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プーチンの戦争(上) 繰り返される無敵の神話(2024/2/15)

プーチンの戦争(中) 「多民族の大家族」強調(2024/2/16)

プーチンの戦争(下) 「平穏」の底流に閉塞感(2024/2/17)

ウクライナ軍東部要衝撤退(2024/2/17)

ロシア、際立つ情報戦(2024/2/19)

機能不全の国連 解決策示せず(2024/2/23)

交戦継続7割が支持(2024/2/23)

【共同通信支局長の見方】(2024/2/24)

破片で死者 薄氷の安全(2024/2/24)

「積極的防衛」で持久戦(2024/2/24)

ロシア“戦勝”誇示 停戦画策(2024/2/25)

ウクライナ兵3万人超死亡(2024/2/27)

ウクライナ「奪還譲れぬ」(2024/3/17)

プーチン氏圧勝 5選(2024/3/18)

モスクワ銃乱射133人死亡(2024/3/24)

侵攻支持へ 世論誘導(2024/3/29)

ハリコフに攻撃 新型爆弾使用か(2024/3/29)

ロシア占拠の原発に攻撃(2024/4/9)

原発攻撃でウクライナ非難(2024/4/10)

ロシア軍死者5万人超(2024/4/19)

兵役逃れ 世論も不満(2024/4/24)


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プーチンの戦争(上) 繰り返される無敵の神話(2024/2/15 京都新聞)

 モスクワ中心部から車で約1時間。林の中の平原に黄金のドームを頂く巨大な建造物がある。「ロシア軍大聖堂」と名付けられた教会だ。ロシア正教のクリスマスに当たる1月7日。軍の制服を着た男性が聖堂内で熱心に祈りをささげていた。

 男性の名はキリル(23)。イコン(聖像画)を見上げ「見事だね。心が休まる」。ウクライナで続く交戦に恐れはないかと聞くと首を振りながらほほえんだ。「祖国のために戦うのは当然だ」

 大聖堂は2020年、モスクワ郊外の「愛国者公園」に国防相ショイグの肝いりで建てられた。大ホールの壁には日露戦争を含む数々の戦役の名称や絵画が描かれ、神に祝福された兵士らがこちらを見詰めている。

 ロシアでは大戦の記憶が今も身近だ。1941年にソ連に電撃侵攻したナチス・ドイツとの戦争の犠牲者は推定約2700万人。当時の人口のほぼ7人に1人に当たる。毎年5月9日には対ドイツ戦勝記念日が盛大に祝われる。赤の広場の軍事パレードに先立つリハーサルでは戦車や装甲車がモスクワ市内を走り、家族連れが兵士に手を振る。

 モスクワの地下鉄パルチザン駅では、ドイツ軍に抵抗し18歳で処刑された女性ソーヤ・コスモデミヤンスカヤの像が毎日、乗降客を迎えている。

 戦争映画やドラマも年間を通じて放送される。今年1月にはドイツ軍と戦う女性パイロットを描いた映画「エア」が封切られた。「祖国と人間、どちらが大事なのか」との主人公の問いに上官が「祖国だ」と答える場面は、国への献身を称賛する政権の意向と符合する。

 「ドイツ兵に撃たれた祖母は祖父の腕の中で『私のことで泣かないで』と言い亡くなった。祖父は前線の息子に手紙で知らせ『ファシストどもをやっつけろ』と書いた。家族の愛情は深い。だからロシアは無敵なのだ」

 独ソ戦を生き延びた両親を持つロシア大統領プーチンが最近好んで語るのがこの逸話だ。昨年9月の新学年開始に合わせた生徒との対話や先月の極東視察時など、少なくとも4回に上る。

 侵略軍に団結して打ち勝つた歴史が約80年後の今、隣国での軍事作戦正当化に利用される。今回侵攻したのはロシア側だが、戦争は2014年の暴動でウクライナの親ロ政権が打倒され、ロシア系住民が独立を求めた東部地域をウクライナ軍が攻撃した時に始まったというのが政権の見解だ。昨年導入された国定歴史教科書は「作戦は東部住民への攻撃を終わらせるために始めた」とのプーチンの言葉を引用する。

 「勝利の基盤は全て学校で培われる」。プーチンは昨年末、一層の教育重視を指示した。自国に都合のいいナラティプ(物語)が繰り返され、新たな「栄光の歴史」が作られようとしている。

   * * *

 今月24日で侵攻2年。ロシア社会の現状と底流を探る。(敬称略、共同)


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プーチンの戦争(中) 「多民族の大家族」強調(2024/2/16 京都新聞)

 ウクライナ侵攻1週間後の2022年3月3日。普段は冒頭の十数秒しか公開されないロシア安全保障会議で大統領プーチンは、戦死した南部ダゲスタン共和国の少数民族ラック人の将校に勲章を授与すると述べて10分間熱弁を振るった。

 「自分はロシア人だが、この英雄的行為を前にして言いたい。私はラック人だ、ダゲスタン人だ、チェチェン人だ、イングーシ人だ、と。力強い多民族国家の一部であることを誇りに思う」

 侵攻に加わる志願兵には高い給与目当ての少数民族が多いとの陰口もある中、非ロシア人の間で「あの発言に感動した」との声は少なくない。プーチンはその後も「ロシアは多民族国家だ」と繰り返している。

 ロシアの民族の数は200以上ともいわれる。ロシア正教会主導の昨年11月の会議でプーチンは、保守派がロシアの勢力圏と見なす「ルースキー・ミール(ロシア世界)」について「ロシア語を話し歴史と文化を共有する人々の統合体」と説明。古代ルーシ、ロシア帝国、ソ連、現ロシアもロシア世界だと指摘した。

 「プーチンのロシア」は「欧州の憲兵」と恐れられた帝政ロシアや、冷戦で米国と対峙した超大国ソ連の継承国だ。ソ連崩壊を「20世紀最大の地政学的悲劇」と呼ぶプーチンは、強大だった過去への郷愁を隠さない。

 だがロシアでも徐々に欧米風生活スタイルが定着、核家族化と少子化が進む。75年後に人口が半減するとの予測もある。

 「家族は国の基本、道徳の源だ」とするプーチンは「国の永続には人口を増やす必要がある。大家族が規範になるべきだ」とし、今年を「家族の年」に制定。国民向け新年メッセージでは「私たちは大きな一つの家族だ。ロシアはもっと強くなる」と述べた。

 半面、今のロシアでは人口の78%がロシア人だ。政権が「諸民族の連帯」を強調する陰で、侵攻を背景に鼓舞される愛国主義に触発された非ロシア人への反感も広がる。

 侵攻を支持する正教会の総主教キリルは昨年12月、「多民族国家ロシアの中核は正教徒のロシア人だ」と断言。周辺国からのロシア語のできない移民流入を放置すれば「ロシアはロシアでなくなる」と警告した。プーチンも「ロシア人がいなければロシア世界もない。ロシア人には文化と精神、歴史的アイデンティティーを守る責任がある」と強調。大家族ロシアの家長は当然ロシア人だという本音がのぞく。

 プーチン支持の思想家アレクサンドル・ドウーギンは「帝政とソ連崩壊の過ちを繰り返してはならない。ロシアは帝国になるか消滅するかだ」と述べ、旧ソ連圈での「ユーラシア帝国」復活を提唱。ウクライナはその一部だと公言する。モスクワの大学教員はこう解説した。「正教、帝国、国民が現政権の3本柱だ」(敬称略、共同)


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プーチンの戦争(下) 「平穏」の底流に閉塞感(2024/2/17 京都新聞)

 今年1月初めにロシアのメディアをにぎわせたのが「裸のパーティー」と呼ばれるスキャンダルだ。人気女性司会者が昨年12月21日、モスクワのナイトクラブに「裸に近い服装で」芸能人らを招いた夜会の映像が伝わると「不謹慎だ」などと批判が噴出。歌謡界のスーパースター、フィリップ・キルコロフや、プーチン政権を批判する女性タレント、クセーニヤ・サプチャクら大勢のセレブが謝罪に追い込まれた。

 ロシアの芸能界や文化人の間にはウクライナ侵攻に懐疑的な声も少なくない。下院議長ウォロジンが検察に捜査を要求するなど、パーティーは「気ままで金持ちのリベラル」に対する保守派の格好の攻撃材料に。副議長トルストイは侵攻を支持しない文化人に「沈黙は裏切りに等しい」と追い打ちをかけた。

 昨年5月には、北西部サンクトペテルブルグにある大統領プーチンの両親の墓に「あなたの息子を手元に引き取って」と書いたメモを置き拘束された60代女性に懲役2年の執行猶予判決が出た。

 侵攻開始から2年。ソ連時代は国境もなかった隣国との戦争を批判する人は出国するか逮捕された。平和のために祈るよう促した神父らは聖職を剥奪されロシア正教会を追われた。表面上は平穏な社会の底流に広がる閉塞感は深い。ロシア紙、独立新聞は社説で「政権が言論を制限すれば人々の自己主張の欲求が高まるだけだ」と戒める。

 全ロシア世論調査センターの所長フェドロフは、侵攻積極支持派が10〜15%、反対の人も常に16〜18%いるとし「社会の大部分は作戦を『苦しいけれど大統領の決定だから仕方ない』と思っている。非常時に皆が別々の方向に走れば船が転覆するからだ」と分析する。゛

 プーチンは昨年12月、今年3月の大統領選に立候補を表明。テレビは連日、プーチン選対に大量の署名が集まる様子を伝えた。支持率約80%。通算5選を疑う者はない。

 1月26日には軍に入った学生らとサンクトペテルブルグで対談。軍事作戦はウクライナが始めた戦争を終わらせるためだと改めて強調し「国の危機に自分そっちのけで肩を貸すのがロシア人だ」と胸を張った。

 一方、侵攻に反対し、1千万人が署名すれば大統領選に出ると表明した改革派政党ヤブロコの元代表ヤブリンスキーは、出罵は断念したが約100万人分を集めた。

 ソ連崩壊直後に経済改革に取り組んだヤブリンスキーは昨年末の党大会後「21世紀のロシアは人間を尊重し、自由で民主的であるべきだ。ウクライナと関係を正常化し世界で尊敬される国を目指したい」と夢を語った。

 モスクワでは昨年末以来、動員された夫の帰還を求める妻たちの静かな街頭行動が続く。侵攻継続の圧力にもかかわらず、作戦を支持しない人々の声も消えてはいない。(敬称略、共同)


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ウクライナ軍東部要衝撤退(2024/2/17 京都新聞)

【キーウ共同】ウクライナ軍のシルスキー総司令官は17日日、ロシア軍との間で激戦となっている東部ドネツク州アブデーフカから撤退すると公表した。「包囲されるのを避け、兵士の命を守るため」とし、より有利な戦線で防衛すると述べた。これまで防衛に全力を挙げてきた東部の要衝を失い、大きな痛手となる。

 アブデーフカはロシア占領下の州都ドネツクから約15キロにある交通の要衝で、ウクライナ軍は東部紛争が始まった2014年以降、要塞化し、精鋭部隊を投入して守ってきた。ただ、撤退が今後の戦局を決定づけるかどうかは不透明だ。

 ロシアのプーチン大統領は1月末、ドネツクへの攻撃拠点となっているアブデーフカの制圧は「最優先課題の一つだ]と強調した。3月に大統領選を控えており、制圧を戦果としてアピールする考えとみられる。

 米国のガービー大統領補佐官は15日にアブデーフカが「陥落の危機にある」と述べていた。ウクライナ軍の苦境は弾薬不足が原因との見方を示した。一方、ウクライナのコスチン検事総長は16日、ロシアがウクライナに対して使用した北朝鮮の弾道ミサイルは少なくとも24発になったと述べた。インタファク ス・ウクライナ通信が報じた。昨年12月30日以降、首都キーウ(キエフ)、東部ハリコフ、南部ザポロジエ州などで使われ、市民14人が死亡して70人以上が負傷したという。

 コスチン氏は24発について、北朝鮮の短距離弾道ミサイル「KN23」「KN24」系列で、ロシア南部ボロネジ州から発射されたとみられると指摘。最大射程は650キロだという。ミサイルは住宅地に落ちるなどしており、「命中精度は疑わしい」と述べた。


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【インサイド】ロシア、際立つ情報戦(2024/2/19 京都新聞)

 ロシアによるウクライナ侵攻開始から間もなく2年。戦況が膠着する中、ロシアの情報戦が際立っている。プーチン大統領は「(和平)交渉の用意がある」と繰り返し唱えるが、ウクライナは、事実をゆがめたロシア独特の「ナラティブ(物語)」を拡散していると警戒。和平交渉をめぐる言説を検証した。

 「われわれは交渉を拒否したことはない」。ロシアのプーチン大統領は今月8日に公開された米保守系ジャーナリストのインタビューで何度も繰り返し、侵攻開始後の2022年3月にイスタンブールで行われた停戦交渉を持ち出した。

 ロシアではこの交渉が行われた時期にキーウ(キエフ)を電撃訪問したジョンソン英首相(当時)がウクライナ側に和平拒否を働きかけ「戦おう」と発言したとするエピソードがメディアなどを通じて広まっている。

 ロシアは和平を結実させるつもりだったが、欧米に操られたウクライナが受け入れず、悲惨な戦争が今も続いているIとの筋書きだ。

 ウクライナ側の交渉メンバーの一人、政権与党幹部のアラハミヤ氏は昨年11月の地元メディアのインタビューで、ジョンソン氏の発言を認めた。ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)加盟を断念し「中立化」を宣言すれば「ロシアは戦闘を終わらせる用意があった」とも語り、ロシアに対する不信感から応じ なかったと振り返った。

 アラハミヤ氏のインタビューはロシアの主張を裏付ける「証拠」とされ、ロシアメディアは同氏が「ウクライナの犠牲の責任は、ジョンソン氏やウクライナのゼレンスキー大統領にあると認めた」と強調して報じた。

 アラハミヤ氏は後日、英紙タイムズに対し、ジョンソン氏はロシアが主張する文脈とは違う場面で発言したと説明し「欧米がウクライナの決定に指示を与えたことはない」と訴えた。(キーウ共同)


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【インサイド】機能不全の国連 解決策示せず(2024/2/23 京都新聞)

 国際平和や協調の役割を期待される国連が、開始から2年を迎えるロシアのウクライナ侵攻に解決策を示せないままだ。大国の米ロの対立が背景にあり、パレスチナ自治区ガザでのイスラエルとイスラム組織ハマスの衝突解決にも存在感を示せていない。国連のグテレス事務総長は「時代遅れの組織だ」と限界を吐露し、改革を訴える。

 「これほど大規模な悲しみを目にしても自分には止める力が無い」。今月8日の記者会見でグテレス氏は、ウクライナやガザでの戦闘終結に向けた役割を国連が果たせていない状況に悔しさをにじませた。記者からは国連への信頼が失われているという指摘まで上がった。「機能不全に陥っており、改革が必要だ」。グテレス氏は半ば開き直るように訴えた。

 第2次大戦を防げなかった反省から、国連は国際平和と安全維持を目的に1945年に設立された。加盟全193力国が参加する総会の勧告に強制力はない。 事実上の最高意思決定機関は戦勝国の米国、英国、フーランス、ロシア、中国の5常任理事国と、任期2年の選挙で選ばれる10の非常任理事国から成る安全保障理事会だ。

 安保理の決定には全ての加盟国が従わなければならない。安保理では、一国でも反対すると決議案が否決される「拒否権」を持つ常任理事国が大きな影響力を持つ。

 ウクライナ侵攻後、安保理は100回以上の関連会合を開催してきたが、非難決議すらロシアの拒否権で採択できていない。ガザ衝突では、米国がイスラエルを擁護。拒否権を手に、ウクライナ侵攻では米国がロシアを、ガザ衝突ではロシアが米国をそれぞれ糾弾し、非難の応酬が続く。

 グテレス氏だけでなく、日本やアフリカ諸国など各国から安保理改革や総会の影響力拡大を求める声は上がっている。しかし国連憲章の改正には、常任理事国を含む加盟国の3分の2の批准が必要で、実現の見通しは立たない。「改革派」が切り札と期待するのは今年9月に国連本部で開催する「未来サミット」だ。

 国連設立75周年の2020年から4年がかりで計画され、世界の将来を左右する安全保障や地球規模の課題などを話し合う。45年の設立100周年に向けた行動指針「未来のための協定」の採択を目指している。

 協定作成に関わる外交筋は「安保理などの改革の交渉開始を具体的に協定に盛り込み、常任理事国も改革へ向き合わざるを得ない状況に追い込みたい」と期待を込めた。(ニューヨーク共同)


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交戦継続7割が支持(2024/2/23 京都新聞)

【キーウ共同】ロシアによるウクライナ侵攻は24日、開始から2年を迎える。全土奪還を掲げるウクライナ国民の7割以上が依然として戦争継続に賛成する。国内で高い支持を集めるロシアのプーチン大統領に譲歩の余地はなく、長期化は必至だ。犠牲が拡大し、社会に疲労が蓄積するウクライナは難局が続く。

 キーウ国際社会学研究所が今月上旬、ウクライナで約1200人を対象に実施した世論調査によると、侵攻開始当初の2022年5月と同水準の73%が「必要な限り戦争に耐える」と回答した。ロシアが併合した南部クリミア半島や東部ドンバス地方(ドネツク州とルガンスク州)を含む全土を奪還して終戦すると信じる人は65%に上った。

 東部(リコフ州や南部ヘルソンを相次いで奪還した軍の躍進は22年秋以降に停滞。昨年の反転攻勢は失敗とされ、社会に落胆が広かった。ゼレンスキー大統領は欧米の支援強化に奔走するが、求心力は下り坂だ。

 占領地の固定化につながり、再侵攻の脅威を残す即時停戦を望む声は圧倒的に少ないが、一部の領土損失を見込む人も侵攻当初より7ポイント増の32%となった。


【共同通信支局長の見方】(2024/2/24) ↑トップへ

【共同通信支局長の見方】(2024/2/24 京都新聞)

モスクワから停戦で犠牲拡大止めるとき

 2年も続くロシアのウクライナ侵攻による犠牲者の数は正確には不明だが、戦死者だけでおそらく10万を大きく超す。

 誰にとっても人生はたった一度だ。このかけがえのない命が、国家主権の維持とか国境不可侵という概念のためにこれほど無残に奪われ続けることに「やむを得ない」と納得できるだろうか。戦況は既に1年半も大きく変わってはいない。停戦の可能性を探り、犠牲の拡大を止めることを考える時に来ている。

 侵攻開始後、「もう終わりだ」と覚悟したことが何度かあった。プーチン大統領が戦略核兵器を高度警戒態勢に置くよう命じた時や、ウクライナ南部ザポロジエ原発周辺で両軍の交戦が起きた時などだ。杞憂に終わったが、今後もそうなる保証はない。人類が核による破滅の危機にある状況は今も同じだ。そのことを忘れてはならない。

 第2次大戦後に築かれた国連中心の世界秩序とは、核兵器を持つ戦勝5力国が核の威力で大多数の国々に言うことを聞かせる体制だった。だが安全保障理事会で拒否権を持つ5力国の横暴には打つ手がない。米英両国による国連決議なしのイラク戦争で既に露呈していた安保理の機能不全は、ウクライナ紛争により隠しようがなくなった。ロシアの力による現状変更が許されないことは論をまたない。だが安全保障には相手がある。冷戦終結後も北大西洋条約機構(NATO)拡大を続けてロシアを追い詰め、暴発を招いた欧米は平和の維持には失敗した。

 プーチン大統領は米テレビ元キャスターと今月会見した際、前線で包囲されたウクライナ兵らがロシア語で「ロシア人は降伏しない」と叫んで全滅するまで戦ったと語り「彼らは今も自分をロシア人と考えている。将来必ず和解できる」と述べたが、大国に踏みにじられた国民の怒りと憎悪の深さがわかっていない。

  一方、昨年10月に始まったイスラエルとパレスチナのイスラム組織ハマスとの交戦で、ガザ地区の市民に多数の犠牲を出しながら大規模攻撃を続ける同盟国イスラエルを米国が拒否権を使って擁護する姿も、国益外交の冷徹さをみせつけた。

 こうした「大国の論理」がまかり通る時、理不尽に苦しみ命を奪われるのは常に多数の市民だ。食料不足、気候変動など地球規模の課題をよそにウクライナを挟んで主導権争いを続ける欧米やロシアの国際的威信は低下した。途上国の代表格インドのモディ首相が口にした「今は戦争の時代ではない」との苦言は国際社会の力関係の変化を物語る。

 ウクライナに軍事支援を続けるだけでは紛争が終わらないのは明らかだ。各国は流血を長引かせるのではなく、人命尊重をどう実現するかを新たな視点から考える必要がある。共同通信モスクワ支局長佐藤親賢)

キーウから停戦に大儀、支援継続を

 ロシアのウクライナ侵攻から2年。忘れてならないのは国際法に反して主権国家の領土を武力で踏みにじったのは、ロシアだという厳粛な事実だ。ウクライナには無法にあらがう大義があり、国際社会は支援を継続すべきだ。同時に無数の命が失われている現実を直視し、戦争終結の糸口を探る努力も求められる。

 ロシアは今、ウクライナ国土の2割を不法に占拠している。首都を制圧して隷属させる野望を諦めていないだろう。対するゼレンスキー大統領はソ連崩壊時の国境線まで領土を奪還すると宣言し、徹底的に戦う構えだ。

 抗戦は、欧米や日本の支援があってこそ成り立つ。支援のありようがウクライナの命運を握っている。その決意が揺らげば、国際規範をないがしろにした専制国家が凱歌を奏し、民主主義陣営が屈服する展開となる。世界史に汚点が刻まれる。

 他方、ゼレンスキー氏の唱える全土解放の見込みは低下しつつあると言わざるを得ない。人口と物量で勝るロシアは制空権を握り、陸で堅固な防御網を築いた。全面勝利に向けて争いが長引くほど、前線と街中でおびただしい血が流れる。

 無人機攻撃で孫ら5人を失った老人のおえつ、爆死した兵士のひつぎにすがる妻の震える手、理由なくロシア兵に処刑された男性の遺影―。ウクライナ各地で目撃した現実だ。理不尽な喪失と悲嘆が繰り返されている。

 民主陣営に何ができるか。制裁の抜け穴を封じてロシアの継戦能力を減じ、軍事と民生の両面でウクライナの領土奪還を粘ぴ強く後押しして、少しでも有利な立場で交渉に臨める環境をつくり出すことだ。無論、交渉入りの是非を最終決断するのはウクライナ自身だ。

 ゼレンスキー氏は停戦は「戦闘の凍結」に過ぎず、ロシアが兵器を蓄え部隊を再編して次の侵略を仕掛けてくると強く疑う。不信を払拭するには、北大西洋条約機碍(NATO)加盟を見据えた各国との2国間安全保障協定による抑止力の強化が一助になろう。

 ロシアの蛮行を棚に上げて、領土放棄という一方的譲歩を強いる停戦論は、欺隔に他ならない。「ロシアが停戦交渉を拒んだことは一度もない」(プーチン大統領)という、自らが侵略者だとの前提を無視しを言説にに欺かれてはいけない。

 ただ終戦の青写真を描かずに際限なく支援を続ければ、戦争長期化で犠牲と苦しみが増大していくのも間違いない。ウクライナに最大限、寄り添いつつ 公正な終戦の道筋を見いだすべきだ。(共同通信キーウ支局長 小玉原一郎)


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破片で死者 薄氷の安全(2024/2/24 京都新聞)

 白昼の中心市街地にけたたましい空襲警報が響き渡るが、行き交う人たちは慌てていない。ウクライナ・キーウ(キエフ)の日常だ。街中には破壊された 建物が点在し、道路脇には焼け焦げて鉄くずとなった車が放置されたまま。ロシアの侵攻開始から間もなく2年を迎え、首都の市民は戦時下の緊張と共存しつつあるかのようにも見える。

 2月中旬の正午ごろ。警報が鳴り、直後にウクライナ空軍が通信アプリ「テレグラム」で「弾道ミサイルの恐れ」と速報した。それでも、広場にいたカテリーナさん(24)は平然としていた。「この段階では避難しない。もし市内へ飛来するならより具体的な内容が流れてくる」と話した。

 市民はこのように、アプリで情報を確かめながら次の行動を決める。

 各地に大規模攻撃があった7日は「ミサイルが(北東部)スムイ州へ」「(東部)ハリコフはシェルターヘー!」などと相次ぎ速報があった。「キーウにミサイルー」とも流れ、市民は避難。4人が犠牲になった。

 キーウはロシア国境に近い東部や南部と比べて発射されたミサイルの到達に時間がかかり、避難に若干の時間的な余裕がある。加えて、首都であることか ら米国開発の地対空ミサイル「パトリオット」などで重点的に守られているとの安心感も広がっている。しかし、迎撃失敗や破片の飛散は大きな被害につながる。2022年2月の侵攻開始以降、80人以上が死亡した。

 「こうなることにいつもおびえていた」。オレナ・コシノワさん(54)が声を震わせた。1月2日のミサイル攻撃で爆風が集合住宅の窓から吹き込み、部 屋が壊された。警報を聞き、アプリも見ていたが、ともに暮らす父(87)の足が不自由だったため道路をはさんだ向かい側にある地下駐車場への避難はあきらめた。父は部屋の廊下にいて壁に守られたが、2週間後、体調が悪化し他界した。オレナさんは今も強い目まいに悩む。

 「不発弾があるから近寄らないで」。キーウやハリコフにミサイル計41発が撃ち込まれた1月23日、キーウでは警察官がアパート敷地を封鎖。後に巡航ミ サイルの弾頭が無傷で見つかった。「迎撃はうまくいかなかったが、ミサイルに問題があって爆発しなかったのだろう」。兵器の回収と分析を担当するウクライナ軍のアンドリー・ルディク大尉は取材にこう説明した。

 死傷者が出なかったのは偶然に過ぎない。首都ですら、日々の安全は薄氷の上にある。(キーウ共同=伊藤隆平)


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「積極的防衛」で持久戦(2024/2/24 京都新聞)

 ウクライナに侵攻したロシアは緒戦の失態を挽回して攻勢を強め、戦場の主導権を奪い返した。米国の支援停滞で弾薬不足に陥ったウクライナは現在の防衛線を維持して敵の弱点をピンポイント攻撃する「積極的防衛」戦略への転換を図る。全土奪還の旗印は変えずに反撃の機会をうかがうが、ロシアの防衛線突破は至難の業で、持久戦が長期化する見通しだ。

 「状況は極めて厳しい。ロシアは兵士の数で勝っている。敵の進軍を阻止して陣地を保つためにあらゆることをする」

 8日就任したシルスキー軍総司令官は14日、東部戦線を視察後に強調した。就任前には「われわれは攻勢から防御に転じた。狙いは敵を消耗させて最大限の損失を与えることだ」と発言。東部の前線では鉄条網や「竜の歯」と呼ばれる戦車障害物の設置が進められる。

 ウクライナは2022年の侵攻直後、首都キーウ(キエフ)近郊でロシア軍部隊を撃退した後、同年秋の東部・南部での電撃的な領土奪還や黒海クリミア半島方面の奇襲といった一連の作戦を通じ、互角以上に渡り合った。軍事大国ロシアは受け身を強いられた。

 だが、初動の混乱から立ち直ったロシアは占領地の全ての境界で、塹壕と地雷原による防衛拠点を一気呵成に築き上げた。23年6月からのウクライナ軍の反転攻勢では、欧米供与の戦車を多数破壊。同年秋からは東部州の激戦地に大兵力を投入し、24年2月の東部要衝アブデーフカ制圧で優勢の流れを引き寄せた。

 欧米では反攻が失速した頃から、ウクライナは占領地奪還より、領土防衛に集中すべきだとの意見が強まっていた。前線を固めた上で、無人機や長射程兵器で後背の陣地や補給路を襲う「積極的防衛」論だ。

 シルスキー氏も24年1月に積極的防衛に言及。ゼレンスキー大統領は2月22日公開の米メディアとの会見で「防衛が第1の任務だ」と強調した。攻勢をしのいで次の反攻に乗り出して「ロシアを驚かせる」と主張した。

 防衛戦で緊急に必要なのは弾薬と防空システムの補充、兵士の追加動員だ。ウメロフ国防相によるとウクライナの砲弾発射数は1日2千発に届かないが、ロシアはその3倍を使っている。

 アブデーフカで指揮を執った司令官は、その差は10倍だったと証言した。ロシアが北朝鮮とイランから弾道ミサイルや無人機を調達する一方、ウクライナは後ろ盾の米国で約600億ドル(約9兆円)の追加支援が承認されず、「弾切れ」におびえている。

 防空システムも前線の部隊と都市部の民間人を守るために欠かせないが、米当局者は追加支援がなければ防空態勢を3月までしか維持できないとみている。

 米紙ニユーヨークータイムズによると、ウクライナ軍の死傷者は少なくとも17万人と推許され、疲弊した前線兵士は交代を待ちわびる。軍は50万人規模の動員が必要とするが、政権は国民の不満を高めると慎重だ。政治と軍の間にあつれきが生じている。

 ウクライナ情勢は今、分水嶺にある。米国の外交専門家マックス・ブート氏は「米国が追加支援に失敗すれば、ウクライナにとって取り返しのつかない大惨事となる。支援なしでは、間違いなく敗北するだろう」と警告する。(キーウ共同)


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ロシア“戦勝”誇示 停戦画策(2024/2/25 京都新聞)

 世界を震憾させたロシアのウクライナ侵攻は24日で開始から2年となった。反ロ的な隣国を緒戦で「レジーム・チェンジ(体制転換)」するもくろみが外れ、長期戦を強いられたロシアは国力を背景に態勢を立て直し、戦闘継続の布石を着々と打つ。だが欧、米の制裁は厳しさを増し、将来の経済状況悪化は必至。軍事的優位のまま停戦に持ち込み「戦勝」を強調するのが、現段階でプーチン政権が描くシナリオだ。

 「ウクライナは反転攻勢で死傷者16万6千人を出し戦車800両を失った。成果はない」。ショイグ国防相が今月20日、プーチン大統領に報告した。東部ドネツク州の要衝アブデーフカ制圧完了も確認。プーチン氏は「この勝利を発展させる必要がある」と述べ、目標の同州全域制圧に向けた進軍を指示した。

再選視野に大攻勢

 ロシア軍は2022年9月に撤退を強いられた東部ハリコフ州の再攻略も進める。モスクワの軍事専門家は「年末からロシアは人的損失をいとわず大攻勢に出た。3月の大統領選前に大きな戦果を狙っている」と話す。

 プーチン氏の支持率は約80%で、他の3候補に大きく水をあける。政権は高投票率で80%以上を得票し、国の「一枚岩」を示したい意向だ。プーチン氏は各種の会議で連日、軍事作戦は「国の命運を懸けた戦いだ」と強調し団結を訴える。

 先月下旬には北西部サンクトペテルブルグで軍に志願した学生らと対談し、除隊後の大学復帰支援を約束した。今月15日には中部二ジニタギルで、24時間体制で生産を続ける戦車工場を視察。「今後5〜10年間は大量発注が続く」とし、軍産複合体で給与は上がると述べた。

 ロシア中央銀行は今月16日、昨年の国内総生産(GDP)成長率を3・6%と発表。経済は崩壊を免れた。今年の国防費は前年の1・7倍。軍需への巨額の財政支出と賃金上昇が国内消費を支えている。

非欧米諸国と協力

 外交面では事実上断絶した日米欧に代えて非欧米諸国との協力が進んだ。制裁に加わらない中国、インドは主要輸出品である原油や天然ガスの貴重な買い手だ。途上国は欧米製品を「迂回輸入」するルートとして重要さを増した。

 中印を含む主要新興国でつくる「BRICS」は、サウジアラビアやイランなどの新規加盟で合意。ロシアは議長国として10月に主催する首脳会議で孤立回避を誇示する。イラン、北朝鮮は無人機や弾薬を提供しているとされる。

 ただ原油は中印に買いたたかれ、経済的打撃も小さくない。前線での大攻勢に合わせ、プーチン氏は最近「交渉を拒んでいるのはウクライナだ」と繰り返 し、停戦交渉の意思を強調するようになった。反転攻勢失速で欧米に「支援疲れ」が出始めたタイミングを捉え、占領地を広げながら交渉入りを強いる戦略だ。

 だが、侵攻を批判していた反政府活動家ナワリヌイ氏が今月16日に刑務所で死亡すると「政治的殺人」との非難が噴出。欧米は追加制裁を発表し、再び対ウクライナ支援で協調する勢いだ。

 ロシアでも治安部隊の妨害にかかわらずナワリヌイ氏を追悼する献花の列が続き「国民の結束」の演出に影を落とす。政権幹部は「欧米の反応はヒステリック」(ラブロフ外相)などと反論に追われている。(共同)


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ウクライナ兵3万人超死亡(2024/2/27 京都新聞)

【キーウ共同】ウクライナのゼレンスキー大統領は25日、ロシアの侵攻によるウクライナ軍兵士の死者が約3万1千人に上ったと明らかにした。ゼレンスキー氏が自軍兵士の死者数を公表したのは初めて。ロシア軍の死者はその約6倍と主張した。侵攻開始から24日で2年を迎え記者会見した。戦争当事者の見解で確認はされていない。

 ゼレンスキー氏は死者数について「プーチン(ロシア大統領)や側近が言うような30万人とか15万人ではない」と述べ、ロシアが被害を過大に発表していると強調。ロシア軍の死者数がウクライナ軍よりはるかに多いと訴え、肉弾戦を仕掛けて兵士の人命を軽視するロシアの実態をアピールする狙いがありそう だ。

 ウクライナ軍の負傷者数は明らかにせず「ロシアに戦場に何人残っているかを知らせることになるからだ」と説明した。ゼレンスキー氏は、ロシア軍の死傷者は約50万人で、うち死者は約18万人に上ると主張した。

 米紙ニューヨーク・タイムズは昨年8月、複数の米当局者の推計として、ウクライナ軍の死者は約7万人、負傷者は10万〜12万人になったと報じていた。ロシア軍の死者は約12万人、負傷者は17万〜18万人としていた。

 昨年6月からのウクライナの反転攻勢はロシア軍の防衛線に阻まれ、失速した。ゼレンスキー氏は、情報が事前にロシアに漏れていたとの見方を示した。ウクライナ軍には新たな反転攻勢に向けた「明確な計画」があると強調した。詳細な説明は避けた。

 ロシアが新たな攻勢を準備し、5月後半か夏に始まる可能性があるとの見方を示し「3年目は転機になる。戦争がどのような形で終わるかは今年にかかっている」と語った。

 自らが提唱する和平案「平和の公式」を話し合う首脳級の「世界平和サミット」について「春に行われることを望んでいる」と述べた。


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ウクライナ「奪還譲れぬ」(2024/3/17 京都新聞)

 ロシアがウクライナ南部クリミア半島を併合してから18日で10年となる。ロシアは住民投票による「合法的な編入」と主張するが、実際はロシア軍部隊の武力を背景に併合を強行。2022年2月の全面侵攻以降、半島内ではロシア支配に抵抗する動きが再燃し、ロシア当局による弾圧が強まる。ウクライナ国内では、武力による半島奪還が「譲れない一線」との主張が力を増している。

 「ロシア系住民が多く、ロシア黒海艦隊が基地を置くクリミアは最ももろく、狙われやすかった」。クリミアの社会活動家アンドリー・シチェクンさん(50)はクリミア併合が22年の侵攻の布石だったとみる。

 14年2月、首都キーウ(キエフ)の抗議デモで親ロシアのヤヌコビッチ政権が倒れると、ロシアはこの機を逃さず、身分を隠した覆面姿の軍部隊をクリミアに展開。親ロシアの住民運動に火を付けてウクライナ支持の動きを抑え込んだ。当時、シチェクンさんも「何者かに」拘束された。

 駐留していたウクライナ軍部隊は武装解除され、同3月にロシア編入の是非を問う住民投票で9割超の支持を得たとしてロシアは併合を宣言。プーチン政権は本土との間のケルチ海峡に「クリミア橋」を架けて地続きにし、併合を認めないウクライナに対し実効支配を誇示してきた。

 ソ連のフルシチョフ第1書記が1954年、ロシア系住民が多いクリミアをソ連内でロシアからウクライナに帰属替えしたことが紛争の根源と指摘される。ただ91年の国民投票ではクリミア住民の過半数がウクライナ独立を支持していた。

 2023年夏からのウクライナの反転攻勢では、ロシアが侵攻の補給拠点とするクリミアへの攻撃を強め、ロシア支配の「象徴」であるクリミア橋の破壊と半島奪還を公言。無人ボート(水上ドローン)による黒海艦隊攻撃にも力を入れる。

 ロシアは破壊工作などを警戒し、住民の監視や統制を強めている。クリミア出身でキーウに住むスサナ・マンベコワさん(45)は、クリミアに残る両親はウクライナ領に戻ってほしいと思っているが「電話では本当の思いを口にできない」と明かした。(キーウ共同)


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プーチン氏圧勝 5選(2024/3/18 京都新聞)

 ロシア大統領選は17日夜(日本時間18日未明)に開票され、中央選挙管理委員会の開`率約96%の暫定集計で現職のウラジーミループーチン大統領(71)が87・35%を得票して他の3候補を圧倒、通算5選を決めた。プーチン氏はモスクワの選対本部で「国民の信頼に感謝する」と勝利宣言。ウクライナ侵攻を目的達成まで続けると明言した。

 2000年の初当選以来、24年も政治の実権を握り続けているプーチン氏はさらに6年間ロシアを統治するが、投票妨害など一部で政権への反発もうかがわれた。長期化する侵攻の今後の展開や日米欧との厳しい対立が続く外交、制裁下の経済強化などが新たな任期の焦点となる。

 プーチン氏の得票数は7千万票を超え、自身が前回18年の選挙で達成した約5642万の史上最高得票を上回った。

 プーチン氏は22年2月に開始した侵攻を「国の独立と安全を確保する戦い」と正当化。ロシア系住民が多い東部・南部4州の併合を成果と位置付けた。政権は高い得票率を侵攻への「信任」とみなし、軍事力を強化して欧米との対決姿勢を強める構えだ。

 一方、今年2月に刑務所で死亡した反政府活動家ナワリヌイ氏の妻ユリアさんが呼びかけたプーチン氏以外への一斉投票に呼応したとみられる行列が17日正午に各地の投票所でみられた。人権団体「OVDインフォ」によると20都市で80人超が拘束され、政権への根強い不満をうかがわせた。

 投票は15〜17い日の3日間実施。投票率は70%を超す見通し。最終結果発表は18日以降になる。

 選挙にはほかに共産党のハリトノフ下院議員(75)や極右、自由民主党のスルツキー党首(56)、政党「新しい人々」のダワンコフ下院副議長(40)が立候補したが、暫定集計での得票はいずれも5%未満。

 選挙戦で侵攻を批判した候補はおらず、侵攻反対を唱えたナデジディン元下院議員は中央選管に候補者登録を拒否された。即時停戦を求める改革派野党ヤブロコは棄権を訴えた。(共同)


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モスクワ銃乱射133人死亡(2024/3/24 京都新聞)

 モスクワ郊外のコンサートホールに22日夜(日本時間23日未明)、迷彩服の数人が押し入り、ロックグループの公演前の観客らに向け自動小銃を乱射した。ロシア連邦捜査委員会は23日、テロ攻撃で133人が死亡したと発表。爆発と火災が発生し、多数が負傷した。プーチン大統領は23日にビデオ演説し「野蛮なテロ」と非難。実行犯4人を含む11人を拘束したとし、共犯者全員を特定して処罰すると強調した。

 過激派組織「イスラム国」(IS)は23日、戦闘員4人が「多数のキリスト教徒を襲撃し、数百人を殺傷した」との犯行声明を系列メディアで発表した。プーチン氏は演説で「国際テロという共通の敵と戦う全ての国々と協力する用意がある」と強調した。

 連邦捜査委員会は容疑者4人をロシアが侵攻するウクライナとの国境のロシア西部ブリャンスク州で拘束したと発表。プーチン氏は実行犯らがウクライナに越境する「窓口」が用意されていたと主張した。一方でウクライナ外務省は銃乱射への関与を「断固として否定する」との声明を発表した。

 米紙ニューヨークータイムズ電子版は、米国の安全保障当局者らがアフガニスタンに拠点を置くIS系勢力「ISホラサン州」による犯行とみていると報道。米国が今月、モスクワでのテロ計画の情報を入手しロシア側に伝えたという。ロシア連邦保安局のボルトニコフ長官も昨年10月に「ISホラサン州」がアフガン国外でテロを起こす可能性を指摘し、警戒を呼びかけていた。

 実行犯は手投げ弾も使用。大量の銃弾や引火性の液体を所持していた。目撃者は「犯人は至近距離から人々を撃った」と証言した。交流サイト(SNS)に投稿された映像には、ナップザックを背負った数人を自動小銃を連射しながら、ホールの正面入り口から内部に入る様子が映っている。ホールには当時数千人がいたとみられ、多くは階段で避難した。

 コメルサント紙電子版は、ウクライナ側から越境攻撃を続ける武装集団「ロシア義勇軍団」が関与したとの見方を伝えた。

 現場はモスクワ市の北西クラスノゴルスクにある「クロッカス・シティ・ホール」。爆発が複数回起き、入居する複合施設が炎上して黒煙が上がった。 (共同)


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侵攻支持へ 世論誘導(2024/3/29 京都新聞)

 ロシアーモスクワ郊外のコンサートホールでの銃乱射テロから29日で1週間。死者は143人、負傷者は約370人に上り、過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行声明を出した。プーチン大統領は「過激なイスラム主義者の犯行」と認める一方、犯行の背後にウクライナがいたとする見方を繰り返し主張。ウクライナ侵攻支持に世論を誘導する狙いがありそうだ。

 テロはプーチン氏が通算5選を決めた大統領選の1週間後で、米国は今月、テロ計画の情報を入手しロシア側に伝えていた。大規模テロを防げなかったことへの責任論が浮上することを回避する狙いもあるとみられる。

 関与を全面否定するウクライナのゼレンスキー大統領は26日、プーチン氏が「病的で冷笑的だ」と厳しく非難した。

 プーチン氏は実行犯がウクライナ国境へ逃げ、越境の「窓口」も用意されていたと主張。ボルトニコフ連邦保安局(FSB)長官も実行犯らの証言でウクライナの関与は「確認された」とする。

 一方、ベラルーシのルカシェンコ大統領は26日、テロ直後にプーチン氏の要請を受けてロシアとの国境を封鎖しており「彼らはベラルーシに入れないのを見て、ウクライナ国境に向かった」のだと指摘。米ブルームパーク通信は26日、プーチン政権高官らはウクライナ関与の証拠はないとの見方でおおむね一致しているものの、テロを侵攻支持への結集に利用する方針だと伝えた。

 実行犯は22日夜、モスクワ北西クラスノゴルスクの6千人収容のホールに車で乗り付け、ロックグループの公演前に銃を乱射、ガソリンをまいて放火し車で逃走した。当局は中央アジア・タジキスタン国籍の実行犯4人を含む8人を逮捕した。

 英BBC放送は、実行犯のうち3人についてISの犯行声明と、ロシア当局が拘束した際の画像の服装が一致していることを確認したと伝えた。

 現場では市民が連日花を手向けている。移民や外国人労働者の増加への警戒感が強まり、ソ連崩壊後に執行停止した死刑の復活を求める声も出ている。(共同)


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ハリコフに攻撃 新型爆弾使用か(2024/3/29 京都新聞)

【キーウ共同】ウクライナ東部ハリコフに27日、ロシア軍の攻撃があり、市によると1人が死亡し、19人が負傷した。地元当局者は攻撃に新型の誘導爆弾「D30」が使われた可能性があると指摘。射程が90キロあり、航空機と多連装ロケット砲の両方から発射できるという。ハリコフへの投下は初めてとみられる。

 ロシア軍はウクライナへのミサイルや無人機による攻撃を激化。第2の都市ハリコフや周辺などでは、22日の大規模攻撃でインフラ施設が甚大な被害を受け、計画停電が実施されている。

 ウクライナメディアによると、南部ザポロジエ州では28日、ロシア軍の攻撃により女性2人が負傷した。

 クレバ外相は外国メディアとのオンライン記者会見で、ロシア軍は「高速で目標に到達する弾道ミサイルを多用しているため、人々が避難する時間がほとんどない」とし、各国に防空システムの供与を求めた。

 一方、ロシアのプーチン大統領は27日、モスクワ北西トベリ州で軍パイロットらとの会合に出席し、ウクライナが欧米に供与を求めるF16戦闘機について、配備で「戦場の状況は変わらない」とし、他の兵器と同様に「破壊する」と強調。F16がウクライナ以外の第三国の飛行場から出撃すれば、そこも正当な標的になるとけん制した。

 ゼレンスキー大統領は、ロシアと国境を接する北東部スムイ州で塹壕や指揮所などを視察。「われわれは守備を強化している」とX(旧ツイッター)に投稿した。


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ロシア占拠の原発に攻撃(2024/4/9 京都新聞)

【キーウ共同】ロシア国営原子力企業ロスアトムは7日、ウクライナ南部でロシアが占拠を続けている欧州最大のザポロジエ原発に同日、ウクライナによる無人機攻撃があり、職員3人が負傷したと発表した。うち1人は重傷という。国際原子刀機関(IAEA)のグロッシ事務局長はX(旧ツイッター)で「無謀な行為」と批判、原発周辺での軍事行動の即時停止を訴えた。

 一方、ウクライナメディアによると、同国国防省情報総局のユソフ報道官は、ウクライナ側は関与していないと述べた。

 ロスアトムによると、原発敷地内の食堂や港、6号機の屋根に無人機が飛来し、食堂への攻撃で負傷者が出た。6号機に重大な被害はなく、周辺の放射性物質のレベルも正常とする一方「原発への前例のない攻撃」と非難した。原発に常駐するIAEA職員も攻撃で負傷者が出たことを確認した。

 ウクライナ軍は8日、夜間に国内各地に飛来した無人機24機のうち17機と、ミサイル1発をそれぞれ迎撃したと発表した。地元メディアによると、南部ミコライウ州では無人機の破片で送電線が損傷し。周辺で停電が発生した。

 ロシア軍は最近、東部ハリコフへの攻撃を強めている。ゼレンスキー大統領は7日のビデオ声明で、ハリコフでは攻撃が連日のように起きて「状況は非常に厳しい」として、 防空強化の必要性を訴えた。


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原発攻撃でウクライナ非難(2024/4/10 京都新聞)

 ロシア外務省は8日の声明で、ウクライナ南部でロシアが占拠している欧州最大のザポロジエ原発への無人機攻撃について「ウクライナは核テロの道を歩み始めた」と非難した。国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長に「明確な対応」を要求。ロシア国内への無人機攻撃を激化させるウクライナへの批判のトーンを高めた。

 タス通信によると、グロッシ氏は8日、訪問先ルーマニアでの記者会見で「大きな衝撃を受けた。繰り返されてはならない」と危機感を表した。

 ロシアのネベンジヤ国連大使は8日、近く安全保障理事会で原発攻撃の問題を取り上げると表明。ラブロフ外相は9日、北京での記者会見で「今度こそ(ウクライナは)責任を逃れることはできない」と指摘した。

 ウクライナは原発攻撃への関与を否定している。同原発が立地するエネルゴダールのオルロフ市長は8日、ウクライナメディアに「無人機はロシアが自ら発射し、ニュースをつくろうとしたのだろう。質の悪い挑発行為だ」と語った。

 米国務省のミラー報道官は同日「ロシアは制圧した原発で危険なゲームをしている。原発から撤退し、事故を招くようないかなる行動も控えるよう求める」と述べた。

 ロシア国営原子力企業ロスアトムなどによると、7日と8日に原発敷地内に複数の無人機攻撃があり、6号機の屋根に衝突したり、迎撃された残骸が屋根に落下したりした。施設に重大な破損はなく放射性物質のレベルも正常だとしている。7日の攻撃では職員3人が負傷したという。(共同)


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ロシア軍死者5万人超(2024/4/19 京都新聞)

 英BBC放送とロシア独立系メディア「メディアソーナ」は独自の共同調査を基に、2022年2月に始まったウクライナ侵攻で、確認できたロシア兵の死者数が5万人を超えたと報じた。このうち侵攻2年目は初年を上回る2万7300人以上が死亡したとし、ロシアが多大な人的犠牲を払って占領地を広げていると指摘した。

 新しく設けられた軍人墓地から戦死者の名前を確認したほか、公式情報や報道、交流サイト(SNS)などの情報も活用して集計。ロシアが占領するウクライナ東部ドネツク、ルガンスク両州の民兵は含んでおらず、加味すると数字はさらに膨らむとしている。

 ロシア国防省は自国軍の戦死者戮を22年9月に「5937人」と発表して以降、更新していない。一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は今年2月の記者会見で、同国軍兵士の死者が約3万1千人に上ったと明らかにしていた。(共同)


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兵役逃れ 世論も不満(2024/4/24 京都新聞)

【キーウ共同】ロシアの侵攻が長期化し戦死者が膨らむウクライナで、政府が動員強化に踏み切った。志願兵が減っており、戦力を低下させずに兵力を確保する狙い。一方、動員解除の条件は、あやふやで、偽装結婚など露骨な兵役逃れも明るみに。ゼレンスキー政権は不満を募らせる世論への対応も迫られている。

 「構え!」「装填!」。首都キーウ(キエフ)の外れにある雑木林で男性の野太い声が響く。最前線に立つ部隊の一つ、第3独立強襲旅団の訓練所。志願した約20人が銃を取り扱う訓練を受けていた。ひときわ小柄な女性の姿もあった。

 採用担当者によると、最近の応募は平均で1日10人弱。数字は公開していないが、開戦当初に比べ減少した。

 訓練に参加した男性(33)は「10歳と2歳の息子には戦地に立ってほしくない」と、早期の戦争終結に貢献するため志願したと話した。募集の主眼は健康な若者だが、多様な志願者がおり、指導官は「性格や動機、生い立ちはさまざまで、個々人に合わせた訓練が必要だ」と苦労を語る。

 ただロシアに押される前線もあるためか、志願兵応募がほぼない日もあり、兵力確保は喫緊の課題となっている。

 ゼレンスキー大統領は4月、動員対象年齢の引き下げや動員手続きの厳格化に関する法案に署名した。ただ5月18日発効の新法には動員期間の解除規定が盛り込まれていない。志願ではなく、徴兵され長期間戦地に赴いている兵士の家族らは、抗議デモを実施した。

 有力者の人脈や書類偽造など汚職による兵役逃れも横行し、負担の偏りへの不満は広がる。2月の世論調査でゼレンスキー氏の不支持は約4割に。政府は、動員解除には別の法案で検討すると釈明に追われている。

 地元ジャーナリスト団体「NGLメディア」は最近、障害者の女性と動員対象の男性を数十万〜百数十万円相当の報酬でマッチングする業者の存在を告発。障害がある家族を世話する場合、動員対象から外される。偽装結婚の証明が難しい点を利用した巧妙な仕組みだと指摘した。