政府が2023年4月に発足させる「こども家庭庁」の設立準備室は30日、同庁の23年度予算の概算要求額を4兆7510億円だと発表した。22年度に厚生労働省や内閣府が計上した子ども関連予算と比べ639億円の増。概算要求には現時点で金額を示さない「事項要求」が含まれており、年末の予算編成過程でさらに増額される見通しだ。 概算要求は、児童虐待防止対策に1741億円を計上。OB・OG職員の配置など児童相談所の態勢を強化、保育所や幼稚園に通っておらず孤立の恐れがある「無園児」のいる家庭への訪問支援を拡充する。 性犯罪の加害者が教育や保育といった仕事に就けないようにする「無犯罪証明書制度」の導入検討費用を新たに盛り込むなど、子どもの安全関連分野に23億円を充てた。 低所得の妊婦への初回産科受診料の助成や、出生時に体重の軽かった子どもらの成長支援に向けた母子保健の情報発信など、妊娠・子育て期の援助に171億円を計上。 親やきょうだいを介助する「ヤングケアラー」の実態調査や、子どもの貧困対策の関連は307億円。新たに子どもの居場所づくりモデル事業も盛り込んだ。 ひとり親家庭の自立支援に1806億円、障害児支援強化に4721億円などを求めた。 岸田文雄首相は子ども関連予算の「将来的な倍増」を掲げている。 文部科学省は30日、2023年度当初予算の概算要求を発表した。総額は22年度当初比で11・6%増の5兆8949億円。大学の理工系学部の新設・拡充を支援する基金の創設や、公立中学校の部活動を地域団体などに委託する改革「地域移行」に向けた体制整備に重点を置いた。 文教関係は4兆3589億円。基金はデジタルや脱炭素分野の人材育成に向けて既存学部を再編する大学に運営経費などを補助するもので、100億円を計上した。公立小中学校の教職員給与に充てる義務教育費国庫負担金は1兆5108億円で、小4の35人学級化を進める。 科学技術分野は1兆1818億円。基礎研究に実績のある大学を最長10年間助成する新規事業に56億円を充てる。 文化芸術関連は1350億円で、スポーツ関連は463億円。文化系部活や運動部活の地域移行を進めるため、関係者間の調整を行うコーディネーターを配置するなど体制整備を進める費用として88億円を盛り込んだ。 |
有本匠吾被告は、判決前の8月中旬に計3回、京都拘置所で京都新聞記者の接見に応じ、犯行に及んだ理由や、公判で被害者と向き合った感想を語った。 有本被告は、公判を振り返り「放火はウトロ平和折念館の開館阻止が目的だったが、個人の財産も燃やしてしまった。反省している」と話し、被害者らに謝罪文を送ったと明かした。ただ、内容はあくまで「想定外の被害」を与えたことへの反省だとした。 過去に在日コリアンと関わった経験がなかったという有本被告。公判で、ウトロの象徴だった資料が消失したことに憤る、祈念館の副館長の意見陳述を聞いたが、受け止めを問うと「ウトロの正当性を訴えているようで受け入れがたい」と首をかしげた。今後、在日コリアンを標的とした犯罪の可能性には「嫌悪感は変わらない。やり方に問題はあったので見直したい」と述べた。 事件前、有本被告は医療機関に相談員として勤めていたが、名古屋の事件を起こす昨年7月に離職を余儀なくされた。当時の心境を「職もなく、配偶者もいない。家族や友人とも絶縁状態。『いつ死んでもいい』という感覚だった」と振り返る。追い詰められ孤立した境遇は、国内で相次ぐ無差別殺人事件の背景と通じるものがあるとの見方を示しつつ、「もし引き留めてくれる人がいたらい当然止まっていた」と漏らした。 判決文には動機面で「差別」の言葉はなかったが、「特定の出自を持つ人々への偏見」と指摘し、実質的に差別的動機を認定したとみてもいい。ある程度踏み込んだ判決で、社会や被害者にとって前進と言える。 日本の検察は、差別的動機の立証に消極的だとされる。差別意識を量刑に反映させる根拠法がないことや、「加害者の内心をどう証明するのか」という点を理由に挙げる。だが、判決を決める量刑においてそもそも動機を認定しており、差別的動機の立証は現行法の枠内でも可能だ。 欧米では、差別的動機に基づく犯罪と判断されれば量刑が重くなる。国際検察協会も、差別的動機を認定するための指標を作っている。日 本も、法務省などがヘイトクライムの指標を示したり、包括的に差別を禁ずる法律を制定したりする対策が必要だ。 裁判を全て傍聴したが、有本被告は決定的に歴史認識を誤っている。「ウトロは韓国の侵略」と主張し、在日特権の存在を信じる。レイシストが必ず固執する点だ。ネット掲示板の誤った情報をなぞっただけで、自分の言葉はない。 彼自身の貧困や境遇への怒りは、正当だと感じる。しかし、その矛先を在日コリアンに向けたのは、彼が抱えた差別意識だ。判決は明確に 「差別」と認定してほしかった。 近年、「在日特権を許さない市民の会(在特会)」などの声高なヘイトデモは減ったが、決して差別は下火になっておらず、むしろカジュ アル化した。著名人が上品な言葉で発信し、市民の心に溶け込んでいる。表層的な差別意識を持ち、ネットの誤情報に踊る有本被告のような人が、火を放つ状況こそ怖い。 |
在日コリアンが多く暮らす宇治市伊勢田町のウトロ地区の建物などに放火したとして、非現住建造物等放火などの罪に問われた無職有本匠五被告(23)=奈良県桜井市=の判決公判が30日、京都地裁であった。増田啓祐裁判長は「在日韓国朝鮮人という特定の出自をもつ人々に対する偏見や嫌悪感に基づく、独善的かつ身勝手な犯行で、酌むべき点はない」として、求刑通り懲役4年を言い渡した。 判決によると、有本被告は昨年8月30日、ウトロ地区の空き家に火を付け、周辺の民家など計7棟を全半焼させた。また、昨年7月に名古屋市内で在日本大韓民国民団愛知県本部と名古屋韓国学校にも火を付けた。 これまでの公判で、有本被告は起訴内容を認め、動機について「韓国人に対する嫌悪感や敵対感情がある」「(近く開館予定だった、地区の歴史を伝える)ウトロ平和祈念館の開館を阻止することが目的だった」などと述べていた。 判決理由で増田裁判長は、有本被告の動機について、在日韓国朝鮮人が不当に利益を得ているとして嫌悪感や敵対感情を抱く中、離職を余儀なくされ自暴自棄になり、鬱憤を晴らすとともに、在日韓国朝鮮人を不安にさせ、排外的世論を喚起したいと考え、放火に及んだとした。 また、ウトロ地区への放火によって、祈念館に展示予定だった立て看板などの資料なども焼失したことに触れ、「地域住民にとっての活動拠点が失われ、その象徴とされる資料が焼失し、被害者の精神的苦痛も大きい」と指摘。その上で、「暴力的な手段で社会の不安をあおり世論を喚起することは、民主主義社会において到底許容されない」と非難した。 ウトロ地区の被害者弁護団は、事件が特定の民族への差別に基づいたヘイトクライム(憎悪犯罪)であるとして、公判で犯行の動機を民族差別であると立証し、裁判所が量刑に反映するよう訴えていた。 ウトロ地区への放火を「特定の出自を持つ人々に対する偏見」による犯罪と指摘し、被告に異例とも言える求刑通りの実刑を言い渡した京都地裁判決。被害者が一定評価した一方で「差別」という言葉を使われなかったことで、事件の本質がかすんだことは否定できない。ヘイトクライムかどうかの認定を回避したことは、日本の刑事司法が、差別に基づく犯罪を裁くことの難しさを浮き彫りにした。 海外では、差別的動機に基づく犯罪について、より重い刑罰となる法律の整備が進む。有本被告は、公判や記者との接見で、動機について在日コリアンヘの差別意識を盟言。被害者弁護団は「今回の事件以上に分かりやすいヘイトクライムはない」と指摘し、差別を量刑に明確に反映することを望んでいた。 しかし、検察側は差別的動機やヘイトクライムを立証することに消極的だった。ある検察関係者は、「日本の刑事裁判は『何をやったか』という事実認定の世界。必要なのは放火事件の立証で、『差別かどうか』ではない」と明かし、差別的動機を理由に量刑を重くする法律がないため、あえて言及する必要性がないと指摘する。 ヘイトクライムの最大の問題点は、変えようのない自身の属性を理由に周囲から攻撃され、同じ属性をもつ他の人々にも脅威が波及する連鎖性にある。今回の放火事件で、在日コリアン社会は、いつ攻撃されるかという不安に直面した。 他国を参考に、日本の刑事司法が差別犯罪を直視し、法整備を含めて、差別を許さない社会に向かって進むことが求められる。 ![]() |
アナログな職員室をデジタル技術で変える――。長時間労働が問題化する公立小中学校教員の働き方改革などを進めるため、文部科学省は、子どもの欠席連絡や成績管理などの学校業務を教員が手元のパソコンで一元的に扱える新たな「校務支援システム」を導入する方針を決めた。全国で仕様を統一し、子どもが転校する際も迅速にデータを引き継いで切れ目ない指導につなげる。2023年度予算の概算要求にモデル事業などの経費10億円を盛り込む。関係者への取材で判明した。 公立学校では児童・生徒の欠席連絡を電話で受けたり、教員が個人で使えるメールアドレスがないために紙で印刷して文書を共有したりするケースがあるなど、校務のデジタル化が遅れている。 文科省の16年度調査では、公立で小学校教員の約3割、中学校教員の約6割が過労死ラインとされる「月80時間以上」の残業をし、一因にこうしたアナログな作業が指摘されている。 業務の効率化のため全国の7割の自治体が出席履歴や健康状態、学習状況などを管理する「統合型校務支援システム」を導入しているが、大半は職員室の端末からしかアクセスできない。教員が校外で作業しようと、USBメモリーに移した子どもの個人情報を紛失してしまうといったトラブルにもつながってきた。 また、学校や教育委員会ごとにシステムの仕様が異なるために互換性が低く、子どもの転校や進学時に学校間で情報を引き継ぐ難しさも課題になっている。 このため文科省はクラウドで情報を管理する新たな校務支援システムを全国で構築することを目指す。教員が校外でも作業できるよう手持ちのパソコンからシステムへの接続を可能にするほか、児童・生徒の家庭のパソコンから欠席連絡なども受けられるようにする。 国の「GIGAスクール構想」で小中学生に1人1台配備されたデジタル端末と新たな校務支援システムを結ぶことで学習データも蓄積。虐待や生活保護受給の状況も集約し、教員が家庭環境と学習状況を一括して把握することで、指導や支援に生かすとしている。 23年度に6自治体の公立小中学校でモデル事業を始め、30年度までに全国で仕様が統一されたシステムの導入を目指す。クラウド化によって介護や子育てを抱える教員のテレワークを可能にし、学校が災害で被災してもデータの喪失を防げる利点もあるとする。 21年度採用の公立小学校の教員試験の倍率は2・6倍で過去最低を更新するなど教職の人気は低迷している。文科省幹部は「紙を前提とした学校の業務フローを抜本的に見直す。旧態依然とした職場ではないことアピールし、教員の仕事の魅力向上にもつなげたい」としている。 ![]() |
新型コロナウイルスの流行「第7波」が続く中、京都市教育委員会は26日、市立の小中学校と幼稚園で学級閉鎖の基準を9月1日から緩和すると発表した。同日以降は学校での疫学調査と濃厚接触者の特定は行わない。 26日に市役所で開かれた市のコロナ対策本部会議で明らかにした。 市立の小中学校と幼稚園ではこれまで、同一学級内で同じ日に感染者が2人以上確認された場合など三つの条件のうち一つでも当てはまれば学級閉鎖としていた。 新基準では、同一学級内で3日以内に感染者が3人以上確認され、かつ発熱などの症状による欠席者が5人以上となった場合、5日間の学級閉鎖とする。感染者が3人以上でも、学級内感染ではないことが明らかな場合は学級閉鎖にしない。 また濃厚接触者の特定もやめるが、感染対策を行わずに飲食を共にした場合などは出席停止措置にする。 高校と総合支援学校については、引き続き基準は設けず、ケースごとに判断する。 医療現場の負担軽減や社会経済活動の両立に向けてコロナ対応が見直されていることや、学級閉鎖の判断を見直すよう促す文科省通知が出たことを受けて、基準を変更した。市教委は「他都市の基準を参考にし、潜伏期間の短さも考慮して詳細を決めた」としている。 日本の新型コロナウイルス対策は完全な袋小路状態に陥っている。少しは頭打ち傾向が見られると言っても、全国で20万人を超える新規感染者と300人前後の死亡者が連日報告されている。 逼迫する医療機関。救急搬送の困難例。それでも行動制限などの感染を抑える対策はなく、「社会機能維持」と称して療養期間の短縮や入国制限の緩和などが検討されている。多くの学校で2学期が始まり、学校での感染が家庭内に持ち込まれて全員感染という事態の多発も懸念される。 このような状況の中で、コロナを診断した医師・医療機関から保健所へ全ての患者の届け出を行う現行の方式を改め、重症化リスクが低い感染者については人数だけの報告にするという。医療逼迫の中で届け出作業が負担となっている医療機関の業務を軽減し、感染者の対応に追われている保健所の負担を少なくする点では評価できる。 「都道府県の判断」で届け出対象を限定できるとしたが、自治体に責任を丸投げするかのような政府の姿勢に疑問を感じた。政府は今後、現在続けている感染者の全数把握を全国一律に見直すことも検討しているという。あまりにたびたび制度が変更されると現場の混乱を招きかねない。十分な準備を進めて問題が起きないようにしてもらいたい。 入国者数の上限を1日当たり2万人から5万人に引き上げることも検討されている。外国からの訪問者でも、入国後に感染が明らかになれば国内の医療機関が対応することになる。医療現場の負担になることは間違いない。 本来なら入国制限の緩和は流行が収まってから検討すべき課題である。1年前の東京五輪・パラリンピックという良い検討材料がある。入 国者と流行の波の関係をきちんと検証し、2万人から5万人に増えると負担がどのように高まるかを数量的に予測した上で議論すべきだ。 このような点まで含めて、多くの国民が「ウィズコロナ」がもたらす負荷について、どのあたりで妥協し納得するのかが焦点となるだろう。数十万人の新規感染者と数百人の死亡者を今後も受け入れ続けるのか。それとも感染者を数百人に抑えて死亡者を数大にとどめるのか…。 現在の政府の対策は、少なくとも新規感染者を減少させるものではない。その意味では「現状で妥協せよ」と国民に強いているようにも見える。そして第6波の時のように、理由は分からないがなぜか自然に流行が収まるのを待っているのではないか。国民に現状の受け入れを強いるのであれば、はっきりと「社会機能維持のために現状を是認する」と政府は説明するべきであろう。 とはいえ、社会機能の一部である医療機関は破綻の一歩手前か、すでに破綻していることも忘れてはならない。このまま感染が持続、あるいは拡大すれば、職場や学校、公共機関などで感染者が相次ぎ、医療機関と同様に「担い手不足」によって社ふ箱能が破綻を来すことも考えられる。 政府はこれを防ぐために「感染していても社会活動に参加して構わない」という新たなルールを定着させようというのだろうか。何を受け入れて何を防ぐのか。国民レベルでのさらなる議論と、判断の基になる情報の開示が求められる。 ![]() |
文部科学省の有識者会議は26日、児童生徒の生活面の注意点や問題行動への対処を示した教員用手引書「生徒指導提要」の改訂版をまとめた。「ブラック校則」とも呼ばれる不合理な校則の是正に向け、子どもの意見を反映し、必要性が説明できないなら検証して見直すことを求めるのが柱。2010年に作成した現行版の初改訂となり、近く同省ホームページで公開する。 従来は、いじめや非行など問題行動への対応に主軸を置いたが、児童生徒の主体性を生かす指導を重視した内容に転換する。日本が「子どもの権利条約」を批准していると明示して「児童生徒の基本的人権に配慮し、一人一人を大切にした教育」の大切さを説いた。 現行版では「制服の着用、パーマ・脱色、化粧」などに関する校則があると例示したが、お墨付きを与えるような印象を避けるために、手引書から事例を全て削除。「本当に必要なものか絶えず見直し、不要に行動が制限される児童生徒がいないか検証することも重要」と訴え、子どもや保護者らの意見を聞くことが望ましいとした。校則のホームページ公開を推奨。あらかじめ見直し手続きを定めることや、少数派の意見も尊重したルールにすることの必要性を明記した。 また性的少数者への対応に関する内容を盛り込んだ。教職員が理解を深め、差別やいじめを許さない指導を求める。当事者が秘匿したい場合に注意しつつ、専門家と連携してチームで支援することも要請。服装やトイレの扱いなど具体的な配慮の方法も示した。 これまで教員には、自由を認めると生徒が乱れるという考え方があった。だが新型コロナウイルス流行で教室の換気が頻繁になったことなどに伴い、服装の規定が緩和された学校があるが、雰囲気が悪くなった例は聞かない。もっと子どもを信用するべきだ。子どもの権利条約の説明が盛り込まれた今回の生徒指導提要改訂が、校則に疑問を持つ児童生徒や教員が行動を起こすきっかけになってほしい。国は改訂して終わりではなく、理念が教員に浸透したかどうか事後的な検証も必要だ。 プライバシーや人権を侵害するような「ブラック校則」が問題化したことを踏まえ、教員用手引書「生徒指導提要」の改訂版に児童生徒の基本的人権への配慮を明記し、教員自身が校則の妥当性を考えるよう求めていくことが決まった。理念の浸透には、厳しい規則を使った管理に慣れた管理職や教員らの意識改革が鍵となりそうだ。 「変更には勇気が必要だった」。襟足や側面を刈り上げて段差を付ける髪形「ツーブロック」を2学期から解禁する埼玉県神川町立神川中の内田隆一校長(59)が振り返る。昨秋の生徒会アンケートで集まった不満を基に、生徒会から見直しの提案を受けたが、当初は「他の教員や保護者から理解が得られるのか」との不安が拭えなかった。 若手の頃は荒れた学校が多く、校則は秩序を保つために必要だと考えていた内田校長。長く人権教育に携わり、各地で校則改革が進むのを見聞きして意識が変わった。そこに自校のツーブロック問題が浮上。生徒会からは、そり込み禁止や半年の試行期間を設け、行き過ぎた風紀の乱れを防ぐとの提案もあった。「責任感ある生徒の姿を見て、次第に不安はなくなった」と明かす。 ブラック校則」は、2017年に大阪府の女子高校生が地毛の黒染めを強要されたとして府に損害賠償を求める訴えを起こしたことなどをきっかけに注目されるようになった。 岐阜県教育委員会は19年に県立高の校則を調査し、外泊の届け出制などを改めさせた。文部科学省も21年に社会や時代の変化に応じて校則を見直すよう都道府県教委に通知。東京都立高では今年4月、下着の色指定やツーブロック禁止のルールは全廃した。文科省幹部は「学校の問題に介入したくなかったが『国は放置するのか』とのプレッシャーもある」と説明する。 理不尽な校則は教員への負担も大きい。「かつての下着チェックは、やりたくない指導の典型だった」と話すのは栃木県立足利清風高で生徒指導担当の小滝智美教諭(50)。昨年春から生徒や管理職と議論し、下着の色指定や、茶色く見える頭髪を地毛だと証明する書類を提出させる校則を変えてきた。「悩みながら指導する教員も多い。生徒と対話する中で距離が縮まった」とも語る。 ![]() |
安倍晋三元首相の国葬に反対する弁護士グループが26日、東京都内で記者会見し「国葬は弔意の強制であり、国費を投じてよいという法的根拠はどこにもない」との声明を発表した。研究者も含め118人が声明に賛同している。 グループの梓沢和幸弁護士は会見で「銃撃事件は心より残念に思うが、国葬は安倍政権に対する批判の自由を奪い、弔意を強いる。自由な良心に踏み込むものであり、容認できない」と述べた。声明は、国の財政支出には国会の議決に基づく法的根拠が必要だとし、政府が閣議決定のみで実施可能としたことを批判。「憲法の財政民主主義をないがしろにする」とした。 ![]() |
京都府私立中学高等学校連合会は26日、府内の私立中学・高校の2023年度入試の募集定員と要項を発表した。全日制高校38校の外部募集定員は前年度比30人減の7543人で、中学24校は30人増の2773人だった。 高校の募集定員は、平安女学院と京都共栄学園が各10人、同志社女子と立命館宇治が各5人減らす。内部進学者の増減などが理由という。龍谷大付属平安、京都橘、平安女学院、京都明徳、京都成章、京都翔英の6校がコースの変更や学科の改編を行う。ウェブ出願は27校が実施する。 中学の募集定員は、京都橘が30人増やす。ウェブ出願は21校が導入する。 高校の出願は、来年1月10日以降の各校が定めた期間に受け付ける。1次試験は全日制全校が2月10日から実施し、1・5次試験は2月18〜27日に10校が予定する。中学の出願は早い学校で11月28日から、試験は来年1月14日から行われる。 私立高への入学者は新型コロナウイルス禍の影響で21年度は前年度より約270人減ったが、本年度は約50人増えた。他府県からの入学者が一時減ったが戻りつつあるといい、同連合会の佐々井宏平会長は「私学独自の特色ある教育を進めてさらに回復させたい」と語った。 |
埼玉県の公立小学校で校長命令に基づき、法定労働時間を超えて時間外労働をしたのに残業代をもらえないのは違法として、男性教員(63)が約240万円の賃金支払いを求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁は25日、訴えを退けた一審さいたま地裁判決を支持し、教員側の控訴を棄却した。 公立学校教員に適用される教職員給与特別措置法(給特法)や関連法令は、教員の負担軽減のため、実習や学校行事など4項目の業務に限って時間外労働を容認。時間外手当や休日手当を支給しない代わりに、月給の4%に相当する「教職調整額」を一律支給すると規定し、訴訟では給特法の妥当性が争われた。 男性教員は2017年9月〜18年7月、時間外労働が月平均60時間に上り、多くは4項目以外の業務だったとして「労働基準法の割増賃金規定に基づき、残業代を支払うべきだ」と訴えた。 矢尾渉裁判長は一審と同様に、教員の職務は「自発的な業務と、校長の指揮命令に基づく業務を正確に峻別することは困難」とし、厳密な時間管理を前提とする割増賃金制度は教員になじまないと指摘。こうした事情から給特法で教職調整額が支給されているとして残業代の請求を退けた。 ![]() |
京都府と京都市の両教育委員会は25日、公立高の2023年度入試の募集定員や概要を発表した。公立高の募集定員は前年度比160人減の1万2325人。全日制の5校で募集定員を減らした。 募集定員の内訳は、全日制が1万1325人。府立の洛水、西城陽、東舞鶴の3校でそれぞれ40人減らす。京都すばるは起業創造科で30入減らし、企画科で10人増やす。丹後緑風(久美浜学舎)は10人、丹後緑風(網野学舎)は普通科で8人、企画経営科で2人それぞれ減らす。地元中学生の動向や定員の充足状況などから決めた。定時制は720人、通信制は280人でいずれも前年度と同じ。 塔南を元洛陽工業高跡地に移転、再編して来年度開校する開建は「その他普通科」として「ルミノペーション科」を設置する。光を意味するルミナスと成長を表すイノベーションを組み合わせた学科名で、地域と連携した教育などを行う。定員は塔南と同じ240人。 桂、木津、綾部(東)、宮津天橋(宮津学舎)、丹後緑風(網野学舎)の各農業系、工業系、商業系の学科は、現在は通学区域が限定されているが、府内全域に変更する。これにより全ての職業学科が府内全域から通えるようになった。 口丹、中丹、丹後通学圏は普通科の前期選抜の募集割合が全体の定員の20%としていたが、他の通学圏と同じ30%に引き上げ、統一する。 ![]() |
通信制高校できめ細かな指導を行う体制を整備するため、文部科学省は必要な教員数の基準を新設し、生徒80人当たり教員1人以上とすることを決めた。関係省令を改正し、2023年度以降の適用を目指す。関係者への取材で24日、分かった。 現状は「副校長や教諭の数は5人以上で、教育上支障がないもの」とされているだけで、生徒数に対する教員数の基準はない。そのため、教員―人で100人超の生徒を受け持つ大規模校があり、不適切な教育につながるとの懸念があった。29日に開かれる通信制高校の在り方に関する文科省の有識者会議の提言案に盛り込まれる。 関係者によると、多くの公立の通信制高校は生徒20〜40人に教員1人を配置している一方、一部の大規模私立校は新基準を満たしていない。罰則は殷けないが、文科省や自治体が行政指導で是正を促すことができるようにする。 また、規模に関して収容定員240人以上との最低基準の規定があり、この下限も撤廃する。少人数教育に取り組む小規模校の開設を後押しする狙いがある。 近年、通信制高校の在籍者は増えており、21年度は約21万8千人。半数近くが小中学校で不登校経験があるとの抽出調査結果があり、有識者会議では「教員が個別の学習相談に応じるといった丁寧な指導が必要だ」との意見が多数出ていた。 通信制高校を巡っては、15年にウィッツ青山学園高(三重県伊賀市、廃校)で就学支援金の不正受給が発覚するなど不祥事が相次いだ。有識者会議の提言には、本校舎とは別に指導を行う「サテライト施設」への自治体の立ち入り調査を増やすといった監督強化策も盛り込まれる。 ![]() |
日本が締結している障害者権利条約を巡り、国連がスイス・ジュネーブで23日、日本政府に対する2日間の審査を終えた。障害児を他の子どもと分ける特別支援教育や、精神科医療の強制入院など、国際的に遅れが見られる分野に懸念が示された。改善すべき点について9月中旬までに勧告が出される見通し。 日本への審査は2014年の同条約締結後、初めてで、障害者の間では政策の見直しに期待が高まる。ただ勧告に拘束力はなく、政府がどこまで尊重するか対応が問われそうだ。 審査は、18人から成る国連の障害者権利委員会と政府の代表団が対面で質疑応答して実施。 同条約は教育に関し「他の者との平等を基礎として、自己の生活する地域社会で障害者を包容した初等・中等教育を受けられること」と定めており、権利委の委員からは、特別支援学校・学級に通う子どもが増えている日本の状況を疑問視する声が相次いだ。 政府側は「特別支援と普通の学校どちらにするかは本人と保護者の意思を最大限、尊重している。中学以上では特別支援を選ぶ保護者が多い」などと説明した。 精神科の強制入院は他の先進国に比べ緩い条件で広く行われており、「廃止に向けた取り組みのペースが遅い」などの指摘があった。政府側は「厚生労働省の有識者検討会が改善に向けた報告書を6月にまとめており、法改正を準備している」と答えた。 16年に起きた相模原市の障害者施設殺傷事件についても、複数の委員が言及。事件後もなお施設入所者が多く、地域生活への移行が進まない理由をただした。 このほか、障害のある女性は複合的な差別を受けやすい点を挙げ、政府の一層の取り組みを促す意見が多く出た。旧優生保護法による強制不妊の被害者に対する支援を強化するよう求める声もあった。 障害者権利条約を巡る日本政府への審査が終わり、障害者の間では、国連からの勧告による政策の見直しに期待が高まる。ただ教育現場の人手 不足や医療団体の反発など、実現には壁が立ちはだかる。政府内からは国連側の指摘に冷めた見方も上がった。 「精神科の強制入院が増えている理由を政府は調べているのか」「今後もこの遅いペースで取り組むのか」 スイス・ジュネーブの国連欧州本部で約900人が入る大会議室。23日まで2日間行われた日本の審査では、国連の障害者権利委員会の委員か ら政府に厳しい意見がたびたび上がった。 会議室後方では、日本から現地入りした障害者や家族らが審査を見守った。脳性まひで車いすに座る人、耳が聞こえず手話通訳を介して理解す る人。他国に比べ異例の規模となった約100人という傍聴団の多さが関心の高さを物語っていた。 そのうち青木弘美さん(51)と次女で高次脳機能障害のある中2のサラさん(14)は、文部科学省の答弁が現実とあまりに違うことに納得いかなかった。 文科省は権利委に対し「特別支援学校と普通学校のどちらに通うかは本人と保護者の意見を最大限、尊重している」と答えた。だが、サラさんが小学生の時、弘美さんは地元の教育委員会に何度掛け合っても、特別支援学校から普通学校への編入を断られた。 「他の子と会話が合わず孤立する」「授業が分からなくても教える人はいない」。さまざまな理由を並べられた。中学では何とか普通学校に入 学できたが、今も教師から心ない発言がある。 障害者団体から「政府答弁は、でたらめだ」との声が上がる一方、政府側からは「権利委は団体の意見をうのみにしている」との不満も漏れた。 日本では特別支援学校に通う人が増え続けており、21年度は10年前の約1・2倍。小中学校の特別支援学級でも約2・1倍に増えている。 ![]() |
22日判明した防衛省の2023年度予算概算要求は、計上額が過去最大に達した。沖縄県など南西諸島防衛の実戦を想定。これまで優先してこなかった弾薬の製造・保管・輸送をてこ入れし、戦闘継続能力(継戦能力)向上を図る。野党は、防衛費6兆円台を視野に入れた政府の姿勢を「金額ありき」と問題視する。 10日。岸田文雄首相は内閣改造後の記者会見で「数十年に1度とも言われる難局を突破する」と狙いを説明。新型コロナウイルス対応、ウクラ イナ危機に続けて『台湾を巡る米中関係の緊張』を難局に位置付けた。 念頭にあったのはその前週、台湾を包囲する区域で中国軍が開始した軍事演習だ。ペロシ米下院議長の訪台を機に、多数の艦船や航空機を投入。弾道ミサイル5発は日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下させた。 台湾は沖縄県・与那国島から約110キロしか離れていない。自衛隊関係者は「中国はいつでも台湾周辺を封鎖できると誇示した。軍事衝突が起きれば、日本の南西諸島も甚大な影響を受ける」と衝撃を隠せない。 首相は会見で、改造内閣の5重点分野の筆頭に「防衛力の抜本強化」を挙げた。浜田靖一防衛相は10日の就任会見で「南西諸島における防衛体 制を目に見える形で強化していく」と強調した。 こうした危機感は、継戦能力強化として概算要求に織り込む。従来の防衛予算は人件費や戦闘機など装備品のローン払いが中心で、ミサイルを 含む弾薬関係費は「事実上の後回し」(防衛省幹部)にされてきた。 いくら最新装備をそろえても、弾薬確保が不十分なら実戦を何日耐えられるのか―。自衛隊の長年の課題をより鮮明にしたのが、ロシアによる ウクライナ侵攻だった。ウクライナは抵抗するための武器・弾薬が足りず、諸外国に支援を要請した。防衛関係者の間では、自前の装備品調達が必要との認識が高まった。 政府は22年度予算で、弾薬確保のために約1660億円を計上。23年度予算の概算要求では、ミサイルの製造ライン強化を明記し、金額を示さ ない「事項要求」とした。防衛費概算要求の計上額は5兆5947億円となるが、事項要求分を含めた防衛費は最終的に6兆円台半ばに積み上がると予想される。 ![]() |
安倍晋三元首相の家族葬が7月に行われた際、各地の教育委員会が学校に国旗の半旗掲揚を要請した。行政の意向をくんで丸投げするかのような対応に、専門家からは「あまりにも思考停止」との指摘も。子どもへの価値観の押し付けにもつながりかねず、9月に予定される国葬では行政から独立した判断が求められそうだ。 「半旗の掲揚につき、特段のご配慮をお願いいたします」。安倍氏の通夜が都内で営まれた7月11日、東京都総務局が各部署に出した事務連絡の一節だ。受け取った都教委は、255ある都立学校にそのまま転送した。同種の要請は全国で次々と明らかになった。 いずれも「掲揚するかの判断は各校に任せた」などと説明。文部科学省の担当者は「哀悼の意を表することへの取り計らいを依頼する趣旨なら、政治的な活動には当たらない」と“お墨付き”を与える。 こうした主張に「『お願い』と言いながら、学校は従わざるを得ないだろう」と疑問を投げかけるのは、名古屋大の中嶋哲彦名誉教授(教育行政学)。実際、北海道帯広市では39校のうち35校が、兵庫県三田市でも29校中21校が応じた。掲揚した帯広市のある学校関係者は「指示と受け取った」と振り返る。 経済政策「アベノミクス」や安保関連法など、安倍政権の施策の是非を巡って世論は大きく割れた。中嶋名誉教授は「政権の評価が定まっていない中で肯定的な評価を学校として表明することは、子どもへの一方的な価値観の押し付けで、『学校の政治的中立』などをうたった教育基本法に反する」と断言した。 なぜ議論を呼びかねない要請をしたのか。帯広市教委は「市が掲揚を決めたので、学校も市の施設だから歩調を合わせた」とし、山口市教委も「県庁からのお願いがあった」。だが教委は、教育への政治的介入を防ぐため首長から独立して事務を行う制度だ。日太大の広田照幸教授(教育学)は「行政の依頼を右から左に流すだけで、思考停止している」と手厳しい。 文科省は過去、中曽根康弘氏ら首相経験者の合同葬で国立大などに弔意表明を求めたことがある。ただ国旗国歌法は日章旗を国旗とすると定めるが、どのような場合に半旗を掲げるかの決まりはない。一部の自治体は国旗などの取り扱い要領を作っているが、長野県は管理上の留意点のみを定め、長崎市は弔意を表す曼ほ原則半旗とするとの規定があるが、市立学校は対象外という。 9月27日の国葬でも半旗掲揚を要請するかについて、文科省は「検討中」、三田市教委は「議論していない」などと言葉を濁す。広田教授は「各教委には、要請にただ従うのではなく、独立した判断が求められる」とくぎを刺した。 ![]() |
公立中学校の部活動を地域団体や民間事業者に委ねる「地域移行」で、文部科学省の外局であるスポーツ庁と文化庁は、関係者間の連絡・調整などを行うコーディネーターを自治体に配置して体制整備を進めることを決めた。指導者確保のための人材バンク設置を後押しし、経済的に困窮する家庭の生徒への財政的な支援も実施する。文科省は2023年度予算の概算要求に80億円超を盛り込む方針。関係者への取材で21日、分かった。 少子化の進展で学校単位での部活運営が困難になる中、スポーツ庁と文化庁の有識者会議はそれぞれ、25年度末までに公立中の休日の部活指導を地域に移行する改革を提言。23〜25年度の3年間を「改革集中期間」に設定した。 地域移行を進めるため、都道府県や市町村が協議会を設置し、総括コーディネーターを配置。部活の受け皿となる総合型地域スポーツクラブや民間事業者、文化芸術団体などと学校をつなぐコーディーターを地域ごとに置き、連絡や調整を担ってもらうことを想定している。 指導者の確保も課題で、都道府県による人材バンクの設置や、指導者養成のための講習会開催なども補助する。 地域団体や民間事業者が部活動の運営主体になった場合、現在よりも会費などの家計負担が重くなるとみられている。困窮世帯の生徒が参加できない事態を避けるため、新たに必要となる会費などを支援する。 この他に、教員の負担軽減のため、指導や大会引率をする部活動指導員も大幅に拡充する。 |
LINE(ライン)が犯罪捜査に協力するため、警察など捜査機関に開示した利用者の個人情報は、2017年から21年までの5年間で計約1万1千件に上ることが20日、LINEの公表資料から分かった。専門家は「交流サイト(SNS)を悪用した犯罪が増えており、捜査にSNSの個人情報が欠かせなくなっている」と話している。 LINEの「透明性リポート」によると、裁判所の令状に基づき捜査機関に開示した個人情報は21年に2393件になった。17年は1909件だったが、18年は2186件、19年は2269件、20年は2246件と増加傾向にある。 個人情報は利用者の電話番号やメールアドレス、やりとりをした相手や日時などの通信履歴、スマートフォンやパソコンのインターネット上の住所に当たるIPアドレスなどだ。 詐欺や恐喝、横領などのほか、子どもが被害に遭う犯罪捜査を理由とした開示請求が多かった。これとは別に、令状に基づかない捜査関係事項照会と呼ばれる情報提供は5年間で416件あった。自殺予告など人命保護の必要がある際も令状なしに情報を開示したケースもあった。 LINEは「捜査機関などへ利用者の情報を提供する場合は厳密な基準を作成し、十分な検討をした上で提供している。基準は公開しており、個人情報は厳重に管理している」とコメントした。 犯罪白書によると、ネットを利用した詐欺や児童買春・ポルノ禁止法違反などによる摘発数は年々増加しており、20年は8703件だった。SNSに起因する事件の被害児童数は1819人だった。 立正大の小宮信夫教授(犯罪学)は「犯罪が起きる場所がリアルな空聞から匿名性の高いサイバー空間に移。つてきている。従来の捜査で行ってきた証拠集めや事情聴取と同じように、SNS上での個人情報や活動履歴が重要な手掛かりになっている」と分析している。 裁判所の令状に基づいて捜査機関に個人情報を開示することは理解できる。一方で令状に基づかない捜査関連事項照会で個人情報を開示することには、プライバシーの保護や憲法に保障された通信の秘密の点からも慎重になる必要がある。 LINEなど大量の個人情報を蓄積している企業には、捜査機関に提供した情報の概要について公表する社会的責任があると言えるだろう。 ![]() |
急激な物価高騰が、京滋の子ども食堂の運営に影を落としている。運営資金の大部分を寄付や助成金で賄っており、高騰が長引けば「子どもの居場所」としての役割を果たしている食堂の開催頻度の低下が懸念される。運営費の公的補助が始まったが、同様に影響を受けている他分野で居場所支援を行う団体への支援が十分でないことを問題視する関係者もいる。 守山市の吉身東町自治会館で毎月第2土曜に開かれている子ども食堂「ひがしつこ」。7月に開かれた食堂では、煮込みハンバーグやポテトサラダなどが入った弁当を、訪れた子どもたちが次々と受け取り、おいしそうに食べていた。ただ、食材のタマネギやジャガイモは以前よりも販売価格が軒並み高騰。小西由美子代表(65)は「安い食材や値引き商品を探すためスーパーを数軒回っている」。頼みの綱のフードバンクも5月ごろから食品が入りにくくなったといい「農家や家庭菜園をしている知り合いにこれまで以上に積極的に声を掛けて、野菜の提供をお願いしている」と話す。 京都市南区で毎週水曜に「ピネス子ども食堂」を開く宇野明香さん(40)も「予算ありきで献立を考えているので、今後、牛肉が豚肉にな ったりフルーツを出せなかったりということがあるかもしれない」と不安がる。 認定NPO法人「全国こども食堂支援センター・むすびえ」が、6月に全国の子ども食堂を対象に実施したアンケートでは、回答のあった623団体のうち7割が「物価上昇による影響を感じている」と答えた。開催頻度や料金、食事の内容など何らかの変更を実施・予定しているという割合は15・6%に上った。 物価高への対応として、滋賀県や京都市では子ども食堂を運営する団体に上限10万円の補助を始めた。白身も彦根市で子ども食堂を運営する滋賀大の柴田雅美特命教授は「食を通じた居場所は食事中や食後のコミュニケーションや触れ合いが大きな意味を持つ。料理の質も重要だが、子ども食堂が開いているということが一番大事」と指摘。 「お菓子や飲み物を提供して居場所を作り、不登校や引きこもりの支援を行っている団体もあり、同じように物価高の影響を受けている。そうした所への公的な補助も充実させるべきだ」と訴える。 ![]() |
小中学校のデジタル教科書について、文部科学省が2024年度から英語で先行導入する方針を固めたことが19日、関係者への取材で分かった。現場の混乱を避けるため、当面は紙の教科書と併用する。実証事業として22年度から希望する全ての小中学校に英語のデジタル教科書を無償配布しており、活用の下地が整いつつあると判断した。 25日に開かれる中教審の作業部会で方向性を示す。実証事業は23年度も継続する方針で、23年度予算案の概算要求に関連経費を盛り込む見通し。 7月に開かれた作業部会の会合では、発音を確認できるといったデジタル教科書のメリットを既に実感している教員が多いとして「英語から段階的に拡大すべきだ」との意見が複数の委員から出た。 文科省の有識者会議は21年6月、授業でパソコンやタブレット端末の活用が進んでいることを受け、24年度をデジタル教科書の「本格導入の最初の契機」にすべきだとする報告書を公表。一方「紙かデジタルかの二項対立に陥らないよう留意しなければならない」と指摘し、紙の教科書の廃止には慎重な姿勢を示していた。英語の次に導入する教科の有力候補には、画面上で図形の操作などが可能だとして、算数・数学が挙がっている。 ![]() |
公立小中学校教員の勤務状況が過酷になっている。少子化が進んでいるにもかかわらず、デジタル対応など業務が拡大しているためで、教員の半数は勤務時間中の休憩時間がゼロだったことが研究者の調査で判明した。立場が不安定な非正規教職員が増え、正規教員へのしわ寄せも起きている。精神疾患による休職者は約5千人の高止まりが続き、教員の負担軽減は喫緊の課題だ。 教員の疲弊は子供の成長に悪影響を及ぼしかねず、国や自治体は教員がゆとりを持って児童や生徒と向き合えるよう勤務実態を正確に把握して業務を精選し待遇を改善する必要がありそうだ。 文部科学省の「学校基本調査」を基に共同通信が小中学校の教員―人当たり児童生徒数を算出したところ、2010年の15・7人から20年は14・2人と約1割減った。京都府は15・0人から13・7人、滋賀県は15・7人から14・1人だったが、負担は逆に増えている。 名古屋大の内田良教授(教育社会学)が昨年11月、公立小中の教員924人に実施したアンケートでは、小学校教員の51・2%、中学の47・3%が勤務中に休憩を全く取れなかったと回答した。 長野県教職員組合の今井正広法制部長は「情報通信技術(ICT)の教育活用が重荷になっている」と述べ、デジタル化による新業務が背景にあると説明した。精神疾患で休職する教職員は増え、公立高や校長、教頭らも含めると1990年代は千人台だったが、2008年度以降は5千人前後で高止まり。全体のO・5%台に当たる。 教員経験者らの団体の調査によると、07年に公立小中、義務教育学校の教職員に占める非正規教職員の割合は9・4%だったが、毎年増え、21年に17・5%に。6人に1人が非正規で、継続的な仕事は任せにくいとの考えから正規雇用の教員に仕事が偏りがちだ。 ![]() |
2020年3月から今年6月にかけ、新型コロナウイルス感染症が流行した影響により国内で増加した自殺者は約8千人に上るとの試算を東京大などのチームが17日までにまとめた。最多は20代女性で、19歳以下の女性も比較的多かった。チームの仲田泰祐・東大准教授(経済学)は「男性より非正規雇用が多い女性は経済的影響を受けやすく、若者の方が行動制限などで孤独に追い込まれている可能性がある」としている。 政府の統計から20年と21年の自殺者はいずれも約2万1千人で18、19年より多かったことは分かっていたが、新型コロナの影響の規模ば明確でなかった。 日本では失業率が上がると自殺者が増える傾向にあり、経済的困難が要因の一つと考えられている。チームはこれまでの自殺者数の推移や失業率の予測などを基に、新型コロナが流行しなかった場合のこの期間の自殺者数を推計。実際との比較の結果、8088人増えたと試算した。 年代別では20代が18317人と最多で、この年代の自殺者の約3割を占め、新型コロナの影響の大きさをうかがわせた。女性は1092人、男性は745人だった。19歳以下でも約2割に当たる377人に上り、このうち女性は282人だった。人とのつながりが少なくなると孤独を苦にした自殺が増えると言われており、チームは行動制限の影響もあるとみている。 政府の統計で国内の自殺者は10年以降、毎年約500〜3千人ずつ減り続けてきたが、20年は11年ぶりに増加に転じ、21年は微減したもののほぼ横ばいだった。男性は12年連続で減少する一方、女性は2年続けて増加。小中高生は20年に過去最多の499人に達し、高止まりが続いて いる。 政府新型コロナウィルス 感染症対策分科会メンバー の大竹文雄・大阪大特任教授(行動経済学)の話 新型コロナ感染と社会経済活動を止めることのリスクを比較考慮することが大事で、コロナ後の自殺者数データなどにも注目して対策を転換すべきだ。社会経済活動の維持には隔離期間を短縮するなど制限を緩め、重症化リスクが高い人に重点を置いた対策ヘシフトすることが必要だ。 新型コロナウイルス感染症流行を受け、政府は緊急事態宣言など厳しい行動制限で感染拡大を抑えようとしてきた。その一方、失業率は高い状態が続き、経済状況は全体的に厳しくなっている。新型コロナの重症化リスクが低くなった今、専門家の中には、自殺の増加など社会経済への負の影響を避けるため、感染者の療養期間短縮など一層の対策緩和を求める声もある。 政府の統計などによると、国内で新型コロナの流行が本格的に始まった2020年3月以降、失業率は2・5〜3%ほどで推移し、流行前に予測されていた2・4%ほどを上回ってきた。正規労働者数は19年同月と比べて100%程度と同水準を維持しているが、非正規は数ポイント低い水準になっている。 こうした低調な経済が続くことが社会に及ぼす影響は自殺者の増加にとどまらない。結婚件数が大幅に減り、将来的に約24万3千人の出生が失われるとの試算もある。 流行「第6波」や現在の第7波で主流のウイルスはオミクロン株で、重症化リスクは低めだが感染者が増えやすい。そのため感染者への制限が厳しいと、社会経済の停滞に影響が大きく出やすくなっているともいえる。 ![]() |
保育所などに通っていない「無園児」の問題は、育児などで困難を抱えていても「親が世話をするのが当たり前」といった固定観念の下、長年置き去りにされてきた。来春の「こども家庭庁」創設を契機に、国はようやく対応に乗り出すが、時代の変化に制度が追い付いていない。専門家は「必要に応じて多様な保育の選択を用意すべきだ」と提言する。 東京都の高浜沙紀さん(30)は3人の子どもが無園児だった日々を「何かのタイミングが1秒でもずれていたら、自分が虐待死事件の母親になり得た」と振り返る。 2016年の長女出産時、住んでいた区は待機児童が多く、希望した保育所は全て落選。勤務先から遠回しに育児休業を取らないよう言われ、退職を余儀なくされた。18年には双子を出産。多胎児の場合は入園しやすい区に引っ越したが、受け入れ先はなかなか見つからなかった。 3人の育児は壮絶だった。睡眠は細切れに1、2時間。夫と4日間徹夜したこともある。意識がもうろうとし、ミルクを作る熱湯が自分の手にかかっても気付かなかった。泣き続けるわが子に殺意に近い思いを抱きつつ、「私の頑張りが足りず、甘えているだけでは」と自分を責めた。毎日、朝が来るのが怖かった。 18年10月、保健師から様子をうかがう電話があり、明るく取り繕ったが、こらえ切れず涙があふれた。医師から双極性障害と診断された。 翌19年2月、区から3人の入園を認める通知が来た。長女の出産から2年余り。「頑張ったね」と認められた気がした。 「子どもはいろいろな感情や言葉を知り、ぐんぐん成長している」と言う高浜さん。「わが家を救ってくれたのは間違いなく保育園。必要とする家庭に対し、開かれることを強く望みます」 子育てを巡る環境が時代とともに変わっているのに対し、国の施策は後手に回っている。 高度経済成長期には「男は仕事、女は家庭」といった性別役割分担の意識が社会に根強く、保育所は、家庭での育児が難しい場合の福祉施設として位置付けられた。 市区町村は保護者の就労や病気といった「保育の必要性」を点数化し、入所者の優先順位を決定。こうした仕組みは今も続き、ささざまな事情を抱えた人が利用しづらい状況となっている。 専業主婦がいる家庭は1985年の936万世帯から、2021年には458万世帯に半減。これとは逆に共働き家庭は718万世帯から1177万世帯に増え、保育所に入れない待機児童が激増した。地域のつながりも薄れ、近年、母親が1人で負担を抱える「ワンオペ育児」も社会問題化している。 少子化が進み、待機児童が減少に転じる中、保育所が果たすべき役割も見直しを迫られている。保育政策に詳しい汐見稔幸東大名誉教授(教育人間学)は「社会インフラとし、すべての希望する人に利用する権利を認めるべきだ」と主張する。 子どもにとっては、集団で遊ぶことで社会性を身に付けたり、親以外の大人と接することで他者への信頼感が生まれたりする利点があるとする。 「働いている親が毎日子どもを預ける場所」という認識を転換し、働いていない場合も「午前中だけ」「週に数日」といった柔軟な使い方ができるようになれば、親が保育士相談したリフレッシュしたりきると提案する。 ![]() |
新型コロナウイルス流行前と比べて収入が減ったままだと答えた子育て中の困窮世帯が50%に上ることが12日、認定NPO法人「キッズドア」の調査で分かった。急激な物価高が家計を圧迫しており、団体は「食事の回数を減らす世帯も増えている」と深刻な状況を訴えている。 調査は7月にインターネツ卜で実施。キッズドアの困窮支援活動に登録し、今夏に食料支援を申し込んだ全国の2084世帯から回答を得た。 コロナ感染拡大前の2020年1月以前と比べて保護者の収入が「減少し、そのまま」としたのは50%。「減少後、回復途上」とした世帯は19%だった。 コロナ禍による子どもの変化を複数回答で尋ねると、最多は「学力が落ちた」で32%。「授業についていくのが大変になった」「学校に行くのを嫌がるようになった」など、学習面での悪影響が目立った。 自由記述では「物価高で食費に充てるお金が減った」「電気代の値上がりが苦しい」という回答があった。渡辺由美子理事長は「第7波も重なり、耐えられず病気になる人も増えている」と話し、児童手当の拡充など国に支援を求めている。 ![]() |
京都市教育委員会は10日、野外活動施設「奥志摩みさきの家」(三重県志摩市)を来年3月末で廃止する方針を明らかにした。みさきの家は、全市立小の4年生が毎年、宿泊学習で利用してきた。廃止後の宿泊学習の在り方や施設の活用については今後、検討するという。 太平洋に面したみさきの家は、子どもたちに海を体験する機会を提供するため、1981年に開所。2泊3日で利用してきたが、2020年から新型コロナウイルス感染拡大防止のため利用を中止している。 廃止方針は、同日開かれた市議会教育福祉委員会で市教委が報告した。理由については「みさきの家は市内からバスで3時間半かかり、児童が 体調を崩した時に保護者が迎えに来るのも負担となっている。一方で、(みさきの家の設置以降)府内近隣でも海の体験ができる施設が開設さ れ、それらが利用できる」と説明した。 また今後の行き先などについては「校長裁量に任せてもらえないかという意見もあり、それらを踏まえて協議する。宿泊日数も議論がされて おり、宿泊活動の在ぴ方については総合的に検討したい」と応じた。 報告では、京都市右京区の野外活動施設「京北山国の家」も来年3月末で廃止する方針を示した。利用者の減少や建物の老朽化に加え、管理者が高齢となり管理が困難となったためという。 ![]() |
文化庁の有識者会議は9日、吹奏楽や合唱、演劇など公立中学の文化系部活動の指導を、2025年度末までに休日は地域団体へ委ねるべきだとの提言をまとめた。運動部改革と足並みをそろえる。文化庁は自治体による指導者確保や会費補助の後押しをするため、来年度予算の概算要求に関連経費を盛り込む。 提言は、少子化で学校単位での運営が困難になることや、部活が教員の長時間労働の要因になっていると指摘。スポーツ庁の有識者会議が6月に公表した運動部の移行スケジュールと同じ23〜25年度を「改革集中期間」に設定し、自治体に推進計画の策定を求めた。問題点を洗い出し、将来的に平日の部活も学校から切り離す検討を進める。 委託先は地域の文化団体やカルチャースクール、芸術示大学を想定。受け皿がない場合、自治体が音楽経験のある住人らと団体を設立することも選択肢に挙げた。 音楽ホールや劇場といった文化施設が少なく、練習場所の確保が難しい地域が多い。重い楽器を持ち運ぶなど文化系特有の負担を軽減する必要もあるとして、外部指導者が学校の音楽室で指導したり、廃校施設を活用したりする対策を示した。 企業などに委託する場合、家庭の会費負担が膨らむ恐れがある。困窮世帯の中学生も参加できるような公的補助の導入が必要だとした。 有識者会議座長の北山敦康静岡大名誉教授(音楽教育学)は9日、提言を文化庁に提出。報道陣に「指導者への対価支払いなど地域移行には新たな費用がかかる。国は積極的に自治体を財政支援し、生徒が希望する部活に参加できる公平な環境をつくらなければならない」と話した。 ![]() |
京都府北部の丹後地域での大学入学共通テストの試験場設置に向け、地元2市2町の首長が8日、京都府立大(京都市左京区)を訪れ、峰山高(京丹後市)を会場にした試験運営を要望した。塚本康浩・府立大学長は「実現に向け課題は多いが、前向きに検討している」と述べた。 丹後地域には、共通テス卜の試験場となりうる大学が近くになく、府内で唯一、受験する高校生が京都市内で宿泊し、京都大などで試験を受けている。慣れない環境で試験に臨む心理的な負担や宿泊費などの経済的負担もあり、高校のPTAなどが試験場の設置を府に要望してきた。 提出後の意見交換で中山泰・京丹後市長は「高校生の負担と、他の地域にはない不公平を解消してあげたい。行政も最大限サポートするので、本年度からの実施をお願いしたい」とあらためて訴えた。 試験監督を務める教員の態勢など運営面の課題が共有され、塚本学長は「行政と連携を密にしながら進めたい」と話した。 ![]() |
人事院は8日、2022年度の国家公務員給与を引き上げるよう国会と内閣に勧告した。企業業績の回復で、民間の給与水準が高くなっており、格差を解消する。最も人数が多い行政職の月給は、初任給を3千〜4千円アップするなどして平均921円(0・23%)の増。ボーナスの年間支給月数は0・10ヵ月分増やして4・40ヵ月とする。いずれも3年ぶりのプラス。 政府は同日、給与関係閣僚会議を持ち回りで開き、勧告を受け入れるかどうかの検討を始めた。受け入れて法改正した場合、行政職(平均42・7歳)の年間平均給与は5万5千円増の666万円となる。 行政職の月給は20代半ばまでの若手を中心に引き上げる。初任給の増加額は、総合職試験や一般職試験(大卒程度)の合格者が3千円、一般職試験(高卒)が4千円。志望者が減少し、若手職員の離職も目立っていることに対応した。 |
2020年国勢調査で最終学歴が「小学校卒業」の人を初めて調査したところ、20年10月時点で80万4293人いたことが分かった。小学学校に在籍したことがない人や小学校を退学した人といった「未就学者」は9万4455人で、義務教育を修了していない人は約90万人に上る。文部科学省は6月、学び直しの機会を確保するため、公立夜間中学校の設置を進めるよう都道府県教育委員会などに通知した。 小卒の人は、70代以上が77万3795人と96%を占めたが、30代以下も7031人いた。年齢層が高いと日本人が多くを占めるが、50代以下になると半数以上が外国人になる。 未就学者も高齢者が多いが、30代以下は1万4309人で15%。どの年代でも日本人の方が外国人より多い。 国勢調査の最終学歴は回答者の自己申告。文科省が県と政令市に1校以上の設置を促しており、静岡県と仙台市は23年度、福島市は24年度の開校を目指している。一方、小卒の人が多かった愛知県や、人口に占める割合が高い青森県や秋田県などには設置されていかい。 福岡市の自主夜間中の共同代表を務める木村政伸・西南女学院大教授(教育学)は「自治体は不登校経験者や外国人などの支援団体と連携し、ニーズを掘り起こしてほしい」と話している。 ![]() |
人事院は1日、2022年度の国家公務員給与改定で、一般職の月給とボーナス(期末・勤勉手当)を引き上げるよう勧告する方針を固めた。いずれもプラス勧告は3年ぶり。新型コロナウイルス禍で悪化した企業業績が回復し、民間給与が上昇傾向にあるのを反映する。来週前半にも国会と内閣に勧告する。 現行のボーナス支給月数は4・30ヵ月。改定は0・05ヵ月単位で実施するのが通例で、22年度は小幅な引き上げにとどまる見通しだ。月給は若手職員の上積み額を手厚くするとみられる。 人事院は22年度の改定に向け、4〜6月に従業員50人以上の企業から抽出した約1万2千事業所を対象に調査を実施。集計の結果、国家公務員の給与水準が民間を下回り、格差解消へ引き上げが必要と判断した。 民間の賃上げは、人事院以外の各種調査でも明らかになっている。経団連の22年春闘の最終集計では、大手企業の月給の賃上げ率が平均2・27%となり4年ぶりに前年実績を上回った。 今回の勧告では、コロナ禍により民間で広がった在宅手当に関し、国家公務員にも導入すべきかどうかの判断を示さない見通しだ。必要な検討が終わっていないのが主な理由。最近の勧告を見ると、19年度は月給、ボーナスとも増額。20、21年度は月給が据え置きで、ボーナスが減額だった。 ![]() |
2022年度の最低賃金(最賃)協議は、引き上げ幅が過去最大の31円で決着した。増加率は3・3%となった。円安などで急速に物価高が進む中で、低所得者層の生活不安を和らげる狙いがある。物価高に伴う原材料費のコスト負担に加え、人件費増がのしかかることになる中小企業からは悲鳴が上がる。 近年の引き上げは、新型コロナウイルス禍が始まった20年度を除き、政治主導により全国平均で年3%程度の増加が基本軸だった。安倍政権がデフレ脱却を目指し、経済財政運営の指針「骨太方針」で3%程度の引き上げを掲げ、菅政権はコロナ禍前と同水準の引き上げを求めるなど強力に推進してきた。 岸田文雄政権は骨太方針で「できる限り早斯に全国加重平均千円以上を目指す」と明記したものの、22年度の数値目標は示していない。だが物価高騰が続く中、数少ない「分配」の成果としたい最賃でつまずきたくないとの焦りが募っていた。岸田首相は7月25日の経済財政諮問会議で「最賃を含め賃上げの流れをよりしっかりとした継続的なものとする」と強調した。 協議の焦点となったのは物価高の評価だ。直近の消費者物価指数(生鮮食品を除ぐ)は3ヵ月連続で2%超上昇。最低賃金の水準を決める要素の一つである生計費は上昇し家計が圧迫され、労働者側は物価上昇に配慮した引き上げを求めた。 さらに協議の中で引き上げの追い風となるデータが示された。厚生労働省は従業員30人未満の企業の賃金上昇率が1・5%と、24年ぶりの高水準だったと明らかにした。前年より1・1ポイント上昇。引き上げの参考となる資料で、最大の増額幅へ環境が整っていった。 企業側の姿勢にも変化は出ていた。「物価が上がり、去年とは状況が変わってきた」。日本商工会議所の三村明夫会頭は4月の記者会見でこう説明。経営側は協議で「大幅な引き上げは中小企業の事業継続を危うくする」と主張したが、2年連続で据え置きを訴えてきた姿勢を一転させ、一定の増額を容認する構えを示していた。 ただ、中小企業には困惑も広がる。「コロナ、物価高の状況で賃金を上げれば三重苦だ」。高知市のクリーニング会社「土佐ランドリ上の住本和之社長は窮状を嘆く。 持ち込まれる衣類がコロナ禍で激減して売り上げは2割減少が続く上、石油由来の溶剤やハンガーなどのコストは昨年比2割増えた。従業員は40人ほどで、高知県内の最賃820円に近い時給で働く人が多く、過去最大の引き上げに伴う人件費増の負担は重い。 今年2月にはクリーニング代の値上げをしたばかり。住本社長は、頻繁に値段を上げれば客が離れかねず、板挟みだ。地方企業の実情もちやんと見てほしい}と訴える。 ![]() |
相模原市の知的障害者施設で19人が刺殺され、26人が負傷した事件から6年が経過したのに合わせ、障害者差別や優生思想について考える講演会「何が問題か? あなたはどうする?」が、京都市下京区の顕道会館で行われた。障害の当事者や福祉施設で働く人たちがこれまでの体験を語り、「障害のある人を受け入れる社会は、誰もが生きやすい社会につながる。多様な考え方を学び合うことが必要」と強調した。 事件を風化させてはならないと、精神障害ピアカウンセラーの細田一憲さん=西京区=が、市民や当事者と実行委員会をつくり、毎年開催している。 1部では、日本障害者協議会の藤井克徳代表が講演。植松聖死刑囚の裁判では、争点が責任能力の有無のみだったといい、「裁判で、事件の真相は判明しなかった。ほとんどの被害者がイニシャルのままだったことにも、違和感を抱いた」と明かした。 全国で提訴された旧優生保護法の国家賠償訴訟について、「全面解決のためには一時金ではなく、被害者の尊厳を回復するための賠償金が必要」と強調。 国連の障害者権利条約について、「当事者が社会の基準まではい上がれ、という従来の考え方と異なり、社会が当事者に近づきましょうという思想に基づいている」と評価した。 当事者や福祉施設職員も登壇した。うつで通院する女性は、「事件の容疑者に、精神科の受診歴があると報じられるたび、自分も周囲から犯罪者予備軍と見られているのではとおびえている」と打ち明けた。職員からは「当事者になめられるな、という感覚で働いている人もおり、福祉の現場にも差別があると感じる」などの声も上がり、参加者が共生社会の在り方について考えた。 ![]() |