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ロシア社会 漂う閉塞感(5/22)

原発攻撃「国の課題」(5/23)

緊急的再稼働 積極賛同なし(5/23)

市民殺害ロシア兵終身刑(5/24)

ロシア軍が「人間の盾」(5/24)

動物園 侵攻耐え再開(5/24)

侵攻3か月 長期化様相(5/25)

ロ外交官 抗議の辞任(5/25)

「プーチンを信じるな」(5/26)

核禁会議にNATO2国(5/27)

「また侵略される」強い危機感(5/28)

難しい戦争の終わらせ方(5/28)

ロシア兵家族に「死亡宣告」(5/30)

19歳負傷兵の複雑な思い(5/31)

防衛より福祉に予算を(5/31)

ロシアに広がる反戦の声(5/31)

対ウクライナ領土妥協案(6/2)

トルコ、シリアで軍事作戦の構え(6/3)

侵攻が食料危機に拍車(6/7)

プーチン氏、地球を人質に(6/9)

戦火の文化財 保全の危機(6/10)

戦争の終わらせ方(6/14)

大帝なぞらえ 侵攻正当化(6/15)

ICAN 日本出席見送り(6/16)

対ロ制裁に対抗 軍備増強(6/18)

欧州分断工作 極右とも連携(6/19)

モスクワ60代女性の手記・第7信(6/21)

消耗戦 武器不足で脱走(6/23)

侵攻4ヶ月 死傷者急増(6/24)

ロシア 最低限目標届かず(6/24)

温暖化対策 侵攻で岐路に(6/28)

穀物高騰 迫る食糧危機(6/28)

トルコ「脅迫外交勝利」(6/30)

平和外交で戦争防げ(7/5)

ロシア貨物船 トルコが調査(7/5)

地雷・不発弾、市民に脅威(7/7)

リビウの精神科 患者2.5倍(7/13)

ロ、占領原発を基地化(7/13)

米支援兵器、流出疑い(7/16)


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ロシア社会 漂う閉塞感(2022/5/22 京都新聞)

 ロシアのウクライナ侵攻開始から24日で3ヵ月。国際的非難を浴びる「侵略国」の側になったロシア社会は一時の衝撃が去り、表面的には静かだ。だが予想もしない戦闘長期化への驚きと不安は広がっている。日米欧の制裁で物価は急騰。経済の一層の悪化が予想されるが、政権批判は封じられている。「これから何が起きるのか」。人々は息を潜めているようだ。

 花が咲き、緑がもえる5月はモスクワが1年で一番美しい季節だ。だが今年は春の喜びがよそよそしく、閉塞感が漂う。雪の2月に突然始められた「特別軍事作戦」にはまだ終わりが見えない。

 偉大な詩人の銅像が立つ市中心部のプーシキン広場。春本番に伴い噴水が再開され、休日には大勢の市民がそぞろ歩く。

 だが一角には鉄柵に囲まれた機動隊の大型車両が並び、集会の動きがあればいつでも広場を閉鎖できるよう待機。自動小銃を肩から下げた警官が目を光らせる。足早に通り過ぎる人も多い。ロシアの人権団体「OVDインフォ」によると、反戦デモに参加して拘束された人はこれまで1万5千人超。侵攻直後にはデモが各地で開かれたが、最近は見かけない。

 「奇妙な戦争だ」。軍務経験がある年金暮らしの60代男性は首をかしげる。「発表では敵の兵器を毎日大量破壊しているのに、まだ続いている」

 事実上政権の支配下にある三大テレビ局は通常放送を変更し、プーチン大統領与党議員や保守派の政治評論家らが登場するウクライナ情勢の討論番組を朝昼晩と放送。バラエティー番組は消えた。司会者らはウクライナのゼレンスキー政権を「ネオナチ」と批判し、ロシアの正しさを訴える。男性は「もううんざり。全然見ないね」。

 市内に住む20代の男性会社員は浮かない顔で話す。「学生時代の友人の何人かは勤めていた会社の撤退に合わせて英国やドイツ、イスラエルに去った」。2月の侵攻開始は若い世代には衝撃だった。「何のための作戦なのか理解できない」。自分は家族がいて出国は考えられない。今は、これからどうなるのかが不安だ。

 侵攻開始直後に市内のスーパーや小売店ではコメや砂糖が売り切れた。今は不足の商品はないが、50ルーブル(約100円)だった黒パンは60ルーブル、人気のドイツ製歯磨きは320ルーブルから450ルーブルに。今年のインフレ率は20%との予想もある。

 5月9日の対ドイツ戦勝記念日。プーチン氏は「祖国の将来のために戦っている」と軍を称賛した。今年は9日の後も、戦勝の象徴である黒とオレンジのリボンを飾ったままのビルや店舗が多い。4月末の世論調査では軍事作戦「支持」が74%。政権への信頼は大きく変わっていない。

 その一方、地域の徴兵事務所が火炎瓶で放火される事件がオムスク、ボルゴグラードなど各地で相次ぐ。モスクワの主婦(48)は作戦がさらに長引けば、大学生の息子が招集されないか気がかりだ。「一体、何を手に入れたら終わるの」。不満が募る。

 侵攻に反対する野党ヤブロコのヤブリンスキー元代表は「現政権の世界観はまるで19世紀。現実世界とかけ離れている」と批判する。だが党は昨年の下院選でも議席ゼロ。主張を伝えるメディアは存在しない。(共同)


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原発攻撃「国の課題(2022/5/23 京都新聞)

 ロシアによるウクライナ侵攻で運転中の原発が攻撃されたことを受け、共同通信は21日までに、日本国内の原発防護態勢に対する考えを、立地する13道県と原発を持つ電力11社(建設中を含む)に取材した。原発の安全対策が武力攻撃を想定していない現状について、ほぼ全ての道県が国で検討すべき課題だとの考えを示した。

 電力各社も「外交上、防衛上の観点から国が対処する課題」などとし、自主的に対策を取るとした社はなかった。史上初めて現実となった原発攻撃という事態に加え、北朝鮮の相次ぐミサイル発射実験などで安全保障上の懸念が高まる中、国レベルの広範な議論が求められそうだ。

 武力攻撃への対応については、福井県が「国において(原子炉等規制法や国民保護法といった)関係法令などの内容を検証し、その結果と対応方針を明らかにすべきだ」としたほか、「国民の不安や懸念が高まっており、国が明確な説明責任を果たすべきだ」(茨城県)など、国に検証と説明を求める声が目立った。

 宮城県は「武力攻撃への対応は、国において外交および防衛の観点から検討すべき事項」、石川県も「原子力規制や原子力防災の範躊の問題を超えており、国全体の防衛体制の中で検討すべきだ」とした。

 佐賀県は「そもそも武力攻撃のような事態に陥ることがないよう、国には外交などのあらゆる努力をしてほしい」とした上で「国防の観点からから国が漬任を持って検討してほしい」と答えた。

 島根県は「現在の日本は、物理的にミサイルを撃たれる状況にあるからといって、撃たれることを前提とした社会経済体制を取ってはいない。今回の侵攻は国際秩序に対する挑戦であり、国際社会が結束して断固たる対応を取ることを通じて秩序維持を図り、堅持することが重要」と訴えた。

 取材は3〜4月、質問票を送付して回答を得た。新規制基準で武力攻撃を「想定するべきだ」「想定になくてよい」との選択肢を示したが、どちらかを選んだ自治体や電力会社はなく、全てが自由記述で答えた。


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緊急的再稼働 積極賛同なし(2022/5/23 京都新聞)

 原発立地13道県への取材では、ロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギー供給不安から、自民党などに停止中の原発の緊急的な再稼働を求める意見があることに関しても見解を尋ねた。「緊急的な対応が必要だ」との回答を選んだ自治体はなく、積極的に賛意を示す意見記述もなかった。

 「緊急的な対応は必要ではない」を選択し、明確に反対したのは静岡県だけだった。同県は、その理由を「原発の再稼働については、本来、安全性を基準に議論すべき問題であり、エネルギー・需給の観点から議論するものではない」とした。

 自由記述では、北海道、青森、宮城、石川、福井、佐賀の6道県が「政府において、立地地域の安全を第一に考えて検討すべきだ」(福井)など国の検討課題だとの考えを示した。

 電力11社は、同じ質問に「申し上げる立場にない」などと回答した。

 原発の緊急的な稼働に関しては、自民党の議員連盟が3月、原発の新規制基準で義務付けられたテロ対策施設の設置期限を見直し、施設が未完成でも稼働できるようにすることなどを要請した。規制委の更田豊志委員長は「(東京電力福島第1原発事故の反省から)安全への妥協は許されない」と述べ、運用を見直さない考えを示している。

 国内の原発では、関西電力の美浜3号機と高浜1、2号機(いずれも福井県)が、テロ対策施設が未完成のため運転を停止している。九州電力は、玄海3、4号機(佐賀県)の施設完成が8〜9月の期限に間に合わないため、定期検査での運転停止期間を延長することを決めた。関電大飯3、4号機(福井県)も8月の期限までに完成しなければ稼働できなくなる。


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市民殺害ロシア兵終身刑(2022/5/23 京都新聞)

【キーウ共同】ロシアのウクライナ侵攻後、非武装の民間人を銃殺したとして戦争犯罪で初めて訴追されたロシア軍兵士ワディム・シシマリン被告(21)に対し、ウクライナ首都キーウ(キエフ)の裁判所は23日、求刑通り最高刑となる終身刑の判決を言い渡した。被告側は上訴する方針。

 ウクライナがロシアによる戦争犯罪の追及を本格化させる中、初の判決となった。被告は起訴内容を認めていた。判決によると、シシマリン被告は2月28日、北東部スムイ州の村で自転車に乗っていた非武装の民間人男性(62)に発砲して殺害。ロシア軍の存在を通報されないようにするのが目的だった。

 被告の弁護士は判決後、記者団に、被告は命令に従い、殺意がなかったこと、自ら投降し捜査に協力してきたことが考慮されていないとして近く上訴する方針を示した。被告は丸刈り頭に青とグレーのパーカ姿で出廷し、ガラス張りの小部屋で終始うつむき、ロシア語の通訳を介して判決を聞いていた。


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ロシア軍が「人間の盾」(2022/5/23 京都新聞)

【キーウ共同】ウクライナ検察は22日、ロシア軍が北部チェルニヒウ州に侵攻した3月、占拠した学校の地下室に住民350人以上を約1ヵ月間にわたり閉じ込め、ウクライナ側から攻撃を受けないよう「人間の盾」として使っていたと発表した。劣悪な環境で高齢者には死者も出たという。国際刑事裁判所(ICC)と共に戦争犯罪の証拠を収集している。

 ウクライナ検察によると、チェルニヒウ州のヤヒドネ村に侵攻したロシア軍は学校に司令部を置き、3月3日から同31日まで地下室に住民を閉じ込めた。地下室は約200平方メートル。閉じ込められた住民には約80人の子どもが含まれ、生後間もない乳児や93歳の高齢者もいた。狭く不衛生な環境で食料や水が不足し、高齢者10人が死亡したという。検察によるとこの村で住民7人が射殺され、ロシア軍は家を破壊し、電化製品を略奪した。

 ロシア軍は3月末から4月初旬にかけてチェルニヒウ州や首都キーウ(キエフ)周辺の地域から撤退した。ウクライナ検察はロシアの戦争犯罪が疑われる事案が1万3千件以上あるとしている。


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動物園 侵攻耐え再開(2022/5/24 京都新聞)

 ウクライナに侵攻したロシア軍に一時占領された首都キーウl(キエフ)北郊の村で5月中旬、動物園が営業を再開した。上空をミサイルが飛び交い、園内にロシア兵が入ってきたが、施設はほぼ壊されず多くの動物も無事だった。客足はまだ鈍いが、ミハイロ・ピンチユク園長(50)は「動物も私たちも生き続けなければ」と語った。

 キーウから北に約30キロのデミディフ村にある「公園12ヵ月」は国内最大級の私立動物園として2015年にオープンした。サイやキリン、チーターなど約300種頚の動物がいる。

 デミディフ村では、キーウ中心部を目指すロシアの進軍を止めるため、ウクライナ軍が橋や川沿いのダムを破壊。動物園がある一帯は孤立状態となった。餌や発電機の燃料が底を突きかけ、ピンチュクさんは「動物たちが飢えと寒さで死んでしまう」と恐れた。

 ロシアの戦車が周囲を行き交う中、動物園の近くに住む職員数人が毎日出勤し、餌の量を減らしながら世話を続けた。

 動物園ではサルや鳥が死んだ。鳴りやまない爆発音のストレスが原因とみられる。「職員に被害が出なかったのは奇跡」と語る。東部ハリコフの動物園では、ロシア兵に職員2人が銃撃されて死亡したと伝えられた。

 2月下旬に侵攻したロシア軍は4月上旬までにキーウ近郊から撤退した。侵攻を受けて多くの女性や子どもが国外に避難しており、営業再開後の客はまばら。ピンチユクさんは「戦争は長引くかもしれないが、必ず戻ってきてくれると信じて待っている」と語った。  (デミディフ共同)


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侵攻3か月 長期化様相(2022/5/25 京都新聞)

【キーウ共同】ロシアのウクライナ侵攻から24日で3ヵ月となった。停戦交渉が頓挫し戦闘が長期化の様相を呈する中、双方が「戦争犯罪」を訴追する動きを加速させている。ウクライナ側は戦争犯罪の疑いのある事案1万3千件以上を把握しているとし捜査を本格化。ロシア側は、制圧した要衝マリウポリの製鉄所から投降したウクライナ兵捕虜を裁く国際戦犯法廷を開ぐ構えを示した。

 ウクライナの首都キーウ(キエフ)の裁判所は23日、非武装の民間人を銃殺したとして戦争犯罪で初めて訴追されたロシア軍兵士ワディム・シシマリン被告(21)に、求刑通り最高刑となる終身刑の判決を言い渡した。

 ウクライナのベネディクトワ検事総長は23日、別のロシア兵ら48人の戦争犯罪を問う公判も開かれるとの見通しを明らかにした。

 マリウポリのアゾフスターリ製鉄所では2千人を超すウクライナ部隊が投降。ロシア側は、その大半を占める内務省系軍事組織「アゾフ連隊」について親ロ派住民に残虐行為を行ったと非難する。

 インタファクス通信は23日、同連隊の戦争犯罪を追及する法廷がマリウポリで開かれるとの消息筋の話を伝えた。ロシアのルデンコ外務次官もウクライナ人捕虜に対する「国際法廷が必要だ」と述べた。

 「国際法廷」の詳細は不明だ。

 ウクライナでは国際刑事裁判所(ICC)もロシアによる戦争犯罪の可能性を捜査。だが23日に判決を出した公判は、ウクライナ刑法と国際法に基づくとしながらも国際裁判の形式は取つていない。被告の弁護士はウクライナ社会からの圧力を受けた不当に重い判決だと批判した。


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ロ外交官 抗議の辞任(2022/5/25 京都新聞)

【ジュネーブ共同】国連欧州本部があるスイス西部ジュネーブ駐在のロシアの外交官が、自国によるウクライナ侵攻に抗議し辞任したことが23日、分かった。関係者によると、辞任したのは軍縮会議ロシア代表部で参事官を務めていたボリス・ボンダレフ氏(写真、本人提供・AP共同)で、外交官生活20年のベテラン。

 ロシア外務省について「主戦論を唱え、うそと憎悪だけになっており、外交の役割を果たしていない」と指摘した。比較的高位の外交官の辞任に波紋が広がっている。

 ボンダレフ氏は23日に出した英文の声明で「プーチン(大統領)が引き起こしたウクライナ、そして全ての西側諸国に対する侵略戦争は、ウクライナ人、そしてロシア国民に対する犯罪でもある」と痛烈に批判。自国の外交政策の変遷は見てきたが、今回の侵攻ほど「恥ずかしいと感じたことはない」と表明した。

 ボンダレフ氏は「ロシアを孤立化させ、名誉を傷つけているだけだ」と非難した。


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「プーチンを信じるな」ウクライナ前大統領(2022/5/25 京都新聞)

【キーウ共同】ウクライナのポロシェンコ前大統領は24日、軍事侵攻を巡るロシアとの交渉について「プーチン(大統領)は危険な交渉相手だ。信じてはいけない」と警告、交渉による解決は極めて困難だと強調した。ウクライナの戦力増強がロシアを「止める」と述べ、国際社会にさらなる武器支援を求めた。首都キーウ(キエフ)で共同通信と単独会見した。ウクライナのゼレンスキー大統領は「交渉のテーブル」での領土回復に言及、話し合いによる解決に含みを持たせている。しかしポロシェンコ氏は2014〜19年の大統領在任中にロシアと交渉を重ねた経験から、プーチン氏は「約束を決して守らない」と語った。

 14年から政府軍と親ロ派武装勢力が交戦した東部での紛争に関する交渉でプーチン氏は捕虜解放や停戦部隊の撤退を何度も約束しながら、果たさなかったと説明した。

 侵攻から24日で3ヵ月となり、女性や子どもが「ウクライナ人であるというだけで殺されている。ジェノサイド(民族大量虐殺)だ」と非難。プーチン氏は国際刑事裁判所(ICC、オランダーハーグ)で裁かれるべきだと訴えた。

 ポロシェンコ氏は野党「欧州連帯」を率い、ゼレンスキー氏の政敵だが、今は「結束が必要だ」と強調。武器支援の拡大は戦況の流れを変える「ゲームチェンジャーになる」と述べた。国際社会がロシア産石油やガス禁輸などの制裁で圧力を強化し、プーチン氏を「孤立させる」必要があると主張した。’

 ロシア側が南東部マリウポリで投降したウクライナ兵士らを訴追する可能性を示していることについては、マリウポリはウクライナの都市であり「ロシアに司法権はない」と批判した。

 また「多くの日本人がウクライナの勝利を日本の勝利と考えている」と話し、日本の支援に謝意を表明した。ロシアが14年に強制編入した南部クリミア半島を含むウクライナの領土の回復は、日本の北方領土回復にもつながると語った。


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核禁会議にNATO2国(2022/5/27 京都新聞)

【ウィーン共同】北大西洋条約機構(NATO)加盟国のドイツとノルウェーが、6月の核兵器禁止条約第1回締約国会議へのオブザーバー参加を決めたことが26日、分かった。既に参加手続きを取ったとみられる。軍縮筋が共同通信に明らかにした。ロシアのウクライナ侵攻で核危機が深まる中、NATOの核抑止力に国防を依存しながらも、廃絶を目指す軍縮推進派諸国と協調を図る姿勢を示した。

 唯一の被爆国である日本は「核なき世界」を掲げる一方、23日の日米首会談では米国の核抑止強化を確認。広島、長崎の被爆者らが求めるオブザーバー参加にも消極的姿勢を崩していない。

 米国の核戦力を基幹とするNATOは、核禁止条約に反対の立場。同会議への参加阻止を図る米国は加盟国に強い圧力をかけてきた。ドイツは昨年の政権交代の際にオブザーバー参加の方針を示していたが、ウクライナ情勢を受け、方針変更を危ぶむ向きもあった。

 関係筋は、ドイツは核禁止条約締結を予定しておらず「会議参加とNATOは必ずしも矛盾しない」とし、核廃絶という長期目標への動きだと指摘。核の非人道性に警鐘を鳴らしてきたノルウェーと大国ドイツの参加が決まったことで、軍縮議論が活発化しそうだ。

 ロシアと近接、今月18日にNATO加盟を申請した北欧フィンランドとスウェーデンも締約国会議へのオブザーバー参加を既に確認。ドイツとノルウェーを加えた4力国は、同会議前日の「核の非人道性に関する国際会議」にも出席の見通し。

 締約国会議は6月21〜23日にオーストリアの首都ウィーンで開催予定。被爆者や核実験の被害者の支援策を策定、核廃絶を訴える宣言を採択する計画だ。米英仏中ロの核保有国は条約に反発し不参加。日本やNATO加盟国の多くも同調している。

【インサイド】ロシアの脅し、危機感高まる

【ウィーン共同】米欧の核の同盟、北大西洋条約機構(NATO)加盟国のドイツとノルウェーが核兵器禁止条約第1回締約国会議へのオブザーバー参加を固めた背景には、安全保障の要とする核がもたらす非人道的で、壊滅的な破壊への強い懸念がある。

 ウクライナに侵攻したロシアのプーチン大統領は核兵器使用の脅しを重ねる。北朝鮮の核問題が深刻化する北東アジアだけではなく、欧州でも危機感が急激に高まった。NATOの抑止力に期待も膨らむ半面大量の核ミサイルを欧州で突きつけ合った東西冷戦時の恐怖の記憶は濃く軍縮を求める世論は今も根強い。

 同盟の結束を重んじる米国やNATOは、加盟国内のオブザーバー参加に向けた動きをけん制してきた。NATOの「核共有」の仕組みの下、米戦術核が配備されている5か国の一つドイツには、特に神経をとがらせていたのが実情だ。

 核軍縮停滞が長引く中、米国とロシア、中国の核保有国同士の対立は激化し、核戦力の増強が加速。核軍縮を求める非核保有国は危機感を募らせていただけに、ドイツのオブザーバー参加を歓迎。軍縮筋によると、他のNATO加盟国内でも、参加を巡る議論が続いているという。


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「また侵略される」強い危機感(2022/5/28 京都新聞)

 「ソ連はかつてこの国を侵略した。加盟しなければまたやられる」。ロシアとの国境に近いフィンランドの町で男性が語気を強めた。ソ連と2度にわたり戦火を交えた国内には戦争の悲惨な記憶が残る。ウクライナへの侵攻後、ロシアの脅威に対する危機感は強まり、北大西洋条約機構(NATO)加盟を支持する原動力に。一方、隣国への懸念と配慮のはざまで揺れ、複雑な感情を抱く住民もいる。

 ロシアと約1300キロの国境を接するフィンランド。ラッペンランタはロシア国境から約20キロに位置する。1939年、ソ連がフィンランドに侵攻した「冬戦争」では防空壕が空爆され、30人が死傷した。町の中心部には空爆犠牲者を悼む記念碑も建てられている。

 「侵略抑止のためNATO加盟に賛成だ」。この町で生まれ育ったティモ・レピストさん(69)が強調した。冬戦争で北部の前線に送り込まれたレピストさんの母方のおじは、ソ連軍の捕虜となり強制収容所に送られた。41年に始まったソ連との「継続戦争」を経て、第2次大戦終結後にようやく解放されたという。

 「ロシアの行動は予測不能で、国境に近いのは良いことではない」。生後10ヵ月の娘を連れて散歩していた父親ラウリ・ハーパマキさん(32)が緊張感を見せた。ウクライナ侵攻のニュースを見て「少しパニックになった」といい「NATOは安全を保障してくれるはず」と期待した。

 一方で、町の人口約7万3千人のうち、約3300人がロシア系住民。ロシア表記の看板やレストランのメニューをちらほら見かける。欧州連合(EU)による経済制裁が科された今もロシアのビザ(査証)を発行する施設は稼働しており、国内でもロシアとの結びつきが強い町の一つだ。

 主婦のリスアン・ブロディソントさん(44)はNATO加盟を支持しながらも、ロシアと共存してきたことに触れ「これまで両国が築き上げてきた関係を損なわないでほしい」と胸の内を明かした。町ではロシア系住民への配慮からか、NATO加盟の是非やロシアとの関係について尋ねても、口をつぐむ人は少なくなかった。(ラッペンランタ共同=伊東星華)


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【土曜評論】難しい戦争の終わらせ方(2022/5/28 京都新聞)

防衛省防衛研究所主任研究官 千々和 泰明

 ウクライナに平和を。これが多くの人びとの願いであろう。それにもかかわらず、「戦争の終わらせ方」を筋道立てて論じる機会は少ない。

 特に戦後の日本では、「戦争をいかに防ぐか」に関心が集中し「不幸にして始まった戦争をいかに収拾するか」を考える「戦争終結論」が軽視されてきたからであろう。

 戦争終結には大きく二つのかたちがあると考える。一つは「紛争原因の根本的解決」である。交戦相手を徹底的にたたきのめし、将来の禍根を絶つ。第2次大戦において連合国がドイツに対して取った態度だ。

 もう一つが「妥協的和平」である。将来に禍根を残すかもしれないが、妥協を通じてその時点での犠牲を回避する選択だ。1991年の湾岸戦争において米国主導の多国籍軍はイラクのフセイン体制の延命を許すかたちで、多くの犠牲が見込まれる首都バグダッドへの進軍を避けた。

 戦争終結がどちらの方向に転ぶかは、優勢勢力側が「将来の危険」と「現在の犠牲」のどちらを重視するかで決まる。今犠牲を払ってでも将来の危険を除去するか、犠牲を回避して危険と共存していくかの選択といえる。ここに戦争終結の難しさがある。

 なお優勢側の視点に立つのは、戦争がパワーとパワーのぷつかり合いだからだ。もちろん、劣勢側の出方によっては「将来の危険」と「現在の犠牲」のバランスを巡る優勢側の評価が左右される場合があり、両者の相互作用が生じる。

 この論理をウクライナでの戦争に当てはめてみると、当初ロシアは首都キーウを陥落させ、ゼレンスキー政権を打倒し、かいらい政権を樹立するつもりだったとされる。「紛争原因の根本的解決」の極である。

 この背景には、過去のジョージア侵攻やクリミア併合でロシア軍が少ない「現在の犠牲」で勝利できたことがあったと考えられる。一方の「将来の危険」は、現実のものというより、プーチン大統領独自の世界観に根差しているようだ。

 ここで劣勢側には、屈服するか、抵抗するかの選択があり、ウクライナは後者を選んだ。このためロシア側の「現在の犠牲」が増大することになり、ロシアは当初の目的をいったん棚上げして、ウクライナ東部・南部の確保に集中することになった。

 この戦線でウクライナ側がどこまでロシア軍を押し返し、ロシアにとっての「妥協的和平」の方向に持っていけるかが焦点である。

 ウクライナ側にとっても、「将来の危険」と「現在の犠牲」のどちらを重視するかは本来難しい選択だ。ただ、ウクライナは主権と独立を守る覚悟を決め、かつ西側の支援を得ている。さらに、ロシア軍との戦闘による「現在の犠牲」を避けるために降伏すれば、ブチャであったような虐殺や、強制連行といった大きな「将来の危険」に直面することがはっきりした。

 戦争終結論の論理からは、ウクライナが早期に降伏すべきだ、とする示唆は出てこない。そもそも戦争は単に早期に終結すればよいというわけではない。大切なのは、どのようなかたちでの終結か、である。


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ロシア兵家族に「死亡宣告」(2022/5/30 京都新聞)

 その音声動画は電話を取る音で始まる。「大変残念ながら、息子さんが戦死しました」。ロシア軍幹部をまねた声色で告げると、電話口の母親が絶句した。「何かの間違いでは」。すがる父親に「勇敢に特別軍事作戦を完遂した。どうぞ泣いてください」と寄り添う。父母は取り乱し、おえつがいつまでも響いた―。

 ウクライナ侵攻に参加したロシア兵の両親や妻に電話し、うその死亡宣告でだます動画だ。インターネットに多数投稿されている。悌倅する人をあざ笑う内容だが、オンラインで取材に応じた投稿主のウクライナ人男性に罪悪感はない。「侵略者のくせに自分勝手に泣く。ウクライナはロシアをもっと憎まないといけない」。動画投稿の目的は広告収入ではなく、憎悪をあおるためだと語った。

 投稿主は35歳のエフゲニー・ウォルノフと名乗った。ロシアの猛攻撃が続く東部ドネツク州出身で、今は首都キーウ(キエフ)のアパートで1人暮らし。2月の侵攻開始後、ロシア兵の家族への電話を始め、既に300回以上かけた。録音した動画を連日のように交流サイト(SNS)で配信し、チャンネル登録者数は12万6千人を超えた。

 電話では、ロシア軍司令部の「チェルノバエフ少佐」と自己紹介する。ロシア軍がウクライナの反攻に遭った村の名前をもじった皮肉だ。巧みなロシア語の話術で相手を信じ込ませる。

 「首と足がもげた卜「戦車ごと燃え、遺体は残らなかった」。むごい表現を、あえて使う。虚偽だとばれると一転して「くそ女」「うそつき野郎」と相手をののしることも。興奮し、憤る相手とのやりとりを通じ「ロシア人の本性を伝えている」と自賛する。

 相手の電話番号の入手方法については「当局にコネがある『親切な人たち』が提供してくれる」とだけ明かした。兵士の名前や実際に戦死したかは知らない。相手にはロシア国内からの発信のように表示されるよう、細工もしている。

 動画への反応を、キーウの街中で市民に尋ねた。「暗くなっていた気持ちが、すっとした。もっとやってほしい」「ロシア人が(戦争の現実を)何も理解していないと分かった」。多くの人が肯定的に受け止めていた。一方、プログラマーのドミトロ・シャライフさん(31)は「悪に対する悪。子どもには見てほしくい」と話した。

 投稿主は「ウクライの被害と比べたら、やり過ぎだとは、ちっとも思わなと悪びれない。ロシア兵を止めない家族も「共犯者」だと考えるからだ。動画は、電話を切った投稿主の高笑いで終わる。(キーウ共同)


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19歳負傷兵の複雑な思い(2022/5/31 京都新聞)

 ウクライナ兵のダニル・メルヌイクさん(19)は体をベッドに横たえ、遠くを見つめていた。両足を失い、完全な指は右手の薬指のみ。ロシアへの怒りが湧き上がるが、同時にある記憶がよみがえる。「神のご加護を」。そう声をかけ、ロシア軍の若い衛生兵が十字架のネックレスをかけてくれた。「全員が悪魔ではない」。複雑な思いが交錯する。

 ウクライナ西部ベリーキーリュービンの国立リハビリセンター。戦闘で手足を失った数十人の兵士が義手や義足の使い方を学び、社会復帰を目指している。

 陸軍学校を2月に卒業し、すぐに中隊に配属された。首都キーウ(キエフ)近郊ブチヤに進軍した3月6日、装甲車の上にいたところ、塹壕から飛び出てくるロシア兵が見えた。「虚を突かれた」。巨大な爆発音が響き、破片が左腕と右指をずたずたにした。3日逃げた末に捕虜となぴ、凍傷で両足は壊死していた。

 ロシア軍は外科手術を行った。ウクライナ軍の情報を聞き出すことが目的だったようだ。何度も殺害をほのめかされた。

 しかし、ある日、手足の切断手術に関わった衛生兵が神妙な表情で近づいてきた。理由は分からないが、銀色の小さな十字架が付いたネックレスを首にかけてくれた。同い年であることを知った別のロシア兵がこっそり食べ物を持ってきてくれるようにもなった。

 4月下旬、捕虜交換で解放された。再会した母親は変わり果てた息子の姿を見ておえつを漏らしたが、自分は泣けなかった。多くの仲間が亡くなっており、命があるだけでも十分と思えたからだ。

 「あの攻撃で中隊の70人以上が死んだ。陸軍学校の親友も東部で戦死した」。仲間のことや将来のこと、思いは募るが「じっくり向き合うのは戦いが終わった後だ」。戦友がまだ前線で戦っている。

 つらい捕虜の記憶と結びついた十字架を、なぜか今日も身に着けてしまう。「心が通じた気がする彼らには善良に生きてほしい」。そうつぷやいた後、力を込めた。「彼らをプーチンから解放するためにも、ウクライナは必ず勝たなくてはいけない」(ベリーキーリュービン共同=菊池太典)


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ロシアに広がる反戦の声(2022/5/31 京都新聞)

 ウクライナ侵攻を続けるロシアの国内で、軍事作戦に公然と反対する声が、政財界や芸能界からも出始めた。反戦の訴えを「裏切り」呼ばわりする政権側の圧力にもかかわらず、長引く戦闘への嫌気や将来への不安が「もう黙ってはいられない」という気持ちにさせているようだ。

 「若者らが戦闘で障害者になっている。作戦をやめなければ、ロシアは一層孤立する」。軍港ウラジオストクがあるロシア極東の沿海地方議会で27日、共産党のワシュケビッチ議員が審議中に立ち上がり声明文を朗読した。コジェミヤコ知事の制止を振り切って、ウクライナからの軍撤退を要求し、声明には4人の共産党議員が署名。コジェミヤコ氏は「軍の名誉を汚す裏切り者」と非難した。

 23日にはスイスージュネーブの軍縮会議ロシア代表部のボンダレフ参事官が「プーチン(大統領)が引き起こした侵略戦争はウクライナ人、ロシア人に対する犯罪でもある」と批判する声明を出し、抗議の辞任。今のロシア外務省については「主戦論を唱え、うそと憎悪だけになっている」と嘆いた。

 欧米制裁の影響を直接受けている経済界では、「チンコフ銀行」を創業した新興財閥オレク・チンコフ氏が「反戦」を明言した。英紙フィナンシャル・タイムズなどによると4月にインスタグラムで「この狂った戦争の受益者などいない。罪のない市民や兵士たちが死んでいる」と非難した。病気療養のため出国しているチンコフ氏はその後、同銀行の売却を余儀なくされた。

 プーチン氏に近い新興財閥オリガルヒの代表的な一人、オレク・デリパスカ氏も当初から侵攻に批判的だった。5月23日には「核戦争の恐れが現実のものになっている」と通信アプリに投稿し、警鐘を鳴らした。

 芸能界でも多くのスターが侵攻後に出国。人気テレビ司会者マクシム・ガルホンさんは4月、滞在先イスラエルからの映像メッセージで「ロシアの巡航ミサ。イルが住宅に当たり3歳の子どもや家族が犠牲になっても、多くの人が『われわれはやっていない』と言っている」とロシアの責任回避を批判した。ガルキンさんは侵攻後、ロシアのテレビに出演していない。(共同)


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【原論】防衛より福祉に予算を(2022/5/31 京都新聞)

藤田 孝典(社会福祉士 NPO法人ほっとプラス理事)

 私たちは戦争の恐怖を利用した政治家の勇ましい発言に惑わされないよう、注意深く、その言動と向き合う必要がある。

 日本経済新聞社の世論調査で、国内総生産(GDP)比で1%程度だった防衛予算の目安を2%以上へ引き上げるべきだとの自民党内の意見に関し、賛成が55%で反対の33%を上回った。

 私たちはメディアを通じて、ロシアのウクライナ侵攻による非人道的な行為の数々を目の当たりにしている。それらは恐怖を覚えるものだ。ロシアなど他国からの侵略に対し、日本でも備えが必要だ、と言いたい気持ちも理解する。

 こうした状況の下、「国民の命と財産と領土、領海、領空、そして誇りを守っていく、これが政治の最大の責任だ」と発言した政治家がいる。15日、松山市で街頭演説した安倍晋三元首相だ。

冷静さを失うな

 安倍氏は2012年に民主党(当時)政権から政権を奪取し、首相に再任された。それまで防衛予算は減少傾向だったが、首相再任以降の長期政権下で毎年増え続け、現在は5兆円を超えている。

 安倍氏は、現在のウクライ情勢とは関係なく、「外敵」の存在を強調しながら、国内外の軍事関連産業に防衛予算をばらまいてきたのだ。しかし、予算増額を続けることで防衛力は上がり、平和が守られていると言えるのだろうか。

 戦争を利用して予算増額に奔走する政治家の動向をカナダのジャーナリスト、ナオミ・クライン氏は「ショック・ドクトリン」、つまり「惨事便乗型資本主義」と呼んで警鐘を鳴らしている。ウクライナ侵攻のショックで、私たちも冷静さを失ってはいけないと思う。

 安倍氏ら政治家の背後には「外敵」がいればもうけられる市場、企業があり、防衛予算による利益を望んでいる。殺人行為に使用する銃やミサイルなどの製造によって利潤を得る人たちがいる。防衛予算は何に使われ、その本質は何なのか、改めて見直していきたい。

 いまの日本には軍事産業にばらまく予算を増やす余裕など一切ない、と強調したい。それよりも国民生活の実態を見ることに注力してほしい。

 少子高齢化は深刻で、経済の再生は困難である。今後も子どもは減り続け、消滅する市町村も増えていく。保育、教育、住宅、介護など、暮らしを支える予算が足りないため、子どもを産み育てることが難しいのだ。

 先進諸国では異例だが、実質賃金が30年ほど上がらず、むしろ下がる傾向にある。年収200万円以下で働く人たちの貧困、いわゆるワーキングプアも珍しくない。自殺者数は毎年約2万人を数える。

 要するに、人々の苦しみを緩和する予算が足りないのであり、「外敵の存在に脅威を感じている場合ではない。むしろ、脅威は私たちの生活の中にある。

「国を守る」とは

 今こそ軍事費ではなく、福祉費、民生費こそ増額しろ、ということだ。福祉予算をめぐっては、「大砲よりバター」という考え方がある。国民生活が逼迫している時に最優先の予算は何か望ましいか、火を見るよりも明らかではないか。

 先ほどの演説で、安倍氏は「自分の国を守るために努力をしない国のために、手を差し伸べてくれる国は世界中探したってどこにもない。だからこそ私たちは次の予算ではしっかりと防衛費を増やしていく、その努力をしていかなければならない」とも述べた。

 経済の衰退、少子高齢化、消滅自治体、貧困や格差問題など山積する国内問題に対して、政府、政治家は何をしてきたのか。

 「自分の国を守るために努力をする」とは国内の深刻な問題の縮小、解消に全力を傾けることではないのだろうか。

 さらに踏み込んで言えば、防衛予算を増額しても、守るべき国民、財産が今後も消滅していくのである。そのような中、彼らのいう「自分の国を守る」とは、もはや、何を言いたいのか、理解が困難である。

 これまでに増やしてきた防衛予算を福祉拡充に転用できたら、医療費や教育費などの家計負担が大きく減ったはずだ。悔やまれる政治判断の連続だった。貧困や格差の是正を政策の一つに掲げる岸田文雄首相は、同じ過ちを繰り返さないでほしい。     


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対ウクライナ領土妥協案(2022/6/2 京都新聞)

 ロシアに侵攻されたウクライナに対し、奪われた領土の全面奪還を断念するよう促す案が米欧の一部で浮上し、波紋を広げている。戦闘が泥沼化する中、西側の「兵器、資金の支援には限度がある」(米有力紙)との懸念が背景にあるが、ウクライナは反発。現時点では少数意見だが、停戦が見通せない状況が長引けば、領土妥協論が広がる可能性もある。

 「理想的には境界線は(2月の侵攻前の)原状に戻すべきだ」「これを越えた戦いを追求すれば、ロシアとの新たな戦争になるだろう」

キッシンジャー

 米外交の長老キッシンジャー元国務長官(99)は5月23日、スイスのダボス会議で主張した。ロシアが2014年に強制編入したウクライナ南部クリミア半島と、親ロ派勢力が実効支配してきた東部ドンバス地域の東側の奪還を諦めるよう促したと受け止められた。

 米紙ニューヨークータイムズも5月19日の社説で、14年以降にロシアの得たウクライナ領土を全て回復するのは「現実的な目標ではない」と強調。現実離れした戦果を期待していては、米欧が「出費がかさむ長期戦に引きずり込まれる」と戒め、ウクライナ指導層は「領土に関して苦痛を伴う決断を下さなければならない」と論陣を張った。

 エネルギー調達でロシアに依存してきたイタリアは5月に国連に和平案を提出した。イタリアメディアによると、クリミアやドンバスの親口派地域について「領土的な問題を国際監視下で協議する」との項目が含まれ、ウクライナが領土割譲を迫られる可能性もある。

 ウクライナ側は、領土割譲を容認するような一連の言説に怒りで反応。

 ゼレンスキー大統領は5月25日公表の演説でキッシンジャー氏発言を、多くの国民が暮らす領土を「見せかけの平和」と交換させようとしていると批判した。英仏がナチス・ドイツの東欧侵略を容認し、宥和政策が第2次大戦を招いた1938年のミュンヘン会談を引き合いに出し「キッシンジャー氏のカレンダーは38年で止まっているようだ」とこき下ろした。

提案は背信行為

 ニューヨークータイムズ社説に関して「38年にも似たことを書いたのだろう」と皮肉った。イタリア和平案も「領土の引き渡し提案は背信行為だ」 ボドリャク大統領府長官顧問)と非難した。

 ウクライナの反発もあってか、領土妥協論への支持は広がりを見せていない。バイテン米大統領は5月末の米紙寄稿で「ウクライナを抜きにしてウクライナのことを決めない。ウクライナ政府に領土で妥協するよう圧力をかけることはない」と述べ、大規模な兵器供与を続ける考えを示した。

 ただ、ウクライナが「一片の土地も与えない」(5月9日公表のゼレンスキー氏発言)姿勢にこだわる限り、停戦交渉の進展は期待できない。米国連大使は英BBC放送とのインタビューで「戦争終結の道は、誰にも見通せていない」と率直に認めている。

 米紙ワシントン・ポストは5月26日の社説で「今はプーチン大統領と取引をする時ではない」と妥協論に反対する立場を明確にしつつ、「ウクライナの反転攻勢は失敗し、交渉による解決しかない状況に陥るだろう」と予測。ロシアはドンバスで制圧地を拡大しており、戦況がウクライナに不利に傾き続ければ、領土面での妥協はやむを得ないとの論調が広がる可能性は残る。(ワシントン、キーウ、ローマ共同)


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トルコ、シリアで軍事作戦の構え(2022/6/3 京都新聞)

【イスタンブール共同】トルコのエルドアン大統領が、シリア北部で敵対する少数民族クルド人勢カヘの新たな軍事作戦に踏み切る構えを強め、北大西洋条約機構(NATO)加盟各国と、新たに加盟を申請した北欧フィンランド、スウェーデンに作戦への支持を迫っている。

 北欧2国の加盟にはトルコを含む全加盟国の承認が必要。申請を逆手にNATO側に揺さぶりをかけ、クルド問題で自国の主張を押し通す強硬姿勢だ。

 「西側はトルコ国境の安全保障問題に無関心だった。(ウクライナで)紛争が始まり、今になってNATOに入りたいという国がある。どうして『どうぞ』と言えるだろう」。エルドアン氏は1日、北欧2国と歓迎する国々をけん制した。

 トルコはシリア北部のクルド勢力を自国の非合法組織クルド労働者党(PKK)と同一視。北欧2国がPKKを支援していると主張し、加盟に反対する。


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【現論】侵攻が食料危機に拍車(2022/6/7 京都新聞)

中満 泉(国連事務次長)

 4年前に亡くなった私の父は、野坂昭如氏の小説が原作のアニメ「火垂るの墓」をどうしても見ることができなかった。戦争中に経験した空腹の記憶を思い出すのが苦しいからだと言った。私は幼かった頃に、グラマン戦闘機からの機銃掃射で足の指を数本吹き飛ばされたという祖母の傷痕を見て大層恐ろしかった思い出があるが、父には長く続いた飢えがもっと辛いものだったらしい。

 今、人々にそんな苦しみをもたらす食料危機の暗雲が世界に漂う。過去2年間で食料不安を抱える人々の数が、コロナ禍以前の1億3500万人から2億7600万人に倍増した。このうち、約50万人が飢餓状態にある。2016年比で500%超の増加である。国連の「持続可能な開発目標」(SDGs)が「飢餓をゼロに」という目標を掲げ、国際社会が努力を重ねてきたにもかかわらず、である。いくつもの原因が絡み合っているが、気候変動による異常気象、新型コロナ禍の経済ショック、そして紛争の三つに集約される。

 まず異常気象が各地で激しさを増している。アフリカ東部では20年秋から過去40年間で最悪の3期連続の干ばつに見舞われている。地域の水資源は枯渇し、農業は甚大な影響を受け、深刻な貧困状態を引き起こし、550万人以上の子供たちが栄養失調状態にある。

 そこにコロナのパンデミック(世界的大流行)による経済シヨツクが加わった。食料価格は20年から上昇を始めたがパンデミツクは困窮する脆弱な立場にある人々の生活をさらに困難にしており、エネルギー価格の上昇と相まってのインフレ圧力は特に途上国のコロナ禍からの回復に大きな懸念材料となった。

 多くの途上国は、これから債務増大という困難な課題にも直面するだろう。先進国と途上国の格差が拡大し、先進国内でも富裕層と貧困層の格差が増大して、国内政治の大きな不安定要素となっている。

 そして最大の要因は紛争だ。国連世界食糧計画(WFP)によれば、飢えに苦しむ人々の6割が紛争地域に暮らす。国連食糧農業機関(FAO)などによると、7年以上紛争が続くイエメンでは飢饉状態にある人の数が、現在の3万人強から今年後半には16万人以上に増加すると予測されている。人道危機が続く多くの国で支援の資金が不足し、国連諸機関は困窮する人々に十分な食料を届けることができない。

 このような食料難の構造が既に存在していたところに、ロシアのウクライナ侵攻が起きた。この侵略戦争は、ウクライナ国内に人道危機をもたらし周辺国に第2次大戦以来最大の難民流出を引き起こしただけでなく、世界的な食料危機に拍車をかけた。ウクライナとロシアは小麦や大麦、トウモロコシなどの大産地。特に小麦は両国の輸出量が世界の3割に及ぶ。

 戦争前は毎月450万トンの農産物が出荷されていた黒海の港は封鎖され多くの機雷が敷設されている。ウクライナ国内の倉庫に滞留したままの2千万トンの去年の収穫が出荷できない状況にある。既に依存度が高い中東やアフリカ諸国で食料難が始まりつつある。

 加えて、制裁下にあるロシアやベラルーシは世界有数の肥料原料の輸出国である。肥料供給の崩壊は、小麦の供給以上に、世界中のあらゆる農業活動に影響を及ぼし、全ての食料生産を減少させる恐れがあると専門家は警告する。つまり欧州の戦争が各国で飢餓を引き起こし、何年も続く可能性があるのだ。食料難はさらなる不安定要因となり、紛争の火種になるだろう。私は30年以上仕事をしてきて、これほど世界が崖っぷちにあるように感じたことはなかった。

 国連は緊急の世界食料安全保障会合を開催し、諸分野での行動を求めた。まず戦争中・制裁中であってもウクライナの農産物出荷とロシアやベラルーシからの肥料や食料輸出を早急に可能にすること。そのために国連は舞台裏でさまざまな交渉を行っている。そして、各国が食料難の影響を最も受ける脆弱な立場の人々への社会的保障システムを整えることなども重要である。

 こうしてみると、ロシアのウクライナ侵攻以来ますます機能不全に陥った国際協調が、世界の破滅的な危機を防ぐために必要なことが理解できまいか。どの国も一国では到底解決できない問題に、私たち人類は直面している。 


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【現論】プーチン氏、地球を人質に(2022/6/9 京都新聞)

 長期化するロシアによるウクライナへの侵攻。プーチン大統領は、ロシア包囲網が強固に構築されないよう、エネルギーの供給、食料さえも「武器」として使い欧米への揺さぶりを続ける。世界は蛮行を止められない上に、地球温暖化対策の遅れ、世界的な食料危機の懸念に直面している。

 5月に開かれた先進7カ国(G7)気候・エネルギー・環境相会合は、ウクライナ侵攻によって石油やガス、食料などの大幅な値上がりが起きているとして「重大な懸念」を表明、エネルギー供給の安全保障に重大なリスクをもたらしていると指摘した。

 気候変動対策として脱石炭火力発電を主導してきた国の一つがドイツだ。ロシア産天然ガスの輸入を拡大し石炭火力を減らしてきた面がある。輸入がロシアへの戦費負担になるとの批判があっても、脱ロシア依存を求められても景気の維持、生活のために輸入をストップできない。

 欧州連合(EU)がロシア産石油の輸入禁止を合意するまでに時聞かかかった。いずれもエネルギーの安定確保が重くのしかかっているからだ。

 原油価格の高騰もあり、値段は安いものの二酸化炭素(CO2)の排出量が多い石炭の使用を増やす国もあるだろう。

 さらに、戦争によって多くのCO2が排出され、世界で軍事予算が膨らんでいる。温暖化対策の予算は後回しにならないか。この侵攻によって脱炭素社会の実現という将来の目標を達成するよりも、世界は眼前に迫った危機の解決を優先せざるを得ない。温暖化対策を進めるモメンタム(勢い)は失われつつある。

 ロシアは、黒海にあるウクライナの港を海上封鎖し小麦などの輸出を妨げている。このため輸出先となる中東やアフリカなどの国々で食料危機が起きる可能性が指摘される。ロシア側は、船舶のための「人道回廊」を設置しており食料危機の責任論は「いわれなき非難」と反論、経済制裁が緩和されれば安全確保に協力することも示唆する。

 EUのフォンデアライエン欧州委員長は「国際社会の協力はロシアの脅しへの解毒剤となる」と連携を訴える。だが、現実に食料危機となればロシアを孤立させようとしてきたバイテン米大統領ら欧米首脳にも怒りの矛先が向かい、多国間協力が崩れる恐れさえある。

 ウクライナ侵攻の首謀者であるプーチン大統領は、食料輸入国を、そして発熱を抑えなければならない地球さえも「人質」に取っているのだ。(共同通信編集委員 諏訪 雄三)


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【インサイド】戦火の文化財 保全の危機(2022/6/9 京都新聞)

 ロシアに侵攻されたウクライナで、100以上の文化財や宗教施設などが破壊されたり損傷したりした。地上戦が続く東部ドネツク州では4日、歴史的価値の高い木造修道院が炎上。ウクライナは「自国のアイデンティティーが破壊されてしまう」と危機感を募らせ、一部を国外に運び出すなど保護に奔走している。

 「ウクライナ芸術はウライナ人アイデンティテーの表現で、文化財の保護は、それを守るためだ」「プーチン(ロシア大統領)はウクライナ人アイデンティティーを破壊したいのだ」

 西部リビウのボリス・ボズニツキ・リビウ国立美術ギャラリーのタラス・ボズニャク館長は強調した。背景には、プーチン氏が主張するロシアとウクライナの「歴史的一体性」への拒否感がある。ロシアは文化財を破壊し、ウクライナの主権や独自性を否定するようなプロパガンダを広めようとしている。

 ギャラリーは、18世紀にリビウで活躍した彫刻家ヨハン・ピンゼルの作品やキリスト教絵画など6万7千点の多くを倉庫などに避難させた。一部は隣国ポーランドやイタリア、リトアニアに移送した。搬送用の梱包材を寄付した企業もある。博物館同士の連携で運び先が決まる場合もあるが、東部の激戦地では、間に合わず地下や周辺に隠したケースもあった。

 尽力にもかかわらず、国連教育科学文化機関(ユネスコ)によると、5月30日時点で62の宗教施設や26の歴史的建造物、12の博物館などが破壊された。

 首都キーウ郊外では2月、ウクライナを代表する画家マリア・プリマチェンコ氏の作品を収蔵する博物館が攻撃され一部作品が焼失した。南東部マリウポリでは3月、市民らが避難した歴史的な劇場が空爆で全壊。5月には東部ハリコフ一近郊で「ウクライナのソクラテス」とも呼ばれる18世紀の哲学者スコボロダの文学博物館が破壊された。

 ゼレンスキー大統領は「ロシアは組織的に歴史文化遺産を破壊している」と非難。ユネスコによると、ウクライナ国内に七つある世界遺産への被害は確認されていないが、戦闘で調査が難しいため、文化財被害の全体像は把握し切れていない。リビウやキーウの街中では郷土由来の聖人や文人、神話上の人物の像の一部が鉄柵などで保護されている。ウクライナが自らの文化的特性を維持することに、いかに腐心しているかを浮き彫りにしている。

 リビウの国立美術ギャラリーは閉館中だ。館長補佐のバシル・ミツコ氏は、絵画が外された展示室で、こう語った。「戦争で、みんな自分は何者なのかを考えるようになった。これまで以上に新しいウクライナ文化が生まれるかもしれない」 (リビウ共同)


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【現論】戦争の終わらせ方(2022/6/14 京都新聞)

 英語の「End」は、「終焉」であるのと同時に「目的」を意味する。2月24日に始まった衝撃的なウクライナ侵略戦争をどう終結させるのか。それは、戦争目的と表裏一体だ。今から考えていかねばならない。

 終わり方を探る議論は本格化しつつある。6月4日付フランス紙で同国のマクロン大統領は、ロシアを辱めてはならないとし、ロシアのプーチン大統領に「根本的な間違い」からの出口を用意すべきだと主張した。対してウクライナのクレバ外相をはじめ多くが反発した。彼は、ロシアを辱めているのはロシア自身で、それにふさわしい扱いをすべきだという。

 ウクライナからすると、ロシアこそが極悪非道なやり方でウクライナを辱めており、そのロシア側の屈辱をおもんぱかるなどもっての外となる。それは理解できよう。対口強硬姿勢をとるバルト3国、ポーランド、英国などでも、マクロン氏発言への風当たりは強い。

 「戦争はいかに終結したか」と題する書物を著した千々和泰明氏によると、一般に戦争が終わるとき「現在の犠牲」と「将来の危険」がはかりにかけられる。ここでは、いま流れている血を止めるため、一定の妥協を志向する方向と、将来において同じような事態が起きないよう徹底的に紛争の芽をつぷす方向とが衡量されることになる。

 歴史的には、1990〜91年 の湾岸戦争は、当時の犠牲者の極小化を志向して、侵略したサダム・フセイン政権の存続という妥協で終わった。逆にナチス・ドイツは、その再興の芽をつぷすべく徹底的に破壊された。

 今回の戦争の場合、ロシアの侵略もウクライナの抵抗も続いており、終わり方は戦局がどちらに優位に推移するかに大きく依存するので、いま将来を推し量るのは難しい。しかし、対立軸は明らかだ。

 具体的には日に100人もの戦死者、500人もの戦傷者を出しているといわれるウクライナと、これまで2万人近い戦死者を出したとされるロシア。罪のない市民の落命も含め、それは取り返しのっかないことであり、この戦争はさらに過酷にエスカレートするかもしれない。ゆえにこれ以上の流血を避けるという目的には一分の理がある。そのために戦闘をまずはやめ、現状を凍結すべきだとする。

 しかしそうなると、ウクライナの領土は、2014年に併合されたクリミアなどを含めれば5分の1が失われたままになる。それを是認する形で妥結すれば、数年してまた同じことが起きるかもしれない。それどころか、侵略戦争はペイするものだという理解が広がり、戦争犯罪を含め、国際法違反をしても大して罰せられないということになる。世界各地で現状への不満を持つ国や勢力が散見される中、この手の妥協は将来への禍根を残す。

 そのはざまで、第一義的には侵略され、それに全力で抵抗しているウクライナ自身が、この戦争の終わり方を語ることになろう。米ハイテン政権もその意向だ。しかし、ウクライナの抵抗は国際社会の支援があってこそ成り立つ。従って米国はもちろん、日本を含めた国際社会は支援を介して、この戦争の終わらせ方への関与や責任から逃れられない。

 戦争を始めたのはプーチン大統領だが、それを続ける際、あるいは逆に終わらせる際、われわれは何のためにそうするのか、「目的」がいま問われる。

 「現在の犠牲」と「将来の危険」とのジレンマのなかで、残念ながら「より少ない悪」を選び取らねばなるまい。これは相当つらいものとなる。

 両立は困難だが、ウクライナの政治家が時に示唆するように2段階で考えるのは、時間という要素を味方につける政治的なすべとなろう。

 できるだけ2月24日より前の状況に戻したところでいったん停戦し、その上で、不法占拠された領土は時間をかけて取り戻す。少し離れたバルト3国は、半世紀に及ぶ旧ソ連の占領の後に独立を回復した。それくらいの時間軸で考え、いったん流血を止めるというシナリオだ。

 ロシアにお土産を持たせず、同時にウクライナの流血を止める。この細い道を手繰り寄せられるか。戦争と外交の双方の行方を注視したい。(遠藤 乾 東京大教授)


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【インサイド】大帝なぞらえ 侵攻正当化(2022/6/15 京都新聞)

 ロシアのプーチン大統領が、戦争で領土を広げ、今年生誕350年となる皇帝ピョートルー世(大帝、1672〜1725年)になぞらえてウクライナ侵攻を正当化している。「大帝は領土を取り戻した」「自らを守るためには戦うしかない」と強調。国の西欧化を強引に進め「欧州への窓」と呼ばれた都を開いた大帝にあやかりたいようだが、侵攻後の対欧米関係は最悪。対話の窓は閉じられる寸前にも見える。

 大帝の誕生日とされる今月9日、ロシアではさまざまな記念行事が開かれた。プーチン氏はモスクワで関連の展示会を視察した後、若手起業家や研究者らとの対話集会に臨んだ。

 この中でプーチン氏は、大帝がバルト海周辺を支配する強国スウェーデンに挑み、結果としてバルト海東岸の地を獲得してロシアを欧州の大国の地位に押し上げた北方戦争(1700〜21年)に言及。領土は「奪い取ったのではなく、取り戻したのだ」と主張した。

 「いま展示を見てきたが、昔も今も同じだ。何も変わらない。取り戻し、国を強くするのはわれわれの義務だ」とも述べた。地名こそ口にしなかったが、ロシア軍が親ロ派を支援して支配地を広げているウクライナ東部ドンバス地域を示唆していることは明白だ。

 ピョートル大帝は21年続いた北方戦争の間に、スウェーデンから獲得したネバ川河口にサンクトペテルブルグを建設。首都を内陸のモスクワから西欧に近いこの地に移し、近代化の拠点とした。

 プーチン氏自身もサンクトペテルブルグ出身。かつて尊敬する歴史上の人物の一人に大帝を挙げたことがあり、12日の祝日「ロシアの日」の勲章授与式でも、大帝の時代に「強力な世界的大国となった」と訴えた。

 侵攻開始から100日超。奴方に甚大な死傷者が出ているが停戦交渉は中断し、戦闘終結の兆しは見えない。欧州の安全保障を巡る状況は一変した。日米欧での対ロ批判は高まる一方だ。

 ロシアの政治学者アンドレイ・コレスニコフ氏はロイター通信に対し「プーチン氏は自身をピョートル大帝のように見せたいのだろうが、暴君として知られるイワン雷帝のように歴史に刻まれることになるだろう」と指摘した。(共同)


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ICAN 日本出席見送り(2022/6/15 京都新聞)

【ジュネーブ共同】21日からウィーンで開かれる核兵器禁止条約の第1回締約国会議へ、日本政府は出席見送りを決めた。同条約成立を主導し2017年のノーベル平和賞を受賞した非政府組織(NGO)核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のベアトリスーフィン事務局長(39)は、ロシアのウクライナ侵攻で核使用の現実味も増す中、同条約の意義は一層高まったと強調した。(

 ―会議は当初予定の1月から2度延期。機運はそがれたか。

 「全く逆に考えている。ロシアが核を使う可能性に言及するという状況下のため、初会議特有のお祝いの雰囲気はなくなった。だが条約の意義は高まったし、会議の重要性は増した。この上ない時期に開催されることになったと思う」

 「この条約は核兵器の使用と、使用するとの威嚇を禁じた唯一の国際的な取り決めだ。われわれが現在直面している、世界的で甚大な脅威に対抗できる手段だ」

 ―ロシアの核使用示唆の影響は。

 「ウクライナの戦争では通常兵器しか使われていないのに、食料価格の高騰と不足という食料安全保障の問題を既に招いている。もし核戦争になれば、特に貧しい国に壊滅的な影響が出るということを世界は実感した。核問題は終わっていないと、人々の意識を呼び覚ます形になった。条約を締結・批准する国の増加ペースは上がるだろう」

 ―ロシアに対抗するため、核武装を強化すべきだという意見も出ている。

 「核による相互抑止は、相手が理性的に行動すると100%信頼することに依拠しており、非常に危うい。核兵器の存在を当たり前に捉えるのではなく、悪なのだという認識を広め続けなければならない」

 ―会議には「核の傘」で守られているドイツとノルウェーがオブザーバー参加。一方、被爆国の日本は不参加で、条約締結の見通しもない。

 「核軍縮に真剣に取り組もうと考えていて、被爆者や核実験の被害者に関心があるのなら、日本はウィーンに来るべきだ。条約は被爆者の取り組みを反映したもので、被害者支援も盛り込まれている。日本がそれを尊重しないのは恥ずべきことだ。日本政府は被爆者や被害者が何を求めているかや、放射能汚染対策について最も熟知している国だ。日本は大きく貢献できる」


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対ロ制裁に対抗 軍備増強(2022/6/18 京都新聞)

 ロシアのプーチン大統領は17日、「われわれの安全を保障するのは陸軍と海軍しかない」と述べ、ウクライナ侵攻を受け前例のない対ロ制裁を科した欧米側の圧力に軍備増強で対抗していく姿勢を示した。「国家主権の保持に必要な場合には核兵器を使うことになる」と改めて表明、ウクライナに軍事支援を続ける欧米を強くけん制した。

 ロシア北西部サンクトペテルブルグで開かれている国際経済フォーラムのパネルディスカッションで語った。17日の全体会合には旧ソ連カザフスタンのトカエフ大統領が出席したほか、中国の習近平国家主席とエジプトのシシ大統領がビデオ声明を寄せた。欧米の政府代表の姿はなく、ロシアとの関係冷却化を象徴する形となった。

 プーチン氏の発言は、対外強硬派として知られた19世紀のロシア皇帝アレクサンドル3世の「ロシアには2人の同盟者しかいない。陸軍と海軍だ」との言葉を言い換えたもの。「軍事作戦はいつでも悲劇だ」と述べる一方、ウクライナ東部のロシア系住民保護のため他の選択肢はなかったとし、侵攻を正当化した。

 ウクライナが欧州連合(EU)加盟を目指していることについては、北大西洋条約機構(NATO)と違ってEUは軍事同盟ではないため反対しないとも述べた。

 ディスカッションに先立つ演説では、制裁で「ロシア経済を崩壊させる欧米の試みは成功しなかった」とし、制裁の影響払拭に自信を示した。世界的なエネルギーや食料の価格高騰の原因は米国とEUの失政にあり、ロシアの軍事作戦とは関係ないと語った。

 米国を中心とした「一極支配の世界秩序は終わった」と指摘し、欧米以外の各国の経済的発展により地政学的状況は根本的に変わり「元に戻ることはない」と主張した。(共同)


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欧州分断工作 極右とも連携(2022/6/19 京都新聞)

 ウクライナ侵攻後、病院や学校などの民間施設を執拗に攻撃するプーチン大統領のロシア。人口密集地で殺傷力の高い兵器を使用しているとも指摘される。人口4千万を擁する「兄弟国」に残虐行為を繰り返す狙いは何なのか。「レコンキスタ(失地回復)の時代」第6回は、ウクライナの気鋭の国際政治学者グレンコーアンドリー氏に無差別攻撃の深層を聞く。

―ロシアの民間人攻撃は恐怖をあおり、戦意喪失させるのが狙いか。

 「プーチン大統領と同じくソ連国家保安委員会(KGB)の出身で、腹心と言われるパドルシェフ安全保障会議書記が昨年11月、ロシアの有力週刊紙に対し、こんな発言をしている」

 「ウクライナで戦争が起きたら『何百万もの人が出国し、他の土地へ避難するだろう』と。『他の土地』とは欧州のことだ。『大量の難民が押し寄せてもいいのか』と暗に脅していた」

 「大勢の外国人が流れ込み、長い間滞在すると、一つのリスクが欧州連合(EU)で持ち上がる。まず、受け入れ国の住民との摩擦を生み、社会が不安定化し、政治的に混乱する」

 「次に、EUの内部に不協和音が生じる。27の加盟国は広さも、人口も、経済力も異なる。どの国が、どの程度、避難してきた人々の面倒を眼るか。国同士の不信感が頭やもたげてくる」

 「そして最後に、住民の不安や政治的混乱、国家間の不信に乗じ、外国人を嫌悪しかり、移民や難民に寛容な政策を非難したりする右翼ポピュリストが支持を伸ばし、影響力を拡大する」

 「彼らの主張が過激でも、それ自体を取り締まることはできない。言論の自由があるからだ。難民危機は民主主義の弱点を突き、欧州をかく乱し、プーチン氏にとって有利に働く」

―難民を戦争の「武器」として使っているとしたら驚きだ。

 「そうしたケースは実は、ウクライナが初めてではない。反米・親ロシアのアサド大統領を支援するため、2015年9月末にシリア内戦に軍事介入した際も、同じ手口が使われた」

 「あの時も民間人が狙われ、ロシア軍機が住宅地を空爆した。戦禍を逃れた人々は自由で安全な土地を目指す。15年だけで数十万のシリア人が欧州に押し寄せ、難民危機を引き起こした」

 「確かに、最大のの介入目的はアサド体制の維持だった。シリアにはロシア海軍や空軍の拠点がある。アサド政権が倒れてしまったら、中東のど真ん中に築いた貴重な足場が失われる」

  しかし、アサドという独裁者を守るだけなら、反政府軍を狙えばいい。住宅地への無差別攻撃を繰ぴ返し、民間人を殺傷して、膨大な数の人々を国外に追いやる必要など全くない」

 「だから、介入の前か後かは分からないが、ロシアはある時点で戦災者を使って西側を弱体化できることに気づき、大量の難民を欧州に送り込む謀略工作に乗り出したとみている」

―難民危機は「反移民」ポピュリスムを醸成し、欧州を分断した。

 「右翼勢力が大きな役割を果たした。フランスの極右『国民連合』(旧国民戦線)、『英独立党』や『ドイツのための選択肢』に、イタリアの『同盟』などが代表的だ」

 「いずれも反移民・難民、反EU・グローバリズム、反米などを掲げている。難民を巡り『血税をなぜ、部外者に費やすのか』『人件費が安く仕事を奪う』『治安を乱す』などと訴えた」

 「その結果(危機のさなかにシリア難民を受け入れた)ドイツのメルケル前首相の信頼は傷つき、移民や難民の権利を尊重するEUへの懐疑論が高まり、英国は16年にEU離沢を決めた」

 「見逃せないのは、ロシアが移民大国である事実に目をつぷり、プーチン氏の反米プロパガンダ(宣伝)や愛国ナショナリストとしての姿勢に共感し、礼賛する右翼が大勢いることだ」

 「ロシア側もよく分かっているから、反米右翼の支持を広げ、欧州の分裂を促す巧妙な情報工作を仕掛けている。英政府や議会によると、サイバー攻撃など政界への介入は常態化している」

 「金銭的支援が行われている可能性もある。極右は本国の金融機関から相手にされないことが多い。国民戦線はプーチン政権との関係が取りざたされるロシア系の銀行から10億円を超える融資を受けていた。ウクライナ侵攻に至る10年近くの間、地下水脈は勢いを増してきたのだ」。(聞き手は共同通信編集委員・川北省吾、撮影は同写真・映像記者、尾崎純子)


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モスクワ60代女性の手記・第7信(2022/6/21 京都新聞)

 ウクライナでの戦争が依然続き、ロシア人の間でも「厭戦」気分が漂っているらしい。多くが戦争の終結を待ちわびるが、敗北は望まない。戦争に反対する人でさえ、勝利を願う。戦争と愛国心について、モスクワで働く60代のロシア女性が手記を寄せた。 私たちがファシズム

 戦争にも慣れっこになってしまい、多くの人は、私たちの国が始めた戦争を口にしたがらなくなりました。落ち込むのが嫌なのです。だって破壊されたウクライナ南東部の激戦地マリウポリの映像や避難民、さく裂するミサイルを見て無関心ではいられないでしょう? 気持ちが乱され、胸が痛みます。安楽な生活圈内にとどまっていたい。

 だからどこか暖かい、すてきな所へ休暇に出たいな、などと言ったり書いたりしている。今や休暇に出かけるのも大変ですけれども。私たちもダーチャ(郊外の別荘)に出かけました。森を散策し、幸せそうな人たちと出くわしました。草の上に食べ物と飲み物を並べてソ連時代の歌を合唱し、楽しそうに踊っている人たちまでいました。

 私はたくさんの人に、何を考えているか尋ねてみずにはいられませんでした。その答えの多くにあぜんとさせられました。ニュースを聞くのはやめたと言うのです。気に病んで涙を流したくないから。泣いたり気をもんだりしても、誰も救えないじやないか。確かに。でも反感を覚えます。

 誰もがすぐに戦争が終わってほしいと答えます。でももっと話すと「戦争の終結」をいろいろ解釈していることが分かります。大多数はロシアの勝利とウクライナ(またはその一部)の占領での終結を望んでいます。

 「何だって西側とアメリカは、ウクライナに兵器を供与するのか?」「(ロシア大統領)プーチンにさっさと欲しがるものを渡してしまえば、たくさんの命を救えただろうに」。別の人は「ウクライナが抵抗さえしなければ、とっくの昔に終わっていたのに」などと言う。女性が強姦されよれとしているのに、隣の人たちが「歯向かうな」と忠告している、そんな場面を思わせる口ぶりです。隣国を占領したがる私たちこそ、強姦者にほかなりません。

 私か考え込んでしまう論点があります。多くの善良な、私に近しい人たちは戦争に反対です。戦争はロシアの誤りだとすら見なしています。しかし、彼らも「自分の国の敗北を望むような人間がいるだろうか」と言います。故国への愛からロシアの勝利を願っている。

私はどうなのかって?…。侵略者は常に罰せられなければならないと小学校で教えられました。第2次大戦を例に、ファシストのドイツがヨーロッパを席巻し、私たちの国(ソ連)を占領しようとしました。私たちは世界を、ファシズムの悪疫から解放したのです。今や全てがあべこべです。私たちこそ、ファシズムにほかならない。以前のドイツと同じことをしているのです。 遺体も記憶も消し去る

 多くの人が、報道を見たり読んだりしなくなったと書きましたが、私はそんな風にできなかった。四六時中読んだり見たり聞いたりしています。もちろんウクライナの報道やヨーロッパ系メディア、報道番組、ユーチユーブ配信のことです。

 目が覚めると真っ先にスイッチを入れて、朝食を取りながら聞きます。夜は、ウクライナの話を聞きながらまどろみます。近しい人たちは、頭がおかしくなったんじやないのとか、自分を壊しているようなものだと言うけれど。でも、私はこうせずにはいられない。

 ウクライナ南東部の激戦地マリウポリには私の友達のお姉さんが残っています。彼女は結局退避できなくなりました。年老いた病気の夫がいたのです。「いた」と書きましたが、夫は亡くなって、もういないのです。  彼女の家はガラスが割れ家の中はとても寒かった。この2ヵ月、水も暖房も照明もありません。こんな状態で暮らせるなんて信じられないですが、どうにか生きていたのです。配給の食べ物を受け取りに特別引き渡し所へ通って、生き延びる支えとしていました。

 彼女の夫が亡くなったのは最近です。食べ物にあたって死んだと言います。缶詰が悪くなっていたのです。不衛生な水のせいかもしれない。あるいは長患いせいかもしれない。医者も薬もなかったのだから。

 この人の死を想像すると、手先が冷たぐなってきます。奥さんに抱かれて、ひどく苦しんで亡くなったのだろうと思うけれど、奥さんは苦しみを軽くすることもできなかったのです。夫が死んだこしにすらすぐには誰にも打ち明られなかった。マリウポリにインターネットはないし、電話がつながるのもひどく困難だからです。

 隣人の男性たちが亡くなった夫を家から運び出し、建物のすぐ前の草地に葬りました。お墓の上に奥さんは小さな木の板を立てて、夫の名前を書いて目印とし、あとで葬った場所が分かるようにしたのです。

 ところが…。そこヘロシア兵がやってきました。目印の板を抜いて遺体を掘り出しました。夫の遺体を他の遺体でいっぱいのトラックに放り投げて、運び去ったのです。

 おそらく移動式火葬設備で焼くのでしょう。持ち運び可能な火葬設備で、戦死した軍人や一般住民の遺体を焼くのです。そんなものが、戦争遂行に不可欠な他の装備と一緒に、前線に据え付けてあるのです。

 春先に、中庭に埋めた遺体を放置するのは危険だと言われています。マリウポリの中庭には数百、ひょっとしたら数千ものそういうお墓があるのです。疫病がまん延するかもしれません。

 でも、ロシア軍は疫病と闘ったわけではない。真実を隠蔽するため、この2カ月間で亡くなった人の数を隠したかっただけなのす。遺体やお墓はおろか、いまや灰も記憶すらも、消えて残らないでしょう。


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侵攻4ヶ月 死傷者急増(2022/6/24 京都新聞)

【キーウ共同】ウクライナに侵攻したロシアが完全制圧を目指す東部ドンバス地域(ルガンスク、ドネツク両州)では23日も激戦が続いた。ウクライナ側の死傷者は急増。ウクライナ軍は南部で反撃に転じ、長期戦の見通しが強まる中、ゼレンスキー政権が侵攻のシグナルを見誤ったとの指摘や、軍の備えや初動を疑問視する声も出始めた。

 24日で侵攻開始から4ヵ月。兵力で勝るロシア軍に対し、ウクライナ軍が米欧の軍事支援により善戦しているとの見方が多いものの、同軍幹部は英紙に主力兵器の砲弾を「ほぼ使い果たした」と吐露。ロシアとの火力差は10倍に上るとの見方もある。

 ウクライナのレズニコフ国防相は23日、ツイッターで米国が供与した高機動ロケット砲システム「ハイマース」が到着したと明らかにし、反攻を本格化させる考えを示した。

 戦死者について、ウクライナ政府高官はドンバスで毎日200〜500人のウクライナ兵が死亡していると説明。6月初めには「1日60〜100人」(ゼレンスキー大統領)だった。

 ロシア側の損失も甚大で、侵攻初期に制圧した南部地域では部隊の配備が手薄となり、ウクライナ側が反撃。ゼレンスキー氏は21日「南部ヘルソン州を奪還しつつある」と強調した。

 こうした中、ゼレンスキー政権や軍の見通しの甘さを指摘する声が内外から聞こえ始めた。バイテン米大統領は侵攻情報を事前に伝えたものの、ゼレンスキー氏が「聞こうとしなかった」と今月明らかにした。

 侵攻初日に制圧されたギェルノブイリ原発を巡っでも、レズニコフ氏は「沼や森が多く侵攻は困難」と楽観視していた。


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消耗戦 武器不足で脱走(2022/6/23 京都新聞)

【ドニプロ(ウクライナ東部)共同】激戦地ウクライナ東部ドネツク州北東部での戦闘で6月中旬に負傷したウクライナ軍の兵士2人が22日までに、ドニプロ市の病院で共同通信のインタビューに応じ、最前線で「脱走兵が出ている」と証言した。ロシア側に比べて一般的に士気が高いとされるウクライナ側だが、消耗戦による疲弊や武器不足から無理な作戦を強いられている影響の表れといえる。英国防省は両軍で士気が低下していると分析した。

 最近まで前線で戦っていた兵士がメディアで証言するのはまれ。英国防省は19日「ウクライナ、ロシア両軍ともドンバス地域での激しい戦闘のため士気に揺れがある。ウクライナ側は脱走が起き、ロシア側の士気は依然問題を抱えている」と指摘した。

 証言した2人は、従軍前は教員だった30代前半のアントツクさんと溶接工だった40代後半のミコラさん。ドネツク州バフムト近郊での作戦に参加中の今月12日、ミサイル攻撃で目を負傷し、戦線を離脱したという。

 アントツクさんは「前線では脱走兵の情報を聞くことがあった」と明かした。ロシア軍の戦車に自動小銃のみで攻撃を仕掛けるような「自殺行為に近い作戦」を命じられた兵士らが、逃亡するケースが出ているという。

 軍事物資の不足が士気の衰えにつながっている可能性があると指摘した。ただし「脱走はまれだ」とし、十分な武器が届けば、状況は変わると強調した。

 5月末に前線入りしたミコラさんによると外国から供与を受けた武器で確認できたのは銃器のみで、ミサイルなどの「最も重要な重火器の分量が圧倒的に劣っている」と訴えた。ウクライナ兵は30〜40代が中心で「50代の兵士もいた」と説明。人員不足も深刻で、前線の兵士が高齢化している実態が示唆された。


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ロシア 最低限目標届かず(2022/6/24 京都新聞)

 ロシアがウクライナに攻め入ってから4ヵ月。ロシア軍は東部ドンバス地域の制圧という最低限の目標にも届かず、高官解任や兵士の参戦拒否が相次ぐなど軍内部の動揺が漏れ伝わる。一方、厳しい情報統制下の国内で侵攻は「軍事作戦」とされ、国民の支持は堅調だ。所得の低い地方出身の兵士に戦死者が多いとの集計があり、都市部で厭戦機運が広がらない一因とみられている。

 「殺すのも殺されるのも嫌だ。ロシア軍は世界最強だと思っていたのに」。英BBC放送は6月3日、ロシア軍の首都キーウ(キエフ)撤退後、劣悪な装備を目の当たりにし、再派遣を拒否した兵士の証言を報じた。インタファクス通信によると、5月末、北カフカスの裁判所が派兵を拒否した115人の国家親衛隊員を解雇するとの決定を認定した。

 高官人事にもほころびが見え隠れする。米シンクタンクの戦争研究所は、ウクライナ側の情報としてロシア空挺軍のセルジュコフ司令官が多大な人的損失の責任を問われ、解任されたと指摘。作戦を統括する司令官とされるドボルニコフ氏の解任情報が一部で流れる。ロシアメディアによると、プーチン大統領は5月30日、内務省の将校5人を解任した。作戦の成果への不満が原因とささやかれる。

 ロシアは自軍の戦死者を3月25日発表の1351人を最後に更新していない。ロシアではソ連時代の1979年から約10年間続いたアフガニスタン侵攻で、約1万5千人が死亡。英国防省は5月下旬、今回の死者はアフガン侵攻並みとみられるとの分析を公表した。

 ロシア独立系メディアとBBCは共同で、戦死者の出身地を調査。地方政府発表などで確認された戦死者3798人を調べると、南部ダゲスタン共和国207人が最多で、極東ブリヤート共和国164人が続いた。人口の1割超を占める首都モスクワや第2の都市サンクトペテルブルグの出身者はそれぞれ8人と26人。地方への偏りが判明した。

 両共和国はいずれも少数民族を主体とするロシアの22共和国の一つで、スラブ系のロシア人と民族的に異なる住民が多い。都市部との経済格差も大きい。調査報告書は「賃金が低く、失業率の高い地域では若者にとって軍に入ることが魅力的に映る」と指摘した。

 ロシア社会ではアフガン侵攻のトラウマが広く共有されている。しかし、ウクライナ侵攻では戦死者数が矯小化され、戦争の実態は覆い隠されている。政府批判は当局が力で抑え込んでいる。

 独立系世論調査機関レバダ・センターが5月下旬に行った世論調査では、作戦を支持すると答えた人は77%に上り、1力月前の調査結果より3回上昇。同エンターのボルコフ所長は米紙に「世界の大部分が反ロシアで固まる中、人々はプーチンだけがロシアを見放さないと思っている」と分析した。

 ロシアNIS経済研究所の服部倫卓所長は「プロパガンダ下に置かれた多くの国民にとって軍事は身近な問題ではなく、さらに犠牲になっているのは少数民族や貧困層という構造だ。中枢にいる国民に響いてこない」と指摘した。(共同)


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温暖化対策 侵攻で岐路に(2022/6/28 京都新聞)

 先進7力国首脳会議(G7サミット)で議長国ドイツは、気候変動対策を重要課題と位置付けた。だが足元の欧州では、ウクライナ侵攻後の対ロシア制裁が影を落とし、石炭火力発電への回帰が加速。日米両国も化石燃料に頼る課題を抱える。地球温暖化が深刻さを増す中、世界の取り組みは岐路に立つ。

 「試練を一緒に乗り越えなければならない。『気候クラブ』をつくることは責務だ」。サミット開幕前日の25日、ドイツのショルツ首相はビデオ演説で、化石燃料脱却のために協力する国際枠組みをつくると宣言。気候変動対策に力点を置く姿勢を強く示した。

 だが、対策はG7など先進国に加え、中国やインドといった温室効果ガス排出量が多い国を巻き込まないと実効性は薄い。気候クラブも将来、G20各国などに拡大したい意向とみられるが、メンバー国に要求される取り組み水準が高ければ敬遠されるジレンマも。ドイツ主導の枠組みで世界の排出削減が進むのかどうか、見通せない状況だ。

 気候変動対策は、ロシアの侵攻の影響で揺らいでいる。

 ドイツのショルツ政権は昨年の発足時、2030年までに石炭火力発電所を全廃し再生可能エネルギー比率を8割にすると表明した。ドイツはロシアへのエネルギー依存度が高く、侵攻前は天然ガスの輸入の約半分、石油の3割を頼っていた。

 ロシア政府系ガスプロムが今月15日、ガス輸送量の6割減少を通告すると窮地に。ドイツのハーベック経済・気候保護相は19日、石炭火力発電の稼働を増やすと発表した。政府は石炭火力全廃方針を維持するが、22年末までの脱原発完了は再検討を求める声が上がる。

 オランダも石炭火力の利用制限を解除し、オーストリアはガス火力を石炭火力に改造する方針だ。

 一方、日本でも夏の供給力を確保するため、政府が電力会社に休止中の火力発電所の稼働を要請。電気が足りない地域に余力のある所から融通する仕組みの整備が進まないことが背景にある。

 米国は11月に中間選挙を控え、ガソリンを含む物価高騰が命取りとなりかねない。バイテン政権は石油増産を業界に要求し、政府備蓄も大規模放出した。石油大手に、ガソリン生産増へ「あらゆる手段を使う」と圧力をかける書簡を送る事態になっている。

 各国の対策が停滞する中、温暖化は確実に進行している。世界気象機関(WMO)によると、年間の気温を観測史上暑い順に並べると上位7位を15〜21年の7年が占める。欧州は今年、夏至を前に猛暑に見舞われ、この時期の平均気温から10度以上高い場所も。春にはインドやパキスタンを熱波が襲い、WMOは「目の当たりにしているのは未来の予兆だ」と警告する。

 温暖化の影響には途上国ほど脆弱だ。だが先進国からの資金支援は目標額に達せず、不満が募っている。G7サミットの議論を不十分とみれば、11月の気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)で不満が噴出しかねない。(エルマウ、ワシントン、東京=共同)


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穀物高騰 迫る食糧危機(2022/6/28 京都新聞)

 穀物価格が高騰している。世界有数の穀倉地帯であるウクライナがロシアに侵攻され、輸出の生命線が断たれたためだ。日米欧の先進7力国(G7)は食料安全保障の強化に乗り出すが、新型コロナウイルス禍からの世界経済回復に伴う需要増と相まって、食料危機が現実味を帯び、特にアフリカ諸国では貧困拡大の恐れが浮上する。穀物の多くを輸入に頼る日本も対応を迫られている。

 「この戦争は皆さんの国から遠いことのように見えるが、悲劇的な食料価格の高騰はアフリカの数百万の家庭に影響を及ぼしている」。ウクライナのゼレスキー大統領は20日、アフリカ連合(AU)の会合でオンラインで演説し、各国に支援を呼びかけた。

 日本の農林水産省によると、ウクライナの小麦の輸出量は世界全体の約11%、トウモロコシは約14%を占めていた。だがロシアが侵攻し、ウクライナの穀物倉庫を爆撃したり、ウクライナの主要な積み出し港がある黒海沿岸を封鎖したりしたことで輸出が滞り、価格が跳ね上がった。

 経済協力開発機構(OECD)によると、小麦の国際的な平均価格は約60%、トウモロコシは約24%それぞれ上昇。経済力が乏しいアフリカの国は、ウクライナ産以外の割高な小麦を輸入できない「買い負け」が鮮明だ。世界食糧計画(WFP)は侵攻が続けば、深刻な飢餓に苦しむ人々が世界全体で「4700万人増加する」と予測する。

 ロシアのプーチン大統領は、穀物価格の高騰は「G7の無責任な経済政策の結果だ」とし、日米欧によるロシアへの経済制裁に原因があるとの主張を崩していない。「制裁でロシア産の穀物を運ぶ船が欧州の港に入れないことが食料危機を増幅させている」と被害者を装い、こうした見解をインターネットで大々的に宣伝している。

 これに対し、林芳正外相は「ロシアは偽情報を拡散している」と強く非難。ブリンケン米国務長官は「ロシアはウクライナの穀物を盗み取り、自らの利益のかめに販売しているとの信頼できる報告もある」と明かす。

 しかし、中国が友好国であるロシアの肩を持ち「世界的な食料危機の原因は欧米の経済制裁にある」と海外に発信するなど、偽情報の拡散は止まらない。食料不足に不満を募らせるアフリカでは、ロシアや中国の主張を事実と信じる人が増えているとの分析もある。

 日本政府は、食料危機に「対岸の火事ではない」(関係者)と警戒感を強めている。日本は小麦の約9割を米国やカナダ、オーストラリア産を中心とする輸入に依存。ウクライナからは調達していないが、大きな影響が出ており、国際価格の高騰で国が輸入小麦を製粉会社に売り渡す4〜9月の平均価格は過去2番目に高い1トン当たり7万2530円になった。

 政府はG7の他の国と連携して、輸出できずに行き場を失ったウクライナ産の穀物が廃棄されないように、倉庫の建設や輸出代替ルートの確保を支援する方針だ。ウクライナ産の輸出が回復すれば、国際価格が下がると期待している。

 とはいえ、野村証券の大越龍文シニアエコノミストは「ロシアの侵攻でウクライナの穀物の作付面積は減っている」と指摘する。戦争が終結し、ウクライナの生産と輸出が元に戻らない限り、小麦の輸入価格上昇に伴う日本国内での食料品の値上げは続きそうだ。(エルマウ、東京共同)


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トルコ「脅迫外交勝利」(2022/6/30 京都新聞)

 スウェーデンとフィンランドの北大西洋条約機碍(NATO)加盟が確実になった。メンバー国のトルコが、テロ組織と見なすクルド人勢力への支援の撤回を加盟条件として突き付け、人権重視を掲げる2国が「脅迫外交に屈した」(専門家)形。NATOの傘に入りロシアの脅威からわが身を守る目標は成就するが、人権分野では後退。北欧に逃れたクルド系難民らには動揺が広かった。

 「トルコの大勝利」。同国のエルドアン政権に近いシンクタンク幹部は、北欧2国がトルコの要求をほぼ丸のみした格好となった9日の合意を興奮気味にツイートした。

 エルドアン大統領は最近の経済危機で支持率が低迷していたが、2国への強硬姿勢が評価され、支持は回復基調にある。スウエーデン国際問題研究所のチャンダル氏は、来年6月の大統領選を控え「外交分野で得点を稼ごうとした」とみる。

 加盟容認に転じた背景には米政権の仲介もあったようだ。米当局者によると、バイテン大統領は28日午前、北欧2国首脳の要請でエルドアン氏に電話し、「この機会を捉えて、マドリードで決着をつける」よう促した。

 バイテン氏はNATO首脳会議前に合意にこぎ着ければ、スペインでの首脳会談に応じるとも持ちかけた。エルドアン氏は会談を切望していた。トルコが要求していた米製F16戦闘機の新規購入が議題になる見通し。トルコは受け入れ、28日中に2国加盟に同意した。

 「私たちはここで働き、納税し、社会の一部だと感じてきた」「クルド人のせいでロシアが攻めてくるわけではない。政治ゲームに巻き込まないで」。スウェーデンでクルド系住民の人権保護に取り組む「民主クルド社会センター」のハジョ氏は今回の合意を前に不満を漏らした。

 2国はロシアの脅威を前に、5月にNATO加盟を申請。全加盟国の同意が欠かせない状況で、「待った」をかけたのがトルコだった。非合法組織クルド労働者党(PKK)などを両国が支援していると抗議し、取り締まり強化を要求。ハジョ氏は「クルド系は全てテロリストだというのがトルコの主張だ」と憤る。

 2国のうち、特にスウェーデンは各国から難民や反体制派を受け入れる「避難所」として国際的評価を得てきた。クルド人はこの半世紀、トルコやイラン、シリアなどでの迫害や戦乱から逃れるため流入、スウェーデン人口の1%に当たる約10万人に上るとされる。

 トルコの要求には、同国が「テロリスト」と見なすスウェーデン国籍のクルド系住民らの身柄引き渡しも含まれていたとされるが、2国はトルコと交わした覚書で「迅速、全面的に対処する」と明言し、PKKなどに触発された人々の活動を阻むことも確約した。NATO加盟への「切符」と引き換えに、首脳会議開幕を控えた土壇場での譲歩を政治決断した。

 スウェーデンのアンデション首相は身柄引き渡しはトルコへの妥協ではないかと問われ、「国民は(今回の合意を)国の安全保障にとって良いことだと考えるだろう」とかわした。しかしチャンダル氏は「非民主的なエルドアン政権の脅しに屈したことを意味する」と手厳しい。

 その上で「テロ組織をかくまい支援している」と繰り返したトルコ側の非難を2国が「暗に認めた」と受け止められ、国際社会での2国の「評判に傷がつく」恐れがあると指摘した。(マドリード、イスタンブール共同)


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平和外交で戦争防げ(2022/7/5 京都新聞)

和田春樹 東京大学名誉教授

 日本人の歴史意識は独特である。1945年8月15日以前の時代を戦前とよび、それ以後の時代を戦後という。戦前とは戦争国家の時代であり、戦後とは平和国家の時代である。二つを分かつのは、敗戦と降伏、日本国憲法の施行である。

 だからと言って、日本が存在するこの地域、東アジア、あるいは東北アジアには戦争がおこらず、みなが平和を享受していたわけではない。中国の国民党と共産党の内戦をあげなくとも、50年の朝鮮戦争には日本占領中の米軍が応援の主役として参加したから、日本は完全に巻き込まれ、韓米側についた。戦争は53年の休戦協定締結で終わったが、平和体制はできず、以来70年軍事的対峙が続いている。だが韓国にとっても北朝鮮にとっても、あそこで停戦してよかったことは間違いない。

 60年代のベトナム戦争では日本政府は侵略者米国の側を支援し、市民はベトナム人民を応援し、その勝利を願った。戦争は75年ベトナム共産主義者側の勝利におわり、米国は逃げ帰ったが、謝罪もせず、戦争犯罪も裁かれず、賠償も払われない。ベトナム政府は「過去にフタをして生きる」と決め、米国と国交を結び、交際している。

 核武装した大国は戦争をおこしても、罰されることはなく、戦争をくりかえす。米国はアフガニスタンで20年戦争をし、昨年撤退したばかりだ。イラクでは完全に国を破壊した。ロシアもソ連時代にアフガンで10年戦争をし、撤退した後に国の体制が崩壊した。それでもこの度はウクライナに攻め込んだ。

 この世界で平和国家日本はどう生きるのか、これまで歩んだのも大変な道であったのだし、いまから歩むのも大変な道である。日本の永遠の占領者で、庇護者である米国はいまや中国を主たる競争相手、潜在的な敵とみなしている。非民主主義国家、専制体制の中心国であり、ロシア、北朝鮮をひきつけつつあると警戒している。ウクライナ戦争でロシアが敵国となったので、中ロ関係を格別気にしているのだ。

 日本は北大西洋条約偕碍(NATO)に協力し、ウクライナを支援している。政府は中国を念頭に置く米国、オーストラリア、インドとの協力枠組み「クアッド」に参加して、自由で開かれたインド太平洋戦略を推進し、中国を南の海からけん制している。

 だが中国、ロシア、北朝鮮はことごとく日本の隣国であり、いずれも核武装している。日本は米国の核の傘によって守られていることになっているが、核武装大国同士は戦争しないとしても、核武装国の戦争は誰かが核兵器をもっていても防げないことがウクライナ戦争でわかったのである。

 核武装している4国の間に核兵器を持たない日本と韓国、それに台湾が囲まれている私たちの東北アジアでは、戦争がひとたびおこれは、核兵器が使用される危険性がきわめて高い。だから戦争は絶対におこしてはならないのだ。そのために平和憲法を持つ日本がはたすべき、はたしうる特別な役割がある。平和外交で戦争を防ぐことである。

 いまウクライナ戦争に対して日本や韓国の国民がなすべきことは、戦争の域外への拡大をふせぐという了解をつくりだし、戦争の即時停戦をよびかけ、すべての非交戦国、非同志国が停戦交渉を助けるようにし、停戦後にウクライナの安全保障、復興、戦争犯罪の追及に協力することである。


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ロシア貨物船 トルコが調査(2022/7/5 京都新聞)

【イスタンブール共同】ウクライナの駐トルコ大使は3日、ウクライナから穀物を運搬していたロシアの貨物船をトルコ税関当局が「拘束した」と述べた。穀物は盗まれたものと訴えている。ウクライナ国営テレビに語った。トルコ当局者は4日、船を停止させ、ウクライナの訴えを調査していると明らかにした。ロイター通信が報じた。

 トルコ当局者によると、船は、黒海に面した西部サカルヤ県ガラスの港近くで停旧させている。ロイターによると、ロシア軍が制圧したウクライナ南部ベルジヤンスクから穀物を積み出したとされる。

 ロシアによる黒海封鎖でウクライナからの穀物輸出が停滞している問題では、ロシアが盗んだ穀物を運び出しているとウクライナは非難。ロシアは否定している。


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地雷・不発弾、市民に脅威(2022/7/7 京都新聞)

 激しい戦闘の末、4月初旬までにロシア軍部隊が撤退したウクライナ北部では、大量の地雷や不発弾が戦闘の爪痕として残り、市民にとって重大な脅威になっている。知らずに触れて犠牲になった市民もいる。当局は撤去作業を急ぐが、その範囲は広大で、発見と安全な処理は容易でない。

 「学校の中庭で大きな不発弾を見つけた。子どもが先に見つけたらと思うと恐ろしい」。首都キーウ(キエフ)北西に位置し、激戦地となったイルピン市のオレク・ビロルス教育科学部長(50)は3月下旬、被害状況を調べようと学校を訪れた際、長さ約60センチの不発弾を発見した。市内約20校で数十発が見つかったという。

 国連の地雷撤去専門家によると、撃ち込まれる爆弾のうち、一般的に約10%は不発に終わる。ウクライナ非常事態庁によると、これまでに4800発以上の地雷や不発弾を処理し、現在約2100発を処理している。不発弾に関する市民の通報は7千件以上寄せられた。

 処理数は順調に増えているが、地雷や不発弾の撤去を担当する内務省国家親衛隊幹部は、既に死傷した市民もいると強調した。トラクターに乗っていた地元住民が地雷の犠牲になったといった報道もある。

 金属探知機で地面を調べ地雷を探知し、その場の状況により爆破処理すべきか、分解すべきかを判断する。地雷撤去は長時間の集中力が要求され、不発弾処理よりも過酷な作業だ。

 「中には“意地悪く”設置された地雷もある」と憤るのは、イルピンが含まれるキーウ州で実務に当たる国家親衛隊のマリナ・ラブネッツさん(30)。「対戦車地雷のすぐ下に対人地雷が仕掛けてある場合もあり、撤去作業者を死傷させようとするロシア軍の悪意を感じる」と語った。ラブネッツさんは「キーウ州だけでもまだ作業の終わりは見えない」と指摘した。(キーウ、イルピン共同)


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リビウの精神科 患者2.5倍(2022/7/13 京都新聞)

 ハプスブルク帝国支配下の19世紀につくられ、二つの大戦で心を病んだ兵士を受け入れてきた精神科病院がウクライナ西部リビウにある。ロシアの侵攻で戦場となった東部の患者らも受け入れ、負担は急増。兵士らも入院しているが、人数は軍事機密だ。戦争により帰る場所を失った患者もおり、病院はいくつもの困難に直面している。

 中央がすり減った板敷きの階段を上っていく。「水道管、下水管に漏水がある。修理の必要があるが、手付かずさ」と、リビウ地域精神科病院のボグダン・チェチョトカ院長(50)は話す。

 3階で扉の鍵を解錠した。廊下の窓には鉄格子。別の扉の鍵を開けて医師の執務室に入ると、入院中のウォロディミルさん(23)が待っていた。

 「病気のせいかもしれないが、怖くなかった。とても奇妙な気持ちだった」。侵攻初日の2月24日をこう振り返る。当時入院していた東部ハリコフの精神科病院から見えたのは無数の煙。絶え間なく爆発音が響いた。

 症状が比較的軽いウォロディミルさんは他の患者がシェルターに避難するのを手伝った。「空襲警報のたびに避難したが、そのうち皆、嫌がるようになった」。多くの患者が避難を拒否し、廊下にうずくまった。

 患者らは3月22日、危険なハリコフを離れ、政府手配のバスや列車で、比較的安全なリビウヘ。ハリコフ近郊に住んでいた母と兄は戦闘に巻き込まれ行方不明。もう1人の兄も軍入隊後、連絡が途絶えた。患った精神障害は快方に向かっているが、イワン・オシュルコ医師(26)は「家族がいないのに退院させられない」と語る。

 病院はハリコフに加え、ルガンスク州の精神科やドネツク州の子ども専門の精神科病院から計数百人の患者を受け入れた。侵攻前に比べ患者数は2・5倍に膨らみ、千人を超える。

 病院は1875年創立。第1次大戦下で戦争による精神疾患を治療した先駆的な施設だ。ロシアの侵攻後の入院者は軍人も「多数含まれる」が、詳細は機密事項という。

 避難してきた患者の情報は不足。人手も足りない。脱走する患者も。オシュルコ医師は「丁寧な治療ができない。戦争による不安が患者の疾患を悪化させている」と苦悩をにじませる。

 病院の財政は厳しいとチェチョトカ院長は漏らす。地元政府からの予算では患者増による給食費や薬剤費は賄えない。「50以上の外部の支援機関と交渉に明け暮れている。医師ではなくなったようだ」。(リビウ共同=角田隆一)


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ロ、占領原発を基地化(2022/7/13 京都新聞)

【キーウ共同】ウクライナ南部にある欧州最大級のザポロジエ原発を占領中のロシア軍が軍事基地化していると、米紙ウォールストリートージャーナル(電子版)が11日までに伝えた。ウクライナ側の反攻を困難にする狙いがありそうだ。同原発は3月以降、ロシア軍の占領下にある。ドニエプル川沿いに位置し、対岸のニコポリからウクライナ側が監視している。

 同紙によると、ロシア兵約500人は原発の周囲にりゅう弾砲など重火器を配備、対人地雷を敷設しているという。欧州連合(EU)当局者は軍事基地化することで「ウクライナ軍が反撃してこないことを理解している」と話した。

 ただ、ロシア側が現地で一方的に設置した「軍民行政府」は、ウクライナ軍の無人機2機が7月12日未明、同原発付近の建物を攻撃したが、死傷者はなかったとしている。ロシア通信が報じた。

 ウクライナ政府によると、ザポロジエ原発には原子炉6基がある。ロシア軍が制圧した3月4日時点で5基が稼働停止や冷却中で、1基のみ稼働していた。

 ロシア軍は侵攻した2月24日に北部チェルノブイリ原発も一時制圧。大事故を起こしかねないとして国際社会から非難を浴びた。


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米支援兵器、流出疑い(2022/7/16 京都新聞)

【ワシントン共同】バイテン米政権がロシアの侵攻を受けるウクライナに供与した大量の兵器を追跡管理しきれず、一部がロシア側に流出した疑いがあることが15日、米政府関係者の話で分かった。ウクライナの混乱を背景にテロ組織や武装勢力に兵器が拡散、横流しされる可能性も指摘され、新たな紛争を含む地域の不安定化や治安悪化の火種になる懸念がある。

 米政府関係者によると、米政府は提供する兵器をポーランド国境などからウクライナに搬入する時点で種類や数を記録し管理してい る。一方で、ウクライナでの戦闘には直接関与していないため、戦場での使用状況の詳細を把握できていない。

 ハイテン政権はロシアが2月24日に侵攻した後、ウクライナ政府の要求に応じて7月8日時点で携帯型地対空ミサイル「スティンガ ー」1400基、携帯型対戦車ミサイル「ジャペリン」6500基、155ミリりゅう弾砲126門などの支援を表明した。計約73億ドル(約1兆円)に上り、欧州も足並みをそろえている。

 ウクライナ軍が撤退した地域で放置された兵器をロシア軍や親ロ派部隊が持ち去つているとみられるほか、汚職によるウクライナ国内での不当流通の可能性が指摘されている。