ロシアのウクライナ侵攻1(3/14〜4/19)(3/14〜4/18)(京都新聞掲載記事から) ロシアのウクライナ侵攻2(4/20〜5/21)へ ロシアのウクライナ侵攻3(5/22〜7/16)へ ロシアのウクライナ侵攻4(7/19〜10/9)へ ロシアのウクライナ侵攻5(10/1〜1/6)へ ロシアのウクライナ侵攻6(1/7〜)へ   ロシアのウクライナ侵攻7(4/7〜)へ  ロシアのウクライナ侵攻8(7/13〜)へ ロシアのウクライナ侵攻9(4/15〜)

東西、どちらにも与しない(3/14)

戦争 子どもにどう伝える (3/15)

「核共有」議論に疑問の声(3/16)

企業の人道支援広がる(3/17)

ウクライナ侵攻 原発も標的に(3/17)

無慈悲爆撃 子ども犠牲(3/18)

反戦唱えれば「裏切り者」(3/20)

「明日はわが身」緊張走る(3/21)

【暖流】戦争は卑劣な情報戦(3/21)

反戦の思い ロシア人も同じ(3/22)

「袖に紙隠しスタジオに」(3/22)

ウクライナ医療危機に(3/22)

自民また「国難」強調(3/22)

侵略「満州事変」と二重写し(3/23)

国会支持一色危うさも(3/24)

世界企業 相次ぐ連帯表明(3/24)

冷戦後最大の人道危機(3/25)

「悪夢」と化した日常(3/26)

最大1300万人栄養失調(3/27)

母国「史上最悪の汚点」(3/28)

ウクライナ侵攻で危機感拍車(3/28)

安全保障関連法施行6年(3/29)

ロシア ゆがんだ愛国心(3/29)

対ロシア防衛 各国及び腰(4/1)

母に告げず祖国防衛へ(4/2)

「賛成ありき」疑念残る(4/4)

ロシア軍退去 残る死と破壊(4/4)

ロシア 組織的に殺害か(4/6)

長期化視野「柔軟支援を」(4/6)

破壊と大量虐殺 募る憎悪(4/7)

ロシア兵多数被ばくか(4/7)

停戦見えず戦闘激化恐れ(4/8)

自民「緊急条項の改憲大勢」(4/8)

共産「有事に自衛隊」(4/9)

米、ウクライナへ供与の武器詳細(4/9)

欧米圧力強化、衝突懸念も(4/10)

ロシア兵略奪品発送か(4/10)

化学兵器 ロシア使用懸念(4/12)

仏大統領選、再対決 互角の戦いに(4/12)

平和首長会議への加盟拡大(4/12)

ロシア人ら宿泊拒否(4/13)

プーチン氏 虐殺関与「フェイクだ」(4/13)

拡大続く「核の脅威」(4/13)

停戦交渉 再び停滞(4/14)

ブチャ 暗闇と恐怖の20日間(4/14)

「対話なき歴史」が背景(4/15)

防衛費 GDP2%に増額(4/16)

日本の安保 本質的議論を(4/16)

ロシア語案内 一時覆い隠す(4/16)

ロ軍 性暴力を「武器化」(4/17)

ロシア「回廊」完成へ執念(4/18)

化学兵器防御マスク提供へ(4/19)


東西、どちらにも与しない(2022/3/14 京都新聞)

龍谷大学教授 廣瀬純さんに聞く

 ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに、日本国内では急に戦争を身近に感じ、自らの平和や安全保障に不安を覚え始めているようです。「軍事力の強化を」「核共有を検討すべき」といった勇ましい言葉まで飛び出しています。今回の事態を日本に暮らす私たちは、どう受け止めたら良いのでしょうか。西洋思相史などに詳しい龍谷大教授の廣瀬純さんに聞きました。(聞き手・阿部秀俊)

 今回の事態に接して、まず思い起こしたのは、ロシアの革命家レーニンの言葉です。第1次世界大戦のさなか、1915年の演説で、彼は「帝国主義的国家同士の戦争をそれぞれの国の内戦に転換しなければならない」と檄を飛ばしています。つまり、どちらの陣営も「祖国を守る」と言っているけれど、内実は双方のブルジョア(資本家)が自分たちの権益を守ろうとしているにすぎず、プロレタリア(労働者)はそれに巻き込まれて甚大な被害に遭っている、と。

 だから陣営Aのプロレタリアは陣営Bのプロレタリアに銃を向けるのではなく、陣営A内の支配階級に対して内戦を仕掛け、革命を起こさなくてはいけない、と言っているのです。

こんな死に方は嫌だ

 プロレタリアって何のこと、と言われそうですが、住民と置き直してもいい。戦場なら兵士に置き換えてもいい。ウクライナの兵士とロシアの兵士は銃を向け合うのではなく、連帯するのです。殺し合いを強要する国家に、現場で銃を下ろして抵抗するのです。お互い、こんなところで死にたくないでしょうって。

 そして日本にいる私たちも、その抵抗に連帯するのです。西側陣営、東側陣営のどちらが正しくて、どちらに与するべきなのか、という議論を超えないと事態は悪化する一方です。どっちも嫌だ、と言いましょう。  「内戦」とは物騒な、と思うかもしれませんが、今回の事態を、「ロシア」「ウクライナ」を主語にして語っていてはやはりダメで、少なくとも「ロシア」を「ロシア国家」と「ロシア住民」の二つに割り、同じように「ウクライナ」も二つに割る必要がある。「ロシア国家」と「ウクライナ国家」の戦争によって、「ウクライナ住民」が悲惨な状況に追い込まれている。そして「ロシア住民」もまた、兵士は命の危険にさらされているし、その家族は不安な思いに駆られているのです。

 資本主義の転換点で

 双方の陣営が守ろうとしているのは何か。レーニンは資本主義が帝国主義の段階に入っている、という認識でした。つまり、大国の経済が国内に収まらない規模となり、各々が外への拡大を目指すために、世界市場の独占を争う衝突が起きている、ということです。100年たった今も米国やロシアに代表される覇権国の帝国主義的性格に変わりはありません。

 第1次世界大戦は、石炭に立脚した資本主義から、石油に立脚した資本主義に転換する過程で起こりました。現在は、「持続可能な開発」の名の下に、石油からリチウムに立脚した資本主義への転換が進んでいて、その過程で起きた戦争とみることもできるでしょう。

 資本主義が行き詰った時、戦争がカンフル剤のような役割を果たすことは歴史が証明しています。石油に立脚した資本主義はずいぶん前から失速状態にあり、そうした中で米国やロシアはアフガニスタンやイラク、シリアなどで戦争を繰り返してきました。その戦線がついに「ヨーロッパ」まで拡大したのが今の状況です。

  ロシアと欧米の共犯

 欧州委員会では、今回の戦争について、新型コロナウイルスで打撃を受けた欧州経済を回復させる好機だとする議論が公然となされています。実際、ドイツなどの欧州諸国は、どんどん武器を作って、ウクライナ国家に供与している。「ロシアは悪」「ウクライナ支援は善」と言うけれど、ロシア国家も西側国家も「戦争を求める」点では共犯関係にあるのです。過激に聞こえるかもしえませんが、トランプ前米大統領のプーチン称賛も、この意味で理解すべきです。

 日本でも今回の事態を捉えて、「北朝鮮という危険な国がすぐ隣にいる、軍事力を強化せよ」という話が出てきています。ちまたでは「もし日本が攻め込まれたら、最後まで戦おう」みたいな話が臆面もなく交わせる空気になっています。「お国のため」と言って戦争に動員されたかつての経験など、まるでなかったかのように。一体何を守りたいのか、もう一度考える必要があるでしょう。

 世界の諸国家が東西対立の構図に入っていこうとしています。繰り返しになりますが、大切なのは、そうした動きで迷惑を被る各国の国の住民同士が連帯することです。分断を強いる東西対立に乗つかって「われら」と「彼ら」に分けて発想していては、そもそも「プーチンを止める」ことなど不可能でしょう。戦争国家に反逆する人々の国際的共闘が必要です。

 ロシア非難の国連決議で、アフリカ諸国は棄権が目立ちました。これは注目に値します。事情はさまざまかもしれませんが、対立の土俵から降りる態度とみることもできます。私たちも、東西対立という「お話」に付き合うのはやめて、支配され搾取されているもの同士、戦争になれば真つ先に戦禍を被るもの同士、手を携える必要があるのではないでしょうか。


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戦争 子どもにどう伝える(2022/3/15 京都新聞)

 破壊された町や、泣きながら支援を訴える人々―。新聞やテレビなどを通じてウクライナの緊迫した様子を伝えるニュースに連日触れ、ストレスを感じる人がいる。 子どもも例外ではなく、大人以上に大きな不安を覚えることもある。大人としてこの「戦争」をどう伝えれぱよいか。専門家は「知りたいという欲求を大切にしてあげながら、情報に接する時間を制限することも必要」などとアドバイスしている。

 「これ嫌い」。東京都の30代女性が、5歳の長男を見ると、ウクライナのニュースを流すテレビの前で、目を覆ってうつむいていた。ロシアによる侵攻開始当初は、現地映像を食い入るように見ていた。そのときは長男に「大丈夫?」と聞いても、何事もない様子だった。

 最近は寝るとき、おもちやの銃をパジャマのポケットに入れるようになった。女性は「もう少し大きければ、状況を理解できるのかもしれないが、映像で恐怖心だけを植え付けてしまったのではないか」と対応に悩む。

 国際的に活動する非政府組織(NGO)「セーブーザーチルドレン」は、こうした大人に参考にしてもらおうと、戦争について話す際の留意点を以下のように五つのポイントにまとめ、ホームページで公開した。

 【耳を傾ける】子どもが知っていること、感じていることを話したり、質問したりする時間をつくる。

 【合わせる】幼い子は戦争の意味を理解していない場合があり、年齢に応じた説明をする。詳細な情報は不必要な不安を与えることも。

 【受け止める】子どもたちが「自分の心配な感情を否定された」と感じるようなコミュニケーションは控える。

 【安心を促す】世界中の大人がこの問題を解決するために懸命に努力していることを教える。今まで通り遊び、うれしいと思うことをしていいと伝える。

 【応援する】子どもたちの「助けたい」という思いを酌む。募金に参加したり、平和を呼び掛ける絵を描いたりすることで「解決の一端を担っている」と感じさせてあげることもある。

 同団体国内事業部の赤坂美幸さんは「発達段階にある子どもは、映像の中と自分を取り巻く環境を混同したり、より不安や恐怖を増したりすることがある。繰り返し映像を見ることがないよう配慮してほしい」と話す。


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「核共有」議論に疑問の声(2022/3/16 京都新聞)

 「先制攻撃の対象になり、日本の安全はむしろ脅かされる」。ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに、「核共有」政策の導入や、核兵器を「持たず」「つくらず」「持ち込ませず」とした非核三原則の見直しを議論するべきだとの意見が与野党の一部から出ていることに、安全保障や憲法の専門家からも疑問の声が上かっている。被爆者らが強く反発しており、「日本国内での核兵器使用が想定される」という運用面から見ても実現可能性は低そうだ。

 米国の核兵器を日本に配備して共同運用する核共有について、口火を切ったのは安倍晋三元首相だった。核兵器使用を示唆するロシアのプーチン大統領の発言に批判が集まる中、議論すべきだと2/下旬のテレビ番組で発言。被爆者らから抗議が相次いでいる。岸田文雄首相は否定したが、日本維新の会も同調した。

 核共有は1950年代に北大西洋条約機構(NATO)が抑止力を高めようと導入した政策で、米国の核の運用計画に同盟国が関与する。具体的にはドイツなどに配備された米国の核兵器を戦闘機などで共同運用する。使用する際は米側の同意が必要だ。

 安全保障に詳しい明海大の小谷哲男教授は、NATOが取り入れた背景には米国の「核の傘への不信があったと解説する。このため、日本が核共有導入を持ち出せば「米国の核の傘による抑止力を日本が信用しておらず、日米同盟に満足していないと周辺国に捉えられる」として、日米安全保障体制に悪影響を乃ぼしかねないと指摘する。

 実際の運用面では、攻めてきた部隊を撃退することが想定されており、「例えば他国が南西諸島を不法占拠した場合、自衛隊が米国の核を南西諸島に落とす」という考え方だと説明。その場合、非核三原則に抵触する「持ち込み」だけでなく、日本が国内で核兵器を使用する事態に発展する。

 小谷氏は、核共有に賛同する政治家らは、政府が保有を検討する「敵基地攻撃能力」の延長線上で考えている可能性があるとして「米国は核のエスカレーションを恐れて、敵基地への核攻撃に同意するとは考えにくい。日本に核兵器を置いても先制攻撃の対象になるだけで、むしろ安全性は低下する」と述べた。

 早稲田大法学学術院の水島朝穂教授(憲法学)は広島、長崎への原爆投下による惨禍を背景に戦争放棄を定めた憲法9条ができ、それを具体化したのが非核三原則だと強調。安倍氏の発言を「9条の根底にある核兵器を徹底的に否定する姿勢や、日本の憲法秩序の根幹を覆すものだ」と批判した。

 安倍氏は首相在任中にプーチン氏と会談を重ね、蜜/をアピールしてきた過去があり、水島氏は『世界中にプーチン氏がいい人だと宣伝してきたような人が責任も取らずに、この夕イミングで発言する資格があるのか」と疑問を呈する。国民の不安に便乗しているとし「百害あって一利なしだ」と切り捨てた。


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企業の人道支援広がる(2022/3/17 京都新聞)

 ロシアのウクライナ侵攻による深刻な人道危機に対し、京都や滋賀の企業で支援の動きが広がり始めた。蜂蜜を販売する金市商店(京都市中京区)は、養蜂大国として知られるウクライナの蜂蜜を16日に特別に売り出した。募金箱の設置や難民支援金の拠出を決める企業もある。

 金市商店が販売を始めたのは、首都キエフ南のヒマワリ畑からミツバチが集めた蜂蜜。従来は扱っていなかったが、市川拓三郎社長(38)が痛ましい戦禍に「現地の養蜂家を支えたい」と、急きよ、瓶詰め200本を取り寄せた。

 ウクライナは世界有数の蜂蜜生産国。こくのある甘みが特徴で、日本企業などが年1千トン近く輸入している。世界中を回って養蜂家から買い付けている市川社長は「養蜂家はハチとともに避難するのが難しく心配だ」と案じ、売り上げの一部を寄付する という。

 ウクライナ国旗をモチーフに、紺と黄のトートバッグを販売したのは、人気菓子店「シェリーメゾンドビスキュイ」 (同区)を営む洋菓子研究家の小林かなえさん(49)。仏出身の夫トールーアレクサンドルさん(51)の発案で製作し、今/10日に千個限定でオンライン販売したところ、1日で完売した。売り上げは全額、難民支援のNGOに寄付する。小林さんは「妊婦や子どもが犠牲になっているニュースを見て悲しく、小さな店でも何かできることをしたかった」と話す。

 大手企業も支援に動く。オムロンは、ウクライナ難民を支援するため自社の医療機器と現金を合わせて約1億3千万円相当を寄付すると表明した。

 平和堂はウクライナの子どもや家族の支援に向け、グループのスーパーなど全288店で緊急募金を始めた。今/末まで続け、国連児童基金(ユニセフ)に託す。軍事衝突に伴う募金は今回が初めてといい、「平和に向けた募金活動は会社の理念にも沿う」(広報)と話している。


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ウクライナ侵攻 原発も標的に(2022/3/17 京都新聞)

 ロシアのウクライナ侵攻で、史上初めて稼働中の原発が武力攻撃に遭った。日本国内の原発の安全対策は武力攻撃を想定しておらず、対策を取るにも限界がある。政府は福井県警の警備専門部隊を参考に、他の原発でも導入を検討する方針を示したが、その福井県からも現状の対策に不安の声が上がっている。

 「原子力施設に対する武力攻撃は国際法違反。強く非難されなければならない」。ウクライナで欧州最大級のザポロジエ原発が攻撃されたことに、岸田文雄首相は14日の参院予算委員会で強い危機感を示した。

 戦時下の文民保護を定めるジュネーブ条約は原発への攻撃を禁じている。ロシアも批准国だが、ルールは簡単に破られた。過去にはイラクやシリアで、核開発の阻止を目的に研究用原子炉などがイスラエルの空爆で破壊されたことはあるが、’稼働中の原発の方が保有する放射性物質の量が多く、拡散のリスクも格段に高い。ロシアに原子炉を直接攻撃する意図はないとの見方もあるが、誤爆などで深刻な事故につながることは否めない。

 原発の原子炉は頑丈な格納容器に収められ、さらに分厚いコンクリートの建屋で覆われている。日本国内では東京電力福島第1原発事故後、電源車や消防車などを複数配備するほか、航空機衝突などに備えて原子炉を遠隔操作できるテロ対策施設の整備が進んでいる。

 だが武力攻撃を想定した施設ではないため、実際に激しい攻撃にさらされた場合、どこまで耐えられるかは未知数だ。ミサイル攻撃を受ければ放射性物質の環境への放出は避けられない。原子炉などの中核施設が破壊されなくても、送電網や周辺の配管が損傷すれば、地震と津波で電源を失った第1原発のような事故は起きうる。

 「住民は今回の武力攻撃に対して大きな不安を抱いている」。福井県の杉本達治知事は8日、原発が集中立地する県南部への自衛隊配備や、武力攻撃時の避難経路確保などの具体的な対応を政府に求めた。原発の警備は通常、電力会社のほか警備会社、警察、海上保安庁が担い、自衛隊は常駐していない。

 岸田首相は原発警備に関し、福井県警が全国で唯一、設置している専門部隊を参考に、各地への展開を検討するとしたが、その福井県が現状では不十分だと表明した形だ。日本の原発は全て海岸沿いに立地し、海や空から標的にされる恐れがある。政府はミサイル攻撃があった場合はミサイルで迎撃するとしているが、不安は拭えない。

 核不拡散問題に詳しい笹川平和財団安全保障研究グループの小林祐喜研究員は「原発は平和を前提に造られている。武力攻撃にも耐えられる強靭性を求めることは、資金的にも物理的にも不可能だろう。現段階では、原発への攻撃を自制するよう戦争当事者の『良心』に訴えるしかない」と話している。


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無慈悲爆撃 子ども犠牲(2022/3/18 京都新聞)

 ロシアによるウクライナ侵攻で、子どもの犠牲者が100人を超えた。南東部の激戦地マリウポリでは、子どもたちも避難していた劇場が爆撃された。学びやを破壊され、肉親や友達と別れて異国へ逃れる子どもが相次ぐ。ロシアでは、侵攻を正当化するプーチン政権のプロパガンダを学校で広める動きも。。慈悲な戦争が、幼い生命の体と心を痛めつけている。

 「子どもたち」。ロシア軍が16日空爆したとされるマリウポリの劇場の前後2ヵ所の地面には、14日時点で白いロシア文字でこう書かれていた。この子たちの未来を奪わないで―。親たちの悲痛な思いが込められていたが、爆弾は投下された。

 赤い屋根の白亜の劇場は1960年にオープン、口シア文豪トルストイ、英劇作家シェークスピアらの作品が上演され、市民に愛されてきた。侵攻後は、子連れの女性らが電気のない薄暗い建物で身を寄せ合うように過ごしていた。ウクライナ当局によると、数百人が避難していた。

 どこから見ても軍事施設には見えない。空爆で建物は中央部がえぐられ、がれきの山と化した。犠牲者数は不明だ。民間人は各地で殺傷され、生き延びたとしても、「地獄」を眼前にした子どもの心に深い傷を残す。

 ウクライナ検察によると、爆撃や砲撃で学校を含む400以上の教育機関が損壊した。病院や障害のある子ども向けの施設も攻撃されている。国運児童基金(ユニセフ)によると、周辺国に逃れる子どもは毎分55人に上り、第2次大戦後、類を見ないスピードで急増している。

 ポーランドを目指す避難民の中継地となっているウクライナ西部リビウの駅前には女性や子どもの姿が多い。総動員令の下、18〜60歳の男性は原則出国が認められないからだ。

 12歳の少女アリーナさんは母親(40)と弟マイクちゃん(1)と共に首都キエフ近郊から逃れてきた。 「友だちはまだ残っているから離れるのは寂しかった。でも弟が小さいから仕方ない」。泣きじゃくるのをあやしながら気丈に話した。

 ウクライナと国境を接するモルドバ東部パランカでも、女性と子どもの避難者が目立つ。ボランティアの炊き出しを懸命に頬張る子どもたちの姿は、疲れ果てた大人たちに元気を与えているようだった。

 一方、ロシア紙などによると、同国全土の学校では今/3日、ロシア軍を「平和の守護者」とたたえる政権のプロパガンダ動画が流された。

 政府系テレビ「第1チャンネル」の男性司会者が、人気歌手ソフィア・コメンコさん(12)を諭す形。ウクライナでロシア語話者が虐げられているとして、口シアの作戦はウクライナが北大西洋条約機(NATO)に加盟することで起こる戦争を防いだと力説する。

 「ウクライナで戦争が起きているかのような映像は、別の戦争のものだ。ゲームから取ってきたものだってある」「SNS(会員制交流サイト)に出回っている情報は分析し、信頼できるかどうか確認しなければならない」

 司会者は、プーチン政権の宣伝と寸分たがわない内容をとうとうとしゃべり続ける。「そのようなニュースへの注意が不十分でし た。これから気を付けます」。動画は、台本を読み上げたようなコメンコさんの発言で終わった。(リビウ、パランカ共同)


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反戦唱えれば「裏切り者」(2022/3/20 京都新聞)

 ウクライナ軍事侵攻の長期化を受け、ロシア国内で、侵攻に懐疑的な意見への締め付けが一段と強まっている。英語メディアや通信アプリを通じた現地の映像で民間人の犠牲が伝えられ、欧米の制裁による経済悪化への不安も広がる中、プーチン政権は、反戦気分を拡大する国民を「裏切り者」とみなし、神経をとがらせている。

 「欧米は『第5列』を使って社会を分断しようとしている。目的はロシアの崩壊だ」。プーチン大統領は16日の閣僚らとのオンライン会議で、スパイを意味する蔑称「第5列」を用いて、欧米批判を展開。「国民には裏切り者と真の愛国者を見分ける力がある。自浄作用によって社会の団結は強まる」と強調した。

 プーチン氏は侵攻を「特別軍事作戦」と説明。規制当局は「戦争」や「侵攻」の表現を偽情報と位置付け、軍に関する偽情報払散に最長で懲役15年を科す法律も成立した。国営テレビは俳優や作家らが「作戦を支持する」と語るスポット広告を連日流している。

 プーチン氏の「第5列」発言後、ロシアでは軍事作戦に批判的な人の自宅のドアに、ウクライナでロシア軍戦車などに記されている「Z」の文字を書く嫌がらせが相次いでいるという。

 18日には、米誌に対し「戦争は最悪だ」と語ったドゥボルコビッチ元副首相が政権与党の批判を受けて政府系財団代表を辞任した。

 モスクワのスタジアムで18日に開かれたウクライナ南部クリミア半島の編入8周年の集会には20万人以上が参加。プーチン氏は「わが軍は互いに助け合い、英雄的に戦っている。これはどの一体感が生まれたことは久しくなかった」と訴え、万雷の拍手を受けた。国内で異論が語られる余地は狭まっている。   (共同)


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「明日はわが身」緊張走る(2022/3/21 京都新聞)

 ウクライナに侵攻したロシアへの警戒感が、北大西洋条約機構(NATO)未加盟の北欧スウェーデンで強まっている。「明日はわが身だ」(市民)。新型コロナウイルス対策の規制解除で元通りになるかと思われた生活は一転、新たな緊張に包まれている。

 「ウクライナだけでなく、人権、自由、民主主義に対するロシアの戦争だ」。首都ストックホルムで3/中旬、侵攻への抗議デモに参加したガリーナ・シロキフさん(36)は語気を強めた。

 これまで年間5千人程度だった民間防衛隊への志願者は、ロシアの侵攻が始まった2/下旬からの3週間で約1万人に。戦争や災害が起きた場合に備え、政府が心得をまとめた手引きをインターネットからダウンロードする人も急増した。

 アウトドア用品店では防災グッズや手回し充電ラジオが飛ぶように売れている。日ごろ行われている空襲警報の試験放送は、本物の空襲」と勘違いしてパニックを起こさないようメディアがわざわざ実施を予告した。

 スウェーデンがロシアを警戒する大きな理由が、バルト海に浮かぶ戦略的要衝ゴトランド島の存在だ。アニメ映画「魔女の宅急便」の舞台のモデルとしても知られる島の南東方向には、ロシア西端の飛び地ガリーニングラード州がある。ロシア軍がバルト艦隊の司令部を置くなど軍事的な脅威となっている。

 侵攻が危惧されていた1/の段階でスウェーデンは島に数百人規模の軍部隊を追加配備。侵攻後にはウクライナに対戦車砲などの武器供与を決定した。NATO加盟の可能性も検討するが、スウェーデンが加盟した場合「報復措置を取る」とロシア外務省高官が脅したとも報じられている。

 スウェーデン政府は軍関係の情報をソーシャルメデーイアなどで国民が不用意に発信することに神経をとがらせている。軍用車両の移動や演習の様子を偶然目にした場合を念頭に、アンデション首相は記者会見で「皆さんが出す情報は、外国の機関や工作員が軍の情報を得る良い材料になってしまう」と述べ、有事意識を持つよう呼び掛けた。(ストツクホルム共同=高橋里栄子)


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【暖流】戦争は卑劣な情報戦精神科医 高木俊介(2022/3/21 京都新聞)

 古くは、アラモ砦の戦い、わざと援軍を送らず砦に立てこもった自軍を見殺しにした。「アラモを忘れるな」と米軍自らの結束を高めるためだったという説がある。その真偽は今では確かめようはない。だが、近くはベトナム戦争のトンキン湾事件がある。戦争介入のきっかけとなった事件だが、これがアメリカ側の秘密作戦の一環だったことは、後年明らかにされた。

 イラク戦争では、イラクの大量殺人兵器保有という情報について、今もその真偽の議論がある。もちろんアメリカは、戦争の正当性を主張し続けている。

 戦争はその昔から、武力による殺し合いである前に、卑劣な情報戦だ。それは敵にも自国民にも向けられる。私たちは、それをこの国のかつての戦争で思い知らされたはずだ。

 だが、私たちひとりひとりは非力で、世界のことには誰もが無知で、テレビや大新聞から流れる情報に頼らざるを得ない。皆が同じ情報をもつことで安心でき、なにより連帯感が生まれて団結して事に当たれる。社会は、このような連帯なしには成り立たない。

 だとしても、だからこそ、戦争については、すぐに連帯感を生むような情報の前に、立ち止まってみることが必要だろう。そのような情報の典型が、一方を絶対的な悪と決めつけるものだ。それを主張すれば、自分は正義だと胸を張れる。

 今回のロシアによるウクライナ侵攻という暴挙への批判は、当然だろう。犠牲になる一般市民への援助が必要だ。だが、その原因を悪魔の独裁者の仕業と決めつけるのはどうか。それは、解決に導く対話を最初から放棄することだ。ましてや、これを機に日本も核を持とうという政治家の発言は、紛争の混乱に拍車をかける軽率な妄言でしかない。

 戦争は悪だという考えを手放してはいけない。「殺すな!」と声をあげよう。 だが、勇ましく一方を非難して終わることは慎みたい。争いに巻き込まれて最後に犠牲になるのは、非力な私たち一般市民なのだ、戦争する権力者ではなく。


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反戦の思い ロシア人も同じ(2022/3/22 京都新聞)

 ロシアによるウクライナ侵攻を、京都市内に住むロシア人たちが複雑な思いで注視している。祖国に対し日本などから向けられる視線は日ごとに厳しさを増し、その矛先が自らにも向かないかと不安を抱える。「平和を願う気持ちは私たちも同じ」「祖国にいる一般市民の多くも、戦争を望んではいないはず」―。そう胸を痛めている。

 「ロシア人とウクライナ人は互いに親戚や友人も多く、本来なら敵対する関係ではない」と話すのは、京都市下京区でロシア雑貨の店を営むビクトリア・トルストワさん(52)。20年前に来日、2017年に一般社団法人「ロシアカルチャーセンター京都」を立ち上げ、関西とロシアで相互の文化をPRするイベントを開いてきた。今/5日にも大阪市でロシアの食やダンスを紹介する催しを開く予定だったが、戦争が始まり「踊れるような状況ではない」と中止した。

 店ではロシア製の菓子や民芸品のほか、日本に住むウクライナ人が作った服、人形なども扱っている。ウクライナの物資不足を知り、子ども用おむつなどを送りたいとウクライナ領事館に打診したが、現金しか受け付けないと言われた。「武器の購入に使われるかも」と思い、寄付はできなかった。

 知り合いの在日ロシア人の子どもが学校でいじめに遭うなど、日増しに不穏な空気を身の回りに感じている。一方でロシア軍の非人道的行為を伝える報道に触れると、自分も「罪を抱えているような」つらい気持ちになるという。「歌やダンスで日ロ交流を喜び合える日が早く来てほしい」と切実に願う。

 ロシア出身の京都大大学院生アルテーミ・クズネツォフさん(27)=上京区=は、京都タワー前で6日に開かれた反戦集会に参加した。「ロシア国内では声を上げにくい同胞に代わって平和を叫びたかった」。会員制交流サイト(SNS)でも写真とメッセージを発信した。

 クズネツォフさんは母親がウクライナ人。首都キエフに住む叔父は市民でつくる領土防衛隊に加わり、連絡が取れなくなった。「子どもの頃は母と毎年のように訪れた美しい街は破壊され、家族も引き裂かれてしまった」と声を落とす。

 ロシア政府系機関の調査では侵攻後のプーチン大統領の支持率は依然高いが、「若い世代では圧倒的に戦争反対が多い。弾圧が強まった今、祖国を離れる決断をする人は少なくない」。情報統制が強まり、軍に関する「偽情報」を流せば重罪となる法律もできた。「来/に一時帰国する予定だったが、断念した。今は家族の安全と、平和の回復を願うだけ」と話す。

 京都市在住のロシア人で、2/下旬に抗議デモに参加した20代の会社員女性は「人道危機を引き起こしたロシア政府は許せない。無力さや絶望しか感じない中、せめて何かきないかと思った」と吐露する。一方、自身の反戦活動が「ロシアにいる家族や友人にどう影響するか分からない」と不安を口にする。

 家族や友人らとはSNSなどで連絡を取り合い、現地の独立系メディアの情報も参考にしている。「私の周囲は反戦の立場の人が多いが、ロシアでどれほど一般的か分からない」。SNSで広かっているロシアに対するヘイト(憎悪表現)については、「『ロシア政府が』や『ロシア軍が』ではなく、『ロシア人みんなが』という表現があると反発したくなる」と打ち明ける。

 女性は、プーチン氏の「独裁体制」を生んだ原因の一つが若者の政治離れだと感じている。「自分の頭で情報を判別する思考力や、正しいと思うことを守る行動力がロシア人に足りなかったと痛感している。日本の若者も政治に関心がないと言われるが、意識してほしい」と語った。


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「袖に紙隠しスタジオに」(2022/3/22 京都新聞)

 【キシニョフ共同】ロシア政府系テレビ「第1チャンネル」のニュース番組中に反戦メッセージを掲げた番組編集者オフシャンニコワさんが独立系新聞ノーバヤーガゼータのインタビユーで、メッセージは自ら書き、警備の目に付かないように、上着の袖に隠してスタジオに入ったと述べた。「計画は90%成功しないと思った」と明かした。21日付同紙が伝えた。

 「恐ろしかったが、(政権のプロパガンダを報じる)番組を止めなければならないという強い衝動に駆られた」と振り返った。侵攻開始後、欧米の情報に触れ、辞職を決意。抗議行動で多くの市民が拘束される中「より効果的な方法を考えた」とした。

 英語で「戦争反対」、ロシア語で「プロパガンダを信じないで」などと書いた理由について、欧米人に対してロシア人の反戦の意思を示し、ロシア国民に対しては、目を覚ますように訴えるためだったと話した。

 同局職員は、生活のために働いているだけで「多くがリベラルな視点を持っており、プーチン大統領の熱烈な支持者は数%以下」と述べた。


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ウクライナ医療危機に(2022/3/22 京都新聞)

 ロシアによる侵攻、攻撃が続くウクライナでは食料品だけでなく医薬品も不足し、医療体制が危機的な状態に陥っている。支援に向け隣国ポーランドで情報収集した日本の認定NPO法人「ピースウィンス・ジャパン(PWJ)」(広島)によると、戦闘激化で負傷者数が増加の一途をたどる中、物流が停滞。閉鎖せざるを得ない病院も出ている。

 国連人権高等弁務官事務所によると、20日時点の集計で、ウクライナでは一般市民902人が死亡、1459人が負傷した。ロシアによる民間施設の無差別攻撃は激化し、病院も対象となっている。ロシア軍が病院を占拠して患者らを人質にしているとの情報もある。

 PWJは侵攻開始後の2/下旬、支援に向けた情報収集のため、ウクライナと国境を接するポーランド南東部に職員の福井美穂さん(48)を派遣した。福井さんが現地で連絡を取り合ったウクライナの非政府組織(NGO)からは「医薬品が足りず治療できない」と訴えがあった。閉鎖状態の病院も出ているという。福井さんは「鎮痛剤や解熱剤のニーズが高い。高血圧や心不全など一般患者向けの薬も足りておらず、重症化する懸念もある」と話す。

 PWJは、首都キエフにある約20ヵ所の医療機関に物資を届けてもらえるよう、キエフの団体に資金を送った。隣国モルドバにも職員を派遣し、支援に向けた調整をしている。

 一方、認定NPO法人「難民を助ける会』(東京)も、ポーランドのカトリック教会と連携し、ウクライナ西部テルノピリ州にある避難施設に食料や衣類、包帯などの医薬品を提供している。担当者は「ストレスを抱えた避難生活が長引くと、精神的なケアも必要になる」と指摘。「緊急措置として今必要なものを届けることに加え、今後も長期的な視点でニーズに応じた支援を続ける」としている。

 日本政府は、岸田文雄首相が16日「ウクライナ側からの要請を踏まえ、医療用資材などを供与する」と表明した。

 「ピースウィンズージヤパン」と「難民を助ける会」は支援活動の費用として寄付金を募っている。詳細はそれぞれの団体のホームページで。


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自民また「国難」強調(2022/3/22 京都新聞)

 夏の参院選をにらむ自民党が、ウクライナ危機の影響で「国難」に直面した日本を救えるのは自民、公明の連立与党だけだと訴え始めた。「国難」を強調すれば、安定を求めて与党支持が増えるとの読みが透ける。念頭には2017年の衆院選があるとみられる。当時の安倍晋三元首相は北朝鮮の核・ミサイルの脅威に立ち向かうとして「国難突破」を叫び、与党を勝利に導いた。自民総裁の岸田文雄首相は「二匹目のどじょう一を狙う構えだが成果は見通せない。

 「ロシアのウクライナ侵略、それに伴う原油価格の高騰など国難とも言える危機的状況に直面している」。15日の政府与党連絡会議で、首相は厳しい情勢認識を明らかにした。同時に「国難」を乗り切る方策に関し「自民、公明両党閥の従来にも増した緊密な連携を、あらゆるレベルで強める必要がある」と説明。「危機に強い与党」(自民幹部)をアピールした。

 ロシアによるウクライナ侵攻と資源価格の急騰を「国難」と呼び始めたのは、公明党との党首会談に臨んだ10日からだ。公明の山口那津男代表も会談後、記者団に「国難ともいうべき状況は、自公がしつかり結束して乗り越える必要がある」と述べ、歩調を合わせた。「国難」ムードを醸成し、追い風を得たいとの思惑がにじむ。

 自民の茂木敏充幹事長も12日の党会合で「国難に直面する日本には政治の安定が不可欠だ」と主張。「国難」を掲げる背景には、17年秋の衆院選で安倍氏が「国難突破」と訴えて大勝した「成功体験がある」(閣僚経験者)との見方が強い。

 安倍氏は当時、武力行使に踏み切る可能性も取り沙汰されたトランプ米大統領と協調し、北朝鮮への強硬姿勢を誇示。これが奏功し、北朝鮮への懸念を強める有権者の支持を取り付けたと見る向きは与野党内に多い。

 その後、トランプ氏は対話路線に転じて米朝首脳会談を実現。安倍氏も日朝首脳会談を北朝鮮に呼び掛けるなど軌道修正を図ったのは翌18年だ。

 昨秋の衆院選でも首相は新型コロナウイルス禍を理由に「国難」に触れたが、前面に打ち出したわけではない。参院選に向けた「国難」の訴えからは、先行き不透明なコロナや物価高を不可抗力と位置付け、政権批判をかわしたい意図がうかがえる。

 「国難」PRは、野党との対決を演じる上でも有効だとみる。首相は「自公の連立与党以外に、この国を任せることができるだろうか」と主張。安倍氏は「国難と言うと一つにまとまりやすい。反論が難しくなる」と周囲に語る。

 危機感をあおるような手法を巡って17年衆院選当時、自民内から「北朝鮮問題をフル活用した」とする声が漏れた。疑問の声は、今回もくすぶる。三役経験者は「安倍氏が『国難突破』と叫んで選挙に勝ったから、今度は自分もやろうと考えているとすれば、まともな政治判断だとは思わない」と冷ややかだ。


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侵略「満州事変」と二重写し(2022/3/23 京都新聞)

 ロシアによる「ウクライナ侵攻」について、歴史家の山室信一さん(元京都大人文科学研究所教授)は「かつて日本が歩んだ歴史、世界が歩んだ歴史と重なる」と語ります。私たちは歴史から何を学び、何を学ばなかったのか。核時代における防衛や平和構築のあり方も含めて聞きました。    (聞き手・阿部秀俊)

 ロシアによるウクライナの「侵攻」、これは明らかに「侵略」です。他国の領域に軍隊を進め、主権を脅かす行為なのですから。ところがロシアはウクライナ東部などに住む親ロシア居留民の保護を口実に正当化しようとします。これは昭和初期、日本が満州国建設に乗り出した時の論理や行動と二重写しに映ります。あの時、関東軍は謀略を仕掛けた上で、日本人の居留民を保護するとして朝鮮軍も国境を越えて「進攻」させ、現地の人たちを支持すると称して傀儡政権を作りました。

 今回ロシアは「居留民の保護」に加えて、「失地回復」を掲げて国内世論を喚起しています。ロシア、ウクライナ、ベラルーシは歴史的に一体である、今回の行動は自分たちの固有の領土を取り戻そうとしているに過ぎない、という主張です。保護と失地回復はナショナリズムをかき立てる二大装置なのです。

 日本は「満州事変」(1931年)をきっかけに、国際的な孤立を深め、国際連盟の脱退につながりました。また満州を起点に、華北地域や北京などに次々と傀儡政権を作り、世界大戦に入っていった。ロシアも、チェチェン紛争、南オセチア紛争(ロシア・ジョージア戦争)、クリミア併合などを重ね、国際的な孤立を深めています。

 今回の戦争は「情報戦争」という言い方がされています。虚実織り交ぜた情報が飛び交い、互いの正当性を主張し合う。いかに情報を制するかがポイントになっているのですが、これは実は第1次世界大戦の時からそうなのです。思想や情報をどうコントロールして世論を誘導するか、つまりプロパガンダ(政治宣伝)が重視された。

 ただ、情報戦の内実は様変わりしています。かつてはマスメディアが主戦場でしたが、今はSNSなどによる個人発の情報が直接に届きます。そして現在のところ、ロシアはその情報戦で劣勢を強いられている。SNSを通じた情報がロシア国内でも広まり、この戦争を疑問視する動きが出てきています。

 かつて日本の新聞は、満州事変を称賛し、国民の戦意高揚を強く後押ししました。日本人はこぞって、自分たちこそが正義だと信じ、泥沼の太平洋戦争へと突き進んだのです。

 現時点でプーチンの軍事行動を停止させるためにはロシアの世論が重要なかぎとなります。SNSによって、国と国、軍隊と軍隊の関係だった戦争に、個でのレベルでも抵抗することが可能になったと言えます。

 国連改革が必要

 ところでなぜ、歴史に学んで誕生した国際的な仕組みは機能しないのか。不思議に思うのは当然です。確かに、現段階で直接的に戦争を止めることはできいません。でも、全く機能していないかというと、そうではありません。

 国際司法裁判所は、今回の事態を「侵略」と認定し、その停止を命じました。強制力はありませんが、これによって他国はロシアを軍事的に援助することができなくなる。援助すれば戦争犯罪の共犯になるわけですから。

 一方、国連改革の必要性も明らかになりました。安全保障理事会で5力国だけが拒否権を持っている現状に対し、「おかしい」と反発する空気が世界的に広がっています。

 何より今回の事態は、核兵器や核抑止政策について考え直す大きなきっかけになります。たった一人の指導者の独断によって、人類が破滅する可能性がある。そのことを強く感じさせたのではないでしょうか。

 「ウクライナは核兵器を放棄したから攻められた」という見方もありますが、私の認識は異なります。むしろ核兵器を持っていたら、今より悲惨な状況になっていたと思うのです。ロシアは、ウクライナに核を使わせないための先制攻撃と称し、核施設をミサイルで爆撃する可能性もあり得ました。旧ソ連時代に配備されたウクライナの核設備などについて、ロシアは当然熟知していたでしょうから。

 核抑止政策というのは、いわば「死なばもろとも」の思想です。現在は、ロシアから米国までたった3分で探知も迎撃もできないミサイルを撃ち込むことができるといいます。つまりこの世界は、互いの喉元に刃を突きつけた状態で生きているのです。「使ったら、その瞬間に自分もやられる。だから均衡が保たれる」というのが核抑止の発想ですが、見方を変えれば、人類は極めて少数の指導者に運命を委ねているのです。

 「アリの一穴」

 今回のプーチンの行動を見て浮かび上がったのは、「核を持っている自分は世界の命運を握っている」という醜悪な自意識です。その時に、対抗するように核を持とうとするのではなく、核の保有が不当であることを徹底して訴える、それしかないのだと思います。日本はまだ批准していませんが、核兵器禁止条約は50力国以上の批准要件を満たし、昨年1/に発効しました。核なき世界に向け、世界は着実に動きだしています。

 「アリの一穴」のたとえがありますが、最初は小さな穴でも、最終的には鉄壁と思える体制を崩壊させることができます。核の廃止は、巨大な力によって実現できるものではなく、一人ひとりが声をあげ、力を結集していくしかありません。少数の指導者の自己陶酔的な決定に対し、万人が反対し続ける、その決断が求められているのだと思います。


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国会支持一色危うさも(2022/3/24 京都新聞)

 ロシアの侵攻が続くウクライナのゼレンスキー大統領が23日、日本の国会でオンライン演説に臨んだ。抵抗を続ける姿に、会場は連帯ムードと拍手で覆われた。だがセレンスキー氏は国際社会に、対ロ制裁強化だけでなく自国への武器提供も呼び掛けている。全面支持する空気が国会で醸成されれば、憲法9条で戦争放棄を掲げる日本として誤ったメッセージを発信しかねない。熱気の裏に危うさがちらつく。

 「ありがとう。ウクライナに栄光あれ。日本に栄光あれ」

 セレンスキー氏が演説の最後で、日本語を交えて日本への敬意と感謝を表すと、衆院議員会館の国際会議室を埋め尽くした衆参両院議員は総立ちで大きな拍手を送った。

 山東昭子参院議長は演説終了後のあいさつで、徹底抗戦を続けるウクライナを「人々が命をも顧みず祖国のために戦う姿を拝見し、その勇気に感動している」と称賛。場内は一体感に包まれた。

 逆風への危機感

 国会筋によると、ウクライナから日本側に演説の打診があったのは3/中旬。以降、各党間ではゼレンスキー氏への「協力レベル」を巡りさや当てがあった。

 「国会演説を推進すると役員会で決定しました」。日本維新の会の馬場伸幸共同代表は16日付のツイートで、立憲民主党の泉健太代表が演説機会の提供に慎重だと伝えるニュースを引用した上で、維新の積極姿勢をアピールした。立民が後ろ向きとの見方をにじませた形だ。泉氏は「反対している事実はない」「実施の方向で調整を進めている」と不快感を示した。

 各党から垣間見えるのは、世界の注目が集まるゼレンスキー氏との「共闘」に及び腰な印象を与えれば、世論の逆風にさらされるとの危機感だ。

 当初は「国賓など賓客に該当しない人物による国会演説は前例がない」と先例重視の声も出た。だが「切実な思いに立法府は応えるべきだ」(高市早苗自民党政調会長)との意見が大勢を占め、本会議場以外の場所での実施が固まった。

軍事支援の要請

 セレンスキー氏は演説の中で、対ロ制裁の継続と強化を求めると同時に「平和を壊してはいけないという強いメッセージが必要だ」と訴えた。米国議会での演説と異なり、軍事支援を要請することはなかった。

 各党からは「心を揺さぶられた」(自民・高市氏)、「祖国の独立を守り抜くという強い決意が伝わってくる」(共産党の志位和夫委員長)と絶賛する声が上がる。

 ただ一部には、被害国とはいえ戦争当事国の一方の指導者と団結を強調するのは、9条との関係でリスクがあると疑問視する向きもある。

 演説実施に慎重だと指摘された泉氏は当初、日ウクライナ首ら間で共同声明を出し、認識の共有を図ることを条件にすべきだと提案していた。ウクライナ対応を巡る議論が続きそうだ。


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世界企業 相次ぐ連帯表明(2022/3/24 京都新聞)

 世界の主要企業でロシアの侵攻を受けたウクライナ支援の動きが広がっている。巨額の寄付に加え、通信サービスや国外避難民の滞在先を提供するなど自社サービスをフル活用し市民や避難民を支える取り組みが進む。日本企業では楽天グループの三木谷浩史会長兼社長が個人として10億円の寄付を表明。消費者の後押しもあり、各社が連帯を示している。

 宇宙開発の米新興企業スペースXは3/上旬、人工衛星を使った高速インターネット接続サービス「スターリンク」の提供を開始した。すでに数千台の専用端束がトラックでウクライナに届けられた。緊急時の活用を想定しており、ロシア軍が地上の設備を破壊しても通信を維持できる。

 同社を率いるイーロンーマスク氏がウクライナのフョードロフ副首相の求めに応じた。ウクライナのネットは現状ではほぼつながるが、戦況拡大に伴いスターリンクを利用するためのスマートフォンアプリのダウンロード数は急増している。

 民泊仲介サイト大手の米エアビーアンドビーは、最大10万人分の国外避難民の一時滞在先を用意した。費用は寄付で賄う。チェスキー最高経営責任者(CEO)は発表から1週間で住居提供の申し出が1万1183件寄せられたと明かした。

 米配車大手ウーバー・テクノロジーズは、隣国ポーランドに逃れたウクライナ避難民の乗車を無料にした。米グーグルはポーランドの首都ワルシャワにある自社施設を避難民支援の非政府組織(NGO)に提供した。

 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)や避難民を支援するNGOなどへの人道目的の寄付も競うように表明。グーグルは総額2500万ドル(約30億円)超を、スウェーデンの家具大手イケアは2千万ドル(約26億円)を送ると発表。「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングは1千万ドル、トヨタ自動車も最大250万ドルを寄付すると明らかにした。

 米モーニングコンサルトの調査では、消費者は企業に対し、ロシア事業からの撤退やウクライナ避難民のための寄付、支援といった具体的な行動を求めている。同社は「超党派の支持が集まっているまれな例だ」と指摘している。(ニューヨーク共同)


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冷戦後最大の人道危機(2022/3/25 京都新聞)

 ロシアが隣国ウクライナに侵攻して24日で1ヵ/。一般市民を無差別に巻き込む消耗戦は、冷戦後最大の人道危機となった。無謀な戦争の本質、国際社会が学ぷべき教訓について、2人の識者が論じた。

悲惨極まる「兄弟殺し」下斗米伸夫 神奈川大特別招聘教授

 犠牲者や避難民の数は増える一方である。原発施設を攻撃した暴挙は、世界、特に日本にとっては許しがたい。

 当初は米国とロシアが外交交渉に戻るための短期戦と思われたが予想は外れた。ウクライナ軍は善戦している。スターリンが苦戦したフィンランドとの戦争のような展開になり始めた。1939年、この小国の英雄的抵抗を受けて、ソ連はかいらい国を作ったものの国際連盟から追放された。

 停戦交渉そのものがプーチン大統領の意図を示しているようだ。一時は交渉場所となったベロベーシは91年7/に解散したワルシャワ条約機構の関連施設があったところだ。ソ連崩壊を半/後に控えた同年12/8日、ロシアのエリツィン大統領、ウクライナのクラフチュク大統領などスラブ3共和国の指導者が、ここで独立国家共同体(CIS)を創設した。戦略核部隊の共同管理と領土保全、そしてロシアが「後継国家」であることも約した。

 プーチン氏は昨年7/、ロシア人とウクライナ人は同じ「ナロード(民)」だという論文を発表した。現在の停戦交渉で、ロシア側代表に据えたメジンスキー大統領補佐官はウクライナ人だ。

 交渉は、元来和平派だったウクライナのゼレンスキー大統領が、あくまで北大西洋条約機構(NATO)側に立つのか、それともCIS構成国として「近い外国」だった独立時の中立に戻るのかを、都市住民を巻き込み核施設を押さえたうえで問うているのだ。外から見れば全く不可解で不条理な状況である。

 トルストイの「戦争と平和」と、ドストエフスキーが「カラマーゾフの兄弟」で描いた「兄弟」の関係が、現状を象徴している。ウクライナは主権宣言以来、2019年に憲法にNATO加盟を書くまでは中立が国是だった。だが「兄弟」よりもNATOを選んだ結果、ロシアによる「兄弟殺し」という局面に入っている。紛争を止めるのは極めて困難だ。

 戦争の展開は今や、経済制裁を伴いグローバル化し、国連の存在意義まで問われかねない。NATO諸国は結果を固め、海外メディアもロシアを離れつつある。ロシア批判の国連決議ではインド、中国が棄権、ロシア国内でも情報統制が強まっている。

 NATOを率いるバイテン米政権は、最終的にロシアを「敵」と決めている。NATO東方拡大の結果、ポーランドが新しいハブとなった。中立国フィンランドまでもが加盟の用意をしている。

 冷戦後の97年にNATO拡大問題が本格化したとき、かつて冷戦を予言した米国の元外交官ケナンは、ロシアへの影響を指摘し警告した。旧ソ連圏に拡大した時には、キッシンジャーやブレジンスキーといった米国の専門家や有力大使からも慎重論が相次いだ。

 だが決定を誰も覆すことはできなかった。プーチン政治は、「西側」の動きに鏡像のように対応してきた。「傷ついた大熊」は「悪魔」(米国のマクフォール元駐ロ大使)と化した。

 まだ遅くない。今イスラエルなどが仲介工作をしているが、一刻も早く停戦を実現して罪のない民を砲撃の災禍から救い、これ以上の悲劇を止めるべきだ。

19世紀への回帰許すな細谷雄一 慶応大教授

 プーチン大統領は「19世紀型の戦争」を続け、時計の針を200年前に戻そうとしている。20世紀における歴史の進歩が破壊されようとしており、国際社会は結束して阻止しなければならない。

 19世紀型の戦争には二つの特徴がある。一つは法的側面だ。プロイセンの軍事学者クラウゼビッツが古典「戦争論」で指摘したように、当時の戦争は「政治の延長」と捉えられ、政治目標を達成するための武力行使が容認された。

 しかし、20世紀は2度にわたる大戦の惨禍を経て、戦争の違法化が進んだ。「政治の延長」としての戦争は認められなくなり@自衛のための戦争A国運憲章7章の規定に基づく武力行使―を除けば、基本的に国際法違反と見なされるようになった。

 だからこそ、ベトナム戦争やイラク戦争が批判されている。この二つは自衛のための戦争でもなければ、国運安全保障理事会の明確なお墨付きもない。大国が武力に訴える場合でも、国際法上の合法性を意識することが大前提となった。

 ところが「プーチンの戦争」には、それが全く見られない。戦争の違法化という20世紀の国際法の発展を完璧なまでに無視し、法的根拠が欠如したままウクライナの領土をじゅうりんし、無差別攻撃を拡大し、民間人の殺りくを続けている。

 19世紀のもう一つの特徴は大国主義だ。当時の国際政治は大国間協調に基づいており。大国が小国の運命を決めるのが常だった。これに対し、20世紀はリベラリズムが広まり、国際社会が小国の権利を保護することが定着した。

 その典型が1991年の湾岸戦争である。独裁者フセイン大統領(当時)率いる中東の地域大国イラクがクウエートヘ侵攻した時、米国を中心とする国際社会は多国籍軍を編成し、イラクを攻撃してクウェートから駆逐した。

 このように、人類は20世紀、戦争の違法化を進め、国の大小にかかわらず主権を尊重するというルールを確立した。ウクライナ危機を通じ、この二つが壊れてしまえば、次の100年は力がものを言い、小国の主権が顧みられない時代に入っていく。

 国連や北大西洋条約機構(NATO)、欧州連合(EU)、先進7ヵ国(G7)のリーダーらが声をそろえてロシアを非難しているのはこのためだ。戦争と大国支配の時代に逆戻りすることを一丸となって阻止しようとしているのである。

 こうした世界の到来は、憲法9条を持つ平和国家日本にとって最も好ましくない。国際法の体系が無力化すれば、中国が沖縄県・尖閣諸島の現状を一方的に変更したり、日本が反発して紛争に発展したりする事態を招きかねない。

 人類が営々と築き上げてきた国際秩序が21世紀になって壊れるかもしれない。戦争と大国主義の時代が再来するかもしれない。その危機感を共有し、阻止するのが日本を含む国際社会の責務であり、今の私たちに問われている課題である。 (談)


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「悪夢」と化した日常(2022/3/26 京都新聞)

 ウクライナへの攻撃で、侵略国となったロシアでも人々の暮らしは続いている。モスクワで働く60代の女性が、荒唐無稽な「悪夢」と化した日常の様子を手記にまとめ、寄せた。

 私たちの生活で、目立っていることをお話しします。薬局からたくさんの薬がなくなりつつあります。どの人も予期していたので、特に驚くようなことではありません。驚くのは別のことです。

ヨード薬買い占め

 最初に、甲状腺の病気の患者がいつも服用する薬が消えたのです。この病気にかかると生涯ずっと、毎日薬を飲まなければなりません。薬の種類はいろいろありますが、どの薬もヨードを成分としています。ヨードの入った薬があらかた消えうせてしまったのです。

 なぜ? 全くうそのような話なのですが、人々によると、ヨードを成分とする薬があれば核戦争から、放射線から身を守れるというのです。大多数の住民が政府を支持する一方で、その同じ住民が政府を信用せず、核爆弾が投下される万一の備えに薬を買い占めた、だなんて。それで自分を守れると思っているなんて。笑ったらいいのか泣くべきなのか分かりません。

 集団狂気のお話は、まだほかにもあります。人々の頭は空っぽで混乱しきっています。テレビのスクリーンから四六時中流されるプロパガンダのせいで、人々の頭は臭いもの、簡単に言うと、ふん尿でいっぱいです。1週間前、フェイスブックの投稿で読んだのですが、戦争の本当の原因は、ウクライナとアメリカが特殊な生物兵器を対ロシア人用に作っている研究所だ。それでプーチンはウクライナの生物兵器でロシア大が感染するのを未然に防ぐ必要があった、とありました。

 私はその時、笑いころげて、何ともすごい妄想が頭に浮かぶものだねえ、と友だちに話して聞かせました。

 それが数日前テレビで、勲章をいくつも下げた軍服を着た将軍が、戦争の原因をめぐって同じことを言っているのを耳にしました。この将軍は毎日軍事解説をして、ロシア軍の戦功を国民に紹介しています。大まじめな顔をして、アメリカ人の特殊訓練を受けたレーダー操作の鳥とコウモリによって致死的なウイルスがウクライナからロシアへもたらされる、と言いました。一昨日には、同じことをロシアの外務大臣と報道官が言っていました。  考えてもみてください、野生の鳥が南からモスクワを攻撃しに飛んできて何かをばらまくにしたって、どうやってロシア人を感染させるのでしょうか。ふんかなにかをばらまくのかしら。でもコウモリは?モスクワにコウモリは全然いないのですよ。これを機会にいくつも大部隊を組んで襲いかかってくるのかもしれないけれど。笑ってしまうようなことだけれど、人々はこのデタラメを大層熱心に信じ込んでいます。

治しがたい病

 今日は、大の大人である知り合いから、こんな手紙を受け取りました。

 「親愛なるみなさん!ウクライナの現極右政権は、アメリカの生物兵器を領土内に有し、ロシア語を禁止しました。もはや誰からも共感は得られないのです」

 これはどう説明したらいいのでしょう? この人は政府の聞きたいことを口にしているだけ?それともプロパガンダに毒されてしまった?あるいは病気で気が狂ってしまったのでしょうか?

 これは国民全体の病だと思われます。どう治療すべきかわかりません。とても危険な病です。世界にとって、とりわけ私たち、この戦争に反対し、ウクライナを攻撃するロシアを非難している人々にとって危険です。

 ここ数日で一番恐ろしかったのは、この間、本質的には何も変わらなかったことです。私たちに爆弾が落とされるわけではないから、誰もが慣れてきてしまいました。通りでは楽しそうに人が群れ、劇場やカフェに行ったり通勤したりしています。でも、薄い覆いをはぎ取れば、私たち誰もが心に感じている恐怖がそこにあります。

 自分のことしか

 経済崩壊はまだやってきていません。もっとも、多くの商品の値段がひどく上がりました。私の父は昨日砂糖を買いましたが、先週より3倍も高くなりました。私も新しいコンピューターを買うことがもうできません。そんなお金はありません。でも経済的な貧困はまだ先です。たくさんの人たちがおびえているけれど、どの人も口先では楽天的に見せるよう努めて、威勢よく愚かしいことを口にしています。

 例えば、マクドナルドなんかいるものか、ロシアにはロシアの良い食べ物があるじやないか。外国の衣料ブランドが何だ、わが国にはわが国の仕立職人がいるだろうとか。一番ばからしい連中が言うには、われわれは自分で新しい航空機や自動車をつくるのだと。

 どの人もどういうわけか、こんなこと全部をロシア人が克服できると考えています。ソ連が崩壊した1990年代の荒廃を乗り越えられたじやないか。だったら目下の苦難だって乗り越えられると。

 どうして分からないの? 私たちは文明から隔絶した絶海の孤島になってしまったのですよ!それがうれしいのなら、あなたたちはばかです。こうした企業が撤退することは、何百万人もが職を失い給料もなくなってしまうってことが、どうしてわからないの?

 でも経済危機について話しながら私か一番ショックだったことは、私たちがウクライナを爆撃していることを、誰も口にしないことです。この惨事に対して誰も罪の意識を感じていない。誰もが自分の身の上と暮らしのことしか心配していない。私たちロシア人全員が罰に値するのです。


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最大1300万人栄養失調(2022/3/27 京都新聞)

 ロシアのウクライナ侵攻による混乱で小麦などが供給不足に陥り、2022〜26年に世界で最大1300万人が栄養失調になる恐れがあることが国連食糧農業機関(FAO)の試算で25日までに明らかになった。小麦価格は2割超上昇する可能性があり、FAOは「一刻も早く農民が平和に働けるように助けてほしい」と戦闘の終結を訴えている。

 先進7力国(G7)は24日、ベルギーで開いた首脳会合で、世界的な食料危機の予防・対応のために行動することを盛り込んだ声明を採択。FAOに対し臨時理事会の開催を要請ずることを決めた。

 ロシアとウクライナ両国は農業大国として知られ、世界の小麦の輸出量に占める割合は約30%、ひまわり油は50%超に上る。トウモロコシや大麦、菜種油も「突出した存在」(FAO)だ。侵攻前から相場は最高値水準だったが、上昇傾向が加速する恐れがある。

 輸入小麦に占めるロシア産とウクライナ産の割合が50%以上あるのは26力国。エジプトは7割超、アフリカ東部ソマリアは9割超に上る。紛争前までウクライナは3〜6/に約600万トン、ロシアは約800万トンの輸出が見込まれていた。日本の両国からの小麦輸入はほぼゼロとみられるが、小麦の相場高騰の影響でパンの値上げが広がっている。


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母国「史上最悪の汚点」(2022/3/28 京都新聞)

ロシア作家・リュドミラ・ウリツカヤさん

 現代ロシアを代表する作家リュドミラ・ウリツカヤさん(79)が共同通信の書面インタビューに応じ、母国によるウクライナ侵攻を「ロシアの歴史における最悪の汚点の一つとして、いずれ教科書に記述されるだろう」と断じた。

 2/末、ロシアメディアに「痛み、恐怖、恥―それが今抱いている感情だ」と心情を明かしたウリツカヤさんは、今回の軍事行動を「私たちの意思に反して、ロシア国民の名の下に行われている犯罪だ」と指弾。プーチン大統領を念頭に「一人の男の狂気と、忠実な信者たちが国の運命を支配している」と述べた。

 侵攻の背景には、2014年にウクライナのクリミア半島を強制編入した際の成功体験があるとの見方を示す。プーチン氏は「自国の利益しか考えない弱い存在」とみている西側諸国を「世界のエネルギーの大部分を支配し、核のボタンも握っている」と脅迫し、国際的な非難を振り切ったと読み解く。

 以来、ロシア国内では愛国主義の風潮が強まり、当局のお墨付きを得たメディアが、それを支持していると指摘する。諸外国からの制裁が話題になると「それならば、もう一度戦争をしてもいい」といった好戦的な意見も増えているとした。

 プーチン氏が高い人気を維持している理由については「権力が集中し、反対勢力が存在しないため」と分析。一方で、政権支持率などは全てコントロールされたデータだとして「発表された数値は信用できず、本当の評価は誰も知らない。私の周りに彼を応援する人はいない」と言い切る。

 そんなロシア国内で反戦の声が上かっていることに関しては「より大規模に広がることを期待している」としつつ、言論弾圧が強まっている現状を憂慮する。「デモ参加者への圧力は強まり、逮捕者は増え、独立系ラジオ局は閉鎖された。これは非常に悪い兆候です」

 昨年末に邦訳が刊行された長編小説「緑の天幕」(新潮社)では、スターリンの死からソ連崩壊までの約半世紀を舞台に、強権的な国家でもがく「小さな人たち」の心の機微を描いた。文学が果たす役割を問うと、作中の人物が語るように「人間が生き延び、時代と和解するのを助けてくれるものです」と力を込めた。


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ウクライナ侵攻で危機感拍車(2022/3/28 京都新聞)

 集団的自衛権の行使を認め、自衛隊の任務を大幅に広げた安全保障関連法が29日、施行から6年となる。日本周辺では中国による台湾への強硬策に懸念が拡大。親密な関係を誇示するロシアによるウクライナ侵攻が起き危機感に拍車がかかる。自衛隊は米軍と一体で有事への備えを急ピッチで進めるが、実際に起きる事態を正確に予測するのは難しく、時の政権の判断が問われることになりそうだ。

 陸上自衛隊が露払い役となり、米海兵隊が敵を排除する―。3/、静岡県の東富士演習場であった訓練では、双方が役割分担して、離島奪還を目指す作戦を繰り返した。

 それぞれの保有する輸送機オスプレイで隊員を順次投入。陸自が安全に活動できるかどうかを確認すると、後続の海兵隊が周辺地域の掌握に着手。上空を飛ぶ海兵隊のステルス戦闘機に陸自が得た情報を共有する場面もあった。

 記者会見した海兵隊の指揮官は「同じ能力を持つ部隊同士が、同等の能力を発揮することで即応展開できる。南西諸島でも同じ」と力説。陸自幹部は「より実戦を意識した。日米の役割が逆になることもあり得る」とあからさまだ。

 「台湾有事は8本有事」。安倍晋三元首相ら有力政治家から昨年以来、中国が台湾に侵攻する事態になれば、集団的自衛権が発動できる「存立危機事態」に当たるとの発言が相次ぐ。この事態は、密接な関係にある他国への攻撃で日本の存立が脅かされる明白な危険がある場合で、安保法に規定された。自衛隊の幕僚長経験者も「台湾に近い南西諸島が戦場になることも考えられる」と台湾有事が日本に波及するのは避けられないという。

 東、南シナ海から太平洋にかけて中国の活動は活発なまま。沖縄県・尖閣諸島周辺では中国船の航行が常態化する。昨年12/には太平洋で空母から戦闘機が発着艦。台湾の防空識別圈に入る飛行も相次ぐ。米軍は沖縄周辺に送り込んだ原子力空母エーブラハムーリンカーンと海自との訓練を今年に入り、’約1ヵ/間で4回も続けた。

 一触即発の気配も漂うが、防衛省幹部は「台湾は有事にかなり備えており、他国の支援も考えると拙速に侵攻できないだろう。経済制裁の出方も含めウクライナ情勢をじつくり見極めているはず」と冷静に分析する。

 中国と台湾で軍事衝突に発展した場合、台湾関係法で支援を約束する米軍が実際に参戦するかどうか、日本にも被害が出るような戦闘が起きるかどうかは未知数だ。

 存立危機事態だとして、集団的自衛権を行使するには、必要最小限の実力行使にとどまるなど「武力行使の新3要件」を満たす必要もある。防衛省では、放置すれば日本の平和と安全に影響が出ると「重要影響事態」になり、後方支援に当たるシナリオも指摘される。ある政府関係者は「存立危機事態の認定はかなりハードルが高い。どんな緊迫した状況でも慎重にやる。世論を無視してはできない」と過剰な意見を突き放す。


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安全保障関連法施行6年(2022/3/29 京都新聞)

 ロシアのウクライナ侵攻が起き、中国による台湾への軍事圧力に緊張が高まる。日本はどう対応すべきか。ともに安全保障に詳しい植村秀樹・流通経済大教授と小谷哲男・明海大教授に最近の情勢を踏まえて聞いた。

国際秩序の変動に対処を 小谷哲男・明海大教授

 安全保障関連法が制定された背景には、日本が防衛上の役割を拡大して世界の警察官役から手を引こうとする米国を引き留める必要性があった。米国が攻撃されても日本に守る義務がない「安保タダ乗り」論に反論できる土台にもなった。

 数年以内に起こるとも言われる台湾有事の備えでも重妥だ。安保法の「武器等防護」では米艦防護が平時から可能で戦闘機への給油もできる。日本の領域外でも支援ができるようになった。情報開示が不十分との意見もあるが、全て公開してしまうと潜在的な敵国にこちらの手の内を明かすことになる。現状で精いっぱいだと思う。

 「切れ目のない対処」を掲げる安保法にも切れ目はあった。完璧ではない。昨年8/のアフガニスタンからの邦人輸送は他国に遅れ、中東で民間船を守る護衛艦の派遣には適用できていない。何か起こってからではなく、常に検証し、切れ目を埋めることが必要だ。

 台湾有事となると、沖縄の米軍基地は当然ターゲットとなる。ウクライナ侵攻でロシアは防空網の無力化に失敗した。中国は初期段階で台湾や日本にある米軍施設をミサイルで破壊する必要があるとの教訓を得たはずだ。本格的な侵攻になれば、南西諸島への攻撃も一体だ。

 国際秩序は大きく変動している。安保法で認められたのは限定的な集団的自衛権で、個別的自衛権をやや拡大したというのが実態。行使には日本の存立が脅かされる必要があり、必要最小限の自衛力しか使えない。

 ロシアや北朝鮮の脅威も無視できない。防衛上可能なことを列挙する現在の安保法では、日本が直面する危機に対処できない恐れがある。完全に集団的自衛権を行使するためにも憲法を改正することが望ましい。

日米一体化抑止にならぬ 植村秀樹・流通経済大教授

 安全保障関連法の施行から6年で、日米の一体化はどんどん進んでいる。国内では沖縄の負担軽減の名目で本土の米軍の活動が広まった。沖縄の負担はほとんど減っておらず、「本土の沖縄化」だけが進んだ。米国がアジア太平洋の国を取り込む中国包囲網の中に日米一体化はあり、米国の世界戦略の一環だ。

 一体化が抑止力になるとは言いづらい。米国の国力が相対的に落ち、軍事力の低下を日本が補っていると中国は見るだろう。米国への間接的な協力だけをしていた日本が攻撃もしてくるかもしれないとなると、緊張感を高めかねない。

 ウクライナ侵攻で経済制裁を受けたロシアのように、中国は経済を破壊してまでは台湾に侵攻しづらい。ただ、台湾有事では米 国は「台湾関係法」があるため介入する可能性がある。そうなれば安保法のある日本が巻き込まれることは明らかだ。米国支援を以前は断ることもできたが、積み上げた議論を簡単に蹴飛ばして憲法解釈を変更し、法律を作った。今は「ノー」とは言えない。

 集団的自衛権の発動につながる「存立危機事態」の認定条件は、簡単に戦争に突き進まず、最後の手段として発動するよう見せてはいるが、結局は日米両政府がどう判断するか。いくらでもスキップできる。国会承認は事後でも良く、ハードルは高くない。

 日本は米国追随で主体性がなく姿勢が見えない。日米一体化が止まる可能性はなく、進む以外にない。台湾有事だけでなく、世界のどこでも米国支援の名目で巻き込まれる恐れもある。

 「武器等防護」など活動は広がったが情報開示がほぼなく、何をしているかさっぱり分からない。国民の関心は低く、メディアや野党の追及も弱い。事態は悪化している。


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ロシア ゆがんだ愛国心(2022/3/29 京都新聞)

 ウクライナ侵攻を巡る情報統制を強めるロシアで、プーチン大統領の支持率が上昇している。政府系機関の調査で額面通りに受け取れないが、ゆがめられた情報があふれるロシア社会では愛国主義的な言動が目立つようになり、反戦の声はかき消される。政権の足元では幹部の離反の動きが伝えられ、ほころびも垣間見えるが、世論操作は一定の成果を上げている。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は27日、ロシアメディアと約90分間の会見にロシア語で応じ、人道危機が深刻化する港湾都市マリウポリの惨状を訴えた。しかしロシア当局は数時間後、報道を禁じると通達した。

 セレンスキー氏は会見で、ロシア側が戦死した兵士の遺体の引き取りを一時拒否したと主張、「犬や猫が死んだ時だってこんな扱いはしない」と断じた。ロシア語ニュースを通じて反戦世論の喚起を狙ったが、報道禁止措置で不発に終わった。

 ロシアメディアでウクライナ側の言い分か伝えられることはほとんどない。政府系の全ロシア世論調査センターによると、プーチン氏を信任すると回答したのは侵攻前の2/20日に67・2%だったが、3/20日には80・6%に上がった。

 ロシアは今/、政府機関を巡る「偽情報」を拡散した場合、最長15年の懲役刑を科す法律を整備した。ロシア各地では軍を応援する集会が盛んに開かれるようになった。

 兵士への連帯を示そうと、幼い子どもを「Z」の文字の形に並ばせたり、車列でZの形をつくったりするイベントが相次ぐ。Zはロシア軍の戦車や装甲車に記され、侵攻の象徴になっている。

 「平和のために、ロシア、前へ」。中部カザンの大学ではZ形のリボンを上着に付けた学生たちが声を張り上げた。大学側は独立系メディアに「学生の発案」と説明したが、学生は大学が企画して参加を呼び掛けたと証言。「会場に来なければ、大きな影響がある」と脅されたという。

 「ロシア人はソンビ化している」。ロシア政府系テレビのニュース番組中に乱入し、反戦を訴えたオフシヤンニコワさんは警鐘を鳴らす。「ソンビ化」は政権のプロパガンダを信じ込み、思考停止となった状態を意味する造語だ。

 若い世代では「ロシアメディアへの信頼はゼロだ」(31歳のアルヒボフさん)との声も上がるが、中高年層では政府系テレビを主な情報源にしている人が多い。

 海外発の情報を意識的に入手しようとする人は一部に限られ、侵攻後はツイッターやフェイスブック、西側メディアのアクセスが遮断された。現時点で政権批判や反戦世論の盛り上がりにはつながっていない。

 世論工作は奏功しているもようだが、政権内部ではきしみも見える。23日には大統領特別代表を務めていたチュバイス元第1副首相の辞任が判明。侵攻への反対が理由とされ、既に出国した。ドゥボルコビッチ元副首相は米誌の取材に「戦争は最悪なものだ」と述べた後、18日に政府系財団の代表を辞した。だが、政権に不都合な情報は国内で広がらない。「政権のプロパガンダから目を覚まして」。オフシャンニコワさんの訴えは届かないままだ。


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対ロシア防衛 各国及び腰(2022/4/1 京都新聞)

 ロシアに侵攻されたウクライナが、北大西洋条約機構(NATO)加盟を断念する「中立化」の代わりに、大国がウクライナの安全を保障する新たな枠組みの創設を提案した。ロシアの要求を踏まえた代替案だが、メンバー候補とされた国々は将来的にロシアとの戦争に巻き込まれるリスクを負うことになりかねず、関与に及び腰だ。4/1日に再開する停戦交渉の論点になる。

 ウクライナ側によると新枠組みでは、同国が攻撃された場合、メンバー国が3日以内に協議するとし、武器提供や飛行禁止区域設定を含む軍事支援を義務付ける。メンバー候補として米英仏中独、トルコ、イスラエルなどを想定。ロシアも候補とされたが、「別途協議が必要」とした。

 ウクライナは今回、1994年の国際合意「ブダペスト覚書」を完全にほごにされ、国土を踏みにじられた。覚書は核兵器を放棄する代わりに、ロシアと米英は安全保障を与えるとの約束だった。この失敗の反省から、新枠組みは国際条約にすべきだと主張している。

 交渉団幹部は新枠組みについて「われわれは『ウクライナ版NATO』と呼んでいる」と表明。NATOでは加盟国への攻撃を同盟全体への攻撃と見なし、集団的自衛権が発動される。新枠組みで集団防衛義務をどう位置付けるかが、今後の交渉の鍵になりそうだ。

 欧米では早くも懐疑的な見方が出る。英国のラーブ副首相はBBCラジオで「NATO加盟国に適用されるような義務を設けるつもりはない」と発言。米国は「具体的に話せることはない」(ホワイトハウス広報部長)として、参加するかどうかの明言を避けた。

 米国内ではウクライナ議連共同代表のタービン上院議員が米紙に「時期尚早だ」と指摘。上院外交委員会のリツシュ筆頭委員もブダペスト覚書の機能不全を挙げ、新枠組みの有効性を疑問視した。

 ダールダー元NATO米代表部大使は「永続的な解決策には米国などによる実効性のある安全保障が不可欠だ。どこまで提供する用意があるか米国も決断を迫られる」と分析した。

 イスラエル当局者は「現時点で安全保障を与える考えはない」と指摘。停戦交渉の舞台を提供したトルコは立場を明確にしていない。仏独は議論の推移を見極める構えだ。

 ロシアと友好関係を保つ中国も新枠組みとは距離を置く。汪文斌外務省副報道局長は30日「ウクライナ危機の平和的解決に向けた全ての外交努力を支持する」と述べたものの「中国は自分たちのやり方で建設的な役割を果たす」と強調した。

 習近平指導部は、NATOの東方拡大が危機を招いたとするロシアの主張に同調する。一方でウクライナへの人道支援に乗り出すなど曖昧な態度を取り続けてきた。ロシアとの関係は維持したいが、国際的孤立も避けたいという“板挟み”の苦境がうかがわれる。

 ウクライナ情勢で中国は「当事者ではない」との立場を取る。新枠組みの創設に関わることになれば、明確な態度表明が求められる。ある中国のインターネットメディアは、交渉に加われば中国と西側諸国の立場の違いが際立って、対立が激化しかねないと論じた。


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母に告げず祖国防衛へ(2022/4/2 京都新聞)

 母にも告げず兵士となった女性アリーナ・サルナツカさん(34)は、入隊20日後にはウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊の激戦地にいた。ロシアの侵略を食い止めるために前線に立つのはウクライナの正規軍だけでない。国家存続の危機に、市民で構成される「領土防衛隊」も投入されている。

 検問所だらけのキーウ中心部。小雨が続く中、バリケード代わりの路面電車が交差点をふさぐ。警戒に当たるのは、サルナツカさんのような領土防衛隊員も多い。市北西部では、攻撃で破壊されたショッピングセンターが無残な姿をさらす。

 1日に取材に応じたサルナツカさんは迷彩服にヘルメット姿。小銃を肩に掛け、一人前の兵士の雰囲気だが、3/5日の入隊から1ヵ/もたっていない。入隊前はドメスティックバイオレンス(DV)被害者や、薬物中毒者らの更生を支援する非政府組織(NGO)で働いていた。

 「軍事関係の仕事は考えたことすらなかった」。銃は射撃場でピストルを撃ったことがあるぐらいだった。

 平時に知人の多くは「軍を支えるのは大事」と主張し、週末に領土防衛隊の訓練に参加していた。だがロシアが実際に侵攻してくると大半はキーウを離れ、国外へと脱出する人も。言行不一致に「許せないという気持ちもある」と打ち明ける。入隊を決めたのは「社会のために、正しいことがしたい」という思いからだ。

 「誰かがやらなければならないという点ではNGOでの仕事と同じ」と言う。

 キーウから退避せずに残る母(70)には入隊を云えていない。「2日に―回ぐらい電話するけど、食事をちゃんととり、元気でやっていると伝えるだけ」。母に心労をかけたくないという一人娘なりの気配りだ。

 前線での出番はすぐにやってきた。3/25日、キーウ郊外の激戦地イルビンヘ。任務は弾薬などの物資搬入の警護たった。上空には、ウクライナ軍の配置を探るロシア軍のドローンが飛び交う。姿勢を低くして森の中を進んだが、葉が生い茂る季節の前で身を隠すこともできず、気が気ではなかった。作戦は約1時間半で終わったが、半日以上こ感じたという。

 ロシア軍はキーウ周辺での作戦縮小を表明。このため、サルナツカさんはロシアが戦力を集中させるとした東部に送られる可能性が出てきた。

 まだ実戦で発砲はしていない。「でも敵が目の前に現れたら、ためらう選択肢はない」。冷徹にこう言い切った。今は一日一日をどう過ごすかで精いっぱいた。戦争が終われば「手持ちのドレスを毎日着たい」。冗談めかして、少し笑った。【キーウ共同=出口朋弘】


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「賛成ありき」疑念残る(2022/4/4 京都新聞)

 政府が検討中の敵基地攻撃能力の保有を巡り、有識者ヒアリングで支持する意見が大勢を占めたことが判明した。政府は検討結果を国家安全保障戦略の改定に反映させるとみられる。だが、招かれたのは外交・防衛分野の高官OBが中心で「賛成ありき」との疑念は残る。議論の過程は公表されておらず、透明性の確保が不可欠だ。

 北朝鮮の相次ぐ弾道ミサイル発射に加え、ロシアのウクライナ侵攻で国際秩序が揺らぎ、日本の防衛を考え直す時機であるのは確かだ。侵攻前の2/に共同通信社が実施した電話世論調査でも、敵基地攻撃能力保有については賛否が桔抗した。

 しかし、他国を攻撃する力を持つことは、憲法の平和主義や「専守防衛」を前提とした国防政策の大転換を意味する。拙速な議論は許されない。

 2013年に国家安保戦略を策定した際は、有識者懇談会の議論が一部公開された。国民的な関心を高めるためにも、議論の過程は可能な限り透明化すべきだ。

 ロシアの攻撃によるウクライナ国民の被害は、戦争の悲惨さをまざまざと見せつけた。攻撃力を強化すれば、抑止力となる可能性がある半面、攻撃対象になり得るという視点は忘れてはならない。中国や北朝鮮、ロシアとの間で際限のない軍拡競争を招く恐れもある。

 名称変更論もくすぶる。防衛上、必要だと信じるなら「敵基地攻撃」のとげを言葉で覆うごまかしではなく、リスクも含め真摯に説明すべきだ。

経費や技術面課題山積

 国家安全保障戦略など3文書に「敵基地攻撃能力」保有を明記する方針に、政府から聴取を受けた有識者の大勢が賛同した。「お墨付き」を得たとして、政府は改定に向けた検討を加速させる構えだ。ただ自衛隊が敵基地攻撃を可能とする装備や部隊を整備するには、時間と経費、技術などの面で課題が山積している。憲法9条の平和主義が形骸化する懸念もある。

 政府が保有明記を目指す背景には、激変する東アジアの安保環境への危機感がある。中国は国防費を増大させ、北朝鮮も核・ミサイル開発を進める。防衛省幹部は「周辺国に対し、反撃する用意があると『宣言』するのが狙いだ」と解説する。

 だが能力保有へのハードルは高い。政府は、敵国の射程圏外から攻撃できる長射程の「スタンド・オフ・ミサイル」開発に着手したが、戦闘機搭載型の開発完了は2028年度となる見通しだ。

 敵基地からのミサイル発射を正確に把握するには衛星による常時監視が必要。しかし日本は十分な能力や技術を持っておらず仮に日本が発射とみなして攻撃しても、国連憲章や国際法が認めていない先制攻撃と受け止められる可能性をはらむ。


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ロシア軍退去 残る死と破壊(2022/4/4 京都新聞)

 ウクライナが2日、首都を含むキーウ(キエフ)州奪還を宣言した。ロシア軍は2/の侵攻直後からキーウ郊外に迫り、1ヵ/以上戦闘を続けたが、キーウは陥落しなかった。ゼレンスキー政権を見くびり頑強な抵抗に遭い、市街戦への準備不足を露呈。補給にも失敗した。ロシア軍が退却したキーウ郊外は、死と破壊の世界と化していた。

 黒焦げの鉄くずと化した戦車や装甲車が道路を埋め尽くしていた。砲撃で大破した家々。通りのあちこちに多くの亡きがらが散らばる。路上で身を寄せ合うように息を引き取った人たちもいた。

 市民を処刑か

 約1ヵ/にわたりロシア軍の制圧下に置かれ、ウクライナ軍が奪還したキーウ北西のブチャ。各国メディアによると、目を覆うばかりの惨状が広かっていた。

 道路には追撃を防ぐためか、多数の地雷。遺体に爆弾が仕掛けられ、わずかな動きで爆発する恐れがあり、容易に収容できない。後ろ手に縛られたまま亡くなった人も目撃され、ウクライナ側は非武装の市民が処刑されたと主張している。

 住民の女性は米紙ニューヨークータイムズに、ロシア兵が家々を物色してテレビやパソコンを戦車に積み込んで「慌てて去った」と混乱ぷりを証言。ロシア軍の検問所は奪い返され、ウクライナ国旗が掲げられた。

 一方、キーウ市中心部の商店や飲食店は大半が閉まったままで人影もまばら。3日も空襲警報が鳴り響き、戦時下の緊張感が漂う。

 制空権握れず

 ロシアはなぜ首都攻略に失敗したのか。同紙によると、首都進軍は2/24日の侵攻初日からつまずいた。キーウ北西のホストメリ空港をヘリコプター部隊で攻撃したが、ウクライナが抵抗。制圧に必要な空挺部隊の態勢を整えられなかった。

 英軍事専門家は、一気に政権転覆を狙ったロシアはゼレンスキー大統領が逃亡すると信じ込んでいたと指摘。だがゼレンスキー氏はキーウにとどまり、ロシア軍は市街戦という壁にぷつかった。

 ビルなどが立ち並ぷ部市での地上作戦は遂行が難しい。ロシア軍は広大な空間での戦闘を想定して訓練を積んでおり、準部不足は明白だった。ウクライナはキーウに防空網を集中させ、ロシアは制空権を握れなかった。

 戦車などの車列もキーウに向かったものの歩兵や空からの支援は乏しく、ほぼ孤立。幹線道路の守りを固められ、車列の一部はウクライナ軍の待ち伏せ攻撃の餌食に。首都制圧どころか包囲さえできず失態をさらした。

 燃料切れ続出

 補給の停滞も深刻だった。ロシアはウクライナ北部、東部、南部で並行して作戦を実行した。米紙ウォールストリートージヤーナルによると、補給線が伸び切り作戦開始3日で燃料がなくなった部隊もあった。

 ロシア軍は本国で補給を鉄道に依存している。ウクライナでは主要な鉄道拠点を確保できず、車両で運ばざるを得なかった。戦車の燃料切れが相次ぎ、無傷のまま残されたケースもあった。

 今後のロシアの戦略について、英専門家は「軍を再編成してキーウを陥落させるのはほぼ無理だろう。東部で十分な地城を制圧して、交渉でウクライナから妥協を引きだぞうとするだろう」と予測した。(キーウ、ワシントン共同)


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ロシア 組織的に殺害か(2022/4/6 京都新聞)

 ウクライナ首都キーウ(キエフ)近郊プチヤで多数の民間人遺体が確認されたことを受け、米英はロシアが組織的に関与したとの見方を示した。侵攻を妨げる者を抹殺し「占領地を恐怖で支配する」(米高官)ことを狙ったのか。ロシアは市民に手を下していないと否定するが、その主張を覆す住民の証言が続出。ロシアの戦争犯罪を立証する情報収集が始まった。

 「ただただ恐ろしい。21世紀にこんなことが起きるなんて。大勢が殺された。理由もなしに」

 ロシアが2/24日、ウクライナに侵攻してから数日後に制圧され、3/末まで占領下にあったブチヤ。住民の女性イリナさん(47)は、涙を流し声を震わせた。ウクライナが奪還後に現地入りした英スカイニューズ・テレビの取材に応じた。

 イリナさんは夫と共に、近所の中年男性がロシア兵に射殺された瞬間を目撃。ロシア兵はアパート敷地から外に出ようとした男性に身分証明書の提示を求めた。男性が証明書を取りに戻ろうと背中を向けた時、頭を撃たれ倒れた。遺体はアパート近くに埋められた。ハンナ・ヘレガさんはAP通信に、まきを取ろうと家を出た近所の男性が複数のロシア兵に銃撃されたと証言した。「男性はかかとの上を撃たれ骨を砕かれ倒れた。それから全身を撃たれた」

 ロシアは「一人の住民にも手を出していない」(国防省)と民間人殺害を否定する。ロシア軍は3/30日にブチヤから撤退し、その後に遺体などの「証拠」が出てきたとして、ウクライナ側の捏造だと主張した。

 しかし米紙ニュー・ヨークータイムズが衛星写具を分析したところ、ブチヤの通りに放置された少なくとも11遺体は、3/11日には撮影されていたことが判明。ロシア占領下で殺害されたことになりその主張と矛盾する。

 ロシア側は路上に放置された複数の遺体の動画について、腕を動かしている人や起き上がる人がいるとしてでっち上げだとも主張。だが、英調査報道サイト「ヘリングキャット」は、撮影者の車のフロントガラスの水滴やサイドミラーの反射のゆがみによる錯覚に過ぎないと誤りを指摘した。

 米国務省のプライス報道官は「われわれがブチャで目撃したことを臆面もなく否定し、自らの凶悪な行動を他人のせいにし続けている」と批判。「市民が拷問され、レイプされ、処刑されたとの信頼できる報告がある」と強調した。

 ロシア兵の残虐行為はブチャ以外でも報告されている。

 隣にいるナチを見つけろ―。米紙ワシントン・ポストによると、ウクライナ南部の農村に入ったロシア兵は一軒一軒訪ねてはこう要請。数学教師の男性(59)は、ウクライナの民兵に共鳴していると責め立てられ連行された。後日見つかった男性の遺体には、複数の銃創があり腕が折れていた。拷問の疑いがある。

 国営ロシア通信は3日の論評で、ウクライナ国民の大半はナチズムの影響を受けており、武器を手にする者は市民も含め「戦場で最大限破壊されなければならない」と主張。民族浄化を正当化するような説を展開した。

 英秘密情報局(MT6)のムーア長官は「民間人処刑はプーチン大統領の侵略計画の一部だ」と指摘。米政府も「1人の不良兵士の仕業ではない。より大がかりな軍事行動の一部だ」(プライス氏)と組織的犯行と疑う。実行者と命令者の責任を追及する方針だ。(ワシントン、ワルシャワ共同)


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長期化視野「柔軟支援を」(2022/4/6 京都新聞)

教育・就労、心のケアも

 5日に到着したウクライナからの避難民20人の中には、日本に知人や親族がいない人も。外国人支援の現場からは、日本滞在の長期化を視野に柔軟な対応を求める声が上がる。教育と就労の2本柱に加え、心のケアも不可欠となる。

 「これまで何度も泣いた。日本は文化的、人間的な温かさがあって大好き」。5日午後、羽田空港内で取材に応じた避難民の女性(18)は疲れた表情で日本を選んだ理由を語った。

 3日までに400人を超える避難民が来日している。政府は林芳正外相がポーランドに出発した1日、避難民への支援内容を公表。配布資料には生活費や医療費、通訳、日本語教育といった手厚いメニューが並んだ。

 岸田政権は今夏の参院選をにらみ、避難民受け入れを「成果」としてアピールしたい考えだ。政府専用機の活用は国内世論を意識する官邸が主導したとされ、政府関係者は「選挙対策の意図があるのは明らかだ」と指摘する。

 だが、政府に求められるのは地道な支援の継続だ。難民申請者を支援するNPO法人「WELgee(ウェルジー)」の渡部カンコロンゴ清花代表理事(30)は「祖国を逃れた人の中にはトラウマを抱えた大もいる。受け入れはスター卜でしかなく、落ち着いてから人生を再建するフェーズに入る」と、息の長い支援の必要性を訴える。

 避難民の多くは「できるだけ早い帰国を望んでいる」(政府関係者)とされるが、将来的には定住を含めて長期滞在するケースもあり得る。特に重要になるのは教育と就労への支援だ。全国日本語学校連合会に加盟する約200校のうち、15校が無償で日本語教育を提供する意向を示している。連合会の荒木幹光理事長は「日本語や日本の文化を理解してもらえるようサポートしたい」と意気込む。

 アフリカ出身の難民申請者を雇用している電子機器リサイクル会社「ピープルポート」(横浜市)の青山明弘社長(32)は「お客さま扱いせず、仕事でうまくいかないことがあれば、丁寧にコミニニケーションを取ることが大事だ。信頼関係ができるまでは母国で何があったかを聞かないといった配慮も必要になる」と話す。

難民と異なる「避難民」

 ロシアによる侵攻で国外に逃れたウクライナ人を、日本は「避難民」として受け入れた。国や自治体、企業などの支援を受けて日本で生活するが、人道上の配慮による特例的な対応。条約で定義される「難民」と異なり、避難民は法律上の規定がない。

 出入国在留管理庁によると、ウクライナからの避難民は「短期滞在」(90)の在留資格となる。日本に知人らがいる場合は「知人・親族訪問」の枠組みで滞在。今回、政府専用機で来日した避難民には知人らがいないケースがあり、「その他類似する活動」として認めた。いずれもその後、就労が可能な在留資格「特定活動」(1年)への変更ができる。

 「難民条約」は@人種A宗教B国籍C特定の社会的集団の構成員であることD政治的意見―を理由に迫害を受ける恐れがあって国外にいる人を難民と定義。日本では入管難民法で認定手続きが定められており、認められれば定住できる。国民年金や児童福祉手当などの受給資格も得られる。戦争や災害は定義になく、ウクライナからの避難民はただちに難民には該当しないとみられる。入管庁の担当者は「申請があれば五つの理由のいずれかに該当するか審査する」としている。

 ただ日本は認定のハードルの高さから「難民鎖国」と批判されている。認定NPO法人難民支援協会(東京)によると、2020年の難民認定数はドイツの約6万3千人、米国の約1万8千人に対し、日本は47人にとどまっている。

 同協会の石川えり代表理事は「ウクライナからだけでなく、日本に逃れて保護を求めている人は多数いる。今回の避難民も『送還の禁止』など難民に保障される権利があいまいなままだ」と指摘。「難民を公正に認定し、支援する包括的な制度を作ることが必要だ」と訴えた。


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破壊と大量虐殺 募る憎悪(2022/4/7 京都新聞)

 【リビウ(ウクライナ西部)共同】破壊された街を退却するロシア軍は、建物の玄関に地雷を仕掛けていった。「目にした光景は生涯忘れない」。民間人の大量殺害が疑われるウクライナ首都キーウ(キエフ)近郊ブチヤに入ったウクライナ兵の男性が5日、オンライン取材に応じた。ロシア軍によるジェノサイド(民族大量虐殺)だと、憎悪を募らせた。

 男性はレオニード・スクリプチェンコ軍曹(52)。軍の任務の詳細に触れないことを条件に取材に応じた。ロシア軍は3/30日前後にブチヤから撤退し、スクリプチェンコ氏が所属する部隊は今/3日に現地に入った。

 人口約3万7千人の街は破壊されていた。集合住宅は黒く焼け焦げ、重機関銃の弾が散乱。戦車も放置されていた。道路沿いに少なくとも10人の遺体を確認した。「つらかった」と振り返る。

 地雷につながる仕掛けのワイヤは、玄関扉を開けると爆発する仕組み。地雷処理班が活動を続けているが、作業には時間がかかる。いくつもの集団墓地が作られていた。殺害の全容はなお分からない。

 戦渦を生き延びた母子に出会った。2人は泣きながら部隊に駆け寄ってきた。8歳ぐらいの息子は兵士一人一人と握手を交わした。その様子を見て、初めて涙があふれ出た。同時に「心の中に湧き上がってきたのが、復讐心だった」という。

 ロシアは虐殺への関与を否定するが、欧米はロシアの戦争犯罪を追及する方針だ。ウクライナも証拠収集に着手した。ウクライナ当局はロシア軍撤退後、ブチヤを含めキーウ州の各地に入り、3日までに民間人410人の遺体を確認している。

スクリプチェンコ氏は「ウクライナとロシアの戦争とは呼べない。ロシア軍によるテロだ」と語気を強めた。「世界に言いたいことがある。ブチヤで起きたのはジェノサイドだ」


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ロシア兵多数被ばくか(2022/4/7 京都新聞)

【ワルシャワ共同】ウクライナのハルシチェンコーエネルギー相は5日、ロシア軍が一時制圧したチェルノブイリ原発近くでロシア兵が被ばくし、75人前後がベラルーシの病院で治療を受けているなどと述べた。事実だとすれば、重大な被ばくが起きたことになる。共同通信のオンラインインタビューに応じた。

 ハルシチェンコ氏によると、原発周辺には1986年の事故の放射性廃棄物で強く汚染された場所があるが、ロシア兵はウクライナ軍に対する防衛ラインを築くために地面を掘り返したという。こうした作業の中で被ばくした可能性がある。

 ハルシチェンコ氏は「兵士は命令に従ったのだろう」と推察。その上で汚染された場所を「掘るように指示を出すとは考えられないことだ」と述べ、ロシア軍の命令系統を批判した。

 チェルノブイリ原発からのデータ送信停止が続いていることについて、ロシア軍が行動を監視されるのを避けるため「放射線モニターを含むあらゆるものを破壊した」ことが原因だと述べた。

 現在、チェルノブイリ原発は「完全にウクライナが管理している」と強調。現場の職員の報告などを基に「放射線量の上昇は見られない」と説明した。また国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長との3/末の会談で、IAEA支援団のチェルノブイリ原発への近日派遣について協議したと述べた。

 ロシア軍は3/4日に欧州最大級のザポロジエ原発を制圧、火災が発生した。ハルシチェンコ氏は、原発への攻撃は「本当に狂気だ」と非難した。現在も不発弾が残っており、誤って爆発する危険性があると強調した。


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停戦見えず戦闘激化恐れ(2022/4/8 京都新聞)

 「ブリュッセル共同」欧米の軍事同盟、北大西洋条約機構(NATO)が6〜7日、ブリュッセルの本部で外相会合を開き、ロシアが侵攻したウクライナへの軍事支援の拡大について協議した。7日のNATOとパートナー国の会合には、日本の外相として初めて林芳正外相が出席。韓国やオーストラリア、ニュージーランドも参加し、アジア太平洋地域の友好国との連携を強化した。

 日本政府によると、林氏は会合で「国際秩序が深刻な挑戦を受けている今こそ、欧州とインド太平洋地域の安全保障を切り離して論じることはできない」と述べ、NATOと日本の連携強化を呼びかけた。制裁などに反発するロシアは日本との平和条約締結交渉を中断すると発表したが、林氏は「日本がこれにひるむことはない」と強い姿勢を示した。

 NATOは親ロシア派が一部を支配するウクライナ東部ドンバス地域全域の掌握をロシアが狙っており、今後数週間のうちに東部と南部で攻撃を強めると警戒。一連の会合でウクライナへのさらなる軍事支援を協議した。

 中国がロシアの制裁逃れを手助けしないようにするための方策なども議論。ウクライナのクレバ外相のほか、ジョージア(グルジア)、ロシアの侵攻後にNATOに急接近するフィンランドとスウェーデン、欧州連合(EU)も参加した。軍事支援の拡大を巡っては、NATO加盟国チェコが旧ソ連開発のT72戦車と歩兵戦闘車を提供した。

 先進7力国(G7)と北大西洋条約偕碍(NATO)が外相会合を開いた。日本を含むG7が対ロシア追加制裁の実施方針を確認する一方、NATOではウクライナへの武器供与拡大を協議。ロシアはウクライナ北部から東部に戦力を集中させ占領地を確保する構えだ。ロシアの機先を制してウクライナ軍増強を狙うが、停戦見通しはなく武器流入で戦闘が激化する恐れがある。

 「三つの課題がある。兵器、兵器、そして兵器だ。兵器を多く得れば得るほど、多くの人命が救われ、(多数の民間人殺害が確認された)ブチヤは起きなくなる」

 NATO会合に参加したウクライナのクレバ外相は7日、軍事支援の早期拡充を訴えた。

 ロシアの侵攻は「重大な局面にある」(ストルテンベルグNATO事務総長)。ロシア軍は首都キーウ近郊を含む北部から完全撤退し、東部に照準を合わせている。戦局は転換した。

 部隊はロシアやベラルーシにいったん戻り再編成して補給を整え、ウクライナ東部ドンバス地域に転戦するもようだ。2014年に編入した南部クリミア半島とロシア西部をつなぐ陸の回廊を確保する作戦を加速させる構え。

東部・南部が焦点

 米メディアによると、NATO加盟国30力国のうち3分の2程度が、殺傷力のある兵器をウクライナに提供。対戦車ミサイルや地対空ミサイルといった大量の武器供与で、ウクライナ軍はロシア地上部隊の進軍を食い止め制空権を維持し、キーウ周辺を奪還した。

 NATOは今後数週間で、ロシアが東部と南部で攻勢を一層強めると予想する。ストルテンベルグ氏は加盟国に「重火器を含む多様な武器の提供を求める」と強調した。

 NATO加盟国チェコは旧ソ連開発のT72戦車を供与した。戦車の提供は、2/24日の侵攻開始後初めて。南半球のオーストラリアもNATOを通じたミサイルや輸送防護車の供与を表明した。NATOを主導する米国は、最新鋭の自爆型ドローンやウクライナ軍が使い慣れた旧ソ連開発のミサイルなど、新旧織り交ぜた兵器供与で支援を加速させている。

数年続くかも 

 米国防総省報道官は6日、ウクライナ兵に対し、自爆型ドローン「スイッチブレード」の取り扱いを訓練していると表明した。「2日もあれば操作法を習熟できる」という。「カミカゼードローン」が別名で、筒状の装置から発射後に画面を見て操り、標的に衝突して爆発。小型のタイプは重さ約2・5キロでリュックサックに入るほど小さく、機動的に遠隔地から打撃を与えられる。戦車攻撃が可能な最新型も供与する計画だ。

 ストルテンベルグ氏は武器供与の必要性を訴える一方、「われわれは現実的にならねばならない。戦争は数力/か数年続くかもしれない」と吐露した。ウクライナ軍に多くの武器を渡しても早期の戦闘停止は難しいと認めざるを得なかった。(ワシントン、ブリュッセル、シドニー共同)


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自民「緊急条項の改憲大勢」(2022/4/8 京都新聞)

 与野党は7日の衆院憲法審査会で、自民党が党憲法改正案4項目に掲げる緊急事態条項新設の是非について討議した。自民は改憲による@国会議員の任期延長A大規模災害といった事態の対象明記―が各党の「意見の大勢だ」と主張。立憲民主党は改憲不要の立場から拙速な議論だと批判した。日本維新の会と公明、国民民主両党は緊急事態認定の手続きなどに関し、さらなる議論を求めた。

 自民の新藤義孝氏は緊急事態条項を巡るこれまでの議論を受け、私見に基づく「中間的な取りまとめ」とした上で「おおむね共通の理解が得られた」と強調。

 「さらに議論すべき項目は残る」とも語り、法律に代わる内閣の緊急政令制定の重要性を提唱した。

 立民の奥野総一郎氏は「総括には程遠い状況だ。憲法を改正しなければならない明確な事実があるとは思えない」と反論。自民などがロシアによるウクライナ侵攻を挙げて進める改憲論議については「ウクライナ危機を奇貨とし、どさくさ紛れだ。まともな議論にならない」と抗議した。

 維新の足立康史氏は緊急事態の認定手続きに関し、内閣や国会だけでは「お手盛り感が否めない」と指摘。維新が掲げる憲法裁判所設置により、合憲性を審査させる必要性を訴えた。国民の玉木雄一郎氏も、内閣の緊急事態認定は抑制的であるべきだとして最高裁の関与を唱えた。

 公明の北側一雄氏は任期延長の期間について「70日が基準となる」と表明。衆院解散から40日以内に総選挙を実施し、総選挙から30日以内に特別国会を召集するとした憲法54条を踏まえたと説明した。内閣の緊急事態宣言中は衆院解散や改憲を禁止すべきだともした。

 共産の赤嶺政賢氏は「緊急時を理由に内閣への権限集中を認めれば、アリの一穴となり、権力乱用につながる恐れがある。歴史の教訓だ」と述べ、緊急事態条項の議論自体に反対した。

 幹事会で、自民は改憲の是非を問う国民投票時のCM規制を含め、幅広いテーマでの討議を14日に実施する日程を提案。立民は応じる見通しだ。


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共産「有事に自衛隊」(2022/4/9 京都新聞)

 共産党の志位和夫委員長が、有事の際には自衛隊を活用すると訴え、同党の安全保障政策への理解を求めている。ロシアによるウクライナ侵攻が背景にある。憲法9条護憲論を巡り、いざという時には防衛力を行使する用意があると、現実的な見解を持っている点をアピールすることで、支持を広げる狙い。夏の参院選で候補者調整を進める立憲民主党は歓迎するが、日本維新の会や国民民主党は批判している。

 共産は、自衛隊は違憲との立場だ。党綱領では「国民の合意での憲法第9条の完全実施(自衛隊の解消)に向かっての前進を図る」と明記する。

 志位氏は7日の党会合で、東アジア地域の平和実現に向けた外交努力の重要性に触れた上で「万が一、急迫不正の主権侵害が起きた場合には自衛隊を含むあらゆる手段を行使して、国民の命と日本の主権を守り抜く」と強調した。自衛隊を活用する理由について@9条は無抵抗主義ではないA個別的自衛権は存在B必要に迫られた場合、その権利を行使することが当然―などと説明した。

 立民の泉健太代表は8日の記者会見で「国民は自衛隊の存在は大変大切だと認識している。多くの政党が『国防を担うのは自衛隊だ』と認識するのは良いことだ」と評価。「自衛隊や日米安全保障条約が国民共通の前提だとの認識を、共産も踏まえつつある」と語った。

 これに対し、維新の松井一郎代表は記者団に「支離滅裂のご都合主義だ。参院選前に共産党のイメージを変えたいのだろう」と指摘。国民民主党の榛葉賀津也幹事長は会見で「一貫していない。共産党の綱領をもう一度しっかり読み返してみたい」と疑問を呈した。


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米、ウクライナへ供与の武器詳細(2022/4/9 京都新聞)

【ワシントン共同】米国防総省は7日、ロシアの侵攻を受けるウクライナに米国が供与した武器の詳細を発表した。対戦車兵器は1万2千基以上、弾薬は5千万発以上に上り、米国の支援がウクライナ軍を「戦場での成功」に導いていると強調した。

 供与の内訳は対戦車ミサイル「ジャペリン」5千基以上、地対空ミサイル「スティンガー」1400基以上、自爆型ドローン「スイッチブレード」数百機など。レーザー誘導ロケット砲や偵察用無人機、防弾チョッキとヘルメット4万5千セットも含まれる。

 2/24日の侵攻開始以降、ウクライナに対する米国の軍富支援は17億ドル(約2100億円)以上になる。30力国以上が軍事支援をしており、引き続き同盟・友好国と連携すると強調した。

 米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は7日の上院軍事委員会の公聴会で、米国と同盟国が約2万5千基の対空兵器と約6万基の対戦車兵器を供与してきたと明らかにした。

 ミリー氏は防空システムが効果を発揮していると説明し、ロシア軍が制空権を確保できないことが地上で苦戦している理由の一つだとした。


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欧米圧力強化、衝突懸念も(2022/4/10 京都新聞)

 ウクライナ東部の駅が無差別に殺傷する弾頭を搭載したとみられる短距離弾道ミサイルで狙われた。子どもを含む避難民ら50人超が犠牲になり、「卑劣な攻撃」だとロシアヘの非難の嵐が巻き起こっている。欧米はウクライナへの重事支援などで対ロ圧力を強める構え。ただ、欧米とロシアが互いに出方を誤れば、偶発的な衝突に発展しかねないとの懸念もくすぶる。

 いくつもの遺体が横たわる地面に、動物のぬいぐるみや菓子が散らばる。ウクライナ東部ドネツク州クラマトルスク駅。「子どもたちのために」。ミサイル「SS21B型」の残骸にはロシア語でそう記されていた。ミサイルのメッセージは誰が書いたかは分かっていないが、ロシアが何らかの意図を込めたのではないかとの見方がある。

 ロシア軍は首都キーウ(キエフ)近郊ブチヤなどで多くの民間人を拷問の上に殺害した疑惑が判明したばかり。繰り返される惨劇に、欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長は「残虐行為の犯人には裁きを受けさせる」と対ロ圧力強化を示唆。「明らかな戦争犯罪」(米大統領報道官)と同調が広がる。

 ウクライナ侵攻の力点を親ロ派が一部を実効支配する東部2州制圧に変更したロシアは、自らの正当化に躍起だ。制圧地域への人道支援を強調し、無差別殺傷弾はウクライナ軍の仕業と主張する。だが、既に国際的信用は失墜、情報戦でも空回りしているのが現状だ。

 人道危機に歯止めがかからない中、北大西洋条約機構(NATO)の姿勢にも変化が表れ始めた。加盟国のスロバキアは8日、旧ソ連時代に開発された地対空ミサイルシステムS300を隣国ウクライナに供与したと発表した。

 ロシアはS300を供与すれば攻撃対象になると警告してきたことから、NATOはロシアを刺激するのを恐れ、大型兵器提供には及び腰たった。防空システムの供与判明はロシアの侵攻後初。輸送の映像もあえて公開しており、一線を踏み越えた形だ。

 NATOが「加盟国に対する攻撃を控えるよう警告」するため、ロシア周辺に戦闘機や偵察機を配備する準備も着々と進めてきたと米メディアは報道。現時点で互いに直接戦火を交える意図はないのは明白だが、緊張下ではわずかな意図の読み違いが紛争の引き金になり得る。

防空強化へミサイル供与

【ロンドン、ワシントン共同】ロシアの侵攻を受けるウクライナの隣国スロバキアは8日、旧ソ連時代に開発された地対空ミサイルシステムS300をウクライナに供与したと明らかにした。ロイター通信によると、防空システム供与が判明するのはロシアの侵攻開始後初めてのケース。ウクライナが強く求めてきた防空能力向上を図る。

 ロシアはこれまでS300を供与すれば攻撃対象になると警告。欧州の北大西洋条約機構(NATO)加盟国は大型兵器を提供すればロシアを刺激する恐れがあるとみて慎重姿勢だったが、長引く侵攻と残虐行為が徐々に判明する中、軍事支援を加速させ始めた。

 ウクライナの首郎キーウ(キエフ)を訪れたスロバキアのヘゲル首相は8日「供与はスロバキアがウクライナでの紛争当事者になることを意味しない」と説明した。

 ハイテン米大統領は8日の声明で、ウクライナのゼレンスキー大統領からS300供与の相談を受けて調整していたと強調。スロバキアには代わりとして地対空ミサイル「パトリオット」を米軍が配備すると発表した。

 米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)によると、S300は航空機や無人機のほか、一部の巡航ミサイルや弾道ミサイルを邀撃することも可能。


ロシア兵略奪品発送か(2022/4/10 京都新聞)

 洗濯機にテレビ、電動スクーター、エアコンー。ウクライナに侵攻したロシア軍兵士らが、市民の自宅や商店から略奪したとみられる品物を隣国ベラルーシから母国へ送っていた疑いが浮上した。発送手続きの様子を収めた映像が流出した。英紙タイムズが9日までに伝えた。

 映像は3時間ほどで、ベラルーシにあるロシアの宅配サービス会社の支店で、軍服姿のロシア兵ら10人以上が興奮気味に品物を包装し、発送する様子が捉えられていた。発送物の重さは計約2トンに及んだという。

 支店があるのはウクライナ北部との国境近く。撮影日は不明だが、首都キーウ(キエフ)周辺など同国北部からベラルーシに撤収したロシア兵らの可能性がある。

 ウクライナ当局が傍受したロシア兵らの電話の会話には、略奪行為を疑わせる内容もあった。ロシアにいる妻に「略奪品を使ってローンを完済する」と自慢げに話した兵士がいたほか、戦地の兵士に対して妻が自身のサイズに合った衣類を注文した例も。今回の侵攻を「スーパーマーケットへの旅行のようだ」とふざける兵士もいたという。


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化学兵器 ロシア使用懸念(2022/4/12 京都新聞)

 ウクライナに侵攻したロシアが戦局の打開を狙って、化学兵器を使うとの懸念が消えない。化学兵器で多数が殺傷された中東のイラクやシリアなどでは、家族や隣人を亡くし後遺症に苦しむ被害者の間で「ロシアが敵に恐怖心を植え付けるために使うかもしれない」との声が上がる。米欧はウクライナに化学兵器用の防護装備の提供を決め、厳戒態勢を取る。

 「人々は水を求め次々と倒れた。両親を含めて親戚45人が死んだ」。イラク北部タルト大自治区ハラブジヤでバヒヤル・バクティヤルさん(47)は振り返った。1988年、フセイン独裁政権は少数派クルト人の町を化学兵器で攻撃し市民約5千人を虐殺、近年では世界最悪の被害となった。

 町の記念館には、当時の様子が人形で再現されている。パンを焼きながら死んだ女性、息子を抱きしめて死んだ男性、トラック荷台に積まれた夫妻の遺体―。この夫妻の子どもがバクティヤルさんだ。「隠れる場所はなかった」。30年以上たった今も後遺症で胸に痛みが残る。呼吸器の疾患に苦しむ人もいる。

 化学兵器は前線での制御が難しく、市街地で使えば民間人を巻き添えにするリスクが極めて高い。それなのに当時のフセイン大統領はなぜ残虐行為に踏み切ったのか。別の被害者ハビブーアミンさん(64)はフセインは大勢を殺して恐怖を与えたかったのだろう。事実、クルト人は震え上がった」と話す。「(ロシアの)プーチン大統領が同じ発想で使用しないことを願う」

 シリア内戦でもアサド政権が化学兵器攻撃を繰り返し、多数が死亡した。化学兵器は使用の証明が難しいが、2018年の英BBC放送の報道によると、13年9/以降で100回以上使われた。大半がアサド政権軍の仕業という。18年の北西部サラケブの攻撃では有毒な塩素ガスを詰めたシリンダーをヘリコプターで投下した。  そのアサド政権の後ろ盾となり空爆で支援したのが、ロシアだ。ウクライナ侵攻の統括役に任命されたドボルニコフ司令官(60)は15〜16年、シリアでロシア軍を指揮。化学兵器使用に関与したかどうかは不明だが、無差別爆撃による焦土作戦で民間人を多数殺傷。ウクライナでも同様の戦術を取るとの見方が出る。

 ロシアの直接の関与が疑われる攻撃も多い。18年には英国で元ロシア情報機関員が旧ソ連開発の神経剤ノビチョクで襲われ、20年にはロシア反体制派ナワリヌイ氏がノビチョク系物質による毒殺未遂に遭った。

 「ロシアがサリンなどの化学兵器を使った攻撃を準備している」。ウクライナのセレンスキー大統領は3/、日本の国会でのオンライン演説でこう訴えた。

 ロシア国防省は3/、ウクライナ側に有毒な化学物質を使った作戦計画があると主張した。米政府は「ロシアが今後、化学兵器を使用するための口実)とみて、自作自演の「偽旗作戦」に神経をとがらせる。

 米英主導の北大西洋条約機構(NATO)は、化学兵器に対する防護装備を提供する方針だ。ストルテンベルグ事務総長は「化学兵器の使用は、紛争の本質を完全に変える」と強調し、使用すれば強力な対抗措置を取ると警告した。(バラプジャ共同)


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仏大統領選、再対決 互角の戦いに(2022/4/12 京都新聞)

 フランス大統領選の第1回投票で現職マクロン大統領と極右政党、国民連合(RN)のルペン氏が決選進出を決めた。前回2017年に涜く対決だが、マクロン氏の優勢が明確だった5年前から一変、互角の戦いの様相だ。反欧州連合(EU)のRNを危険視する人の割合が国内で低下する中、ロシアによるウクライナ侵攻後のEUの針路を左右する決戦の行方に欧米諸国は固唾をのむことになる。

 「私たちの公約が極右よりも人々の不安や時代の要請に応えるものであると説得を図る」。10日夜、ライバルが「極右」であることを強調したマクロン氏。一方のルペン氏は現職を批判しつつ「全ての国民の大統領になる」と包容力を訴えた。

 前回の決選投票の得票数はマクロン氏約66%、ルペン氏約34%と差がついたが、10日夜発表の世論調査でマクロン氏のリードはごくわずかだ。

 ルモンド紙などが毎年行うRNのイメージに関する世論調査で今年1/「RNは民主主義にとり危険か」との質問に「はい」と答えた人は48%だった。17年の58%から10ポイント低下。ルペン氏の父ジャンマリ氏が前身の国民戦線(FN)を率いていた1990年代後半は70%台に上っていた。

 ルペン氏は、人種差別的主張を繰り返したジャンマリ氏から2011年に党首を引き継いだ。進めた戦略は、党にまとわりついた「悪魔」的なイメージの払拭。18年に党名も変更した。選挙戦で反移民や反EUの立場は維持しながらも、低中所得層の関心事である家計支援策に焦点を当てた。ウクライナ侵攻後も続く物価高騰はルペン氏に有利に働くとの見方もある。

 極右評論家ゼムール氏の登場は結果的にルベン氏に追い風となったとみられる。ゼムール氏は反移民、反イスラム教の主張を強調し、強硬路線を追求。極右に詳しい政治学者ジャンイブーカミュ氏は「ルペン氏は自動的にゼムール氏に比べて穏健と見なされるようになった」と指摘する。

 前回、国民の「和解」を訴えて当選したマクロン氏だが、任期中は社会の分断を印象づける出来事が国内で相次いだ。

 燃料費高騰などに端を発した「黄色いベスト運動」の反政権デモ。年金制度改革に反対する労組のストライキ。新型コロナウイルスワクチンの接種促進策への抗議運動。

 一方、マクロン氏は欧州の舞台でリーダーとして確固たる地位を築いた。ドイツのメルケル前首相が引退し、マクロン氏も退場すれば、ロシアのウクライナ侵攻への対応に必要なEUの結束は危うくなる。

 カミュ氏は「ルペン氏は大統領となる器ではないと見なす国民はまだ多い」と勝利の可能性に疑念を抱く。ただ決戦の行方は「まだ分からない」。(パリ共同)

主張マイルド化で支持拡大

 ルペン氏は、フランスで長らく「極右」の代名詞とみられてきたが、極端な主張をマイルド化し、党名も一新して支持層を広げた。2012年、17年に続き挑む大統領選。現職マクロン氏との支持率の差をじわりと詰め「三度目の正直」を狙う。

 父ジャンマリールペン氏(93)が創設した極右、国民戦線(FN)の党首の座を11年に継承。決選投票まで進んだ前回大統領選で大敗した後、党名を国民連合(RN)に改称し、先代から根強い「人種主義」といった党のカラーを薄めてイメージチェンジを図った。

 今回出馬した極右評論家のゼムール氏も意識し、反移民、反欧州連合(EU)の立場は堅持して従来の支持層をつなぎとめつつ、EU離脱など過去の過激な公約は撤回。有権者が懸念する最近のエネルギー価格の高騰問題では、燃料に適用する付加価値税率の削減を約束してマクロン氏よりも踏み込み、不満解消への意欲をアピールした。

 ロシアのウクライナ侵攻に対しては批判的な姿勢を示す。かつて、他国に屈しないロシアのプーチン大統領を「敬服する」と称賛していたが、国際的な反発の高まりにも配慮をみせる。

 パリ大で法律を専攻、弁護士資格を持つ。FNには18歳で入党。地方議会議員、欧州議会議員も歴任。離婚を2度経験した3児の母。53歳。 (パリ共同)


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平和首長会議への加盟拡大(2022/4/12 京都新聞)

 被爆地の広島市が事務局を務める「平和首長会議」への加盟が増えている。2/24日のロシアによるウクライナ侵攻後、新たに欧州などの70都市が加わった。核兵器使用の危機が取り沙汰される中、首長会議は国家を超えた都市同士の連来を呼びかけている。

 広島市の外郭団体の首長会議運営課によると、軍事侵攻後、副会長都市のドイツ・ハノーバー市が即座に首長会議の旗を市庁舎に掲揚し、交流サイト(SNS)でもウクライナへの連帯を表明した。ドイツ国内で58都市が続々と加盟。オランダの8都市や、スイスとスペインなどからも加わり、加盟は4/1日時点で166力国・地域の8134都市に広がった。

 平和首長会議は1982年に広島・長崎両市の呼びかけで始まった。核兵器廃絶に向けた署名運動や平和教育に取り組んでいる。

 運営課の担当者は。「戦争が起きれば、都市が市民の安全を守らなければならない。多くの都市が連帯し、平和を目指して同じ方向を向くことに意味がある」と話している。


ロシア人ら宿泊拒否(2022/4/13 京都新聞)

 ロシアのウクライナ侵攻を受け、長浜市内の旅館がロシアとその同盟国ベラルーシ両国の人の宿泊を拒否するとホームページ(HP)で表明し、滋賀県が行政指導していたことが12日までに分かった。旅館は指導を受けて記載を削除した。

 同旅館は、ロシアの侵攻直後の2月26日付でHPに「ロシア人とベラルーシ人の今後一切の宿泊受け大れを停止します」「ロシアが侵略を止め謝罪を表明すればお客様の受け入れを再検討します」などと記した。記載に気付いた県長浜保健所が、正当な理由なく宿泊を拒んではならないとの旅館業法に抵触する恐れがあるとして、今月11日に削除を要請した。

 旅館の専務(45)は取材に対し、旧ユーゴスラビア内戦のあった土地で働いた経験があるといい、「何もできないもどかしさがあり、抗議の意思を示したかった」と話した。掲載期間中に両国からの宿泊予約はなかったといい、更新したHPで「企業としての認識不足を痛感している」と謝罪した。


プーチン氏 虐殺関与「フェイクだ」(2022/4/13 京都新聞)

 ロシアのプーチン大統領は12日、ベラルーシのルカシェンコ大統領と共に極東アムール州のボストーチヌイ宇宙基地を視察後、首脳会談を行った。プーチン氏は共同記者会見で、ウクライナの首都キーウ(キエフ)郊外ブチヤでの住民殺害をロシア軍の責任とする指摘を「フェイクだ」と述べ関与を否定した。

 これに先立ち、ウクライナでの軍事作戦は全ての目的が達成されるまで続けると述べた。会見で、ウクライナ側が先月29日に行った停戦交渉での提案から立場を後退させ「交渉を停滞させている」と批判した。

 プーチン氏は、ウクライナはロシアの兄弟国だとし「ウクライナで起きていることは疑いなく悲劇だ」と述べた。一方、「ウクライナ則はロシアを攻撃する時期をうかがっていた」として軍事衝突は避けられなかったと侵攻を正当化。軍事作戦の目的は「(東部)ドンバス地域の親口派支配地域の住民を助けることだ」と改めて強調した。

 プーチン氏は、侵攻に伴う欧米の制裁を念頭に「ロシアは世界から孤立するつもりはなく、ロシアを完全に孤立させることもできない」と強調した。(共司)


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拡大続く「核の脅威」(2022/4/13 京都新聞)

 非人道的破壊をもたらす核兵器の脅威が拡大し続けている。ウクライナに侵攻したロシアは核使用をちらつかせ、米国は臨界前核実験を重ね核戦力の近代化を推進。米中の対立が深まる中、北朝鮮も核実験再開の動きを見せる。軍縮機運は大きく後退し、「核なき世界」への道は急速に険しさを増」ている。

 「抑止ではなく、核戦争遂行の兵器だ」。米シンクタンク「軍備管理協会」のダリル・キンボール会長は、バイテン米政権下で進む新型空中発射長距離巡航ミサイル(LRSO)の開発計画を批判する。近代化させた核弾頭を搭載するLRSOは、無用な性能向上で戦略的な安定を崩すというのが理由だ。

 米国はLRSOや核弾頭のほか、大陸間弾道ミサイル(ICBM)や戦略原子力潜水艦、戦略爆撃機の更新計画を推進。同盟国に提供する「核の傘」の堅持を「最優先事項」に掲げ、核戦力は2080年代以降も堅持する方針だ。

 一方、米国が「最も重大な戦略的競争相手」と位置付ける中国は米軍を近海に近づけない「接近阻止・領域拒否(A2/AD)」戦略を取り、ミサイル戦力を増強。中ロは極超音速兵器で米国を先行、ロシアは非戦略核の数でも米国を上回る。

 ロシアのウクライナ侵攻で決定的となった米ロ対立は核軍縮に影を落とす。両国は軍備管理を話し合う「戦略的安定対話」を昨年7月に開始したが今年1月以降、中断。保有核兵器の技術的側面や戦略的効果などを協議する作業部会も開けないまま暗礁に乗り上げ た。

 ロシアとの交渉を担当してきたジェンキンス米国務次官は4月4日の記者会見で、米ロ間の新戦略兵器削減条約(新START)の将来像を話し合う必要があると強調。ただ、ウクライナで戦争が続く現状では「対話はできない」と語った。(東京、ワシントン共同)


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停戦交渉 再び停滞(2022/4/14 京都新聞)

 ロシアのプーチン大統領は12日の記者会見で、ウクライナ侵攻に関し。「全ての目標達成まで軍事作戦を続ける」と明言。ウクライナ側が立場を変えたことで停戦交渉が「再び袋小路に陥った」と批判した。欧米にはロシアが5月9日の対ナチス・ドイツ戦勝記念日までに作戦を終えたがっているとの見方もあるが、双方の態度硬化で戦闘長期化の恐れも出てきた。

 プーチン氏は、3月末のトルコでの停戦交渉でウクライナが北大西洋条約機構(NATO)加盟を断念する代わりに関係国による安全保障の枠組みを提案したことに言及。この枠組みに、ロシアが強制編入したクリミアと独立を承認した東部の親口派支配地域を含めないことで合意していたのに、その後ウクライナが一方的に撤回したとして、不満を表明した。

 ウクライナ側は、首都キーウ(キエフ)近郊ブチヤなどでロシア軍撤退後に多数の市民の犠牲が判明したことを受け、「状況が変わった」と表明。アレストビツチ大統領府長官顧問は11日、ロシアとの戦争は「2035年まで断続的に続く」との見通しを示した。

 会見でプーチン氏は、作戦がどのくらい続くかは「戦闘の集中度による」とし、目的が達せられるまで攻撃をやめない考えを示した。欧米がウクライナに軍事支援を与えて戦闘を長引かせ、経済制裁と合わせてロシアの弱体化を狙っているとの強い不信感がある。

 ロシア軍がブチヤの住民を殺害したとの報道について「フェイクだ」と一蹴。過去に米国などがアフガニスタンやイラクを空爆、多数の市民が死亡したことを引き合いに、欧米にロシア批判の資格はないとの持論を展開した。(共同)


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ブチャ 暗闇と恐怖の20日間(2022/4/14 京都新聞)

【ブチヤ共同=橋本新治】幼稚園の真つ暗な地下に数百人の住民が閉じ込められ、ロシア兵は若い女性を物色して乱暴を繰り返した―。多くの民間人が殺傷されたウクライナ首都キーウ(キエフ)近郊ブチヤ。ロシア兵は逃げる住民をちゅうちょなく銃撃した。約20日間にわたる暗闇での体験を12日証言した女性は、今なお恐怖におびえていた。

 ウクライナ軍の案内で12日、共同通信記者が現地に入った。

 ロシア軍が2月24日にウクライナに侵攻した直後、ターニヤ・アレクサンドラさん(38)は自宅が戦闘で破壊され、近くの学校のシェルターで約2週間を過ごした。3月10日過ぎ、ロシア兵が突然現れ、シェルターから退去するよう要求した。

 慌てて逃げ出す住民を兵士らは銃撃、手りゅう弾を投げ付けた。少女は頭を撃たれ倒れた。アレクサンドラさんの夫も撃たれ、胸にけがを負った。住民らは程近い幼稚園に連行され、明かりのない地下に追い立てられた。

 時々、水を取りに外出が認められたが、外に出るとロシア兵が面白半分に発砲し、怖がる様子を見て笑った。兵士らは若い女性をレイプした。妊娠中の女性まで襲われた。アレクサンドラさんは顔に土を塗り、古着を重ねて太った体形を装って「魅力的に見えないようにした」。

 ロシア軍にはチェチェン人やキルギス人、シリア人などさまざまな地域からの兵士が加わっていた。女件に乱暴したのはチェチェン人兵士とみられるという。

 暗闇での生活は惨めなものだった。移動するたびに頭や足を打った。雨水をためて顔を洗い、トイレに使った。出入り口近くにラジオが聴ける場所があり、外で何が起きているのか情報を集める人もいた。

 とにかく生き抜きたい―。その一心で、機械的に生活して時が過ぎるのを待った。4月初め、ようやくウクライナ兵に解放された。軍服を見るだけで恐怖が湧き起こり、ロシア兵が撤退したと理解できるまでに数日かかったという。

 明るい口調とは裏腹にトラウマは消えない。車が通り過ぎるたびに、ロシア兵が乗っているかもしれない、殺されるかもしれない、と怖くなる。「寝ようとすると、私たちの周りで起きた出来事がフラッシュバックする」。眠れない夜が続く。


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「対話なき歴史」が背景(2022/4/15 京都新聞)

 ロシア、ウクライナ間の国境紛争を四半世紀も前に予見した本がある。1998年に刊行され、4月に緊急復刊された「ウクライナ・ナショナリズム」(東京大学出版会)。著者で東京大名誉教授の中井和夫さんに、泥沼化するウクライナ情勢の歴史的背景を聞いた。

 19世紀帝政ロシアの歴史家で、ロシア人の父、ウクライナ人の母を持つコストマーロフは、ロシアの民族的特徴は「規律、組織、専制主義、集団主義」にあり、ウクライナのそれは「自由、自治、民主主義、個人主義」だと分析しています。言い得て妙だと思います。ウクライナは西部を中心に、ポーランドやハプスブルク帝国の影響も強く、ロシアとの文化的な違いは大きい。

3度の戦争

 15世紀以降のウクライナでは、国家こそ形成されませんでしたが、軍事集団コサックの形成と共に独自の民族意識が育ちました。17世紀にはポーランドに対抗する必要からロシアの勢力下に入ったものの、18世紀以降はロシア帝国・ソ連と3度も戦争をしている。自立を目指す運動は不断に存在していたのです。一方、ロシアにすれば、自国が大帝国へ発展した契機がウクライナ支配でした。穀物や資源、人材の供給地でもあるウクライナについて、ロシアの人々は「歴史的にロシアと一体、ロシアの一部だ」と感じ、独自性を認めない傾向がある。

 1970年代になると、ソ連の一体感を支えてきた計画経済の機能不全もあり、多数派のロシア人の間で「非ロシアの諸共和国に政府が恩恵を与えすぎ、われわれが犠牲にされている」との不満が高まります。これがロシアの自立・独立への動きとなり、91年のソ連崩壊につながった。ただ、ウクライナがロシアから離れて独立したことは、新生ロシアの指導部にとって想定外でした。

被害感情も

 さらにロシアでは体制転換に伴う混乱が続き、「不当に国が小さくなってしまった」との被害感情が広がる。その結果、独立した周辺諸国を影響下にとどめようとする姿勢が顕著となっていく。

 しかし、宿願の独立を果たしたウクライナは、植民地主義的な態度を取るロシアと距離を置き、欧米とも関係を深めたい。ここに大きなすれ違いが生じました。それ以前からロシアとウクライナの間には、真の対話がなかった。対話がなければ相互理解も信頼も生まれない。それが、2014年のクリミア強制編入から今日に至る事態の遠因になった気がします。

 それでも正直なところ、ロシアが全面的な侵攻に出るとは思いませんでした。ロシアは正当化の根拠に「ウクライナの非ナチス化」を挙げています。第2次大戦時の独ソ戦では確かに、ウクライナ民族主義者組織(OUN)のようなグループが当初はナチスに協力した。しかし彼らも、ソ連からの独立を宣言後はナチス、ソ連の双方と戦う道を選んでいます。今回のロシアの主張はレッテル貼りにすぎません。

「領土回復」

 現在のロシアの真意は測りかねますが、ウクライナ全土を支配する力があるとは思えない。ロシアとつながりが深い東部地域を確保し、ある種の「領土回収」をアピールしたいのかもしれない。

 注目すべきは、歴史も利害も異なる民族が混在するウクライナで、人々が一つにまとまったこと。受難の記憶が国民の意識に与える影響は甚大です。ロシアには皮肉な話ですが、ウクライナの国民統合は今、史上例がないほど強まっています。


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防衛費 GDP2%に増額(2022/4/16 京都新聞)

 政府の外交・安全保障政策の長期指針「国家安全保障戦略」など3文書改定に向け、自民党安保調査会が検討する提言原案の全容が判明した。相手領域内でミサイル発射を阻止する攻撃能力保有を明記。焦点となっていた「敵基地攻撃能力」の名称を巡っては、攻撃対象をミサイル基地に限らず、指揮統制機能も加えて改称する方向だ。防衛費は5年をめどに国内総生産(GDP)比2%以上への増額を目指すよう要求。ロシアのウクライナ侵攻を受け、輸出ルールを定めた「防衛装備移転三原則」も見直す。

 複数の党関係者が15日、明らかにした。3文書改定では敵基地攻撃能力の保有の是非が最大の論点となっている。調査会では「自衛反撃能力」「ミサイル反撃力」などの名称が提起されており、こうした案を含めて調整する。ただ改称は実態を曖昧にしかねず、指揮統制機能を加えるなど攻撃対象がなし崩し的に拡大する恐れもある。平和憲法に基づく「専守防衛」を逸脱する可能性も指摘されそうだ。

 来週中に党内議論を経て提言を最終決定。4月下旬に岸田文雄首相に提出する予定だ。

 敵基地攻撃能力の保有について、北朝鮮や中国の軍事動向を念頭に「ミサイル技術の急速な変化・進化により迎撃は困難」と分析。

 「弾道ミサイルを含むわが国への武力攻撃に対する○○能力を保有し、これらの攻撃を抑止する」と打ち出した。専守防衛を維持しつつ、自衛力の「必要最小限」の具体的な範囲は、国際情勢や科学技術を考慮すべきだと主張した。

 防衛費は現在GDP比1%程度。北大西洋条約機構(NATO)諸国の目標2%以上を例示し、5年をめどに同様の水準達成を目指すと訴えた。

 防衛装備品を巡ってば、侵略を受けた国への殺傷能力を持つ装備の提供を検討課題に挙げた。

 ロシアの情勢認識に関し「脅威」や「非常に強い懸念」といった表現に見直すよう提唱。軍備を増大させる中国についても安全保障上の「脅威」とみなすべきだと記した。3文書は国家安全保障戦略の他、「防衛計画の大綱」と「中期防衛力整備計画(中期防)」。提言案では、防衛大綱に代わり「国家防衛戦略」を策定。中期防は「防衛力整備計画」に改める。期間は10年に延ばした。

【解説】対象・手段 拡大なし崩し懸念

 自民党安全保障調査会が政府への提言原案に「敵基地攻撃能力」の保有と名称変更を盛り込んだ。対象を相手国のミサイル基地に限定せず「指揮統制機能等」を含むとも明記した。このまま政府が採用すれば定義が曖昧になり、攻撃対象や手段がなし崩し的に広がりかねないとの懸念が強まる。年末の「国家安全保障戦略」改定に向け、国会などで幅広い議論と慎重な判断が求められる。提言原案の敵基地攻撃能力に関する記述は、中国が中距離弾道ミサイルを大量に保有していると指摘。極超音速兵器や変則軌道など技術の進化も挙げ「迎撃のみでは防衛しきれない恐れがある」と危機感を強調した。

 一方で、攻撃を阻止する能力は「○○能力」との表記にとどまる。党内には敵基地攻撃能力の名称を変えるべきだとの意見が多いものの「自衛反撃能力」「領域外防衛」「ミサイル反撃力」などの案があり、議論が不十分な現状が反映された。

 攻撃対象に指揮統制機能等を加えたのは、移動式発射台や潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を念頭に、発射地点を特定できない事態を想定したとみられる。党内に影響力の大きい安倍晋三元首相も「向こうの中枢を攻撃することも含むべきだ」と主張している。

 しかし、発射の指揮系統をたどれば、司令部など軍事部門にとどまらず、政治指導部まで広がる恐れもある。攻撃の歯止めは可能なのか。装備に必要な予算や期間を含め、国民の前でオープンに議論すべきだ。


日本の安保 本質的議論を(2022/4/16 京都新聞)

【土曜評論】元防衛相 石破茂

 ロシアのウクライナ侵攻後、日本では「次は台湾有事だ」との言説が強まっている。同時に、今年12月の国家安全保障戦略や防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画の改定に向けて防衛力強化や「核共有」政策論が台頭しているが、本質的な議論が必要だ。

 防衛力強化の象徴として『敵基地攻撃能力』の保有が議論されている。政府は1956年の鳩山一郎首相による「座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とはどうしても考えられない」との答弁を論拠に、現行憲法の下でも敵基地攻撃能力を保有できるとの見解を踏襲してきた。

 これに関連し、私は防衛庁長官当時の2003年、どの時点で「攻撃の着手」と判断するかと問われた際「東京を灰じんに帰すという宣言があり、ミサイルを直立させて燃料を注入した時点」という例示を国会で答弁した。ポイントは、攻撃が止さることはないという「不可逆性にあった。

 だが技術の進展により液体燃料ミサイルは主流ではなくなり、可搬化・多弾頭化などもあり、実際にはこのような状況は起こりにくくなった。また戦争は国家の意思であり、敵基地だけを攻撃しても相手国の意思か屈服させられない可能性が高い。それゆえ、敵基地攻撃能という文言では、現実との落差があまりに大きい。自民党では「反撃刀」や「阻止力」といった言葉で提言してきたが、いずれにせよ専守防衛との関係は整理しなければならない。

 米国の核兵器を同盟国に置いて共同管理・運用する核共有もしかり。日本は米国の「核の傘」に頼る一方、非核三原則を墨守してきたが、私は長年、日本も核共有を論じるべきだと言ってきた。

 ただ欧州における核共有がそのまま適用できるわけではない。米国の核兵器を日本の領土に置けばいそこを攻撃されて、報復できない。だから、米国もロシアも探知されにくい潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を国防のとりでとしている。陸上と海中では抑止の意味合いが異なる。

 日本領海での核共有の可能性、核共有した場合の日本と米国の使用判断基準と仕組み、自衛隊の管理・運用への関与など、核共有の議論は論点が多く、短期間で結論を急ぐような話ではない。もしも核共有が日本にそぐわないならば、その理由を国民にきちんと示すことも政治の責任だ。前のめりな結論ありきの論議が先行することを私は憂慮している。

 自衛隊には「たまに撃つ弾がないのが玉にきず」という自虐的な川柳が語り継がれているが、私が防衛庁長官当時から、防衛予算の大半を人件費や正面装備の取得費が占め、訓練・補給・修理・備蓄などの運用経費が極めて少ない。いざ有事の時、戦闘行動を継続する能力に疑問符が付く。

 例えば、イージス艦の医務室は多くの負傷者が出た場合に対応できる仕様ではなく、自衛隊の救急車は防弾になっていない。国民レベルでも、核攻撃から日本国民を守るための「核シェルター」は皆無に近い。

 ウクライナ侵攻の教訓として、継戦能力に加え、攻撃されても被害を極小化して機能を維持できる「抗たん性」といった防衛の足元を検証して見直すべきだ。最近の世論調査では、日本の安全も脅かされているなどと不安視する回答が8割を超えている。だが危機の時こそ、ムードに流されず、現実を直視した冷静な議論が不可欠だ。(談)


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ロシア語案内 一時覆い隠す(2022/4/16 京都新聞)

 ロシアのウクライナ侵攻後、東京都渋谷区のJR恵比寿駅にあるロシア語の案内表示に乗客からクレームがあり、JR東日本は7日から紙で覆い隠していたが、対応を疑問視する声が寄せられ、15日に表示を元に戻した。ツイッターで「ロシア語に罪はない」「こういうことは差別につながる」などと批判が上がっていた。

 JR東によると、2018年から、改札近くの電光掲示板の裏面に英語と韓国語のほか、ロシア語で「六本木」「中目黒」を表す単語を表示。東京メトロ日比谷線に乗り換えて両駅に向かう経路を示している。六本木駅の近くに在日ロシア大使館があることも踏まえ、東京五輪・パラリンピック開催をにらんで始めたという。

 ウクライナ侵攻後、一部の乗客から「不快だ」などと苦情があり、駅側がロシア語の表示だけを「調整中」と書いた紙で覆った。この対応が報じられて交流サイト(SNS)などで反発が相次ぎ、中には「ウクライナ人も(ロシア語を表記する)キリル文字を使う」といった指摘もあった。

 JR東日本東京支社は14日に事態を把握、15日始発から元に戻した。取材に「五輪・パラリンピックが終了したので、外国語の案内表示の撤去をもともと検討していた。最終的にどうするかは決まっていない」と説明している。


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ロ軍 性暴力を「武器化」(2022/4/17 京都新聞)

 ウクライナに侵攻したロシア軍の兵士らによる女|生への性的暴行の被害が相次いで報告されている。被害は広範囲に及び、組織的な集団暴行のケースさえある。支援団体は「暴力とレイプを武器にしている」と蛮行を非難。明るみに出たのは氷山の一角で、実態はより深刻とみられている。国連は被害者への支援を強化するほか、実態調査の重要性を呼びかける。

 「数百件のレイプ被害が記録されている。未成年者や幼児、乳児も含まれる。話すのも恐ろしい」。ウクライナのセレンスキー大統領は12日、リトアニア議会でのオンライン演説で糾弾した。

 ロシア軍が撤退した首都キーウ(キエフ)周辺にウクライナ当局や海外メディアが入ったことで、性暴力が横行していた悲惨な状況が明らかになってきた。

 英BBC放送によると、キーウから西へ約50キロの村に住む3人家族の家に3月9日、複数のロシア兵が押し大った。妻と息子を守ろうとした30代の夫は庭で銃殺され、妻は暴行された。兵士らはその後もやって来て、抵抗すれば息子に危害を加えると脅し、暴行を噪り返したという。

 ウクライナ最高会議の人権担当者デニソワ氏によると、多数の民間人殺害が判明したキーウ郊外ブチヤでは、14〜24歳の女性25人ほどが住宅の地下室で組織的に暴行され、うち9人が妊娠した。ロシア兵はウクライナ人の子どもを産ませないためレイプすると話していたという。

 ブチヤの幼稚園の地下に閉じ込められていたターニヤ・アレクサンドラさん(38)は共同通信の取材に、ロシア兵が若い女性を物色し乱暴を繰り返したと証言。顔に土を塗り「魅力的に見えないようにした」と語った。

 性暴力被害の報告は南部ヘルソンや東部ハリコフなど各地で相次いでいるが、戦闘が継続している地域も多く、全体像を把握するのは難しい。被害を打ち明けたがらない女性も多いとみられる。

 ウクライナ情勢を巡る11日の国連安全保障理事会で演説した地元の支援団体の代表は、12人の女性らから性的暴行の報告が寄せられていると述べた上で「これは氷山の一角に過ぎない」と強調。「暴力とレイプを武器として使っている」とロシア軍を非難した。

 紛争下の性暴力は国際人道法違反。安保理で演説した国連組織「UNウィメン」のバホス事務局長は、ウクライナでの性暴力被害の報告が増えているとして「正義と説明責任を果たすため、独立した調査が行われなければならない」と訴えた。

 「世界のどこでも紛争が起きれば残虐性を帯びる。ウクライナでもそれが起きている」。安保理が13日に開いた性暴力撲滅をテーマにした会合で、過激派組織「イスラム国」(IS)に拉致された経験を持つノーベル平和賞受賞者ナディア・ムラドさんは危機感をあらわに対策強化を訴えた。

 西部リビウで避難民の女性を支援するサーシヤ・カンツェルさんは訴えた。「暴行犯から逃れた女性は安心したように見えても、トラウマは(心の中で)爆弾として付きまとう。今起きていることの大きさに、胸が張り裂けそうだ」(ブチヤ、ロンドン、ニューヨーク共同)


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ロシア「回廊」完成へ執念(2022/4/18 京都新聞)

 ロシア軍とウクライナ軍の最激戦地となっている南東部マリウポリ。ロシアにとってはクリミア半島とロシア本土を陸上で結ぶ「回廊」完成に不可欠な戦略的要衝だ。守備隊は民族主義勢力が主体で、ロシア側は敵の「本丸」として攻略に執念を燃やす。ウクライナ側も死守の構えを崩さず、攻防の行方は戦局全体を左右しそうだ。

 人口約43万人の同市は、ウクライナからロシア南部ロストフ州にまたがるドネツ炭田の石炭と鉄鉱石による製鉄業の拠点として発展してきた。ソ連時代からロシアとの経済的つながりは深い。

 攻略に成功すれば、ロシアは2014年に強制編入したクリミア半島と合わせ、黒海に接するアゾフ沿岸の支配を確立できる。穀物輸出港もあり、侵攻初期から攻防の焦点となった。

 ロシア軍と、プーチン政権が独立を承認した親ロシア派「ドネツク人民共和国」の部隊が2月下旬から包囲。防衛の主力は同市に本拠を置く反ロシアの民族主義武装集団を源流とする内務省系の「アゾフ連隊」で、ウクライナの「非ナチス化」を開戦理由としたロシアにとっては壊滅の対象だ。民間人を巻き込む激しい砲撃や空爆が続き、産科病院や、避難先となっていた劇場や芸術学校でも多数が死傷した。

 包囲の網を狭められたウクライナ部隊は、市内の二大製鉄所「イリイッチ」と「アソフスターリ」の広大な敷地内に立てこもった。うち、ロシアは17日までにイリイッチ製鉄所を制圧。製鉄所の付近に入ったロイター通信の記者は、地下トンネルや陣地が構築され、鉄やコンクリートの破片が散乱していたと伝えた。

 「建物一つ一つ、階の一つずつを奪い合う激しい戦闘」。ドネツク人民共和国筋はロシア通信にこう語った。ロシア国防省は17日、アソフスターリに残る部隊に「生命は保証する」と投降を呼びかけた。正攻法だけでは自軍の損害も膨らむとの判断もありそうだ。

 マリウポリ市長は民間人の死者が2万1千人と推定。ウクライナ側は1ヵ月半に及ぶ包囲下で補給が困難になっている。守備隊の抵抗を称揚してきたゼレンスキー大統領も、軍事、外交いずれも「100%の方法はない」とし、打開策を見いだすのは「極めて難しい」と吐露した。(共同)

「敵対市民」あぶり出し

 ウクライナ南東部マリウポリの守備隊を追い詰めたロシア軍は、敵対的市民のあぷり出しを始めた。通りに遺体が横たわる要衝の街。戦争犯罪を糾弾されるロシア軍の包囲の中に取り残された民間人は12万人に上る。西部リビウに避難した男性(30)は現地市民の窮状を説明、地下室に息を潜めて食料を分け合い、命をつなぐ父母や姉妹の無事を祈った。

 2月末から包囲攻撃が続くマリウポリでは、9割のインフラが破壊され、ライフラインや医療へのアクセスを絶たれた。犠牲者は2万人超と指摘される。街でインターネットを使える場所は限られ、父親(53)から男性に電話が来るのは3日に1度程度だ。  

 男性は一緒に避難するよう促したが、地元で魚の養殖業に携わる父親は拒んだ。井戸の水を飲み、ソバの実や魚を調理してしのいでいるという。

 現地には母親や姉妹、祖母も残っている。男性を安心させようと、地下で暖を取る様子や皆がほほ笑んで集まる写真が送られてきた。地下室のある自宅の外壁は崩れかけ、攻撃を避けるためロシア語で「子ども(がいる)」と書かれていた。

 だが、標的とならない保証はない。3月中旬には。同じサインを掲げていた市内の劇場が空爆され、死者は約300人に上ったとされる。産科小児科病院も爆撃で犠牲が出ている。

 男性によると、マリウポリでは住民に対し親ロシア的かどうかの「選別」が始まった。「親ロシアの姿勢を示せば避難が許されるが、避難ルートはないに等しい。反ロ的な言動をすればどうなるか分からない」

 避難する足は自分の車しかないという。ただ経由地の南部ザポロジエヘの道はたびたび攻撃があり、危険を伴う。手だてがなくロシア側が手配するバスに乗り、ロシア西部に「連行」される人もいる。

 男性は3月21日にマリウポリを離れ、妻(26)と4日間かけてリビウにたどり着いた。「避難者の多くは若者で、高齢者が取り残されている」。家族らが無事にいられるのか、不安は深まるばかりだ。

 マリウポリはロシア語を母語とする住民が多数派だ。男性もロシアにルーツを持つが「暴力的で、うそを重ねるロシアは信用できない。私の故郷はウクライナだ」と断言、かつての隣人、ロシアとの決別の決意を示した。(リビウ共同)


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化学兵器防御マスク提供へ(2022/4/19 京都新聞)

 岸信夫防衛相は19日の記者会見で、ロシアの侵攻が続くウクライナへの支援策として、新たに化学兵器対応用の防護マスクと防護衣の他、ドローンを提供する方針を決めたと明らかにした。ウクライナ側からの要請による措置。ロシアによる化学兵器使用に対する懸念を踏まえた。ドローンは監視用の市販品。岸氏は、防護マスクと防護衣は「防衛装備移転三原則」で輸出ルールが定められている防衛装備品に当たるとしている。

 防衛装備庁によると、ドローンはカメラを搭載した状況監視用で、市販の民生品のため防衛装備品には当たらないと判断した。防衛装備庁は、攻撃目的で転用されないかとの懸念については「国連憲章の目的に反しない形で、ウクライナ防衛のためとの国際約束に従い、ウクライナ政府が適切に管理、使用すると考えている」とした。

 防衛装備品である防護マスクと防護衣の供与に当たり、国家安全保障会議の幹事会を既に開催し、提供方針を決めた。

 岸氏はウクライナ情勢に触れ「国際社会と結束し、毅然と行動することはわが国の安全保障の観点から極めて重要だ」と強調した。