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  • 【随時更新】ロシアのウクライナ侵攻3
  • 精神障害の労災認定最多.25
  • 過労自殺 東芝側と和解.26
  • 新教員研修定着テストも.28
  • 教諭過労 大阪府に賠償命令.29
  • 教諭過労 大阪府控訴断念.30
  • 6月30日 大阪府 教諭過労 大阪府控訴断念

     大阪府立高の現職教諭西本武史さん(34)が長時間勤務で精神障害を発症し休職を余儀なくされたとして府に損害賠償を求めた訴訟で、請求通り約230万円の支払いを命じた28日の大阪地裁判決に関し、大阪府の吉村洋文知事は29日、控訴しないと表明した。控訴期限の7月12日に大阪地裁判決が確定する。

     吉村知事は府庁での記者会見で「控訴はしません。判決を素直に受け止めて教育委員会は教員の過重労働を軽減することに注力してもらいたい」と述べた。西本さんに対し「判決では、校長に(長時間勤務の改善を)直訴する中、具体的な対策を取らなかったと(学校側の)過失が認められた。申し訳ない」と謝罪した。

     西本さんは「これ以上倒れる教員を出さないためにも、各自治体、国は、教員の長時間勤務の問題に正面から向き合ってください。今回の判決が教育現場の過酷な労働環境の改善の一助となれば幸いです」とのコメントを出した。

     判決は、西本さんが部活動の指導や校外学習の準備などで時間外勤務が発症前の半年間の平均で月約100時間に上り、健康を害すると学校側が予見、認識できたと指摘。業務負担の軽減について具体的な措置を取らなかったとして、学校側の注意義務違反と発症との因果関係を認めた。


    「控訴しない」との決断は評価できるが、謝罪するほどの行為であったなら2019年の提訴時点で争う必要はなかったのではないか。参議院選挙前の維新の会のパフォーマンスではないかと勘繰られていも仕方がないだろう。


    6月29日 大阪地裁 教諭過労 大阪府に賠償命令

     大阪府立高の現職教諭西本武史さん(34)が長時間勤務を強いられて適応障害を発症し休職を余儀なくされたとして府に損害賠償を求めた訴訟の判決で、大阪地裁は28日、請求通り約230万円の支払いを命じた。学校側は西本さんが長時間勤務で健康を害すると予見できたのに業務負担の軽減を怠ったとして、学校側の注意義務違反と発症との因果関係を認めた。公立校の現職教員が実名を公表して過重勤務について争った訴訟は異例。

     国は教職員給与特別措置法(給特法)で、月給の4%分を上乗せする代わりに時間外手当や休日手当を支給しないと規定。関係法令で校長の命令に基づく実習や職員会議などの「超勤4項目」に限って時間外勤務を認めている。判決は、校長の命令に基づかない部活動の指導なども業務とする異例の判断を示した。西本さんの高校では部活動を生徒指導の一環と位置付け、評価の対象になっている点を重視した。

     判決などによると、2016年4月から現在の高校で勤務。17年度は世界史の教科担当とクラスの担任、ラグビー部の顧問や海外語学研修の引率など業務が増えた。同年5月以降、校長に「心身共にボロボロです」などと負担軽減を求めた。7月に適応障害を発症、18年までに2度休職した。今年2月には地方公務員災害補償基金府支部が公務災害と認めた。

     横田典子裁判長は発症前の半年間の時間外勤務は平均で月約100時間に上り、最長で月144時間だったと指摘。校長は17年6月までに西本さんが長時間勤務で健塘を害する状態にあると認識できたのに「休める時に休みや」と声をかけただけで具体策を講じず「過剰な業務負担の解消のために有効な配慮をしたとは言えない」とした。

     判決後に記者会見した西本さんは「教育行政の責任を裁判所が正面から認定してくれた。倒れる教員が二度と出ないようにしてほしい」と述べた。大阪府の吉村洋文知事は「厳しい判決と受け止めている。内容を精査し、教育委員会と検討する」とコメントした。


    「定額働かせ放題」に一石

     大阪府立高の教諭が勤務を続けながら「雇い主」の府を訴えた訴訟で、大阪地裁は28日、原告西本武史さんの主張を全て認めた。「定額働かせ放題」とされる公立校教員の勤務環境に一石を投じるため、提訴から3年4ヵ月間、報道機関のカメラに顔をさらして実名を明らかにしてきた。思いに沿った判決に「生徒たちのおかげ」と笑顔を見せた。

     「ほっとした。家族、同僚、生徒の支えでやってこられた」。大阪市内で開かれた記者会見の冒頭で、西本さんは周囲への感謝を口にした。毎年5千人以上の教員が精神疾患で休職している実情に触れ「これは社会問題。どこの誰が行動を起こしたのかを明らかにした方が一石を投じられると思った」と闘いを振り返った。

     教職員給与特別措置法(給特法)により、公立校教員には基本的に残業代が支払われない現状について西本さんは「『定額働かせ放題』だ。給特法を廃止してほしい」と改めて批判。

     「長時間労働に苦しむ人たちに、もう倒れてほしくない」と涙ながらに訴えた。

     適応障害を発症してから約5年。休職を乗ぴ越えて復帰した教室では、生徒たちがチョークで黒板に「おかえりなさい」と書いて待っていてくれた。教子たちは判決が言い渡された法廷にも傍聴に駆け付けてくれた。

     「子どもたちの成長を見守りたくて教員になった」。だからこそ、これからも仕事を続けながら現場から声を上げ続ける。「教員を目指す人に『すてきな職業だよ』と言いたい。そのために、この問題を解決したい」


    画期的な判決だといえるだろう。これまで多くの訴えの中で「自主的に仕事行った」との判断がなされ、いわば「残業の値切り」が行われてきた。それを否定する判決だといえる。また、管理職の安全配慮義務も違反だとした判断は重い。極端に言えば管理職の刑事責任を問うことも可能ではないか。


    6月28日 文科省 新教員研修定着テストも

     文部科学省は27日、教員免許に有効期限を設けていた教員免許更新制を7月に廃止した後、来年4月から始める新たな研修制度の指針案をまとめた。受講を拒否する教員には職務命令で研修を受けさせると明記。オンライン研修などでの習得内容を定着させるため、研修後のテスト実施やリポート提出も求める。指針案は27日の中教審部会で大筋了承された。

     文科省は、大まかな指針は示すが、受講時間数などの詳細は各都道府県教育委員会などに制度設計を任せる。

     指針案は、研修でのオンライン活用が広がっている現状を受け、形式的な動画視聴で終わらないように修了後のテストやリポートが必要と指摘した。

     校長は教員が学ぶべき分野を助言する。再三の助言に従わなければ職務命令を出すことを求める。命令に違反すると懲戒処分の対象になる。

     免許更新制は、期限前に長時間の講習を受ける義務があって教員に大きな負担だと批判されてきた。だ が、文教族議員らから「廃止しただけでは指導力が低する」との異論も上がり、文科省は新制度の骨格を 検討していた。27日の中教審部会は委員から「教員は多忙で、研修を受けたくても余裕がない。働き方改 革が必要だ」との意見が出た。


    もうお笑いの域でしかない。教員免許更新制がなぜ廃止せざるを得なくなったのかは議論の対象から外れたのだろうか。研修を拒否すれば職務命令。『馬を水辺につれていけても水を飲ませることはできない』は、英語では『You may lead a horse to the water, but you can't make him drink』だそうだ。『You 』は校長さんか?しかし自民党の教育政策は教員に対する不信に満ち溢れている!


    6月26日 過労自殺 東芝側と和解

     東芝の子会社「東芝デジタルソリューションズ」(川崎市)の社員で、2019年に過労自殺した安部真生さん=当時(30)=の遺族と会社が裁判外で和解したことが25日、遺族と会社への取材で分かった。会社が原因を長時間労働と認めて謝罪し、東芝グループ全体で『勤務間インターバル制度』の導入に努力するなど再発防止を約束した。

     東芝の他にも大企業で過労自殺が相次いでおり、トヨタ自動車は今年1月、男性社員の自殺をパワーハラスメントなどが理由として謝罪、遺族と和解した。国内で約7万人の従業員が働く東芝グループが再発防止を徹底すると決めたことは、他の企業にも影響を与えそうだ。

     システムエンジニアだった安部さんは、厚生労働省発注の介護関連システム開発を担当していた際、多忙を極め自ら命を絶った。遺族は厚労省に発注に不備がなかったか調査を求めたが、遺族によると、昨年、厚労省から「スケジュールの見直しが必要ないか、会社側に適宜確認していた」などと回答があった。

     東芝デジタルソリューションズの担当者は取材に「今回の災害を尊い教訓として再発防止策を徹底的に展開する」と答え、厚労省は「長時間労働につながらないよう発注時期や納期を設定する対応を行っていく」とコメントした。

     和解は今年5月25日付。和解内容には時間外労働の削減や過労死に関する研修を実施することも盛り込まれた。合意は遺族と東芝デジタルソリューションズの間で結ばれたが、対策はグループ全体で実施する。

     会社側は最長で5年間、対策の進捗状況を遺族に報告する。安部さんの父晋弘さん(66)=長野県駒ヶ根市=は「人を犠牲にしてまでも利益を上げるというやり方を考え直してほしい」と強調した。


    【解説】勤務時間休息 普及進まず

     東芝子会社が過労自殺した男性社員の遺族と和解したことを受け、東芝は過重労働対策として、グループで「勤務間インターバル制度」の導入に努力することになった。政府の働き方改革の一環で2019年から制度導入が企業の努力義務とされたが実例はまだ限られ、普及に向け政府や企業の取り組みが求められる。

     終業から次の始業まで一定の休息時間を設ける勤務間インターバル制度は、睡眠時間や労働者の生活のための時間を確保するため、過労死遺族が強く求めてきた。電通の違法残業事件もあり政府が働き方改革を本格化させた16年以降、注目されるようになった。欧州連合(EU)は休息時間を「24時間につき最低連続11時間」と定めている。

     日本でも導入例は増えつつあるが、厚生労働省の昨年調査ではいまだ約5%にとどまる。人手不足の運輸業界などからは「シフトが組めない」といった不満が出る。繁忙時の対応など労務管理の難しさも制度が敬遠される一因になっている。政府はうまく運用している事例を広く周知するなどして導入を促し、将来的には完全義務化を検討するべきだ。


    過労死事件が和解するケースは珍しいと思う。条件が東芝側の「勤務間インターバル」制度の導入約束だったことも貴重だ。すでに常識とないる学校での長時間勤務は、変形労働時間制という数字合わせで矛先を変えようとしている。数字合わせの前に、積極的に「24時間につき最低連続11時間」とするインターバルを設けることを進めるべきだ。仮に午後8時に退勤したなら翌日は午前7時までには出勤できなこといになる。当然通勤時間は含まれていないから、それも考慮するなら通学指導や長時間残業はさせてはならないことになるはず。


    6月25日 厚労省 精神障害の労災認定最多

     厚生労働省は24日、仕事が原因でうつ病などの精神障害を患い、2021年度に労災認定されたのは前年度比21件増の629件だったと発表した。1983年度の統計開始以来、3年連続で過去最多を更新した。認定のうち自殺(未遂を含む)は79人でほぼ横ばい。原因別でみると「パワーハフスメント」が125件で最も多く、強いストレスを感じる働き方が職場でまん延している実態が浮き彫りになった。

     精神障害による労災申請も前年比295件増の2346件で過去最多だった。厚労省の担当者は「働き方への関心が高まり、精神障害が労災認定されることが浸透してきたのではないか」と分析している。

     20年度から原因別の項目が設けられたパワハラは、2年連続で最多だった。厚労省によると、パワハラに続き「仕事内容・仕事量の変化を生じさせる出来事があった」71件、「悲惨な事故や災害の体験、目撃」66件の順だった。

     業種別では「社会保険・福祉・介護事業」が82件で最多。医療業、道路貨物運送業、飲食店と続いた。

     過重労働が原因の脳・心臓疾患での労災申請は前年度比31件減の753件。認定は172件たった。死亡(過労死)は前年だ10人減の57人。申請、認定ともに17年度からの過去5年間で最も低くなった。厚労省は「働き方改革で長時間労働が減少傾向にあることが影響しているのではないか」としている。業種別では申請、認定とも「道路貨物運送業」が最多だった。


    【インサイド】認定率は3割 「広く補償を」

     2021年度の精神障害による労災認定件数が過去最多を更新したことが24日、分かった。そのうち自殺(未遂を含む)は79人に上る。遺族は悲しみを抱えながら「仕事が原因だと認めてほしい」との思いで懸命に証拠を集め、労災申請にこぎ着けている。だが、申請にも至らないケースは多い。認定率も3割程度にとどまり、労働問題に詳しい弁護士は「幅広く補償すべきだ」と指摘する。

     「がんばろうとしたけどだめだったよ」。メモ帳には、新妻に宛てた遺書があった。長野県飯田市の精密機器メーカー「多摩川精機」社員の吉田午郎さん=当時(34)=は20年4月、勤務先を飛び出し自ら命を絶った。結婚生活4ヵ月目で、母恵美子さん(66)には、仕事以外の原因が考えられなかった。

     午郎さんはJR東海が計画を進めるリニア中央新幹線の部品設計などを担当していた。家族は専門語が並ぶスケジュール帳を丹念に調べ、遠方の関係者にも話を聞きに行った。

     恵美子さんによると、午郎さんは専門外の知識が必要な部品設計をほぼ一人で任されていた。だが、19年秋ごろからトラブルが続き、何度も延期した納期にも間に合わない状況に陥っていた。

     会社からのサポートはなく、上司は日程厳守を迫るだけ。遅れを取り戻すにも、会社が決めた上限時間を超えたため残業も禁止された。恵美子さんは「何とかしようとしたけど、どうしようもなかったのでしょう」と推し量る。

     21年に飯田労働基進藍督署(長野県)に労災を申請した。知人や支援団体の力を借りて約1万6千筆の署名も集めた。努力家だった息子。恵美子さんは「生きている時に助けてあげたかった。午郎を返してほしい」と唇をかんだ。会社側は取材に「労基署に協力し、事実関係を調査中」としている。

     厚生労働省によると、21年度の精神障害による労災の認定率は約32%。脳・心臓疾患の認定率も約33%で、いずれも近年は3割前後で推移する。

     労働問題に詳しい嶋崎量弁護士は「しやくし定規な審査で不支給となるケースが多い」と指摘する。昨年、脳・心臓疾患の労災認定基準が改正され、労働時間以外にも業務負荷がある場合は、残業が発症前1ヵ月間で100時間などの「過労死ライン」に達しなくても認定できると明記された。だが、労働時間を重視する傾向はなお強いという。

     嶋崎弁護士によると、申請を巡り、勤務先企業がきちんと従業員の労働時間を把握していないなどの理由で、証拠集めが難航することも多い。「労基署は形式だけにとらわれず、実態に即して幅広く補償するべきだ」と強調した。


    労災の認定はまだまだハードルが高い。補償は必要だがまずは「死なない」ことだろう。労災申請がその抑止的な側面を持つことも重要。「症状」などの悪辣なパワハラを引き起こすような職場環境を早期に是正することが必要だ。


    6月22日 京都地裁 ウトロ放火 懲役4年求刑

     在日コリアンが多く暮らす宇治市伊勢田町のウトロ地区で家屋に放火したとして、非現住建造物等放火などの罪に問われた無職有本匠五被告(22)の論告求刑公判が21日、京都地裁(増田啓祐裁判長)であった。検察側は「動機は身勝手極まりなく、被害結果も重大」として懲役4年を求刑し、結審した。判決は8月30日。

     検察側は論告で「在日韓国人に一方的に抱いた嫌悪感や、社会から注目を浴びたいという卑屈で身勝手な動機から犯行に及んだ」と指摘した。

     被害者の意見陳述もあり、放火によって自宅から焼け出された男性(47)は「全てが燃え、生活が一変した。家族が作ってきた生活を失い、子どもたちを危険にさらし、どうしてこんな目に遭わないといけないのか」と訴えた。火災で展示予定品の一部が焼失したウトロ平和祈念館の金秀煥副館長は「差別のない社会を目指して力を尽くしているときに放火という行為で思いを否定され、許せない。特定の民族に対する憎悪と偏見による迫害行為であり憎悪犯罪だ」と強調した。

     有本被告の弁護側は「家庭でも社会でも孤立する中、閉塞感から自暴自棄になった。更生し社会復帰することは可能だ」として、情状酌量を求めた。有本被告は最終意見陳述で「(被害者たちに対して)差別、偏見などの感情を抱いている人が多くいる。今回の放火は、個人的な感情に基づいたものではない」などと話し、謝罪の言葉を口にすることはなかった。

     有本被告はこれまでの公判で、動機について「ウトロ平和祈念館の開館を阻止することが目的だった」「韓国人への敵対感情があった」などと説明。判決では、特定の民族を標的としたヘイトクライム(憎悪犯罪)との関連や、動機として民族差別が認定されるかなどが焦点となる。

     起訴状によると、昨年8月30日、ウトロ地区の空き家に火を付け、民家など計7棟を全半焼させたとしている。また、昨年7月に名古屋市内で韓国関連施設にも火を付けたとして、建造物損壊と器物損壊の罪にも問われている。


    検察は「差別」使わず

     有本被告の公判の閉廷後、被害者弁護団が京都市内で記者会見した。論告の内容について、豊福誠二弁護団長は「検察はかたくなに『差別』という言葉を使わなかった」として不満を漏らした。

     公判ではウトロ地区の被害者たちが意見陳述し、今回の放火が差別意識に基づくヘイトクライム(憎悪犯罪)であると訴えた。検察側は論告で、犯行動機を「単なる偏見や思い込み」「憂さ晴らし」など説明したが、豊福弁護団長は「(被害者の陳述がなければ)事件の本質は分からなかった」として、検察側の主張が不十分との認識を示した。



    6月22日 香川 不登校生、夜間中学入学へ

     全国で唯一、不登校生を受け入れられる香川県三豊市の夜間中学に、不登校の中学生3人が入学を希望していることが21日、学校関係者への取材で分かった。体験期間などを経て早ければ9月にも入学する見通しで、実現すれば全国初。増加傾向にある不登校生の学びの場の一つとして、今後全国的に広がることが期待されそうだ。

     文部科学省によると、不登校生の受け入れには、生徒の実態に配慮した柔軟な教育課程が実施できる「不登校特例校」の指定を文科省から受ける必要がある。4月時点で全国に21校あり、夜間中学は同校のみ。学校関係者は「異なる世代や国籍の人たちの中で学ぶことは意義がある。全国的な広がりにも期待したい」と話す。

     関係者によると、市教育委員会は正式入学までに必要な手続きを@見学や説明会への出席Aスクールソーシャルワーカーとの面談B臨床心理士との面談C1ヵ月以上の体験入学―と定める。校区外からの通学には市教委の就学許可を得る必要がある。

     3人は県内の中学3年生で、すでにAの手続きまで終えており、その後の体験入学などを経て意思が変わらなければ正式入学する見込み。他にも県内外の中学1、2年生やその家族が入学を検討しているといい、受け入れは今後本格化するとみられる。

     夜間中学は義務教育を終えていない人たちを対象としており、高齢者に加え、近年では外国人も通う。三豊市の夜間中学は市立高瀬中に夜間学級を併設する形で4月に開設し、6月時点で外国籍の2人を含む10〜80代の男女9人が在籍。学齢期の生徒はいない。

     文科省は年間30日以上欠席した生徒を不登校と扱っており、最新の2020年度の調査で中学生は約13万3300人。この10年前の10年度は約9万7400人で、増加傾向にある。


    受け皿に期待と不安の声

     香川県三豊市の夜間中学が全国で初めて不登校の中学生を受け入れる見通しとなった。増加傾向にある不登校生の新たな受け皿として期待される一方、現場からは「人手が足りていない」とする不安の声も。学校関係者は、受け入れ本格化には行政がバックアップ体制を充実させる必要があると指摘する。

     文部科学省によると、不登校の中学生は年々増加傾向にある。最新の2020年度の調査では13万人超。民間運営のフリースクールなどが受け入れているが、夜間中学もその役割を担うことになれば「不登校生の学びの選択肢が増える」と、学校関係者は意義を強調する。

     一方、現場では人手が足りていない現状も。関西地方にある夜間中学では生徒が約70人おり、来日間もない外国人の生徒も多い。学校関係者は「習熟度別の授業対応などに追われて手いっぱい。不登校生も受け入れることになれば新たな授業が必要になり、現場は混乱する」と打ち明ける。

     その上で、受け入れには人的配置を含めた行政の支援が不可欠だと指摘。「学校現場と行政が両輪となり、責任を持って受け入れられる体制づくりが必要だ」と話した。


    福岡大の添田祥史准教授(成人基礎教育)の話世代・国籍違う学び場 救いに

     世代や国籍など、違うことが当たり前の夜間中学で学ぶことは、同調圧力などで不登校になった生徒にとって救いになるだろう。今後、こうした流れは全国的に広がるとみられる。一方で「昼間の学校」の対策が不十分なまま受け入れが進むことについては、授業の準備や生徒の対応に追われる夜間中学関係者の中でも慎重意見が根強く、負担軽減が求められる。また、休むことや1人でいることが悪いことではないという雰囲気づくりをしながらも、不登校生がみんなと共に学ぶ喜びを取り戻せるような支援をすることが大切だ。


    コロナ禍において「多様な学び」が注目を集めた。もちろんデジタル機器を使っての教育を普及させる狙いがあってのこと。しかし、その多くが「民間の力」を利用することになっている。公教育が学びの場を多様に準備することは国に責務であろう。人材を含めて財政的な整備を求めるのは当然のことだろう。


    6月18日 東京の私立中 ウクライナ侵攻巡り 中学生、思い言葉に

     ロシアによるウクライナ侵攻について議論し、日本の防衛政策の在り方も考える授業が東京都調布市の私立中学「ドルトン東京学園中等部」で行われた。主権者教育に力を入れてきた大畑方人教論(45)は「侵攻への関心は高まっている。今こそ社会問題への思いを言語化し、互いに意見をぶつけ合う時だ」と話す。

     「ウクライナの状況をどう思う?」。6月上旬、3年生の公民の授業で大畑教諭が切り出した。生徒の手元には「かわいそう」「怖い」「自分に関係ない」など15種類から自分の感想を選べるプリントが置かれた。該当項目に丸を付けてから4、5人のグループに分かれて意見を出す流れとなった。

     生徒たちは「民間人が戦争に巻き込まれて怖い」「ロシアだけが悪いとは言えず複雑」などと胸の内を披露し合った。

     授業はここで終わらない。岸田文雄首相が5月、防衛費の増額を表明したニュースを紹介。従来の防衛費は国内総生産(GDP)比1%程度だったと伝え、生徒にこう尋ねた。「日本は今後、防衛費を増やすべきか、それとも現状維持か、もしくは減らすべきか」

     生徒の意見は割れた。「防衛費を上げたら好戦的だと思われる」「でもアメリカの期待を裏切れない」。増やす生徒が半数、維持する生徒が4割ほどといった結果だった。一部報道機関の世論調査と傾向が一致していると説明した大畑教諭は「みんなは既に大人と同じような判断ができる」と語りかけた。

     授業を受けた正善大雄さん(15)は「教科書の暗記より、今ある問題を話し合う方が新たな気付きがある」と話す。大畑教諭は「議論を通じ、生徒が自分も社会の一員だという意識を持つことが、民主主義の学びにつながる」と力を込めた。


    ウクライナについて語ることは問題にならないだろうが、政府の予算に対する意見の交換については、おそらく異論が出るだろう。しかし、そこにこそ主権者教育の意義があるはずで、公立学校でこうした議論ができる環境を与野党を問わず各レベルの議員らの手で作るべきだろう。自らからの意見と異なる意見を「中立を犯す」などと言うことはあってはならない。


    6月18日 文科相 PTA入会仕組み「自主的に判断を」

     末松信介文部科学相は17日の閣議後記者会見で、入会の強制性や活動負担の重さへの指摘が出ているPTAのあり方について「地域の状況に応じて協議をし、自主的に決めていくのが正しい考え方だ」と述べ、任意団体であることを理由に各PTAの判断に委ねる考えを強調した。

     PTAは児童生徒の入学を機に保護者が自動的に入会する仕組みや、入退会に関する規定がない点などが問題視されている。末松氏は「入退会(のあり方)はそれぞれのPTAでご判断いただくのが筋」と語り、文科省としては関与しない姿勢を示した。

     他方で「学校と家庭と地域の連携を強化していく上で重要。保護者の声も十分うかがいながら子どもたちの健やかな育成を支えるための役割を十分に発揮していただきたい」とPTAの存在に期待した。

     PTAを巡っては近年、共働きの増加や価値観の多様化に伴い、自動的な入会や役員就任への強制などが課題となり、京都府や滋賀県を含む全国で見直しが進んでいる。また京都市などでPTAの連絡組織が全国組織からの脱退を検討する動きも出ている。


    東京の小P協議会 全国組織脱会検討

     東京都内の一部公立小学校のPTAでつくる「東京都小学校PTA協議会」(都小P)が、全国組織の「日本PTA全国協議会」(日P)からの脱会を検討していることが17日、関係者への取材で分かった。会員の意見があまり反映されず、会費が有効活用されていないことを理由にしている。

     関係者によると、都小Pには190校(都内公立小の15%)のPTAが加盟。徴収した会費(児童1人当たり20円)の半分に相当する年間約90万円を日Pへ納めてきた。

     京都市立小中学校などのPTAでつくる「京都市PTA連絡協議会」も同様の理由で脱会を検討したが、理事会の投票で反対多数で否決された。


    本来「開かれた学校」のための重要な組織として発足したものだろうが、教育行政の重要なアシスタントとして利用されてきたのも事実。学校評議会やコミュニティースクールも類似の運営がなされているところも少なくない。こうした構造を問題としない限り、単に「入退会(のあり方)はそれぞれのPTAでご判断いただくのが筋」というだけでは文科の言い逃れに過ぎない。参考資料として「PTAのゆくえ」を参照。


    6月17日 【インサイド】 計算手法の透明化課題

     東京地裁判決が食ベログの独禁法違反を認定し、店を点数でランキングする独自のアルゴリズム(計算手法)の透明性を課題として浮かび上がらせた。大きな影響力を持つインターネット事業者「デジタループラットフォーマー(DPF)」の規制が進むなか、識者は「計算手法の変更にはより慎重な配慮が求められるようになる」と強調する。

     食ベログは、評点の算出方法について、利用者ごとに書き込む頻度や内容に基づく影響度を設定し、独自の計算手法を組み合わせていることなどをサイト上で説明。影響度や全体的な算出方法の改善などを考慮しい月2回更新しているとするが、詳細については明らかにしていない。

     公正取引委員会は2020年3月、飲食店情報サイトについての調査報告書を公表。評点については、利用者の8割が参考にし、飲食店の9割が「評価を上昇させたいと思う」と回答。飲食店にとって重要な競争手段になっていると指摘した。

     その一方、評点の決定方法を「知っている」とした利用者は約9%。飲食店への聞き取りでも、「有料会員から無料会員になったら、評点が大きく下がった。おかしいのではないか」「評点の付け方が平等でないのでは」などと疑問の声が寄せられていることを紹介していた。

     その上で、計算手法が恣意的に設定されれば、独禁法上の問題となる恐れがあるとし、評点を決定する要素を可能な限り開示することや、公正さを確保するために第三者によるチェックなどの体制を整備することが望ましいと結論づけた。今回の訴訟でも、公取委は21年9月に、東京地裁に異例の意見書を提出。判断にも影響を与えたとみられる。

     判決後、東京都内で記者会見した原告側代理人の皆川克正弁護士は変更は原告とって予想できない事態だとし「評点を下げられ不満があっても、報復を恐れほかの飲食店はなかなか声を上げられなかったのではないか」と話した。

     独禁法に詳しい牛島総合法律事務所の川村宜志弁護士は「DPFは影響力が大きく、計算手法や利用規約が変更されれば、目的が正当であっても事業者は不利益を受けかねない。事業者とのコミュニケーションを強化し、変更内容を丁寧に説明したり、事業者側に十分な準備期間を設けたりといった対応を取る必要がある」と話した。


    「このページで“食ベログ”?」と訝る向きもあるだろう。しかし、「店」を「児童・生徒」と置き換えてみると事態は一変する。政府が推進し自治体が導入を始めたGIGAスクール構想は、単に端末を「一人一台」にではなく、学習の履歴を含めてDPFによる管理を進めることだ。デジタルリテラシーを徹底的に学習することは一般市民には不可能だろうし、クラウドの中でのアルゴリズムは不可視だと理解すべきだ。その上で、教育における利用を考えなくてはならない。「未来の教室」はマトリックスの世界ではないか。


    6月15日 政府 学びの履歴 データ蓄積

     政府が、子どものテスト成績や勉強内容などの学習遍歴をデジタルの「教育データ」として学校で蓄積し、指導に生かす仕組みの導入を目指して いる。人工知能(AI)も使った分析で一人一人に合った学びが実現できるとして、2025年度にも自治体ごとに本格運用が始まる。ただ、個人の成績情報が授業以外で乱用されかねないなど不安の声もあり、専門家はルール整備を訴える。

     想定される収集項目は、学校や自宅で勉強した内容やテスト成績の他、出欠日数や健康診断結果など多数に上る。家族構成や世帯収入の情報も集めれば、福祉的な支援が必要な子どもを見つけるのにも役立つという。

     既に一部自治体が、学力試験の成績をAI分析して苦手分野を集中的に勉強できるようにする実証実験に着手。保健室利用回数と欠席日数を一覧にして、学校生活に不安を抱える子どもの早期発見につなげているケースもある。

     国はデータ管理には関与せず自治体や学校ごとに管理する。現在は統一規格が存在しないため、進学や転校後もデータを移行できるようなシステムに向け、文部科学省などは収集項目を共通化する検討を始めた。

     ただ、「就職や入試で、本人の望まない形でデータが利用されるのではないか」との不安の声が政府側に寄せられている。現時点 ではっきりとした制限はなく、文科省幹部は「不安が大きいと学校での活用が広がらない」と指摘しており、利用範囲を示す指針を設ける見通しだ。

     埼玉大の高橋哲准教授(教育政策)は「子どもは成長して大きく変わる。過去の記録により『成績が悪かったから問題があるので は』との偏見が付きまとう恐れがある。国は、入試や就職で無制限に利用させないために明確なルールを設定すべきだ」と話している。


    【 インサイド】学習時の気分も入力

     2025年度にも自治体や学校で本格運用が始まる「教育データ」の活用。子どものテスト成績や勉強内容をデジタル情報として蓄積するのが柱で、一部自治体では始まっている。ただ、「デジタル偏重では、子どもとの向き合い方が不十分になる」と話す学校教諭もおり、教育の在り方について議論を呼びそうだ。

     「個人のデータに合わせて教え方を調整し、科学的根拠を持った指導ができる」。22〜25年度の大阪市教育振興基本計画にビッグデータの活用促進を盛り込んだ市教育委員会担当者は、意義を強調する。生活習慣や先生の教え方への評価を小学生にアンケート し、学力試験の成績も組み合わせ、どんな学習方法が学力向上に効果的なのか分析するのが大きな目標だ。

     大阪市立小中学校では既に、子どもが学習端末に自分の気分やストレス状態を入力する「心の天気」というアプリを導入。教諭側の端末に普段のドリル学習の結果を含めて一覧表示される。子どもの気分と学習状況を確認しながら指導する。

     今後は、小学生のデータを集約して指導方法をマニュアル化することも選択肢だ。市立中学に進めば、データはそのまま中学教諭が閲覧、活用する見通しという。

     埼玉県教委は15年以降、1学期に公立校約千校の小4〜中3を対象にした学力テストを国語や篁数・数学などの教科で実施している。毎年の成績を児童生徒ごとに蓄積し、学力の伸び方を把握する。結果を人工知能(AI)で分析して、個別アドバイスを提供す る実証研究も始めた。

     こうしたデジタル化の流れに、大阪市立小に勤めるベテラン男性教諭は「子どもがデータ化され、それに基づいた指導が中心になる恐れがある」と違和感を口にする。

     「データを基に『ここが弱点です』と示されても、なぜ苦手なのかは本人に聞かないと分からない」と男性教諭。「子どもの話をじっくり聞き、表情や声色から悩みを読み取ることこそがきめ細かな指導につながる」と訴えた。


    国が進める「個別最適の学び」と「GIGAスクール構想」の上での教育の近未来像がこれだ。コロナ感染拡大の中でエビデンスの乏しい「一斉休校」と経産省主導の「学びを止めない」が引き金になった。まさにショックドクトリンと言っていい。2019年12月に閣議決定された補正予算の2,318億円は関連企業の懐に?


    6月16日 国会 子どもの環境改善 試金石

     政府は来年4月の「こども家庭庁」創設をきっかけに、子どもを主体にした政策づくりに乗り出す。虐待や貧困などの問題が深刻化する中、当事者の声をどうやって吸い上げるか。1994年の「子どもの権利条約」批准から約30年。国際的に取り組みの遅れが指摘されており、政策転換への試金石となる。

     東京都渋谷区のビルの一角にある「キズキ共育塾」。不登校や高校中退、ひきこもりなどの事情を抱えた若者が集まり、各ブースでは講師が個別指導に当たる。講師の多くに同じような挫折経験があり、勉強だけでなく、さまざまな悩み事の相談に応じるのが特徴だ。

     安田祐輔代表(38)もいじめやうつ病を経験。「学校の先生は一人一人に寄り添う余裕がない。何回でもやり直せるよう支援したい」と約10年前に塾を立ち上げた。

     アルバイト講師で大学4年の男性(22)は、高校生の時に不安が積み重なってうつ状態になり、浪人時代にこの塾に通った。「新たな居場所として支えになった。苦しい経験をした自分だがらこそ、生徒の助けになれるのではないか」と話す。

     今回のこども家庭庁創設の土台となったのは、89年に国連で採択された子どもの権利条約だ。子どもを「権利を持つ主体」と位置付け、日本は94年に批准。しかし有効な対策が取られないまま、子どもを取り巻く状況は年々悪化。2020年度の統計では不登校の小中学生は約19万6千人、全国の児童相談所が対応した児童虐待件数は約20万5千件で、いずれも過去最多たった。

     子どもの貧困率(中間的な所得の半分に満たない家庭で暮らす18歳未満の子どもの割合)は18年時点で13・5%で、7人に1人の計算だ。

     この間、海外では子どもの意見を政策に生かそうと第三者機関「子どもコミッショナー」の設置が進んだ。日本ユニセフ協会によるとノルウェーが1981年に初めて導入し、70力国以上に広がった。

     英国・ウェールズでは貧困を経験した子どもや保護者を対象に調査を実施し、就学支援給付金の拡充が実現した。

     NPO法人「子どもの権利条約総合研究所」によると、国内では約40自治体が第三者機関を置く。兵庫県川西市が全国に先駆け、99年に設けた「子どもの人権オンプズパーソン」は大学教授や弁護士らで構成。いじめやの待などの相談を受け、学校に聞き取りも行う。代表の大倉得史京都大大学院教授(発迎心理学)は「個別の事案解決に加え、制度改善につなげるのが特長だ」と話す。提言が市側のいじめ対策の手引に反映されたこともあるという。

     だが自治体に比べて国の動きは鈍く、こども家庭庁設置の議論でもコミッショナー設置は見送られた。自民党内から「子どもの権利が強調され過ぎる」「誤った子ども中心主義にならないか」などの意見が出たためで、家父長制に基づく伝統的家族観を守ろうという思惑がにじんだ。

     政府は首相の諮問機関「こども家庭審議会」を設け、子どもや親の意見を施策に反映させるとしているが、政府内の取り組みがどれだけ効果を上げるかは疑わしい。

     日本ユニセフ協会の高橋愛子広報・アドボカシー推進室マネジヤーは「審議会では、政府主導の施策推進になりかねない。独立した立場で調査・提言ができる組織が必要で、コミッショナー設置の議論を続けることが欠かせない」と語る。


    権利擁護機関は設立が見送りに

     15日の参院本会議では、子ども政策全般の理念などを定めた議員立法の「こども基本法」も可決、成立する。「全てのこどもは個人として尊重される」と明記。養育は家庭を基本とし、困難な場合の養育環境確保を盛り込んだ。子どもの権利擁護を目的とし、行政から独立した第三者機関「子どもコミッショナー」の設立は、自民党内に慎重論が強く、検討規定にとどまった。


    【解説】見えぬ当事者視点

     こども家庭庁が2023年4月に創設される見通しとなった。岸田政権は「子どもを真ん中に据えた社会」を実現するための司令塔と位置付けるが、法案提出までの過程では、省庁の縄張り争いや、保守派議員の意向で“子ども不在”の議論ばかりが目立った。新たな組織が看板倒れとならないように、政府には当事者の視点に立った取り組みを求めたい。

     21年4月、菅義偉前首相の指示を受け、内閣府や厚生労働省、文部科学省の幹部らが水面下で議論を始めた。教育分野を移す案もあったが、文科省の反対で立ち消えに。その他の案とともに、そうした議論の内容は一切明かされていない。

     組織や政策を議論した自民党の会合も非公開だった。名称は「こども庁」が検討されたものの、保守派議員の意向で「家庭」が加わった。子どもの権利を守るための第三者機関設置も一部議員の反対で見送られた。

     「大人が枠組みを考えて決めた。あまり期待できない」。児童養護施設で育った女性の言葉だ。“密室”で練られた組織では、信頼を得られるはずもない。



    6月14日 アマゾン配達員 労組結成化

     インターネット通販大手アマゾンジャパンの下請け企業と業務委託契約を結び、神奈川県横須賀市を拠点に働く配達ドライバー10人が13日までに、「東京ユニオン・アマソン配達員組合横須賀支部」を結成した。組合員は個人事業主(フリーランス)として働くが、アマゾンからアプリなどを通じて指揮命令を受け、労働時間も管理されているとして、業務委託は「偽装」と主張、労働基準法上の労働者に当たるとしている。

     組合員らは13日、アマゾンジャパン本社(目黒区)を訪れ団体交渉を求め、労働契約の締結や長時間労働の是正などを求める要求書を提出。同社は取材に「要請書を本日受領し、内容を確認している」と回答した。

     アマゾンは全国各地に商品を発送しており、組合員らと同様の働き方をする配達ドライバーは多数に上る。労組の弁護士などによると、アマゾンの配達ドライバーによる職場単位での労組結成は初めてといい、労働環境の改善を求める声が広まる可能性がある。

     13日午後、都内で記者会見した組合員らによると、10人はアマゾンジャパンの1次、2次下請けとそれぞれ契約を結び、横須賀市内にある倉庫に運び込まれたアマゾンの商品を配送。配達員はアマゾン側から専用のアプリを通じ、荷物の個数や配送先などの指示を受けている。

     要求書では、配達中に生じた事故で荷物が破損した場合に配達員が負担した賠償金の返金や、携帯修理代といった名目で報酬から差し引かれた分の支払いを求めている。

     アマゾン側が昨年、各配達員の荷物数や配送先を人工知能(AI)で決定する方式を導入して以降、運ぶ個数が急増したといい、支部長の60代男性は会見で「物量の多さがストレスで耐えられない。是正されないとドライバーは働きながら死んでしまうかもしれない」と訴えた。


    「人間らしく働きたい」

     アマゾンジャパンの商品を届ける配達ドライバーが労働組合を結成した。きっかけは、組合員となった50代男性が昨夏、連日の長時間勤務で疲れ果てた末に起こした自損事故。13日に都内で記者会見した組合員たちは、アマゾンジャパンや下請け会社との交渉を実現し「人間らしく働ける環境をつくっていきたい」と訴えた。

     組合員たちによると、アマゾン側が昨年、各配達員の受け持つ荷物数や配送先を人工知能(AI)で決定する方式を導入して以降、運ぶ個数が急増。男性の自損事故はその後に発生。配送先の近くに停車した際、操作を誤り、降車後に車が動き近くの建物に衝突した。’

     男性は「連日の長時間勤務で早く帰りたいと焦り集中力を欠いていた」と振り返る。これほどまでに働かされる環境に「『もし誰かを傷つけていたら』と怒りを覚えた」。周囲の同僚たちに声をかけ、組合結成につながった。

     アマゾン側に突き付けた要求は、労働契約締結や荷物数の適正化のほか、パワーハラスメントの防止、健康診断の実施など多岐にわたる。男性は「私の状況は全国の同じ配達ドライバーに当てはまるはずだ」と話し、仲間の輪が広がることを願った。


    適用される法が異なるという現状から、アマゾンの職場と学校の職場を単純に比較することはできない。しかし、そこで働く人はいずれも「人間」であることは間違いない。「AIが労働の在り方を変える」時代の到来を予測する人も大勢いるなかで、教員の仕事がAIの指示の下に置かれる可能性もないわけではない。「個別最適な学び」を徹底すればそうなる可能性もある。規制緩和の中で生まれた広域通信制高校であるN高等学校での争議もそれを予感させる。いずれにしても労働組合運動の質的な転換が求められる状況でもある。


    6月14日 【表層深層】 恣意的な運用 監視急務

     改正刑法成立で「侮辱罪」が厳罰化され、懲役・禁錮と罰金刑の対象になった。近年、交流サイト(SNS)などインターネット上の誹謗中傷は過熱。人格を否定する悪質な書き込みに厳しく臨むべきだとの認識は社会に広がる。一方で、憲法が保障する表現の自由が制約されるのではという懸念は根強い。国会では侮辱罪適用の「線引き」を巡り論戦。専門家は「恣意的に運用されていないか、`監視しなければならない」と話す。

     ブログに「首相はばかだ」と書けば罪に問われるのか。国会では、どこからが侮辱罪の「事実を示さず人をおとしめる行為」なのか示すよう求める質問が相次いだが、法務省側は「証拠に基づき判断する」「具体的な事例には言及できない」と明言を避け続けた。

      「安倍辞めろ」

     一例として挙げられたのが、2019年、安倍晋三首相(当時)の街頭演説に「安倍辞めろ」などとやじを飛ばした市民が北海道警に排除された問題だ。札幌地裁は今年3月、やじは表現行為で、表現の自由が侵害されたと認定。原告2人に対する損害賠償を道に命じた(道が控訴)。

     政治家へのやじで現行犯逮捕される可能性はないのか―。懸念が取り沙汰される中、二之湯智国家公安委員長は「道警の措置は正しかった」などと発言。野党の一部は強く反発した。

     火消しに追われた政府は急きよ、侮辱容疑の現行犯逮捕が「実際上は想定されない」との見解を公表。「明らかに正当な表現行為でない」ということが、現場ですぐ判別することはあり得ないためと説明する。

     拘留(30日未満)と科料(1万円未満)を刑罰とする侮辱罪は1907(明治40)年制定の刑法で規定。2020年、プロレスラー木村花さん=当時(22)=がSNSで中傷され自死したケースで、投稿者への罰は科料9千円だった。

     過去にネット掲示板で「殺人犯」とデマを流されたタレントのスマイリーキクチさん(50)は「明治時代の法律がそのまま残って いるのはおかしい。正直、法改正は『遅かった』と思う」と話す。

       若者も問題意識

     SNSに慣れた若者世代も問題意識を共有する。日本財団が20年、17〜19歳の千人を対象にした調査では、75・5%がSNS上の中傷に対する法整備を「必要」と回答。59・2%が、中傷者への罰則を厳しくすべきだと答えた。

     専修大の岡田好史教授(刑事法)は、これまでネット中傷への抑止力としてほぼ機能していなかった侮辱罪だが、厳罰化により一定の抑止力を見込めると分析。その上で、表現の自由を萎縮させないため「捜査や裁判をきちんと監視し、例えば政治家らに都合のよい運用がされていないか、不断の検証が求められる」と話している。


    中長期的に新罰則を

     京大大学院の曽我部真裕教授(情報法)の話

     侮辱罪厳罰化は、当面の対策としては評価したい。かつての「2ちやんねる」といった掲示板に比べ、現在は拡散力の強い交流サイト(SNS)が誹諧中傷の舞台となっている。多数から攻撃を受けやすくなり、被害はより深刻だ。懲役刑を追加したことで一定の抑止効果が期待できる。ただ、侮辱罪は「社会的評価を低下させた」ことに対して処罰する刑罰。精神的苦痛を受けたり生活の平穏が奪われたりするという、インターネット中傷の一番の問題を認識させるという意味では少しずれがある。中長期的には、被害の特性を踏まえ新たな罰則を設けるといった検討が求められる。


    批判の自由は担保を

     専修大の山田健太教授(言論法)の話

     インターネットの中傷問題を考える上で大きなポイントは、批判の自由は民主主義の根幹であり、社会で担保される必要があるということだ。例えば社会的弱者が政治家に浴びせる厳しい言葉は「心の叫び」であり、それを力で抑え込むのは間違いだ。言論が弾圧された戦争の反省を踏まえ、公権力は表現行為には抑制的に対応してきた。侮辱罪の厳罰化は歴史を逆回転させており、そのことに社会が気付いていない恐ろしさがある。交流サイト(SNS)が急速に広まったのはここ4、5年のことだ。投稿者の情報の迅速な開示を一段と進めるなど、刑事罰強化とは別の方策を考えるべきだ。



    6月11日 府内自治体 プール授業 多くの学校復活

     新型コロナウイルス禍が続く中、京都新聞社が今夏のプール授業について京都府内の全自治体に尋ねたところ、8割強の自治体が、全ての公立小中学校で実施すると回答した。昨年、一昨年は中止を余儀なくされた自治体が大半だったため、3年ぶりとなる学校が多い。ただ、感染対策が徹底できないとして一部学校については中止を決めた自治体もある。

     京都市北区の待鳳小は7日にプール開きを行った。低学年向けに水深50センチに設定され、2年生の2クラス約50人が水の中を歩いたり、泳いだりして水に慣れ親しんだ。山本陽輝さん(8)は「寒かったけど楽しかった」と笑顔を見せた。

     同市教育委員会は「まん延防止等重点措置などもなく、体力や泳力向上が必要」として昨年に続いてプール授業の実施を決め、1日から各校で順次始まっている。一度にプールに入る人数は2学級80人以内に抑えるなど感染対策の徹底も促している。

     府内24自治体(相楽東部広域連合含む)のうち、全公立小中でプール授業を実施する(プール施設がないため授業をしない学校は除く)と回答したのは、京都市、舞鶴市、綾部市、宇治市、亀岡市、城陽市、向日市、長岡京市、八幡市、京田辺市、木津川市、京丹後市、南丹市、大山崎町、久御山町、井手町、相楽東部広域連合、京丹波町、伊根町、与謝野町の20自治体。

     京都新闇社の調査では、一昨年は一部を除く大多数の学校でプール授業を中止、昨年は8割の自治体が中止にしていた。3年ぶりの実施となる与謝野町の教委は「6年生は4、5年生でするはずだった水泳学習ができていないので児童の様子を見ながら指導していきたい」とする。

     その一方で、4市町は一部学校が今夏のプール授業の中止を決めたと回答した。福知山市は市内の小学校6校は実施、8校は中止する。宮津市も2校は海で水泳を教えるが、4校は中止する。学校によっては更衣室での密集など感染対策を図れないのが中止の理由という。

     文部科学省は感染防止マニュアルで、水泳授業はプールサイドでの児童生徒の間隔を2メートル以上などとするが、「あくまで目安」とし、現場の状況に応じた柔軟な対応を求めている。福知山市のある小学校は、例年は学年単位でプール授業をしていたが、感染対策のために学年を分けて行えば授業時間や指導教員を確保できないことから、3年連続の中止を決めた。教頭は「座学で水の事故防止は指導するが、泳力を養うことはできず今後の課題だ」と話す。

     宇治田原町と精華町は、感染が広かった場合の影響を考慮して中学校のみ中止にする。



    6月11日 【社説】 「18歳の壁」撤廃

     虐待などの事情から親元で暮らせず、児童養護施設や里親家庭で育った若者の自立支援に関し、原則18歳(最長22歳)までとなっている年齢上限を撤廃する改正児童福祉法が成立した。2024年4月に施行される。

     年齢上限は「18歳の壁」と言われてきた。厚生労働省の調査では、施設などの保護を離れた「ケアリーバー」の3人に1人が生活費や学費の悩みを抱えていた。

     子どもや若者の置かれている状況はさまざまだ。年齢で一律に制限するのではなく、自立できるようになるまで切れ目なく支援していくことが大切だ。実効性のある運用が求められる。

     年齢上限の撤廃により、施設や自治体が自立可能と判断した時期まで支援を継続できるようにする。施設を出た後のサポート強化のため、相談を受ける拠点整備にも取り組むとしている。

     ただ現行制度でも22歳まで在籍延長はできるが、施設の事情などで退出を迫られる子も多かったとみられる。1人が長く滞在すると新しい子が入れなくなる定員の問題もあり、受け入れ数自体を増やすなど体制拡充が欠かせない。

     さらに十分に時期を見極めて自立しても、つまずいたり、過去の経験を思い出し心身が不調になったりする場合がある。「育った施 設の人をがっかりさせたくない」と相談をためらうケースもあるという。いっでも相談に応じ、寄り添える受け皿づくりが必要だ。

     改正法では、虐待を受けた子どもを親から引き離す一時保護の要否を裁判官が判断する司法審査の制度も導入された。公布から3年以内に施行する。

     親権者の同意がない場合、児童相談所が裁判所に「一時保護状」を請求する。保護開始前か、開始から7日以内に請求し、保護状を出すかどうか裁判官が審査する。

     司法が後ろ盾となり、保護に反対する親を説得しゃすくなる利点がある。一方、書類作成などで職員の負荷がこれまで以上に増す懸念もあり、人員増が求められる。

     虐待対応や家庭支援に高い専門性を持つ認定資格も創設される。携わる人材の質と量をいかに確保するかが問われる。自治体がしっかり取り組めるよう、財政面も含め国の後押しが不可欠だろう。

     全国の児相の児童虐待対応件数は20年度に約20万5千件と過去最多を更新した。支援を必要とする子どもが、だれ一人取り残されないような仕組みづくりをさらに進めていきたい。



    6月9日 市教委 練習過熱 大文字駅伝休止へ

     京都市教育委員会は8日、小学生が市内を走る市小学校「大文字駅伝」を当面の間、休止する方針を示した。公道を使う小学生の駅伝大会は全国的にも珍しく、京都の「冬の風物詩」として長年続いてきたが、練習の過熱化や児童の体に及ぼす悪影響などが指摘されていた。市教委は新たな大会を代わりに実施するとしており、月内に開く検討会議で正式決定する。

     この日の市議会教育福祉委員会で明らかにした。同駅伝は市小学校長会や市小学校スポーツ連盟などの主催で1987年に始まった。2月に開かれ、全市立小が参加する予選を突破した48校の6年生384人が8区間12・385キロを走る。

     市民に親しまれる一方、行き過ぎた練習などが以前より問題になっていた。新型コロナウイルス禍で昨年から2年連続で中止になったのを機に、主催団体が在り方を検討する会議を立ち上げ、検証してきた。

     その中で、予選突破を目標に走力のある児童のみを対象にしたり、一部児童を集めて校外で行ったりするなど練習が過熱している▽指導者間でスポーツ医学の知識に差があり、適切な指導が行われていない例がある▽指導や運営に関わる教職員の負担が大きい―などの課題が挙がった。

     これを受け、市教委は、より多くの児童が負担なく参加できる大会を新設する案を策定。案によると、全校で校内1000メートル記録会を行い、標準記録を突破した児童が参加する大会をたけびしスタジアム京都(右京区)で開くとしている。休止後に駅伝を再開するかどうかは未定という。

     市議会では、課題を問題視した共産党議員から「これを機に休止ではなく終止符を打つことが望ましい」との意見が出る一方、自民党議員は「駅伝は貴重で憧れの舞台。京都マラソンと同時開催ができるのでは」などと再開を求めた。

     子どものスポーツの過熱化を巡っては、全日本柔道連盟が「小学生が勝利至上主義に陥るのは好ましくない」として全国小学生学年別大会の廃止を3月に決めている。


    【インサイド】「やむを得ない」関係者複雑

     大文字駅伝は30年以上にわたり京都市の児童の晴れ舞台であった一方、過度の練習でけがを抱える選手も少なくなかった。関係者は休止を惜しみつつ、「やむを得ない」と複雑な思いをのぞかせる。

     同駅伝は各区の支部ごとに予選が行われ、全市立小と希望する国立、私立、民族学校が参加する。全国都道府県対抗女子駅伝の京都チームや箱根駅伝にも多くの選手が巣立ち、昨年の東京五輪柔道銅メダルの芳田司(上京区出身)らオリンピアンも輩出。基礎体力向上に寄与してきた。

     市内の高校で指導する男性教諭は、小学生時代に本大会を目指して努力した自身の経験を「陸上を始めたきっかけはこの駅伝。京都の強さ、長距離の普及に与えた影響は大きい」と振り返る。だが、指導者になって子どものけがといった弊害も見聞きし、「休止は苦渋の決断だと思うが、仕方ない」としみじみ語った。

     大会への熱は年々高まり、2006年度には京都府医師会の助言を受けて選手の整形外科検診が導入された。携わる森原徹医師は「当初は下肢の痛みを訴える子が多く、中には疲労骨折寸前の子もいた」という。休止方針に「公道を走る経験ができなくなるのは残念だが、けがの予防にはつながるだろう。スポーツを楽しむことを目指してほしい」と期待する。

     休止の背景には教員の働き方改革という流れもある。放課後などの練習に付き添い、本大会には教員だけで700人が携わる。主催団体の一つである市小学校スポーツ連盟の佐野丈夫会長は「今の形では限界が来ているという認識は皆同じだった」と言う。専門性のない教員が教える学校もあり、「指導が過熱しすぎたり、子どもが燃え尽き症候群に陥るという話も聞いた」とも明かした。

     市教委は代替案として各校内や競技場での1000メートル記録会を提案している。過去5度優勝の桂徳小(西京区)の富田博二校長は「大文字を目標にしている子には残念だろうが、代わりの場で努力の成果を発揮してほしい」といい、優勝3度の柊野小(北区)の小林安樹校長は「代替案が子どもたちの目標となれるのか、しっかり見極めていかないといけない」と大人 の側の責務を挙げた。


    かつて「走ることは楽しいこと。友達と一緒でも、おしゃべりをしてでもいい」との方針で指導していた先生がいた。勝つことよりも楽しさを伝えたかったに違いない。市教委はこの大会が過熱化する方向で指導してきたことを反省すべきで、「代替案」ではなく、スポーツの楽しさをどう教えるのかを真剣に考えるべきだ。


    6月4日 政府 女性の経済的自立推進

     政府は3日、全閣僚で構成する『すべての女性が輝く社会づくり本部』などの合同会議を首相官邸で開き、女性活躍推進策をまとめた重点方針(女性版骨太の方針)を決定した。離婚の増加や女性の長寿を念頭に「結婚すれば生涯、経済的安定が約束されるという『永久就職』は過去のもの」とし、昭和から続く税制などの制度の見直し、性別役割分担からの脱却を強調。女性の経済的自立の実現に向けた対策を盛り込んだ。

     時代に合わなくなった制度や意識の改革の必要性を政府の方針で明確にし、間題意識を共有した形。岸田文雄首相は合同会議で「女性の経済的自立を新しい資本主義の中核と位置付け、女性の所得向上につながる施策を強力に進める」と述べた。

     重点方針は、日本の男女共同参画が諸外国より遅れている背景に、昭和に形作られた制度や、男性は外で働き女性は家を守るといった固定的な性別役割分担意識があると指摘。その上で「女性の人生と家族の姿は多様化しており、昭和の時代の想定は通用しない」とした。

     具体策としては、今夏に従業員300人超の企業に男女の賃金差公表を義務付けるほか、比較的収入の高いデジタル分野での女性の技術習得と就労を3年間集中支援する。また年収130万円以上になると夫の社会保険の扶養から外れるため妻が就労を抑制する「130万円の壁」や、配偶者控除などを念頭に、社会保障制度、税制の在ぴ方についても検討すると記載した。


    【解説】「昭和」の慣行 刷新不可欠

     政府の2022年版女性活躍推進の重点方針は、「昭和」の時代につくられた労働慣行や制度、固定的な性別役割分担意識に切り込み、刷新の必要を社会に突き付けた。「こんなことが実行可能なのか」といぶかる声も上がるが、その意識こそ変革するべきものだと訴えたい。

     現在の社会保障制度や税制が想定する家族像は、いまだに「夫が会社員、妻が専業主婦」がペースだ。連合の意識調査では「単身赴任するのは父親」「パートは主婦が家計補助として働いている」など、性別に基づく無意識の思い込みが強くあることが分かっている。

     しかし社会はグローバル化やITの進展で大きく変容した。終身雇用が崩れて働き方が多様になる一方、非正規労働が増加。離婚件数は結婚件数の3分の1に上り、女性の平均寿命は男性を上回る。妻の収入を夫の扶養の範囲内に調整するなど配偶者の経済力に頼る働き方や、男女間の賃金格差は、女性が貧困に陥るリスクを高めている。

     方針は、男性の活躍の場を家庭や地域に広げることも不可欠と言及した。長時間労働や育児休業を取得しづらい雰囲気は、女性だけでなく男性も縛る昭和の鎖とも言える。男性と女性の生きづらさは表裏一体だ。ともに個として自立し、尊重し合える社会づくりの一歩となることを期待する。


    同日の紙面で「出生・婚姻率過去最小に」とある。合計特殊出生率が1・30となったと報道されている。1990年の「1.57ショック」以来一貫してこの傾向は続いている。子育てがしにくい生活環境がほとんど改善されていないとの証左でもあろう。政府の方針はそれなりの見識だとはおもえるが、家族を国の基本単位とし考える自民党の保守層はこれをどう受け止めるのだろうか。


    6月3日 厚労省 10〜14歳 死因1位は自殺

     厚生労働省がまとめた2020年の人口動態統計で、日本人の10〜14歳(10代前半)の死因は自殺が1位となり、2位のがんの約1・5倍に上ったことが分かった。新型コロナウイルス禍での学校の長期休校や外出自粛による、学業や家族不和の悩みなどが要因とみられる。コロナ禍が長引く中、専門家は子どもの自殺対策の強化を訴える。

     今年2月に公表された同統計の20年の確定数によると、自殺した10代前半の子は前年比32人増の122人。この世代の死因の3割近くを占めた。2位はがんで82人、3位は不慮の事故で53人。

     14〜19年の同統計を見ると、10代前半の自殺者は71〜100人で推移。17年にがんの死者数を1人だけ上回り、戦後初めて1位となったが、他の5年間は2位だった。

     日本人の自殺者数は、3万2千人を超えた03年をピークに減る傾向だった。だがコロナ禍を機に20年は増加し、21年は微減で高止まりの状況だ。

     小中学生別のデータがある警察庁の統計では、20年に自殺した小学生は14人(前年比6人増)、中学生は146人(同34人増)。原因・動機は、精神疾患や進路の悩み、学業不振が目立った。

     子どもの自殺の問題に詳しい向笠章子・広島国際大教授は「危機的な状況だ。コロナ禍で長期休校し、行事も中止や縮小に追い込まるなど学校生活が一変した。友人関係が希薄になって孤立しがちな子は多い。『SOSの出し方教育』と同時に、大人がそれを受け止める研修などの予防策を拡充する必要がある」と話している。


    自殺の死因順位が3位までにランク入りしているのは2002年から。この時日本は「失われた10年、20年」のタームが頻繁に語られた時期。子どもが希望を持てなくなったこととも関連しているのか。「SOSの出し方教育」も必要だろうが、個的な問題として理解するだけでは不十分で社会的な構造変化が何をもたらしたのかを見ておかなければならない。


    6月3 日 【時のひと】 府教育長 前川明憲さん

     新型コロナウイルス禍や、急速に進むICT(情報通信技術)化など学校を取り巻く環境が激変する中で、京都府内の教育のかじ取り役を任された。1日にあった就任会見ではICTを活用した授業や新学力テストの導入、府立高の再編や入試制度改革などに取り組むとし、「現場感覚を持ち、子どもの心や学びを感じ取る教育を進めたい」と意気込みを示した。

     スポ根や学園もののテレビ番組を見て育ち、憧れの先生もいたことから教員を志した。府立高で英語教員を20年間務め、生徒指導に長く携わった。「若い頃は一生懸命だったが、一人一人の子どもに寄り添えたかどうか。一方で、やんちゃだった子から卒業時に『先生ありがとう』と言われ、うれしい体験もした」と、教員時代の反省や喜びを施策に生かす考えだ。

     教員の働き方改革が叫ばれる時代。「昔は私も含めて家庭を顧みず子どものために働く時代だったが、これからは先生も魅力的な存在になるため、心や中身を成長させる時間を取る必要がある」と、教員たちに意識改革も迫る。

     府立高の魅力向上に向けては「学校単独ではなく、地域や企業、大学、他の府立高と連携し、強みを相互に発揮できる形をつくりたい」と「連携」を鍵に挙げる。「子どもは未来をつくる宝。ロマンを持って教育行政に携わりたい」

     趣味は読書。歴史ものや京都が舞台のライトノベルを好む。休日はウォーキングを楽しむ。京都市西京区在住。(三村智哉)



    6月2日 HRW 子の閲覧履歴 流用恐れ

     新型コロナウイルス禍で普及が進んだインターネット上の学習支援サービス「エドテック」を巡り、子どもの情報が第三者に渡る恐れがあることが国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)の調査で明らかになった。 HRWは各国政府や企業に子どもの権利を尊重するよう訴えるが、欧米などと違い、日本では未成年者の情報を守る規定が十分でない。専門家は機微な情報を含む教育関連データの扱いには「特別な配慮が必要」と指摘する。

     「ほとんどのエドテック事業者は子どもや親、教師に対し、データを監視していることを知らせていなかった」。HRWは5月に公表した報告書で強調した。

     ウェブサイトの閲覧履歴などは「クッキー」と呼ばれるファイルに記録される。収集された情報は本人が知らぬ間に広告関連企業などに送信され、利用者の関心事に合わせて表示する「ターゲティング(追跡型)広告」に使われる。HRWは「エドテック事業者も広告関連企業も子どもの情報を広告活動のために収集したり、加工したりすべきでない」とくぎを刺した。

     日本では4月、ネット利用者の情報保護などを目的に、改正個人情報保護法が施行。総務省も規制に乗り出し、電気通信事業法の改正案を今国会に提出した。サイトの運営側が利用者の閲覧情報などを外部に送信する際、利用者への通知や同意の取得が必要になる見通し。

     電気通信事業法の改正を巡る議論では経済界から反発もあった。情報収集や活用が制限され、ネット関連企業などの事業に影響が出ると懸念されたためだ。

     総務省の担当者は「何のサイトを見たかを第三者に知られることは通信の信頼を損ねる。中身が個人情報でないとしても利用者の不安をあおるものであってはならない」と強調する。

     ネットを利用する未成年者への配慮として、欧米では子どもの個人情報の収集や利用に当たぴ親や後見人の同意を義務付けている。一方、日本は「電気通信事業法の改正で一歩を踏み出したばかり」(政府関係者)で、議論が活発化しているとは言い難い状況だ。中央大の小向太郎教授(情報法)は、子どもの情報は将来的に意に沿わない利用の危険があるとして「日本でも特別な配慮が不可欠だ」と訴える。

     デジタル教育の環境整備を担う文部科学省の担当者は「個人情報保護法は未成年者も対象にしており、手当てはできている」としつつ「ネットを介した情報の取り扱いの実態を把握した上で、各省庁と連携しながらルールの在ぴ方を検討していきたい」と語った。


    かつて学級名簿が売り買いされていたされていたことがあった。その時の名簿が、結婚や葬儀のダイレクトメールに未だに利用されている。ネット社会ではそんな可愛らしいものではなさそうだ。【参考子のネット学習で 情報収集停止訴え.26コメントより】コロナ禍、「学びを止めるな」との大合唱の中で一気に展開されたGIGAスクール構想。その中で教育現場に大きな混乱が生れた。しかし、デジタル化が十分でない自治体は教育に不熱心だとの誹りを受けている。確かにこれからの教育にはICTやAIの技術がいやがうえにも利用されていくだろうが、その中で失われていく個人の権利があることを知る必要がある。加えて「エドテック」は文科省よりも通産省にイニシアティブがあることを記憶にとどめておこう。。


    6月2日 大学進学率 地域差3倍

     生活保護世帯の高校生の大学などへの進学率について、都道府県別で最大3倍近く地域差があることが1日、分かった。市民団体が厚生労働省の開示資料を分析した。困窮家庭を支援する団体や大学が近くに少ないといった違いによって地域差が生じているとみられる。経済的負担が重いことから全世帯平均に比べて低い進学率の解消に加え、地域差の改善が急がれる。

     厚労省は生活保護世帯の大学進学率の全国平均を公表しているが、都道府県別は発表していない。研究者や自治体の生活保護ケースワーカーらでつくる市民団体「生活保護情報グループ」が厚労省に情報公開請求し、2021年3月時点の大学、短大、専修学校などへの進学率をまとめた。

     厚労省によると、20年3月の全世帯の進学率は73・4%。団体の分析では21年3月の生活保護世帯の進学率平均は39・9%にとどまった。大学や専門学校に通う学生は原則、生活保護世帯の受給対象から除外されることが、進学を妨げる一因になっていると指摘されている。

     生活保護世帯で、進学率が最も高かったのは新潟の49・2%。神奈川48・1%、大阪と石川47・4%と続いた。進学率が最も低かったのは富山で16・7%。三重17・8%、福島19・4%だった。。京都は41・3%、滋賀は20・7%。最高と最低の格差2・9倍は、全世帯の格差最大1・4倍よりも大きかった。

     厚労省は今後、進学率の低い都道府県に聞き取りし、対策に乗り出す方針。団体のメンバーで立命館大の桜井啓太准教授(社会福祉学)は「学校の少ない地域から遠方に進学するには金銭的負担が大きく、学びを諦める要因となる。国は地域の特性に配慮して対応してほしい」と話している。


    政府は骨太の方針2022で人への投資として「高度なデジタル技能を備えた人材を育成する職業訓練や、社会人が大学などで学び直す「リカレント教育」の拡充など」を挙げているが、現実は依然として大都市と地方の格差が存在している。岸田首相の言う「新しい資本主義」はこれにどう答えるのだろうか。


    6月2日 前川府教育長 学びにICT活用 意欲

     1日付で就任した京都府の前川明範教育長(62)が同日、京都市下京区で記者会見し、「子どもたちが『ここで学べて良かった』と思う教育を進めていきたい」と抱負を語った。重点的に取り組むこととして、情報通信技術(ICT)を活用した新しい学びや府立高の再編を挙げた。

     前川氏は「(橋本幸三前教育長時代に策定された)第2期府教育振興フランや府立高校の在り方ビジョンを具体化するのが私の任務」と強調。喫緊の課題として、タブレット端末を使った授業や学力テストなどICT化の推進▽府立高の魅力向上▽子どもの貧困など新型コロナウイルス禍で浮き彫りになった課題への対応―の3点を挙げた。

     府立高に関しては、再編や学科改編、入試制度の改革に着手するとし、「公立高はさまざまな家庭や経済状況の子どもが通う。意見にしっかりと耳を傾けて、地域バランスも考慮しながら進めたい」と語った。

     また20年間、高校の英語の教員をした経験から「私が教員の頃は厳しい校則で学校を維持する必要性があったが、今もそんな校則が必要か点検しなければならない」と述べ、「時代や社会状況に応じて見直すべき課題がある。ICT機器で学びの幅を広げながら子ども一人一人を大事にする教育を進める」と力を込めた。


    「ICT化の推進」は国策でもあるのだが、その功罪をどの程度認識しながら事業を進めるかということが重要だと思える。例えば「タブレット端末を使った授業や学力テスト」における生徒の個人情報をどう保護するのかという問題、あるいは民間教育業者との利害得失はあるのか。など。また、複雑すぎる高校制度をどう分かりやすく、格差が小さくなるように再編するのかも重要な課題だろう。


    6月2日 福西小校舎解体 本会議に委ね 異例の対応に

     閉校した小学校の校舎解体工事契約議案が全会一致で否決されるという異例の事態。京都市教育委員会は、元福西小の跡地に新設される小中一言校について「(開校時期に)影響が出ないよう、できる限りの対応を速やかに検討する」と強調し、新たな事業者の選定を急ぐ。

     市教委は5月26日の報道で、元福西小校校舎解体工事の仮契約を結んでいた「キョウラク」が法人税法違反などの疑いで告発されたと知り、翌27日には同社から経緯を聞き取った。

     本契約に向けた議案は31日の市議会教育福祉委員会の審議を経て、1日の本会議で議決することとなっていた。報道を受けて市教委が市の契約事務規則を検討した結果、市から仮契約の解除を申し出るのは規則上難しいと判断。さらに弁護士に相談したとごろ「仮契約解除や議案取り下げは(同社から)賠償請求されるリスクがある」との見解を示された。そのため議案をそのまま本会議に諮り、全会一致で否決された。

     市教委は今後、否決について地元に知らせ、早急に新たな事業者の選定手続きに入る。


    市の直接的な落ち度ではないにしても、統合を進めてきた地域住民の思いは複雑だと想像できる。理想を市教委から吹聴されそれに同調した人も多かっただろう。信頼回復のためには、開校を遅らせることはできないだろう。


    6月1日 厚労省 子どもの意見 聴取義務化

     保健室に行けば養護教諭が手当てをしてくれるという当たり前の環境が整つていない学校がある。文部科学省は昨年12月、外国人学校の25%に保健室がないとの調査結果を公表した。法制度や財政上の問題が背景にあり専門家は「子どもの健康を守ることは、平等で差別のない基本的人権だ」と環境整備を訴える。

     外国人学校161校の保健衛生に関する文科省の調査では、回答した80校のうち、保健室があるのは60校、養護教諭がいるのは28校にとどまった。学校教育法上、外国人学校の多くは「各種学校」に当たり、学校保健安全法が適用されず、保健室の設置義務がない。

     朝鮮学校は全国に約60校あるが、保健室があるのはわずかだ。常勤の養護教諭がいるのは、2021年度に着任した京都朝鮮初級学校(京都市)だけ。広島朝鮮初中高級学校(広島市)では03〜06年に常勤がいたが、その後無人に。18年からは、養護教諭などの資格を持つ在日コリアンと日本人の3人が交代で週1回、勤務している。

     「アンニョンハシムニカ!」。保健室に男男子高校校生2人の声が響いた。養護教諭の権載淑さん(50)が「学校生活はどう」と尋ねると「ばっちり!」と元気な声。友人関係やサッカー部のことなどを10分ほど雑談した。

     権さんは、雑談や相談に来る生徒が増えていると手応えを感じている。「学校にも相談できる環境が必要。頑張らなくても良いと誰かが言ってあげる必要がある。生徒が常日頃から悩みをケアしてくれると感じてくれたら、うれしい」

     ただ、週に1日しか養護教諭はいない。「予算も人員も毎年瀬戸際。毎日いるのが理想だけど、遠い理想です」。背景には政治的な財政難がある。13年、政府は北朝鮮による拉致問題に進展がないことなどを理由に、他の外国人学校と区別し朝鮮学校を高校無償化の対象外とした。広島県と広島市は12年度から、計上していた計約2千万円の補助金を不支給とした。

     岐阜県大垣市のブラジル人学校「HIRO学園」には、保健室はなく養護教諭もいない。川瀬弘樹事務局長は「養護教諭を1人雇うのは相当な覚悟がいる」と、予算が壁になっていると話した。

     人権問題に詳しい静岡大の山本崇記准教授(社会学)によると、外国人学校は財政が厳しいところが多く「保健態勢を整えたくても手が回らない」のが現状だ。山本氏は「子どもの命を守ることは普遍的な問題」と指摘し、外国人学校の課題やニーズに応じた補助金の支出の必要注を訴えた。



    6月1日 スポーツ庁 休日部活を「地域移行」

     公立中学校の運動部活動改革を検討するスポーツ庁の有識者会議は31日、2025年度末を目標に休日の部活指導を地域のスポーツクラブや民間のジムなどに委ねる「地域移行」を実現すべきだとする提言を了承した。少子化の進展に加え、教員の長時間労働解消が喫緊の課題で、学校単位での運営は困難になると判断。多様な世代が参加できるスポーツ環境の整備を提唱した。

     山間部や離島を除き、23〜25年度を「改革集中期間」に設定。自治体には、実現への行程をまとめた推進計画の策定を求めた。指導者や練習場所が確保しやすい休日から進め、問題点を検証し平日での実現につなげる。

     スポーツ庁は、来年度予算の概算要求に自治体を支援する事業を盛り込むなどして計画を後押しする方針。

     提言が受け皿に想定するのは、スポーツ少年団やクラブチーム、民間事業者など。主に地方で指導者不足が予想され、競技経験のある住民や保護者らが資格を取得して指導できるよう研修を充実させる。部活顧問を務めてきた中学教員も、希望すれば兼職兼業の許可を得て従事できるとした。

     会費などの家計負担が学校の部活より重くなるとみられ、地元企業に資金協力を呼びかける他、地域団体が学校施設を低額利用できる支援を国と自治体に要求した。特に困窮世帯の子どもが参加できるような費用補助が必要だと訴えた。

     現在は、競技結果が高校入試のアピール材料になるとの過度な期待があると指摘。運営が中学から離れるのに伴い、入試は競技成績だけでなく意欲を含めた多面的評価に変更すべきだとし、評価方法の明示も求めた。

     一方、高校における部活改革は、義務教育ではないため各校の実情に応じて検討することとした。文化庁の有識者会議は公立中の吹奏楽や合唱など文化系部活の地域移行について7月に提言をまとめる予定。

     スポーツ庁の室伏広治長官は31日の会合で「多様な活動ができる環境を整備し、格差を解消する必要もある」と述べた。


    費用増を保護者懸念

     少子化と働き方改革を背景に、長く学校が担った中学生の部活動が変革期を迎えている。スポーツ庁の有識者会議は31日、休日から地域へ移行すべきだとの提言を了承。ただ、指導者確保など課題は多く、簡単には進まないというのが関係者の共通認識。「持続可能な部活」へのシフトには保護者や住民、行政などの協力が不可欠となりそうだ。

     「土日はどうせ部活でしよ」。栃木県の公立中の40代男性教諭は、週末の予定を話し合う妻と娘から何度もこの言葉を聞かされてきた。スポーツ庁が2018年に「週休2日以上」の部活動ガイドラインを公表する少し前までは休日返上が当たり前。今も土日の両方がサッカー部の練習でつぶれることがある。

     採用から約20年、経験のない競技の顧問になってルールを学ぶのも負担だった。教諭は「授業のプリントを何年も使い回してきた。今後は教材研究に充てる時間が確保できそうだ」と期待する。

     文部科学省によると、06年度に公立中の教員が土日の部活に従事した時間は1日平均1時間6分。それが、16年度は2時間9分に倍増した。過酷な労働実態は教職人気の低下にもつなかっており、同省は抜本改革へとかじを切った。

     「何か問題が起きた際に責任が取れるのか」「新たに保険加入の必要がある」―。学校関係者の心配は尽きない。子どもの競技成績や母校の伝統に執着する保護者が、改革への障壁になるとの指摘も少なくない。

     スポーツ庁によると、民間団体の運営では、指導や保険の費用が従来より1人当たり年間約1万7千円高くなるとの試算がある。静岡県掛川市教育委員会が21年に実施した調査では、地域移行に反対すると答えた中学生の保護者のうち47%は費用負担を理由に挙げた。

     日本部活動学会長を務めたことのある長沼豊・元学習院大教授は「保護者は、部活が教師の善意に支えられてきたと理解しなければならない。年月をかけてできあがった仕組みを壊すのは容易ではないが、教育委員会だけではなく自治体全体で議論することが重要だ」と指摘した。


    【インサイド】外部指導者確保に課題

     スポーツ庁は、部活動の地域移行に向けた実践研究として、2021年度から全国でモデル事業を委託して展開している。京滋でも主に休日の活動を対象に、京都府が舞鶴市と京丹波町、滋賀県は彦根市と米原市の2自治体をそれぞれ指定、京都市も松原中で取り組んできた。

     舞鶴市では、総合型地域スポーツクラブを核に指導者の人材バンクを設立し、剣道などで市内7中学の生徒が参加できる練習会を開催した。京丹波町では、和知中が多様なスポーツ体験を試みる「フリースポーツ部」を設置示規模校で生徒がスポーツに触れる機会を確保する方策を検討した。京都市の松原中はバスケットボールなどで休日の練習の一部に外部の指導者が入った。

     滋賀では、米原市が伊吹山中で卓球とホッケーの外部指導を実践。彦根市の稲枝中では、五つの部活動で休日練習を外部に委託し、本年度はさらに二つの部を追加した。いずれも以前から外部指導者を活用してきた実績がある地域だった。稲枝中で10年間卓球を教えてきた中川正幸さん(57)は「平日は仕事を持っている指導員も多い。場合によっては平日に大会へ帯同するなど負担は大きく、職場の理解を得るのも大変。どれだけ人材を確保できるか。また、今でも顧問の先生は土日に顔を出しており、なかなか働き方は変わらないと思う」と、地域移行実現への課題を語る。


    部活に外部指導者を導入し地域移行を図ることは歓迎すべきこと。経済格差が教育格差につながるとの指摘があるように、部活動にも経済格差が影を落とすことは当然予想される。日本型学校教育が私費によって支えられてきた歴史からすればそれも当然のことかもしれないが、防衛費の増額を検討する前に政府の教育支出がGDP比で世界の最低ラインであることを認識する必要がある。