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ロシア反発「非ナチ化を」(7/19)

反戦の元TV職員 一時拘束と報道(7/19)

イラン無人機 連携合意のロシアに供与か(7/22)

持久戦、求心力維持図る(7/24)

焦げたもみ 大地覆う(7/28)

クラシック界 ロシア離れ(8/1)

「ロシアが敗北」なら停戦交渉(8/6)

非核こそ、平和への道(8/6)

ザポロジエ原発に砲撃(8/7)

「核維持で侵攻防げた」(8/12)

編入、結果問わず「承認」か(8/19)

スポーツ選手ら 戦地で犠牲多数(8/19)

【インサイド】IAEA入れず実態不明(8/20)

ウクライナ侵攻 あす半年(8/23)

見えぬ和平 展望は 教訓は(8/24)

ザポロジエ原発、給電中断(8/26)

ザポロジエ原発 また砲撃(8/29)

へルソン奪還作戦本格化(8/31)

IAEA派遣団キーウ入り(8/31)

ザポロジエ原発 IAEA調査開始(9/2)

IAEA、2人常駐へ(9/3)

IAEA原発調査 情報戦(9/3)

砲撃 原子力事故への脅威(9/8)

ザポロジエ原発 「緊迫」(9/9)

「戦争犯罪」国際世論に訴え(9/18)

隣人がロ軍に密告 分断深く(9/19)

劣勢ロシア 奇策で威嚇(9/22)

“戦争”直面 揺れるロシア(9/23)

編入地域「ロの保護下」(9/26)

動員令抗議で800人拘束(9/26)

予備役出国制限開始か(9/27)

ロシアの徴兵 市民不安(9/30)

空疎な「戦果」高揚感なく(10/1)

ウクライナ、全土奪還目指す(10/1)

戦場の聖職者 大幅増へ(10/3)

ザポロジエ原発国有化(10/7)

巨大橋 無残に崩落(10/9)

ザポロジエ原発 外部電源を喪失(10/9)


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ロシア反発「非ナチ化を」(2022/7/19 京都新聞)

 ロシア上院のクリシャス憲法法制委員長は17日、2014年に強制編入したウクライナ南部クリミア半島とロシア南部クラスノダール地方を結ぶ「クリミア橋」への攻撃を示唆したウクライナ高官の発言に強く反発した。「全ウクライナを武装解除し『非ナチ化』する必要性を改めて示した」と述べて軍事作戦強化を訴えた。

 ロシア紙コメルサントによると、ウクライナのアレストビッチ大統領府長官顧問は16日、クリミア橋について「技術的に可能になれば真つ先に標的になる」と述べた。同紙はウクライナ軍幹部が、米国供与の高機動ロケット砲システム「ハイマース」の使用もあり得ると述べたと伝えた。

 アレストビッチ氏は、ロシア領内への標的に使用しないとの米側の兵器供与条件について、クリミア橋は「ウクライナの領海上にある」と指摘。条件違反にはならないと主張した。

 これらの発言についてクリシャス氏は通信アプリに、ウクライナの武装解除と非ナチ化をしない限り「ロシア領と市民への脅威は、いつまでも続くだろう」と投稿した。

 インタファクス通信によると、ロシア前大統領のメドベージェフ安全保障会議副議長も17日、クリミアをロシア領と認めないウクライナの立場は、ロシアにとって「直接の脅威だ」と指摘した。(共同)


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反戦の元TV職員 一時拘束と報道(2022/7/19 京都新聞)

 ロシア紙RBK電子版などは18日、政府系テレビで生放送中に反戦メッセージを掲げて退職した元番組編集者マリーナ・オフシャンニコワさんがモスクワで一時拘束されたと報じた。ロシア軍に関する虚偽情報を広めたとして逮捕された野党活動家の今月13日の裁判で反戦を表明したことが直接の原因という。

 弁護士によると、オフシヤンニコワさんは17日に拘束された。軍の信用を失墜させる行為の疑いで取り調べを受けた後、釈放された。(共同)


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イラン無人機 連携合意のロシアに供与か(2022/7/22 京都新聞)

 ロシアのプーチン大統領がイランの最高指導者ハメネイ師と会談、連携強化で合意した。米政府はウクライナに侵攻したロシアに対し、イランが開発を加速させる軍事用の無人機(ドローン)供与を計画していると疑い警戒する。イランは否定するが、米国と対立を深めるロシアとイランの結束が、ウクライナ侵攻の一層の長期化を招くとの懸念も出る。

 5月下旬、イランの国営テレビが地下数百メートルにある軍事施設で無人機がずらりと並ぶ様子を伝えた。イラン初の無人機から発射可能なミサイルも公開。陸軍幹部は「ドローンの能力向上は止まらない」と強調した。

 イランは自国の安全保障の強化を目的に、無人機開発に注力。敵対する米国やイスラエルに対抗するため、イラクやイエメン、シリア、パレスチナの親イラン勢力に無人機の機体や技術を提供していると指摘される。

 2019年にはイランと中東の覇権を争うサウジアラビアの国営石油会社の施設がイラン製無人機の攻撃を受け、サウジの原油生産が一時半減。犯行声明を出したイエメンの親イラン武装組織フーシ派はその後もイエメン内戦に介入したサウジの施設を狙った無人機攻撃を繰り返している。

 周辺地域での影響力拡大を狙うイランは、無人機提供の準備に余念がない。5月中旬には国外初の生産工場をタジキスタンに開設。記念式典でイラン軍のバゲリ参謀総長は「イランは国内の需要を満たせる状況にある」と述べ、今後も国外に積極的に提供する姿勢をうかがわせた。

 無人機生産に前のめりなイランに目を付けたとされるのが、ウクライナとの戦闘長期化で無人機不足が伝えられるロシアだ。

 サリバン米大統領補佐官は今月11日の記者会見で、イランがロシアに無人機を供与する準備を進めているとの情報があると発表した。実際に供与されれば、欧米の軍事支援を受けるウクライナとの戦闘のさらなる長期化につながりかねず、警戒を強めているもようだ。

 イランのアブドラヒアン外相は15日、ウクライナのクレバ外相との電話会談で「根拠がない」と否定した。だがその後、米メディアはイランがロシアに最大300機の無人機供与の準備を進め、ロシア兵の訓練を開始する可能性があることや、ロシア代表団が6〜7月にイランを訪れ無人機を視察したことを報じた。

 イランの陸軍司令官はプーチン氏がイランを訪問した19日、「イランと足並みをそろえる政府に武器や装備を輸出する用意がある」と強調した。提供先や武器の詳しい情報には言及しなかったが、ロシアへの無人機供与疑惑に拍車がかかりそうだ。(テヘラン共同)


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持久戦、求心力維持図る(2022/7/24 京都新聞)

 ウクライナがロシアに侵攻されてから24日で5ヵ月。ウクライナは徹底抗戦の構えを崩さず、持久戦の様相だ。ゼレンスキー政権は戦争長期化に備え、軍事面だけでなく復興を見据えた汚職対策など政権の引き締めを図る。政権幹部の相次ぐ更迭もいとわず、求心力と規律の維持に腐心する。

 「ロシアとは歴史的につながりが深い。エージェントは国中にいるだろう」。最高会議(議会)の野党議員は情報機関、保安局(SBU)のバカノフ長官の更迭に理解を示した。侵攻早々に陥落した南部ヘルソンで、敵前逃亡や情報漏えいなどにSBU幹部が関与。失態は多くの国民を失望させた。

 SBUは前線でも活動する。供与した武器がロシア側に流出するのではないかとの欧米の疑念を拭うためにも規律強化は欠かせなかった。

 バカノフ氏はセレンスキー氏の少年時代からの友人。ただ政治家としての経験が浅く、情報機関の統括は困難と指摘されていた。ドイツメディアは「バカノフ氏を任命した大統領にも問題があった」と批判。政権にはコメディー俳優時代のビジネス上のつながりが深い幹部が多い。

 米シカゴ大などが行った6月の世論調査では、ゼレンスキー氏が侵攻によく対処していると答えた人が78%。一方、経済政策の評価は58%にとどまった。

 国家財政の維持や復興も先進7力国(G7)や欧州連合(EU)の資金支援なしには立ちゆかない中、喫緊の内政課題はソ連からの独立以来続く汚職問題への対処だ。根深い有力財閥と政治家の癒着が解消されなければ、資金が適切に使われないとの懸念は消えない。

 EUの駐ウクライナ大使は13日、2年近くトップが不在の汚職捜査機関に触れ「一段の取り組みを待っている」と迫った。ゼレンスキー氏は17日のテレビ演説で選定を急ぐ考えを示したが、政権中枢にも汚職疑惑のある人物が複数いる。反汚職団体関係者は「対策の進展は疑わしい」とみる。

 政権の課題は山積みだが、戦いの終わりは見えない。「ウクライナ国民は国土を代償にした停戦は受け入れないだろう」。ウクライナのレズニコフ国防相は19日のオンライン講演で譲歩はないと繰り返した。シカゴ大などの世論調査では、76%がロシアに占領地域を割譲した上での停戦をあり得ないと回答。国民の士気は高い。

 ウクライナの研究機関、応用政治研究センター「ペンタ」のフェセンコ所長は「既に持久戦に入っており、冬まで活発な戦闘が続く可能性が高い」と予測。両国とも妥協しない姿勢を維持し「(一時的な)休戦はあり得るが終戦はない」と分析した。(キーウ共同)


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焦げたもみ 大地覆う(2022/7/28 京都新聞)

 【クリブイリフ(ウクライナ南部)共同=角田隆一】ロシアとの攻防の最前線、ウクライナ南部の農業地に共同通信記者が入った。ロシア軍の攻撃で焦げたもみの燃えがらが黒々と大地を覆い、雷鳴のような砲声が断続的に響く。小麦の収穫量は平和だった昨年から激減する見通しで、地元の農業関係者は丹精込めて育てた作物の惨状に涙をこぼした。

 戦車の走行でアスファルトが削られ凸凹になった幹線道路を行く。ゼレンスキー大統領の出身地、クリブイリフから南東に55キロ。丘陵の先はウクライナ軍が奪還を目指す南部ヘルソン州だ。26日、稜線には複数の黒煙が上がっていた。

 「数キロ先がウクライナ軍の陣地だ」。農業法人のワシル・タバチニク代表(62)が指さした。200メートルほど先ではワシルさんの仲間が巨大な農機で小麦の収穫をしていたが、焦げた異臭が鼻をつく。反対方向に目を向けると、もみの燃えがらが広がっていた。。

 14日午後3時ごろ、ロシア軍のロケット砲が畑に撃ち込まれ、少なくとも6発が着弾した。瞬く間に火柱が立った。砲撃が落ち着いた後、トラクターを駆り、延焼を食い止めようと穂が実った小麦をなぎ倒した。消火にかかった時間はよく覚えていない。

 小麦の作付面積の半分超、108ヘクタールが焼失した。3月にはワシルさんの農業用倉庫や車両にも砲弾が落ちた。「プーチン(ロシア大統領)は一体、何がしたいんだ」と嘆いた。

 近くには兵士がこもる塹壕もあった。「まだ危険だ。向こうの畑にも不発弾がいくつも埋まっている」。今年秋の作付けはしないつもりという。

 国連食糧農業機関(FAO)によると、ウクライナは昨年、世界6位の小麦輸出国だった。中東やアフリカなどの需要を満たしてきたが、ウクライナ穀物協会は侵攻の影響で今年の小麦生産量は前年だ4割近く減るとみる。

 「6割はなんとか収穫できた。だが出荷するのが難しい」。クリブイリフの行政幹部イェウヘン・シトニチェンコ氏(42)は語る。輸出拠点の南部オデッサの黒海封鎖はまだ解けず、トルコと国連の仲介で進む穀物の海路輸出再開に向けた動きの先行きは不透明だ。陸路での輸送は能力に限りがある上、費用も跳ね上がる。

 ロシア軍の地雷が残っており、記者が訪ねた日、小麦を収穫していたトラクターが地雷を踏み破壊された。クリブイリフではフリルさんの畑を含め、500ヘクタールの畑がロシア軍によって燃やされ、農機や倉庫を砲撃で失った人も多い。軍の協力なしでは安全に作業はできない。避難するつもりもない。ワシルさんは怒りと悲しみがない交ぜになった表情で語った。


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クラシック界 ロシア離れ(2022/8/1 京都新聞)

 ロシアのウクライナ侵攻開始以降、その影響がクラシック音楽界に波及している。プーチン大統領の支持者とされる指揮者が解任され、ロシアの作曲家の演奏も敬遠されるなどロシア離れが顕在化。専門家はこの動きが分断を助長するとの懸念を示す一方、侵攻の悲惨さを目の当たりにすると心情的に複雑な部分もあると声を落とす。  侵攻直後の3月、ドイツ・ミユンヘン市はミユンヘン・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者ゲルギエフ氏の解任を発表。「侵攻への反対意見表明を求めたが、反応がなかった」と説明した。  ロシア出身の世界的指揮者で日本でも公演活動をしていた。政治と音楽の関係に詳しい中央大大学院非常勤講師の芝崎祐典氏(国際関係吉は「彼の立場からすると沈黙は賛成に等しい。政治的判断としてやむを得なかったのでは」と指摘する。  ミユンヘン・フィルは公的予算が投入される楽団。その顔とも言える首席指揮者が「ノー」を明言しないまま続投すれば「間接的にバイエルン州やミュンヘン市が侵攻に反対の立場ではないという意味になってしまう」と推察した。  一橋大大学院の小岩信治教授(音楽学)はオーケストラがさまざまな背景を持つ人で構成される点に注目し「侵攻を支持しているかもしれない指揮者の下で芸術活動を行うのは困難だと思う」と言及。解任は「音楽組織としての判断で、彼や彼の音楽を否定したり、排除したりするものではない」との見方を示した。  政治的立場の表明を求められたことをにじませ、ロシア出身のトゥガン・ソヒエフ氏はボリショイ劇場の首席指揮者兼音楽監督と、フランスの著名な管弦楽団の音楽監督の双方を辞したと公表。フランス軍を撃退したロシアをたたえたチャイコフスキーの大序曲「1812年」の演奏を見合わせる公演も相次いだ。  北海道大スラブ・ユーラシア研究センターの青島陽子准教授(ロシア近現代史)は、侵攻が続く中でロシア音楽への反応が過度とは「心情的に言い切れない部分がある」と複雑な様子。「あらゆる分野でロシア人を排除すると、国際社会と共存可能なロシアを担う人材も失うことになる。ロシアの人々とどうやって生きていくかを考えなければならないだろう」と懸念を示した。


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「ロシアが敗北」なら停戦交渉(2022/8/6 京都新聞)

【キーウ共同】ロシアとの停戦交渉を担当するウクライナのミハイロ・ポドリヤク大統領府長官顧問が5日までに共同通信の単独インタビューに応じた。ロシア軍の民間人を標的にした攻撃が続いており、現在は交渉が完全に停滞しているとの認識を示した上で、協議再開の条件として「敗戦国となるとロシアが認めること」を挙げ、高い八ードルを設定した。

 ロシアがこうした条件を容認する可能性は極めて低いが、欧米の軍事支援を追い風に、あくまでも抗戦によって領土奪還を目指す意思を強調した形。ロシアが広い範囲を制圧したヘルソン、ザポロジエの南部2州を冬までに奪還することが目標だと説明した。ポドリヤク氏はゼレンスー大統領の側近の一人。3月末のトルコーイスタンブールでの対面式停戦交渉で中心的役割を果たした。

 同氏は「ウクライナが戦略的に勝利を収め、ロシア軍が撤退を始めれば(ロシアが2014年に強制編入した)クリミア半島を含む領土問題を外交的手段で解決することは可能だ」と指摘。まず今年2月の侵攻前の状態に戻した上で、親ロ派武装勢力が14年以降、実効支配する東部ドンバス地域の一部も含めた全土を取り戻すことが最終目標だと確認した。

 また、ロシアでは「国民が権威主義や全体主義を好んでいる」とし、プーチン大統領が築いた政治体制を支持しているとの見方を示した。

 ロシア勝利なら「全体主義が民主主義よりも有効との認識が世界で広がる」と懸念を示し、北方領土問題を抱える日本にも影響する可能性に言及。「ロシア敗北が唯一の戦争の正しい終わり方」と訴え「ロシアが負ければ内部で(プーチン体制の)変動や革命のプロセスが始まるだろう」と予測した。

 さらに、ロシア軍撤退後に判明した首都キーウ(キエフ)近郊での多数の市民虐殺や、ロシアが南東部マリウポリなどを、街を滅ぼす形で制圧したことについて「ロシアはウクライナと戦っているのではなく、国を破壊している」と非難した。


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非核こそ、平和への道(2022/8/6 京都新聞)

 ロシアのウクライナ侵攻で核廃絶への取り組みに逆風が吹く中、広島で被爆した京都市の女性が非核への訴えを強めている。プーチン大統領は核兵器使用の可能性を示唆し、日本では米国と核兵器を共同運用する「核共有」論まで浮上する。77回目の「広島原爆の日」を前に、女性は「ウクライを見て戦禍への想像力を働かせ、平和につなげてほしい」と呼びかけている。

 ロシアが攻撃を始めた2月下旬、テレビでは破壊されたウクライナの街が繰り返し映し出された。「がれきの下には体の一部しか残っていない人も多くいるはず」。花垣ルミさん(82)=京都市北区=は1945年8月6日の記憶を重ねた。

 5歳の時、爆心地から約1・7キロメートル離れた広島市の自宅で被爆。逃げた先の河原では、熱で夕イヤのチューブのように膨らんだ遺体が樹上に貼り付き、卵が腐ったような、焦げたにおいが漂っていた。その場で、母に抱きしめられながら気を失った。

 長年、核廃絶を目指す活動を続け、現在は京都原水爆被災者懇談会代表を務める。2003年に広島市で開かれた原水爆禁止世界大会への参加をはじめ、核拡散防止条約(NPT)再検討会議に関連して国連本部のある米ニューヨークを訪れ、米国人とも「核のない世界」実現について意見を交わしたこともある。

 しかし今、ウクライナ侵攻を受けて日本でも国防強化を求める声が強まっているように感じる。

 今春、右京区の阪急西院駅前で核廃絶の署名活動中のことだ。高齢男性に「相手国から撃たれそうでも、日本は無防備なままでいいのか」と迫られ、花垣さんは「私は被爆者です」と打ち明けた。「日本が戦争をしていたから広島で十数万人が無防備で殺された。平和的な外交努力こそが必要ではないか」と懸命に説得した。「核共有すれば米国につけ込まれ、日本に核兵器を置け、作れと必ず言われる」。周辺国に脅威と映り、攻撃されるリスクを高めると考えている。  日本政府の姿勢に物足りなさを感じる。核兵器を初めて違法とした核兵器禁止条約の第1回締約国会議が6月下旬にオーストリアで開かれたが、日本はオブザーバー参加すら見送った。会議の日、花垣さんは山科区で開かれた集会でマイクを握り、「一体どこの国が被爆したのか。被爆者の願いがないがしろにされている」と怒りを込めた。

 核廃絶が見通せない中、花垣さんは被爆者自らが体験を伝えることに活路を見いだす。「戦後77年間、日本が平和でいられたのは広島と長崎の犠牲を踏まえて非核三原則を守ってきたから。被爆者として悲惨な経験を伝え、戦争を経験していない世代にも想像力を働かせてもらえたら」。惨禍を生かされた者としての責任の重さに表情を引き締める。(鈴木雅人)


↑トップへ ザポロジエ原発に砲撃(2022/8/7 京都新聞)

【キーウ共同】ウクライナの国営原子力企業エネルゴアトムは5日、ロシア軍が占拠しているウクライナ南部のザポロジエ原発の敷地内に計6発の砲撃があり、一部装置や高圧送電線が損傷したと通信アプリで発表した。計6基ある原子炉のうち1基付近にも飛来し「放射性物質が飛散する危険性がある」と指摘したが、放射線量の上昇は観測されていないとした。

 タス通信によると、ロシア側が一方的に設置した「軍民行政府」は5日、ウクライナ側からの砲撃により原発構内で火災が発生したと発表した。エネルゴアトムはロシア軍が多連装ロケットシステムを使用して攻撃したと主張。双方が互いの攻撃だと非難している。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は5日、テレビ演説で「欧州にとってとても危険な状況をつくりだした」と述べ、ロシアを非難した。

 英国防省は6日の戦況分析で、今後は南部ザポロジエ付近からヘルソンに至る南西約350キロの前線で戦闘が最も激しくなり「新たな局面を迎えようとしている」と強調した。

 原発が立地するエネルゴダール市のオルロフ市長は5日、原発は砲撃を受けた後も稼働を続けていると通信アプリで明らかにした。


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「核維持で侵攻防げた」(2022/8/12 京都新聞)

 ソ連崩壊直後の1990年代、独立したウクライナの核兵器放棄を巡り、ロシアとの交渉を担当したユーリー・コステンコ氏が11日までに共同通信の取材に応じた。侵攻が続く中「核があれば、ロシアは攻め込めなかっただろう」と述べ、短期間での核兵器放棄に至った当時の決定は誤りだったとの認識を示した。

 コステンコ氏は「長期間、少なくとも10年以上かけて核兵器を放棄し、完了と同時に北大西洋条約機構(NATO)に加盟する戦略を描いていた」と説明。「核兵器が(ウクライナに)存在する間は誰も攻めてこないし、NATOに入れば、安全が保証されるからだ」と振り返った。ウクライナは現在もNATOに加盟していない。

 独立当時、米ロに次ぐ世界3位の核保有国だったウクライナでは、安全保障上の理由から、コステンコ氏ら核兵器の当面維持を主張する勢力と、経済的、技術的問題から短期間の核放棄を訴える勢力に二分された。

 核拡散を恐れる米ロなどの圧力もあり、ウクライナは核放棄の道に進む。94年1月、戦略核のロシア移送と全面廃棄を7年以内に完了することで米ロと合意し、同12月に独立と主権、安全保障を約束した「ブダペスト覚書」に英米ロと共に署名、核拡散防止条約(NPT)にも加盟申請した。

 コステンコ氏は「ロシアが、ウクライナは核を維持する予算もないとうその情報を流し、欧米諸国は影響された」とロシアの情報戦が奏功したとし、「欧米は、ウクライナが核保有を続ければライバルになると警戒していた」と付け加えた。

 ロシアがブダペスト覚書をほごにした上、核兵器使用をちらつかせる現状に「覚書に法的拘束力はなく、ただの紙切れ。欧米も分かっていた」と憤った。「ロシアの侵攻を許したウクライナを見て、核兵器を保有したいと考える国家は増えるだろう」と予測し、米国で開催中のNPT再検討会議については「期待することは何もない」と突き放した。(キーウ=(同)


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編入、結果問わず「承認」か(2022/8/19 京都新聞)

 ウクライナに侵攻し同国南部を占領するロシア側が、自国編入の是非を問う「住民投票」を今秋にも行う準備を進めている。編入支持は少数派とみられるが、投票強行ならば結果を問わず「編入承認」が発表されるとの見方も。ウクライナ軍は実施を阻もうと、南部への侵攻拠点でロシアが強制編入したクリミア半島などへの攻撃を強化しているもようだ。強まる戦火やロシア支配から逃れる住民が後を絶たない。

 「支持が低かったとしても、クレムリン(ロシア大統領府)は投票が『しかるべく』行われると確信している」。ロシアの独立系メディア「メドウーザ」は情報筋のコメン卜を引用して伝えた。実際の編入支持率にかかわらず、投票を強行すると示唆したとみられる。

 ロシア軍が広範囲を制圧した南部ザポロジエ、ヘルソンの両州で7月中旬、ロシア側が世論調査を行ったところ、編入支持は約3割だった。関係者は「少ない」と漏らしたという。

 投票の実施日は未定。ロシア統一地方選に合わせた9月11日の可能性が取り沙汰されてきたが、戦闘激化や準備不足で遅れるとの観測が強まっている。

 現地ではロシア通貨ルーブルの流通や国籍付与など「ロシア化」が進む。避難した住民によると、インターネットはロシアが2014年に強制編入したクリミア半島のプロバイダーを通すことになり、通信状況は悪化。医師らの脱出も続き、医療環境も悪化した。

 州都ヘルソンの市議会は今月6日、フェイスブックで、ロシア側か現地に設立した「軍民行政府」は住民を取り込もうと年金生活者に2万ルーブル(約4万4千円)の補助金を配ったり、大学授業料免除を約束したりしていると指摘した。

 ヘルソン州ノバカホフカ出身のスビトラーナ・スピリナヤさん(34)は7月下旬、娘(5)や夫とリトアニアに避難した。スピリナヤさんによると、一部住民はアプリを通じウクライナ側にロシア軍の拠点を知らせたり、壁に反抗の文言を書いたりして抵抗している。ロシア側が金をばらまき「(住民が)ウクライナには見捨てられているという印象を植え付けようとしている」と話した。

 約3ヵ月前に同州カホフカから州外に避難し、オンライン取材に応じたジャーナリストのオレフ・バトウーリン氏は、ロシア編入を支持したり、ロシアに積極的に協力したりする住民は、わずかだと説明。住民は投票について適切な情報を知らされていないとした上で「(州外に逃れず)残った人々の多くがウクライナを支持している」と述べた。  (キーウ共同)


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スポーツ選手ら 戦地で犠牲多数(2022/8/19 京都新聞)

 東京五輪・パラリンピックから約1年がたつ中、ロシアが侵攻するウクライナではスポーツ選手や指導者も戦地に送り込まれ、多くが命を落とした。ウクライナ側によると、合わせて89人が死亡。練習の場を奪われて環境は厳しいが、国際大会への選手派遣は続けられている。背景には、戦時下で国民の一体感を高め国威を発揚しようとする政権の狙いがある。

 「選手の活躍が暗闇にいる国民に光を与え、国際社会に自国の強さを示すことになる」。東京五輪で同国唯一の金メダルを獲得したレスリング男子のジャン・ベレニユク選手(31)。7月中旬、大会視察で滞在中の米国からオンライン取材に応じた。

 国会議員を務める同氏は「怒りが原動力になり、いつも以上に勝ちたいという気持ちが強い」と話す。ロシアはプーチン大統領主催の集会に著名な選手を登場させるなどスポーツをプロパガンダに利用する。「選手を武器にしている。私たちも戦わなければならない」と語気を強めた。

 ウクライナ政府は軍などへの動員のため18〜60歳の男性を原則出国禁止とするが、一部のスポーツ選手の出国は認めている。戦争で社会に不安が広がる中、国民意識形成や国威発揚を図る狙いもあるとみられる。

 ウクライナは3月初旬開幕の冬季パラリンピック北京大会で、史上最多の29個のメダルを獲得。6月にはサッカー男子代表がワールドカップ(W杯)欧州予選プレーオフに出場し、敗れたものの世界的な反響を呼んだ。

 一方、ウクライナ国内では多数の選手らが軍に入隊し、前線に派遣されている。ゼレンスキー大統領によると、7月初めまでに89人の選手と指導者が死亡し、13人がロシア軍の捕虜となった。学校やスポーツクラブなど数百の施設が破壊され、10万人以上の選手が練習の場を失ったという。

 東京五輪の柔道女子48キロ級で銅メダルのダリア・ビロディド選手(21)は、自宅がある首都キーウ(キエフ)を離れ、スペインで練習する。オンライン取材に「私にできることは表彰式で自国国旗を高く掲げ、自由のために戦う国民のモチベーションになることだ」と目標を語った。

 競泳(視覚障害)で東京パラリンピックを含む4大会に出場、五つの金メダルを手にしたオレクシー・フェディナ選手(34)はポーランドに一時避難した後、今はキーウに戻り練習を続ける。「スポーツはもう社会の優先事項ではなくなったが、国は大会に派遣し、スポンサーも支援してくれる。キャリアを終えることは考えられない」と力を込めた。

 リビウの大学職員、イゴルさん(52)は、活動を続ける選手らを「頼もしい」と語る。「世界へのアピールになるし、子どもたちにとっても明るい話題は必要だ」(キーウ共同)


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【インサイド】IAEA入れず実態不明(2022/8/20 京都新聞)

 ロシア軍が占拠しているウクライナ南部の欧州最大のザポロジエ原発を巡る危機が深刻化している。今月5日以降、敷地内で攻撃が相次ぐ異常事態が続くが、国際原子刀機関(IAEA)要員の現地入りができず、何が起きたのか客観的に把握することさえできていない。両国は相手が原発攻撃を計画していると非難合戦を続けた。

 「原発は絶え間ない攻撃の標的になっている」「チェルノブイリ原発事故や東京電力福島第1原発事故を超える惨事が起こりうる」

 ロシアの統制下で原発を運転しているウクライナ人職員らは18日、通信アプリで声明を発表した。ロシアの侵攻後「数え切れないほど安全規則が破られた」と危機感をあらわにした。原発には1万人以上の職員が残り、死者が出ているという。

 ゼレンスキー政権はロシアが敷地内に部隊や兵器を配置し、攻撃を自作自演していると非難。18日には原子炉建屋の機械室で、ロシア軍用車とみちれる少なくとも5台を撮影したとされる動画が出回った。ロシア側は、ウクライナ軍がドニエプル川対岸から砲弾を撃ち込んでいると主張する。

 ザポロジエ原発の原子炉6基について米専門家は、堅固に防護され砲撃で原子炉自体が損傷する可能性は低いとみる。一方、原子炉や使用済み核燃料を冷却する電源システムが攻撃で破壊される恐れもあり、その場合、全電源喪失で核燃料が溶け落ちる炉心溶融が起きた福島第1原 発のような事故を招きかねない。

 両国の相互不信は強く、IAEA専門家がどのルートで現地入りするかを巡って対立。実現は曲折が予想される。 (キーウ共同)


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ウクライナ侵攻 あす半年(2022/8/23 京都新聞)

 「お母さんはどこ?」。4歳児のこんな言葉に周囲が心を痛める。ロシアのウクライナ侵攻に伴う戦禍で3千人超の子どもが親の保護を失った。20歳前後で幼いきょうだいを育てるケースも。東部の激戦地から各地に逃れた孤児は心の傷を抱えつつ、生き抜いている。

 「一緒に遊んでよ」。西部リビウ州の公立養護施設を記者が訪ねると、ブロックで家を作る遊びに夢中な子らに何度も手を引かれた。別の部屋では、10歳前後の子たちが絵を習っていた。3〜18歳の48人が共同生活し、学校のオンライン授業も受ける。夜は年齢や性別ごとの部屋で寝る。

 施設職員のガリーナ・マランチュクさん(49)は「子どもだけ避難列車に乗せられて親と音信不通になった子や、国境で警察に保護された子もいる。皆が心に傷を抱えている」と話す。

 施設からは養子縁組や進学などで巣立っていく。東部ルガンスク州リシチャンスクの施設から集団疎開したオレクサンドル君(17)は大学進学のため近く施設を出る。「家族のような雰囲気だった」と感謝する。

 ウクライナの社会保障当局は8月、侵攻後に3182人の子どもが親の保護を失ったと発表した。うち戦争を直接要因として親を失ったり連絡が途絶えたりした孤児は541人。ロシア軍は占領地から子ども多数を自国領に連れ去り、その中には孤児2千人が含まれるとの見方もある。

 リビウ州のウォロディミル・リス子ども局長は「戦闘や民間被害で亡くなる親や、ロシア占領地で連絡が途絶える親もいる。孤児と断定できない子を含め、大勢が戦争に翻弄されている」と強調。政府は一時的な里親制度や手続き簡素化などで保護に注力している。

 東部ドネツク州クラマトルスク出身の男性オレグさん(22)はリビウ郊外の避難先の村で母(39)をがんで亡くし、12歳と4歳の弟2人の後見人になった。2人を育ててほしいと母に託され、自ら育てると決意した。「母はリビウで十分な治療を受けられなかった。戦争がなければもっと生き られた。古里も母も失った。弟まで引き離されたくない」

 オレグさんに仕事はなく、避難民支援金や近隣住民がくれる食料が頼りだ。弟イワン君(4)は「お母さんはどこ?」と今も尋ねるという。侵攻当初に爆撃音を聞いたため音におびえ、感情の起伏もある。だが「生活に慣れて友人もできた。また別の場所に移るのは大変。この村に残りたい」と話す。現在住んでいるアパートの家主が近く海外避難先から戻るため、次の家を探している。 (リビウ共同)


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見えぬ和平 展望は 教訓は(2022/8/24 京都新聞)

 ロシアが今年2月24日、ウクライナに軍事侵攻してから半年。戦況は膠着状態にある一方で、和平の兆しは見えず市民の犠牲者は増え続けている。戦争の今後の展望や、国際社会が学ぶべき教訓、世界経済の先行きなどを3人の識者が論じた。


立命館大 君島東彦 教授停戦の追及 包括交渉を

 ロシアがウクライナに侵攻して半年。われわれは、この戦争を終わらせることはできないのだろうか。

 現在、ロシアが占領地域の「ロシア化」を進める一方、ウクライナでは最高会議が戒厳令と総動員令を11月21日まで延長する法案を可決した。双方が長期戦の構えで、停戦の兆しは見られない。

 先日、日本に留学しているウクライナ人とズームで話したところ、彼女のまわりで停戦に賛成する人は皆無だという。ウクライナではそれくらいロシアに対する不信、憎悪が強いようだ。

 欧州諸国には、即時停戦を求める「和平派」(イタアなど)と侵略戦争を始めたロシアを敗北さるまで停戦はありえないと主張する「正義派」(ポーランドなど)の対立がある。

 正義派の主張は十分に理解できるが、平和学の立場では、どんなに困難であれ「停戦を追求すべきだ」という声を上げ続けることが必要であると思う。殺りくと破壊はできるだけ早く終わらせるべきであり、犠牲者を増やすべきではない。

 ウクライナのクローク大で教えている平和学者ユーリ・シェリアジェンコ氏は、絶対平和主義の立場からこの戦争を批判する論陣を張っている。彼は「戦争を終結させるためには、より大きな東西対立(米国・西側と中ロの対立)を終わらせる必要があり、従って 和平父渉は包括的でなけれ ばならない」と述べており、示唆的である。

 8月、ウクライナの戦争と並んで台湾有事が人々の関心事になった。そもそも2014年のロシアによるクリミア半島併合も大事件だったが、人々は米中対立に目を奪われてあまり注目せず、それが今年2月の侵攻を防げなかった一因だろう。

 ロシアのウクライナ侵攻は中国による台湾の武力統一を連想させ、ペロシ米下院議長の訪台によって、本来の大きな紛争である米中対立が改めて前景化されたといえよう。

 ここ1年、米国と日本の双方で、台湾有事に関するシミュレーションが行われている。民間シンクタンクの主催で、元米国防総宣局官、元自衛隊幹部らが参加して、米軍、自衛隊がそれぞれの行動計画を自己点検している。シミュレーションは「有事を起こさせないための準備」であれば理解 できるが、有事をあおるものであってはならないだろう。

 平和学の立場から考えると、台湾有事を起こさせないことが至上命令である。台湾は大国間の政治に翻弄されて自己決定できる領域は広くないが、中国との経済統合に異論を唱えた14年の「ヒマワリ学生運動」を契機に民主主義を深化させてきた。東アジアで最も民主化が進んでいる。

 有事を起こさせずに、台湾の民主主義を維持することがわれわれの目標である。そのためには、この地域の市民社会の役割が大きい。台湾、日本、韓国、中国などの市民社会が「台湾有事を起こさせるな」と訴える必要がある。

 例えば、中国、台湾など東北アジア全域を包摂する非政府組織(NGO)のネットワーク「武力紛争予防のためのグローバルパートナーシップ」(GPPAC)は台湾有事を防ぐためのメッセージを出せないだろうか。9月にモンゴルで、3年ぶりの対面会議を開く予定と聞くが、その成果に期待したい。


東京大 小泉悠 専任講師覚悟の欠如 長期戦招く

 この戦争は簡単には終わらない。ロシアの火力は分厚いが、戦時動員をかけていないため兵力が足りない。ウクライナは動員しているので兵力はあるが練度が怪しい上、火力不足だ。こうした構造的問題が変わらない限り、次の半年も、その先も膠着が続くだろう。

 お互いに勝ち方は分かっている。しかし、政治的理由でその方法を選択できずにいるのだ。

 ロシアはプーチン大統領が腹をくくり、動員をかければよいが、来年秋ごろには大統領選が公示され、内政モードに入る。そうなると国民の不興を買うようなことはできない。戦争に勝てずにいるとは認められないし、国民や経済を戦争のために動員できない。

 ウクライナを支える西側は軍事援助を大幅強化し、東部での侵攻を食い止めた。ウクライナ軍は7月からは南部ヘルソン州で大規模攻撃をかけ始めた。この戦争で初めてウクライナ側が主導権を握ったのは画期的だ。

 しかし、西側は侵攻開始の2月24日前の状況までロシア軍を追い出すために必要な、まとまった数の戦車や飛行機を送っていない。負けさせまいとしているが、勝たせる覚悟がないのだ。

 戦車を送ればロシアは怒り、天然ガス禁輸などの報復や戦時動員などの軍事力拡張、場合によっては核兵器の使用も懸念される。それでも支援を決意するなら、ウクライナに勝機が出てくる。

 ただ、ロシアも核兵器を使うのはあまりにリスクが高いと認識している。核を使えず、動員もできず、ロシアは戦争に完全にかたをつけるオプションを失っているようだ。だから占領した4州で住民投票を行い、併合するという政治的な動きを進め、戦争を泥沼化させる気なのではないか。

 この戦争は、古典的な大戦争が21世紀でも排除できないと証明した。だからこそ外交は重要だし、戦争を違法とする国際法の維持も繰り返し確認すべきだ。しかし、それでも抑止は破れうる。それが日本で起きたら、どう対応するのか。

 今の日本は専守防衛をできる態勢になっていない。ある軍事ブログによると、ロシア軍の戦車の損失は既に900両。自衛隊は戦車300両(現防衛大綱)を保有しているので、半年で陸自の戦車の3倍がなくならたことになる。弾薬もロシアに比べ、圧倒的に少ない。つまり、現状では自衛隊は今回のような戦争に耐えられない。

 ウクライナは最初の1ヵ月を耐え抜いたからこそ軍事援助が入り、ロシア軍と渡り合えている。日本は日米同盟があるにせよ、何らかの理由で米軍が1ヵ月間介入できないかもしれない。それでも石にかじりついてでも戦える態勢をつくつておかないと、抑止の信憑性に疑義が生じ、結果的に専守防衛政策が機能しないことになる。(談)


ニッセイ基礎研究所 伊藤さゆり 研究理事世界経済の牽引役不在

 ロシアのウクライナ侵攻を巡っては「過小評価」が積み重ねられてきた。西側はロシアが軍事侵攻に動くリスクを、ロシアはウクライナの反撃力を見誤った。西側による対ロ経済制裁の副作用とロシアの対抗措置の影響も軽視されていた。

 西側は市場規模や技術力、国際金融の領域でロシアを圧倒するが、エネルギーや食料などの輸出大国であるロシアの制裁への耐性は強い。同国産の化石燃料に依存してきた欧州連合(EU)諸国は天然ガスの供給削減というロシアの対抗措置で揺さぶられている。エネルギーや食料の「武器化」の影響は新興・途上国をも巻き込み、広がる。

 侵攻によりグローバル化は過去のものとなり、世界的な低インフレと低金利局面に、無秩序に終止符が打たれた。

 世界経済は侵攻前から米中二大国の対立で分断の様相を強め、新型コロナウイルス禍に対応した移動制限とその解除の繰ぴ返しで需給のバランスは乱れ、物流が混乱して、インフレ圧力が高まっていた。

 侵攻後インフレは一段と加速し、米英などの中央銀行は賃金上昇と物価高のスパイラル化に対処すべく、引き締めを急ぐ。EUのユーロ圈はエネルギーの調達不安で景気失速リスクが高いが、欧州中央銀行(ECB)は7月にマイナス金利政策を終え、圏内諸国の利回り格差に配慮しながら利 上げを続ける構えだ。

 世界経済を巡る当面の焦点は二つ。一つは急ピッチな米利上げの影響で、特に米国が景気後退に陥るリスクだ。過去の利上げは米国内だけでなく国外でも金融・通貨危機の引き金となり、米景気後退は日本を含む多くの国を巻き込んできた。

 もう一つは1970年代のように非資源国が、景気後退とインフレが同時進行するスタグフレーションに陥るリスクだ。

 現時点で二つのリスクは深刻化しないとみられている。米国のインフレはピークを過ぎつつあり、利上げが2023年に停止され、利下げに転じるとの観測が浮上している。労働市場は引き締まり、家計の資産・負債の状況も総じて健全なため、景気後退に陥っても、悪化の一途をたどることはないとの見方が支配的だ。

 スタグフレーションのリスクも、インフレ目標制を採る中銀への信認向上やエネルギー源の多様化、産業・労働市場の構造変化などによる封じ込めが期待されている。

 それでも、世界経済が軟着陸できるかどうか予断を許さない。米国が深刻な景気後退を回避できても、欧州は綱渡りの状態が続き、中国も22年の政府目標である5・5%前後の成長を達成するのは困難だろう。世界経済の牽引役は不在だ。分断の深化は供給網の再編を促し、持続的なインフレ 圧力となり得る。

 米英中銀の今回の引き締めは急ピッチの利上げと、国債などを買って資金を供給する量的緩和で膨らんだ資産の圧縮という組み合わせであり、前例がない。金融政策の効果と副作用は見極めきれない面がある。

 世界経済の悪化に歯止めをかける最も有効な対策は、早期の和平と国際的な政策協調だ。だが、ウクライナ戦争がロシア対西側の対立の構図を呈し、米中の覇権争いも激化している。各陣営は互いに不信感を募らせ、それぞれ国内事情も抱える。和平や政策協調に向けた妥協の余地を探ることすら難しいのが現状だ。


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ザポロジエ原発、給電中断(2022/8/26 京都新聞)

【キーウ共同】国際原子力機関(IAEA)は25日、ウクライナ南部にあり、ロシア軍が占拠する欧州最大のザポロジエ原発で、近くの火力発電所からの電力供給が同日、2度にわたって一時中断したとの報告をウクライナ側から受けたと発表した。ゼレンスキー大統領は25日、電力が断たれた場合に備えた緊急用のディーゼル発電機が起動したと明らかにした。

 火力発電所は22日に砲撃され、原発への送電に支障が出ていた。IAEAのグロッシ事務局長は自ら派遣団を率いて数日内に原発を訪れる考えを示した上で「ザポロジエ原発周辺では毎日のように新たな事件が起きており、これ以上時間を無駄にできない」と表明した。

 給電中断の直接の原因は不明だが、稼働中の2基の原子炉は緊急保護システムが作動し、給電回復後も送電網から切断された状態が続いている。ゼレンスキー氏は「発電機が起動しなかったり、装置や職員が対応できなかったりしたら、放射能漏れ事故への対処を迫られていた」と間一髪の事態だったと強調した。


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ザポロジエ原発 また砲撃(2022/8/29 京都新聞)

【キーウ共同】ウクライナ南部にある欧州最大のザポロジエ原発周辺では26〜28日、砲撃が相次いだ。原発施設が直撃を受け、放射性物質漏えいなどの重大な事故が起きる懸念が強まっている。ウクライナとロシアは互いに双方が砲撃したと非難し合っている。

 ウクライナ国営原子力企業エネルゴアトムは28日、原発で29日に重大事故が起きた場合の放射性物質の拡散予測地図を発表。同国南部だけでなく、ロシア南部にも被害が及ぶと警告した。

 米紙ニューヨークータイムズ(電子版)によると、今週にも国際原子力機関(IAEA)の専門家チームが同原発を訪問する見通し。チームはグロッシ事務局長ら14人。米英は含まれていないものの、ウクライナを支持するポーランドやリトアニアから参加。ロシア寄りとの見方がある中国やセルビアの専門家もいるという。

 ロシアは27日、ウクライナが原発の核燃料貯蔵施設を砲撃したと主張。28日には過去24時間に原発に2回の攻撃があり、一部のパイプが破損したと発表した。原発の運転は正常で放射性物質のレベルに異常はないという。発表によると、2回の攻撃で計9発の砲弾が撃ち込まれ、うち3発が核燃料や核廃棄物の保管施設付近に落下した。ほかに原子炉の近くに着弾した砲弾もあったという。

 一方でウクライナは砲撃したのはロシア軍だと反論、ロシアがウクライナにぬれぎぬを着せようとしており、同原発を対ウクライナ攻撃の軍事拠点として利用していると訴えた。

 相次ぐ砲撃により最も懸念されるのが炉心溶融(メルトダウン)にもつながりかねない原発の冷却装置の損壊だ。エネルゴアトムによると、26日にはロシアの砲撃により火力発電所の施設が延焼、原発への電力供給が一時中断し、非常用電源が起動する緊急事態に陥った。送電は復旧したものの、電源が完全に喪失すると重大事故につながりかねない。

 一方、ロシア軍は27日、親ロ派が支配地を拡大する東部ドンバス地域や、2014年に強制編入したクリミア半島につながる黒海沿岸の南部を中心に軍事作戦を続けた。

 南部メリトポリの市長は27日、同市を占拠するロシア軍の基地や、実効支配の正当化を狙う住民投票を準備する建物をウクライナ側が破壊したと述べた。


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へルソン奪還作戦本格化(2022/8/31 京都新聞)

【キーウ共同】米CNNテレビは29日、ロシアが制圧を宣言したウクライナ南部ヘルソン州で、同国軍が州都ヘルソンに近い四つの村を奪還したと報じた。ウクライナ軍事筋は「われわれの主要目標はヘルソンだ」と明言。軍の南部担当の報道官も多方面での反攻開始を認め、奪還作戦が本格化しているもようだ。

 ヘルソンはドニエプル川の河口近くに位置する南部の要衝。ウクライナが奪還に成功すれば、戦局転換に影響しそうだ。イエルマーク大統領府長官は29日「非道な戦争の新たな段階に突入している」と強調。欧米に新たな断固とした措置を取るよう呼びかけた。

 アレストビッチ大統領府長官顧問も29日にヘルソン州の複数の地区で「前線を突破し、奥に攻め込んだ」と表明。ロシア側の橋を通じた物資供給などを阻止したと述べた。

 同州ノバカホフカにロシア側が設置した「軍民行政府」幹部は30日、タス通信に、ウクライナ軍が市内の水力発電所へのミサイル攻撃を続けており、一部で停電していると述べた。ヘルソン州「軍民行政府」幹部のストレモウソフ氏は「どれほど攻撃しても無駄だ。ヘルソンはロシアの土地だ」と強調した。

 ヘルソン州は侵攻初期にロシア軍が州都を含む全域制圧を宣言したが、その後にウクライナ軍が一部集落を奪還するなど徐々に反攻。ウクライナ軍は29日には、ロシア軍が補給路として利用してきた橋を米国供与の高機動ロケット砲システム「ハイマース」でほぼ破壊したと明らかにした。

 一方、タスによると、ロシア国防省は29日、ヘルソン州や南部ミコライウ州で3方向からウクライナ軍の攻撃があったことを認めたが、戦車26両を破壊し、兵士560人以上を殺害したと主張した。


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IAEA派遣団キーウ入り(2022/8/31 京都新聞)

【キーウ共同】ウクライナ南部のザポロジエ原発が重大事故に至るのを防ぐため、国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長ら専門家の派遣団が29日首都キーウ(キエフ)に入った。31日にも現地調査を始めるとの米報道があるが、調整が難航する可能性もあり流動的だ。原発はロシア軍が占拠し、砲撃が続いており、現地入りは安全確保が課題となる。

 IAEAはウクライナの要請に沿って、ロシアが強制編入したクリミア半島からではなく、ウクライナ側からの経路を選んだ。このため、両国がにらみ合う戦闘地帯を越える必要が生じている。

 IAEAは29日の声明で、派遣団は今週に現地入りした後、原発施設の損傷状況や安全システムの機能、制御室の職員の労働環境を調査するほか、核物質が平和的な目的にのみ使われていることを確認する措置を取ると表明した。

 29日撮影の衛星画像では、原子炉近くの建物の屋根に損傷があるのが判明。原発の被害状況に懸念が強まっている。原発が立地するザポロジエ州のスタルフ知事は29日、派遣団の安全確保について「ロシア軍がいる地域では何も保証できない」と述べた。


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ザポロジエ原発 IAEA調査開始(2022/9/2 京都新聞)

【キーウ共同】国際原子力機関(IAEA)の専門家チームは1日、ウクライナ南部で攻撃を受けて安全性が懸念されている欧州最大のザポロジエ原発に到着し、調査を始めた。原発には同日も砲撃があり、緊急保護システムが作動して5号機が停止。ウクライナ側によるとロシア軍は専門家チームの移動ルートを妨害するため砲撃した。原発はロシア軍が占拠しており、専門家チームが十分な調査を行えるかどうかは不透明だ。

 専門家チームを率いるグロッシ事務局長は8月31日、IAEAが原発に「常駐できるよう努力するつもりだ」と記者団に表明。9月1日に出発前、「(原発周辺で)軍事活動が活発化しているが、私たちは立ち止まらない」と述べた。数日かけて調査する意向だが、ロシア側は、調査は1日で終わるとしている。

 ロイター通信は調査期間が計画より短縮される可能性があるとするウクライナ側関係者の話を伝えた。十分な調査を行いたいIAEAと、調査を早く終わらせたいロシアの間で意見の対立があるとみられる。

 ウクライナ国営原子力企業エネルゴアトムは1日、ロシア軍がザポロジエ原発の敷地内に砲撃を行い、稼働中だった5号機の緊急保護システムが作動したと発表した。これに対し、ロシア側はウクライナ軍から砲撃があったと主張し、互いが非難した。

 専門家チームは8月31日、首都キーウからザポロジエ州入り。ロシア側の支配地を通過して原発に到着した。同州知事は9月1日「ロシアが専門家チーム訪問のため合意されたルートを砲撃した」と通信アプリに投稿。挑発行為をやめるようロシアに求めた。

 一方、ロシア側はウクライナ軍の部隊が1日に原発の奪還を狙って攻撃を仕掛けたと主張。原発が立地するエネルゴダール市に砲撃し、民間人3人が死亡したとした。ロシア通信は31日、原発でテロを起こそうとした「ウクライナの破壊工作員」が拘束されたと伝えた。

 ロシア軍はザポロジエ原発を3月に占拠し、軍事拠点化した。

【インサイド】核の番人「最も危険」戦地の任務

 国際原子力機関(IAEA)の専門家チームが1日、ウクライナ南部の欧州最大の原発に入った。戦時下の原発の安全確認という前代未聞の調査に着手。砲撃が続く中でチームの安全に万全を期しつつ、ロシア占拠下で中立性を疑われない調査が要求される。各国の核活動に目を光らせる「核の番人」にとって、「最も複雑かつ危険な任務の一つ」(米紙)となる。

 「朝5時以降、砲撃がやまない」。ザポロジエ原発が立地するエネルゴダール市のオルロフ市長が1日、通信アプリで危機感をあらわにした。IAEAのグロツシ事務局長らの車列は1日朝、滞在先から約100キロ離れた原発に向け出発。この日も敷地内への砲撃が確認された。

 IAEAは過去にも危険を伴う任務に当たってきた。1999年、コソボ紛争で北大西洋条約偕構(NATO)が行った空爆などで環境汚染の不安が高まっていた旧ユーゴスラビア最大の原子力研究施設を査察。2003年にはイラク戦争中に略奪に遭い、周辺住民が被ばくした原子力センターを実態調査した。

 グロッシ氏は今年4月、ロシア軍が一時制圧したウクライナ北部チェルノブイリ原発に入り、状況の確認や監視システムの復旧などに当たった。

 しかし、それはロシア軍が撤退し、ウクライナ側が管理を取り戻した後で、今回は格段に危険とみられる。戦闘地域にある原発が頻繁な砲撃を受ける「史上初」(米紙)のケース。敷地内にはロシア兵約500人が展開、重火器も配備されていると言われている。

 グロッシ氏が率いるチームは14人で構成され、施設の損傷や、ロシアの統制下で原発を稼働させているウクライナ人作業員の状態などを調査する予定だ。ただ専門家らは緊張の中での作業を強いられ、攻撃で負傷した場合などの救急対応には不安もある。

 紛争下でIAEAが中立な立場を保てるかどうかも焦点だ。グロッシ氏は8月31日、記者団に「この任務は技術的なものだ」と強調。ウクライナのゼレンスキー大統領が要求し、ロシアが拒否する原発の非武装化については「政治の問題」と述べ慎重に距離を置いた。

 原発を管理下に置くロシア軍が、調査が必要な施設へのアクセスを許可するのかどうかなども不明確なままだ。「リスクは極めて高い。それでも、われわれには達成すべき大切な使命がある」。防弾チョッキを身にまとったグロッシ氏は出発直前、覚悟を述べた。(ウィーン共同)


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IAEA、2人常駐へ(2022/9/3 京都新聞)

【キーウ共同】ロシア軍が占領する欧州最大のウクライナ南部ザポロジエ原発を調査している国際原子力機関(IAEA)の専門家チームについて、在ウィーン国際機関ロシア代表部のウリヤノフ大使は2日「6人が原発に残り、今後数日間活動する」と述べた。2人は常駐するという。ロシア通信が報じた。常駐が実現すれば、砲撃が相次ぐ原発の安全確保が期待される。

 ザポロジエ州のスタルフ知事は2日、共同通信のオンライン取材に対し、原発に「IAEAの専門家数人が残ったおかげで砲撃が減った」と評価。ロシアが1日に周辺で戦闘を演出した後、持ち込んでいた兵器の多くを撤去したと述べた。隠蔽工作とみられる。

 同氏は、原発がウクライナの携帯電話網から切り離され、正確な情報を得るのが難しいと説明。原発の状況を「とても懸念している。取り返しのつかない結果を招く恐れがある」と語った。

 チームを率いるグロッシ事務局長は初日の調査後「(IAEAは)ここにとどまって任務を継続できる。仕事はまだ始まったばかりだ」と述べた。自身は原発を離れた。

 AP通信などによると、グロッシ氏は1日に、制御室や緊急システムなどを見て回ったと説明した。ロシア側によると、チームは原子炉建屋も視察予定。

 調査はロシア側が案内し、中立性を担保できるかどうか疑問視する声が出ている。ゼレンスキー大統領は、ロシアが自国側メディアしか同行を認めなかったと非難し、客観的な調査を要求。ロシア軍が撤収し、原発をウクライナ政府の管理下に戻すべきだと訴えた。

 ザポロジエ原発には原子炉が6基あり、運転はロシア側の監視下で、ウクライナ側の職員が行っている。ウクライナは、ロシアが送電先を実効支配地域のクリミア半島に切り替えるとみて警戒している。

 一方、ウクライナ国営原子力企業エネルゴアトムは2日、ロシア軍の砲撃により停止していたザポロジエ原発の5号機が稼働を再開したと通信アプリで明らかにした。


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IAEA原発調査 情報戦(2022/9/3 京都新聞)

 ロシアが占拠するウクライナのザポロジエ原発での国際原子力機関(IAEA)調査を巡り、両国が自らの主張を国際世論に訴えかける熾烈な情報戦を展開している。ロシアは調査チームの同行取材で欧米メディアを制限。案内役はロシア側が務めた。ウクライナは、ロシアが調査を妨げ事実をゆがめようとしていると主張。板挟みのIAEAは難しいかじ取りを強いられる。

 「残念ながら占領者はウクライナや国際メディアの同行を許さなかった」。ウクライナのゼレンスキー大統領は1日公開のビデオ演説で憤った。同行はIAEA側と合意していたのに「約束は果たされず、ロシアのプロパガンダとなった」と批判した。

 敷地内での取材が許可されたロシア通信などは、ロシア軍がザポロジエ州に設けた「軍民行政府」幹部の発言を引用しながら、調査についてはおおむね好意的に報じた。グロッシIAEA事務局長が初日を総括し「見たかったものが見られた」と話した様子も伝えた。

 施設を案内したのは、ロシア国営原子力企業ロスアトムの関係者だった。調査がロシア主導で進む懸念は拭えない。ロシア通信は「(専門家らが)ウクライナの攻撃による損傷個所を視察した」と伝えた。

 IAEAは調査目的を、損傷や作業員の勤務環境の確認と発表、攻撃者の特定には関与しないもようだ。ただ欧米メディアに取材を許可すれば、現場を分析し、ロシア側による攻撃の“証拠”として報じられることを懸念した可能性がある。

 タス通信は、グロッシ氏と対面した原発立地市のエネルゴダールの住民が、ウクライナ側の攻撃について報告したと伝えた。ゼレンスキー氏は「ロシアが住民を脅し、虚偽の証言を強いた証拠がある」と非難した。

 ウクライナ国営原子力企業エネルゴアトムは2日「(ロシアは)調査団が原発の実態に迫らないよう、あらゆる努力をしている。うそをまき散らしている」とする声明を発表した。

 声明は@原発で取材するメディアの大半は、ロシアのプロパガンダ機関A調査団は、ロシア兵士が駐留する原発の危機管理センター入りを許可されなかったB原発の写真や映像を送信させないためインターネットを遮断した―などと主張した。

 双方が非難合戦を繰り広げる中、IAEAは原発が置かれた全体像に迫ることができるのか―。ある女性作業員は1日、米CNNテレビの電話取材に「まるで人質のようで、強い緊張を強いられている」と、おびえた様子で語った。(キーウ、東京共同)


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砲撃 原子力事故への脅威(2022/9/8 京都新聞)

【ウィーン、ニューヨーク共同】国際原子力機関(IAEA)は6日、ロシアが占拠するウクライナ南部ザポロジエ原発の安全性などに関する報告書を公表し、国連安全保障理事会に内容を報告した。原発敷地内への砲撃やロシア軍の駐留の実態を説明し、原子力事故につながる脅威になっていると指摘。周辺を安全管理区域とする合意が必要だと呼びかけた。

 IAEAのグロッシ事務局長は安保理会合にオンライン参加し、報告書の内容を説明。チェルノブイリ原発や東京電力福島第1原発の事故とは異なり、今回は「未然に防ぐ機会がある」と訴え、ロシアやウクライナ、国際社会に対応を求めた。

 一方、ロシアがザポロジエ州に一方的に設置した「軍民行政府」幹部は6日、ザポロジエ原発で唯一稼働中の6号機(100万キロワット)の出力が13万5千キロまで大幅に低下したと表明した。

 原発内の他の原子炉は冷却に必要な電力を6号機に依存し、予断を許さない状況が続いている。原発が立地するエネルゴダールのオルロフ市長は7日、砲撃で変電所が損傷した結果、市内の一部で7日も停電が続いていると述べた。

 グロッシ氏率いるIAEA専門家チームは1日に原発に入り、現地調査した。報告書は、核燃料や放射性廃棄物を貯蔵する建物にも着弾したとして、大きな穴が開いた屋根の写具を掲載した。8月以降に砲撃が相次いでいる状況を指摘した。

 原子炉付近やタービン建屋内に軍用車両が置かれており、安全管理を妨げる可能性があるとして撤去を要請。またウクライナ人職員が「強いストレスや圧力」にさらされ、安全性を脅かす「人為的ミス」が増える恐れがあると警告した。

 国連のグテレス事務総長は安保理会合で、同原発を軍事行動の標的にも拠点にもすべきではないと強調し、非武装化を改めて要請した。だがロシアはウクライナ側の攻撃が原発を危険にさらし、ロシアの管理で安全が担保されているとして占拠を正当化。インタファクス通信によると、ロシアのラブロフ外相は7日、IAEAの報告書に「疑問があり、追加の説明を求めざるを得ない」と述べ、グロッシ氏に照会したと明らかにした。

【インサイド】電源綱渡り 高まるリスク(2022/9/8 京都新聞)

 ロシア軍が占拠するウクライナ南部ザポロジエ原発では、度重なる砲撃で外部電源を喪失し、非常用のディーゼル発電機も使った“綱渡り”の状態が続いているとみられる。発電機の限られた燃料が「人質」に取られた形になっていることに加え、ロシア軍の支配下にある職員は強いストレスにさらされる。識者は「ミスが重なれば一気に過酷事故のリスクが高まる」と危惧する。

 発電機燃料が「人質」に

 欧州最大のザポロジエ原発は、ほぼ南北に加圧水型軽水炉の1〜6号機(各100万キロワット)が 並び、原子炉本体は航空機の衝突にも耐える頑丈な格納容器で保護されている。近接する火力発電所を主な「外部電源」と位置付け、原発まで4系統の送電網が延びている。

 外部から供給される電力は、原子炉の冷却や運転など、原発の安全性を維持するために必要不可欠。だが、原発構内や周辺地域で砲撃が相次ぎ、予備の送電網を含め全ての外部電源が喪失した。

 原子力規制庁で緊急事態対策監を務めた長岡技術科学大の山形浩史教授は今後、「発電機の燃料が焦点になるのではないか」と指摘。日本の原発と同様、ザポロジエ原発でも燃料の備蓄はI週間分しかないという。燃料切れは原子炉の冷却不能による炉心溶融(メルトダウン)などをはじめとする「過酷事故」にもつながる。ロシア軍は燃料補給を許可するかどうかの判断を人質に「『事故が起きるぞ』とウクライナ側に圧力をかけることも考えられる」と話す。

 不安定な所内単独運転

 原発とその関連施設で必要な電力は13万キロワット(ザポロジエ州知事)とされる。6号機が唯一、13・5万キロワットの低出力で運転しており、原発全体の電力を賄う「所内単独運転」と呼ばれる状態だが、カナダの専門家はAP通信に「危うく、不安定」だと説明。原子炉が緊急停止する可能性も否定できず、山形氏は「全ての電源を失いメルトダウンが起きてもおかしくない」と警鐘を鳴らす。

 また設備面の問題に加え、原発で調査を行った国際原子力機関(IAEA)の報告書は、強いストレスや圧力の下にある作業員による「人為的ミス」が増える恐れがあると警告した。

 NPO法人の原子力資料情報室の伴英幸共同代表は「小さなトラブルでも、厳しい環境にいる職員はマニュアル通りに対応するのは難しいだろう」とし、「薄氷の上を歩くような状態で、6基ともに過酷事故のリスクを抱えている」と危機感を示した。 (共同)


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ザポロジエ原発 「緊迫」(2022/9/9 京都新聞)

【キーウ共同】ウクライナの原子力企業エネルゴアトムのペトロ・コティン総裁は9日、キーウ(キエフ)で共同通信の単独取材に応じ、ロシア軍が占拠する南部ザポロジエ原発について「情勢は極めて緊迫している」と危機感を示した。非常用ディーゼル発電機の燃料備蓄は12〜13日分だと説明。唯一稼働中で、原発内に電力を供給している6号機が停止し、ディーゼル発電機の燃料も切れれば、東京電力福島第1原発と同様の惨事につながると警告した。

 原発はウクライナの送電網との接続が砲撃で絶たれ外部電源を喪失した結果、原子炉の冷却に必要な電力を6号機に依存している。コティン氏は6号機の発電状況について、出力100万キロワットの30%以上とされる安全基準を大幅に下回る約12%だと明らかにした。こうした低出力運転は通常の限度とされる2時間を超えて2日以上続いており、原発の状態次第では6号機を停止せざるを得なくなると述べた。

 その場合、電源を非常用ディーゼル発電機に切り替えることになるが、発電機は旧式で信頼性に疑問がある上、燃料備蓄が10日分だと指摘。このほか、福島第1原発事故後に導入した移動式発電機もあるが、燃料は2〜3日分だけだとした。

 ディーゼル発電機の燃料補給にはロシア占拠地域を通らなくてはならないほか、1日当たり200トン以上の大量供給が必要で困難が伴うと訴えた。

 その上で、砲撃で損傷した送電線を一刻も早く修復し、外部電源と再接続すべく力を尽くしていると強調した。


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「戦争犯罪」国際世論に訴え(2022/9/18 京都新聞)

 ウクライナが東部イジュムで見つかった集団埋葬地を海外メディアに公開し、ロシアによる「戦争犯罪の証拠」と非難した。東部での攻勢で領土奪還を進めると同時に、占領中のロシア軍の非道ぷりを国際世論に訴えかけた。ロシア劣勢を受け、中国やインドも長期化する侵攻への懸念をロシアに直接伝達し、微妙に距離を取り始めた。

 ウクライナは、首都近郊ブチヤに続く戦争犯罪を世界に示そうと、イジュム集団埋葬地の公開を入念に準備。ゼレンスキー大統領は15日のビデオ声明で「あすイジュムに国内外の報道陣が入り、世界はロシアが占領で何をもたらしたのか知ることになる」と予告した。

 埋葬地の調査は、ウクライナが用意したバスに詰め込まれた多数の報道陣の到着に合わせ16日に始まった。地元検察トップは現場 でまだ10遺体しか掘り起こしていないと説明したが、ハリコフ州知事は「遺体の99%に不自然な死の形跡があると信じている」と断じ た。

 大統領府幹部らは16日、米欧の大使らを集め、ロシアを裁く特別な国際法廷の創設を提案。ロ軍の残虐行為を告発し、欧米に兵器供与を拡大させて、さらに広い領土を奪い返す考えとみられる。

 「今は戦争の時代ではない」。インドのモディ首相は16日、上海協力機構(SCO)首脳会議に合わせてウズベキスタンで行ったロシアのプーチン大統領との首脳会談でこう述べ、戦乱を早く終わらせるよう促した。インドは、欧米の制裁で行き場を失った原油の輸入を続けロシアを支えてきた。それだけにモディ氏の発言は異例だ。

 侵攻長期化で燃料や肥料の高騰が続き、厳しい経済運営を強いられていることが背景にある。モディ氏は「発展途上国にとっては最大の懸念だ」と述べ、問題解決に向け「あなたの貢献も必要だ」と注文を付けた。

 中国の姿勢にも変化の兆しがある。SCOでの中ロ首脳会談から一夜明けた16日、共産党機関紙、人民日報は習近平国家主席と各国首脳の個別会談を写真付きで伝えた。ただプーチン氏との会談はトップを飾らず、写真も握手ではなく並んで立ったものだった。

 侵攻前の2月のプーチン氏訪中時は「両国の友好には果てがない」とする共同声明を出し、蜜月を強調した。今回は共同声明はなく、国営メディアの扱いも冷淡。ロシアと一定の距離を置きたい思惑が透ける。人民日報系の環球時報は、中ロは反米の同盟を組んでいるわけではないと論じた。

 ただ中国は対ロ制裁には加わらず、ロシアとの貿易は続ける。エネルギー業界では「ロシアから安く買った天然ガスを欧州に転売して利益を得ている」との見方も。したたかに自国の利益を追求する方針は変わらない。

 ウクライナ東部戦線での後退と、友好国の中印のシグナルを受け、プーチン氏の発言にもわずかな揺らぎが見える。習氏との会談では侵攻に関する「あなたの疑問と懸念は分かる」と低姿勢で臨み、モディ氏には「できるだけ早い停戦に努める」と伝えた。

 ただ戦争継続方針は不変だ。16日のロシアメディアとの記者会見で、劣勢について問われると「ロシア軍は総力で戦っていない」と強弁した。手負いのプーチン氏がどう反撃するのか。ロシア国内で総動員令を求める強硬論が浮上する中、次の一手はまだ見えない。(イジュム、ニューデリー、北京共同)


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隣人がロ軍に密告 分断深く(2022/9/19 京都新聞)

【バラクレヤ共同】ウクライナが奪還した東部ハリコフ州バラクレヤでは、「占領者」ロシア軍に協力した住民が少なくない。隣人に「親ウクライナ」だと密告されロシア軍に拘束された人もおり、解放後も住民の間に深刻な分断が残る。ウクライナ軍の案内で17日、現地を取材した。

 住民のアルテム・ラルチェンコさん(32)と、オレクシ・ヤコブレフさん(52)はロシア軍に拘束され、バラクレヤの警察署に投獄された。ベッドニつの狭い留置場に、2人を含む計7人が押し込められた。ロシア軍は警察署地下の「拷問部屋」でロシアに協力を迫る尋問を繰り返した。電気ショックによる拷問を受けたり、警棒や銃器で殴られたりする人が相次いだ。

 ラルチェンコさんは家にロシア兵がやってきて、ウクライナ軍の軍服を着た兄弟の写真が見つかり、警察署に連行された。「誰もがここで拷問が行われたことを知っている」。拘束期間は7月から46日間。ある日突然釈放された。

 ヤコブヤフさんは8月、隣人に「ロシアが南部クリミア半島を強制編入した2014年から、家の庭にウクライナの旗を立てている」と密告され捕まった。直接的な暴力は受けなかったが、26日間拘束された。

 バラクレヤはロシア軍が拠点とし部隊を展開していたが、9月のウクライナ軍の攻勢を受け、撤退した。ゼレンスキー大統領が11日、解放を宣言したばかりでインフラ復旧もこれから。17日には通信会社によるSIMカードの無料配布や、ボランティアの炊き出しに多くの住民が集まっていた。

 「残念ながらロシアに協力した住民はたくさんいた」。年金暮らしのレオニドさん(84)は肩をすくめる。近所の住民の半分程度はロシアをサポートしていたという。「ウクライナが奪還すると、彼らはまた親ウクライナに戻った」と声を潜めた。

 ウクライナ政府は奪還地域でロシアに協力した住民を捜し出し、追及する方針だ。学生のサーシャさん(13)は「彼らがこれからどうやって生きていくのか分からない。とにかくロシアもウクライナも戦争をやめてほしい」と話した。


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劣勢ロシア 奇策で威嚇(2022/9/22 京都新聞)

 ウクライナの反転攻勢で逆境にあるロシアのプーチン政権が、ウクライナの計4州を住民投票でロシアに編入させる方針を明確にした。4州を強引に自国領に組み込み、これ以上はロシアそのものに対する攻撃と見なすとの威嚇だ。戦闘地域での投票は困難視されており、突然の投票日程発表は奇策と言える。反撃には核使用を辞さない姿勢を示し、約30万人もの予備役動員も発動。戦争は新局面に入った。

 「わが国は、多様な破壊兵器を保有している。領土保全が脅かされれば、あらゆる手段を講じる。はったりではない」。世界最大の核大国を率いるプーチン大統領は21日、4州の住民投票は安全に行われると宣言した上で、領土防衛のためには核使用の選択肢も排除しない考えを示した。

 親ロ勢力が主導する住民投票が行われれば、編入決定はほぼ確実だ。ロシア側が票を操作してでも編入を実現する「出来レース」となるからだ。編入されれば、4州攻撃はロシアへの攻撃だと解釈できる。

 プーチン氏は南部ザポロジエ原発への砲撃について、ウクライナや米欧による「核を使った脅迫」だと主張。「あらゆる一線を越えた」と米欧を猛烈に非難した。

 さらに北大西洋条約機構(NATO)主要国の高官がロシアに対して核を使う可能性に言及したとの持論を展開した上で、「核兵器でわれわれを脅す者は、立場が逆転する可能性があると知っておくべきだ」と脅した。

 プーチン氏は2月の侵攻開始以降、何度も核使用をちらつかせてきた。ただ、4州のロシア編入は、これまでとは異なる意味合いを帯びる。

 背景には、2020年に公表された核兵器を巡るロシアの軍事ドクトリンがある。この文書ではロシアが核使用に踏み切る条件の一つとして、「通常兵器を用いたロシアへの侵略によって、国家が存立の危機にひんした場合」と規定している。

 ロシアが編入する見通しの4州で、激しい戦闘が続くのは間違いない。プーチン政権はこの規定に基づいて核兵器を使う根拠を得ようとしているのではないか―。米欧やウクライナでは、こうした疑念が広がる。

 米政府は高機動ロケット砲システム「ハイマース」などの供与に際し、ロシア領内に向けては使わないとウクライナに確約させている。核戦争勃発を危惧しているからだ。ロシア化された4州で、ウクライナがハイマースを使った場合、核による反撃はないのか。保証はどこにもない。

 4州編入は戦争の「危険なエスカレーションを招く恐れがある」(ワシントン・ポスト紙)一方、プーチン氏がウクライナ側との停戦交渉で有利な環境をつくるため脅迫を先鋭化させているだけだとの見方もある。

 プーチン氏と16日に会談したトルコのエルドアン大統領は「プーチン氏はできるだけ早く(戦争を)終わらせようとしている」との印象を持ったと発言。プーチン氏は、同日のインドのモディ首相との会談でも早期停戦の必要性に言及した。

 プーチン氏が核の恐怖をあおって、自らの優位を固めた上で交渉に入る可能性は残っている。ロシア政治に詳しい専門家は米紙に対し「独裁者には典型的な交渉手法だ」と述べた。(キーウ共同)


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戦争”直面 揺れるロシア(2022/9/23 京都新聞)

 ロシアのプーチン政権がウクライナ侵攻を巡り部分動員令を出した21日、ロシア各地で抗議デモが起きた。「テレビの中の 戦争」との受け止めが一般的だったが、動員される恐れのある若者や家族らの間では「戦争が身近に迫ってきた」と懸念が拡大。ただ厳しい情報統制下で国営テレビがロシアの正当性を繰り返す中、反戦のうねりが広がるかどうかは不透明だ。

 「2人の幼子を持つ親戚の男性の家に、きょう(22日)軍人が来て招集された」。極東ウラジオストクの年金生活者オレグースタロドゥボフさん(78)は部分動員令に憤った。親戚の男性は2時間以内に軍事務所に出頭するよう命じられた。「最も悲しいのは、彼のような貧しい家の若い男が戦地で死ぬことだ」

 ウラジオストクの大学教員アレクサンドル・クズミンさん(60)は、先週結婚したばかりの娘の夫が部分動員令の対象になる。「招集されて戦場に送り込まれ、命の危険にさらされる。心配でたまらない」と動揺を隠せなかった。

 首都モスクワでは多くの若者らがウクライナ侵攻や動員に抗議。現場の映像によると、参加者は「プーチン(大統領)を塹壕に放り込め」と訴えた。北西部サンクトペテルブルグや中部エカテリンブルクなどにも反戦の声が広がった。

 市民団体ベスナ(春)は動員令をやゆする造語で抗議を呼びかけた。「モビリザーツィア(動員)」と「モギラ(墓)」を組み合わせて「モギリザーツィア(墓場行き)に反対」とのスローガンをつくり「父、兄弟、夫が悲惨な戦場に送られる。誰のために死ぬのか」と訴えた。

 プーチン氏は21日の演説で「動員は予備役に所属し、特に軍務経験がある人が該当する」と説明。だが部分動員令の一部条項は非公開とされ、国民の間には「今後、対象が拡大されるのでは」との疑念が広がる。軍務経験のないモスクワのIT技術者マキシムさん(21)は「われわれに、どう影響するのか分からない」と不安がった。

 ロシアでは市民生活は平穏を保ち、独立系世論調査機関レバダ・センターの8月の調査ではプーチン氏の支持率は83%と高い。部分動員令に理解を示す人も多い。

 原子力業界で働くモスクワの男性スビャトスラフさん(34)は「難しい判断だったろうが、ロシア領土に対する西側の脅威によって宣言されたと信じる」と話す。ウラジオストクの退役軍人ウラジーミル・ブロンジコフさん(69)は「『作戦』が半年以上続き、死者が増えている。動員は唯一残された手段だ」と語った。(共同)


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編入地域「ロの保護下」(2022/9/26 京都新聞)

【ニューヨーク共同】ロシアのラブロフ外相は24日、国連総会出席のため訪問中の米ニューヨークで記者会見し、ロシアが制圧するウクライナ東部や南部で親ロシア派が強行した「住民投票」の結果、ロシア編入が決まれば「国家の完全な保護下に入る」と表明し、核兵器使用の可能性を含む軍事ドクトリンが適用されるとの認識を示した。

 ウクライナが編入地域を攻撃した場合、核兵器での反撃があり得ると認めた。ラブロフ氏は投票結果について「敬意をもって受け止める」とし、「全てのロシア領にロシアの法律、ドクトリン、理念、戦略が適用される」と説明した。

 ラブロフ氏はこれに先立つ国連総会での一般討論演説で台湾問題に触れ、米国が台湾への軍事支援により「火遊びをたくらんでいる」と述べ、米国がアジアでの影響力拡大を狙っているとして警戒感をあらわにした。

 記者会見では安全保障理理事会が米欧を利していると主張し、日本の来年からの非常任理事国入りについても「(日本は)米国や北大西洋条約機構(NATO)と政治的に少しも違わない」、として否定的な立場を示した。


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動員令抗議で800人拘束(2022/9/26 京都新聞)

 ウクライナ侵攻の劣勢打開を図るためロシアのプーチン大統領が出した部分動員令に抗議するデモが24日、モスクワや第2の都市サンクトペテルブルグなどロシア各地で行われた。治安当局は強硬に取り締まり、人権団体「OVDインフォ」によると計34都市で820人を拘束した。21日も1300人以上が拘束され、社会不安が広がる。

 モスクワでは通信アプリの呼びかけに応じた多数の若者らが地下鉄駅前の公園に集まった。厳戒態勢の治安当局は、プラカードを揚げ、抗議する人々を次々と連行。車いすの若者は戦場で負傷する兵士を念頭に「私のようになりたい?」と書いた紙を掲げて動員に抗議し、拘束された。

 抗議を呼びかけた市民団体「春」のサンクトペテルブルグの主要メンバーの自宅が24日、当局の捜索を受けた。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は24日の動画声明で、ロシア国民に向けロシア語で「墓場への動員」か拒否し、逃亡するよう呼びかけた。


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予備役出国制限開始か(2022/9/27 京都新聞)

 ウクライナに侵攻したロシアのプーチン大統領が21日に出した部分動員令を巡り、独立系メディア「メドゥーサ」などは25日、国境警備局が軍の要請を受け、予備役の出国を禁止する措置を取り始めたと伝えた。当局は招集対象者の確保に躍起だが、政府の指針に合わない事例が相次いで報告され、上下両院議長が苦言を呈する事態に。社会には動揺が広がっている。

 タス通信などによると、ロシア・東シベリアのイルクーツク州で26日、軍の動員を担当する徴兵事務所の職員が男(25)の銃撃を受けて重傷を負った。男は拘束された。動機は不明。メドゥーサによると、21日以降に北西部サンクトペテルブルグや西部ニジニーノブゴロドなど16力所でも軍の徴兵事務所や行政府などへの放火や発砲があった。

 ショイグ国防相は部分動員の対象は約30万人と説明したが、政府筋の話として「120万人動員説」も報じられた。報道によると、招集対象者の出国を軍が禁止したことを受けて、23日から出国できない人が出始めた。メドゥーサは出国を拒否された人に渡された通知書の画像を報道。ロシアから中央アジアのカザフスタンへ陸路で出国を試み拒否された事例が複数伝えられている。

 マトビエンコ上院議長は25日、知事らに「国防省発表の条件に合わない人の誤った招集事例がある」と指摘。「基準に完全に従い実行するよう求める」と通信アプリで訴えた。ウォロジン下院議長も「間違いがあれば修正すべきだ」と指針通りの運用を求めた。

 一部では動員令への抗議デモが先鋭化。ロシア南部ダゲスタン共和国では25日、多数の女性らが「戦争反対」と叫んで抗議し、拘束者が出た。幹線道路を封鎖した住民に当局が威嚇射撃する映像も出回った。

 ロシア極東サハ共和国の首都ヤクーツクでは女性らが広場で動員に抗議、拘束者が出た。人権団体「OVDインフォ」によると21日以降の拘束者は全国で2300人を超えた。(共同)


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ロシアの徴兵 市民不安(2022/9/30 京都新聞)

 ロシア軍への部分動員令を逃れるため、近隣の欧州諸国へ脱出を図るロシア市民が相次いでいる。人道的観点からドイツが受け入れに積極姿勢を示す一方、反ロ感情が強い東欧諸国は入国を制限するなど対応は割れている。一方、ロシアが編入を急ぐウクライナ南部の若者は、編入後にロシア軍に徴兵されることを恐れ「外出せず家に閉じこもるしかない」と不安を打ち明けた。

 EUの欧州国境・沿岸警備隊によると、今月25日までの7日間でロシア市民6万6千人がEUに入域し、前週比で3割増加した。多くはフィンランドとエストニアの国境検問所から入域。EU加盟国の滞在許可証やビザを所持しているか、二重国籍者が大半という。

 同隊は、今後も越境者は増えると指摘。仮にロシアが国境を閉鎖すれば、不法越境者や、既にEU域内に居住するロシア人が期限を越えて不法滞在するケースが増加すると警告している。同隊などによると、ロシアに隣接するポーランドやバルト3国のリトアニア、ラトビア、エストニア、さらにフィンランドが、観光やレジャーを目的としたロシア市民の入国を制限。

 一方、ドイツのフェーザー内相は22日「厳しい弾圧の脅威にさらされている人々はドイツで保護を受けられる」とツイード。EUのミシェル大統領も同様の考え方とされる。EUとして共通の方針づくりを急ぐ。

 ロシア軍が占拠するウクライナ南部ヘルソンに暮らす20代前半の男性は、編入が強行されれば自身もロシア軍に徴兵される恐れがあると話し た。男性は共同通信のオンライン取材に、現地の状況を詳しく語った。

 ヘルソン州の親ロ派「軍民行政府」が徴兵年齢の従業員リストを作成するよう企業に命じたとされる文書が、交流サイト(SNS)にアップされたという。住民らは外出を避けており街中が閑散としている。

 ロシア軍は3月にヘルソン州全域の制圧を宣言。男性は脱出も考えたが、怖くてちゅうちょしてきた。兵士らに呼び止められるのを避けるため「できるだけ家にいるようにしている」と話す。

 ウクライナ軍は南部でロシア軍に反撃しており、ヘルソンでも爆発音や砲撃音が響く。静寂が続くと男性は「ウクライナ軍が撤退したのかも」と心配になるという。「ロシア側の徴兵が始まれば何とか脱出したい」と疲れた声で語った。(ブリュッセル、キーウ共同)


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空疎な「戦果」高揚感なく(2022/10/1 京都新聞)

 ロシアのプーチン大統領は30日、ウクライナ4州の併合を宣言した。全域制圧にも至らない段階で空疎な「戦果」を誇示して求心力を高める狙いだが、動員令への反発からロシア社会は混乱、国民の間に高揚感はない。ウクライナは領土奪還を進める覚悟だ。武器支援を継続する米欧とロシアの対立は冷戦後最悪の水準となり、外交解決の道は限りなく狭まった。

 「4州の住民たちは、ロシア国民なのだ。永遠に。彼らを裏切ることはない」。30日、モスクワのクレムリン。スーツ姿のプーチン氏が訴えると拍手が湧いたが、会場の「ゲオルギーの間」に熱気は感じられない。

 プーチン政権は今回、異例のスピードで併合手続きを強行した。政権の息のかかった親ロ派が20日「住民投票」計画を突然発表してから、わずか10日で併合宣言という慌ただしさだ。背景にはプーチン氏の焦りがある。

 ロシアは9月、ウクライナの反転攻勢で敗走。一層の戦況悪化を避け、占領地をいち早く「自国領」に確定する必要に迫られていた。兵員不足解消に向けた部分動員令を円滑に進めるため、「軍事作戦の成功」を祝賀し挙国一致ムードを盛り上げる狙いもあった。

 プーチン氏の脳裏には、2014年のウクライナ南部クリミア半島併合時の成功体験が焼き付いていた。ソ連崩壊で失った領土を初めて復活させたことで国民は快哉を叫び、支持率は急伸、15年に過去最高の89%に達した。「クリミアの栄光の再現」を夢想したようだが、不発となりそうだ。

 しかし、プーチン政権の足元は揺らぐ。30万人規模を戦場に送り込む部分動員令への反発は特に強く、既に数十万人が国外へ脱出。市井のロシア人が戦争をわが事と意識するきっかけとなり、反戦デモが広がった。9月下旬の独立系世論調査機関の調査では47%が動員令について「不安と恐怖を感じる」と回答した。

 「人を殺したくないし、自分も死にたくない」。卜ルコに逃れたジャーナリスト、セルゲイさん(37)=北西部サンクトペテルブルグ出身=はこう語った。IT技術者デニスさん(39)はロシアの行為は戦争犯罪で「何のためにやっているのか分からない」と訴えた。

 母国に残る人にも疑念が募る。極東ウラジオストクのトラック運転手ユーリ・タタルスキーさん(49)は「私もいつ動員されるか分からない。政治家は信用ならない」。文化施設職員の女性アナスタシアさん(34)は「早く全て終わらせてほしい」と戦闘終結を願う。

 一方、戦争遂行を下支えしてきた愛国主義勢力からも「なぜ総動員態勢を敷かないのか。軍事作戦は中途半端だ」との批判が上がる。プーチン氏の苦しい立場は続く。

 ロシアは20年の憲法改正で領土割譲を禁じており、4州併合で法律上は領土交渉が極めて困難になる。プーチン氏は核兵器使用を含めて「あらゆる手段」で国土を防衛すると明言、妥協の道を閉ざしたようにも見える。

 ウクライナは併合式典を「クレムリンの見せ物小屋だ」(大統領側近)と非難し、全占領地回復まで攻撃をやめない構えだ。米欧も露骨な領土拡張を認めない考えで一致し、高性能兵器の供与を続ける。ロシア寄りの中国やインドは併合支持は避けてロシアと距離を置くが、停戦仲介に動く様子はない。

 ロシアの軍事専門家はこう警告した。「(プーチン氏は)併合で後戻りできない一線を踏み越える。戦争は危険な局面に入る」(キうーウ、イスタンブール共同)


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ウクライナ、全土奪還目指す(2022/10/1 京都新聞)

【キーウ共同】ウクライナのセレンスキー大統領はロシアの核の脅しに屈せず、今回の併合地域を含む全領土奪還を目指し戦闘を続ける方針だ。米欧に対しては、核不拡散の世界秩序を守るためにもロシア軍の打倒が必要だと強調し、ウクライナへの兵器供与をさらに増やすよう求めている。

 背景にあるのは、ロシア軍による市民の大量殺害や非道な振る舞いに対する国民の怒りだ。

 ロシアのプーチン大統領は「ロシア領」を守るため、核兵器を含むあらゆる手段で反撃すると警告し「はったりではない」と断言。ゼレンスキー氏はザポロジエ原発や南ウクライナ原発への攻撃に触れ「核の脅迫の第1段階ではったりではない。世界を震え上がらせたいのだ」と述べ、ロシアの脅威を封じ込めるよう訴えた。今後、戦闘激化と犠牲者の増加は避けられない。だが大統領側近のポドリヤク大統領府長官顧問は共同通信の取材に対し「国土を解放し自由を守るため、国民はそろって死ぬ覚悟ができている」と言い切った。

 ロシアとの停戦交渉を率いたポドリヤク氏は「ロシアは領土割譲の最後通告を突きつけている」とし、停戦の国際仲介を断固拒否。2014年にロシアが併合したクリミア半島を含め「全領土でのロシア軍事施設の破壊が必要」と結論づけ、米欧の支持も得ていると説明した。

 ただ米国は「領土奪還を支援し続ける」としつつも、ロシアとの核戦争回避が最優先。ウクライナが求める射程300キロの戦術地対地ミサイル「ATACMS」供与にも応じていない。ポドリヤク氏は「戦う覚悟の人々に少量の武器しか与えない」と不満も口にした。

 望みは、プーチン氏の部分動員令に反発するロシア国民。ゼレンスキー氏はロシア語で徴兵逃れを呼びかけ、ロシア社会の内部崩壊に期待する。


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戦場の聖職者 大幅増へ(2022/10/3 京都新聞)

【キーウ共同】ウクライナ宗教界の最大勢力、独立系正教会が、従軍聖職者の派遣に力を入れている。ロシア軍の侵攻が長期化する中、ウクライナ兵の精神面を支える必要性がより重視され、2月の侵攻後に発効した法律で従軍聖職者が士官扱いとなったことが背景にある。派遣を組織するイオアン府主教(55)は、従軍聖職者を現在の約180人から約800人に増やす計画だと明らかにした。

 イオアン氏は、モスクワ系の正教会宗派も従軍聖職者を派遣していたが、ロシアの影響力が目立つため排除されたと明らかにした。

 同氏は、独立系正教会の派遣が本格化したのは、2014年に始まった東部でのロシア側との戦闘が停戦合意で一時沈静化した15年だと説明。それまではモスクワ系宗派の聖職者が主流だった。「戦争で(ロシアの)兄弟を殺すな」とウクライナ兵に説教し、一部が作戦参加を拒否したという。

 一方、独立系正教会は「戦時には和解ではなく、敵の撲滅を求める」立場。軍の求めに応じ、聖職者に従軍を呼びかけた。前線に出る前には6週間の軍事訓練を受ける。

 ただ、従軍聖職者には「越えてはならない一線」があり、武器を手にした写真を公表した聖職者は職務禁止処分に。イオアン氏は「『軍国主義の教会』だと敵に非難されかねない」と説明する。

 イオアン氏はモスクワ系宗派の追放を推進。軍上層部に働きかけ、同宗派の従軍を阻止したと語った。ゼレンスキー政権にも同宗派の活動を禁じるよう求めている。

 従軍聖職者は他の宗派も派遣しているが、独立系正教会は約8割を占める主流派。14年に親ロシアのヤヌコビッチ大統領を失脚に追い込むデモ隊を支援したほか、ロシア軍への反攻を鼓舞し支持を高めている。

 今年2月24日のロシア軍侵攻後、殉死した独立系正教会の従軍聖職者は3人。それ以外に、法衣を脱いで戦闘に加わり、亡くなった例もある。


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ザポロジエ原発国有化(2022/10/7 京都新聞)

 ロシアのプーチン大統領は5日、一方的に併合手続きを完了したウクライナ南部ザポロジエ州の親ロシア派支配地域にあるザポロジエ原発について、ロシア政府の資産とし、管理を担う国営企業の設立を指示する大統領令に署名した。ロシアが軍事拠点化した欧州最大の原発の「国有化」を強行し、併合を国内外に誇示した。

 ザポロジエ原発はウクライナの総電力の約2割を担ってきた主要インフラで、同国は強く反発した。

 ザポロジエ原発を運営するウクライナ原子力企業エネルゴアトムは5日、ロシアによる原発国有化は無意味だとする声明を発表。ポドリヤク大統領府長官顧問は、ロシア国営原子力企業ロスアトムヘの制裁など同国原子力産業への圧力強化が必要だと訴えた。

 プーチン氏は4日、ウクライナ東部・南部4州の親ロ派代表と締結した併合条約の批准書と関連法案に署名し、併合手続きを完了した。ザポロジエ原発は親ロ派が実効支配するエネルゴダールに立地し、ロシア側の監視下でウクライナの職員が運転していた。

 国際原子力機関(IAEA)は5日声明を発表し、グロッシ事務局長が原発の運転管理について関係当局と協議する予定だと説明した。グロッシ氏は今週ウクライナ首都キーウ(キエフ)を訪問し、その後にロシアも訪れる。タス通信によると、ウクライナ訪問に合わせ、ザポロジエ原発に向かう可能性がある。

 ロシア側によると、ザポロジエ原発は今後、ロシア国内の原発を運営する国営企業「ロスエネルゴアトム」の子会社が運営を担う。(共同)


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巨大橋 無残に崩落(2022/10/9 京都新聞)

【キーウ共同】大海原に架かる巨大な橋から真っ黒な煙が上がった。8日、爆発による火災で一部が崩落したクリミア橋。2014年に併合した半島とロシア本土を結ぶ唯一の大動脈は、プーチン政権肝いりの事業。ロシア軍のウクライナ南部への侵攻を支える補給線でもある巨大な橋は、無残な姿をさらしていた。

 交流サイトに投稿された映像をロシアメディアが伝えた。道路橋の橋桁は海に落下しており、並行する鉄道橋に止まった貨物列車が激しく炎を上げ続けていた。

 橋はウクライナ側が確保している地域から約160キロ以上離れている。爆発物の専門家は英BBC放送に、橋の破損の状況から火災はミサイルなど空からの攻撃によるものではないだろうとした。無線を使い爆破した可能性があるとも指摘した。

 ロシアの政府系のテレビによると、代替の移動手段として、クリミア半島と対岸のロシア本土をつなぐフェリーが運航を開始した。タス通信は、半島が「陸の孤島」となることへの不安からか、自家用車がガソリンスタンドに長い列を作る様子を写具で伝えた。


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ザポロジエ原発 外部電源を喪失(2022/10/9 京都新聞)

【キーウ共同】国際原子力機関(IAEA)は8日。ロシアが占拠するウクライナ南部ザポロジエ原発が、砲撃により冷却に必要な電力を供給する外部電源を失い、非常用のディーゼル発電機が起動したと声明で明らかにした。原発の安全を保つシステムは正常な状態を維持、ディーゼル発電機の燃料は少なくとも10日分あるとしている。

 声明によると、原発では外部電源を供給する送電線の復旧作業が開始された。IAEAは「唯一稼働していた外部電源への砲撃の再開は無責任だ」と非難したが、ロシアとウクライナのどちらによる砲撃かは言及しなかった。