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ロシア 大規模地上戦突入か(4/20)

避難民 隣国で自立模索(4/20)

安保提言案 再々協議へ(4/20)

要衝防衛担う「アゾフ連隊」(4/21)

防衛装備輸出 緩和に懸念も(4/21)

【論考2022】領有権主張で多数の命奪われ(4/21)

勝者なき攻防 日本板挟み(4/22)

石炭火電「30年廃止」(4/22)

国境超え、真実見つめる(4/23)

NTP 失墜した信頼(4/23)

南部港湾都市の行方焦点に(4/23)

東部向かう志願兵女性(4/23)

ロシア 目標は黒海沿岸統合(4/24)

モスクワ60代女性の手記(4/24)

米、900億円軍事支援表明(4/26)

「反撃能力」を本格検討(4/28)

ロシア、2国向けガス停止(4/28)

プーチン氏、核使用警告(4/28)

侵攻目標完遂、必要なら使う(4/29)

「鎖国」制度見直し論 浮上(4/30)

モスクワ60代女性の手記・第4信(4/30)

キーウ 活気と緊張交錯(5/1)

新防衛大綱の秘密化案浮上(5/1)

ロシア、オデッサ空港攻撃(5/2)

対ロ圧力 温度差露呈(5/2)

製鉄所 市民100人超退避(5/3)

ロシア 南部実効支配(5/3)

日本は戦争犯罪と無縁か(5/3)

黒板にプロパガンダ書き残す(5/4)

史上初 稼働原発にロ攻撃(5/5)

SNSが主戦場 攻防激化(5/5)

製鉄所 ロシア「3日間停戦」(5/6)

自閉症の子 避難で症状悪化(5/7)

ロシア 芸術・芸能界が反戦(5/7)

安保理、侵攻巡り初声明(5/8)

戦果誇示 狙い不発に(5/10)

「一片の土地も与えぬ」(5/10)

侵攻正当化 対独戦勝に重ね(5/10)

ウクライナ侵攻 市場に変調(5/13)

欧州秩序 地殻変動(5/13)

戦地の孤児「なぜ逃げるの?」(5/14)

1カ月で子100人犠牲(5/14)

沖縄本土復帰50年(5/15)

非同盟200年 国是と決別(5/17)

民間人2万人犠牲(5/18)

ロシア 南部編入へ支配強化(5/20)

ロシア兵、民間人殺害認める(5/20)

ロシア語標識「問題だ」(5/21)

ロシア脅威 防衛意識上昇(5/21)


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ロシア 大規模地上戦突入か(2022/4/20 京都新聞)

 ロシアがウクライナ東部ドンバス地域の制圧に向け本格攻勢に入った。起伏が少なく開けた地形が特徴で、ロシア軍が戦車部隊の機動力を活用して大規模な地上作戦に踏み切る可能性がある。当面の焦点は、最終局面を迎えた要衝マリウポリの製鉄所の地下施設を巡る攻防だ。米政府は対ウクライナ軍事支援を強化。人命の喪失と街の破壊に歯止めがかからない。

 2月末からロシア軍の包囲戦に耐えてきたマリウポリでは、港湾部の製鉄所アソフスターリの地下に、ウクライナ軍と内務省系のアゾフ連隊が立てこもり、投降を拒絶して抗戦を続けている。

 米メディアによると、製鉄所は旧ソ連時代の1930年代に生産を始め、第2次大戦中にナチス・ドイツ軍に一時占領された後、再建された。敷地は約10平方キロに及び、欧州有数の規模だ。

 地下には溶鉱炉などをつなぐトンネルが張り巡らされ、爆撃に耐えられるように設計されている。独自の通信システムも備えた「ミニ要塞」(米専門家)だ。ロシア側幹部は「都市の下に別の都市があるようなものだ。核攻撃もしのぐだろう」と指摘した。

 地下にはウクライナ兵数千人が潜み、子どもら民間人少なくとも千人が避難する。ロシア軍はマリウポリに投入する戦力を他地域に転戦させるため制圧を急ぐ。アゾフ連隊幹部は、ロシアが地下施設を破壊する特殊貫通弾(バンカーバス夕ー)を使ったと主張した。

 ロシアの狙いは、侵攻の明確な「成果」を確保することだ。ドンバスを構成するドネツク、ルガンスク両州では2014年以降、親ロ派勢力が一部を実効支配しウクライナ軍と交戦。プーチン大統領は2月の侵攻開始時、作戦目的を「ドンバスの解放」と位置付けた。

 ロシアは当初首都キーウ(キエフ)周辺に迫り、ゼレンスキー政権を崩壊させ短期で停戦する考えだったとみられるが、根強い抵抗で失敗。戦闘は55日間に及び、ロシア軍の被害も大きい。最低でも両州全域を制圧しないと、国民向けの勝利宣言すらできず、戦果を渇望しているとみられる。

 今後はマリウポリを制圧して北上する部隊に、東部ハリコフ州から南下する部隊、90%以上を支配したルガンスク州から進軍する部隊を加え、ドネツク州北西部に陣取るウクライナ軍主力部隊を撃退し全域掌握を狙う。

 成功すれば、ドンバスからウクライナ南部クリミア半島、さらに南西部の港湾都市オデッサを含めた黒海沿岸一帯制圧の可能性が出てくる。

 「ロシア軍はドンバスで、より攻撃的かつ大規模な地上作戦を遂行するための状況をつくろうとしている」。米国防総省のガービー報道官は18日、ロシア軍の東部での軍備増強に警戒感を示した。  米政権がロシア撃退に有力な兵器として期待するのが、13日発表の追加軍事支援に盛り込まれたりゅう弾砲、自爆型ドローン、軍用ヘリコプターなどだ。発表から数日という「前例のないスピード」(ガービー氏)で現地への提供が始まった。

 懸念するのは、ロシアを過度に刺激し暴発を招くことだ。ロシアは、対ウクライナ軍事支援が「予測不能な結果」を招くと警告。多連装ロケットシステムなど強力な兵器を供与すれば、さらに緊張を高めるとくぎを刺す。米欧は細心の注意を払いながら側面支援を続ける方針だ。(リビウ、ワシントン共同)


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避難民 隣国で自立模索(2022/4/20 京都新聞)

 ロシアの侵攻後、ウクライナから270万人以上が避難した隣国ポーランド。その多くが、戦闘終結後に帰国を望む女性や子どもだ。ポーランド政府は金銭や医療支援を提供しているが、戦闘終結は見通せず、避難民は自立した生活の確保にかじを切りつつある。だが言葉の壁から難航するケースもあり、戦火を逃れた母子らは、新たな試練に向きき合っている。

 「困っている人がいれば助けなければならない」。首都ワルシャワに住むエバ・ジェルンヤフスカさん(80)は、知人の紹介でキーウ(キエフ)から避難してきた母子を無償で受け入れた。ポーランドでは避難民の多くがボランティアや知人の助けで住まいを確保している状況。エネルギー価格高騰の影響で市民の生活も楽ではない。ジェルジャフスカさんは、避難民や支援する家庭への財政的な支援が必要だと訴えた。

 ポーランド政府は3月、避難民が自国民と同じような社会保障を受けられるようにする識別番号(ID)付与を決定。1人当たり300ズロチ(約9千円)の支援一時金と子ども1人につき月500ズロチの補助が得られるほか、一部の医療費が無料に。ただ生活するには不十分で、中長期的な滞在を見据えた職探しが活発化している。

 ポーランド語の壁や、育児中という事情から、掃除やスーパーのレジ打ちなどの職を思い描く人が多いようだ。西部リビウ近郊から避難したナタリヤ・ホリヤクさん(35)もその一人。ウクライナに残る夫からの送金だけでは足りないが、持病のある母親と1歳と6歳の子どもを抱え、働けるのは1日5時間程度だ。

 子どもたちにとっては新たな世界が広がる。ポーランド政府は避難民の受け入れを想定し、学級の定員を一部拡大した。  ワルシャワ南部のある学校では全校生徒約680人のうち避難民の生徒が約1割の65人。授業はポーランド語だが、ウクライナ語での学習サポートが受けられる。

 さらに、カウンセラーが心理面で支える。ヨアンナ・スコピンスカ校長(59)は「子どもたちは、ウクライナで何か起きているか理解している。学校側の負担は小さくないが、みんなでウクライナの人々を支えなければならない」と強調した。(ワルシャワ共同)


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安保提言案 再々協議へ(2022/4/20 京都新聞)

 自民党安全保障調査会は19日の幹部会合で、政府の外交・安保政策の長期指針「国家安全保障戦略」など3文書改定に向けた提言原案を協議したが、まとまらなかった。20日午後に幹部が再々協議する。5年をめどに国内総生産(GDP)比2%以上に防衛費を増額するとの目標に防衛相経験者から異論が出た他、自衛目的で相手領域内のミサイル発射基地などを破壊する「敵基地攻撃能力」の名称変更に関しても合意できなかった。

 自民党は4月下旬に岸田文雄首相へ提言を提出したい考えで、週内の意見集約を目指す。

 出席者によると、この日の幹部会合では、敵基地攻撃能力に代わる呼称について、絞り込みは進んだものの、引き続き調整が必要だとして、小野寺五典調査会長を中心に集約を図ることになった。防衛費の増額を巡っては、年限を区切って数値目標を掲げることに反対する意見が相次いだ。18日の幹部会でも、防衛費の増額目標と敵基地攻撃能力の改称などの見解がまとまらず、再協議していた。

 提言では中国の台頭やロシアのウクライナ侵攻を受け、安全保障上の情勢認識として、中国を「脅威」、ロシアを「現実的な脅威」や「非常に強い懸念」との表現に見直すことも検討し ている。

補正が「抜け道」絞り込み課題

 自民党安全保障調査会は19日の幹部会で示した提言原案には、防衛費は5年をめどに国内総生産(GDP)比2%以上への増額を目指す方針を明記している。防衛費はGDP比1%程度を維持してきたが、近年は膨張が続く。補正予算という「抜け道」(野党関係者)を使って増額する手法が常態化しているほか、昨年度は主要装備品の取得を盛り込む異例な対応を行うなど、関連支出の絞り込みには課題が残る。

 防衛費は、第2次安倍政権でプラス傾向に転じて以降、毎年増額している。2021年度は、補正予算と当初予算の総額は6・1兆円と過去最大で、GDP比は約1・1%で目安となってきた1%以内を超過した。海上保安庁の予算などを含む北大西洋条約機構(NATO)の基準で計算し直すと、GDP比で約1・24%となる。22年度は当初予算で最大の5兆4005億円に上る。

 一方、高額な米国製防衛装備品の購入費は加速度的に増える傾向にある。米国提示額を日本が受け入れる「対外有償軍事援助(FMS)」に基づくが、支払いはローンによる分割払いのため、年度をまたぐ形で防衛費膨張の一因となっている。

 近年は補正予算での数千億円規模の防衛費計上も目立つ。補正予算は、当初予算と比べて国会での審議時間が短く、精査されにくい面も指摘される。国の借金が3月に初めて1千兆円の大台を超えたとみられる日本にとって、財政支出の在り方には厳しいチェックが必要で、政府、与党には対応が求められそうだ。


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要衝防衛担う「アゾフ連隊」(2022/4/21 京都新聞)

 ウクライナ要衝マリウポリの製鉄所に立てこもり、ロシアに徹底抗戦する「アゾフ連隊」が注目されている。8年前の発足時はナチス信奉者を含む戦闘集団とされたが、正規部隊に組み込まれた後は政治色が薄まり、マリウポリ防衛の中核を担う。ウクライナの「非ナチ化」を大義名分に侵攻を始めたロシアは、連隊を「ネオナチ集団」と決め付ける情報戦を展開、日本にも余波が及んだ。

 「マリウポリはまだ陥落していない。最後まで戦う」。ウクライナのシュミハリ首相は17日、米テレビとのインタビューで強調した。製鉄所アゾフスターリの地下に政府軍と共に潜伏するのが、アゾフ連隊だ。

 ロシア軍は投降を要求しているが、ウクライナ側は「命ある限り戦う」と拒絶。数千人とされる連隊はマリウポリを拠点とし、東部ハリコフなどにも駐留するという。

 2月末からロシアの包囲攻撃にさらされたマリウポリの防衛で中心的役割を果たし、ウクライナの抵抗の象徴的存在になった。

 連隊は2014年、両国が領土を巡る争いを始めた際に創設された義勇兵の集団が母体だ。同年に首都キーウ(キエフ)で起きた反政府デモで親ロ政権が倒れた後、マリウポリでは親ロ派武装勢力が市庁舎を一時占拠した。これを駆逐したのがこの集団だった。

 創設メンバーにはキーウのデモに参加した極右団体構成員が含まれ、初期にはナチス信奉者や白人至上主義者が目立ったとされる。同11月に内務省の国家親衛隊の所属となり、正規部隊となった。

 そのルーツに目を付けたのが、プーチン政権だった。プーチン大統領はウクライナの「ネオナチ」がロシア系住民を虐殺しているとして隣国に攻め入った。連隊の存在は、侵攻を正当化する口実に利用されてきた。

 マリウポリで3月、多数の民間人の避難先だった劇場をロシア軍が爆撃した際は、ロシア側は連隊が劇場を攻撃したと根拠なく主張。連隊が親ロ派を殺害したとする真偽不明の動画も出回った。

 だが、その主張は実態と食い違う。米欧の専門家の間では極右思想は薄まり正規軍との統合が進んだとの見方が一般的だ。ストックホルム東欧研究センターのウムランド氏は「多くのウクライナ人は、アゾフ連隊をロシアに勝つための戦士と受け止めている」と指摘。マリウポリから西部リビウに避難した女性(26)も「彼らはナチス信奉者ではない。愛国的な普通の人たちだ」と証言した。

 日本も情報戦に巻き込まれた。公安調査庁は「国際テロリズム要覧」21年版で「『ウクライナの愛国者』を自称するネオナチ組織が『アゾフ大隊』なる部隊を結成した」と記述。アゾフ大隊はアゾフ連隊の初期の名称だ。在日ロシア大使館は「公安調査庁もネオナチと認めた」とツイッターに投稿した。情報は拡散し、公安調査庁は8日、要覧は各種報道や研究報告書の公開情報を取りまとめたもので、同庁がネオナチ組織と認めたものではないと説明。ホームページ上の要覧で記述を削除した。

 ロシア外務省のザハロフ情報局長は12日、(日本は国家として反ロシアの列に加わった。ワシントン(米国)が描いた道を進んでいる」と非難した。(リビウ共同)


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防衛装備輸出 緩和に懸念も(2022/4/21 京都新聞)

 自民党安全保障調査会が提言案で、輸出ルールを定めた「防衛装備移転三原則」見直しを求めた背景には、欧米の軍需産業との競争に苦戦し、輸出(移転)が遅々として進まない現状への不満がある。政府はロシアの侵攻を受けるウクライナ支援のため、三原則の運用指針を改めて防弾チョッキなどの提供を決定。三原則の大幅緩和に踏み切れば、提供する装備の範囲や相手国がなし崩し的に広がる恐れもある。

 安倍政権は2014年4月に「武器輸出三原則」に基づく事実上の武器全面禁輸を見直し、防衛装備移転三原則を定めた。国内防衛産業の育成や、外交ツールとしての活用が狙いだ。防衛省幹部は「海外輸出が広がり装備品の生産個数が増えれば、単価が下がって自衛隊の調達費用も安価になる」と利点を解説する。

 だが日本製の完成品輸出は20年8月に日本企業がフィリピン政府と契約を結んだ自衛隊の防空レーダー1件だけだ。部品輸出も数件にとどまる。輸出実績が豊富な欧米企業との格差は大きい。

 防衛装備移転三原則は@国連安全保障理絵が制裁決議などの措置を取っている紛争当事国や安保理決議違反の場合は輸出を認めないA相手国が第三国に移転する場合や目的外使用に原則として日本の事前同意を義務付ける―などと規定する。

 政府は19日、防弾チョッキなどに加え監視用ドローンもウクライナ提供を決めた。ドローンは市販品のため移転三原則の対象外とするが、ロシア軍の動向把握に使われれば軍事支援につながりかねないとの指摘もある。


【論考2022】領有権主張で多数の命奪われ(2022/4/21 京都新聞)

人類学者 磯野 真穂

 国境は線ではない。それを感じたかったら海岸「線」に行ってみればいい。海岸線にあるのは、砂粒や石ころ、たくさんの生物や植物、そこで生業を営む人々、砂浜で遊ぶ子どもたち。線に見えるそこには、場所があり、動植物、人間の暮らしが営まれている。

 戦争は、国と国との線を巡る争いだ。しかし海岸線と同様に、国境にも暮らしがある。ところが戦争を始める為政者は、暮らしよりも線を重んじ、線のために多数の命が奪われることはやむなしとする。何千人、何万人の命に匹敵するほど、線の引き方とは大切なものなのか。

想像に過ぎぬ「国家」

 政治学者のベネディクト・アンダーソンは著書「増補 想像の共同体」の序論で次の一節を残している。

 「国民は一つの共同体として想像される。なぜなら、国民のなかにたとえ現実には不平等と搾取があるにせよ、国民は、常に、水平的な深い同志愛として心に思い描かれるからである。そして結局のところ、この同胞愛の故に、過去二世紀にわたり、数千、数百万の人々が、かくも限られた想像力の産物のために、殺し合い、あるいはむしろみずからすすんで死んでいったのである」(白石さや・白石隆訳、NTT出版)

 「国家」とは、地面や空気のようなあまりに当たり前の存在で、それなしの生活などありえないように思える。しかしアンダーソンは、私たちのそのような当たり前を破壊する。国家とは、触ったり、吸い込んだりして、その存在を確かに感じられるような地面や空気と異なり、人間の想像力の中にしか存在しないというのである。これは一体どういうことか?

 国家は、為政者の想像上のイメージを、現実世界に落とし込むことでつくられる。その過程で国民が育てられ、国民の中に「愛国心」が植え付けられる。その意味で国家は「想像の共同体なのだ。

 集団で暮らさないと生てゆけない人類にとって、国家は新しい集団の在り方であることを覚えておこう。例えば狩猟採集をしながら移住をし続ける人々が作る集団を、文化人類学は「バンド」と呼ぶ。バンドより少し大きく、定住を始めた人々が作る集団が「部族」である。

 バンドや部族に、成文化された法律や、警察、銀や議会、圧倒的な権力を持つ大統領や首相は存在しない。しかしそれでもなお人々は、神話や呪術など、何の根拠もないと鼻で笑い飛ばされそうな考えやふるまいの中に、共に生きるためのルールと道徳を忍ばせ、共存を可能にしてきた。国家による秩序維持もその延長線上にある。

 しかしバンドであれ、部族であれ、国家であれ、集団間の争いが起こり、そこで命が奪われるときがある。それは一体どんなときなのか?

 争いは常に曖昧な領域で起こる。頭の中で「集団A」「集団B」といった区別をし、「テリトリーはここまで」といった線を人々が引いていたとしても、AとBのテリトリーが近接する場所には、どちらに属するかはっきりしない場所が常に残る。海岸線に降り立てば、どこからが海で、どこからが地表かはっきりしないように。

 その場所が曖昧なまま残されているうちはいい。問題は、その曖昧な場所を巡って所属の異なる人々が領有権を主張し出すときだ。ロシアによるウクライナ侵攻も、国境に近い曖昧な場所の扱いが火種の一つとなっている。

歴史にも答えなし

 国境は人為的に引かれたものなので、曖昧な場所の奪い合いは泥沼化する。その場所の領有権については、歴史が参照され、双方が自らの正当性を主張するが、歴史はいかようにも解釈可能であるため、すっきりとした合意には至らない。加えて、ある時代にAに所属していた地域が、さかのぼればBに所属していたということも起こりうる。

 外交の使命の一つが戦争を避けることにあるのなら、外交で問われるのは、それぞれの国家が国境付近に抱える曖昧な場所の所属を明確にすることではなく、そこを曖昧なままにしておく手腕なのではないか。分類という知性が殺りくの引き金になるか、共存 の術になるかは、曖昧な場所の扱いにかかっている。


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勝者なき攻防 日本板挟み(2022/4/22 京都新聞)

 ロシアによるウクライナへの軍事侵攻後、20力国・地域(G20)初の閣僚級会合となった財務相・中央銀行総裁会議では、開催前から水面下で米欧とロシアの激しい攻防が繰り広げられた。ロシア排除へ拳を振り上げた米欧の一斉退席は一握りの行勣にとどまり影響力の衰えを露呈。制裁で弱るロシア、板挟み状態の日本と「勝者なき」対立に禍根が残った。

 「ロシアはオンライン参加にとどまり、ウクライナは会場で演説した。明らかにロシアの敗北だ」。日本政府関係者は20日に米首都ワシントンで開かれた会議後、西側諸国の勝利だったと口をそろえて力説した。

 G20加盟国ではなく、特別に招待されて演説したウクライナのマルチェンコ財務相がこの会議の主役の一人だったことは間違いない。マルチェンコ氏は世界各国の代表者を前に「ロシアは世界経済の弊害」などと熱弁。先進7力国(G7)からは約240億ドル(約3兆円)の支援という成果も勝ち取った。

 ただウクライナの奮闘以上に、衆目を集めたのは米欧が保ってきた権勢の退潮だ。イエレン米財務長官は今月6日に、ロシアが参加すれば自身は欠席するとの意向を表明して「ロシアの完全排除」(G7筋)へと勝敗ラインを引き上げたばかり。日米欧内では「閣僚級を欠席に追い込み、格下の官僚だけの参加であれば面目が保てる」との声もあった。

 だが、ふたを開けてみればロシアのシルアノフ財務相は侵攻前の2月の会合と同様にオンラインで現れ「G20は経済的な協議の場だ」と批判。米英やカナダの一斉退席に日本やイタリアなどは加わらず、G7内ですら対応は割れた。

 新興国には選挙の自由に制限を設けている権威主義的な体制も多く「欧米の価値観で介入してほしくない」との反発は根強い。ロシアと共に新興5力国(BRICS)の枠組みを築く中国やインドは存在感を増す。

 こうした「地殻変動」は、G20議長国インドネシアがまとめた総括文書ににじみ出た。戦争による悪影響への懸念こそ明記されたもの、ロシアを加害者と名指しする記述はゼロ。世界経済のリスク要因も「戦争とそれに関連する行動」と表現し、ロシアによる侵略と西側諸国の制裁による損失を暗に両論併記した。

 ただロシアも国際金融網からの緋除や資金東浩で経済的な打撃は深刻だ。国際通貨基金(IMF)は今年のロシアの実質成長率をマイナス8・5%と予測。ロシア国債は事実上国際金融市場からはじき出され、チキンゲームの出口は見えない。 

 各国の間で悩みを深めるのは「退席せず、ロシアを厳しく批判」(鈴木俊一財務相)した日本。国際協調を掲げた独自の外交路線を選択するも、米欧や新興国の双方から歓迎の声は上がらなかった。国内では与野党のみならず、首相官邸からも「なぜ退席しなかったのか」と異論が噴出する。

 世界経済の中で「ロシア権益を失っても平気な米国と、資源のない日本を同列に並べるのは不可能」(国内大手商社)。11月のG20首脳会議に向けて難しい立ち位置は変わらず、政府関係者は「ロシアを悔い改めさせるといっても遠い将来の話」と早くも弱音を吐露する。(ワシントン共同)


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石炭火電「30年廃止」(2022/4/22 京都新聞)

 5月下旬の先進7力国(G7)気候・環境相会合に向けて議長国ドイツが示した共同声明の原案に「各国内の石炭火力発電を2030年までに段階的に廃止する」と盛り込まれていることが21日、分かった。日本政府関係者が明らかにした。二酸化炭素(CO2)排出削減のため賛同する国が多い中、石炭火力への依存度が高い日本は削除を要求しており、孤立しかねない状況だ。

 ロシアのウクライナ侵攻で、各国は天然ガスなどのロシア依存脱却を進めている。代替調達に苦慮し、CO2排出量の多い石炭火力に回帰する懸念もある中、G7として脱炭素化を後退させない姿勢を示す狙いがある。

 原案は温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」に基づき産業革命前からの気温上昇を1・5度以内に抑える目標に触れ、石炭火力の廃止を進めるとしている。

 このほか、ガス火力発電などの化石燃料事業全般についても、CO2の排出減対策がされていない場合は、発展途上国などへの公的支援を22年末までに終えるよう提案。日本は、アジアへの関連インフラ展開を進めていることもあり、この点にも反対している。

 原案について各国が事前協議をしており、日本の削除要求には欧州連合(EU)、カナダ、フランスなどが反対し、争点になっているという。

 背景には、日本の電源構成がある。石炭火力の割合は20年度時点で31%。政府は段階的に減らすとしているものの、30年度も19%程度を維持する計画を21年秋に決めた。廃止への道筋は示していない。

 一方、G7のうち英国やドイツ、フランス、イタリア、カナダは国内石炭火力を全廃すると既に決定。米国は35年までの「電力部門の脱炭素化」を掲げる。日本政府関係者は「石炭火力廃止が声明に盛り込まれるかどうかは米国が鍵を握る」と語る。

【インサイド】先進国、脱ロシア模索 日本は軸足定まらず

 国際社会が近年の重要課題に位置付ける脱炭素化は、化石燃料の削減と再生可能エネルギーの導入を柱に進んできた。石炭や天然ガスなど資源大国ロシアのウクライナ侵攻もあり、先進各国は対策の加速を模索する。一方で日本は軸足が定まつていないのが現状だ。

 欧州連合(EU)の中でもロシア産資源への依存度が高いドイツでは昨年12月、環境政策を重視するショルツ政権が誕生。前政権が2038年としていた石炭火力発電の廃止時期を30年に前倒しした。ウクライナ侵攻後の今年4月には新戦略を発表、35年には電力のほぼ全てを再生エネで賄う目標を掲げた。

 議長国を務める先進7力国(G7)気候・環境相会合の共同声明原案でも「各国内の石炭火力を30年までに段階的廃止」と提案。政権の姿勢への協調を求めた格好だ。

 イタリアもロシア産資源に頼るが、洋上風力発電の早期稼働を進める方針を表明。英国は4月、最大8基の原発を新設すると発表した。

 岸田文雄首相は8日の記者会見で、再生エネのほか「原子力エネルギーを最大限活用する」と述べたが、現時点で具体的な道筋は見えていない。

 化石燃料が電源構成の7割以上を占めている上、東京電力福島第1原発事故の経験から原子力にかじを大きく切るのも容易ではないからだ。

 日本政府関係者は「石炭火力廃止の提案を受け入れるのは難しく、現実的な路線を主張するしかない」と語った。


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国境超え、真実見つめる(2022/4/23 京都新聞)

ロシア文学者高柳聡子さん寄稿

 ウクライナへの軍事侵攻が始まってからロシアでは歴史上類を見ない数のフェミニストたちが、戦争を止めようとさまざまな努力を続けている。反戦運動で警察に拘束された女性は5千人を超えるといわれている。

 ここ数年のロシアのフェミニズム運動は、家庭内暴力との闘いが軸となっていたのだが、ロシア軍が攻撃を開始した翌日の2月25日には、フェミニスト反戦レジスタンス(FAR)の結成が告げられ、マニフェストが掲げられた。FARは、モスクワの活動家の呼びかけで、ロシア全土のフェミニストたちが反戦運動に結集しようというもので、交流サイト(SNS)には3月末時点で2万6千人を超えるフォロワーがいる。

 ロシアで反戦運動を継続することは高いリスクを伴う。そうした中、フェミニストたちの目的は、ウクライナで起きていることが戦争なのだと国内の人に知らせること、反戦のメッセージを社会から消さないことにある。さらに、ウクライナの女性たちとも連帯し、彼女たちの声をロシア国内に届けている。

 3月6日には反政府デモと合流して大規模な反戦アクションを行い、同8日には国際女性デーを戦没者追悼の日に変更することを提案、各地の戦争記念碑に花を供えるアクションを企画した。その後は、毎週金曜日に服喪を表す黒い服を着て街頭に立つ「Women in Black」を呼びかけ、これには世界中から連帯を示す写真や投稿がSNS上に寄せられている。

 こうしたアクションは、モスクワ在住のフェミニスト詩人ダリア・セレンコが提唱してきた「静かなピケ」という方法だ。これは、大がかりなデモではなく、各人が都合のよい時間と場所で日常的に可能なことを行う活動で、かばんにメッセージを縫い付ける、パフォーマンスを行うなど個人のアイデア次第だ。セレンコの手法は今回の軍事侵攻を機に一気にロシア全土へと広がっていった。

 ソ連時代の1970年代にもレニングラードでフェミニストらの地下運動が起こっており、79年にソ連軍がアフガニスタンへ侵攻した際にもそれに反対し、戦争はアフガニスタンの女性の人生を悪化させるだけだと訴えているし、90年代のチェチェン紛争時にも「Women ln Black」運動が行われたという。

 ロシア史では実は戦争とフェミニズム運動の関係は看過できないのである。戦争のようなカタストロフの時には、フェミニズムどころではないと思われがちだが、あらゆる暴力の可能性が発露される戦争こそ、FARのマニフェストに明言されているように「フェミニズム思想と真っ向から対立するものだ」。  ウクライナのハリコフ在住で旧ソ連圈のジェンダー研究の第一人者であるイリーナ・ジェレプキナも戦地からのメッセージの中で、現在ロシアで反戦運動をしている人たちに言及し、「私たちはこれまでにないほど一つでいる必要がある」と語っている。フェミニストたちは国境をたやすく超えて、揺らぐことなく真実を見つめている。


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NTP 失墜した信頼(2022/4/23 京都新聞)

前統合幕僚長 河野 克俊

 ロシアのウクライナ侵攻が露呈したものは二つある。一つは米国の核抑止力が効かなかったことで、もう一つが冷戦後の核軍縮・不拡散政策の基盤となってきた核拡散防止条約(NPT)への信頼の失墜だ。

 バイデン米大統領は昨年12月、ウクライナは北大西洋条約機構(NATO)に加盟していないため「(米国には条約に基づく防衛)義務が及ばない」と米軍の軍事オプションを否定した。これまでの米大統領が同様の危機で「あらゆる選択肢がテーブルの上にある」と抑止力を示してきた姿勢とは異なる。

 どんなに兵力や兵器をそろえても、戦う意思を示さない限り、抑止力にならない。今回の侵攻は、この防衛における本質を浮き彫りにした。ロシア軍への攻撃を否定しない「あいまい戦略」で臨まなかったバイデン外交は明らかに失敗だった。

 抑止力の肝は核で、冷戦時代は相互確証破壊という「恐怖の均衡」が核戦争を起こさない抑止力として働いた。そして、米英仏中ロの5力国を「核兵器国」として保有を認め、それ以上の拡散を防ぐ取り決めとしてNPT体制が確立された。この5カ国が責任を持って核を管理する大前提で成り立っていた。ところが、その一国であるロシアが核使用をちらつかせて侵攻したのだから、NPT体制が事実上崩れたことは間違いない。

 こうした現実を踏まえ、日本防衛も再考する必要がある。最も懸念されるのは、中国が「核心的利益」と位置付ける台湾統一のために、武力行使に踏み切る危険性だ。もしも中国が台湾を侵攻する事態になれば、現在は台湾有事の対応にあいまい戦略を取っている米軍は台湾の防衛に動くことになろう。台湾有事は日本の防衛に直結ずる。

 日本の平和と安全にかかわる重要影響事態から、日本が集団的自衛権を行使する存立危機事態、そして日本有事の武力攻撃事態へ発展する恐れがある。この危機を避けるためにはどうすべきか。

 中国の台湾侵攻を思いとどまらせるために、日米の防衛協力を強化すると同時に、米軍が東アジアから背を向けないよう抑止力として、つなぎとめなければならない。安倍晋三元首相らは、NATO諸国が米国の核兵器を自国に配備し共同運用している「核共有」政策の議論を呼び掛けた。

 ここで私は「いきなり米国の核を日本に置け」と言いたいのではない。私も米国の核抑止力を担保するために、日本の関与の仕組みが欠かせないと思う。議論の結果として「非核三原則」を守るという結論もあり得よう。いずれにせよ、政治の責任として核の問題を議論すべきだと考える。

 ロシアのウクライナ侵攻により「米国が守ってくれるはずだ」との期待だけでは国家と国民を守り切れない現実も分かった。この「はずだ」という順望が危ない。外交努力は当然重要だが、国家の防衛は冷徹な現実に基づかなければならない。

 日本は今年末に国家安全保障戦略や防衛計画の大綱の改定を控えている。日本は専守防衛で、相手から武力攻撃を受けたときに初めて防衛力を行使し、その態様も自衛のための必要最小限度にとどめると言ってきた。これは現実との隔たりが大きい。ウクライナ軍は全力でロシア軍にあらがっている。せめて、この文言のうち「最小限度」を「適切」に変更しないと、国内外に誤解と不信を広げかねないので、再考していただきたい。


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南部港湾都市の行方焦点に(2022/4/23 京都新聞)

ロシアNIS経済研究所所長 服部倫卓氏

 ロシアのウクライナ侵攻は想定外に苦戦し、プーチン政権は当初計画していたスケジュールや手段を変えたが、東部ドンバス地方と南部一帯を支配下に入れるという最低限の目標は変えていない。将来の停戦ラインを境に、ロシアの支配下に入る「南東ウクライナ」と、独立は維持するが弱体化した「北西ウクライナ」に国が分断される恐れもある。

 今後の焦点は、ウクライナ経済の生命線とも言える南部の二つの港湾都市、ミコライウとオデッサ。ここを制圧され、黒海への出口を失うと、ウクライナの一番の強みである穀物や植物油の輸出が大きく制約される。

 鉄鋼業も基幹産業だが、マリウポリの製鉄所が破壊され、鉄鋼生産の40%が失われた。停戦しても穀物や鉄鋼の輸出が再興できなければ、近年進むウクライナの出稼ぎ立国化が一層顕著になる。

 日米欧は人類史上最も網羅的で大規模な経済制裁をロシアに科した。それは評価できるが、制裁によつてある国の行動を変えさせたことはあまりない。むしろ、日米欧の(侵攻への強い反対という)意思を表明し、団結を示した点が重要だ。

 ロシア経済の懐は深く、2ヵ月程度の制裁では音を上げないが、マクドナルドやユニクロなど各国企業が事業を停止し、撤退するのは目に見える変化。ロシア国民にも明確なメッセージとして伝わっている。

 ロシアの行動次第では(同国の主要輸出品の)石油や天然ガスを含む制裁が視野に入るが、制裁を深めていくと(輸入国の日欧は)ロシアと“刺し違える”領域に近づく。それよりは先進国と身近な経済パートナーの東南アジア諸国連合(ASEAN)などを巻き込み、制裁参国を増やす方が効果が大きいだろう。

 戦闘が終わったとしても、日米欧とロシアは冷時代よりひどい対立関係が続く恐れが強い。ロシアがウクライナに謝罪して戦各犯罪人を差し出すようなことがあれば制裁が解除されるかもしれないが、それはなるまい。ノーマルな経済関係や文化交流はまず不可能。しかし、それでも球環境問題など、共同で取り組まねばならないテーマを明確化し、それだけは例外扱いにして協力していかなければ大変なことになる。


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東部向かう志願兵女性(2022/4/23 京都新聞)

 ロシアが軍事侵攻したウクライナで、多数の市民が軍や領土防衛隊に志願し前線に立っている。残虐行為を働く「侵略者」から国を守るとの意志は強く士気は高い。ロシアが制圧したと主張する南東部マリウポリでは内務省系の軍事組織「アゾフ連隊」が製鉄所に立てこもり抵抗。連隊に以前所属し、今は別の部隊にいる女性が、激戦が予想される東部ドンバス地域に向かう前に決死の覚悟を語った。

 「ウクライナの自由のために死ぬ覚悟ができている」。2月のロシア侵攻直後に軍に志願し、戦闘に参加している西部リビウ出身の女性イリトナ・コワレンコさん(30)が22日までにオンライン取材に応じた。医療要員でもある。訓練拠点と前線を行き来する日々で北部キーウ(キエフ)州の拠点にいるが、数日内にもドンバスに派兵されると明かした。

 同様に多くの市民が志願して参戦し命を落としている。特に東部はロシア軍による大規模攻勢が見込まれ、犠牲者拡大が懸念されている。

 コワレンコさんは3月に首都キーウ近郊の村からロシア軍を撃退する作戦に参加した際、性的虐待を受けた子ども8人の損傷した遺体を目の当たりに。生き残った女性(26)から、ロシア兵にじゅうりんされた被害の様子を聞かされた。

 「大嫌い」。コワレンコさんはフェイスブックにロシアへの怒りを投稿した。「彼らは私たちの土地、言葉、人々を壊そうとしている。これはジェノサイド(大量虐殺)だ」

 コワレンコさんは2014年のウクライナ東部紛争時、兵士に支援物資を届けるボランティアをしたことを機にアゾフ連隊に参加、16年まで所属していた。当時の仲間がマリウポリの製鉄所に残っており、絶望的な状況に置かれている。

 「2週間前にやりとりしていたのに今はもう連絡が取れない」。仲間を思って涙を流し、顔を覆った。「彼らは国を愛し、守る戦士たちだ」

 連隊は14年創設で、同年のマリウポリでの戦いで親ロ派部隊を駆逐した。初期はナチス信奉者や白人至上主義者が目立ったともいわれ、ロシアがウクライナ政権を「ネオチチ」と目の敵にする根拠の一つとなっている。

 コワレンコさんの事実婚の夫も前線で戦う。3歳の一人娘は親戚に預けた。「私かいなくなったら娘は別の女性をママと呼ぶでしょう」。海外で養子として育ててもらいたいと周囲に伝えている。(リビウ共同)


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ロシア 目標は黒海沿岸統合(2022/4/24 京都新聞)

 ウクライナ侵攻開始から2ヵ月、ロシアの当面の目標が見えてきた。親口派が実効支配を広げる東部ドンバス地域と、2014年に強制編入した南部クリミア半島周辺の黒海沿岸一帯の支配だ。クリミアと同様、軍が制圧後に住民投票を経てロシアに統合する考えとみられる。米欧が支援するウクライナの抵抗は必至で、戦闘は「数年続く」(米軍高官)との観測も出ている。

 「解放の完了は成果だ。参加した者はみなドンバスとロシアを守った英雄だ。永久に顕彰する方法を考えてほしい」

 21日、モスクワのクレムリン(大統領府)でショイグ国防相からドンバスの要衝マリウポリ「制圧」の報告を受けたプーチン大統領は厳粛な表情で述べた。製鉄所の地下施設に残るウクライナ部隊の掃討作戦中止と一帯の封鎖を命令。ルガンスク、ドネツク両州から成るドンバスの制圧を急ぐ姿勢を示した。

 「ネオナチの政権からドンバスの住民を守る」と開戦理由を説明してきたプーチン氏。戦闘組織「アゾフ連隊」の拠点マリウポリの「制圧」は、国民に誇示できる初の成果だった。

 セレンスキー政権を崩壊させ短期で停戦に持ち込む当初のもくろみが崩れか今、親ロ派武装勢力が一部を実効支配してきたドンバス2州の確保がロシアの公の目標になっている。

 だが元々、侵攻の真の理由はウクライナの北大西洋条約機碍(NATO)加盟を阻止し、ロシアの安全保障を強固にすることだった。ドンバス制圧は最低限の達成でしかない。

 「ドンバスからクリミア、モルドバ東部に陸路でつながるウクライナ南部の完全支配」。22日に中央軍管区副司令官が軍関係者に語った発言に、クレムリンの本音が透ける。公の目標のドンバスをはるかに超え、西方のモルドバの一部まで勢力を広げる構想だ。クリミアと接するヘルソン州とドンバスの隣ザポロジエ州では、親ロ派勢力が早くも住民投票を画策している。

 ソ連時代から重工業が栄え、主要港湾が位置するウクライナ東部と南部は同国経済の中心地域。ロシア語話者も多い。モルドバ東部でロシア系住民が実効支配する自称「ドニエストル共和国」まで統合すれば、ロシアはNATO側と対峙する西側の守りを大きく強化することになる。

 しかし、ドネツク州北西には欧米の軍事支援で増強されたウクライナ軍主力部隊が残り、「ロシア軍に圧倒的な兵力の優位はない」(軍事専門家)。計画の最初の一歩となるドンバス制圧ですら、大きな困難が伴う。

 さらに南部各州では、ドンバスの親ロ派のような「ロシア化」の中核がない。ウクライナのメディアによると、クレムリンが頼りにしていた同国内の親口派政治家らは予想外の全面侵攻に衝撃を受け、国民の反発もあってロシア編入に向け公然とは動けない。親ロ派野党党首メドベチュク氏は、ウクライナ治安機関に拘束された。

 ウクライナ南部まで版図に組み入れるのか、ドンバス編入で終わるのか。国際政治学者ルキヤノフ氏はロシア国防省機関紙「赤い星」で「状況を決めるのは政治でも外交でもない。全てはロシア軍の手にかかっている」と述べ、戦闘でどこまで支配地を確保できるかが将来のロシアの姿を決めると指摘した。(共同)


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モスクワ60代女性の手記(2022/4/24 京都新聞)

 ウクライナに侵攻したロシアが、核や生物・化学兵器など大量破壊兵器を使うのではないかとの懸念が日米欧で広がる。一方ロシアでは、そうした兵器を使うのはウクライナ側らしい。モスクワで働く60代の女性が、メディアの報道やうわさ話について手記にまとめ、寄せた。

カモは恐ろしい兵器

 今日は少し笑えるけれど、かえって余計に恐ろしくなる話をします。

 生物兵器の話題は、公式のプロパガンダでいよいよ大々的になってきました。(鳥がウイルスなどを運ぶ生物兵器となりロシア人客襲うという)この奇想天外なストーリーのことは以前も少し書きましたが、最近は全てのテレビチャンネルでこの話題が出ています。

 まさに今、テレビ番組司会者のキセリョフが涙ながらに、ロシアの遺伝子を持つ集団こそが、西側とウクライナが攻撃する標的なのだと息巻いておりました。

 テレビ画面に空飛ぶカモの群れが映し出され、ナレーターが、カモはミサイルよりも飛ぶのは遅いが、防空システムも作動しない。そのためカモは恐ろしい武器であると言っています。

 そこから画面は変わって、地図が映し出され、カモの移動コースが表示されています。正直言って、私はかわいそうなカモの運命を思って恐ろしくなりました。農村ではロシアの農民たちが猟銃を手に、それウイルスのカモだ!と全部撃ち殺すことでしょう。

 テレビを消してフェイスブック(もちろんVPN=仮想専用線=経由です)を開けてみたら、私の親しい(ああなんてことか、とっても親しい)友だちの投稿が目に飛び込んできました。

 その人は知識人で、西欧式教養の持ち主です。人殺しではないし、極悪人でもありません。ところがその人も、フェイスブックで生物学研究所のことを書いています。

 どうやら死をもたらすウイルスというのは、本当はウクライナやアメリカのそうした研究所にあるのではなく、ロシアのテレビにまん延しているのです。ウイルスは人々の頭の中にもう入り込んでいて、最近新型コロナウイルスがはやったように、急激に感染が拡大しつつあります。

 ただ、医療用マスクもそれを防げません。そのためのワクチンもまだ開発されていません。もし誰か、ロシアのプロパガンダとでっちあげに対抗するワクチンを発明した人がいたら、私はその場でノーベル賞を五つもあげたいくらいです。

 対策は何だろう? コロナウイルスのように、ソーシャルディスタンスかしら? 誰とも会わず、交際せず、閉じこもって、毛布の下に潜り込んで明かりを消しましょうか? でも、まだ続きを書きたいから、姿を隠すことは、今はやめておきましょうね。

核戦争なら極東へ

 生物兵器を巡るうわさが飛び交っています。プーチン(ロシア大統領)が生物兵器を使おうとしていて、後でそれをウクライナのせいにするつもりだと言うのです。

 ウイルス感染のカモの話と同様のでたらめに見えるけれど、私には本当かもしれないと思えます。様子を見ましょう。

 もっと悪いのは、核の脅威についての話題が同じように目立って広まっていることです。ウクライナがどれほど迅速に核爆弾を製造できるかを巡って、数時間に及ぶ番組が放送されています。

 さらに怖いのは、ウクライナに4ヵ所ある原子力発電所の原子炉爆発の可能性が、話題に上っていることです。2ヵ所は既にロシア軍が掌握しています。チェルノブイリ原発の事故は今も世界中で記憶されていますが、ロシア軍が侵攻直後に占拠しました。(注)ザポロジエ原発が掌握された時、私たちはみな怖くて、その場で死にそうになりました。

 今、残りの2ヵ所に向けてロシア軍は進撃しています。原発がなぜ必要なのでしょうか? ウクライナを抹殺すると同時に、原発の惨事はウクライナが自分でやったごとだと非難するために、プーチンが何かたくらんごいる可能性も否定できないと思います。

 私たちは誰でも、核の破局は空想なんかでなく、いつでも起こり得る現実であることを分っています。でも実を言うと、私はあまり怖く思っていません。それがどのようにして起こるのか、想像もつかないからなのです。私に言わせれば核の破局とは、この世の終わりです。それでピリオド、暗転。

 親レい友だちは、遠くへ行かなきゃ、極東へ、バイカルへ、イルクーツクヘ、じやなければシベリアの森の中に隠れなきや、と始終言っているけれど。みんな西へ逃げて行くのに、何であなたは東へ逃げたいの?

 その人は、だって東の方が核戦争のときに安全じゃないの、と言います。

 核戦争の脅威に対し、私よりそういう人たちの反応の方がまともなのだろうと思います。私は逃げない。全世界の頭がおかしくなるのを見届けて、自分の運命を静かに待ち受けようと思っています。

 最後に、笑ってしまう二ユースを少しばかり。あくまでうわさで、未確認情報です。プーチンが、ウクライナにおける諜報ネットワーク組織化の任にあった将軍たちの一団を逮捕したらしいのです。巨額の金を横領した上に、キーウ(キエフ)やハリコフなどに親ロシア感情が存在しているかのような情報を握造していたというのです。

 それだけ金を盗むことは簡単で、気がそそられるということなのでしょう。いかにもロシア的です。いつかこの不祥事が映画になったら、きっとブラックコメディーでしょうね。(注)ウクライナ側は3月31日、ロシア軍がチェルノブイリ原発から撤退したと発表しています。


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米、900億円軍事支援表明(2022/4/26 京都新聞)

【リビウ(ウクライナ西部)、ワシントン共同】米国のブリンケン国務長官とオーススティン国防長官は24日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)を訪問し、ゼレンスキー大統領と会談した。米閣僚の訪問はロシアの侵攻後初めて。米国務省によると、ウクライナと中東欧諸国への計7億1300万ドル(約912億円)規模の軍事支援を表明した。ウクライナへの支援拡大で連帯を示し、ロシアに圧力をかける狙い。

 両長官は近くリビウに米外交団を復帰させ、将来的にキーウの大使館業務を再開する方針も伝えた。バイテン米大統領は25日、空席が続いた駐ウクライナ大使にブリンク駐スロバキア大使を指名すると発表した。就任には上院の承認が必要。

 オースティン氏は訪問後、隣国ポーランドで記者団に、ウクライナ侵攻のようなことができないよう「ロシアの弱体化を望んでいる」と述べた。異例の発言で波紋を広げる可能性がある。

 軍事支援は東部に戦力を集中するロシア軍による大規模な地上戦を想定し、155ミリりゅう弾砲など重火器の供与を加速させる。支援額のうち3億2200万ドルはウクライナに直接回し、残りは米国と同盟関係にありウクライナを手助けする15力国に振り分ける。ウクライナへの軍事支援総額は約37億ドルとなる。

 バイテン氏は軍事支援継続のため議会に対し追加の予算措置を求める方針。21日には別の8億ドル規模の軍事支援を発表していた。

 ゼレンスキー氏は24日、ツイッターで「(両国の)友情とパートナーシップはこれまでになく強固だ」と米国の支援に密Eを表明した。23日の記者会見では「十分な武器が手に入ればすぐに占領された土地を取り戻す」と述べ、強力な武器の提供を求めていた。


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「反撃能力」を本格検討(2022/4/28 京都新聞)

 岸田文雄首相は27日、政府の外交・安全保障政策の長期指針「国家安全保障戦略」など3文書改定に向けた自民党提言を受け取った。「考え方をしっかり受け止めた上で議論を進めたい」と表明した。年末の閣議決定に向けて本格検討に着手する。提言は、相手領域内でミサイル発射を阻止する敵基地攻撃能力を「反撃能力」に改称して保有するよう要請。防衛費は国内総生産(GDP)比2%以上を念頭に、5年以内に防衛力を抜本強化するため必要な予算水準を目指すと盛り込んだ。

 首相は提言のため官邸を訪れた自民党の小野寺五典安全保障調査会長に公明党との調整の重要性を指摘した。同党は反撃能力保有や防衛費増額に慎重姿勢を取っており、夏の参院選後に見込まれる与党間協議が焦点となる。保有する装備は自衛のための必要最小限のものに限るとした「専守防衛」との整合性や現行GDP比1%程度からほぼ倍増を求めた防衛費の財源も論点になりそうだ。

 提言は岸信夫防衛相も防衛省で受け取った。反撃能力の保有には、ミサイル発射拠点の正確な把握やレーダーの無力化、精密誘導ミサイルといった装備が必要となる。政府は、陸上自衛隊の12式地対艦誘導弾の射程を延ばし、敵の射程圏外から攻撃できる「スタンド・オフ・ミサイル」として開発を進めており、反撃能力の保有が決まれば転用される見通しだ。

 提言では、反撃能力の攻撃目標として司令部などを念頭に「指揮統制機能等」を明記した。輸出ルールを定めた「防衛装備移転三原 則」と運用指針の見直しのほか、侵略被害国への幅広い分野の装備移転を可能とする制度の検討を打ち出した。

 安全保障上の情勢認識に関しては、中国を「重大な脅威」、ロシアを「現実的な脅威」、北朝鮮を「より重大かつ差し迫った脅威」とそれぞれ位置付けた。

 現行3文書は国家安保略、防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画(中期防)。提言では防衛大綱を「国防衛戦略」、中期防を「衛力整備計画」とし、対象期間を10年間とするよう求めた。

公明と火種化 回避腐心

 岸田文雄首相は外交・安全保障政策の長期指針「国家安全保障戦略」など3文書改定に関する自民党提言を巡り、水面下の事前調整に腐心した。念頭にあるのは夏の参院選後に本格化する公明党との与党間協議。「敵基地攻撃能力」の保有や防衛費の大幅増を火種にしたくない首相の思惑が透ける。だが、公明は慎重姿勢が根強く、難航は避けられそうにない。

 「与党協議や国民への説明は。丁寧にしなければいけない」。首粕は27日、党安保調査会の小野寺五典会長から提言を受け取ると、こう力を込めた。視線の先に公明の姿があるのは明らかだ。

 提言に関し、官邸サイドは入念に自民側と擦り合わせた。昨年末に始まった調査会の会合前後には、担当の高橋憲一官房副長官補らが小野寺氏と打ち合わせを繰り返した。調査会幹部は「議論は逐一、官邸に報告が上がっていた。実際には政府と党が一体となり作成した提言だ」と振り返る。

 党内融和にも目を配った。調査会は提言策定を控えた今月18日から3日間、幹部会を連日開き、防衛相経験者らの意見に耳を傾けた。首相周辺は「公明との調整を控え、足元を固めておく必要があった」と指摘する。

 「北大西洋条約機構(NATO)とは事情が違う」。15日、首相は小野寺氏と官邸で膝をつき合わせ、提言原案について指摘した。原案は防衛費に関しNATO加盟国のGDP比目標2%以上を例示し、同様の水準を目指すとした。ただ、NATOは日本と違い退役軍人年金なども含む。首相はこうした実態を踏まえず増額に突き進むと、与党協議の障害となりかねないと懸念したようだ。

 敵基地攻撃能力から「反撃能力」への改称を巡っても、判断は党に委ねたものの「理論武装はしっかりしておいてほしい」と指示した。自民幹部は「いずれも公明への配慮だ」と明かす。

 政府は今後、改定に向けた有識者の意見聴取を加速させる。6月をめどに決定する経済財政運営の指針「骨太方針」での防衛費に関する書きぷりや、来年度予算の概算要求額も焦点となる。政府関係者は「公明の議論を見守り、詰めの作業を行う」と語る。

 だが「平和の党」をうたう公明は憲法に基づく「専守防衛」の理念が骨抜きになりかねないとして、敵基地攻撃能力の保有に否定的な立場を取る。自民と温度差があるのは明白で、公明の中堅議員は「向こうは参院選アピールのために急いでまとめただけ」と冷淡だ。

 反撃能カヘの改称について、山口那津男代表は「今、自民の考え方を論評する立場にはない」と突つぱねる。防衛費の増額にも「社会保障や教育への需要は大きく、突出させるのは妥当でない」と繰り返しており、溝は埋まらない。官邸幹部は「それでも政府、自公の3者で軟着陸を目指すしかない」とぼやく。

 野党は参院選を控え、自民の提言に厳しい視線を向ける。立憲民主党関係者は防衛費の増額方針に関し「世界有数の軍事予算となれば、国際社会には軍拡のメッセージと映る。その覚悟があるのか」と疑問を呈した。


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ロシア、2国向けガス停止(2022/4/28 京都新聞)

【ベルリン、ロンドン共同】ロシア政府系のガスプロムは27日、東欧のポーランドとブルガリア向けの天然ガスの供給を停止したと発表した。4月分のガス代金を期限までにロシアが求める通貨ルーブルで支払わなかったためという。支払期限は26日だった。これを理由にロシアがガス供給を止めたのは、初めてのケースとみられる。

 タス通信によると、ロシアのペスコフ大統領報道官は27日、ポーランドとブルガリア以外にも、ルーブルによる支払いに応じない国 はガス供給が止められる可能性があると述べた。

 ガスプロムは欧州各地にガスを供給するパイプラインを張り巡らせている。各国がルーブルでの支払い要求に反発する中、ロシアは強硬策で欧州に揺さぶりをかける狙いがありそうだ。欧州で指標となる天然ガスの価格は27日、高騰した。欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長は「不当で容認できない」と非難する声明を出した。フォンデアライエン氏によると、ロシアからガス供給を止められた2力国は、すでに他のEU加盟国から調達を受けているという。

 ロシアのプーチン大統領は3月31日、ウクライナ侵攻を理由に対ロ制裁を科した日米欧などを「非友好国」に指定し、ロシア産のガス代金をルーブルで支払うよう命じる大統領令に署名。応じなければ契約違反とみなすとしてガス供給停止を示唆していた。

 27日の発表でガスプロムは、ポーランドとブルガリア経由で第三国に送られるガスの中から両国が無断でガスを採取した場合には、供給量全体をその分だけ減らすと警告した。その一方でガスプロムのクプリヤノフ報道官はタスに、両国以外に対する欧州向け天然ガスの供給量は同日も確保されていると述べた。

 ポーランドとブルガリアは北大西洋条約機構(NATO)と欧州連合(EU)の加盟国。両国は26日にガスプロム側からガスの供給を27日に停止すると通告されていた。AP通信によると、ポーランドは消費量の45%程度、ブルガリアは90%超をロシアに依存している。

欧州 依存解消の道険しく

 ロシア産エネルギーへの依存度が高い欧州各国が試練を迎えている。ロシアのウクライナ侵攻を受け、エネルギー安全保障が喫緊の課題に。ロシア産の輸入量を減らすため、調達先の分散化などを急いでいるが、短期間で脱却するのは難しいのが現実だ。ロシアとの結び付きの度合いから、各国の取り組みには濃淡も見られる。

 欧州連合(EU)統計局によると、EUの2021年上半期の天然ガスの輸入先はロシアが最大で、46・8%と半分近くを占めた。 石油もロシア産がトップで、24・7%に上った。冬場までロシア産ガスの供給停止が続けば、生命の危機に直結する恐れもある。ロシ アは2009年1月、強い寒波で凍死者も出る中、価格紛争を巡ってウクライナへのガス供給を一時止め、パイプラインでつながる東欧諸国で供給が途絶えたことがある。

 国際エネルギー機関(IEA)は今年3月、1年以内にロシアの天然ガスの輸入量を3分の1以上削減するための方策を発表。代替供給源への置き換えや風力など再生可能エネルギーの普及加速などを挙げ、「ロシアのエネルギー市場での支配的な役割を減らし、代替策を可能な限り迅速に強化する必要がある」と指摘した。

 侵攻前までロシアへのエネルギー依存を深めてきたドイツは、政策転換を迫られている。ロシアからのガスパイプライン「ノルドストリーム2」稼働手続きの停止を決め、年内に石油輸入停止を目指す。ただ、天然ガスについては慎重姿勢を崩していない。

 ロイター通信によると、ドイツのエネルギー会社首脳はロシア産ガスの供給が途絶えると、ドイツ経済は極めて深刻な損害を受けるとし、ロシアへの依存を解消するのに3年かかるとの見方を示している。(共同)


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プーチン氏、核使用警告(2022/4/28 京都新聞)

 ロシアのプーチン大統領は27日、ウクライナでの軍事作戦に関し、第三国が脅威を与えようとした場合は「電撃的な対抗措置を取る」と警告した。「ロシアは他国にない兵器を保有している。必要なら使う」として、核兵器使用も辞さない構えでウクライナへの軍喜支援を強める欧米を強くけん制。カービー米国防総省報道官はロシア側の姿勢を「無責任だ」と批判し、松野博一宣房長官も28日「核兵器による威嚇や使用は「あってはならない」と訴えた。

 ラブロフ外相も25日、核戦争の危機は「深刻かつ現実的で過小評価すべきではない」と発言していた。カービー氏はロシア側が緊張を高めていると非難した一方、ロシアの核戦力に異常な動きは見られないと説明した。

 ロシア北西部サンクトペテルブルグでの議会関係者との会合で演説したプーチン氏は、欧米がウクライナを反ロシアの拠点につくり替えたと主張し、侵攻を正当化。2014年に強制編入したクリミア半島の主権をウクライナが認めない限り停戦に応じない姿勢を、改めて示した。東部ルガンスク、ドネツク両州の親ロ派支配地域とクリミアの安全確保は「必ず達成される」と述べた。ロシア軍は首都キーウ(キエフ)から東部、南部の攻略に軸足を移したが、黒海艦隊旗艦を撃沈されるなど苦境にある。プーチン氏が強硬姿勢を崩しておらず、戦闘は長期化する恐れがある。

 ウクライナのベネディクトワ検事総長は27日の国安全保障理事会の非公式会合でオンライン演説し、ロシアがこれまでに病院や学校など「4300を超える民間施設を標的にした」と非難した。ロシアがクラスター(集束)弾などを人口密集地で使っていると批判。8千件以上を戦争犯として捜査中だと述べた。

 欧米諸国は戦車の供与などウクライナへの支援強化を打ち出している。

 ロシア国防省は20日、米国のミサイル防衛(MD)網を突破できるとされる新型の重量級大陸間弾道ミサイル(ICBM)「サルマト」の発射実験に成功したと発表。プーチン氏は「ロシアを脅かす人たちに再考を迫るだろう」と述べていた。(共同)


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侵攻目標完遂、必要なら使う(2022/4/29 京都新聞)

 ロシアのプーチン大統領が27日、ウクライナ侵攻の目標を完遂すると明言した上で、核兵器使用も辞さない姿勢を示した。対ウクライナ軍事支援を拡大する米欧を再び威嚇した。米政府は、プーチン氏が核使用の決断を下す脅威を軽視はできないと警戒。侵攻はロシアの想定通りに展開しておらず、戦局を転換するため核兵器を使う恐れがあるとの見方が消えない。

 「もう一度、はっきりさせておく。何者かが外部から介入して、ロシアに対する戦略上の脅威を生み出そうと試みれば、許さない。われわれが電光石火で対抗すると知っておくべきだ」

 プーチン氏は出身地の北西部サンクトペテルブルグで上下両院の議員らを前に演説した。「ロシアは他国にない兵器を保有している。自慢するだけではない。必要なら使う」と核使用を示唆すると、出席者から拍手が湧き起こった。

 「歴史的にロシアの領土だった地に反ロの拠点がつくられることは許されない」とも述べ、米欧がウクライナをロシア攻撃の前線にしたと批判。侵攻の「全ての課題は必ず達成される」として、東部ドンバス地域とクリミア半島の安全を「歴史的観点から保障する」と言明した。

 今回の作戦によって、新たなロシアの国境を確定すると宣言したに等しい。ウクライナが領土の一体性が損なわれる事態を認めるとは考えにくく、両国の歩み寄りは一層困難になった。

 ロシアのラブロフ外相は25日、核戦争の危機は「深刻かつ現実的」と発言。米国防総省のガービー報道官は27日、ロシア側の言動が核による対立の不安をあおっており「核保有国のあるべき姿ではない」と批判した。

 「プーチン氏やロシアの指導層が自暴自棄になる可能性や、ロシアが直面する軍事的なつまずきを考慮すれば、戦術核や小型核を使うことによってもたらされる脅威を軽視することはできない」

 ロシア通として知られる米中央情報局(CIA)のバーンズ長官は14日の講演で、ロシアが核を使用する可能性はあるとの分析を明らかにした。核使用の準備を進めている兆候は確認していないとした一方、ロシアの動きを注視すると述べた。

 プーチン氏が政権内で孤立し、助言者が減っているとも指摘。「プーチン氏は国内支配を強めようとしており、リスクを取ろうとする傾向が強まっている」と警告した。

 ロシアは首都キーウ(キエフ)攻略を断念し東部や南部に部隊を展開するが、米政府は「戦略的な目標を一つも達成していない」(ガービー氏)とみる。米欧がウクライナへの武器供与を増強してロシアの苦境が深まれば深まるほど、核使用は現実味を帯びる。

 日本国際問題研究所軍縮・科学技術センターの戸崎洋史所長は、現時点で核使用の可能性は低いとした上で「ロシアが劣勢に立たされ敗北の可能性が出てきた時、戦局を打開するゲームチェンジヤーとして核を使う恐れはある」と指摘した。

 限定的な核使用で敵対行動の封じ込めを狙う「エスカレーション抑止」と呼ばれる手段に訴える恐れもある。洋上や人口の少ない原野で核を使用し、恐怖を与えることで敵の行動を抑え込む手法が考えられる。(リビウ、ワシントン共同)


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「鎖国」制度見直し論 浮上(2022/4/30 京都新聞)

 ウクライナ避難民の受け入れに伴い、日本の難民制度の見直し論が浮上している。政府は、避難民は条約上の難民に当たらないとして、難民に準じる新たな在留制度を作り安定的な支援につなげたい考え。一方、難民の支援者は「難民鎖国」と言われる日本の現状を変えることが第一で、抜本的な制度改革の必要性を訴えている。

 ウクライナ避難民の受け入れに当たって国は、医療費や日本語教育、就労にかかる実費を負担し、親族や知人がいない避難民らには1日最大2400円の生活費を支給するなど手厚く支援するとしている。

 ただ、あくまで人道上の配慮による特例的な措置で、在留資格は就労が可能な「特定活動」(1年)を取得できるが、難民に認められた場合の「定住者」(5年)と比べると期間は短い。

 難民条約は、@人種A宗教B国籍C特定の社会的集団の構成員であることD政治的意見―を理由に迫害を受ける恐れがあって国外にいる人を難民と定義する。政府は、紛争から逃れたウクライナ避難民は定義に該当しないとして認定には否定的で、岸田文雄首相は4月、「条約上の難民に当たらないが、人道的な見地から難民に準ずる形で受け入れようと検討を進めている」と述べた。

 念頭にあるのが、昨年の通常国会で廃案となった入管難民法改正案。難民に準じる人を「補完的保護対象者」として在留を認める新制度を盛り込んでいた。ウクライナ紛争後は「準難民」とも呼ばれ、政府は早期の導入を目指している。

 一方、全国難民弁護団連絡会議代表の渡辺彰悟弁護士は、新制度への懸念を示す。法案の補完的保護は、難民と同じ「迫害を受ける恐れ」を要件としており、「その要件の下で難民と認めるべき人を認めていないのに、保護が広がるとは考えられない」という。

 2020年の日本の難民認定者数はこの10年で最も多い47人。難民支援協会によると、ドイツの6万3456人や米国の1万8177人に遠く及ばず、渡辺弁護士は、日本は難民条約の定義を極端に狭く解釈して申請を却下していると批判。「欧州連合(EU)などで規定される補完的保護と大きく異なる制度を導入しても、難民と同様に裁量で認めない運用になってしまう。まず難民条約締約国としてあるべき姿を見せ、この機会にきちんとした制度を作らなければならない」と強調した


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モスクワ60代女性の手記・第4信(2022/4/30 京都新聞)

 ロシアのウクライナ侵攻に終わりが見えない。ウクライナでは多くの街が焦土と化し犠牲者が増え続ける一方、侵略した側のロシアでは経済制裁で生活がすさんでいく。モスクワで働く60代の女性が、報道統制で国外では伝えられない日常について手記を寄せた。

見せかけの兄弟愛

 二つ驚くような出来事がありました。一つは恐ろしく、もう一つは喜ばしいことです。

 一つ目のこと。職場で座っていた人たちが、私たちに降りかかりつつある経済危機のことを話しています。若い子たちが店の棚から消えてしまった商品や、ごく近い将来に消えてしまう商品を数え上げています。すると突然、一人が威勢よく大声を上げるのです。

 「ウクライナにいる連中の境遇の方がもっと悪いってのが、せめてもの慰めさ」

 想像できますか。ひどい。ウクライナ人が殺され爆撃を受けていて、食料も毛布もなく、破壊された自分たちの家から追い出されていることを、この人はあからさまに喜んでいるんです。

 その境遇に慰めを覚えるとは、どういうことなのでしょうか。それでいてウクライナの人たちを兄弟民族などと呼んでいるなんて!

 これがロシア式の兄弟愛なのでしょうか?

 二つ目の印象は正反対です。(1ヵ月ほど前)テレビ「第1チャンネル」(公式的な宣伝放送局)の生放送で、思いがけないスキャンダルが起きました。

 ニュース番組で、ロシア軍の戦功と、西側の制裁に対するロシアの勝利が伝えられていたのですが、キャスターの背後にプラカードを掲げた女性が現れたのです。大文字で「戦争反対!戦争をやめろ!プロパガンダを信じてはいけない!この連中はうそをついている!」と書いてありました。

 この番組は、数百万のロシア国民が見ています。女性は番組の編集者。英雄です! たった一瞬、向こう見ずにも大胆極まりない行動に出たことで、ロシアの歴史に名を刻んだのです。名前はマリーナ・オフシャンニコワ。このことは、私たちのグループに好きなサッカーチームがゴールを決めたかのような感激をもたらしました。

 彼女はその場で拘束されました。前もって自分の話を録画してありました。父親がウクライナ人で、母親はロシア人。第1チャンネルで長い間働き、うそで人々をゾンビ化する手助けをしていたといいます。

 デモには一度も行ったことがなく、ロシアがウクライナからクリミアを奪った時、多くの人たちと一緒に黙っていたそうです。(ロシアの反体制派)ナワリヌイ氏が収監された時も黙っていました。でも、もう黙っていられなくなって行動に出た。いえ、単なる行動じやない、大文字の「行動」です。彼女のために祈りましょう。彼女のような人たちこそ、私たちの救いなのです。

>砂糖争奪戦激しく

 もう2ヵ月近くも戦争が続いています。日々の暮らしや商店のことを書くのは、少し気が引けます。なぜなら「兄弟」のウクライナでは人々が死んでいて建物が破壊されているのに、モスクワでは、ぜいたく品が消え、食料品が値上がりしたくらいなのですから。

 それでも、ほそぼそとしたことに目を向けないわけにはいきません。あらゆるものが戦争前よりひどく高くなりました。キャベツ、ビーツ、ニンジンなどは、1・5倍になりました。

 人々が先を争って欲しがるのは、主に砂糖とソバの実です。ロシアでは多くの人がソバの実を食べます。どういうわけか、米と塩はあって、砂糖とソバの実がないのです。時にはけんかまでして、他人のかごから砂糖をつかみ取って、レジに持ち込む人たちまで出始めました。でも、どうしてこんなにたくさんの砂糖が必要なのかが分かりません。

 第2次世界大戦を生き延びた私たちのおばあさんたちは、いつもマッチと塩を備蓄していました。それにせっけんや、明かりがなくなる事態に備えて、ろうそくも蓄えていました。それが今は、なぜか砂糖…。

 私もいくつか大量に買い込みました。たくさんの良いお茶と良いキャットフード。「もう世界中のどのメーカーも君たちに餌を提供してくれないのよ」なんてうちのネコたちに説明できないでしょう? 家の入り口はキャットフードの袋の山です。経済制裁の効き目が本当に出たら、僕らもキャットフードのお世話になろうかね、と夫はジョークを言っています。

 洗濯用洗剤(ちなみに日本製)も買い込みました。化粧品や髪染めは姿を消しました。香水は値段が3、4倍高くなりました。プリンターの紙がとても値上がりして、やはり3、4倍は高くなりました。

 自動車盗難が増えました。おんぼろでも盗まれるのです。良い車も間もなく修理できなくなるから、分解して部品にするためと言 われています。

 こんなふうに私たちの生活の問題点を数え上げてみたけど、実を言うとそんなもの、私の心の深いところでは、何てこともないのです。今のところは、どうってこともありません。まるで自分には関係ないことのように、私はちょっと斜に構えてものを見ています。

 それどころか、この間は私たち、グルメ祭りをやつたのですよ。値の張るシーフード、大きなカニの爪なんかを注文して全部平ら げ、ものすごく満足しました。

 たぶん1ヵ月後には、こんなごちそう、とても買えなくなるでしょう。お金もなくなるし、そもそもこんなグルメ食品、売られることもなくなるでしょう。だったら最後に思う存分楽しんじやえばいい。今日を生きるしかない。だって未来は、もうないのだもの。


キーウ 活気と緊張交錯(5/1) ↑トップへ

キーウ 活気と緊張交錯(2022/5/1 京都新聞)

 ロシアが2月24日に侵攻を始めてから2ヵ月が過ぎたウクライナの首都キーウ(キエフ)では、避難した人々が徐々に戻り、街は活気を取り戻しつつある。一方で、4月28日にはロシア軍の再攻撃で犠牲者が出るなど、不安や緊張は拭えない。「落ち着いている」「戻るのはまだ早い」。市民の思いは交錯する。

 キーウ中心部のシェフチェンコフスキー地区。がれきが道路をふさぎ、半壊したアパートを住民がぼうぜんと眺めていた。英BBC放送などによると、28日のミサイル攻撃は、2階に住むラジオ自由欧州(RFE)のジャーナリスト、ベラ・ヒリチさんの命を奪った。

 アパートの別の階に住むビクトルさん(32)によると、ヒリチさんは一時、市外に避難したが、少し前に自宅に戻った。ビクトルさんは「ここが被害に遭うとは思わなかった。キーウは以前より安全になったが、戻るにはまだ早いかもしれない」と語った。

 ロシア軍は、軍事施設が攻撃対象だと説明しているが、実際には多くの民間人が巻き込まれている。一度はキーウ周辺から完全撤退したが(再攻撃によって情勢は緊迫の度合いがさらに高まった。クリチコ市長は市外で避難生活を送る人々に「帰宅は禁止できないが、急がないでほしい」と呼びかけた。

 それでも、キーウに戻る人は増えている。ガソリンが不足し、ガソリンスタンドには行列ができていた。映画館など娯楽施設も徐々に営業を始め、新緑の中、ジョギングやベンチで昼寝をする人々の姿も。日常の光景とは対照的に、街の至るところには、バリケードが設置され、土のうが積み上げられていた。

 南西部で避難生活を送ったアナスタシヤさん(21)は29日、キーウ中心部のレストランで友人2人と久しぶりに外食を楽しんだ。2人と会ったのは侵攻前日の2月23日以来。「今は軍に守られていると感じる。やっぱり家が一番」と表情を緩めた。勤務する美容室も3月末に営業を再開した。

 ロシア軍が迫った時もキーウに残った年金生活者のユーリー・スロマさん(82)は「欧米の助けを得てウクライナは復興を遂げる」と、今後もとどまる決意を示した。(キーウ共同)


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新防衛大綱の秘密化案浮上(2022/5/1 京都新聞)

 政府が年末に改定する外交・安全保障政策の長期指針に関する3文書のうち「防衛計画の大綱」に代わる新たな文書を策定し、一部秘密化する案が浮上していることが30日、分かった。安保上の懸念が強まる中国やロシア、北朝鮮の有事への対処が狙いで、大半が機密扱いの「米国家防衛戦略(NDS)」に倣う。自民党提言のほか、政府の有識者聴取で中国を念頭に具体的な作戦をまとめた秘密文書を作るべきだとの意見が出たのを踏まえた。複数の政府関係者が明らかにした。

 改定する3文書は他に「国家安全保障戦略」と「中期防衛力整備計画」。現行の防衛大綱は公開されている。新たな文書が公務員らの機密瀾えいに罰則を科す特定秘密保護法に基づく特定秘密に指定されると、重要な情報が長期間公開されず、日本の安保戦略の検証が困難になる可能性もある。相手領域内でミサイル発射を阻止する反撃能力(敵基地攻撃能力を改称)の保有が検討され、専守防衛との整合性が問われる中、より慎重な対応が求められそうだ。

 自民党は27日の岸田文雄首相への提言で「脅威対抗型の防衛戦略に焦点を置いた文書を策定すべきだ」として防衛大綱を廃止し、米国のNDSと整合する新たな文書「国家防衛戦略」を作成するよう主張した。NDSは、原則非公開で一部か概要版として公表される。

 自民党の国防族は「NDSのような文書は必須だ。中ロや北朝鮮への具体的な対応策を練り、外交・防衛当局者で共有するべきだ」と説明する。

 政府の有識者聴取はこれまで非公開で計9回実施された。2月7日の会合では、防衛省制服組トップを務めた折木良一元統合幕僚長ら防衛省・自衛隊出身の5人から穂取。出席者の1人が「沖縄県・尖閣諸島や台湾を巡る戦い方は非公開の国家防衛戦略で定めればいいのではないか」と秘密文書化するように求めた。

 これに先立つ2月2日の会合では、国家安全保障戦略の一部も秘密文書化すべきだとの指摘も出た。佐々江賢一郎元外務事務次官ら5人に聴取した際、出席者の1人が「目指すところを全て盛り込んだ秘密バージョンの国家安保戦略を作るのが望ましい」と語った。

【解説】非公開の妥当性と効果示せ(2022/5/1 京都新聞)

 政府が防衛大綱に代わる新文書を策定し、一部秘密化する可能性が出てきた。軍事力を強化する中国や北朝鮮、ロシアとの有事や周辺国の軍事的な連携に備えるのが狙いとみられる。だが国民の合意形成が欠かせない外交・安全保障の大方針に関し、公開から一部非公開に転ずる妥当性と、それに見合う効果があるのかバランスを考慮する責任がある。

 米国には、防衛大綱に相当する文書として国防総省がまとめる「国家防衛戦略」がある。内容は機密扱いで一部が公開される。防衛力の整備目標である防衛大綱を戦略文書化する方針は米国に倣ったものだが、全世界的に軍事展開する米軍と、「専守防衛」の理念に基づき抑制的に活動してきた自衛隊に関する文書の扱いを同様にするのが必須なのか。米軍と自衛隊の一体化の加速が懸念される中、より慎重な検討が求められる。

 特定秘密保護法に基づき、自衛隊の運用計画や他国の軍隊の組織を見積もった情報などは既に特定秘密に指定されている。ただ秘密指定できる範囲は曖昧で、国民の知る権利の空洞化が指摘されている。非公開の範囲を広げるなら、その目的と効用を示す必要がある。

 岸田文雄首相は1月の衆院本会議で、新文書などの策定を巡り「国民にも国会においても、できるだけ丁寧に説明をしたい」と答弁した。国民の命と暮らしに直結する重要な文書となるだけに、中長期的な視点に立って冷静で透明性ある議論が不可欠だ。


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ロシア、オデッサ空港攻撃(2022/5/2 京都新聞)

【キーウ共同】ロシア国防省は1日、ウクライナ南部オデッサ近郊の空港で、米欧が供与した兵器の格納庫と滑走路をミサイルで破壊したと発表した。ウクライナ側の抗戦に影響が出る可能性もある。ロシアは南部ヘルソン州での自国通貨ルーブル導入など制圧地域で実効支配の動きを加速。ペロシ米下院議長は4月30日、首都キーウ(キエフ)を訪れ、ゼレンスキー大統領と会談、支援継続を表明した。武器供給を拡大する米欧とロシアの対立は一層先鋭化する様相だ。

 ペロシ氏の訪問は5月1日に公表された。米メディアによると、ロシアの侵攻以降にウクライナを訪問した米政権関係者としては最高位。4月24日にはブリンケン国務長官とオースティン国防長官がそろってキーウを訪問したばかり。

 オデッサはウクライナ第3の都市で黒海に面する要衝。ロイター通信などによると攻撃は4月30日で、オデッサ州知事は死傷者はいないと語った。貨物鉄道が穀物の輸出港に乗り入れるための橋も26〜27日に2発のミサイル攻撃を受け、一部が損壊した。ロシアは黒海の海上封鎖も継続中で、ウクライナの収入源である穀物輸出にも打撃となりそうだ。

 タス通信によると、ロシアがヘルソン州で樹立した「軍民政府」は5月1日からルーブルを流通させるとしている。ザポロジエ州の港湾都市ベルジャンスクでもロシア側が任命した市長代行が4月30日、近く給与や年金をルーブル払いに移行すると表明した。

 ロシアのプーチン大統領は30日、ウクライナの東部ドンバス地域の親口派実効支配地と、ロシア軍が制限した地域に居住する第2次大戦の従軍経験者に1万ルーブル(約1万8千円)の一時金を支払うよう政府に命じる大統領令に署名した。ソ連の対ナチス・ドイツ勝利を祝う5月9日の戦勝記念日を前に従軍経験者らの支持を得ておきたい考えがあるとみられる。


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対ロ圧力 温度差露呈(2022/5/2 京都新聞)

 東南アジアなどを歴訪中の岸田文雄首相は、ロシアが侵攻を続けるウクライナに対する人道支援を公表したベトナム政府の姿勢を歓迎した。ただ、1日までの首脳会談で、焦点の一つとされた対口圧力を巡り、目立った成果は得られていない。制裁を強める日米欧と、批判を避けたい東南アジア側の温度差が露呈。アジア唯一の先進7力国(G7)のメンバーとして橋渡し役を担いたい首相の苦心ぷりがにじむ。

 「初めてウクライナへの人道支援を発表したことは、前向きな一歩として評価する」。岸田首相はファム・ミン・チン首相との会談後、記者団に意義を強調した。

 会談で岸田首相は「ロシアによるウクライナ侵略は明白な国際法違反だ」と批判した。これに対し、チン氏は平和を重視する立場を説明するにとどめ、ロシアを批判する言葉は発さなかったとみられる。それだけに「さまざまな立場の国がいる。意思疎通を図っていくことが重要」(岸田首相)。

 ベトナムはグエン・スアン・フック国家主席やチン首相、共産党書記長ら国のトップ4人が相次いで岸田首相と会談し、手厚くもてなした。昨年10月の岸田首相就任後、チン氏が直接会談するのは9回目。地元メディアも「岸田首相は個人的にベトナムを重視し、愛着を持っている」と好意的に伝えた。

 こうした歓迎ムードの中でも、ロシアへの対応を巡る日本とベトナムの溝が埋められなかった背景には、ベトナム側の事情が影響している。ベトナムは旧ソ連以来、ロシアと友好関係にあるだけでなく、軍事装備品の調達先として依存してきた経緯がある。シンガポールの研究所によると1995〜2019年のベトナム武器関連輸入総額のうち、ロシア製が84%。

 ロシアに配慮する国はベトナムに限らない。今年の20力国・地域(G20)議長国のインドネシアは、国連人権理事会でのロシアの資格停止決議に棄権。4月29日に岸田首相と会談したジョコ大統領は共同記者発表で、ロシアの名指し批判を避けた。首相が2日に首脳会談に臨むタイも資格停止決議を棄権。伝統的な全方位外交に加え、今年のアジア太平洋経済協力会議(APEC)議長国の立場から慎重に判断したい本音が透ける。


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製鉄所 市民100人超退避(2022/5/3 京都新聞)

【リビウ(ウクライナ西部)共同】ウクライナのゼレンスキー大統領は1日、南東部マリウポリの状況について「初めて2日間の停戦が実現し、女性や子どもら100人以上を救出できた」と述べ、アゾフスターリ製映折から多数の民間人が脱出したと明らかにした。

 ただロシア軍は退避終了後、1日夜から2日未明にかけて砲撃を再開。同日朝に予定された第2陣の退避は開始が遅れ、難航した。ゼレンスキー氏は1日のビデオ演説で、2日も「退避を続けるために必要な条件が整うことを望む」と訴えていた。製鉄所には民間人約千人がとどまっているとされる。

 一方、米紙ニユーヨークータイムズは1日、ロシア軍制服組トップのゲラシモフ参謀総長が先週後半、ウクライナ東部を訪れたと報じた。軍最高幹部が最前線を訪れるのは極めて異例。膠着する東部戦線の「流れを変える」意図とみられる。

 マリウポリ市議会は2日、国連と赤十字国際委員会(ICRC)の支援を受け、マリウポリ郊外の村マングシユなど2ヵ所からの民間人退避で合意したと明らかにした。ただ退避者の乗るバスが集合場所に来なかった。理由は不明という。ロイター通信が報じた。

 ウクライナ軍関係者によると、ロシア軍は1日夜にマリウポリへの攻撃を再開し、2日未明には艦砲射撃も行った。退避の成否は行き詰まっている停戦交渉の行方にも影響しそうだ。


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ロシア 南部実効支配(2022/5/3 京都新聞)

 ロシアが、全域を制圧したウクライナ南部ヘルソン州などで実効支配の強化を進めようとしている。自国通貨ルーブルを一方的に導入し、住民投票によるかいらい国家の発足を画策、ロシア語教育の拡充に動き始めな住民は「同化政策」に反発を強める。一方、ロシア軍が早期制圧を目指す東部の戦況は膠着、侵攻の全体ではロシアの思惑通りには進んでいない。

住民「同化政策」に反発

 現地からの報道によると、同州の中心都市ヘルソンでは、ロシア軍の象徴とされている「Z」の文字が目立つようになり、ロシア軍車両が行き交う。市庁舎にはロシア国旗が掲げられた。同州の別の街ではソ連建国の父、レーニンの像が建てられた。住民の抗議デモが散発的に発生、ヘルソンでは4月27日に催涙ガスで負傷者が出るなど緊張が続く。

 ロシアは5月から同州でルーブルを導入。ウクライナ通貨フリブナからの移行期間4、5ヵ月を経て完全移行する計画という。ウクライナ側の年金基金や州財政が機能しなくなったことを表向きの理由としているが、経済的な支配を強めようとする目的は明白だ。

 ヘルソン州など南部では3月以降、ロシアの国営テレビ放送も始まった。ヘルソンでは大半のウクライナのテレビが視聴できなくなったという。住民の男性の間では、ロシア軍に徴兵され、ウクライナ軍との戦闘に駆り出されるのではないかとの懸念が高まっている。

 影響は教育にも及んでいる。ウクライナメディアによると、ロシアは、ヘルソンやザポロジエ、東部ハリコフの各州で制圧した地域にある学校の教師を「再教育」する夏季研修を計画している。2014年にロシアが強制編入したクリミア半島に送る考えだ。

 クリミアの親口派トップは「教員らをロシアの教育水準に合わせるため」と説明したが、ウクライナ側はロシア語教育を強要する狙いと警戒。ヘルソン州議会のソボレフスキー副議長は4月29日、研修は9月の新学年度に向けたものだとし、参加に同意しない教員については「失職の恐れがある」と懸念を示した。

 英国防省は今月1日、ロシアが政治と経済の両面で長期にわたって強い影響力を及ぼし、支配下に置く意図があるとの分析を公表した。(共同)

製鉄所脱出者ら安堵

 「心臓が止まるほどの恐怖だった」ウクライナ南東部マリウポリでアゾフスターリ製鉄所内から民間人の退避が1日から始まった。雨のように砲弾が降り注ぐ中、暗闇の地下室で続いた避難生活。「ずっと太陽も見ていなかったし、息苦しかった」。約2ヵ月ぶりに日の光を浴びた人たちは一様に安堵の表情を浮かべた。

 マリウポリ当局者はインターネット上に、民間人が製鉄所の地下から退避する際の動画を公開。女性らは真つ暗な地下からはしごを登り、光が差す地上へ。「大丈夫か。バスはすぐ近くだ」。製鉄所に立てこもる「アソフ連隊」とみられる男性らに付き添われながら、がれきが散乱する中を慎重に歩みを進めた。

 バスに乗り込んだ高齢女性や子どもらには疲れた表情も目立った。赤ちゃんをあやす女性は退避できたことに安心した様子。子ども数人と乗った女性は「子どもはいつも空腹を訴えていた」と話した。一行は国連職員らが待つ乗り換え地点へ向かった。

 ロイター通信などによると、マリウポリから約30キロ離れた一時滞在先の村では、目頭を拭ったり、家族らと抱き合ったりして喜ぶ人の姿もあった。

 助け出された女性(37)は「もう暗い中をトイレに行かなくていいのね」とほっとした様子。包囲攻撃が続いた地下生活を「地面が揺れ始めた時、地下室が崩れるのかと思った。想像を絶するくらいの恐怖よ」と振り返った。(共同)


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日本は戦争犯罪と無縁か(2022/5/3 京都新聞)

 ロシアのウクライナ侵攻に伴う深刻な戦争被害に触れ、「戦争放棄」をうたう日本の私たちは何を考えるべきか。憲法記念日に合わせ、東京外国語大教授の伊勢崎賢治さんに寄稿してもらった。

 もし日本が侵略されたら?

 ウクライナ戦争が日本人に突き付けた現実だ。そういう非常事態に自衛隊が出動し、あらゆる手段を行使して日本の主権を守ることに、改憲派・護憲派を問わず、多くの日本人に異論はもうないのかもしれない。しかし、私たちが見過ごしている問題がある。

 4月、ウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊のブチヤにおいて、ロシア軍が撤退した直後に数百人の市民の遺体が発見されたとの報道があり、世界に衝撃を与えた。明確な「戦争犯罪」として、国連をはじめ各国は、独立した公平で迅速な調査を要求している。

 これと前後して、もう一つの事件が明るみに出た。キーウ近郊で、逆にウクライナ軍とおぼしき兵が、拘束したロシア兵を射殺する映像が公開された。国際メディアは即座に反応し、ウクライナ側を支援しているはずの北大西洋条約機構(NATO)事務総長から 「全ての戦争犯罪は厳粛に対処されなければならない」という言説を引き出した。

 今回の戦争において。侵略行為に及んだロシアには国連憲章上の明確な非がある。ウクライナには自衛をする権利が発生するが、応戦の一発から、ロシアと同様に、戦争当事者として戦時国際法のジュネーブ条約を厳守する義務が生まれる。罪のない市民への攻撃はもちろん、戦闘中に拘束された捕虜への危害も厳禁とされ、それらを犯すことがいわゆる「戦争犯罪」である。

 圧倒的な軍事力で迫る侵略者のものが多発するのは当然だが、被侵略者だからといって免責される戦争犯罪は存在しない。

 重要なのは、戦争犯罪を犯した国家にまずそれを裁く管轄権があるという原則だ。つまり自らが犯した犯罪を自らの国内法廷で裁く責任だ。だから上記の二つの事件については、ロシア、ウクライナがそれぞれ独自に立件することが期待されている。それからだ。その立件の不十分さを巡って「国際戦犯法廷」の必要性が議論されるのは。

 被侵略者としての日本はどうか?

 日本には自らが犯す戦争犯罪を裁く法そのものがない。既存の刑法で足りるとしてきたからだ。しかし、戦争犯罪とは、国家の厳格な命令行動の中で発生するものだ。だから、直接血で手を染めた実行犯より、その命令を下した「上官」をより重い正犯にする考え方が採られる。抗命に対する死刑の恐怖の下にあったとして、末端兵士は訴追されない場合もある。刑法とはある意味で正反対の考え方だ。

 世界有数の軍事力を持ちながら、首相を頂点とする「上官」の責任を問う法体系を持たないのは日本だけだ。なぜか?

 憲法9条で戦争しないと言っているのだから戦争犯罪を起こすことについては考えない。国家の指揮命令の責が問われるような大それた事件を憲法9条を持つ日本が招くはずがない。一種の安全神話が、一般の日本人の意識だけでなく、政界、法曹界、そして憲法論議を支配してきたからだ。

 戦争を身近に感じる憲法記念日を機に、国民的議論を。


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黒板にプロパガンダ書き残す(2022/5/4 京都新聞)

 ロシア軍が一時侵攻したウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊には駐留したロシア兵の落書きなどさまざまな痕跡が残る。「われわれは一つの民族」。ある兵士は拠点とした学校にプーチン政権のプロパガンダをなぞった言葉を書き残した。攻撃用に掘ったとみられる塹壕もそのままだ。ロシア軍が撤退してから約1ヵ月。復興が始まった街に痕跡は不気味な影を落としていた。

 「子どもたち、こんなにめちやくちゃにしたことを許してください」。キーウ中心部から北西約45キロのカチュジャンカの学校の黒板にはロシア語のメッセージがあった。謝罪から始まりこう終わる。「ウクライナの大人が犯した過ちを繰り返さないで。ウクライナとロシアは一つの民族です。あなたたちに平和を」。

 プーチン氏は「ウクライナ人とロシア人は一つの民族だ」と訴えるが、ウクライナは反発する。プーチン氏はゼレンスキー政権を「ネオナチ」と非難し、ウクライナの「非ナチ化」を侵攻の大義名分とする。ロシア兵のメッセージはこうしたプーチン氏の思想を反映し、侵攻の責任をウクライナ側に転嫁したものと受け止力られている。

 学校は2月末から1ヵ月間、首都制圧を狙うロシア軍の拠点となった。敷地内には複数の巨大な塹壕が残っていた。

 ミコラ・ミキチック校長によると、ロシア軍の撤退後、学校ではロシア兵が使用した衣類や落書きが見つかった。残されたリストには駐留した兵士約520人の名前や年齢、所属が記載されていたという。

 10代や20代の若い兵士が多く、教室にマットレスを持ち込み、寝泊まりしていたようだ。学校が所有するパソコン40台を含む備品も盗まれた。ミキチック校長は「子どもたちの大切なものを盗む者と『一つの民族』などあり得ない」と嫌悪感をあらわにした。

 キーウ近郊の集落では、避難先から戻った住民がロシア兵の行動について証言し始めた。

 虐殺が疑われる市民の遺体が多数見つかったブチヤ。6日間地下室に避難したというアリーナさん(24)は、ロシア兵に目的を問うと「ゼレンスキーを殺すことだ」と答えたと説明した。

 アリーナさんの自宅に現れたのは比較的温厚な兵士だった。「一つ通りが違えばどうなったか分からない」と部隊によって対応が違い、偶然が明暗を分けたと振り返る。家を物色する一方で体調不良を訴える高齢者に薬を届ける兵士もいた。孤児だという境遇に共感し、暴行をやめた兵士もいたという。(カチュジャンカ、ブチヤ共同)


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史上初 稼働原発にロ攻撃(2022/5/5 京都新聞)

 ロシアはウクライナ侵攻で、旧ソ連時代の36年前に事故を起こしたチェルノブイリ原発を占拠し、欧州最大級のザポロジエ原発を制圧。史上初の稼働原発への攻撃は世界に衝撃を与え、原発の潜在リスクを浮き彫りにした。再発を許さない国際規範が問われる。

国際条約議定書で禁止

 住民に重大な被害を及ぼす恐れのある原発への攻撃は、戦時下の文民保護を定めたジュネーブ条約第1追加議定書で禁じられており、ロシア軍の行為には「明らかな国際法違反」との批判が上がる。専門家は「戦闘時の原発の保護について国際社会で改めて議論する必要がある」と指摘する。

 1977年に採択されロシアも89年に批准した同議定書は、原発をダム、堤防とともに「危険な力を内蔵する工作物」と規定。仮に軍事目標とみなされる場合でも「攻撃が危険な力の放出を引き起こし、住民に重大な損失をもたらすときは攻撃対象としてはならない」と定めている。

 締約国には、違反行為を実行したり命じたりした疑いのある者を捜査し、裁判所に公訴提起することなどが義務付けられている。

 過去には同議定書を批准していないイスラエルが、イラク(81年)とシリア(2007年)で核開発阻止を名目に稼働前の原子炉を空爆した事例があるが、今回は締約国による稼働中の原発への攻撃という点でも前例がない。

 長崎大の鈴木達治郎教授は「二度と繰り返されないよう、議定書違反であると認定することが不可欠。国連や国際原子力機関(IAEA)が決議などを通じ、原発に限らず全ての原子力施設に攻撃を加えてはならないという規範を改めて確立することが必要だ」と訴える。

 国際安全保障が専門の秋山信将一橋大教授は「『放射性物質の放出が起きなかったのだから議定書違反ではない』とロシアが主張する余地はある。虐殺などを巡り国際刑事裁判所が捜査を進めているが、原発については具体的な被害がなければ訴追対象にはなりにくいのではないか」と指摘。

 「議定書の締約国である上に原子力大国、核保有国でもあるロシアがこのような行動を取ったことは、今後こうした事案が起こるハードルを下げてしまう可能性がある。安全な原子刀利用のためにやるべきこと、やってはいけないことを改めて確認し直す取り組みが求められる」と話した。

高い依存度 リスク浮き彫り

 ウクライナは原発への依存度が高く、国営原子力企業エネルゴアトムが4原発15基を運営。国内で戦闘が続く4月末現在も、15基中7基が運転を続けている。今回現実となった運転中の原発への攻撃は、原発依存のリスクも浮き彫りにした。

 同国内では、ロシア軍に制圧されたザポロジエ原発のほか、ロブノ、南ウクライナ、フメリニツキーの計4原発で原子炉が稼働。国際原子刀機関(IAEA)によると、2020年の電源構成に占める原発の割合は54%で、フランス(66・4%)、スロバキア(56・2%)に次いで世界で3番目に高い。

 15基は全て旧ソ連時代に開発、建設された「ロシア型加圧水型軽水炉」。近年は核燃料をロシア製から米ウェスチングハウス・エレクトリック(WH)製に変えるなどロシア脱却を目指してきた。在ウクライナ日本大使館の資料によると、21年10月時点でロシア製を使用するのは9基となったほか、WHと新たな原発を建設する動きもある。

 これまで使用済み核燃料の一部はロシアに輸送していたが、ウクライナ国内で保管する施設の整備も進んでいるという。

 ウクライナでは14年に親ロシア派の政権が崩壊後、親欧米派が政権を維持。クリミア併合などでロシアとの関係は悪化の一途をたどったが、米国はそれ以前からロシアにとって原子力分野の主要な市場だったウクライナに食い込もうとしており、対立の火種の一つになったとの指摘もある。

ザポロジエ原発 原子炉建屋や設備 損傷

 稼働中の原発構内に砲弾が飛び交い、直撃された建物が炎上する。3月4日未明、ロシア軍の攻撃を受けたウクライナ南部のザポロジエ原発。一歩間違えれば取り返しのつかない大惨事へと発展する可能性もあった攻撃の様子を、インターネット上に公開された同原発の監視カメラの映像などを基に振り返る。

 映像は同3日深夜、動画投稿サイト、ユーチューブにライブ配信され始めた。1号機原子炉建屋付近から原発入り口のゲート方向を撮影したもので、ロシア側の戦車や軍用車両とみられる車列が午後11時半ごろ、周囲を照らしながら原発に向けてゆっくりと走行してくる様子からスタート。ウクライナ非常事態庁などによると、当日は1〜6号機(出力各100万キロワット)のうち2〜4号機が運転中だった。

 約1時間20分後、ゲート付近に到達した前方の車両にウクライナ側の警備部隊からとみられる砲撃が命中して炎上し、それが合図となったかのように、車列から無数の砲弾が訓練施設のある南側ヘー斉に放たれた。砲弾やロケット弾のようなものが続けざまに撃ち込まれ、原発の目前で交戦状態となっていることが明白だ。発電所に電力を供給する送電線用とみられる鉄塔にも砲撃が命中し、激しい火花が上がる。

 6基の原子炉建屋などがある北側に向けた砲撃後、建屋方向から白っぽい煙が流れてくる。車両から降りた兵士がロケットランチャーとみられる武器をカメラ前方の管理棟に向けて発射し、火花が飛び散る様子も。

 同原発を運営するウクライナの国営企業エネルゴアトムなどによると、攻撃によって1号機原子炉建屋が損傷したほか、6号機の変圧設備が破壊され、使用済み核燃料貯蔵設備の区画にも砲弾が2発命中。同原発職員が攻撃後に公開した動画には、2号機付近の建物の天井に穴が開き、金属製の梁が損傷、廊下に砲弾が落下している様子も映っていた。これらの被害状況は監視カメラ映像の攻撃内容とも合致する。

 映像では、訓練施設への断続的な砲撃で火災が起き、午前2時50分ごろに回転灯をつけたウクライナ側の消防車とみられる車両が数台到着したものの、ロシア側に阻まれて引き返していくような様子も捉えられていた。

 原子炉に大きなダメージがあったとの報告はないが、危機的状況だったのは間違いない。長崎大の鈴木達治郎教授(原子力政策)は「偶発的に重要な設備が損傷したり、運転員が負傷したりして破滅的な事故に進展する可能性はあった。幸運にも大きな被害がなかったに過ぎない」と強調。「原発が抱えていた潜在的なリスクが現実のものになってしまった」と話す。

技術者軟禁 緊迫したチェルノブイリ

 ロシア軍は侵攻直後の2月24日、事故を起こした4号機などの管理が続くチェルノブイリ原発を制圧、1ヵ月以上にわたり占拠した。一時は外部電源が絶たれ、核物質監視システムのデータ送信が止まったほか、管理に当たる技術者が軟禁状態で勤務を強いられるなど緊迫した状況が続いた。

 同原発は1986年4月26日、試験運転中の4号機が爆発。大量の放射性物質が飛散し、近隣のベラルーシなど広範囲を汚染した。深刻度を示す国際尺度は東京電力福島第1原発事故と同じ最悪の「レベル7」。原発の西側に広がる森は特に汚染が深刻で、放射性物質の影響で枯れた木の色から「赤い森」とも呼ばれる。

 4号機は、溶融核燃料(デブリ)がある原子炉建屋ごと「石棺」というコンクリート製の構造物と鋼鉄製シェルターで覆い、放射性物質の飛散を防いでいる。他に事故後も運転を続けて2000年までに停止した1〜3号機や、約2万本ある使用済み核燃料の管理も必要な状態。同原発を訪れた国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は、危険な制圧によって事故を引き起こす恐れを高めたとロシアを批判した。


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SNSが主戦場 攻防激化(2022/5/5 京都新聞)

 ロシアのウクライナ侵攻によって、交流サイト(SNS)などサイバー空間を舞台にした情報戦が激化している。ロシアは人工知能(AI)も駆使して偽の動画や情報を発信したが、ウクライナや西側メディア、米IT大手はうそを次々と指摘。ウクライナに混乱を引き起こし、短期間で決着をつけるもくろみは頓挫した。専門家は「SNS時代の新たな戦争の形だ」と分析し、日本も備えが重要だと説く。

ロの偽情報 欧米が即指摘

 「武器を捨て、家族の元へ帰ろう。この戦争は死ぬ価値がない」―。ウクライナのゼレンスキー大統領が、飾り気のない緑色のTシャツ姿で、国民にロシアへの降伏を呼びかける。いつもの服装だが、首から下は動きのない不自然な動画が3月16日、フェイスブックなど複数のSNSに投稿された。

 フェイスブックを運営するメタなど米IT大手の動きは素早かった。AIによって合成された偽動画だと判定し、SNSから削除して拡散を抑えた。ウクライナの軍や国民に動揺は広がらず、本物のゼレンスキー大統領は「子どもじみた挑発だ」とSNSに投稿、余裕を見せた。

 外国勢力が偽情報を発信し、社会の混乱や政府の信用失墜に乗じて軍事侵攻する戦争は「ハイブリッド戦」と呼ばれる。サイバー攻撃で政府や軍の指揮系統をまひさせる作戦も加わるのが通例だ。2014年のロシアによるウクライナ南部クリミア強制編入は「ハイブリッド戦のお手本」(防衛省調査課)とされる。

 しかし、ウクライナ侵攻ではロシアのハイブリッド戦は不発のままだ。ウクライナがクリミア強制編入の反省を踏まえて防衛策を練り上げ、西側メディアや米IT大手が偽情報に厳しい姿勢で臨んでいるためだ。

 ロシアが侵攻後に「ゼレンスキー大統領が首都キーウ(キエフ)から逃亡した」との偽情報を流すと、ゼレンスキー大統領は自ら撮影した動画をSNSに投稿した。キーウの街並みを背に「私たちはここにいる。国を守る」と語り、偽情報に対抗した。

 西側メディアも偽情報を暴いた。3月上旬、ウクライナ南東部マリウポリの病院がロシア軍の空爆を受け、妊婦が避難する写真が公開されると、ロシアは「妊婦は俳優が演じた偽物だ」と主張した。

 英BBC放送は写真から妊婦のSNSを特定し、過去の投稿写真から実際に妊娠し、マリウポリに滞在していたと突き止めた。

 米紙ニューヨークータイムズはロシア軍が撤退したキーウ近郊ブチヤで多数の民間人の遺体が確認されたことについて、撤退後にウクライナがロシアを陥れるために遺体を置いた」などとするロシアの主張を検証。衛星写真からロシア軍の管理下にあった3月中旬には遺体が撮影されており、ロシアの主張は事実でないと証明した。

 ツイッターはウクライナ侵攻後、少なくとも7万5千件以上の投稿を「虚偽の内容を含む」として削除するなどの対応を取ったと明らかにした。

 日本大の小谷賢教授(国際政治学)は「ロシア寄りのコメントをヤフーなどのニュースサイトに書き込むなど、これまでも工作があると指摘されている。既に偽情報は日本にとって対岸の火事ではない」と指摘。「クリミア強制編入後、対応能力を上げてきた欧米と違い、日本は偽情報を検証する組織がない。対応できる機関が必要だ」と訴えた。

米サイト遮断 統制厳しく

 ロシアはウクライナ侵攻とともに国内に厳しい情報統制を敷き、フェイスブックなど米国の交流サイト(SNS)を遮断した。政府に批判的な独立系メディアは事実上活動を停止し、国営メディアが政府の主張に沿った戦況や国際情勢を一方的に報じる。統制をかいくぐってSNSから情報を得るため、インターネット上の所在地を偽装できるVPN(仮想専用線)を使う人が増えている。

 ロシアのプーチン大統領は3月4日、軍に関する「偽情報」拡散に対し最長で懲役15年を科す法案に署名。反戦世論を抑えるためとみられ、政府が主張する軍事侵攻の正当性を批判すれば、偽情報を拡散したとされて記者が拘束される恐れがある。

 英BBC放送や米国のCNNテレビなどの西側メディアは、ロシア国内の活動を一時停止した。昨年のノーベル平和賞受賞者、ドミトリー・ムラトフ編集長が率いるロシアの独立系新聞「ノーバヤ・ガゼータ」なども当局から警告を受け、軍事作戦終了までの活動停止を発表した。

 ロシアは報道機関だけでなく、ニュースを拡散するSNSも締め付ける。通信規制当局はフェイスブックやインスタグラム、ツイッターといったSNSに加え、グーグルのニュース検索サービス「グーグルニュース」を遮断した。

 ただ、ネットは世界とつながつており、当局が全てを遮断するのは難しい。利用者がVPNによってネット上の所在地をロシア国外と偽れば、サイトの閲覧は可能だ。英ネット調査会社のTOP10VPNによると、ウクライナが侵攻された2月24日以降、ロシアからの1日当たりのVPNへのアクセス数は、侵攻前1週間の1日平均と比べ最大で約27倍に跳ね上がった。

 匿名性の高い闇サイト「ダークウェブ」を利用し、通信規制当局の監視の目から逃れることも可能だ。ダークウェブを閲覧できるソフトでツイッターやフェイスブックなどに接続できる。

自ら首絞め、孤立深める日本国際問題研究所・桑原響子研究員

 偽情報を使った情報戦はロシアが得意としてきたが、ウクライナ侵攻では失敗どころか自らの首を絞めている。情報戦の手口が明らかになり、国際社会の信用を失って孤立を深めつつある。

 大きな原因はロシアの読みの甘さだ。ウクライナのリーダーとしてのゼレンスキー大統領を過小評価していた。侵攻直後にロシアは「セレンスキーが逃げ出した」という偽情報を流した。

 これに対し、ゼレンスキー大統領は首都キーウにいることが分かる自撮りの動画を交流サイト(SNS)に即時に投稿し、偽情報を暴いてみせた。着飾った軍服やスーツではなく、Tシャツ姿で連帯を訴えかけることで、国民を鼓舞し、国際社会の圧倒的な支持を勝ち取った。

 もう一つの原因は偽情報の質の低さだ。ロシアの情報戦はもともと「質より量」だ。国家ぐるみで大量に流すことで混乱を引き起こせるはずだった。ところが欧米のメディアや専門家らによって次々と見破られている。

 SNSが普及し、画像や映像の分析技術が向上するなど、取り巻く状況は大きく異なっているのに、ロシアの打つ手はこうした欧米諸国の動きに対応しきれないようだ。ロシアとの緊張関係の中で、ウクライナや欧米が対策に取り組んだ成果だ。

 偽情報による情報戦はさらに巧妙になっていくことが予想される。日本には日本語という言語の壁があり、欧米と比ぺ海外からの偽情報の危険にさらされてこなかった。それだけに対策が遅れている。台湾有事などで偽情報の攻撃を受けたときに、ウクライナと同じような対応ができるかどうかは疑問で、対策を強化する必要がある。


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製鉄所 ロシア「3日間停戦」(2022/5/6 京都新聞)

【リビウ(ウクライナ西部)共同】ロシアのペスコフ大統領報道官は5日、ウクライナ南東部マリウポリでウクライナ側部隊が事実上最後の拠点とするアゾフスターリ製鉄所について、ロシア軍が包囲を続けていると明らかにした。ウクライナメディアなどによると、ロシア側は4日まで激しい攻撃を加えたが、同日夜に一転、「指導部の決定」として、民間人退避のため日中の戦闘を5日から3日間停止すると発表した。退避は何度も失敗しており、実現性は不透明だ。

 首都キーウ(キエフ)に避難しているマリウポリのボイチェンコ市長はロシアの停戦発表に先立ち4日、共同通信とオンライン会見し、ロシアの「大虐殺」を非難。製鉄所には子ども約30人を含む民間人200人が取り残されていると明らかにした。

 一方、ロシア元首相のキリエンコ大統領府第1副長官ら2人が4日、マリウポリを訪問。ロシアは4月にマリウポリの「制圧」を宣言しており、訪問により実効支配を誇示した形だ。製鉄所を巡る一方的な戦闘停止発表は内外の世論を意識し、人道的配慮を強調する狙いがあるとみられる。

 製鉄所で抵抗を続けるウクライナ内務省系の軍事組織アゾフ連隊の司令官は4日、「血みどろの戦い」が行われていると動画で主張。同国大統領府長官顧問は、突入したロシア軍を押し返したものの「依然として危機的な状況だ」と訴えた。


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自閉症の子 避難で症状悪化(2022/5/7 京都新聞)

 「最も弱い人たちに目を向けてほしい」。ロシアによるウクライナ侵攻で避難を余儀なくされた人たちの中には、自閉症など発達障害の子どもを抱える家族もいる。異なる環境への適応が難しい子どもが多く、極度のストレスにより症状が悪化するケースも。西部リビウの支援団体代表は「戦時下で、より手厚い支援と周囲の理解が不可欠だ」と訴えている。

 全土からの避難民が集まるリビウ。4月30日、自閉症の児童を支援するNGO「スタート」が運営する施設の一室で、ロスティスラウくん(7)が心理士のドミトロさん(23)と遊具で遊んでいた。

 「ゆっくりだけど、症状が落ち着いてきた」。母親のズベニスラワさん(47)が目を細めた。侵攻が始まった2月24日、夫と息子の3人で暮らしていた首都キーウ(キエフ)近郊ホストメリにロシア軍が迫った。低空飛行の戦闘機のごう音が響く中、一家は車で48時間かけてリビウにたどり着いた。

 郊外に住む夫のきょうだいのもとに身を寄せ、一部屋に家族3人で暮らす。狭い空間でロスティスラウくんは感情をはき出せる場所がなく「突然叫び声を上げたり、泣き出したり、行動が攻撃的になった」という。

 ロスティスラウくんは週2回、施設で専門家による療育を受ける。「感情のコントロールができるようになってきた。戦争前の状態に戻せるという希望が持てる」。ズベニスラワさんも精神的に不安定な状態が続いていたが「負担が軽くなった」と笑顔を見せた。

 施設は自身も自閉症の長男を育てるアンナさん(34)が2年前に設立した。寄付で運営し、避難民は無料で受け入れている。「自閉症の子どもたちは感情がうまくコントロールできないが、戦争という状況の中、暗闇を怖がったり、わずかな音でも耳をふさいだりと、より敏感になっている」と指摘する。

 現在は避難してきた子どもら約30人を含む約150人が通い、40人ほどの心理セラピストら専門家が支援に当たる。専門家のうち7人は東部ハリコフ州など激戦地から逃れてきた人たちだという。

 「健常者も苦しんでいるが、障害がある子やその家族は何倍も苦労があり支援を必要としている。弱者の置かれた立場を世界中の人にもっと理解してもらいたい」。アンナさんは力を込めた。(リビウ共同)


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ロシア 芸術・芸能界が反戦(2022/5/7 京都新聞)

 ロシアの芸術・芸能界でウクライナ侵攻に反対する声が上がり、当局が対応に躍起となっている。ボリショイ劇場では愛国心の高揚が求められる9日の対ドイツ戦勝杞ま日を前に、予定されていた複数の演目が差し替えられ、当局が介入したとの見方が出ている。

 ロシア通信などによると、6〜8日に同劇場で予定されていたバレエ「ヌレエフ」が、古代ローマの奴隷の反乱を描いた古典的作品「スパルタクス」に差し替えられた。オペラ「ドン・パスクワーレ」も別の作品に変更された。公演直前の差し替えは異例。劇場はチケットの払い戻しに応じるとしているが、変更理由は説明していない。

 ボリショイのウリン総支配人は2月24日の侵攻直後に他の劇場関係者らと共同で「新たな戦争に反対する。21世紀は希望と対話の世紀であるべきだ。軍事行動をやめ、人間の命を守るよう呼びかける」とのアピールに署名。関係者によると、このためボリショイは文化省からにらまれていた。

 「ヌレエフ」はソ連時代に亡命した天才的バレエダンサー、ルドルフ・ヌレエフが題材。ロイター通信によると、演出したセレブレンニコフ氏は先月、フランスメディアのインタビューで「これは戦争、人殺しだ」とウクライナでの軍事作戦を批判し、「ドン・パスクワーレ」の演出家も同様の姿勢を表明していた。

 また歌手アーラ・プガチョワさんの夫で人気テレビ司会者のマクシム・ガルキンさんは侵攻開始後にイスラエルに出国。4月下旬、ウクライナでのミサイル攻撃を批判するビデオメッセージを公表して話題になった。ロシア政府系テレビ「第1チャンネル」は今月2日、夜のバラエティー番組からのガルキンさん降板を発表した。(共同)


安保理、侵攻巡り初声明(2022/5/8 京都新聞)

【ニューヨーク共同】国連安全保障理事会は6日、ロシアが侵攻したウクライナ情勢を巡り「ウクライナの平和と安全の維持に関して深い懸念を表明する」との議長声明案をロシアも含む全会一致で採択した。侵攻以降、安保理の公式な見解となる議長声明は初めて。平和的解決に向けたグテレス国連事務総長の努力への「強い支持」も示した。

 声明は「戦争」や「侵攻」などの表現を省くことでロシアの合意を取り付けた。機能不全が指摘される安保理として最低限の一体性を示した。グテレス氏は6日「安保理はウクライナの平和のため初めて声を一つにした。私は人命を救い、苦しみを減らし、平和への道を見いだすための努力を惜しまない」との声明を出した。

 安保理では2月にロシア非難の決議案が常任理事国としてロシアが持つ拒否権の行使により否決され、その後も一致した対応が取れないでいた。      」

 ノルウェーとメキシコが作成した声明は1ページで、国連事務総長の仲介努力の支持に加え事務総長に今後の情勢報告を求めることなど誰もが反対しにくい4項目に絞られた。声明は「ウクライナの平和と安全の維持に深い懸念」を示したが、ロシアに関する言及は一切ない。メキシコのデラフエンテ国連大使はロシアが「少なくとも(外交に)進む意思を示していると言える。最初の一歩だ」と評価。ノルウェーのジュール国連大使も「平和的解決に向けた国連事務総長の努力を安保理が全面的に支持することが重要だ」と強調した。


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戦果誇示 狙い不発に(2022/5/10 京都新聞)

 ロシアのプーチン大統領が9日、第2次大戦でナチスードイツ軍に勝利したことを祝う式典で演説した。「ウクライナのネオナチ政権に迫害されるロシア系住民を救う」との建前で始まった侵攻の戦果を誇示する絶好機だが、苦境続きで結果は乏しく不発に終わった。国内で大規模動員を可能にするため「戦争」を宣言するとの観測もあったが、国民の猛反発が予想され今回は見送られた。

 「絶対に受け入れられない脅威が国境沿いにつくられた。ネオナチとの衝突は避けられなくなった」。曇天に覆われたモスクワのクレムリン(大統領府)北東の「赤の広場」。兵士らが眼前を埋め尽くす中、演説に臨んだプーチン氏の顔色は天気同様、さえなかった。

 プーチン氏は、早期制圧を狙うウクライナ東部ドンバス地域に6回も言及、侵攻の正当化に躍起になった。北大西洋条約機構(NATO)が脅威を高めたと主張し、侵攻は先制的に対処するための「唯一の正しい決定だった」と訴えた。

 ウクライナの戦地から戻った兵士らも参列。プーチン氏はナチス・ドイツと戦つた「英雄」を引き合いに出し、「あなたたちは祖国とその将来のために戦っている。世界にナチスの居場所はない」と大義を訴え、侵攻継続の意思を明確にした。

 米欧の国防当局者の間ではプーチン氏が「戦争」を宣言し大規模動員を命じるとの分析もあったが、言及はなかった。

 2ヵ月半の侵攻ではウクライナ民間人数万人が殺害され、一部都市は壊滅した。それでもプーチン政権は侵攻を「特別軍事作戦」と強弁、当局は当初、戦争や侵攻といった表現の削除をメディアに命じていた。

 戦争宣言が取り沙汰されたのは、約1万5千人(英政府推計)の戦死者を出したロシア軍が兵士を補充するため、大規模動員の必要に迫られているとの分析からだった。だが、大規模な徴兵は世論の怒りを巻き記こすことが予想される。戦争に格上げすれば、これまでの作戦の行き詰まりを自ら認めたとの受け止めが広がる恐れもあった。

 プーチン氏は侵攻の成果もアピールできなかった。2月24日に始まった侵攻は主に三つの段階を進んだが、いずれでもロシアが苦戦。首都キーウ(キエフ)を短期間で陥落させる第1段階は、ずさんな作戦立案とウクライナの反撃で頓挫した。次にキーウなどの包囲戦で降伏を迫ったが、補給線が伸び切って食料や燃料不足に陥り、兵士の士気が低下。3月末に北部撤退に追い込まれた。第3段階でドンバスに戦力を重点配置して掌握を狙うが、膠着が続く。

 ドンバスの要衝マリウポリの製鉄所では、内務省系軍事組織アゾフ連隊が抵抗。プーチン政権が「ネオナチ集団」と決め付ける同連隊を撃破すれば、恰好のアピール材料となったが、9日に間に合わなかった。

 ロシアは、ドンバスからモルドバ国境に近いオデッサに至る黒海沿岸一帯の支配を視野に入れる。しかし部隊は疲弊、補給間題も解消されていない。最低限の目標とも言えるドンバス制圧すらおぼつかないありさまだ。

 ロシア政治が専門の笹川平和財団の畔蒜泰助主任研究員は「現在の苦境を考えれば、プーチン氏は世論を見極めてどこかのタイミングで国民の動員を命じるのではないか。戦争は少なくとも半年間は続くだろう」と予測した。


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「一片の土地も与えぬ」(2022/5/10 京都新聞)

【キーウ共同】ウクライナのゼレンスキー大統領は欧州が第2次大戦の終戦記念日とする8日にビデオメッセージを発表し、ロシアの侵攻について「第2次大戦から数十年過ぎ、闇がウクライナに再来した。制服や標語は異なるが、血塗られたナチズムがウクライナに再現された」と述べ、ナチス・ドイツと重ねてロシアを非難した。9日にもビデオメッセージを発表、ロシア軍を念頭に「一片の土地も与えない」と強調し、勝利への決意を示した。

 8日のビデオメッセージでゼレンスキー氏はTシャツ姿で首都キーウ(キエフ)近郊の破壊された集合住宅を背に立ち、ロシアの攻撃で「2万人が殺された」と言及。惨状をナチス・ドイツが侵攻した欧州各国の姿と重ねた。


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侵攻正当化 対独戦勝に重ね(2022/5/10 京都新聞)

 ロシアのプーチン大統領は8日、第2次大戦で当時のソ連がナチス・ドイツの侵略に打ち勝ったことを祝う9日の対ドイツ戦勝記念日を前に旧ソ連諸国の首脳や国民にメッセージを送り、「人々に戦争の災禍をもたらしたナチズムの復活を許さないことが共通の義務だ」と強調した。ロシア大統領府が発表した。

 2月にウクライナの「非ナチ化」を掲げて侵攻に踏み切ったロシアのプーチン大統領にとって今年の戦勝記念日は特別な意味を持つ。当時のソ連がナチス・ドイツの侵略をはね返し欧州をファシズムから解放した77年前の「神聖な戦い」を今回の軍事作戦に重ね合わせようとしているからだ。メッセージは「若い世代に歴史の真実を伝え、われわれ共通の精神的価値と伝統的友好関係を維持する必要がある」と指摘した。

 プーチン氏は交戦中のウクライナに対しては首脳ではなく国民向けにメッセージを送り、「先の大戦で壊滅させられた連中の思想的後継者の復讐を許してはならない」と述べている。だが自身が「兄弟国」と呼ぶ隣国をなぜ攻撃しなければならないのか、プーチン氏の説明がロシア国民に十分浸透しているとは言い難い。侵攻開始から既に2ヵ月半。政権の影響下にある主要テレビが例年にも増して「勝利の日」の意義を強調する姿は、プーチン政権の焦りの反映ともいえる。

 侵攻の真の動機は北大西洋条約機構(NATO)拡大阻止とロシアの安全保障確保だった。また独ソ戦と違い、今回はロシアが先制攻撃している。それを正当化するために強調しているのが、東部の親ロ派支配地域をウクライナ政権側が絶えず攻撃し、行政サービスからも切り離して「ジェノサイド(民族大量虐殺)」を行ってきたという主張だ。

 プーチン氏は侵攻当日の演説でも、ナチスの電撃侵攻に遭い績戦で多大な犠牲を払った過ちを「繰り返すことは許されない」と訴えている。

 大戦で2700万人ともいわれる犠牲を出し、多くの世帯に従軍経験者がいるロシアで、「ナチズムとの戦い」は国民の共感を得やすい。反ロ民族主義的なウクライナ軍事組織「アゾフ連隊」などを「ネオナチ」と位置付け「ナチスの復活を許すな」という訴えには、平和に慣れた国民を団結させる狙いがある。

 だが世論調査では軍事作戦への「支持」が3月の81%から4月には74%と7ポイント減少。政権の説明を疑問視する傾向も現れ始めている。(共同)


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ウクライナ侵攻 市場に変調(2022/5/13 京都新聞)

 ソフトバンクグループ(SBG)の2022年3月期連結決算は、記録的な巨額赤字となった。新興企業の成長を信じて資金を投じるSBGにとって、ロシアのウクライナ侵攻をきっかけにした市場の変調が大きな逆風となった。一方、新型コロナウイルス禍からの経済再開を背景に製造業や海運業では好決算が相次いでおり、主要企業の聞で明暗が分かれている。

 SBGの業績が大幅に悪化したのは、傘下のファンドなどを通じて保有する新興企業の株式の価値が減少したためだ。

 いつもは強気な孫正義会長兼社長も、12日の記者会見では「雨が降ったら傘を差す」と当面は新規投資を抑制する姿勢を強調した。

 一方、孫氏は「本質的なテクノロジーの進化は止まらない」とも指摘。急速に進んだ社会のデジタル化の流れは続くとみて「1〜2年はもたつくかもしれないが、われわれのインターネットや人工知能(AI)の業界は反動で激しく伸びる」との見方を示した。

 投資会社となったSBGとは対照的に、コロナ禍からの経済再開や円安進行は国内の大企業の追い風となり、22年3月期は記録的な好決算が相次いでいる。トヨタ自動車は、アジアや北米での販売回復を背景に純利益が過去最高を記録し、映画事業が好調だったソニーグループも営業利益が初めて1兆円を超えた。


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欧州秩序 地殻変動(2022/5/13 京都新聞)

ロシア、自らの首絞める

 フィンランドが北大西洋条約機構(NATO)加盟申請にかじを切った。ロシアのウクライナ侵攻を受け非同盟政策から転換し、スウェーデンも続ぐ勢いで、戦後の欧州秩序の地殻変動が始まった。ロシアはNATO拡大を阻もうとワクライナに侵攻したが、逆に北西の隣国を加盟申請へと追いやった。自らの首を絞めたロシアは、北欧周辺への核配備をちらつかせてけん制している。

 「ロシアが始めた戦争は、欧州全体の安全を危機に陥れた」。フィンランドのハービスト外相は12日の演説で訴えた。ロシアは「予測不能」で、「われわれにとって極めて危険な作戦」に打って出る恐れを指摘した。

 ロシアと1300キロの国境を共有するフィンランドの懸念には歴史的背景がある。19世紀初めから帝政ロシアに組み込まれ、1917年のロシア革命を機に独立。しかし、第2次大戦中にソ連に2回も侵攻され、約10万人が犠牲になり、領土の1割を奪われた。

 戦後は、圧倒的な武力を持つソ連やロシアを刺激して侵略の口実を与えないよう腐心。大国との争いに巻き込まれないよう導き出した答えが、非同盟主義だ。ソ連解体後に欧州連合(EU)に入ったが、ロシアとは強い結び付きを保ってきた。

親密な関係

 12日の声明で加盟の必要性を訴えたニーニスト大統領も、プーチン大統領と親密な関係を築いた。2012年には両国国旗をあしらったユニホームでアイスホッケーをプレー。独立100年を迎えた17年にはプーチン氏がフィンランドを訪れ、ロシアの作曲家チャイコフスキーのオペラを共に鑑賞、友好を祝った。

 フィンランド世論も非同盟をおおむね支持してきたが、侵攻が始まった2月24日以降は激変。侵攻前は加盟支持が2割程度だったが、3月には62%、ロシア軍の残虐行為が次々明るみに出た後の5月上旬には76%に急伸した。

 NATOは「(フィンランドは)申請さえすれば容易に加盟できる」(事務総長)として、積極的に受け入れる考えだ。

 フィンランドは徴兵制を敷き欧米メディアによると、予備役は全人口の16%に当たる約90万人で欧州最大規模。ステルス戦闘機F35の調達を決め、主要建物には地下シェルター設置を義務付ける。同国が入れば、北欧、バルト海でNATOの防衛力が飛躍的に向上、軍事的メリットは大きい。

 新規加盟がロシアをいら立たせ、欧州の安定に負の影響を及ぼす面もある。フィンランドが攻撃された場合、集団防衛義務に従ってNATOが戦争に巻き込まれる。だが、ブリュッセル自由大のシモン教授は、ロシアの脅威を目の当たりにした欧州は「もはや後戻りできない」と指摘した。

「鏡を見ろ」

 ロシアは早速反発。ペスコフ大統領報道官は「NATOの拡大は、われわれにとって安全と安定をもたらさない」と強調、フィンランドの加盟はロシアにとって「疑いなく」脅威だと批判した。メドベージェフ安全保障会議副議長は4月中旬、「国境の防衛を強化する。バルト海周辺の非核化構想も忘れるしかない」と威嚇。フィンランドとスウェーデンはロシアの核の脅威を覚悟する必要があるとけん制した。

 ニーニスト氏は5月11日の記者会見で「ロシアは隣国に攻め込む準備ができている」と指摘。加盟申請について問われるところ答えた。「この事態を引き起こしたのはあなた(ロシア)だ。鏡を見ろ」(ロンドン、ブリュッセル共同)


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戦地の孤児「なぜ逃げるの?」(2022/5/14 京都新聞)

 ウクライナ東部や南部の戦線から離れた西部リビウの孤児院が、避難民となった孤児を受け入れている。「どうして逃げなきやいけないの。どこに行くの」。ある子は不安げに尋ねた。突然の環境変化が心の傷を広げ、鳴りやまない空襲警報が不安をかき立てる。職員は、戦争が長引けば里親探しや養子縁組も難しくなると心配している。

 平日の午後2時前。幼児を中心に受け入れるリビウ州立の孤児院では、子どもたちが小さなベッドで寝息を立てていた。職員のイリーナ・ベレニツカさん(36)は「警報サイレンで起こされないといいけれど」と静かな声で言った。

 3月上旬、南部ザポロジエの孤児院から20人以上が避難してきた。列車に乗り、1日がかりだった。同行した小児科医オリガ・アリヤブチェンコさん(54)は「攻撃の標的にならないよう消灯した真っ暗な車内で、子どもたちは、じっと耐えていた」と振り返った。

 ほとんどが4歳未満で、何が起きているのか正確には理解していない。職員たちは「戦争前と変わらないように」と努めるが、食事中でも、遊んでいても、サイレンのたびに薄暗い地下室へ急ぐ。泣き出す子どもは少なくない。地工室には毛布が敷かれ、ぬいぐるみや絵本が置かれていた。

 リビウにある別の州立孤児院には、2月のロシアによる侵攻開始直後に東部ルガンスク州セベロドネツクの孤児院から40人が逃げてきた。職員のハリナ・カチャノフスカさん(56)は「戦争は、もともとあったトラウマを、さらに大きくさせている」と強調する。

 ルガンスク州は、ロシアが完全掌握を狙う東部2州のうちの1州。ウクライナ側の抵抗拠点となっているセベロドネツクでは激しい戦闘が続く。この孤児院も、避璧完了後にミサイル攻撃で破壊された。

 治療のため隣国スロバキアに出国した幼い子は「サイレンが鳴らない」と安心した様子で語ったという。汚い言葉でロシアのプーチン大統領をののしる子もいる。

 戦時下では、里親になることや養子縁組を希望する人がいても、審査や手続きが進まない。先が見えない状況は職員も同じだ。カチヤノフスカさんは「子どもの話を注意深く聞き、小さな変調に気付いてあげられるかが大事だ」と話した。 (リビウ共同)


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1カ月で子100人犠牲(2022/5/14 京都新聞)

【リビウ共同】ウクライナ軍は12日、北部チェルニヒウ州の学校と学生寮にロシア軍が複数のロケット弾を撃ち込み、少なくとも3人が死亡、12人が負傷したと明らかにした。国連児童基金(ユニセフ)のアブディ事務局次長は12日、ウクライナではこの1ヵ月間で100人近くの子どもが犠牲になったとし「実際の数はより多いと考えられる」と指摘した。

 東部ルガンスク州で7日、避難民が身を寄せていた学校への空爆で約60人が死亡したと伝えられ、民間施設攻撃に国際的な非難が高まっていた。

 ウクライナ内務省系の軍事組織アゾフ連隊は13日までに、南東部の要衝マリウポリでの抵抗拠点アゾフスターリ製鉄所で、ロシア軍と地上戦を繰り広げる様子だとする動画をインターネット上に公開した。南部の主要港湾都市オデッサを巡る攻防も激化しており、ウクライナ側は黒海でロシア海軍の艦船に損害を与えたと発表した。

 ロシア国防省は、12日にウクライナ東部ハリコフ州や、親ロ派部隊が支配地拡大を図るドネツク、ルガンスク両州でウクライナ側の弾薬庫などを精密誘導ミサイルなどで攻撃したと発表。オデッサ沖の黒海西部にある戦略的拠点、ズメイヌイ島の上空でウクライナ軍無人機1機を撃墜、弾道ミサイル3発を迎撃したとも明らかにした。

 ウクライナ側によると、マリウポリの製鉄所には千人以上の兵士が残り、うち数百人が負傷。重傷の兵士を退避させる代わりにロシア兵捕虜を引き渡す交渉が続いており、ベレシチユーク副首相は12日、特に負傷程度が重い38人が対象だと明らかにした。ロシアのペスコフ大統領報道官は13日、ウクライナ側の兵士が武器を捨てて投降すれば退避は可能だと述べた。


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沖縄本土復帰50年(2022/5/15 京都新聞)

沖縄県は15日、日本復帰から50年となった。沖縄を巡る山積する課題について、地元の沖縄夕イムスと琉球新報の編集局長に寄稿してもらった。 【沖縄タイムス】台湾有事 県民不安大きく

編集局長 与那嶺一枝

 沖縄県は15日、日本復帰から50年となった。沖縄を巡る山積する課題について、地元の沖縄夕イムスと琉球新報の編集局長に寄稿してもらった。

 憂鬱。

 復帰50年を迎える沖縄にいて、一言で表すならこの言葉がしっくり来る。

 復帰して「良かったと思う」と答えた沖縄県民が94%に達している(共同通信社調査)にもかかわらず、祝意でも失望でもなく憂鬱である。

 米軍施政権下に比べると、インフラ整備が進んで観光業が発展して暮らし向きは向上し、日本国憲法の施行で人権状況も改善した。「良かったと思う」が復帰直後の55%から右肩上がりに増加したのは当然だろう。

 しかし、だからといって、復帰時に積み残された米軍基地問題を県民が不問にしているわけではない。基地の整理縮小は遅々としているし、人権意識の高まりに比して日米地位協定の改正や基地から派生する事故の防止策はまったく追いついていない。一部地域では飲み水にさえ影響が取り沙汰されるなど新たな環境問題も起きている。

 だが、憂鬱の理由はほかにある。一つは女性への深刻な人権侵害である暴行事件が依然として起き続けていることだ。

 今月下旬には米海兵隊員が強制性交等致傷罪に問われた裁判員裁判が開かれる。事件が起きたのは商業施設や住宅が立ち並ぶ場所。米軍属による6年前の女性暴行殺害事件をきっかけに、政府が再発防止策として始めた安全パトロール事業の通称・青パトが頻繁に行き交う地域でもある。

 青パトに使うための予算は2021年度までの5年間で46億円余。毎日100台ほどが巡回しているが、米軍関連の通報は10件にとどまる。われわれは費用対効果について度々検証してきたが、今回の事件で小手先だけの対策はまったくの無駄であることが露呈した。

 もう一つは、激変する安全保障環境だ。復帰を機に自衛隊は沖縄島へ配備されたが、近年、急速に「南西シフト」を進めている。

 晴れた日には台湾が見える与那国島に16年、陸自の沿岸監視隊を配備。宮古島には20年にミサイル部隊、石垣島には来年3月に駐屯地を完成させる。

 配備が着々と進むころ、中国の習近平指導部は香港の民主化運動に強硬姿勢で臨んだ。そのさまは、台湾統一を目指す習指導部の手法を見せつけているようで、近い将来、沖縄に火の粉が飛んで来る前触れのように思えた。

 そして、習氏が固唾をのんで行方を注視しているというロシアによるウクライナ侵攻である。

 ウクライナ侵攻を発端に、政治家からは「台湾有事は日本有事」「核共有」「防衛予算倍増」「敵基地攻撃能力」といった勇ましい発言ばかりが聞こえてくる。

 安全保障が語られるときは常に机上の大きな政策や議論がつきまとうが、沖縄の実感からするとリアルではない。

 台湾有事の備えというならば、外交力の強化策や、武力衝突に巻き込まれる可能性が高いといわれる146万沖縄県民を守る議論が政治家から出てこないのはなぜだろう。日本の中で最も切実に生活者が安全保障について考え、民主主義を問うてきた沖縄からの率直な疑問である。沖縄タイムスなどの世論調査では85%が武力衝突に巻き込まれる不安を感じていると回答しているのだ。

 復帰50年の節目に、米軍基地の負担に加えて、先祖返りしたような地政学的な台湾有事への懸念までも押し付けられる事態になるとは、あまりにも皮肉だ。 【琉球新報】見て見ぬふり構造的差別

編集局長 松元剛

 沖縄の施政権が返還された1972年5月15日付の琉球新報―面は「変わらぬ基地続く苦悩」のぷち抜き横見出しに、縦8段の「いま祖国に帰る」を丁字形に据えた。今も、当時の県民感情を端的に表した歴史的紙面と評価されている。

 那覇市で催された新沖縄県発足式典で屋良朝苗知事は「常に手段として利用されてきた沖縄を排除し、平和で豊かで希望の持てる県づくりに全力を挙げたい」と語った。

 この日、小学1年だった私は父親に「米軍基地付き返還」に抗議する県民総決起大会に連れ出された。「沖縄の涙雨」と称された土砂降りの中、数千人の大人がみな怒っていた記憶がある。

 あれから半世紀、県民生活をかき乱す基地の重い負担はほとんど変わっていない。女性が性被害に遭う米兵事件は後を絶たず、政府は沖縄の民意を無視し、普天間飛行場の名護市辺野古移設を伴う新基地建設を強引に進めている。

 本土との格差是正を進めるはずの振興予算は、基地の沖縄集中の温存を図る「アメとムチ」の性質を色濃くしている。

 ロシアのウクライナ侵攻後、中台両国の有事をも想定した敵基地攻撃論や核兵器の共有論が独り歩きしている。有事に至るなら、基地の島・OKINAWAが標的になりかねない。きなくささが増す中、むしろ沖縄の基地負担は増している。

 宜野湾市の南方から北向けに撮った航空写真には、海兵隊の普天間飛行場と空軍の嘉手納飛行場が映り込む。両基地の滑走路は10キロも離れていない。住民生活は置き去りにされ、軍事優先の訓練が続く。車の前1〜2メートルで聞く警笛音に匹敵する爆音が数十回も響く日もあるが、止める手だてはほぼない。海兵隊と空軍の航空基地がこれほど近い市街地に置かれている例はない。人権をむしばむ在沖米軍基地の過密さは異常である。

 「静かな空を返せ」と国を訴える嘉手納基地爆音訴訟の原告は第1次(1982年提訴)の900人余から、今年1月提訴の4次では3万5566人に増え、全国最大級になった。日米安保体制を容認する人も含め、忍耐の限度を超えたと訴える県民が増え続ける土台に、基地負担の改善に手をこまねくこの国の為政者への強い不信がある。

 沖縄県は日本復帰50年に合わせ「新たな建議書」を打ち出した。負担が沖縄に偏在する基地問題を「構造的、差別的」と言い切ったのが特徴だ。

 これと合致するデータがある。琉球新報の記事データペースで、復帰40〜30年と、復帰50〜40年の10年ごとに区切り「基地差別」を検索すると、1170件から約3千件へと増えている。

 多くの県民が「日米関係(日米同盟)を安定させる仕組みとして、対米従属的日米関係の矛盾を沖縄に集中させる構造的差別」(元沖縄大学長の故新崎盛暉氏)が深まっているのに、大多数の国民が見て見ぬふりを決め込んでいることに不満を募らせている。「不平等」よりも険しい響きを宿す「差別」を用いざるを得ない民意の地殻変動が起きているのだ。

 沖縄に横たわる不条理が改善されるには、国民全体の理解が深まることが欠かせない。今後も「手段」として用いられかねない沖縄に、この国の民主主義が成熟しているかを問うリトマス試験紙のような役割をいつまで課すのか。日本政府を下支えしている本土の国民にも間わねばならない。


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非同盟200年 国是と決別(2022/5/17 京都新聞)

 北欧スウェーデンが隣国フィンランドに続き、北大西洋条約機構(NATO)への加盟申請を決定した。200年以上も非同盟を貫き、非核や軍縮の旗振り役として独自の存在感を放ったスウェーデンでは慎重論が根強かったが、苦渋の末に国是と決別。NATO拡大阻止を狙ったロシアのウクライナ侵攻は、裏目に出た。想定外の事態の進展にロシアの衝撃は計り知れない。

 「スウェーデン人のアイデンティティーが変わることを意味する」。主要紙スベンスカ・ダグブラデットは加盟申請について、こう論評した。

 17世紀にバルト海一帯に帝国を築いたスウェーデンは、18世紀のロシアとの戦争に敗れ沿岸部を奪われ、19世紀初頭のナポレオン戦争期に現在のフィンランドをロシアに明け渡した。国力が低下した中で、どうすれば列強との戦争を回避できるか―。当時の国王がたどり着いたのが、非同盟主義だった。

 2度の世界大戦で中立を保ち、冷戦時代も軍事ブロックに入らなかった。ソ連崩壊後は軍事規模を一時縮小し、2010年には徴兵制も廃止。歴史の荒波にもまれてなお、国是を堅持してきた。

脅威が現実味

 転換を引き起こしたのが、ロシアの脅威だった。プーチン政権による14年のウクライナ南部クリミア半島の強制編入を受け、17年に徴兵制を復活。バルト海にスウェーデンが擁する要衝ゴトランド島南東には、ロシアの飛び地カリーニン・グラード州がある。ロシア軍は現地にバルト艦隊の司令部を置いて活動を活発化させており、軍事的脅威は現実味を増していた。

 14年以降、NATOとの連携強化に取り組んできたが、世論は加盟申請には慎重だった。与党内でも意見が割れた。核戦力を抑止力とするNATOへの加盟が「ロシアとの緊張を高めかねない」(スウェーデン平和仲裁協会のソロモン氏)との懸念があったからだ。

 さらに加盟は、非同盟の立場を活用して非核や軍縮に取り組み、北朝鮮核問題やパレスチナ和平で調停沿を果たしてきた外交方針と矛盾しかねない。国民が誇りとしてきた非同盟主義はスウェーデンに根付いていた。

葛藤する胸中

 それでも、ロシアがウクライナに侵攻し多数の民間人殺害が明らかになると、今月上旬の世論調査では6割が加盟申請を支持するように。建築家モニカースト・ルブランドさん(54)はスウェーデンだけ非加盟では孤立して防衛が困難にたるとし「NATOに入らないで済むなら、その方がいい。でも連帯していた方が安全だ」と話し、葛藤する胸の内を明かした。

 ロシアは表面上「NATO加盟国が30から32になっても大きな違いはない」(メドベージェフ前大統領)と平静を装う。しかし、北欧2国の加盟に関し、政府当局者が執拗に対抗措置に言及するなど、ショックの大きさは隠しきれない。特に1300キロの国境を接するフィンランドの加盟は、西部国境の守りに集中できた国防政策の見直しを迫る。ウクライナで苦戦する現状では、大きな負担。当然、核兵器による抑止力に頼らざるを得ない。(ストックホルム、ロンドン共同)

欧州安保の分岐点

 北欧2力国が北大西洋条約機構(NATO)への加盟申請を表明した。NATOは「歴史的な出来事」(ストルテンベルグ事務総長)だとして歓迎の姿勢を示している。先進的な軍を持つ2力国の加盟はNATOに貢献するとみられる一方、ロシアを刺激し欧州の不安定化の一因になる恐れも指摘される。冷戦後の欧州の安全保障は大きな分岐点を迎える。

 NATOは加盟に際し、当該国の民主主義が強固かどうかやNATOへの軍事的貢献の有無を確認する。スウェーデンとフィンランドはいずれも欧州連合(EU)加盟国で、成熟した民主主義制度は世界的にも名高い。

 ともに近代化された軍隊を備え、欧州メディアによるとフィンランドはF35戦闘機、スウェーデンはパトリオットミサイルを保有。寒冷地での訓練経験も豊富で、北欧やバルト海でのNATOの防衛力は飛躍的に向上するとみられている。

 一方、ロシアは報復も辞さない構えだ。NATO加盟国のリトアニアやポーランドと接するロシア西部の飛び地カリーニングラードに核兵器を配備する可能性もあり「冷戦回帰」の様相を強めている。欧州は安全保障政策の抜本的な変更を余儀なくされそうだ。(ブリュッセル共同)


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民間人2万人犠牲(2022/5/18 京都新聞)

 ロシア軍はウクライナ南東部の要衝マリウポリで、2月末から約80日間もの包囲戦を展開した。市街は無差別の砲撃や空爆にさらされ、民間人2万人超(市議会推計)が犠牲になり、建物の9割以上が全半壊。ウクライナ部隊は巨大製鉄所で抵抗したが、ロシア側は17日「降伏した」と表明。ロシアが仕掛けた陰惨な戦争の象徴となった最大の激戦地が、侵略者の手に落ちる時が来た。

 16日、製鉄所アソフスターリから複数のバスが出発した。中には3段の台に負傷兵らが横たわっていた。車体にはロシア軍の象徴とされる「Z」の文字。行き着いた先は、ロシア支配下の国境近くの街だった。出発と前後してウクライナ側は「戦闘任務完了」を表明、ロシアのマリウポリ完全制圧の流れが決まった。

 ロシアにとって、マリウポリ制圧は象徴的な意味があった。ロシア軍が早期掌握を目指すドネツク州と、2014年に強制編入した南部クリミア半島を結ぶ戦略的要衝に位置する。製鉄業で栄え、物流の要となる港湾を擁する。マリウポリを残したまま州全体の支配は不可能だった。

 さらにマリウポリは、ロシアが「反ロシアのネオナチ集団」と目の敵にする内務省系軍事組織「アゾフ連隊」の根城。撃破すれば、ウクライナ政権をネオナチに仕立て上げたプーチン政権にとり、格好の宣伝材料だ。

 このため、ロシアは侵攻直後から街を包囲し、制圧に全力を挙げた。簡単に屈服しないと知ると、病院や学校、女性や子どもらが逃れた劇場にミサイルや砲弾を無差別に撃ち込み、民間人を殺害して戦意喪失を図った。

 だがアゾフ連隊は士気を保ち、東京都中央区に相当する約10平方キロの広大な敷地を持つ製鉄所で抗戦。ソ連時代に操業を始めた製鉄所には、核戦争にも耐えられるといわれる複数階の地下施設があり、ロシアは手を焼いた。

 地下施設には多数の民間人が逃げ込み、掃討を強行すればロシア軍の犠牲が増えるだけでなく、一般市民を殺害したとの非難が、さらに高まることが予想された。国際世論を味方につけたウクライナのゼレンスキー大統領が「製鉄所の部隊が全滅すれば、一切の停戦交渉から手を引く」と表明したことも、突入をためらわせる要因となった。

 ロシアのプーチン大統領は4月21日、製鉄所にウクライナ部隊を残したまま、中途半端な形でマリウポリ「制圧」を宣言。作戦に加わった部隊を早くドネツク州北西部でのウクライナ軍主力部隊との戦いに投入したい狙いがあったためだ。

 しかし、その後も約1ヵ月にわたって製鉄所の包囲攻撃に戦力を割かれ、ドネツク州を含むドンバス地域の制圧が遅れる一因になった。その間にウクライナ側は欧米から最新兵器の供与を受けて戦力を増強、攻略は困難さを増す。マリウポリを完全制圧したとしても、大局的に戦況を見れば、ロシア軍が苦戦する状況け変わらないとみられる。(共同)


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ロシア 南部編入へ支配強化(2022/5/20 京都新聞)

【キーウ共同】ロシアは18日、一部を支配下に置いたウクライナ南部ザポロジエ州に副首相を派遣し、経済面でのロシア化を進める考えを表明、南部のロシア編入を見据えた動きを加速させた。全域制圧を目指す東部ドネツク、ルガンスク2州では激戦が継続。ロシアは新型レーザー兵器を軍事作戦に投入したと明らかにした。

 ロシアメディアによると、南部ザポロジエ州メリトポリ入りしたフスヌリン副首相は18日、「ロシアの家族として」最大限の支援をすると表明。同州では今月から給与や年金をロシア通貨ルーブルで支払うと述べた。

 フスヌリン氏は、ロシアが管理下に置く南部ザポロジエ原発を巡り、ウクライナ側は同原発の電力を購入するべきだと要求。受け入れない場合、原発はロシアのために稼働させるとも主張した。

 ロシアは、2014年に強制編入したウクライナ南部クリミア半島と東部をつなぐ拠点マリウポリを押さえ、将来的な南東部の統合を目指しているもようだ。クリミアのアクショーノフ首長は18日、ザポロジエ、ヘルソン両州は東部2州と合わせ「同じ一つの国に入るべきだ」と述べ、ロシアへの統合を呼びかけた。

  一方、ロシアのボリソフ副首相は18日、ロシア軍が軍事作戦に新型レーザー兵器を投入したと表明。5キロ先のドローンを破壊できるとしている。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は新型兵器の投入を誇張することは「侵略の完全な失敗」を意味していると強調した。

 ウクライナ国防省報道官は18日、ロシア軍は東部2州でウクライナ軍部隊の包囲を試みていると分析。こうしたロシア軍の作戦は成功しておらず、米CNNテレビによると、北大西洋条約機構(NATO)当局者は18日、今後数週間は双方とも支配地域の目立った拡大はできないだろうとの見方を示した。


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ロシア兵、民間人殺害認める(2022/5/20 京都新聞)

【キーウ共同】ロシアのウクライナ侵攻後、戦争犯罪で初めて訴追されたロシア軍兵士ワディム・シシマリン被告(21)は18日、ウクライナの首都キーウ(キエフ)の裁判所で開かれた公判で、非武装の民間人を銃殺したとの起訴内容を認めた。ロイター通信などが伝えた。最高刑は終身刑という。

 検察側によると、シシマリン被告は2月28日、北東部の村で自転車に乗っていた非武装の民間人男性(62)に発砲して殺害。ロシア軍の存在を通報されないようにするのが目的だったとされる。

 ウクライナはロシアの戦争犯罪に対する追及を本格化させている。一方、ロシアのペスコフ大統領報道官はロイターに「事件の多くはフェイクだ」と述べた。


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ロシア語標識「問題だ」(2022/5/21 京都新聞)

 国民民主党の大塚耕平政調会長が19日ロシア語表記がある道路標識に言及し「問題だ」と書き込んだ。ロシアのウクライナ侵攻を受けたロシア人への差別感情や、それに基づくヘイトスピーチを助長しかねず、批判が拡大。ツィートは削除された。同党の玉木雄一郎代表は20日の記者会見で「排外主義的な観点で捉えられかねない」と強調。大塚氏と協議し削除したと明らかにした。

 削除されたツイードで大塚氏は「ロシアの現状に鑑み、北海道内の道路標識にロシア語表記があることは問題だと思う。なぜこうなったのか調べる」と発言。北海道内とみられる道路標識の画像も添付した。標識には「名寄」「ノシャップ岬」などと日本語で書かれた地名に、英語のほかロシア語が併記されている。

 大塚氏は玉木氏と共に臨んだ20日の会見で「誤解をされるリアクションがあった。いったん削除し、安全保障上の観点だということを理解していただく努力をしたい」と釈明した。反省やおわびの言葉はなかった。  会見と別に、玉木氏はツイッターで大塚氏が削除した経緯を説明。このツイートも後に消した。説明責任の在り方が問われそうだ。交流サイト(SNS)では「むき出しの差別」との非難が続出。ジャーナリストの布施祐仁氏は「プーチンとロシア語やロシア人の区別もできない人に国会議員をやる資格はない」、山口二郎法政大教授は「知性派だと信頼していたのだが」とツイートした。


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ロシア脅威 防衛意識上昇(2022/5/21 京都新聞)

 ロシアのウクライナ侵攻を受け、スウェーデンは隣国フィンランドと同時に米欧の軍事同盟、北大西洋条約機構(NATO)への加盟を申請した。軍事非同盟を貫いてきたが、首都ストックホルムではロシアの脅威が強まり、NATO入りを待ち望む声と抑制的な意見が入り交じる。食料や水の備蓄や核シェルターの周知が進められるなど、市民の防衛意識は格段に高まっている。

 ストックホルムの集合住宅や商業施設の入り口に掲げられた、オレンジと青のマークが目を引く。核兵器の使用にも対応する地下施設の目印で、「シェルター」と表記されている。管轄するのは国の外郭団体「スウエーデン民間緊急事態庁(MSB)」。シェルターは国内に約6万5千ヵ所あり、大きいもので約8千人、総計で700万人を収容できるという。

 冷戦時代に造られたシェルターも多く、有毒ガスのほか、放射性物質を遮断。普段は貯蔵室や駐車場として使われているが、有事の際には48時間以内に暖房や排水機能、トイレを備え付けたシェルターに様変わりする。MSBはインターネット上に場所を公開しており、市民らに確認を呼びかけている。

 「ロシアの脅威に対応するためにも多くの国と同じ陣営にいた方が良い」。市内に住むエミリアさん(23)はNATO加盟に期待する。実家ではパスタやシリアルなど保存食を買い込んだ。

 ミリタリーグッズ専門庄の店員ハトリック・サイモンさん(43)は、ウクライナ侵攻で「市民の危機感が高まった」と指摘する。侵攻後、店の売り上げは倍増し、過去最高に。応急医療キットや非常用持ち出しバッグが特に人気だ。「有事に備えることで安心感を求 めているのだろう」

 一方、国際紛争の仲介や非核運動を主導してきたスウェーデンのNATO加盟を疑問視する声も。写真家のエリア・レンピネンさん (65)は、米英仏が核保有国であることを指摘し「NATOは嫌いだ」と言い切った。

 スウェーデンでは、ウクライナ侵攻により、国民が平和や防衛をより意識するようになった。非政府組織(NGO)の核兵器廃絶国 際キャンペーン(ICAN)にも加わる平和団体「スウェーデン平和仲裁協会」の会員は2ヵ月で約2千人増えた。軍縮担当のリンダ・オーケストレムさんは平和運動が「大きな波に直面している」と強調した。(ストックホルム共同=伊東星華)