供しなかったという。今の自民党に国の政治を任せることはできない。


7月6日 年金積立金 年金運用 黒字45兆円

 公的年金の積立金を運用している年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は5日、2023年度の運用実績が過去最高となる45兆4153億円の黒字だったと発表した。黒字は4年連続となった。国内外の株価の上昇や、円安による外貨建て資産の評価額アップが影響した。

 積立金は長期で運用しながら少しずつ高齢者の年金給付に充てている。

 23年度の運用利回りは22・67%。市場運用を始めた01年度以降の累積収益額は153兆7976億円、23年度末の運用資産額は245兆9815億円でいずれも過去最高だった。

 GPIFはリスクを抑えるため、積立金を四つの資産に分散して運用している。23年度の実績を資産別で見ると、国内株式は19兆3928億円、外国株式は19兆2952億円、外国債券は7兆8694億円でいずれも黒字を確保した。国内債券のみ1兆1421億円の赤字だった。

 資産全体の運用実績を四半期ごとに見ると、赤字は23年7〜9月期のみで、24年1〜3月期は21兆3863億円の黒字となり四半期ベースの過去最高を記録した。記者会見した宮園雅敬理事長は「市場が好調に推移して収益が確保できた」と述べた。


公的年金にしろ共済制度にしろいずれもその資産運用はいわば無から有を生み出す仕組みを利用しているといえる。「23年度の運用利回りは22・67%」とあるが、普通預金の金利「年0.001%(2021年11月現在)」とは天と地の違いである。政府は個人の小口資金をNISAなどの投資への活用を促すが、株高がいつまで続くかの保障はない。こうした経済運営が正常かどうか疑問を感じる。


7月6日 【インサイド】防衛費増で自衛隊肥大化

 海上自衛隊の潜水艦修理契約に絡み、川崎重工業が少なくとも十数億円の裏金を捻出して海自側に金品などを提供していた疑いが浮上し、特別防衛監察が実施される事態に発展した。潜水艦は自衛隊の装備品の中でも特に機密性や専門性が高く、事業への新規参入は事実上不可能という特殊な環境がある。防衛費の大幅増で自衛隊が肥大化を続ける中での「なれ合い」(海自隊員)疑惑に、批判の声が高まつている。

 「疑いが生じていることを非常に、深刻に受け止めている」。5日午前。東京・市谷の防衛省で閣議後記者会見に臨んだ木原稔防衛相。表情は終始硬いままだった。

 海自は現在、25隻の潜水艦を保有。いずれも川重と三菱重工業が神戸市で製造したものだ。運用に必要な1年ごとの検査や3年に1度の定期検査、それに伴う修繕作業のほか、臨時の修理も基本的に製造した2社が担っている。

 どの海域で、どのような活動をしているのかなど、隠語で「モグラ」と称される潜水艦の動向を防衛省・自衛隊内で把握しているのはごく少数。船体自体も「秘密の塊」(海自幹部)で、製造にば専門的な知識と経験が不可欠だ。新たな企業が潜水艦製造事業に入り込む余地は、事実上ない。

 政府は2022年12月に閣議決定した安全保障関連3文書で「防衛生産・技術基盤は、いわば防衛力そのものと位置付けられる」と強化の必要性を明示。23年度からの5年間で防衛費の総額を約43兆円と大幅に増やし、関連経費と合わせ、27年度のGDP比で2%とする目標も掲げた。追い風に乗るように、川重も24年度の防衛省向け受注高を前期比360億円増の5890億円と予想している。

 裏金捻出は遅くとも6年前に始まったとみられる。乗員への飲食接待や金品提供なども相当な期間行われていた疑いがあり、海自隊員の一人は「癒着やなれ合い以外の何物でもない。海自も川重も腐っている」と切り捨てた。

 流通経済大の植村秀樹教授(安全保障論)は、2社が独占している潜水艦の製造や修理は市場原理による競争が働かないと指摘する。「防衛費が聖域化される中で、使い方がザルだとなれば国民の不信感が強まり、防衛費を増やすための新たな税負担に理解が得られないことにつながる」と話した。


2007年に発覚した山田洋行事件もやはり防衛装備品をめぐる汚職事件。防衛産業むしろ軍事産業というべきだろうが、戦争にかかわる資金は手っ取り早く「消費」できることから企業や政治家などの好餌となることが多い。国会での議論をパスしてしまうような「閣議決定」はその共犯でもある。


7月4日 【インサイド】 目標達成も「100年安心」綱渡り

 政府は、公的年金について5年に1度の「健康診断」に当たる財政検証の結果を発表した。給付水準は目標とする「現役収入の50%以上」をかろうじて上回った。ただモデル世帯の給付水準は現在若い人ほど低くなり、老後の暮らしは心もとない。出生率や経済成長の想定が甘いとも指摘され、政府が掲げる金看板「100年安心」は綱渡りとなる可能性をはらむ。

 「将来にわたって50%を確保できる。今後100年間の持続可能性が改めて確認された」。林芳正官房長官は3日の記者会見で財政検証の評価を問われて、こう述べた。

 100年安心は小泉政権が2004年に実施した年金制度改革で、事実上の公約となった。現役世代の平均手取り収入に対する給付水準(所得代替率)の「50%以上の維持」が根幹部分となっている。今回、目標をぎりぎりでクリア。政府内には安堵感が広がる。

 経済成長が標準的なケースで厚生年金のモデル世帯の給付水準は33年後に50・4%となり、前回検証の類似したケースと比べても改善した。外国人や女性も含め働く大が将来700万人余り増え、保険料収入が増加すると見込んだことなどが要因に挙げられる。

 ただ「50%以上の維持」は、年金の受給開始時の状況に過ぎない。給付を自動的に抑制する「マクロ経済スライド」などの影響で、年齢を重ねるごとに給付水準は低下する。モデル世帯について5歳刻みの推移を見ると、現在65歳の人の給付水準は61・2%だが、80歳になると55・5%に下がる。

 若い世代ほど給付水準が低くなる特徴もある。現在50歳の人は、受給開始時の65歳で56・7%、80歳になると50%を割る。現在30歳なら65歳で50・4%、80歳では46・8%に落ち込む。

 このため政府は新たな少額投資非課税制度(NISA)など老後への備えを呼びかけている。

 厚生年金に加入せず国民年金(基礎年金)だけに頼る人はさらに厳しい。埼玉県深谷市の塗装業片平裕二さん(49)は「年金は当てにできない」と言う。子ども3人を育て家計に余裕はなく貯蓄は難しい。「健康でいられる限り働き続けるしかない」と話した。

 検証の前提条件を疑問視する声もある。女性1人が産む子どもの推定人数の出生率は23年が過去最低の1・20だったのに対し、1・36と想定。政府が少子化対策を策定したとはいえ、日本総合研究所の西沢和彦理事は「若者の結婚や出産への意欲は低下しており、検証の想定には願望が含まれている」と批判した。

 他にも実質賃金は減少が続くのにプラスと仮定しているほか、外国人労働者の増加や株高も見込む。どれか一つでも目算が狂えば、受給開始時の50%割れが現実味を帯びる。


「100年安心」を目玉として年金改革が行われてきたが現実には不安視する声は大きい。この給付水準の検証は従来の父親稼ぎ手母親専業主婦、二人の子どもの世帯をモデルとして計算している。家庭の在り方や働き方が大きく変化していることはどれだけ考慮されているのか不明だ。いわゆる「一人親方」による家計を維持している世帯には相当厳しい。ルトガー・ブレグマンの『隷属なき道』(文芸春秋)は、その副題に「AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働」を持っている。労働時間短縮とユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI)の関係を説いているのは今後の世界の趨勢かもしれない。


7月4日 角川ドワンゴ学園 新たに生徒情報漏えいか

 出版大手KADOKAWAは3日午前、「角川ドワンゴ学園」の生徒らの個人情報が、サイバー攻撃により「漏えいした可能性が高い」と発表した。被害の詳細の確認を急いでいるが、システム障害で一部の書籍の出荷が滞り、株価が下落するなど影響が事業全体に広がる。攻撃を仕掛けたと主張しているロシア系ハツカー犯罪集団は3日午後、匿名性の高いダークウェブにある闇サイトから犯行声明を削除した。

 ITジャーナリストの三上洋氏は「ハッカー集団がKADOKAWAに対し、交渉は続いていると揺さぶりをかけている可能性がある」と指摘。KADOKAWAは取材に「当社からコメントすることはない」と回答した。

 公式サイトによると、角川ドワンゴ学園の学校に通う生徒数は約3万人。漏えいしたとみられるのは、学園が設置した「N高校」「N中等部」「S高校」の在校生、卒業生、保護者の一部個人情報。KADOKAWAは学園関係者に謝罪の上、情報漏えい専用の問い合わせ窓口を設置した。

 グループ全体の影響も長期化。KADOKAWAは当初、6月末までに基幹システムの復旧を目指すとしたが、遅れが生じる。関係者は「社内でも被害の全体像を的確に把握できている人は少ないのでは」と困惑する。

 出版事業では既刊の本の出荷部数が平常時の3分の1程度に減少していると27日に発表。客からの注文に応じられなかったり、棚の補充ができなかったりと街の書店への影響も出ている。

 システム障害は8日に発生。その前日から7月3日までに、KADOKAWAの株価の下落率は20%を超えた。証券関係者は「被害が業績にどう影響するか見通せない」と懸念した。

 一方、セキュリティー企業のアンノウン・テクノロジーズ(東京)によると3日午後、ハッカー集団の闇サイトからKADOKAWAに金銭を要求する声明が削除された。他の被害企業への声明は残っており、声明を意図的に消去したとみられるという。


【インサイド】暴露データSNSで拡散

 出版大手KADOKAWAを襲ったサイバー攻撃を巡り、ロシア系ハッカー犯罪集団が身代金要求型コンピューターウイルス「ランサムウェア」で盗んだ大量のデータの暴露を始めた。グループ従業員の個人情報や契約書だけでなく、学校法人「角川ドワンゴ学園」の生徒の個人情報も漏えいした可能性が高い。漏えい情報の一部は交流サイト(SNS)に拡散。KADOKAWAは難しい対応を迫られる。

 2日未明、ロシア系ハッカー犯罪集団「BlackSuit(ブラックスーツ)」が匿名性の高いダークウェブに設けた闇サイトに変化があった。KADOKAWAの犯行声明のページにある、黒いバーの半分が緑色に変わった。セキュリティー専門家は「盗んだデータの半分を暴露したとの主張だ」とみる。

 セキュリティー企業、三井物産セキュアディレクション(東京)の吉川孝志氏によると、ブラックスーツは2023年5月ごろから活動が確認されている新興組織だ。しかし、攻撃手法やウイルスの特徴などから、世界最大規模のハッカー集団だった「Conti(コンティ)」=現在は消滅=やその残党とされる「Royal(ロイヤル)」と共通点や関連が指摘されているという。

 ハツカー集団はIT機器の欠点を突くなどして企業の情報システムに侵入。データを盗んだ上で暗号化し、システムを使えなくする。暗号解除と引き換えに多額の金銭を要求し、応じなければデータ暴露や第三者への売却をちらつかせる。ブラックスーツは闇サイトにKADOKAWAを含めて計86件の企業や団体への犯行声明を掲載した。金銭支払い交渉に応じると掲載しないため、実際の被害はさらに膨らむとみられる。

 ランサムウェアの被害は世界で頻発しているが、攻撃を受けた企業や団体は対応に苦慮するケースが多い。要求をのんで金銭を支払っても、ハッカー集団が暗号を解除するかどうかは分からず、社会正義に反すると批判を浴びる恐れもある。2021年の徳島県つるぎ町立半田病院の攻撃では、町側は金銭を支払った認識はないと説明していたが、攻撃したハッカー集団は金銭を受け取ったと主張していた。

 ブラックスーツは犯行声明でKADOKAWAと交渉したが金額で折り合わなかったと主張。「7月1日にすべてのデータを暴露する」と予告していたが、半分のデータを残すことでKADOKAWAに金銭の支払いを促したようだ。

 ITジャーナリストの三上洋氏は「ランサムウェアの被害対応は誘拐事件の交渉に近い。交渉が続いているとすれば明かせない情報が多く、KADOKAWAは苦しい立場で対応を迫られている」と分析する。

 吉川氏は「ランサムウェア攻撃を受けると業務に重大な影響が生じる。IT機器の管理やセキュリティーソフトの更新を徹底することが重要だ」と強調した。


私たち庶民にとって世界的に拡大した情報網で行われることにほとんど打つ手がない。「できるだけ近づかない」ことくらなのだろうか。ただ言えることは、「便利さを得ることはリスクをしょい込むこと」だということを肝に銘じておかないといけない。マイナカードへの懐疑心はここからくる、加えて政府への信頼がないことも。


7月1日 旭川市 市教委 意図していじめ対応回避

 北海道旭川市で2021年、いじめを受けていた中学2年広瀬爽彩さん=当時(14)=が凍死した問題で、市が設置した再調査委員会が30日、結果を公表し、凍死は自殺とし、いじめとの因果関係を認定した。学校と市教育委員会は、いじめではなく加害生徒の問題行動と捉えていたため、リスクを発見、低減させることができな かったとした。弁護士の野村武亘副委員長は「市教委は早く事態を終結させるため、意図していじめの問題とはしなかった」と断じた。

 当初、市教委の第三者委員会は22年9月、医療情報を得られなかったこともあり、いじめとの因果関係は「不明」と判断。遺族の反発を受け、今津寛介市長が、教育評論家の尾木直樹委員長ら有識者による再調査委を設置していた。

 再調査委は、家族から提供を受けた広瀬さんの交流サイト(SNS)の発信履歴約4千件を分析。亡くなる直前まで恐怖や死に言及されていたことから、いじめ被害に継続して苦しみ、死を決意したと判断した。いじめとの因果関係を認め、市教委側の落ち度をより重く認定した。

 遺族側弁護士は公表を受け「要望をはるかに上回る充実した内容で、高く評価したい」とのコメントを出した。

 再調査結果などによると、広瀬さんは19年の中学入学後間もなく、性的ないじめを含め、学校のクラス内外で計7件のいじめを受けて心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症。自尊感情の低下などが亡くなる直前まで継続したため「いじめが存在しなければ自殺は起こらなかった」と結論付けた。

 広瀬さんには自閉症スペクトラム障害(ASD)や注意欠陥多動性障害(ADHD)など発達上の特性があり、クラスでの疎外感から先輩らとの人間関係を居場所として求め、いじめ被害を受けたと分析している。

 再調査委員会は、尾木氏や野村氏のほか、精神科医の斎藤環氏らのメンバーで構成。22年12月以降、22回にわたり会合を重ねていた。

 再調査委は「市の情報管理に懸念がある」として、市長に報告書を提出する答申は予定を延期したと明らかにした。


【池坊短大 桶谷守学長】SNSの分析、画期的

 SNSの投稿を分析していじめと自死の因果関係を認めるに至るケースは知る限りなく、画期的だ。遺族が新たに再調査委員会に提出した投稿資料は、本来なら最初の第三者委で調査対象となるべきものだったが、遺族と十分な信頼関係が築けていなかったのだろう。中立性を担保しようとして過度に遺族側と距離を置いてしまう事例もあるがミ遺族に寄り添うのと、遺族の思い通りの結果を出すのは異なる。再調査委は対面や書面で遺族と交流し「なぜ娘が亡くなったのか知りたい」との気持ちに応えようとした姿勢が受け入れられたのではないか。


【インサイド】発覚から3年超 迷走した調査

 北海道旭川市でいじめを受けた女子中学生が凍死した問題は再調査の末、発覚から3年超を経て、当初「不明」とされたいじめと自殺の因果関係が認定された。いじめを巡って当初の調査結果が遺族の理解を得られずに迷走する事案は、全国で後を絶たない。なぜ1回の調査で結論が得られないのか。有識者からは当初調査の問題点を検証すべきだとの声が上がる。

 「今後の再調査のモデルとなるようなものを目指した」。旭川市が設けた再調査委員会の尾木直樹委員長は30日、記者会見で手応えを口にした。中でも再調査委が自信を示したのは、交流サイト(SNS)の投稿内容から被害者の心理状況を分析した手法だ。

 メンバーの野村武司弁護士は会見で「子どもたちがSNSで発言し、投稿することが増えていくと、注目すべき手法だ」と、今後のいじめ調査での活用に期待を示した。

 課題は、広瀬さんが死を選んだ理由の解明に3年超を要したことだ。尾木氏は再調査が1年半に及んだのは関係機関に照会して回答を得るのに時間がかかったためだと説明し、「独り相撲はできないのでご理解してほしい」と表情を曇らせた。

 教育評論家の武田さち子さんは「本来なら1回目の調査で出るべき内容。時間がたてば関係者の記憶も薄れるし、莫大なお金がかかる」と指摘。「1回目の調査のどこが駄目だうたのか、調査すべきだ」と訴えた。

 いじめと自殺を巡っては、再調査を強いられる例が頻発。山口県の大島商船高専で2016年、男子学生=当時(15)=が校舎から飛び降りて自殺した問題では、再調査の末に因果関係が明確に認められたのは亡くなってから5年後だった。

 21年に山形県酒田市の女子中学生=当時(13)=が亡くなった問題でも再調査が続いている。


いじめ調査のために第三者委員会が設けられるが調査結果といじめを受けた子どもの保護者との思いが反する結果となることが目につく。委員会がどのような視点で調査しているかにかかわるだろうが、「いじめ」を認定するのは相当困難なことではないか。子どもがいじめを苦に自死に及ぶことは何としても避けなければならない。これまで設置されてきた第三者委員会はいじめを認定するかしないかが大きな仕事となるのだろうが、自死を防ぐことが可能だったかどうかまた手立てがあったかどうかを示すことが必要ではないのだろうか。


7月21日 【教育】 続き

 京都市立小で実施されている放課後のクラブ活動は、学習指導要領に記載はないものの、意義を感じている学校も多い。学校選択制への変更を受けて、各小学校は児童がスポーツや文化芸術に親しむ機会の確保と教員負担軽減の両立に向け、活動を工夫して継続したり、地域移行したりするなどさまざまな動きが始まっている。

 右京区の太秦小は、来年度以降も放課後の部活を継続する考えだ。ただ、活動時間を繰り上げることで教員の負担軽減を図る。昨年度まで午後4時〜5時に行っていた活動時間を、本年度は月曜日の6校時にあたる午後2時半から3時半に移した。昨年度までは月曜日の6校時は授業時間だったが、年間授業時間数の多さが全国的に問題となる中、本年度は月曜日は授業時間を5校時までに減らし、空いた6校時を部活動に充てた。

 藤原浩校長は「昨年度まで、教員は午後5時の勤務時間以後に教材研究やテストの採点などをしていた。部活の時間を早めることで、教員が子どもに関わる時間が増えるし、勤務時間内に教材研究をしたりできる」と利点を強調し、「子どもにいろんな経験させることは意味がある。こうした機会を残しておきたい」と部活の意義を語る。

 部活の時間の繰り上げは教員から「ゆとりをもって教材甕備ができる」などの声が聞かれ、評判は上々という。授業時間の活用については、「うまいやりかただと考える。(子どもの活動の保障と教員の働き方改革の)二兎を追えた。他の学校にも紹介している」と自信を見せる。教員の働き方改革に関しては、「ゆっくり子どもに関わり、人間関係を築くためのもので、ヽ子どもの活動を犠牲にしての負担軽減では意味がない」と訴える。

 一方で、従来形式の部活の休止を選択する学校もある。

 西京区の川岡小は来年度から放課後の部活を取りやめる。本年度は週2回実施していた活動を月2回に縮小した。ただ、部活の意義は認識しており、代替策として、学習指導要領に特別活動として明記されている授業時間内のクラブ活動を充実させる。居林晃一郎校長は「部活を休止させるインパクトは大きい。指導が好きな教員もいるので残した方がいいとの意見があったが、働き方改革を推進するためには、何かを削っていかないと。(小字校の放課後の部活は)学習指導要領にも記載 がない。他の学校も縮小の流れになるのではないか」とみる。

 左京区の市原野小は2023年度から放課後の部活を休止している。その代わり、月2回あった授業時間内のクラブ活動を3回に増やした。休み時間の体育館の使用も解禁し、子どもがスポーツに親しむ時間を生み出している。

 子どもの活動の保障と教員の働き方改革の両立に部活の地域移行という形で答えを出したのが、右京区の常磐野小だ。

 放課後、体育館でボールが弾む音が響く。児童に向き合うのは教員ではなく、中学生を指導するバスケットボールのクラブチームの指導者。約10人がドリブルをしながらの鬼ごっこなど遊びの要素を取り入れたり、シュートやパスなどをしたぴ基礎的な動きを学ぶ。試合形式の練習でこの日の活動を締めくくった。

 午後5時半から6時半の練習後、5年の岡田紗依さん(10)は「練習の仕方が本格的。シュートやドリブルがうまくなりたい」と意欲をみせる。中学生も参加しているので、年代を超えた交流の機会にもなっている。

 常磐野小の地元には野球やサッカー、剣道など少年スポーツのチームがあるが、子ども集めに苦労する一方、小学校側は指導者の確保に悩む状況があった。清川秀一校長は両者をマッチングできないかと考え、常磐野体育振興会の小川一也会長(65)に相談し、5月、総合型地域スポーツクラブ「ヴェール」を立ち上げた。

 指導者が見つかったバスケットボールで始めたが、25年度にはサッカーが加わる予定。他の競技も指導者が見つかり次第、徐々に部活の種目を「ヴェール」に移していく計画だ。中学部活の受け皿になることも検討しており、小川会長は「ヴェールを核に、子どもから大人まで他世代でスキーツがつながれば」と願う。