長時間労働が深刻な課題となる中、教員900人余りへの調査で6人に1人にあたる17%が勤務時間を「過少申告」するよう書き換えを求められていたことがわかりました。調査した研究者は、働き方改革の前提となる実態が正確に把握できていないおそれがあると指摘しています。 調査は、教員の勤務実態を把握しようと、名古屋大学大学院の内田良教授が国の研究費を活用して去年11月にオンラインで行ったもので、全国の公立小中学校の20代から50代の教員、924人から回答を得ました。 この中で、勤務時間の申告について「正確に申告しない」もしくは「申告を求められていない」という回答が、平日は合わせて19%、土日は合わせて44%に上りました。 さらに、この2年間に書類上の勤務時間を少なく書き換えるよう求められたことがあるか聞いたところ、17%が「ある」と答え、6人に1人が勤務の過少申告を求められていたことがわかりました。 国は働き方改革の一環で、2年前に月の残業時間の上限を45時間とする指針を示し、勤務時間をタイムカードなどで客観的に把握するよう求めています。 公立の小中学校や高校などの教員の給与は、半世紀前に制定された法律で、当時の月の残業時間の平均、およそ8時間をもとに月給の4%相当が支給される一方で、残業時間が増えても残業代は出ないことから、SNSなどでは“定額働かせ放題”と窮状を訴える声も出ています。 調査した内田教授は「公立学校の教員は残業代が出ない仕組みの中で、仕事量が減らないまま早く帰るよう求められた結果、見かけ上の残業を減らすという本末転倒な事態が起きている。国は働いた対価を支払う法改正を進めるとともに、教育現場に人が全く足りていない事実を受け止め、あらゆる対策を進めなければならない」と指摘しています。 公立高校の教員も管理職から勤務の過少申告 求められる 公立高校の教員だった男性からも、管理職から勤務の過少申告を求められたという声があがっています。 男性は、教員の勤務実態を知ってほしいとNHKの情報提供窓口「ニュースポスト」に情報を寄せました。 去年の春、新卒で関東地方の高校の教員になり、部活動では野球部の担当になったといいます。 練習は夜8時まで、土日も部活動がありましたが、働いた時間を申請した際には「正直な時間を報告すると面倒なことになるので、短い時間を報告してくれ」と教頭に求められたということです。 男性は「管理職が残業時間が80時間を超えないよう調整していて、過少申告は悪いことだとわかっていたが、訂正するのも面倒なので従ってしまいました」と話しました。 男性のスケジュール帳には、5月から6月にかけ土日は野球部の練習試合が続き、雨で中止になるまで45日連続で休みなく勤務したことが記されています。 体調不良などで休職する教員もいた中で、周りの教員も自分のことで精いっぱいで相談できず、男性は12月には適応障害の診断を受け、学校に戻れなくなりました。 小学校の時にいじめを受けたり、学習面で悩んだりした経験から、厳しい勤務を覚悟したうえで、子どもに深く向き合いたいと教員の道を選びましたが、その気持ちも消えてしまったと振り返ります。 男性は「学生のときの情熱が、うそのように冷めてしまって、自分でも驚いています。異常な環境だったなと、今、振り返っても思いますし、教員になるために頑張った大学4年間はなんだったのだろうと、すごく悔しいです」と話していました。 小学校の教頭「長時間労働が問題にならないよう“勤務改ざん”」 西日本の小学校の教頭は、教員たちの勤務時間を少なく改ざんしたうえで、教育委員会に報告する資料を作成したと明かしました。 教頭は去年、校長に教員の勤務のことで呼び出され「うまく調整して報告するよう」指示をされたことから、数字を改ざんするしかないと考えたと言います。 実際に、改ざん前と後の勤務記録を見せてもらうと、中には月に92時間残業した教員の勤務を36時間分削っていたケースもありました。 教頭は違法だと思いつつも、公立学校の教員は残業代がつかず勤務を削っても給与に影響しないことや、80時間を超えると産業医面談のために授業を休まなくてはいけなくなることなどから、改ざんしてしまったと打ち明けました。 教頭は「現場としては本質的な先生方の働き方改革は進めているところだが、それだけでは超えられない壁、限界を感じます。毎年やることは増えるのに勤務時間だけ減らせというのは明らかに不可能で、とりあえず長時間労働が問題にならないよう“勤務改ざん”という手段で乗り切ろうとしているが、ふだん『うそはいけない』と教えている私たちがうそをついているのが現状で、子どもたちに申し訳ない」と話していました。 複数の教職員組合によりますと「管理職に勤務を改ざんされたおそれがある」という相談は、毎年のように寄せられているということです。(NHKラジオ) ![]() |
公立中学校の運動部活動の在り方を検討しているスポーツ庁の有識者会議は26日、休日の部活指導を地域や民間の団体に委ねる「地域移行」を2023〜25年度の3年間で達成するとの目標を盛り込んだ提言案を提示した。この期間を改革集中期間と位置付け、自治体に具体的な取り組みやスケジュールを定めた推進計画の策定を要求。休日の地域移行がおおむね完了すれば、平日でも進めていくとした。 有識者会議は5月中に提言を取りまとめる予定。公立中の部活動を巡っては、少子化の進展で存続が困難な学校がある他、教員の長時間労働の一因と指摘されている。文化庁の有識者会議も吹奏楽や合唱などの文化系部活動の地域移行について検討しており、7月に提言をまとめる見通し。 提言案は、このまま少子化が進めば、どの中学校でも運動部活動は廃部や縮小に追い込まれ、学校単位で教員が指導する現状の形を維持するのは極めて困難と指摘。中学生のスポーツ機会を確保するため、まずは休日の部活指導から段階的に地域移行することが重要で、山間部や離島を除き25年度までに達成することを目指すとした。 また、地域移行で部活動の部費よりも高い会費になることが想定されるとして、学校や公共施設を低額で使えるようにする他、経済的に困窮する家庭への国や自治体の支援を求めた。 運動部活動に関するスポーツ庁の有識者会議が示した提言案では、中学生を対象とした全国大会の在り方として学校単位だけでなく、総合型地域スポーツクラブなど民間団体の参加を認めるよう求めた。全国1位を決める仕組みのトーナメント方式は「過度な勝利至上主義による行き過ぎた指導が生じる一因」などと指摘。多くが1回戦で負けることにも触れ、見直しの必要性を訴えた。 少子化と休日部活動の「地域移行」に伴い、大会主催者となる日本中学校体育連盟(中体連)、競技連盟には参加資格の緩和を要請。中体連は既に、2023年度から全国中学校体育大会(全中)で民間団体所属の選手が出場可能にする方針を示している。保護者の金銭的な負担や発達途上の生徒に配慮し、大会開催の回数や試合数を見極め、暑い夏季を避けス可能性にも言及している。 休日の大会に参加す生徒の引率については「負担を感じている教師もいるのが実態」と現状を説明。軽減に向け、外部指導者の引率を可能にして協力を得られる体づくりを望んだ。 ![]() |
東大社会科学研究所とベネッセ教育総合研究所は20日、小中高校生の学習意欲に関する調査結果を公表した。「勉強しようという気持ちがわかない」との項目に「当てはまる」とした回答が2021年は54・3%に上り、新型コロナウイルス感染拡大前の19年と比べて9・2ポイント上昇。15年の調査開始以来、過去最高となった。 東大の佐藤香教授(教育社会学・社会調査)は「コロナ禍で友達との接触や遊びが制限され、給食時も黙食を求められるなど学校生活の楽しさが減少し、勉強に対する意欲も低下した可能性がある」と分析している。 調査は21年7〜9月、全国の小4から高3に郵送などで実施し、約1万人から回答を得た。 「勉強しようという気持ちがわかない」と答えたのは、小中高校生全体では19年は45・1%、コロナ禍が始まった20年は50・7%だった。 21年の結果を学校段階別に見ると、小4〜6年生は43・1%(19年比10・1ポイント増)、中学生58・6%(同10・9ポイント増)、高校生61・3%(同6・7ポイント弾増)で、いずれも過去最高だった。 学校の授業形態では、20年は「グループで調べたり考えたりする」や「自分で決めたテーマを調べる」といった探究的な活動を実施していると答えた割合が前年よりも落ち込み、コロナ禍の影響をうかがわせたが、21年は回復した。 ![]() |
小学6年と中学3年の全員を対象にした文部科学省の「全国学力・学習状況調査」(全国学力テスト)が19日、一斉に行われた。国語と算数・数学に加えて4年ぶりに理科を実施。知識を活用して「思考力・判断力・表現力」を測る設問が目立った。児童生徒や学校に学習状況を尋ねる質問紙調査も行い、新型コロナウイルスによる影響がないかどうかを調べる。結果は7月下旬に公表する。 文科省によると、参加するのは国公立の全校と私立の46・3%で、小学校は1万9007校の約105万1千人、中学校は9856校の約103万4千人。 「主体的・対話的で深い学び」を掲げた新学習指導要領が小中学校で全面実施され、中3は今回から新指導要領に基づく出題となった。 中3国語では文書作成ソフトを使った授業を題材に、ウェブページから情報を適切に引用できるかを問うた。小6算数には新指道要領で導入されたプログラミングに関する問題が初めて登場。理科は実験や観まで得たデータを分析する力を測り、身近なものを取り上げた設問も多かった。 文科省は、新型コロナ拡大から初の全国学力テストだった2021年度の結果について、質問紙調査と併せて分析し「休校期間か短い学校と長い学校との間で正答率に大きな差はない」と結論付けた。今回も学校に21年度の休校日数や、遠隔授業など休校中に取り組んだ指導内容を尋ねており、感染拡大と学力との関連を調べる。 京滋国公私立でも 全国学力テストは京都府や滋賀県でも19日、実施され、両府県の国公私立の小中学校、小中一貫の義務教育学校や特別支援学校の小6児童と中3生徒が共通問題に取り組んだ。 京都府では、公立で529校の約3万9千人が受け、国立3校と半数以上の私立も参加。滋賀県では、国公私立計326校の約2万7千人が臨んだ。目立ったトラブルはなかった。 文部科学省は全国学力テストと別に昨年6月、小学6年と中学3年の学力が新型コロナウイルス感染拡大前後でどう変化したかを測定する調査を実施した。今年3月の結果公表では「学力は低下しなかった」と結論付けたが、学校現場からは「実態と異なる」と疑問視する声も。今回の全国学力テストでも新型コロナの影響を注視する必要がある。 文科省によると、昨年6月、約1300校の児童生徒計約11万人を抽出し、国語と算数・数学のテストを実施。毎年問題が変わる全国学力テストとは異なり、前回2016年調査と共通する問題や、難易度を同程度に調整した問題を出題しており、学力の変化を見ることができる。 平均点は、小6国語が横ばい、中3国語と篁数・数学は3〜9ポイントそれぞれ上がった。文科省の担当者は「少なくとも20年春の一斉休校などのコロナ禍で学力が低下したとは言えない」と話す。 ただ、今春まで大阪府内の公立中の3年生を教えていた男性教諭は「部活動の制限などが長期化してストレスがたまり、勉強に身が入らない生徒がいた。全体の結果に表れなくても、一部は新型コロナの影響で学力が落ちているのではないか」と疑問を呈した。 「我慢だらけの学校生活が苦しくなり、不登校になる子どもが増えた」との指摘も各地で出ており、今後も学習支援が課題となる。 19日に実施された全国学力テストの主な出題の狙いは次の通り。 【小学校国語】話し合いなどの場面設定多く 話し合いや、意見や感想を伝え合う場面が設定された設問が多かった。記述式問題では複数の答え方があるものが出題された。 大問1は、公園の美化について児童たちが話し合う様子を取り上げた。設問4は、「ごみ拾い」と「花植え」のどちらかを選び、その問題点の解決方法を話すとの設定で50字以上80字以内で記述させた。過去の調査では、立場を明確にして質問や意見を述ぺることと、話し手の意図を捉えながら自分の意見と比ぺて考えをまとめることの正答率が低く、それを踏まえた出題だった。 大問3では、「6年生としてがんばりたいこと」をテーマに文章を書いた児童が、別の児童と感想を伝え合う場面が設定された。伝え合った内容を基に、文章の良さを振り返り60字以上100字以内で書かせた。文章全体の構成に着目して文章を整えたり、文章に対する感想や意見を伝え合い、自分の文章の良いところを見つけたりすることができるかをみており、新学習指導要領で示された指導事項から出題された。 【小学校算数】プログラミング 初めて題材にプログラミング 初めて題材に コンピューターのプログラミングを題材にした問題が初めて出題された。アンケート結果を踏まえて目的に沿った選択ができるかといった、算数の学習を活用して日常生活の課題を解決させる設問も目立った。 大問1は、プログラムでいろいろな図形を描くという設定で、図形の意味や性質を理解し、考察を深められるかどうかをみた。正三角形を描くためのプログラムが思うように動かず、どう修正したらいいかを問いかけたり、複数のプログラムからひし形を描くものを選ばせたりした。 大問3では、お楽しみ会の遊びを決めるため、学級の24人がそれぞれ四つの遊びの中から希望する二つを記したアンケート結果を提示。結果を基に二つの遊びを選ぶ際、全員の希望を一つはかなえる組み合わせを答えさせた。目的に応じてデータの特徴を捉え、考察する力をみた。 カップケーキをばら売りで21個買うと、21個入りセツトで買うよりも割高になることを、概数を使って把握させるといった設問もあった。 【小学校理科】大問全て実験・観察 動植物や自然現象に関心を持ち、科学的な言葉や概念を使って説明する力を付けることが求められるとして、四つの大問全てが実験・観察に基づいた出題となった。 大問1は、昆虫の育ち方や餌が題材。バッタやトンボ、ゲンゴロウなどが何を食べているのか分類した表を示した上で、その資料を基にさらに探究していくのにふさわしい疑問点が何なのかを選ばせた。新しい学習指導要領が求める「問題を見いだす」という過程そのものを問う初の設問だった。 鏡で反射させた日光による物体の温度上昇を取り上げた大問3では、複数の実験を提示した。鏡の枚数が増えると温度の上昇幅も大きくなり、実験の際に太陽の位置などを踏まえて結果を考える必要があった。 大問4は、天候や気温がテーマ。冬の数日間の天候と気温の変化が一覧できるグラフを分析し、晴れた日は昼夜とも気温の上昇・下降の幅が大きく、曇りの日は変化が小さいという結論を導く根拠を示す能力が求められた。 【中学校国語】複数の言語活動取り上げた問題 スピーチをする、意見文を書くなど、日常生活や学校生活を想定した複数の言語活動を取り上げた出題が目立った。 大問1では、最近気になったことについての生徒のスピーチが題材。スピーチを記録した動画を見ながら、友達から助言をもらう場面が設定された。「呼びかけたり問いかけたりする表現にしてはどうか」という助言を基に、スピーチの内容を自分ならどう直すかを書かせた設問では、聞き手の興味や関心を考慮して、表現を工夫できるかが問われた。 大問2は、「先端技術との関わり方」というテーマで、スマート農業について取り上げた意見文の下書きとそれに対する友達のコメント、コメントを受けて集めたウェブページの資料が題材に。下書きの文章の一部を直すことにした意図を四つの選択肢から一つ選ぶ設問では、助動詞の働きについて理解し、目的に応じて使うことができるかをみた。記述式の設問は、自分の考えが伝わる文章になるよう、根拠を明確にして書くことができるかどうかをみた。 【中学校数学】SDGs関連など社会事象考えさせる 持続可能な開発目標(SDGS)と関連付けるなど、日常生活や社会の事象を数学的に考察させる出題が多く見られた。グラフやデータを読み解いたり、文章で説明させたりする形式も目立った。 大問8はSDGSを題材に、学級の生徒30人が家庭でできる二酸化炭素削減の取り組みを実施した場合の削減量を日々記録するという設定。7日目までの結果を基に、目標の300起削減を達成するのがおよそ何日目になるかを求める方法を説明させた。与えられた情報を読み、事象を単純化して解釈する力をみた。 大問7は、こま回し大会で使うこまを二つの中から一つ選ぶ場面で、それぞれ20回ずつ回して止まるまでにかかった時間のデータをヒストグラムで提示。より長く回りそうなこまはどちらだと考えるか、ヒストグラムの特徴を比較して説明させた。どちらのこまを選んで解答してもよく、数学的な表現を用いて根拠を示せるかどうかをみた。 数同士の関係や図形の性質について、予想した事柄を論理的に考察させる出題も複数あった。 【中学校理科】身近な道具や出来事、問題に 学んだ知識と日常生活での経験を関連付け、科学的に探究する姿勢を身に付けることが重要だとして、身近な道具や出来事を取り上げ、図解やグラフを多用する設問が目立った。 大問1は、タブレット端末の仕組みを調べる授業の場面を設定。タッチパネルで操作するのに水分が関係しているかどうかの実験を行うのに必要な条件を問うた。 大問3には、東京五輪・パラリンピックと関連した題材が登場した。聖火の燃料に水素が使われていたとして、燃焼に関する化学反応式の基礎知識を問う問題があったほか、水を電気分解する原理を理解しておくことが求められた。 自転車のサドルやボールペンに使われるばねについて、長さと力の大きさの相関を考察する大問があり、実験で得られたデータを示すのにふさわしいグラフを見つける選択問題が出た。 記述式問題ではアリと外見が似た生物を観察し昆虫かどうかを答えさせ、その根拠を書かせた。ダンゴムシとダイオウグソクムシの体の構造が異なる理由も答えさせた。 ![]() トレンドな出題といえば聞こえがいいが、内容的には政権が進めようとする方向に意図してもっていこうとするものが目立つ。教育の普遍性がどこまで意識されているのかが見えにくい。 長期安倍政権の弊害は経済だけでなく、教育や政治的ガバナンスにも「忖度」による歪みが目につく。岸田政権はそれを是正するという方向性は見えない。 |
政府の教育未来創造会議(議長・岸田文雄首相)が、返済不要の奨学金などで低所得層の大学生らを援助する高等教育の修学支援制度について、中間層の理工系学生らへの対象拡大を検討していることが18日、複数の政府・与党関係者への取材で分かった。大学院生から学費を徴収せず、就職後に納付できる「出世払い型」の導入案もある。 いずれも財源確保が課題で、大幅な制度変更を伴うために異論も大きく、5月の提言取りまとめに向けた調整では曲折も予想される。 現行制度は住民税非課税世帯などに対し、給付型奨学金を支給し、授業料や入学金を減免する。関係者によると、改革案では、中間所得層のうち、実験や実習が多く授業料が高くなりがちな「理工農」系学生や、子どもが3人以上いる多子世帯の学生を対象に加える。保護者の世帯収入600万円以下が基準に想定されている。 「出世払い型」は、国が学費を肩代わりし、卒業後の年収が一定基準に達してから徴収する制度で、オーストラリアなどが採用している高等教育拠出金制度「HECS(ヘックス)」を参考にしている。数年前にも自民党で導入論が持ち上がったが、財源の問題や「学費は保護者が負担すべきだ」といった反対意見があって実現していない。今回は、修学支援制度の対象外である大学院生への導入案が浮上した。 18日に開かれた同会議作業チームの会合で提言案が示されたが、「修学支援制度の改善を検討」「大卒後の所得に応じて奨学金を『出世払い』する仕組みに向けて返還の在り方を見直す」との文言で、現時点で新制度の詳細を盛り込まなかった。委員から「中間層や多子世帯、理工系にも給付型奨学金を広げるべきだ」との意見が出た。 ![]() |
総人口が大幅減となり、15〜64歳の割合も過去最低となったことが総務省推計で明らかになった。労働者の減少は、さまざまな分野で深刻な問題となっており、デジタル技術に活路を求める動きが広がっている。課題はデジタルに通じた専門人材の不足で、育成が急務となっている。 千葉県北部に位置し、田園地帯が広がる神崎町。地元の農事組合法人で代表理事を務める大原弘宣さん(68)は、無人トラクターが田んぼを耕す様子に「まるでロボットだね」と笑みを見せた。衛星利用測位システム(GPS)によって、むらなく耕せ、方向転換もスムーズだ。 町で農業を営む個人や団体は2020年に134。高齢化で15年に比べ3割も減った。大原さんの法人は、引退した農家の田んぼを借りて農作物を育てている。計約90ヘクタールの耕地面積に対し、スタッフは9人だけ。それでも無人トラクターの効果などで「業務をこなせている」という。 大原さんたちは、スマートフォンで田んぼへの水の引き込みや水位監視ができるシステムも導入。少人数で生産性を高めようと知恵を絞っている。町の担当職員、石橋正之さん(51)は「情報通信技」(ICT)を活用すれば、受け入れ可能な農地を増やせる」と自信を見せた。 内閣府によると15〜64歳人口は約20年後、2割減の約6千万人となる見込み。デジタルを生かした省力化の取り組みは、農業分野以外でも進む。羽田空港では昨年12月、ターミナルと周辺施設を結ぶ無人運転バスを試験的に走行させた。昨夏には、店員を介さずセルフレジで決済できる無人の土産物店がオープンした。 インフラ管理の現場も変化している。神奈川県は昨年末、湖に潜ってダム壁面の劣化を調べる水中ドローンのテストを実施。東日本高速道路は自動で運転・除雪ができる車両を22年度中に完成させる予定だ。 行政では、さいたま市が20年、職員に代わって人工知能(AI)が保育所の入所選考を行うシステムを導入した。担当者は「職員約25人で数十時間かかった作業が数十分で終わるようになった」と説明する。 政府の「デジタル田園都市国家構想」は、過疎地を含む全国にこうした動きを拡大するのが狙いだ。岸田文雄首相は「デジタル技術の活用で地方を活性化し、持続可能な経済社会を実現する」と繰り返し訴えている。 構想を軌道に乗せるには、担い手となるデジタル人材の確保が欠かせない。経済産業省は30年には79万人の人材が不足すると試算。政府は昨年末、26年度までに230万人を確保する目標を掲げ、既存の大学教育や職業訓練などを見直す方針を示した。 労働力が減る中で、デジタル人材を増やすことは可能なのか。省庁幹部からは早くも「実現の労苦は並大抵ではない」との弱音が漏れている。 ![]() |
北海道旭川市で昨年3月、凍死した状態で見つかった中学2年広瀬爽彩さん=当時(14)=がいじめを受けていた問題で、事実関係を調べる第三者委員会が15日、記者会見し、性的な意味での身体接触や性的動画の送信要求など、中学の先輩ら7人が関与した6項目を「いじめ」と認定したと発表した。辻本純成委員長は「(広瀬さんが)苦痛を感じていたのは間違いない」と指摘した。 第三者委はいじめと死亡の因果関係などの調査を続け、8月末をめどに最終報告をまとめる意向も示した。 会見に同席した市教育委員会の黒蕨真一教育長は、「深くおわび申し上げる」と謝罪。今津寛介市長も会見し「人間の尊厳を大きく傷つける内容だ」と陳謝した。 第三者委や市長とは別に遺族側代理人の小林大晋弁護士も会見し「学校はなぜいじめでないと断言できたのか。今でも疑問だ」との母親のコメントを読み上げた。広瀬さんの心情に関する記述がないことなどを不満とする所見書を第三者委に近く提出するとした。 第三者委が認定したのは、広瀬さんが通っていた中学や他校の先輩7人による@性的な意味での身体接触A公園に集まろうという趣旨の会話をした後に実行せず、それを伝えなかったB繰り返し菓子代などを負担させたC性的動画の送信要求D自らわいせつな行為をするよう要求Eからかいや不適切な発言―など。性的画像を周囲に見せたことも「いじめと同様」と判断した。 北海道旭川市で凍死した中学2年広瀬爽彩さんへのいじめを、市教育委員会や学校は長く認めず、謝罪もしてこなかった。ただ学校の関係者は「いじめと呼べる状態だった」と当時を振り返り、適切に対応していれば最悪の結果を防げたかもしれないと後悔の念を口にした。 第三者委などによると、広瀬さんは2019年4月の中学入学直後から、上級生に性的な動画をLINE(ライン)で送らされたり、複数の中学生にわいせつな行為をするよう要求されたりした。同6月には複数の中学生の前でからかわれ「死にたい」と話し、川に入る自殺未遂を起こした。 これを契機に遺族はいじめを訴え、学校も当事者の聞き取りなどから内容を把握。「良くない行いだった」として関与した生徒が広瀬さんの母親に謝罪する場を設けた。 だが市教委は判明した経緯や生徒同士の関係性、被害の確認ができなかったことなどから「いじめの認知に至らなかった」と説明。一方で「いじめに準じた対応をした」とし、落ち度はないとの認識を示した。 文部科学省は公開する資料で、本人がいじめを否定しても「通常であれば心身の苦痛を受けると考えられる行為を受けている場合」は積極的に認知するとしている。 学校の関係者は、警察や医師から本人への直接確認を止められたと説明。最終的に市教委がいじめの認知を判断することになった。第三者委の説明を受け「学校がケアをきちんとしていれば、こういう結果にならなかったかもしれない」と力なく話した。 ![]() |
京都府と京都市の両教育委員会は12日、2023年度教員採用試験の概要を発表した。採用予定人数は府教委が前年度比50人減の370人、市教委が同100人減の245人で、いずれも大量退職がピークを過ぎたため抑えられた。 府教委の採用予定数は、小学校が前年度と同じ120人、中学校は5人増の80人、高校は40人減の110人、特別支援学校は15人減の50人など。 筆記試験の問題は受験生の負担を減らすため、常識や基礎学力を問う一般教養分野をなくし、指導に関する教職教養分野のみとする。また、出願は原則的にインターネットでとする。 市教委の予定数は小学校が前年度比50人減の100人、中学校が30人減の60人、高校が前年度並みの15人、総合支援学校は10人減の50人など。 試験内容や受験要件を緩和して志願者が増えるよう、2次試験で当日としていた模擬授業の指導案作成は事前に変更した。また、総合支援学校の受験資格では、特別支援学校の免許がなくて3年以内に取得をすればよいことにした。 また、総合支援学校で、たん吸引などをしながら自立活動を指導する「医療的ケア担当教員」も若干名採用する。今回で3年目の採用試験で、看護師免許を持つことなどが条件。 出願期間は府教委が21日〜5月20日、市教委が13日〜5月9日。1次の筆記試験は府、市とも6月25日。市の医療的ケア担当の採用は別の日程で行う。前年度の平均倍率は府が4・0倍、市が5・8倍だった。 ![]() |
4人で争われた京都府議補選京都市北区選挙区(欠員1)は10日投開票され、日本維新の会新人の畑本義允氏(38)が1万1161票を獲得し、初当選を決めた。 夏の参院選京都選挙区(改選数2)で対決が予想される自民、立憲民主、維新、共産がそれぞれ候補を擁立。京都での勢力拡大を狙う維新は党本部の幹部を積極的に応援に送り込み、畑本氏とともに行財政改革などを訴えた。 選挙後の府議会(定数60)の会派別勢力は自民29、共産12、府民クラブ11、公明党5、維新3となる見通し。畑本氏の母久仁枝氏(67)も維新府議=西京区選出=で、親子で同時期に府議を務めるのは初めて。 府議補選は、昨年12月に公選法違反(買収約束)の罪に問われた元自民党府議の辞職に伴い、府知事選に合わせて行われた。 ![]() ちなみにフランスでは、マクロンVSルペンの対決となっている。いわゆるポピュリズム政党の躍進は洋の東西を問わず顕著。デモクラシーの危機ともいわれる様相を身近に感じる。 |
政府は8日、新型コロナウイルス禍で深刻化している孤独・孤立問題を巡り、2万人を対象にした初の全国実態調査の結果を公表した。孤独感が「ある」と答えた人は約4割で、高齢者より20代と30代の方が多かった。 コロナ禍で自殺やドメスティックバイオレンス(DV)、経済的困窮が拡大。政府は、背景に孤独・孤立問題があるとして担当相を設置して対策強化に乗り出した。孤独と感じるかどうかは個人差があるとされ、調査結果を分析し、今後の政策に反映する方針。 調査は、全国の16歳以上の2万人を無作為抽出。2021年12月時点の状況を尋ね、1万1867人から有効回答を得た(回答率は59・3%)。 「孤独だと感じることがあるか」との問いに対して「しばしば・常にある」は4・5%、「時々」は14・5%、「たまに」はリ4%だった。きっかけ(複数回答)は、「―人暮らし」「家族との死別」「病気など心身の重大なトラブル」「転校・転職など」の順。 「しばしば・常に孤独を感じる」と答えた人の割合を年代別に見ると、30代(7・9%)が最も高く、20代(7・7%)が続いた。最も低かったのは70代(1・8%)。 雇用形態別では「失業中」(12・5%)、「派遣社員」(8・7%)が高い。世帯年収が低いほど孤独を感じる傾向があった。「しばしば・常に孤独を感じる」とした人のうち、83・7%が行政やNPOからの支援を受けていないと回答。サポートが十分に届いていない状況が浮かんだ。 コロナ禍による人との関わりの変化を聞くと、67・6%が人と直接会ってコミュニケーションを取ることが減ったと回答。同居以外の家族や友人と会って話す頻度を聞いたところ、「月1回未満」が15・2%で最も多かった。「全くない」との回答も11・2%あった。政府は22年度も調査を行い、変化を分析する。 政府が8日公表した孤独・孤立に関する初の実態調査では、20〜30代の若者に孤独感が強いことが分かった。新型コロナウイルス禍で、自殺予防を担うNPOには交流サイト(SNS)を通じた相談が急増。一方、困窮家庭への支援では戸別訪問を通じ、新たな地域の結びつきも生まれている。 「地方から上京したが、大学はオンライン授業ばかりで友人ができない。実家にも帰れず、孤独だ」。SNSで相談を受け付ける「こころのほっとチャット」には、コロナ感染が拡大した2020年春以降、こうした学生からの相談が増えた。運営するNPO法人「東京メンタルヘルスースクエア」によると大半が10〜30代で、心身の不調をネットで検索して自己診断し、さらに不安を募らせる例が目立つ。 失職による生活苦や在宅ワークでのストレス、物理的・精神的な人との距離から孤立感を訴える人も少なくない。相談申し込み件数は19年と比べ、2倍以上に。カウンセラーや公認心理師ら有資格者25人が1日100件に対応するが、申し込みの半数に対応するのが精いっぱいだという。 新行内勝善カウンセリングセンター長は「1回の相談時間は限られているため、行政の窓口など必要な社会資源につなげることが重要だ」と指摘する。 子ども食堂などを運営するNPO法人豊島子どもWAKUWAKUネットワーク(東京)では、コロナ禍で一緒に食事をすることが難しくなり、ひとり親家庭に新米や食事券を配る事業を20年度から開始した。 以前は1ヵ所にスタッフや利用者ら100人以上が集まって活動していたが、小学校区ごとの公共施設に希望する家庭が受け取りに行く方式に変更。ボランティアとして配布を手伝った住民に身近な要支援家庭を見守る意識が生まれたという。 20年秋にはこうした地域の支援者がひとり親家庭を訪問し、月に1回菓子を届ける活動も始まった。「顔が見える関係」ができ、コロナで自宅待機となった家庭に、食べ物を届けてあげるケースもあった。 若者の自立に関する相談や支援も行う栗林知絵子理事長は「早期から関わっていれば深刻な状況にならなかったのに、と思うことがある。子どもたちの成長を地域で見守っていく体制づくりが大切だ」と話している。 ![]() |
大人に代わって日常的に家事や家族の世話をする「ヤングケアラー」に関する厚生労働省の調査で、小学6年生の6.5%(約15人に1人)が「世話をしている家族がいる」と回答したことが7日、分かった。小学生を対象とした同省調査は初めて。小学生ケアラーは遅刻や早退が多いなど、学校生活や健康状態に影響があるとの傾向も明らかになった。 児童が自分の置かれている状況や、家族を世話する大変さを十分に自覚できていないケースが懸念される。厚労省担当者は「積極的に支援を働きかけるなど、きめ細かいサポートが必要だ」としている。中高生については昨年、調査結果を公表しており、中学生5・7%(約「17人に1人」、高校生4・1%(約24人に1人)だった。 小学生ケアラーは、世話をしている家族は「きょうだい」が71・0%と最も多く、そのきょうだいの状況は「幼い」が73・9%で、それ以外では「障害」や「病気」との答えがあった。世話している家族は他に「母」が19・8%で「父」「祖母」「祖父」と続いた。 世話の内容は「見守り」40・4%、「家事(食事の準備や掃除、洗濯)」35・2%、「きょうだいの世話や送り迎え」28・5%など。頻度については「ほぼ毎日」が半数を超え、1日に7時間以上費やすとの回答も7・1%に上った。 世話している家族がいる人は、健康状態が「よくない・あまりよくない」4・6%、学校の遅刻や早退を「たまにする・よくする」22・9%と、世話していない人よりいずれも2倍前後高かった。誰かに相談しか経験があるのは17・3%。自由記述では「自由に使える時間がほしい」「勉強を教えてほしい」などの声があった。 調査は今年1月、全国から抽出した小学校350校に実施し9759人の回答を得た。 日常的に家族の世話や介護をする「ヤングケアラー」は、年齢が低いほど「当たり前のお手伝い」だとして自分の境遇を自覚しづらい。学校現場では「どんな負荷なら手を差し伸べるべきか。線引きが難しい」との迷いもある。声を上げない子どもをどう察知し、支援するか。家族をケアした経験を自身の「強み」に変えられるような後押しも必要だ。 「たまには、ほめてもらえると、がんばろうという気持ちになります」「パニックになったときのきん急連らく先を作って」 厚生労働省が7日に公表した小学生ケアラーの初調査では、自由記述欄に児童が心情や要望を切々と書いた。勉強に時間を振り向けられないもどかしさ。、貧困と親の病気の中での焦燥感。自分の状況を必死に説明しようとの気持ちが伝わる。 児童の様子の変化に気付く機会が多いと思われるのが学校だ。各自治体は、理解促進のため学校への出張講座などをし関係機関が連携できるような体制整備にも取り組む。ただ、SOSをすくい上げる役割を担う現場の教員からは戸惑いの声も聞かれる。 「親から感謝され本人も満たされているケースがある。どこまで介入すべきか」と悩むのは東京都内の小学校の男性教諭(36)。家族の世話や家事が過重な負担かどうか、判断が難しい児童が一定数いるとして「『家族を支えてえらい』という視点だけでは駄目。変化を見逃さないようアンテナを張るしかない」と話す。 名古屋市の松本恵理子さん(41)は、脳性まひで車いす生活の長女(7)の世話にかかりっきりになってしまい、次女(3)のための時間を確保できないのが悩みだ。次女が将来ケアラーになるかもしれない。だが「自由で強要されないケア」であってくれればいいと願う。「たとえ姉のケアを選択してくれたとしても、そのスキルが就職や、活動の幅を広げることにつながってほしい」との思いがある。 ケアラーアクションネットワーク協会代表理事の持田恭子さん(56)は、小学生の頃からダウン症の兄の世話を任されていたヤングケアラーだった。見守りや送り迎えをし、うつ状態になった母を支える役目も。学校で先生から「大丈夫か」と声をかけてもらえることはなく、苦労した。 大人になって英国のヤングケアラー支援の取り組みに触れ、自分もその道を選んだ。協会では、大学生ケアラーが中高生ケアラーに経験を伝え支える研修事業などに取り組む。持田さんは「ケア経験が強みにもなることを多くの人に知ってほしい」と強調した。 ![]() |
神奈川県茅ケ崎市立香川小は、2020年度から通知表をやめた。背景にあるのは、「他人と比べる」価値観から距離を取り、学びの本質に向き合いたいとの思い。評価とは何か、学校とは何かを突き詰め、試行錯誤を繰り返した教員たちは今、新たなやりがいを感じている。公立小では全国的にも珍しい取り組みの2年間を追いかけた。 ◇ 「良い評価が多かったら喜び、そうでなければ悲しむだけ。それでは意味がない」。国分一哉校長の問題提起を受け、18年度から通知表についての議論が始まった。 三堀あづさ教諭は「子どもをランク付けしてしまう」と問題点を訴えた。いろいろな観点から子どもをほめようと心がけ、「やりきったね」「優しく言えたね」「面白いね」と声をかけてきた。ただ、できる子だけが高く評価される通知表のせいで、その声は届きにくくなると感じていた。 2年間の話し合いを経て廃止を決めたものの、当初は戸惑いが大きかった。これまで以上に子どもの変化や成長に気付いてメッセージで伝えたり、提出物をこまめに返して保護者に学習状況を知らせたりしようと心がけたが「時間がかかりすぎて授業づくりができない」と頭を抱える教員もいた。 廃止初年度の昨年1月の保護者アンケートでは、激励の声の一方で、「中学校でも社会に出ても評価はつきまとう」と疑問が上がった。 ◇ 迎えた2年目。子どもに目に見える変化が表れているわけではない。それでも通知表がなくなったことで、子どもに優劣を付けるこれまでの「当たり前」の発想から教員は自由になってきた。 昨年10月の運動会。4年生の担任だった山田剛輔教諭は同僚と話し、学年の団体競技での目標を「本番で練習よりタイムを縮める」に決めた。 5クラスが一斉に走り、順位は付いた。しかし、どの子も順位を気にもせず、タイムを知ろうと息を詰め、発表されると大歓声。全クラスが記録を更新していた。山田教諭は「目指す評価はこれだ」と確信したという。 昨年12月の校内研修会では、5年生の担任が「テストの点数を出すのをやめた」と報告した。通知表に評価を付けるための「根拠」が必要なくなったからだ。議論のまとめ役を務めた山田教諭も点数をやめた。「テストの目的は、理解していないことを把握し、次の学習につなげること。それぞれの問題の配点に何の意味もない」と力を込める。 ◇ 通知表をなくして3年目の春が来た。国分校長には確かな手応えがある。「小学校くらいは『できる』『できない』で比べなくてもいい」。この挑戦が他校にも広がることを願っている。 ![]() |
ロシアの侵攻で被害に遭ったウクライナの様子をデジタル地図上で可視化する取り組みを、東京大などのチームが始めた。チームの渡邊英徳・東大教授は「地図で示すことで全体像が捉えやすくなる。被害の実情をより深く知ってほしい」と訴える。 渡邊教授と古橋大地・青山学院大教授が共同で作製した。人工衛星で撮影された画像などを活用し、地図に重ね合わせて街を再現した。画像を回転したり拡大したりして詳しく確認できる。 首都キーウ(キエフ)の北西にある都市ボロジャンカでは、集合住宅が焼け焦げて大きく崩落し、内部から炎が立ち上っている様子が見て取れる。道路には破壊された車が放置され、生々しい状況を伝えている。 南東部マリウポリは、攻撃を受けた地域にショツピングモールや学校があり、生活に直結した場所で戦闘が起きていることが分かる。多くの犠牲を出した劇場は、爆撃前後の様子が見られる。攻撃回避を訴えるために書かれた「子ども」の文字は、画像からも確認できる状況だった。 渡邊教授らは「膨大な画像を整理して提示することで、各国が発表する情報の検証にもつながる」と指摘する。「Satellite Images Map of Ukraine」というウェブサイトで公開している。 ![]() |
京都府と京都市の両教育委員会は4月1日(退職者は3月31日)付で発令する教職員計4249人の人事異動を31日発表した。異動規模は府が298人増の2540人、京都市が30人増の1709人となった。 府教委は4月から開校する井手やまぷき支援学校(井手町)への重点配置を行ったほか、昼間定時制の清新高(京丹後市)や学舎制を導入した宮津天橋高(宮津市、与謝野町)など開校3年目を迎える3高校の体制整備を図った。 校長の退職者は74人。各校の取り組みを継続するため15人を再任用した。女性管理職は213人と全体の25・5%となり、割合は過去10年で最大となった。 京都市は、4月から全国で小学校高学年の教科担任制が本格導入されるのに伴い、理科や英語などの専科指導担当教員の配置を前年度の98人から122人に拡大した。専門的な指導を進めるほか、担任を持つ教員の負担軽減も図る。 校園長の転任は25人。前年度は新型コロナウイルスの影響で最小限にとどめたが今回は例年並みとした。 |
改正少年法が1日施行された。18、19歳を新たに「特定少年」とし、家裁から検察官に原則として送致(逆送)する対象事件を拡大。これまでなら少年院で手厚い矯正教育・保護を受けていた事例でも、実刑判決を受け、刑務所に収容される少年が増えそうだ。法務省は対応を急ぐが、専門家からは「更生に向けたケアが不十分になるのでは」と危ぶむ声が漏れる。 「他の人を幸せにできると、なぜ自分がうれしくなるのですか」。3月末、関東地方のある少年院。外部の理解者を招いた講演会で1人の少年が問い掛けた。少年院の幹部によると、母親がおらず、父親から暴力を振るわれる過酷な環境で育った。「彼を含めて福祉に近いケアが必要な少年が増えている。以前なら疑問を抱くことさえなかっただろう。生き延びるため自分本位にならざるを得なかった心がほぐれている兆候ではないか」 少年法は1997年の神戸市の連続児童殺傷事件などをきっかけに、刑罰を科す対象年齢の引き下げなど厳罰化方向で改正が重ねられてきた。 一方、国が個々の少年に寄り添い、立ち直りを支える理念は息づき、少年鑑別所で家庭環境などを綿密に調査し、少年院で矯正教育・保護に取り組む仕組みは専門家らから高く評価されてきた。 少年院では成人年齢を引き下げた改正民法の施行に合わせ、18、19歳の入院者を対象とした新しい教育プログラム「大人へのステップ」を導入した。非行の反省だけでなく、契約時の注意点など成人として必要な知識を学ばせる取り組みだ。 法務省によると、少年院入院者数は平成に入った89年以降、6052人だった2000年をピークに減少傾向にある。20年は男子が1487人、女子が137人だった。18、19歳は約55%を占め、このうち改正法で新たに逆送対象となった罪名で入院したのは約20%という。 「今後、家裁が逆送したり、実刑判決を受けたりする人数は未知数」(法務省幹部)だが、刑務所で服役する若い受刑者の増加への対策を練り始めている。 一部の刑務所には今年の秋から、少年院が蓄積してきた矯正教育のノウハウを活用した「若年者ユニット」を設ける。男子は川越少年刑務所(埼玉県川越市)、女子は美祢社会復帰促進センター(山口県美祢市)が対象で、刑務官だけでなく、少年院での勤務経験がある職員を配置し、受刑者を少人数のグループで生活をさせながらきめ細かな指導を行う。 発達障害などを念頭に「特に手厚い指導」が必要な受刑者のため、少年院を少年刑務所に転用する計画も。塀ではなくフェンスにするなど刑務所色を薄めた施設をイメージしている。 それでも少年院と刑務所は、収容者の社会復帰支援を目的としつつ、それぞれ「矯正教育の場」「刑を執行する場」として性質が大きく異なる。 また、逆送された特定少年が不起訴処分になったり、裁判で執行猶予付き有罪判決が確定したりすれば施設に入らず、社会に戻ることになる。 「特定少年を『大人だから』と突き放し、十分なケアをせず未熟なまま社会に戻すことにならないか」と話すのは立命館大法科大学院の山口直也教授(少年法)だ。「真の更生には出直す気持ちを温かく迎える世間の寛容さがより必要になる」 |